3 月 25 日セミナー「訴訟費用負担―受救権、権利保護保険そして訴訟ファイナンスまで」
1 権利保護保険の意義
権利保護保険とは、民事訴訟や仲裁等の紛争当事者となった場合の訴訟費用、弁護士報 酬、鑑定費用等を填補する保険をいう1。わが国では、自動車保険等に付帯される「弁護士 費用担保特約」等の名称の特約がこれにあたる。その対象とする事件の範囲は、主として 交通事故等による損害賠償請求に限定されているのが現状である。今世紀初頭に始まる司 法制度改革において、国民の司法へのアクセスを容易にするものとしてその普及及び開発 が期待され2、ここ 10 年ほどの間に、相当のスピードで成長を遂げてきており、近時、法曹 関係者を中心にますますその拡充への関心が高まっている3。さらに、損害保険業界におい ても、新たな事業領域として注目されつつあり、権利保護保険専門の少額短期保険事業者 も登場するに至っている。他方で、弁護士費用特約の保険金請求における問題が新聞報道 で採り上げられるなどの事態も生じてきており、事業発展に伴う課題も顕在化しつつある。
2 セミナーのねらい
権利保護保険は、比較的新しい分野の保険であるが、前世紀を通じてドイツにおいて著 しい発展を遂げてきた。ドイツは、世界最大の権利保護保険市場であり、収入保険料にし て30億ユーロを超えており、損害保険全体の5.6%を占めるに至っている。対象範囲 についても、民事事件、刑事事件や行政事件に及ぶ幅広い法分野が対象とされている。こ のような権利保護保険の発展は、損害保険事業者及び法曹関係者を中心に、多くの関係者 の協力関係のもとに成し遂げられたものであるが、その歴史は平坦なものではなく、時と して、関係者の間に深刻な緊張関係を生じさせるものでもあった。ドイツの権利保護保険 制度は、英国における民事司法改革において参考にされるなど、欧州をリードしてきてお り、様々な面において、わが国における今後の権利保護保険の拡充を図るうえで、大いに 参考とすべきであろう。
そこで、今回のセミナーにおいて、ドイツから、権利保護保険をはじめとする訴訟費用 問題に造詣の深いマティアス・キリアン博士を講師として招き、ドイツにおける訴訟費用 負担問題を俯瞰したうえで、権利保護保険の発展の歴史や近時の動向等についてご知見を 披露していただき、多くの損害保険関係者や法曹関係者、学術関係者の参加のもと、質疑 応答や意見交換を行うことにより、今後のわが国の権利保護保険の発展に向けた議論が大 いに深まることが期待される。
以上
1 山下友信『保険法』(有斐閣)56 頁。
2 「司法制度改革審議会意見書 ―21 世紀の日本を支える司法制度―」30 頁。
3 最高裁判所『裁判の迅速化に係る検証に関する報告書・施策編』87 頁、同『裁判の迅速 化に係る検証に関する報告書(概要)』71 頁。