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高血圧性脳症症状を呈した腎血管性高血圧症の1例

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Academic year: 2021

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症例報告 〔東女医大誌 第63巻 臨時増刊号頁  353∼357 平成5年10月〕

高血圧性脳症症状を呈した腎血管性高血圧症の1例

  東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授)  *東京女子医科大学腎臓病総合医療センター泌尿器科学教室 ナガキ  サチコ  ナガキ   シゲル  フクヤマ  ユキオ   トウマ   ヒロシ

永木 幸子・永木  茂・福山 幸夫・東間  紘*

(受付 平成5年7月20日)          はじめに  けいれんと意識障害を主症状として来院する患 者をみる機会は小児科医にとっては少なくない. また診断,治療において困難を伴うこともよく経 験する.  今回,我々は,高血圧性脳症症状を呈し腎血管 性高血圧症と診断しえた症例を経験したので報告 する.          症  例  手慣:9歳7ヵ月,女児.  主訴:けいれん発作,意識障害.  家族歴:父方の祖父は高血圧症,母方の祖母の 兄弟3人の高血圧症の有無は不明であるが,脳卒 中で死亡.両親および同胞には高血圧を認めない. 両親,同胞ともにアレルギー体質の家系を有する.  既往歴:6歳頃より時おり偏頭痛様症状を訴 え,発症1ヵ月くらい前よりイライラすることが 多かった,精神運動発達は順調であった.  現病歴:1985年12月24日頃より風邪気味で12月 27日朝より倦怠感を訴える.食欲なく,嘔吐3回 みられた,発熱なし.夕方より激しい頭痛を訴え 倦怠感はさらに強くなった.28日朝,悪心,嘔吐, 倦怠感みられ近医受診し急性咽頭炎と診断され治 療を受ける.夕方,意識清明,夕食普通に摂取す る.午後7:30頃より嘔吐を伴った激しい頭痛出 現.両手首の.しびれ感あり.午後8:30頃入眠. 29日午前2:00頃寝返りを頻回にくり返し息苦し そうになる.午前3:00頃奇声を発し,全身性間 代響けいれんが5分間みられた.近医を受診.け いれんは止まっていたが意識レベルは,3−3−9方式 で2ぐらい.帰宅後,トイレの方向がわからず自 分で歩けない状態であった.午前8:00頃下肢よ り上肢へと進むsimple motor seizureが7∼8 分間みられ,けいれん後も意識の回復がみられず 当科紹介入院となる.  入院時現症:身長126.5Cln,体重22kg,発熱な し.3回目のけいれんがみられる.右足のミオク ロニー発作,眼球左方偏位,時々奇声をあげる. ミオクロニー発作は徐々に左上肢に波及する.意 識状態はdelirium,脈拍126/min,血圧210/160 mmHg,心・肺聴診は異常なし.肝・脾は触知さ れない.深部腱反射は正常.バビソスキー反射は 左側のみ陽性.瞳孔は正円,同大.井守反射あり.  入院経過:入院時の3回目のけいれんは,ジア ゼパム静注で止まる.血圧210/160mmHg,意識は deliriumで興奮気味.イソソルビド,降圧剤の投

与にもかかわらず血圧は150∼190/80∼110

mmHgと高値が意識清明後も持続した.意識は, 30日には3−3−9方式で2であるが,その後改善傾向 がみられ,1986年1月2日には,清明となる.し かし,頭痛は頻回に訴えるようになる.頭部CT一 スキャン,髄液検査では,明らかな異常所見はみ Sachiko NAGAKI, Shigeru NAGAKI, Yukio FUKUYAMA, Hiroshi TOMA〔Department of Pediatrics (Director:Prof. Yukio FUKUYAMA),*Department of Urology, Kidney Center(Director:Prof. Hiroshi TOMA), Tokyo Women’s Medical College〕:Acase of renovascular hypertension with hypertensive encephalopathy

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表1 入院時検査所見

WBC

RBC Hb Ht Na K Cl T.P.

BUN

Creat. T,Bil. Amy,

GOT

GPT

LDH

 13,800/mm3 5.63×106/㎜3   15.4g/dl   47.1%   136mEq〃   3.4mEq〃   96mEq〃   7.2g/dl   22mg/d1   1.Omg/dI   O.7mg/dl   675Unit〃

  27KU

   8KU   342mU/ml Ammonia  30μg/ml ASLO     128× CRP     (2+) ESR     30 min。 2      60min.16 Urinalysis  pH         6  Protein    (→十)∼(十トト) Occult.       (十) CSF Cell  6/3(N:L=2:4) Protein    79 mg/dl Pressure 220→180mmH20     図1 頭部CT一スキャン所見 脳室の左右差(左〉右)軽度認める. られなかった.  入院時検査所見(表1):末梢白血球数等多, CRP陽性,尿中蛋白強陽性,尿潜血陽性,腰椎穿 刺で初圧220mmH20と脳圧時局症状を呈した. また,末梢赤血球数,血色素,ヘマトクリット, 血中総蛋白,BUNの高値は,脱水のためと考えら れた.血中アミラーゼの高値は,翌日には正常化 している.蛋白尿は,入院中も(±)∼(+)が持 続した.  胸部,腹部,頭部単純レ線所見,脈部エコー所 見:明らかな異常所見なし.  頭部CT・スキャン所見(図1):脳室の左右差 (左〉右)軽度認められるが,高あるいは低吸収域, midlineの偏位等の異常は認められない,  脳波所見(図2):入院時は,覚醒,睡眠時とも に後頭部優位の高振幅除波(θ波あるいはδ波) が認められ,入院経過中も持続した.  眼底所見:明らかな異常所見なし.  腎機能検査所見:24時間クレアチニン・クリア ランスは87.5ml/min, PSPは15分40%,30分 57%,60分72%,120分81%,Fishberg濃縮試験は 1,014,1,017,1,016と機能低下の所見を呈した. 経静脈性腎孟造影では,平幕の長径が左腎と比較 して軽度小さい.しかし,左右の腎の造影時間に 明らかな差は認められなかった(図2).レノグラ ム,腎シンチグラムでは,両腎の機能は,ほぼ正 常範囲内で明らかな左右差はみられなかった.  内分泌学的検査所見(表2):末梢血中レニン活        図2 脳波所見(第3病日, 後頭部優位に高振幅徐波を認める. 覚醒時,非発作時) 一E354一

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表2 内分泌学的検査所見 血中 TSH    T3    T4    コルチゾール    ドーパミン    レニン活性    アルドステロン    アンジオテンシン1    アンジオテンシンII 尿中 170HCS    17KS    メタネフリン    総1カテコールアミン

   VMA

3.0μU/m1 1.2ng/dI 11.6μg/d1 20.2μg/d1 5.7ng/m1 7,5ng/ml/hr 180pg/rn1 190P9/ml  32P9/m1 2.Omg/day O.3mg/day O.13mg/day 37.ユμ9/day 2,1mg/day 二三静脈レニン活性 ①24.2ng/ml/hr ②13.4ng/ml/hr ③13.Ong/ml/hr ④12.1ng/ml/hr  ①/②≒1.8

  鵡

     図3 経静脈性旧訓造影 右腎の長径は左腎の長径と比較して軽度小さい.しか し,左右の腎の造影時間に明らかな差を認めない.

難1

       図4 腎動脈造影 右腎動脈は分岐部より15mmの部位に狭窄所見を認 める. 性は7.5ng/ml/hr,アルドステロン180pg/mlと高 値を呈した.甲状腺機能,コルチゾール,血中ドー パミン,尿中ステロイド,尿中カテコールアミン 正常により腎血管性高血圧症を疑った.  腎動脈撮影所見(図3):出歯動脈は1本,左腎 動脈は2本,腹部大動脈より分岐している.右腎 動脈は,分岐部より15mmのところで狭窄部位を 呈した.  分腎静脈レニン活性所見:表2に示したように 腎静脈レニン活性は,右腎静中で左腎静脈中と比 較して高値で,その比は約1.8倍であった.  以上より本症例は,歯面動脈狭窄が原因で高血 圧性脳症症状を呈した腎血管性高血圧症と診断し た.  治療経過:アンジオテンシン変換酵素阻害剤で あるカプトプリルを1∼2mg/kg,低塩食で治療し

た.他の降圧剤投与中と比較して血圧は,

120∼140/70∼90mmHgと安定してきたが年齢か らすると高値であった.percutaneous trans− luminal angioplasty(PTA)を当院腎センターで

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施行した.術後は順調で現在,カプトプリルの服 用なしで血圧正常,頭痛等の訴えもみられていな い.また,血中レニン活性も正常化している.          考  察  今回,我々の経験した症例は,右腎動脈狭窄を 有し,発熱を契機として急激な一血圧の上昇,次い でけいれん,意識障害を併発した,いわゆる高血 圧性脳症の症例である.  高血圧性脳症とは,Oppenheimer and Fishberg ら1)が提唱した急激な高血圧または慢性増悪時に みられる急性または亜急性のびまん性脳症状で, 頭痛,視力障害,乳頭浮腫,意識障害,けいれん 等を呈し,血圧の降下により改善するのを特徴と し,成因としては,脳浮腫となりそれに伴う脳代 謝障害が主要な病態と考えられている.  我が国においても腎動脈狭窄所見を有し高血圧 性脳症を呈した報告2)∼4)が散見される.これらの 臨床症状は,我々の経験した症例と同様に高血圧, 頭痛,けいれん,意識障害である.髄液検査では, 圧の上昇,蛋白増加を呈することが多いとされて おり,我々の症例においても蛋白79mg/dl,弾圧 220mmH20と高値を呈した.また,脳波所見は, 後頭部中心に棘波や徐波がみられたと報告5)され ている.我々の症例においては,発作間歓期では, 覚醒時,睡眠時に後頭部優位に高振幅徐波が認め られ持続した.CT一スキャンでは,大脳白質に浮腫 と考えられるびまん性理吸収域がみられたと報 告6)されているが,我々の症例では,脳室の軽度の 左右差がみられたが,高あるいは低吸収域はみら れなかった.  小児の高血圧は,年齢にかかわらず拡張期圧が

通常100∼110mmHg以上のものは二次性高血圧

であり,高率に基礎疾患を有している.この二次 性高1血圧の75∼80%は腎に異常を有し,さらに二

次性高血圧の約12%に腎血管性病変がみられ

る7).  本症例においては,検査所見で経静脈性腎孟造 影,レノグラム,腎シソチグラムに明らかな左右 差を認めず,末梢血中レニン活性,アルドステロ ン値の高値,腎動脈撮影における右腎動脈の狭窄, 分腎静脈レニン活性で患側の有意の上昇がみられ 右腎動脈狭窄による腎血管性高血圧症の所見を呈 した.  腎動脈狭窄の病因については,線維筋性過形成, 腹部大動脈縮窄症,大動脈炎症候群,粥状動脈硬 化が考えられるが,小児においては,線維筋性病 変が最も多い8).本症例においては,大動脈に血管 炎を疑う所見がなく,腎動脈の狭窄部位や女児で あることより線維筋性過形成が最も疑われる.  治療は低塩食でカプトプリル投与を開始した. 血圧は降下の傾向がみられたが必ずしも充分な効

果が得られずPTAを施行した.このPTAは,腎

血管性高血圧症の治療に用いられたのは,GrUnt・ zigが最初であり9),日本でも1980年に最初の報 告10)がなされている.PTAは,線維筋性過形成に 最:も有効で手術的治療に比べ侵襲が少なく,繰り 返し施行できるために重要な治療法となってい る.我々の症例もPTAを施行し,血圧,血中レニ ン活性の正常化をみている.          結  語  腎動脈狭窄を有し,感染を契機として急激な血 圧の上昇,次いでけいれん,意識障害を併発した いわゆる高血圧性脳症の症例を報告した.  脳波上,後頭部優位に高振幅徐波が認められ持 続した.CT一スキャンでは明らかな異常所見は認 められなかった.  PTAにより,血中,血中レニン活性の正常化を’ みた.          文  献  1)Oppenheimer BS, Fishberg AM:Hyperten.   sive encephalopathy. Arch Intern Med 41:   264−278, 1928  2)門脇照雄,金子茂男,井口正典ほか:小児腎血管   性高血圧に対する異所性自家腎移植の経験.日泌   尿会誌 68:672−677,1977  3)渋谷義弘,山内 聖,大塚武司ほか:巨大脳動脈   瘤,左水腎・水尿管症を伴った右腎動脈狭窄によ   る腎血管性高血圧症の1例.小児科36:   549−554, 1983  4)高橋 剛:小児腎血管性高血圧症の3例.聖マリ   アンナ医大誌 11:213−222,1983  5)Aguglia U, Tin叩er P, Famarier G et a1:   Electroencephalographic and anatomo−clinical   evidence of posterior cerebral damage in hyper・   「tensive encephalopathy. Clin Electroence・ 一E356一

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  phalogr 15:53−60, 1984 6)Rail DL, Perkin GI)l Com.puterized tomogra−   phic apPearance  of hypertensive  ence−   phalopathy. Arch Neurol 37:310−311,1980 7)Behmlan RE, Vaugban VC: ネルソン小児科   学12版(中山健太郎,奥田六郎監訳),   pp1570−1577,医学書院サンダース,東京(1986) 8)Reintgen D, Wolfe WG, Oso触y S et aL    Renal artery stenosis in childr6n. J Pediatr    Surg 16:26−31, 1981 9)Gr伽tzig A, Kuhlmann U, Vetter W et al:    Treatment of renovascular hypertension with    percutaneous. transluminal dilatation of a renal    artery stenosis. Lahcet 1:80}802, 1978 10)久直 史,平松京一:Percutaneo“s transluminal    angioplasty.臨外 35:387−392,1980

参照

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