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本学のキャリア形成科目Nの授業効果の検討 : 資質・能力と自己効力感に着目して 利用統計を見る

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本学のキャリア形成科目Nの授業効果の検討

-資質・能力と自己効力感に着目して-

原   瑞 穂* 要  旨  本学の「キャリア形成科目N」は、社会人の講話聴講と OPPA による自己評価を取り入れた方式により、 学生の資質・能力を育成し、自己効力感と進路に対する自己効力を高めることを目的としている。授業 評価や改善に関しては担当教員に任されているが、授業の感想やレポートに記された記録だけで授業効 果を測るのは難しい。そこで本研究では、「キャリア形成科目N」の授業効果を検証するために、授業の 前後で質問紙調査を実施し、資質・能力、自己効力感、進路に対する自己効力の変化を調べた。結果、 学生は自身の資質・能力の向上を意識しており、自己効力感の向上が進路選択に対する自己効力を高め ていることが明らかになった。このことにより、「キャリア形成科目N」の授業効果は概ね得られたと考 えられる。 キーワード : 大学,キャリア教育,授業改善,OPPA 1.問題と目的 1-1.研究の背景  平成 30 年3月大卒の就職率は 98.0%となり、平成9 年3月卒の調査開始以降、過去最高であった。(厚生労 働省, 2018a)1)。これは約7年ぶりの高水準であり、リー マン・ショック以前にまで回復した。「売り手市場」に 転換した若者の就職活動環境は、職業観や働く意識を持 たないまま活動し苦労せずに内定を得られる学生を多く 生み出すこととなり、準備が不十分なまま内定を得て就 職する学生の早期離職を懸念する声もある。また、乗り 遅れた学生の意思決定の先延ばし傾向はさらに高まり、 本学でも就職活動がうまくいかず留年を選択するなど、 目的もなく大学院へ進学する学生を増やす結果となって いる。一方、大学卒業者の3年以内の離職率は平成 25 年卒で 31.8%と依然として3割を超える状況が続いて おり(厚生労働省 ,2018b)2)、若者の早期離職やフリー ター化が問題視されている。  大学のキャリア教育は平成 11 年の中教審答申がきっ かけであった(中央教育審議会,2011)3)。花田・宮地・ 森谷・小山(2011)4)は、この内容について、「学校と 社会の円滑な接続を図るためのキャリア教育を小学校段 階から発達段階に応じて実施する必要性が指摘されると ともに、その内容が初めて文部科学省の制作文書中に定 義された」と評価している。その後、平成 23 年4月に 文部科学省は(社会的及び職業的自立を図るために必要 な能力を培うための体制)として大学設置基準第 42 条 の2として「第四十二条の二 大学は、当該大学及び学 部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの資質を 向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能 力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことが できるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適 切な体制を整えるものとする。」の文を新設した(文部 科学省,2010)5)。この改正により大学・短期大学でのキャ リア教育が義務化されてから7年が経つが、実際にどの ようなキャリア教育がどの程度導入されているのかは明 らかではない。キャリア教育の内容や指標に関しては明 確に示されてはおらず、担当教員に任されているのが現 状である。各大学では似たようなキャリア課目が用意さ れているが内容は就職活動対策そのままのもの、学習の 基礎を身につけさせるもの、生き方や社会人基礎力を育 成するものなど多様にある。これらから分かるように、 大学も学生も、キャリア教育とキャリア支援の内容を混 同する傾向が強く、学生の資質・能力の向上や職業的自 立を図るために必要な能力を培う(文部科学省,2011)6) という本来目指すべきキャリア教育とはほど遠いもので あることは容易に推測できる。このように、現行のキャ リア教育の授業内容が果たして学生の職業観や働く意欲 の育成に効果があるのかということはどの大学でも悩ま しい問題であろう。 1-2.本学の取り組み  本学でも、自ら進んでキャリアを形成していく自立性 や生きる力を身につけさせることを目標に授業を行って いるが、果たして学生に教員の意図が伝わっているのか、 認識にズレはないのかと迷うことは多々ある。新しく発 表された新学習指導要領改定案(文部科学省,2017)7) は、知識習得が中心の受け身の学習ではなく、学習を通 じてどのような資質・能力の育成を目指すのかを意識す ることのよって主体的・対話的で深い学びの実現を目指 すものであった。本学のキャリア教育の授業の1つであ る、「キャリア形成科目N」においても、オムニバス形 * 山梨大学 キャリアセンター

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式で実施される優れた業績を成し遂げた人の話を聴くこ とによる疑似体験を通して、自らの人生と照らし合わせ、 他者と共有することにより深い学びとなる形式をとり、 自己のキャリアイメージを明確にし、自己効力感や進路 選択に対する自己効力を向上させることを目的としてい る。授業のカリキュラムを表1に示す。  しかし、学生の成長や気づきを目的とするキャリア教 育のような授業では学生の主体的な学びや思考の深まり を評価し、授業内容を教員自身が再評価できるような評 価法が必要となる。そのため本学のキャリア教育では、 OPPA(One Page Portfolio Assessment、一枚ポートフォ リオ評価:堀,2013)8)を学生の自己評価に使用している。 これは、学生が講義を通して得られた知識や学びを自己 の内部に取り入れ内省し、高次元から構成的に自己を観 察することで現時点の自身の基礎力や将来への志向を客 観的に認知し、将来について具体的なイメージを持てる ことを目指すものである。つまり、講義をただ受講する 受け身の態度ではなく、講義から得られた内容を肯定的 であろうと否定的であろうと自身の内部で咀嚼し、自身 の考えや生き方に置き換えて考えることによって、今後 の生き方の方向性を見出し行動に移せることである。そ の結果、長期的なキャリアデザインのイメージを持ち、 自らの発達を管理できるようになると考えられる。さら に、学習から得られた気づきを学生一人ひとりがそれぞ れの行動として学生生活に活かすことによって成功体験 を積み、自己効力感を高めることで、進路選択に対する 自己効力の向上を期待する。OPPA の授業効果について は、原(2017)9)が、学生の記録から、資質・能力の育 成から自己効力感の向上を報告している。本研究では、 オムニバス形式である「キャリア形成科目N」の受講者 を対象に授業効果を検証した。 表1 キャリア形成科目Nの内容 1-3.本研究の目的  本研究の目的は、本学の「キャリア形成科目N」の授 業効果を明らかにすることである。そのため、学生の資 質・能力と心理的側面に注目し、学習前と後でどのよう な変化が現れるのかを検討した。本研究における3つの 仮説と仮説モデル図は以下のとおりである。学習(代理 体験)は、講話の聴講体験を示す(図1)。 仮説1 資質・能力と自己効力感は授業後の方が高まる 仮説2 資質・能力が学習によって高まることで自己効 力感が高まる 仮説3 自己効力感が高まることで学修後の資質・能力 と進路選択に対する自己効力が高まる 2.方法 2-1.調査対象 平成 28 年前期に本学の全学共通教 養科目の「キャリア形成科目N」の受講学生 248 名であっ た。 2-2.調査方法 調査は、授業中に実施し、所要時間 は 10 分~ 15 分程度であった。質問紙には、質問に答え たくない場合には答えなくてもよいこと、得られた個人 情報は調査や学会発表等の研究に関すること以外に使用 しないこと、事後は責任を持って破棄することを明記し た。以上のことを説明後、回答に取りかかるよう指示し た。回答後、回収した。 2-3.調査内容 調査内容は、属性、心理尺度、基礎 力で構成された。  授業では、社会人に必要な基礎力を大学時代に育成す るため、15 回の講義を通して客観的に自身の資質・能 力を意識できるように講義内容を構成した。本調査では 資質・能力を基礎力と表記した。ここで扱う基礎力は、 親和力、協働力、統率力、課題発見力、計画立案力、実 践力、感情抑制力、自信創出力、行動持続力の9項目と した(大久保, 2006)10)。これらの基礎力によって自己 効力感の向上が得られたかどうかを検証するために、基 礎力と心理尺度の自尊感情、自己効力感、進路選択に対 する自己効力尺度を用いた質問紙調査を実施した。 図1 本研究の仮説モデル図

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2-4.調査時期 平成 28 年4月と8月の2回実施し た。 2-5.倫理的配慮 調査前に調査対象者に調査の趣旨 と個人情報及び結果の取り扱いに関する説明を行い、調 査協力の回答をもって同意が得られたと判断した。謝礼 はしなかった。 2-6.調査項目 2-6-1.属性  属性は、学籍番号、学年、学部、学科、年齢、性別、 入試選抜方法の7項目であった。 2-6-2.基礎力  基礎力は大久保(2006)10)の9つの基礎力を取り扱っ た。9つの基礎力とは、対人(親和力、協働力、統率 力)、対課題(課題発見力、計画立案力、実践力)、対自 己(感情抑制力、自信創出力、行動持続力)である。各 基礎力を1項目とした。大久保は基礎力を、行動特性の なかに表れるもので習慣的な能力であり、どのような仕 事をするにしても必要となる能力として、職業能力の基 盤ともなるべきものである、としている。  対人基礎力とは、人間関係を司る力のことであり、他 者との豊かな関係を築く「親和力」、目標に向けて協力 的に仕事を進める「協働力」、場を読み組織を動かす 「統率力」に細分化される。対人基礎力は、社会人になっ ても年齢を重ねて高まり続ける深みのある能力である。 また、対課題基礎力とは、課題を発見し解決に導く能力 であり、課題の所在を明らかにして必要な情報分析を行 う「課題発見力」、課題解決のための適切な計画を立て る「計画立案力」、実践行動をとる「実践力」に細分化 される。対課題基礎力は、大学時代から 20 代、30 代に 鍛えることができれば、リーダーとして活躍されること が期待されうる能力である。さらに、対自己基礎力は、 気持ちの揺れを制御する「感情抑制力」、前向きな考え 方ややる気を維持する「自信創出力」、主体的に動きよ い行動を習慣づける「行動持続力」に細分化される。対 自己基礎力は、ストレス耐性が重視される近年において、 対人基礎力や対課題基礎力の向上と密接に関連している ことから注目される能力領域である。  基礎力についての自己評価は、最終日に4月時点と8 月時点をまとめて求めた。 2-6-3.自己効力感  バンデューラ(Bandura,1977)11)によって提唱され た社会的学習理論によると、自己効力感は、ある結果を 生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うこと ができるかという個人の確信とされており、これをセ ルフ・エフィカシー(self-efficacy)と呼んでいる。本調 査では、一般性セルフ・エフィカシー尺度(坂野・東 條, 1986)12)を使用した。「何か仕事をするときは、自 信をもってやるほうである」など 16 項目から構成され、 「No」を0点、「Yes」を1点とする2件法であった。 2-6-4.進路選択に対する自己効力感  進路選択に対する自己効力感は、進路を選択する心理 的な力、すなわち進路の選択力のことであり、主体的な 進路選択力の内包する、進路の計画力、進路の選択力の 2つの力を包含しているといえる(浦上, 1995)13)。本 調査では、「進路選択に対する自己効力尺度」(浦上昌 則 ,1995)13)を使用した。「自分の能力を正確に把握する こと」など 30 項目から構成され、「全く自信がない」か ら「非常に自信がある」までの4件法であった。  質問は全部で 55 項目であった。 2-7.分析方法  質問紙で得られたデータを対象とし、SPSS. Statistics. 21 を使用して分析を行った。途中辞退者、内容に不備 のある者 12 名を除いた 236 名を分析対象者とした。   3.結果 3-1.属性  本調査の分析対象 236 名の内、性別の内訳は男 165 名、 女 71 名、平均年齢は 18.45 歳であった。無回答項目(空 欄)を総数に入れていないため人数が調査項目により数 が異なる。調査対象者を表1に示した。 表1 調査対象者の属性一覧

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3-2.学生の基礎力(資質・能力)の授業前後の変化  授業前と授業後の学生の認識する基礎力を比較するこ とで、学生が授業を通して学んだ基礎力が伸びたと感じ ているかどうかを調べた。 表2 基礎力の授業前後の相関係数 表3 基礎力授業前後の各基礎力の平均値・標準偏差と効果量 3-2-1.基礎力(資質・能力)の各項目の相関係数  各基礎力の項目の相関を調べたところ、相関係数は授 業前でr =.24-.66、授業後で r =.32-.76 であり、相関 が認められた(表2)。 3-2-2.授業前後の基礎力の平均値と効果量の比較  授業前後における9つの基礎力の伸び方を調べるた め、それぞれの平均値について対応のあるt 検定を行っ た。その結果、全ての基礎力において 0.1%有意で授業 後が高かった。さらに、授業前後における効果量を測定 した結果、全ての基礎力で効果量 .26-.50 と、中から 大程度の効果が得られた(表3)。  以上のことから、「キャリア形成科目N」の受講者は 授業前より授業後の方が基礎力は上がっていると認識 していることが明らかになった。「キャリア形成科目N」 の受講による各基礎力の平均値及び効果量の有意な上昇 から、仮説1の一部が支持された。 3-3.心理項目の授業前後の変化  授業前と授業後で自己効力感と進路選択に対する自己 効力の差を比較することで、学生が授業を通して心理的 に成長しているかどうかを調べた。 3-3-1.各心理項目の相関係数  まず、心理項目の相関を調べたところ、授業前の自 己効力感と進路選択に対する自己効力の相関係数は、 r =.53、授業後は r =.43 であり、それぞれ 0.1%有意で 相関が認められた(表4)。

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表5 授業前と授業後の各基礎力の平均値・標準偏差 表6 授業前後の基礎力と心理項目の相関 3-3-2.属性ごとの各項目の平均値の差  次に、各項目に対する平均値の差を調べ、今後の分析 にデータをそれぞれ分割する必要があるかどうか検討し た。性別はt 検定、学年や学部、学科、入試選抜方法は 各項目を独立変数、各尺度を従属変数とし一要因分散分 析により確認した。その結果、学部で授業後の協働力の みに5%の有意差が見られ(F (2.230) = 3.608, p <0.5)、 教育学部が工学部より高かった。その他の基礎力8項目 と心理項目2項目には有差が見られなかったことから、 以後の分析は全体をひとまとまりのデータとして取り扱 うことに問題はないと判断した。 3-3-3.授業前後の心理項目の平均値・標準偏差と       効果量の比較  授業の前後で心理尺度の変化を調べるために、それぞ れの平均値について対応のあるt 検定を行った。その結 果、自己効力感と進路選択に対する自己効力において 0.1%有意で授業後が高かった。さらに、授業前後にお ける効果量を測定した結果、自己効力感は効果量r =.23 で小から中程度の効果量が、進路選択に対する自己効力 は効果量r =.19 で小さな効果量が得られた(表5)。  以上、「キャリア形成科目N」の受講による心理項目 の平均値及び効果量の有意な上昇から、仮説1の一部が 支持された。 3-4. 各尺度間の因果関係の検討  学生の既存の資質・能力、自己効力感、進路選択に対 する自己効力に関して影響関係が成立するのかどうかを 検証した。まず、授業前後の自己効力感、進路選択に対 する自己効力および基礎力合計のそれぞれの得点の相 関を調べた。その結果、授業前はr =.36-.53、授業後は r =.34-.57、と相関が見られた(表6)。  次に、複数の段階にまたがる影響過程を調べるために 重回帰分析によるパス解析を行った。仮説に従い、第1 段階に学生の持つ既存の資質・能力を配置し、第2段階 に自己効力感を置いた。第2段階の自己効力感から第3 段階の進路選択に対する自己効力と学修後の資質・能力 を配置した。さらに、第1段階の既存の資質・能力から から第3段階の進路選択に対する自己効力と学修後の資 質・能力への直接の影響関係も調べた。第1段階では、 既存の資質・能力から自己効力感へβ =.33 と正の標準 偏回帰係数が 0.1%で有意であった。決定係数はR2=.11 であった。第2段階では、自己効力感から進路選択に対 する自己効力へβ =.43 と正の標準偏回帰係数が 0.1%で 有意であった。決定係数はR2=.18 であった。自己効力 感から学修後の資質・能力へ第1段階から第3段階へは、 表4 心理項目の授業前後の相関係数

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β =.34 と正の標準偏回帰係数が 0.1%で有意であった。 決定係数はR2=.12 であった。既存の資質・能力から進 路選択に対する自己効力へβ =.57 と正の標準偏回帰係 数が 0.1%で有意であった。決定係数はR2=.31 であっ た。既存の資質・能力から学修後の資質・能力(基礎力) へβ =.71 と正の標準偏回帰係数が 0.1%で有意であった。 決定係数はR2=.50 であった。  以上の結果から、既存の資質・能力を高めることによっ て学修後の自己効力感を高め、自己効力感の向上が学修 後の基礎力と進路選択に対する自己効力を高めることが 明らかになった。よって仮説2、3は支持された。モデ ル図によるパス解析の結果を図2に示す。 4.考察 4―1.まとめ  これまで、一枚ポートフォリオ評価(OPPA)を取り 入れたオムニバス形式の「キャリア形成科目N」の授業 効果を、資質・能力の向上と心理的効果の変化の側面か ら検討してきた。結果をふまえて考察する。  学生の資質・能力の自己評価を授業前後で比較した 結果、全ての基礎力において授業後の自己評価が向上 し、中から大の効果が得られた。このことから、学生は 「キャリア形成科目N」の受講を通じて、自身の資質・ 能力が向上したと認識していることが明らかになった。 特に、効果量が高かった自信創出力、課題発見力、計画 立案力、統率力は、多くの失敗を乗り越えて高い業績を 残された講師の話から、様々な代理体験をすることによ り、自らの課題を発見し、それを克服し目標を達成する ためには、計画的に学生生活を送っていかなければなら ないと考える動機づけとなっていると考えられる。ま た、講師の生き方や取り組み方を間接的に学び、自分な りに具体的な方策を考えることにより、従来の考え方に 変化が生じ、それによって、今後の生活への自信を持つ ことができていると考えられる。講師の経験談を聞くこ とは、「自分は将来こうなりたい」という自身の将来像 を描く上で貴重な体験であろう。将来に対する理想や願 望が生まれると、現状とのギャップや、なりたい自分に なるために必要な能力や課題がより明瞭になり、能力習 得や課題克服に向けて取り組むべき事項を計画しやすく なる。また、自ら考え立案した計画を実行することは、 他者から命令されて取り組むよりも主体的に取り組むこ とができ、得られる達成感や自信創出も大きいと思われ る。今回の結果を踏まえ、聴講と振り返りという授業構 成は、学生の主体的なキャリア形成において有効である と考える。 図2 授業前後の影響関係  授業前と授業後の学生の心理項目の比較から、自己効 力感と進路選択に対する自己効力でともに向上が見ら れ、小から中程度の効果が得られた。このことから、学 生の心理的側面からも授業効果が確認できた。特に効果 量の高かった自己効力感は、代理体験(バンデューラ) 効果の結果と考えられる。成功のためには忍耐強さやポ ジティブシンキングが必要であるという講師からのメッ セージを毎回受けることにより、「生き方」に対する具 体的な方策の自身への取り入れが行われたのではないだ ろうか。「キャリア形成科目N」の受講者の授業前の自 己効力感の平均値 6.25 であったが、授業後には 6.92 に 上昇していた。このことから、入学時の自己効力感が低 くても、主体的な学びや代理体験を取り入れる授業形式 により自己効力感を向上させる可能性があると考えられ る。  各項目の影響関係の結果から、既存の資質・能力の向 上が授業後の自己効力感を向上させ、授業後の進路選択 に対する自己効力を向上させていた。これは、毎回の OPPA の振り返りによって、既存の資質・能力への意識 が高まり、講師と自身の比較や課題発見などによる自己 評価の積み重ねを継続した結果、授業後の自己効力感の 向上となり、それが進路選択に対する自信にもつながっ たものと考えられる。このように、偉大な先輩の講和を 聞く形式でも、OPPA を取り入れることによって自己を 深く省み、発見した課題を解決すべき目標を設定するこ とができたのではないだろうか。その結果、自身の資 質・能力の向上を自己評価することにより、自己効力感 の向上につながったのではないかと考える。大学の講義 は半期4ケ月という短い期間が定められている。4ケ月 では心理の変化は確認しづらいと予想されたが、小さく ではあるが自己効力感が授業後に向上した。今後、より 効果を期待するのであれば、さらに授業運営の方法やカ リキュラムの組み方等に工夫が必要であろう。

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4-2.今後の課題  以上のように、「キャリア形成科目N」の授業効果と 思われる数値は得られたが、自己効力感の効果量は小か ら中であり、継続的に検証する必要がある。また、今回 の結果が全て授業の影響と考えることは早急であろう。 新入生の成長には他の授業や活動の影響も受けており、 1回の検証で特定するのは困難であると考える。  一方、自己効力感の低下が表現された内容のOPP シー トも散見された。偉業を成し遂げた人と自分を比較する ことによって自尊感情が一時的に低下し、自己効力感の 低下を招いたと推察される。総勢約 250 名のクラスで は、学生は一人ひとりの捉え方も多様である。生きぬく 自信や進路選択に対する具体的な効力感に関しては、受 け止め方の違いにより個人差が出ることは当然である。 このように自分と比較して自己否定に陥りがちな学生へ の対策として、他者との意見交換などの機会をさらに取 り入れ、多様な考え方から物事を見る方策を探る必要が ある。  最後に本研究で用いた大久保(2006)10)の基礎力を尺 度として用いるためには、再度尺度作成から検討する必 要があることも課題である。 参考文献 1) 厚生労働省(2018a).平成 30 年度大学等卒業者の 就職状況調査について https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000205940.html 2) 厚生労働省(2018b).新規学卒就職者の離職状況(平 成 27 年3月卒業者の状況)を公表します (平成 30 年 10 月 23 日) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00001. html 3) 中央教育審議会(2011).今後の学校におけるキャ リア教育・職業教育の在り方について(答申) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/ toushin/1301877.htm 4) 花田光世・宮地夕紀子・森谷一経・小山健太(2011). 高等教育機関におけるキャリア教育の諸問題 Keio SFC journal, 11(2), 73-85. 5) 文部科学省(2010).大学設置基準及び短期大学設 置基準の改正について(諮問) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/ houkoku/1289824.htm 6) 文部科学省(2011)大学における社会的・職業的自 立に関する指導等(キャリアガイダンス)の実施に ついて(審議経過概要) https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/ houkoku/1288248.htm 7) 文部科学省(2017).学習指導要領「生きる力」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986. htm 8) 堀哲夫(2013).教育評価を問う 一枚ポートフォリ オ評価 OPPA 一枚の用紙の可能性 東洋館出版社 9) 原瑞穂(2017).キャリア教育におけるOPPA 論の 効果 山梨大学教育学部紀要第 27 号,pp237-256. 10) 大久保幸夫 (2006).キャリアデザイン入門(Ⅰ)基礎 力編 日経文庫

11)Bandura.A.(1977).Self-efficacy:Toward a Unifying Theory of Behavioral Change.Psychological Review. Vol.84,No.2,191-215. 12) 坂野雄二・東條光彦(1986).一般性セルフ・エフィ カシー尺度作成の試み 行動療法研究,12(1), 73-82. 13) 浦上昌則(1995).学生の進路選択に対する自己効力 に関する研究 名古屋大學教育學部紀要,42,115-126.

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