* キャリア研究部門
大学生の進路選択自己効力感と「コミュニケーション」の自信
~入学動機や大学生活のとらえ方との関連を踏まえて~
五十嵐 敦*
本報告では,大学生のキャリア発達について,キャリア教育や社会人基礎力などで重視されているコ ミュニケーション能力に焦点をあてた。それが進路選択自己効力感を促すものなのか,あるいは進路成 熟といった側面がより重要なのかについて検討する。対象は大学入学後₃カ月の学生であった。基本的 な学生生活のとらえ方や大学進学の動機との関連も併せて検討した。その結果,進路成熟の自律性やコ ミュニケーション能力としての意図理解,大学における教養専門を重視することが進路選択自己効力感 を高めることが確認された。このことをふまえて初年次教育とそこでのキャリア教育の在り方について 議論する。
【キーワード】大学生 進路選択自己効力感 コミュニケーションの自信 進路成熟
問題と目的
大学生の就職活動は,「就活」というゲームになっ た(児美川,2011)と言われる。そこでは,ある特定 の就職先を想定した進路選択やその対策など,押しつ けにも似た直接的な就職準備の働きかけが横行してい る。就職支援業者やそのお先棒を担いだような就職支 援という名のもとの働きかけにより,学生の多様な キャリア形成の機会を奪っている面もある。
近年は初年次教育として,入学時から卒業後の進路 について一定の方向づけがなされ,いかに迷いなく進 路を選択・決定していくかに追い立てられている節も ある。並行して,大学などでは,卒業時の就職率やそ の就職先の実績,地方創生の名の下での地元への就職 者の割合を高めることで受験生や補助金の獲得などを 狙った動きも多い。
このような状況下で,キャリア教育が「就活」ガイ ダンスとなっていることは以前から指摘され,大学 教育としてのキャリア教育の在り方が問われてきた
(五十嵐,2014aなど)。あらためてキャリア教育の在 り方を見直すことが求められる。「大学教育」そのも のがキャリア教育として,学生のキャリア発達を促す ものでなければならない。そのためには,大学から職 場への就職という,卒業を境とした移行プロセスに限 定することなく,大学入学からそれに続く学生生活と その適応プロセスを視野に入れておくことも必要であ ると考える(五十嵐,2014b)。
ここ数年は少子高齢化にともなう労働力人口の減少 から,求人は増加し,大卒者の就職状況は好転してい る。しかし,一方では内定や就職先がなかなか確定し ない学生も一定数存在し,若者の早期離職の問題とと もにその要因のひとつとして若者のコミュニケーショ
ン能力が問われることがおおい。キャリア教育や企業 における人材マネジメントにおいても,コミュニケー ションの重要性がいつも取りざたされる。社会人とし ての基礎的な能力としてコミュニケーション能力は重 視され.そのための準備として学校教育現場でも,例 えば特別活動においては「望ましい人間関係の確立」
としてコミュニケーション能力の開発が謳われてい る。「就活」のためのスキルや就職後の職場適応にお いても「コミュニケーション」のとり方とその能力は 大切なテーマにされている。就職基礎力(厚生労働省,
2004)でも,コミュニケーション能力は一つの柱となっ ており,その要素として「意志疎通」「協調性」「自己 表現力」といったものが挙げられている。しかし,そ うした能力を養うための取り組みの多くは,職場にお ける現実的で具体的な行動スキルとして表層的なノウ ハウを身につけさせようとするもののようである。
中央教育審議会(2011)では,「基礎的・汎用的能力」
として,「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・
自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニン グ能力」の₄つの能力を挙げている。この中の「人間 関係形成・社会形成能力」については,「社会とのか かわりの中で生活し仕事をしていく上で,基礎となる 能力である」として,「様々な他者を認めつつ協働し ていく力」としてその必要性を強調している。「既存 の社会に参画し,適応しつつ,必要であれば自ら新た な社会を創造・構築していくこと」のためにも必要で あるという。さらに,「具体的な要素としては,例えば,
他者の個性を理解する力,他者に働きかける力,コミュ ニケーション・スキル,チームワーク,リーダーシッ プ等が挙げられる」としている。
こうしたコミュニケーションについて,心理学の領
域では古くから社会心理学や産業組織心理学などを中 心に様々な研究がおこなわれてきた。例えば,チーム ワークのモデルの中で,チームワークを構成する様々 な要素を結びつけるために,メンバー間の情報伝達で あるコミュニケーションの重要性が強調されている
(Dickinson & McIntyre, 1997)。コミュニケーション の質的な側面について畑野(2010)は,どのようにし て他者と関わるかという対人行動と,その行動を通し て形成される内的感覚とを媒介するものとした見方を 紹介している。そして,コミュニケーションを通して
「対人関係を円滑にできる」という内的自信が,「社会 でもやっていける」という未来・社会適応感と関連す ることが示唆されている。特に,意図伝達はアイデン ティティの中核的同一性とかかわっていることも指摘 している。
キャリア発達の過程においては,様々な能力やスキ ルを身につけることが求められる。その一つがこのコ ミュニケーション能力だとすれば,発達という現象が 顕在化するためには成熟という側面にも注意を払う べきである。その進路の成熟についてSuper(1980)
は「キャリア発達課題へ取り組もうとする個人の態度 的,認知的レディネス」と定義している。これは,総 体的でかなり広い範囲を含んだ概念であるが,進路選 択に関するさまざまな行動や態度につながる有用な視 点ともいえる。この進路成熟は,進路発達よりも積極 的な使われ方をしている(浦上,1993)。これらは広 義にはキャリア成熟として職業選択と職業適応を個人 において統合したものとして「進歩的変化」という概 念までも含んでいる。また,坂柳(1991)は,「キャ リアの選択・決定やその後の適応への個人のレディネ スないし取組みの姿勢といえる」とした。このような 成熟の状況を確認することで,自らの進路形成に対す る意識や態度の予測が可能となる。この進路成熟を構 成する要因としては,つぎの₃つの側面が指摘されて いる。関心性(concern),自律性(autonomy),計画 性(planning)の₃つである。このような成熟の程度 を確認することで,自らの進路形成に対する意識や態 度の予測がより可能となると考えられた。その際,人 生進路(life career)の次元から広く「人生」といっ た抽象的で漠然としたものへの態度は,個人の未来に 向けての全体的な態度や姿勢を明らかにしやすいので はないかと考えられる。なぜなら,現実的な進路や職 業のイメージは,経済変動や社会状況によって絶えず 影響され,マスメディアなどによる偏った情報などに よって影響されやすいからである。加えて,まだ知ら ない職業世界の漠然としたイメージを否定されるよう なこともあるからである。
五十嵐(2012)は,キャリア探索過程において採用 だけを目的とした姿勢は,成熟に対するネガティブな 方向を生じさせていることを報告している。特に,大
学3年生のキャリア成熟において抑制的に働いている ことが確認されている。このことから,就職活動の開 始にあたって採用という結果だけを目的とすることの 問題が予見される。同時に,「何から始めたらよいか…」
ということについても就職活動や採用の成否を短絡的 に意識しすぎることが,時間的展望における“いま現 在”の混乱といったことにつながっている問題が注目 されたのである。
進路をなかなか決められない不決断の問題につい て,これまで進路決定の自信の欠如について,進路選 択の自己効力感からのアプローチがある。進路選択に ついての進路選択自己効力とは,個人が進路を選択・
決定するにあたって必要な課題を成功裡に収める こ とができるという信念(Betz ,2001)である。もと もとBetz & Hackett(1986)では「進路選択やその 修正行動に関する広い領域における個人の自己効力に 関する一般的な判断である」と定義されていた。
この進路選択自己効力感と進路成熟との関連につい ては富永(2008)がおおくの研究をレビューした貴重 な報告がある。その中では,これまで進路選択自己効 力感と能力との関連についてあまり取り上げられてこ なかったことが指摘されており,特に進路選択能力を 中心としたキャリアの諸側面との関連を明らかにする 必要性が指摘されている。
これらのことから,コミュニケーションの自信の程 度が進路選択自己効力感との関連を明らかにすること が必要である。それは入学後の大学生活においても同 様であると思われる。進路選択自己効力感についての 研究は数多く行われており,将来の展望の確立や実 際の就職活動への積極さとの関連も明らかにされて いる。その効力感も入学時の動機や入学後の大学生活 のとらえ方との関連があると予想される。なぜならコ ミュニケーションの自信は,自己のモニタリング能力 と関連することも報告されているからである(畑野,
前出)。さらに,大学入学後のキャリア教育において,
こうしたコミュニケーション能力のトレーニングやそ の自信を形成することが求められ,学生生活の諸要因 との関連を明らかにしておくことが必要であろう。
大学生活については田澤・梅崎(2014)が大学生活 の過ごし方や進学動機などを含む独立変数として,
キャリア・アクションビジョン・テスト(CAVT)を 従属変数とした研究結果を報告している。結果は,ア クションとビジョンに対して有意な説明変数であった が,長期的なキャリアを考えた場合は,大学の学業を 中心とした学びが重要であることを指摘している。た だし,この報告は大学₃年生を対象としたものである ことを踏まえれば,そこに至る入学時からの意識の在 り方が問われなければならないと考える。それまでの
大学生活を振り返った際に,それが事実かどうかは別 として,先行する入学時の大学生活への展望や態度な どがその後の大学生活や将来にむけてのキャリア形成 に大きく影響するのではないだろうか。そのことを検 討するためにも,入学時点に近い大学生活初期の段階 での調査が必要であろう。
以上,まず高校から大学への移行過程である大学入 学後の進路選択自己効力と「コミュニケーション」の 自信,進学動機や大学生活のとらえ方といった点から 関連を探索的に明らかにすることにした。そのため,
一方向的な仮説の検証ではなく,双方向的な分析も加 えることにする。
方 法
調査対象
地方国立大学₁年生193名(男子134名,女子59名),
経済・経営を専攻する予定の学生である。この大学で は公務員や教員を限定的に希望する学生が多い中で,
一般企業をはじめとして選択肢が比較的幅広い学生群 を対象として調査した。講義時間を利用して2013年₇ 月に一斉に調査用紙を配布し,その場で回収した。
調査内容
基本属性(学年や性別,進路希望など)に加え以下 のような構成になっている。
①進路選択自己効力感;浦上(1993),冨安(1997)
の尺度から,自己理解や職業・進路情報の収集,周囲 からの影響の受けやすさなど具体的な就職活動に関す る内容のもの12項目である。₆件法で合計得点を進路 選択自己効力感得点とした。
②キャリア成熟度;進路成熟態度尺度(CMAS-4:
Career Maturity Attitude Scale-4,坂柳・竹内,1986)
のなかから職業的進路成熟に関する項目を選びだし,
板柳(1990)の成人キャリア成熟度尺度を参考にした。
ここから五十嵐(2008)の因子分析の結果をもとにし て,関心性,自律性,計画性の₃側面について各₂項 目ずつ全部で₆項目からなる簡易版ともいえるものを 作成した。各項目例を以下に示す。関心性は「人生を よりよく生きるためにどうしたらよいか考えている」,
自律性は「どのような人生を送るか,自分なりに目標 はある」,計画性は「自分らしく生きていくことを大 切にしたい」などである。いずれも₆件法で回答を求 めた。なお,前段では進路成熟として記述してきたが,
内容から広く人生のとらえ方も含む姿勢を問うもので あり,その説明や記述において,以下では坂柳(前出)
にならってキャリア成熟とする。
③大学進学理由(進学動機); ₅因子構造の渕上(1984)
の尺度をもとに五十嵐ら(2011)が作成した。「専門 志向(「専門的な知識を深めたい」)」,「大学生活(「大
学で多くの友人と出会うため)」,「他者志向(「親孝行 のため」)」,「世間体重視(「体裁のため」)」,「職業志 向(専門職につきたいから)」のいずれも₆件法で回 答を求めた。
④ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 対 す る 自 信 尺 度(Self- Confidence in scale, SCS);Blumer(1969)を参考に 畑野(2010)が作成したものを用いた。「意図伝達(の 自信)」:自らの意図を他者に対して伝達することがで きる自信,「意図理解(の自信)」:他者の行為や言及 の意味を読み取り,感じ取ることができる自信,「意 図抑制(の自信)」:周囲に求められる態度,行為が取 れるという自信,計27項目からなる。いずれも₇件法
(₁:全く当てはまらない~₇:非常に当てはまる)で回 答を求めた。
⑤大学生活意識;個人が,大学生活をどのようにとら えているのか,大学生の本務である学業や余暇活動,
友人とのつながりなど生活全体に関する質問を用意し た。
結 果
調査対象者の基本的属性は,大学志望順位は第1志 望の学生が76人(39.4%)であった。第₂志望の学生 は42人(21.8%)と約₆割の学生がこの大学への進学 を積極的に志望していたことがわかる。なお,学類志 望では第₁志望が164人(86.8%)であった。
卒 業 後 の 進 路 の 希 望 に つ い て は,194人 中69人
(35.6%)が入学前から決めており,入学後に考えて いるのが20人(10.3%)であった。まだ定まっていな い学生が105人(54.1%)と半数を超えていた。χ2乗 検定の結果,男女別で有意な分布のちがいが確認され た(χ2=9.850,p<.01)。未決定の傾向は女子に強く,
入学前から決定している学生と決まっていない学生の 二極化の傾向が男子より強く見られた。
主な要因の結果
①進路選択自己効力感の結果
進路選択自己効力感の合計得点の全体平均は42.10
(SD=7.81…以下とくに断りがない場合( )内の数 字はSD),女子で40.75(8.09)男子は42.71(7.64) と いう結果であった。統計的に有意な性差は確認されな かった。
36 38 40 42 44 46
未決定 入学前 入学後
Fig. 進路決定時期と進路選択自己効力感
大学志望順位,進路決定の状況による分散分析の 結果,進路決定時期の有意な主効果が確認された(F
(1,192)=11.264,p<.001)。多重比較の結果,将来の 進路が入学前に決定している学生の効力感得点の平均 は45.46(7.84),まだ進路が明確になっていない学生 は39.97(6.84)と,入学前に決まっている学生の方 が有意に高かった(Fig.₁)
②進路成熟度の結果
関心性の全体平均は9.15(3.04)で,女子8.93(3.08),
男子が9.25(3.02)という結果になった。自律性は全 体平均が7.64(3.90)で,女子7.65(3.37),男子7.63
(3.41)となった。計画性では全体平均7.29(3.23),
女子が7.03(3.32)で男子が7.43(3.19)という結果 であった。いずれも有意な性差は確認されなかった。
また大学志望順位との有意な関連も確認されなかった。
③大学進学動機
これまでの下位尺度の構成は学類(学部)を超えた 対象によって作成されてきた。今回は人文系の一つの 学類を対象としたため実態により近くなるように,あ らためて因子分析(主因子法,プロマックス回転)を 行って,構成する因子を確認することにした。
その結果,これまでとほぼ同じ₅因子が抽出された が,構成する項目の組み合わせに若干異なる部分があ り,一部の名称を以下のようにした。「大学生活」は「生 活エンジョイ」,「他者指向」については「他者環境影 響」とした。
次に,各因子ごとに項目得点を合計したところ,「職 業志向」の平均は7.20(2.46),「生活エンジョイ」の 平均は17.76(4.64),「専門志向」の平均が13.20(2.81)
であった。「世間体重視」は10.79(3.02),「他者環境 影響」が11.09(3.17)となった。これらの要因ごと 性別と大学志望順位によって₂×₃の二要因分散分析 を行った。その結果,いずれも性別の有意な主効果は 確認できなかったが,志望順位による有意な主効果が
「職業志向(F(2,192)=3.391,p<.05)」「専門志向(F
(2,192)=9.390,p<.001)」「他者環境影響(F(2,192)
=7.389,p<.001)」で確認された。その後の多重比較 の結果,「職業志向」と「専門志向」では,₁位が₃ 位より有意に高い値であった(₅%水準)。「他者環境 影響」は逆に₁位が₃位より有意に低い値であった
(₅%水準)。
④コミュニケーションに対する自信の結果(Fig.₂)
意図伝達では,全体平均が37.68(11.04),女子が 37.92(12.61)男子が37.57(10.30)であった。意図 抑制は全体平均44.06(8.57),女子が44.78(10.29),
男子37.57(10.31),意図理解は全体平均42.84(10.35),
女子43.85(13.32),男子42.39(8.70)という結果で あった。
やはりいずれも有意な性差は確認されなかった。ま たここでも大学志望順位による分散分析を試みたが有
意な結果は確認されなかった。
⑤進路選択自己効力感と各変数との関連
進路選択自己効力感については,自己肯定感や自己 愛性傾向などと同じように高ければ高いほどよいかと いうとについて疑問も持たれている。つまり得点が高 くその傾向が強いことは,自信過剰で進路など将来へ の準備がおろそかになることも指摘されてきた。
そこで,得点結果をもとに,40点未満をL群(n=71),
41~45点をM群(n=57),46点以上をH群(n=63)と
₃群に分けて,他の変数との関連を探ることにした。
なお,各群の男女構成は,L群で女子26人,男子45 人,M群は女子15人,男子42人,H群は女子19人,男 子46人という結果で構成比率に大きな違いはなかった。
この₃群と性別によってコミュニケーションの自信 について₂×₃の二要因分散分析を試みた結果,₃つ の要因すべてで群の有意な主効果が確認された(それ ぞれF(2,192)=3.80,4.29,4.56,いずれもp<.05)。
その後の多重比較の結果,L群がM群より有意に低い 値であることが確認された。進路選択自己効力感の低 群は中群よりコミュニケーションの各側面で自信が低 いといえる(Fig.₃)。
次に大学進学動機でも性別と群による₂×₃の二 要因分散分析を試みた。その結果は,「職業志向」(F
(2,192)=16.6,p<.001),「生活エンジョイ」(F(2,192)
=4.99,p<.01),「 専 門 志 向 」(F(2,192)=11.77,
p<.001)で群の有意な主効果が確認された。その後 の多重比較の結果,生活エンジョイがM群よりL群が 有意に低く,他の₂要因ではM・Hの両群よりL群が 有意に低い値であった(Fig.₃)。
ちなみに大学生活のとらえ方との関連は確認されな かった。そこで入学動機と大学生活のとらえ方の関係 を確認するために相関関係を調べてみた。その結果,
Table.₁のようになった。
職業志向が動機は存在居場所とだけ有意な負の相関 があり,大学生活重視は対人関係育成と有意な正の高 い相関とともに就職準備機能と教養専門獲得とも有意 な正の相関が確認された。専門志向は,教養専門獲得 および就職準備機関と有意な正の相関が見られ,存在 居場所とは有意な負の相関であった。世間体重視は存 在居場所と有意な正の相関があった。
専門志向が強くて入学してきた学生は,大学の本来
20 30 40 50
意図伝達 意図抑制 意図理解 Fig. コミュニケーション自信の結果
女子 男子
10
20 30 40 50
意図伝達 意図抑制 意図理解 Fig. 各群ごとのコミュニケーションの自信の比較
0 1 2 3 4 5
Fig. 各群の入学動機の結果比較
0 2 4 6 8 10 12
関心性 自律性 計画性 Fig. 各群の進路成熟度の結果
L M H L M H L M H
職業志向 生活エンジョイ 専門志向 世間体重視 他者影響
Table 大学入学動機と大学生活のとらえ方の相関関係
㻌 㻌 ᑐே㛵ಀ⫱ᡂ㻌 Ꮡᅾᒃሙᡤ㻌 ᑵ⫋‽ഛᶵ⬟㻌 ᩍ㣴ᑓ㛛⋓ᚓ㻌
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的な機能を重視しており,大学生活重視して入学した 学生は対人関係育成も大切にしようとしていることが 分かった。
次に,キャリア成熟度については₃つの下位尺度 すべてに進路選択自己効力感の程度の有意な主効果 が確認された(Fig.₄)。関心性(F(2,192)=6.271,
p<.01)と自律性(F(2,192)=10.592,p<.001)では,
その後の多重比較の結果,M・Hの両群に比べてL群 の値が有意に低かった。計画性(F(2,192)=4.921,
p<.01)では,その後の多重比較の結果M群よりL群 が有意に低い値であった。
ここまで進路選択自己効力感とそれぞれの変数との 関連を進路選択自己効力感の程度の違いから探ってき た。その結果,これまでの研究同様,大学卒業後の進 路選択やその選択過程において自己効力感が有意にか かわっていることを確認してきた。しかし,進路形成 過程は卒業後だけではなく,いま現在の大学入学やそ の後の大学生活も含めて考えなければならないという 前提があった。また,進路選択自己効力感そのものが 前提とされるのではなく,どのようにそれが形成され るかという点も重要である。そして,コミュニケーショ ンの「自信」は,自尊感情や効力感ともかなり類似し た心理的な力動性の方向を持っていることが予測され る(ただし,この後の重回帰分析において多重共線性 の問題はないことは確認された)。
このことから,今回取り上げた各変数と進路選択自 己効力感との関連について整理することにした。これ からの進路選択において重要な指標とされる進路選択 自己効力感を目的変数に,各要因による重回帰分析(ス テップワイズ)を試みることにした。
その結果,Fig.₆に示したように₃つの有意な説 目変数を得ることができた(R2=.137,F=11.021,
p<.001)。大学生活の「教養専門養成」(β=.177,
p<.05),コミュニケーションの「意図理解」(β=.158,
p<.05),そして進路成熟度の「自律性」(β=.276,
p<.05)の₃変数であった。特にキャリア成熟度の「自 律性」は説明変数として第₁ステップから有意な説明 変数として抽出された。
そして,コミュニケーションの自信の中で「意図理
解」が他の伝達や抑制よりも有意に効力感に作用して いることが示唆された。そのうえで大学生活における 教養専門養成の重要性も確認された。
考 察
本報告は大学生のキャリア発達の実態とともに関連 する諸要因を分析することで,今後のキャリア教育な どその支援の在り方を検討するために行ったものであ る。今回は特に,キャリア教育で重視されているコミュ ニケーションに関してその自信と進路選択自己効力感 との関係に着目した。
まず,大学志望順位が高い学生ほど,職業や学びの 専門性を動機として入学していることが確認された。
逆に志望順位が低いほど周りからの意見や地理的な要 因を理由に入学してきたことが分かった。今回の対象 者のうち₄割が志望順位₁位であったが,一方で同じ く約₄割が₃位以下であったことから,入学後の学生 対応に工夫が求められると思われる。また,入学前か ら一定の進路を決めている学生ほど,大学で学ぶ本来 的な目的を強く意識し,進路選択自己効力感も高いこ とが明らかになった。しかし,進路成熟やコミュニケー ションの自信などと志望順位との間には関連が見られ なかった。
今回,進路決定自己効力感の程度による大学生活の とらえ方との関連は確認されなかった。これまで五十 嵐(2016,2018)では,大学生活のとらえ方が進路成 熟などと有意に関連することが報告されてきた。その 理由のひとつとして考えられるのは,先の報告の調査 対象者は₂・₃年生であったためと思われる。今回は,
対象が大学₁年生であり,まだ実質的に大学生活の蓄 積が無く,むしろ大学進学の動機や進学希望の程度な ど入学時の要因が大きく影響していたのではないかと 考えられる。
コミュニケーションの自信では,意図伝達が意図理 解や意図抑制に比べて低くやや消極的な面があると思 われた。そのような中で進路選択自己効力感の高いも のほどコミュニケーションの₃要因のいずれでも自信 があるほど得点が高く,進路選択自己効力感の高さの 大きな規定因になっているのではないかと考えられ た。肝心の大学生活との関連については進路選択自己 効力感との有意な関連は明らかにならなかった。
学校教育におけるキャリア教育について,中教審で は,それまでの「職業観・勤労観」という意識の問題 だけではなく,「基礎的・汎用的能力」ということで,
その中では「人間関係形成・社会形成能力」を明示した。
これは「多様な他者の考えや立場を理解し,相手の意 見を聴いて自分の考えを正確に伝えることができると ともに,自分の置かれている状況を受け止め,役割を 果たしつつ他者と協力・協働して社会に参画し,今後 自律性
教養専門獲得 意図理解
Fig. 進路選択自己効力感を目的変数 とした重回帰分析の結果
0 0.1 0.2 0.3β
の社会を積極的に形成することができる力である」と している。進路選択自己効力感の程度とコミュニケー ションの自信との関連が確認されたことから,その構 成要因である意図伝達,意図理解,意図抑制とキャリ ア教育の中で重視される「人間関係形成・社会形成能 力」と内容的に十分対応したものであると言えるだろ う。
なお,コミュニケーションとは状況と個人との情報 交換であり,適応能力の重要な側面とされる。スキル として身につけることの大切さもあるが,個人の特 性として当人がどのように自覚しているかも問題とな る。客観的なスキルの評定の可能性もあるが,時と場 合,相手に応じて柔軟に対処することが求められるこ とでその評価自体はかなり難しいと言える。対人行動 における対処パターンの獲得がソーシャルスキルとし て重視されたりもするが,スキルだけで無理に相手と のやり取りをしていることは,個人にとって決して望 ましい状況とは言えないであろう。むしろ,無理な協 調行動などであれば,その個人は大きなストレス状態 にあることが予測される。ましてや既存の社会や職場 に合わせるだけの人材育成としてコミュニケーション の能力が求められることは,人材の画一化にもつなが りかねない。そのために前述の「今後の社会を積極的 に形成する」面としては,新しい価値を生むための創 造にむけた対立も含めたコミュニケーションの在り方 が検討される必要があるだろう。この場合は異質性も 包含できる関係性となるが,あえて関係を拒否するよ うなコミュニケーションも多様な在り方の一つとして 尊重されることもあっていいのではないだろうか。こ れまでは周りとの関係をうまくとれないことが「自信」
を低める,あるいは失うこととに繋がっていたとも言 える。これからの社会において,コミュニケーション の「自信」はまた異なった様相や意味づけになってい くことも考えられる。
今回は,はじめに進路選択自己効力感の程度とその 他の変数との関連を探った。そして進路選択自己効力 感が様々な側面で重要な機能を果たしていることを確 認してきた。しかし,ただ単に高ければよいというわ けではないことも今回確認された。その程度による成 熟やコミュニケーションの自信ではM群,つまり中程 度であることの方が大切なのではないかということも 示唆され,今後の検討課題とも言える。
最後に,進路選択自己効力感をどのように育てたら よいのかが次の課題となる。そのために大学生活や具 体的な行動レベルから有意な説明変数からも探った。
その結果からは,キャリア成熟度の「自律性」が,説 明変数として第₁ステップから有意な説明変数として 抽出されたことで注目された。誰かに影響されるとか,
誰かに合わせて自分の進路やキャリアをとらえたり考 えるのではなく,自分なりの目標をどのように立てて
いくのか,またその「自分なり」ということについて 自立と依存といったバランスから考える必要がある。
そして,コミュニケーションの自信の中で「意図理解」
が他の伝達や抑制よりも有意に効力感に作用している ことから,ただアクティブに意見を一方的に出したり,
遠慮がちに抑制することよりも,まずは相手からの情 報の理解が求められることが分かった。そのためには,
理解するための認知的な枠組みを広げることや理解を 促すために質問する力も必要であろう。そのことが大 学生活における教養専門養成の重要性も確認されたこ とと繋がっていくのではないだろうか。
課題としては,学生の所属領域が限定され,入学後 まだ数カ月の₁年生であったことから,大学生活があ る程度安定してくる₂年生などとの比較が必要であろ う。また,取り扱っている変数の概念上の整理と整合 性について,具体的な進路希望の内容や個人の適応感 などからも再検討が求められる。
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