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2000 年度 上智大学経済学部経営学科網倉ゼミナール卒業論文

「垂直統合とネットワーク外部性」

〜光磁気ディスクドライブ業界を例にとって〜

2001年1月10日提出 A9742334 清水 大輔

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はじめに

本稿の目的は、MO(光磁気ディスク)の業界を例にとって企業ごとの取引形態の違いに注 目し、その原因を考察することである。光磁気ディスクをはじめとした記憶媒体に関しては、

一般的にネットワーク外部性が働くとされている。本稿ではネットワーク外部性が働く下での 川下への垂直統合について考察する。

現在の MO 業界

MO(光磁気ディスク)は、パソコン用の記憶媒体のひとつである。容量は最新のもので1.3GB である。MO 業界には大きくわけて 2 種類の業者がいる。一つはドライブそのものの製造を行 う製造業者であり、もう一つは製造業者によってつくられた中間製品としてのドライブ(ベア ドライブと呼ばれている)を購入し、電源や筐体等の外装を施して販売する販売業者である。

現在MOドライブを製造している企業は、富士通とオリンパスとコニカの 3社のみである。こ のなかでも富士通は全体の約6割のシェアを持ち、またオリンパスは約 3 割のシェアを保持し ているので、この2社は文字通りMO市場の2大企業である。ところで、これら2社の取引形 態は大きく異なる。下に両社の取引形態を示す。

富士通

販売業者A

販売業者B

販売業者C

デ ィ ー ラ

消 費 者

川下への垂直統合はされていない

オリンパス

販売業者A

販売業者B

オリンパス

デ ィ ー ラ

消 費 者

川下へ垂直統合しつつ、他社にも販売

(3)

上記の 2 つの図のうち、上が富士通の取引形態を示していて、下がオリンパスの取引形態を 示している。富士通とオリンパスの違いは、次のように要約できる。富士通は川下への垂直統 合を一切していない(たとえ自社の関連会社に卸すのであっても、取引条件は外部の企業と一 緒)のに対し、オリンパスは川下へ垂直統合していて(自社ブランドで販売する)、さらに他社 に部品としてベアドライブを供給している。このような差異はなぜ生じるのだろうか。これか らその理由について、問題を整理しつつ考察する。

問題の整理

この問題の状況を整理すると次のようになる。まず先に富士通が MO 業界にいる。先に見た ように、富士通は中間製品の製造のみをしていて、川下に垂直統合はしていない(完成品市場 には進出していない)。その後にオリンパスが完成品市場に参入するという意思決定をした。そ の際に、オリンパスはベアドライブ(中間製品)を自社生産することにした。さらにオリンパ スは、販売業者に対してベアドライブの販売を行うことにした。このようにして先に見たよう な業界構造ができ上がったのである。以上のような状況をふまえると、この問題は次の 3 つの 要素からでき上がっていることが解る。

1. なぜ富士通は川下への垂直統合をしないのか。

2. なぜオリンパスは販売会社にベアドライブを供給するのか。

3. なぜ販売会社はオリンパスからベアドライブを購入するのか。

これから上の3つの問題について順に考えていきたい。

まずはじめに、なぜ富士通が川下への垂直統合をしていないのかを考える。考察をする前に、

事実関係を整理する。富士通は MO ドライブなどのパソコンの周辺機器の販売チャネルを持た ないのに対し、オリンパスはカメラ店などを中心とした周辺機器の販売チャネルを持っている。

このことを念頭においてこれから考察を行う。

富士通が川下への垂直統合をしない理由としては、以下のような可能性が考えられる。まず、

最終製品としての MO ドライブを販売するための流通チャネルを持たない富士通が川下へ垂直 統合をするのは、新規に販売チャネルを構築するコストを考えると不可能であるという可能性 である。2 つめは、あえて垂直統合をしないことによって販売業者の警戒感を和らげ、製造メ ーカーとしての中間製品市場における地位を確かなものにしようとしているという可能性であ る。この場合の警戒感とは、「富士通が MO ドライブの最終製品市場に参入してくるかも知れ ない」という販売業者の予想を指す。もし富士通が川下へ垂直統合するようなことがあれば、

(4)

る」「ほかの製造業者からベアドライブを購入する」などのいわゆる「脅し」をかけることがで きるのではないだろうか。

以上より、富士通がいま現実に川下への垂直統合をしていないことの理由を考察できたので はないかと考える。

続いて、なぜオリンパスは販売会社にベアドライブを供給するのかを考える。MO をはじめ とする記憶媒体製品には、ネットワーク外部性が働く。つまり、ある記憶媒体を使う人が多け れば多いほどその製品の市場規模は拡大すると考えられる。市場規模が拡大することは業界内 のすべての企業にとって望ましいことである。ところで、市場規模は消費者による期待ネット ワークサイズに依存すると考えられるので、市場規模を拡大するためにはこれ(消費者の期待 ネットワークサイズ)を拡大する必要がある。

ここで消費者の期待ネットワークサイズを拡大するためにはどうすれば良いかを考えてみる。

消費者が「この製品は普及する」と予想するための要素としては、製品そのものの品質や既存 のユーザーの評判、そして他のユーザーの予想、そして製品価格などが考えられる。品質にお いて明確な差が出にくい MO ドライブのような製品の消費者の期待ついて考えるときに最も重 要な要素は、製品価格の水準ではないだろうか。ここでは価格水準が下がれば下がるほど消費 者はその製品が普及するという予想を立てるようになると仮定する。ここで「ある製品の価格 が下がるということは、その製品は売れていないので価格を下げざるを得なくなっている、つ まり、その製品は売れていないのでは」という一般的な価格調整メカニズムをもとにした反論 があるかもしれない。しかしながらパソコンの周辺機器等に限定してみると、製品価格が低下 したとき、消費者は「この製品は普及してきたので価格もこなれてきたな」と考え、「この製品 はもっと普及するだろう」と予想し、期待ネットワークサイズも拡大すると推論できる。逆に 価格が高い水準にとどまっているときには、消費者は「この製品はまだ本格的には普及しない な」と思うことだろう。このように製品価格を下げるためには、単純に考えて市場に出回る最 終製品の数量を増やせば良いと推測できる。このように考えると、オリンパスが中間製品市場 に参入するのは、ネットワーク外部性が働く MO 市場において市場規模を拡大するための有効 な方策として解釈できるのではないだろうか。

以上のことをふまえると、オリンパスが中間製品市場に参入することによるメリットは次の ように考えられる。まずオリンパスが中間製品市場に参入することによって、出回る製品の数 量が増えてネットワーク外部性が働く。すると市場規模が拡大するので、売り上げが拡大する ことになる。反対にデメリットとしては、中間製品の販売分については完成品販売会社がある 程度のマージンを得るので、自社ブランドで最終製品を販売する場合に比べてマージンが減少 すること、さらに自社ブランド最終製品のシェアの低下による収入の減少が考えられる。オリ

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ンパスが中間製品市場に参入しているということは、前者のメリットが後者のデメリットより 大きいからだと考えられる。

最後に、なぜ販売会社はオリンパスからベアドライブを購入するのかについて簡単な考察を 加える。この問題を考えるためには、ベアドライブ製造メーカーと完成品の販売会社の交渉力 を明示的に考慮する必要がある。なぜなら、完成品販売会社にとって、その原材料であるベア ドライブの売り手である製造メーカーの数が多ければより有利な交渉が可能になることが予想 できるからである。というのも、もし売り手の数が多ければ、買い手の側は条件が折り合わな いときに「おたくの会社と取引しなくても、代わりはいくらでもいるんですよ」というように 交渉を有利に進められるからである。反対にもし製造メーカーの数が少なければ、完成品の販 売会社の交渉力は弱まることが予想できる。

さらに、販売メーカーそのものの数も、完成品販売会社と製造メーカーとの力関係を左右す る重要な要素であると考えられる。

もうひとつ考えられるのは単純な数量不足によるものである。もし最終製品がよく売れてい て中間製品が大量に必要になったときに、中間製品の新たな供給元が現れれば、販売会社もそ れを利用することだろう。

以上の考察から、完成品の販売会社がオリンパスからベアドライブを購入するのは、そうす ることによって富士通などの製造メーカーに対する交渉力を上げるため、あるいは自社の出荷 数量を増やすためであると考えることができる。

今までの考察によって、はじめの問題、つまりなぜ富士通が川下へ垂直統合しないのかにつ いては十分に検討できたと考える。そして富士通は垂直統合を「しない」のではなくて「でき ない」のではないだろうかという結論に達した。そこでこれから、先の 2 つ目の問題、つまり

「なぜオリンパスは販売会社にベアドライブを供給するのか」に焦点を当てて考えていきたい と思う。そのために、続いてこの問題を考えるうえで重要な役割を果たすことになるネットワ ーク外部性について詳しく見てみようと思う。

ネットワーク外部性

ネットワーク外部性とは、顧客がある財の消費から得る効用が、その財を使うほかの人々の 数に伴って増加するような消費に関する正の外部性のことをいう。Katz and Shapiro (1985)によ れば、このネットワーク外部性の働き方には3つの経路がある。

一つ目は物理的な直接効果によるものである。つまり消費の外部性がその製品の購入者数に

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から得られる効用は、電話のネットワークに加入している人の数に依存しているからである。

多くの人がネットワークに入っていれば電話機によって話せる人の数も増えるので、ネットワ ーク加入者数が増えるほど電話機の価値がより高まるのである。

二つ目は、補完財を通した間接的な効果によるものである。ある財が普及すると、それに応 じてその製品の補完財も普及する。この例としては、パソコンのハードウエアとソフトウエア がある。あるメーカーのハードウエアが普及すれば、それに対応したソフトウエアも多数製品 化される。また、記憶媒体のドライブとメディアもこの関係にある。

3 つ目はサービスネットワークを通した効果である。つまり耐久消費財において、製品の価 値がサービスネットワークの大きさや充実度によって左右される場合である。この例としては 自動車がある。自動車を購入する際には、購入後のアフターサービスや修理に関するネットワ ークが重要なポイントになる。というのも、もし車そのものの性能が良くても、サービスネッ トワークが貧弱では安心して車を購入できないからである。

さて、いまここで私が取り上げたいのは、1番目に挙げた物理的な直接効果によるネットワ ーク外部性である。2 番目に取り上げた補完財を媒介とした間接的な効果ではないので注意が 必要である。なぜなら、これから扱うのはオリンパスが中間製品市場に参入するときの意思決 定だからである。重要なのは、MO ドライブの供給量そのものがもたらす消費者の期待ネット ワークサイズの拡大である。ただ、電話のネットワークと MO のネットワークは少々異なる。

というのも、電話のネットワークは実際に目に見えるケーブルでつながっていている(もしく は直接電波でつながっている)のに対し、MO のドライブ同士を直接つなくネットワークとい うものは存在しないからである。そこで、ここでは「ネットワーク」を広義に解釈し、「同じ機 器を使用する人々の間にある、目に見えない心理的なつながり」であるとする。具体的には次 のようなことである。例えばある個人(この個人は外部記憶装置を持っていないとする)の知 人のうちの一人が MO ドライブを持っていたとする。あるときにこの個人が外部記憶装置を買 おうとしたときに、MO を選択したとする。このとき彼は「あの知り合いも MO ドライブを持 っていたから私も MO にしよう」と思ったとする。このような状況では、彼の意思決定はその 知人との心理的なつながりによってなされたと考えるのが妥当なのではないだろうか。同様な 例として「Macintoshネットワーク」というものも存在する。

Katz and Shapiro (1985)によるネットワーク外部性のモデル化は、おおよそ次のようになされ

ている。

まず消費者の側から考える。消費者は期待ネットワークサイズに基づいてある財の購入を決 定する。また、消費者は現在のネットワークサイズが判明する前に購入の意思決定をしなけれ ばならないとする。消費者は全部でm 人いて、各人がある製品(規格)のネットワークサイズ

(7)

を予想する。また各人の予想は等しいとする。この個人の予想を集計したものが、ある製品に 対する期待ネットワークサイズとなる。ここで重要なのは、期待はそのまま実現すると考える ことである。ネットワークに対して払っても良いと消費者が考える価値を表す関数を v と定義 すると、この v は先程の期待ネットワークサイズの関数となる。また、製品に対する個人的な 評価をrと置くと(rはある定数A以下とする)、消費者がこの製品の消費から得られる余剰は、

ネットワークに対する評価vと個人的な評価 rの和から製品価格p を引いたものになる。消費 者は、この余剰を最大化するような製品を選ぶ。もしこの余剰が正になるような製品が存在し ない場合には、消費者は何も購入しないことになる。

次に企業の側から考える。企業はいま見た消費者行動によって定式化された逆需要関数と生 産量の積から費用を引いたもの、つまり利潤の最大化を図る。

以上を要約すると次のようになる。まず各個人のネットワークサイズに対する期待が高まる と、消費者全体の期待ネットワークサイズが大きくなる。それにしたがって需要が喚起されて、

需要曲線は上方にシフトする。以上のような方法によってよってネットワーク外部性は定式化 されているのである。

モデル

本節ではモデル分析を行い、どのような条件の下でオリンパスが中間製品市場に参入するの かについて明らかにしてみたい。

分析をするにあたって、次のような設定を考える。まずベアドライブの製造業者は F 社と O 社の 2 社のみである。O 社は自社の販売チャネルを持っているので川下へ垂直統合をしている のに対し、F 社は川下への垂直統合をしていない。また販売を行う企業は、第 1段階では F 社 がベアドライブを卸しているA社と、O社の2社のみであるとする。そしてO社が中間製品市 場への参入を決定したのちは、O社がA社とは別のB社に対してベアドライブの供給を行うと し、このとき完成品市場にはA社と O社とB 社の3 社がいることになる。最終製品市場では クールノー競争が行われていると仮定する。当初の市場逆需要関数を

P = 1 − X

とする。また

O 社が中間製品市場へ参入すると、先に見たようにネットワーク外部性が働き需要曲線の切片 がα倍になるとする。αは 1 以上とし、このモデルの中では定数とする。αは、消費者の期待 ネットワークサイズによって決まっていると考えることにする。さらに、販売会社を通して販 売したベアドライブから得られる利潤は、自社ブランドで販売したときに得られる利潤のβ倍 になると仮定する。βは0以上 1 未満の定数で、販売会社の介在による利潤の低下を示す。各 社の販売量を

x , x ,x

と置くことにする。簡単化のために各企業は生産と販売に当たって固
(8)

目指すとする。各段階を図にすると次のようになる。

        はじめ       参入後

計算は次の通り。まず中間製品市場に参入する前の、O社の利潤を計算する。

Π

O

= x

O

(1 − x

A

− x

O

),Π

A

= x

A

(1 − x

A

− x

O

)

なので、利潤最大化の一階条件より

∂ Π

O

∂ x

O

= 0, ∂ Π

A

∂ x

A

= 0

が成り立つので

Π

O

= 1

9 ,Π

F

= β 9

となる。

続いて、中間製品市場に参入した後のO社の利潤を計算する。ここではO社の全社としての利 潤を

Π

OSと置いて区別することにする。

Π

O

= x

O

(α − x

A

− x

B

− x

O

) Π

A

= x

A

(α − x

A

− x

B

− x

O

) Π

B

= x

B

(α − x

A

− x

B

− x

O

)

なので、利潤最大化の1階条件より

∂ Π

O

∂ x

O

= 0, ∂ Π

A

∂ x

A

= 0, ∂Π

B

∂ x

B

= 0

さらに問題の設定より

Π

OS

= Π

O

+ βΠ

B

Π

F

= βΠ

A

が成り立つので

Π

OS

= α

2

(1 + β)

16 ,Π

F

= α

2

β 16

となる。

F

A O

O F

A O

O

B

(9)

よって、

α

2

(1 + β ) 16 ≥ 1

9

のときにO社は中間製品市場に参入するということが解った。この不等式の意味を解釈すると、

次のことが言える。まずαの値が大きなとき、つまりネットワーク外部性がより強く働くとき には、中間製品市場へ参入するインセンティブが大きくなる。そしてβの値が大きいとき、つ まり完成品メーカーが得るマージンが小さいときにも、製造メーカーが中間製品市場に参入す るインセンティブが大きくなる。以上により、オリンパスが中間製品市場に参入する理由を説 明できたのではないかと考える。

まとめ

本稿では、光磁気ディスクドライブ業界の構造を例にとって、垂直統合の程度とネットワー ク外部性との関係について考察した。先のモデル分析により、製造メーカーが中間製品市場に 参入するかどうかの意思決定には 2 つの事柄が影響していることが解った。つまり一つ目はネ ットワーク外部性がどの程度働くのかということであり、もうひとつは完成品販売業者がどの 程度のマージンを取るのかということである。

本来ならば先に挙げた3つの問題提起のうちの 3 つめ「なぜ販売会社はオリンパスからベア ドライブを購入するのか」についてもモデル分析を行うことが必要である。つまり販売会社の 側から見たときに、製造会社から中間製品を購入するインセンティブはどのように生じるのか、

そのロジックはどのようなものなのかをさらに詳しく見ていくことが必要である。具体的には 販売会社の戦略を列挙してモデルを組み立てるということである。このことは今後の課題にし ていきたいと考えている。

最後に、本稿で展開したモデルの拡張可能性について述べることにする。本稿では、ネット ワーク外部性が働くことをモデル内で「市場逆需要関数が定数倍すること」と表現した。しか しながら現実には、各プレイヤー(この場合は製造メーカー)の予想によってネットワーク外 部性の働き方や、その程度が異なるはずである。この予想をモデル内に上手く組み込むことが できれば、より現実にフィットした分析が可能になると考えられる。

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参考文献

H. R. Varian and C. Shapiro, 1999, Information Rules, HBS Press.

Katz, M., and C. Shapiro, 1985,“Network Externalities, Competition, and Compatibility”, American Economic Review, Vol.75, No.3, pp. 424-440.

Tirole, J., 1988, The Theory of Industrial Organization, MIT Press.

淺羽茂, 1995,『競争と協力の戦略』有斐閣. 山岸俊男, 2000,『社会的ジレンマ』PHP新書.

参照

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