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プロテインチロシンホスファターゼ によるシグナル伝達制御

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【解 説 】

プ ロテ イ ンチ ロシ ンホ ス フ ァタ ー ゼ による シグ ナ ル伝 達 制御

青木直人, 松田 幹

プ ロテ イ ンチ ロシ ンホ ス ファ ターゼ  (PTP)  は, 細 胞機 能 を 制御 す る上 で必須 の分 子 で あ る. 本稿 で は, PTPの 構 造, 触 媒機 構 やチ ロシ ン脱 リン酸 化 酵素 と しての 「負」の機 能 だ けで な く,「正」の 制御 因子 と しての 機能 を概 説 す る.  また,  最近 明 らか に なっ た新 たな活性 制御 機構,  疾 患 との 関 わ り, 研 究 を進 め るにあた っての 今後 の 問題 点 につ いて も触 れ る.

タ ン パ ク質 の リ ン酸 化 は,  数 あ る タ ンパ ク質 の 翻 訳 後 修 飾 の 中 で も最 も重 要 で あ り,  か つ よ く研 究 さ れ て い る.  哺 乳 動 物 細 胞 に お け る リ ン酸 化 は,  タ ンパ ク質 分 子 の セ リ ン ・スレ オ ニ ン残 基 あ る い は チ ロ シ ン残 基 上 で生 じ,  様 々 な 生 命 現 象 を制 御 す る.  中 で もチ ロ シ ン残 基 の リン酸 化 は,  細 胞 の増 殖,  分 化,  接 着,  移 動,  癌 化 な ど に深 く関 与 す る こ と は よ く知 られ て い る.

チ ロ シ ン リン酸 化 は,  増 殖 因 子 や サ イ トカ イ ンの 特 異 的 受 容 体 へ の 結 合,  細 胞 外 マ ト リ ク ス へ の 接 着,  ス ト レス な どの細 胞 外 か らの 刺 激 に よ り,  プ ロ テ イ ンチ ロ シ ン キ ナ ー ゼ  (PTK)  が 活 性 化 され,  そ の 結 果 特 異 的 基 質 の チ ロ シ ンが リン 酸 化 され る (図1).  リ ン酸 化 さ れ た チ ロ シ ン残 基 はSH2  (Src  homology  2)  ドメ イ ンやPTB

(phosphotyrosine  binding)  ドメ イ ン *を介 した カ ス ケ ー ド反 応 に よ り, 最 終 的 に は増 殖,  分 化 へ とつ なが る特 定 遺 伝 子 の発 現 を ひ き起 こす.  した が っ て,  い っ た ん 生 じた リ ン酸 基 は速 や か に 消 去 さ れ る.  つ ま り脱 リン酸 化 さ れ る必 要 が あ る.  これ を担 うの が プ ロ テ イ ンチ ロ シ ン ホ ス フ ァ タ ー ゼ (PTP)  で あ る (図1)(1). 当 初,  PTPは 単 に,  PTKの 作 用 に よ り生 じた リ ン酸 化 チ ロ シ ン残 基 を 脱 リ ン酸 化 して カ ス ケ ー ド反 応 を 止 め る だ け と考 え られ て い た が,  常 にPTKと 協 調 し な が ら,  トー タ ル と して の チ ロ シ ン リ ン酸 化 量 を規 定 す る,  重 要 な 「バ ラ ンサ ー 」

と して 作 用 す る こ とが 明 らか とな って きた.

プ ロテ イ ンチ ロシ ン ホ ス フ ァ タ ー ゼ ス ー パ ー フ ァ ミ リー

PTP研 究 の 歴 史 はPTKに 比 し て 浅 く, 1988年 に PTP1Bが ヒ ト胎 盤 よ り生 化 学 的 に精 製 さ れ て か ら,  よ うや く14年 を迎 え よ う と して い る(2). その 後,  PTPも PTKと 同 様 に,  触 媒 ドメ イ ン が 高 度 に保 存 さ れ た ス ー パ ー フ ァ ミ リー を形 成 して い る こ とが判 明 し,  これ を利

Regulation  of  Signaling  Pathways  by  Protein  Tyrosine Phosphatases  (PTPs)

Naohito AOKI, Tsukasa MATSUDA,  名 古 屋 大 学 大 学 院 生 命 農 学 研 究 科

*と もに リン酸化 チ ロ シ ン残 基 を特 異 的 に認 識 す る モ ジ ュー ル. チ ロ シ ン リ ン酸化 カ ス ケ ー ドに 関 わ る様 々 な分 子 に見 られ るが,  リ ン酸 化 され る チ ロ シ ン残 基 の 前 後 の ア ミノ酸 配 列 に よ って,  そ れ ぞ れ の結 合特 性 が 決 ま って い る.

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用 した デ ィ フ ァ レ ン シ ャ ルcDNAラ イ ブ ラ リー ス ク リ ー ニ ン グ や, 縮 重 プ ラ イ マ ー を用 い たRT‑PCR  (reverse transcriptase PCR)  法 に よ り,  1990年 代 に筆 者 ら を含 め たPTK研 究 の名 だ た る グ ル ー プ に よ り,  次 々 と新 規 メ ンバ ー が ク ロ ー ニ ン グ さ れ た.  これ まで に ヒ トで は38 種 類 の遺 伝 子 が 確 認 さ れ て い る が(3), 選択 的 ス プ ラ イ シ

ン グ の結 果 生 じる ア イ ソ フ ォー ム も含 め る と,  タ ンパ ク 質 レベ ル で は そ の 数 は さ らに増 え る こ と に な る.

PTPは 構 造 上, 細 胞 質 型 と, 膜 貫 通 ドメ イ ン を1つ も つ 受 容 体 型 に大 別 され る (図2).  細 胞 質 型PTPは,  約 250ア ミノ 酸 残 基 か ら な る1つ のPTP  (触 媒) ドメ イ ン を もち, そ のN末 端 あ る い はC末 端 側 に様 々 な ドメ イ ン 構 造 が あ り多 様 性 を示 す.  受 容 体 型PTPは,  細 胞 質 側 に原 則 と して2つ のPTPド メ イ ン を もつ が,  活 性 はN 末 端 側 の もの で の み 確 認 され て い る.  受 容 体 型PTPの 多 様 性 は細 胞 外 ドメ イ ン に よ り形 成 さ れ,  細 胞 間 や細 胞 外 マ トリ クス 成 分 との 接 着 に 関 与 す る こ とが 知 られ て い る様 々 な ドメ イ ン を有 す る こ とが 特 徴 的 で あ る.  また細 胞 質 型PTP,  受 容 体 型PTPに は,  構 造 上 類 似 した サ ブ フ ァ ミ リー の 存 在 も確 認 さ れ て お り, ヒ トで は併 せ て17 種 類 の サ ブ フ ァ ミ リー が あ る と され て い る(3).

スー パ ー フ ァ ミ リー を形 成 す る分 子 種 で は多 分 に生 じ る問 題 で あ るが,  同 一 のPTPに 対 し,  そ れ ぞ れ 独 立 に ク ロー ン化 した グ ル ー プ ご とに 異 な る名 称 が 与 え られ て 図1  ■プ ロ テ イ ン チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ と ホ ス フ ァ タ ー ゼ に よ

る細 胞 機 能 制 御  (概念 図)

外界 か らの刺 激 に応 じて,  PTKとPTPが バ ラン ス を と りな が ら 協調 して 作 用 す る こ とに よ り, 細胞 応 答 をひ き起 こす.

図2  ■細 胞 質 型 お よ び 受 容 体 型PTPの 模 式 図 代 表 的 なPTPを サ ブ フ ァ ミ リー メ ンバ ー とと もに示 した.

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きた.  これ はPTPを 包 括 的 に研 究 す る に は障 害 とな っ て きた が,  最 近 に な り見 事 に この 問 題 を解 決 す る総 説 が 発 表 さ れ た(3). ホー ムペ ー ジ  (http://science.novonor disk.com/ptp/)  に も掲 載 さ れ て い る の で,  興 味 の あ る 方 は是 非 参 考 に し て い た だ き た い.

PTPの 触 媒 機 構

PTPの 触 媒 機 構 は,  PTP1BのX線 結 晶 構 造 解 析 が 行 な わ れ る な どの 詳 細 な研 究 の 結 果,  現 在 で は活 性 中 心 で あ る シ ス テ イ ン と ア ス パ ラ ギ ン酸 を含 むPTPド メ イ ン と, 基 質 と な る チ ロ シ ン リ ン 酸 化 タ ン パ ク質 との 間 で,  典 型 的 なSN2反 応  (求核 置 換 反 応)  を経 て 進 む こ と が 明 らか とな って い る (図3)(4). PTPド メ イ ン の ポ ケ ッ トの最 底 部 に位 置 す る シ ス テ イ ン と リン酸 基 の 間 で シ ス テ イ ン‑リ ン酸 中 間 体 が 形 成 され た 後,  ア ス パ ラ ギ ン 酸 が 一般 酸 (general  acid)  と して 作 用 して 電 子 を受 け取 り (図3‑(1)),  リ ン酸 基 の 取 れ た タ ン パ ク 質 基 質 が 離 れ る (図3‑(2)).  さ ら に水 分 子 が プ ロ トン供 与 体 とな り (図3‑

(3)), 結 果 的 に リ ン酸 基 が シ ス テ イ ンか ら離 れ,  シ ス テ イ ン,  ア ス パ ラ ギ ン酸 が元 の 状 態 に戻 っ て反 応 が 終 結 す る (図3‑(4)).  PTPが リン 酸 化 セ リン や ス レオ ニ ン に ア タ ッ クで き な い の は,  これ ら ア ミノ 酸 残 基 が ポケ ッ トの 深 み に近 づ く こ とが で きな い か らで あ る.  また,  ア ル カ リホ ス フ ァ タ ー ゼ や 酸 性 ホ ス フ ァタ ー ゼ で は,  金 属 イ オ ン の 関 与 を 含 む1ス テ ッ プ で 反 応 が 遂 行 さ れ る の に対 し, PTPの 場 合,  活 性 中心 の シ ス テ イ ン‑リ ン酸 基 の 中 間 体 の形 成 を経 て,  リン酸 基 が 外 れ る とい う2ス テ ップ で 反 応 が 終 結 す る こ と も特 徴 的 で あ る.

以 上,  PTPの 構 造 と触 媒機 構 を 概 説 し た が,  一 体 PTPは い か な る場 面 で どの よ う に作 用 す る の で あ ろ う

か?  PTPは あ く まで もPTKの カ ウ ン タ ー と して 作 用 す る の だ ろ うか?  最 近 特 に注 目 され る,  イ ン ス リ ン 受 容 体,  お よびJAK‑STATを 代 表 と した プ ロ ラ ク チ ン 受 容 体 を介 す る シ グ ナ ル 伝 達 に関 わ るPTPに 焦 点 を 当 て て概 説 す る.

イ ンス リン受 容 体 の シ グ ナ ル 伝 達 とPTP

イ ンス リ ンの 作 用 は,  特 異 的 受 容 体 を介 して細 胞 内 へ と伝 え られ る.  図4の よ う に イ ン ス リ ンが 受 容 体 に結 合 す る と, イ ンス リン受 容 体 の β鎖 ドメ イ ン の 内在 性 チ ロ シ ンキ ナ ーゼ に よ っ て,  自身 あ る い は様 々 な分 子 が チ ロ シ ン リ ン 酸 化 さ れ る.  そ の 中 に 細 胞 質 型PTPの1つ SHP‑2が 含 まれ る.  当 初SHP‑2は,  イ ン ス リ ン受 容 体 シ グ ナ ル 伝 達 に 関 わ る い ず れ か の分 子 を脱 リ ン酸 化 す る こ とに よ っ て負 の 制 御 因 子 と し て作 用 す る と考 え られ て い た.  し か し,  SHP‑2のSH2ド メ イ ンやPTPド メ イ ン に変 異 を入 れ た ミュ ー タ ン トを作 用 させ る と,  イ ン ス リ ンの 作 用 が 低 下 す る こ と か ら,  SHP‑2は イ ン ス リ ン 受 容 体 の シ グ ナ ル 伝 達 に お い て は正 の制 御 因 子 と して 作 用 す る こ とが 明 らか とな っ た(5). PTPと し て 一 体 何 を 脱 リ ン酸 化 して い るか とい う問 い に対 して は,  現 在 の と

ころ 明確 な答 え は出 て い な い.

一 方PTP1Bは 負 の制 御 因 子 と して 作 用 す る こ とが, 様 々 な研 究 か ら明 らか に され て き た.  イ ン ス リ ンの 主 要 タ ー ゲ ッ トとな る骨 格 筋 細 胞 や 肝 細 胞 でPTP1Bを 過 剰 に発 現 させ る と,  イ ン ス リ ン作 用 が 明 らか に減 じ, 糖 の 取 り込 み が 減 少 して,  II型 糖 尿 病 に見 られ る よ うな い わ ゆ る イ ンス リン抵 抗 性 が 観 察 され る(6). また, PTP1B遺 伝 子 を ノ ッ ク ア ウ トした マ ウ ス の 骨 格 筋 や肝 臓 で は,  明

らか に イ ン ス リ ン受 容 体 や 下 流 分 子 の チ ロ シ ン リ ン酸 化

図3  ■PTPの 触 媒 機 構

チ ロ シ ン残基 上 の リ ン酸 基 は, 典 型 的 なSN2反 応 に よ りPTPに よ り除 去 され る  (詳細 は本 文 参 照).  図 で はPTP1Bを 例 と して 示 した.

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が 亢 進 し, イ ン ス リ ン作 用 の増 強 が 観 察 され る(7,8). また 興 味 深 い こ とに,  PTP1B遺 伝 子 ノ ッ ク ア ウ トマ ウ ス に 高 脂 肪 食 を摂 取 させ て も脂 肪 の 蓄 積 が 見 られ ず,  明 らか に野 生 型 マ ウ ス に比 べ て体 重 増 加 に 対 して抵 抗 性 を示 し た(7,8). これ らの 事 実 か ら,  PTP1Bは イ ン ス リ ン受 容 体 を介 した シ グ ナ ル 伝 達 を 常 に チ ェ ッ ク し,  シ グナ ル伝 達 強 度 を調 節 して い る こ とが 伺 え る.  また これ らの 事 実 を 踏 ま え,  PTP1Bを タ ー ゲ ッ ト と した 抗 糖 尿 病 薬,  抗 肥 満 薬 の 開 発 も様 々 な と こ ろ で 始 ま っ て い る(9). ただ し, 他 のPTPの イ ン ス リ ン受 容 体 シ グ ナ リン グ へ の 関 与 も 完 全 に否 定 され た わ け で はな く, 今 後 も新 た な発 見 が 報 告 され る可 能 性 は十 分 に あ る.

プ ロラ クチ ン 受容 体 の シ グナ ル 伝 達 とPTP プ ロ ラ ク チ ン受 容 体 は,  脳 下 垂 体 ホル モ ンの 一 つ,  プ ロ ラ クチ ン の特 異 的 受 容 体 で,  乳 腺 に お け る乳 汁 タ ンパ ク 質 の 発 現 に 必 要 不 可 欠 で あ る.  こ れ に は 内 在 性 の PTK活 性 は存 在 し な い が,  プ ロ ラ ク チ ンが 受 容 体 に 結 合 す る と受 容 体 に 恒 常 的 に 結 合 して い るJAK2が 活 性 化 され,  イ ンス リン受 容 体 の 場 合 と同 様 に,  下 流 の分 子

を次 々 と リ ン酸 化 す る.  鍵 分 子 で あ るSTAT5が チ ロ シ ン リ ン酸 化 に依 存 して 二 量 体 化 して 核 内 に移 行 し,  タ ー ゲ ッ ト遺 伝 子  (た とえ ば乳 汁 タ ンパ ク質 遺 伝 子)  に作 用 して その 遺 伝 子 発 現 を 促 す.  この シ グ ナ ル カ ス ケ ー ドに もPTPが 関 わ る こ とが 容 易 に予 想 さ れ た が,  イ ン ス リ ン 受 容 体 と同 様 にSHP‑2が 正 の制 御 因 子 と して,  つ ま り ア ダ プ タ ー 的 な 作 用 で 寄 与 す る こ とが 示 さ れ た (図 5)(10). この 場 合 も, SHP‑2が 何 をい つ ど うい う形 で脱 リ

ン酸 化 して い るの か に つ い て は不 明 で あ る.

で は 負 の 制 御 因 子 と し て のPTPは 存 在 す る の か?

筆 者 ら は乳 腺 や 乳 腺 上 皮 細 胞 で 発 現 す るPTPを 網 羅 的 に調 べ(11), さら に個 々 のPTPの プ ロ ラ ク チ ン受 容 体 を 介 す る シ グ ナ ル 伝 達 へ の 関 与 を 詳 細 に 調 べ た.  そ の 結 果,  驚 くべ き こ とに,  や は りPTP1BがSTAT5を 強 力 に脱 リン酸 化 す る こ と に よ り,  プ ロ ラ ク チ ン受 容 体 シ グ ナ リ ン グ を 負 に制 御 す る こ とを見 い だ した(12). さらに検 討 を重 ね た と こ ろ,  核 に局 在 し,  PTP1Bと と も にサ ブ フ ァ ミ リ ー を形 成 す るTC‑PTPも ま た,  STAT5を 脱 リ ン酸 化 す る こ とで プ ロ ラ ク チ ン受 容 体 シ グ ナ リン グ を 負 に制 御 す る こ とが 明 らか と な っ た(13). 以上 の 結 果 か ら,  プ ロ ラ ク チ ン受 容 体 を介 した シ グナ ル伝 達 は,  細 胞 図4  ■PTPに よ る イ ン ス リ ン 受 容 体 シ グ ナ リ ン グ の 制 御

PTP1Bは 主 に イ ン ス リン受 容 体 とイ ンス リン受 容 体 基 質 (IRS‑1)  を脱 リン酸 化 す る こ とに よ り,  イ ン ス リ

ン受 容 体 シグ ナ リン グ を負 に制 御 す る.  一 方,  SHP‑2 は ア ダ プタ ー分 子 と して この カ スケ ー ド反 応 に組 み 込 まれ, イ ンス リン受 容体 シ グナ リ ング を正 に制 御 す る.

な お, イ ン ス リンの作 用 は, イ ンス リン受 容体 の下 流 に 存在 す るア ダ プ ター 分 子 (Shc,  Grb2),  Ras活 性 化 因 子 (Sos),  PI3キ ナ ー ゼ (p85/p110)  や その 下流 に位 置 す る セ リン・スレオ ニ ンキ ナ ーゼ (Akt/PKB),  低 分 子 量Gタ ンパ ク 質 (Rac),  チ ロ シ ンキ ナー ゼ (Csk, FAK) な どに よ り分岐 し, 伝 達 され る.

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質 だ けで な く核 内 で もPTPに よ り制 御 さ れ う る こ とが 示 され た.  ま た ご く最 近 の 論 文 に よれ ば,  TC‑PTPは STAT1(14)やSTAT3  (私 信)  も核 内 で 脱 リ ン酸 化 して い

る こ とが 示 さ れ,  JAK‑STATを 根 幹 とす るサ イ トカ イ ン シ グ ナ リ ン グ に お け るPTPの 重 要 性 が,  ます ま す ク ロ ー ズ ア ッ プ され つ つ あ る.

レ ドック ス 制 御 に よ るPTPの 活 性 調 節

イ ン ス リン受 容 体 へ のPTP1Bの 作 用 で 明 らか に な っ た よ う に,  PTPは 常 にPTKに よ り発 せ ら れ る シ グ ナ ル を モ ニ タ リン グ して 負 に制 御 して い る よ うで あ る.  で

は,  SHP‑2の よ う に正 の制 御 因 子 と し て 作 用 す るPTP は,  い か な る メ カ ニ ズ ム で シ グ ナ ル カ ス ケ ー ドに組 み 込 まれ る の か?  この 問 い に対 す る 回 答 とな り う る メ カ ニ ズ ム の 一 つ が,  可 逆 的 な 酸 化 に よ るPTPの 活 性 制 御 で

あ る.

血 管 内 皮 細 胞 や 繊 維 芽 細 胞 を は じめ とす る様 々 な細 胞 を血 小 板 由 来 増 殖 因 子 (PDGF)  で 刺 激 す る と, 細 胞 内 で 過 酸 化 水 素 な どのROS  (reactive  oxygen  species) が発 生 す る こ と は以 前 か ら知 られ て い た.  ま た,  PDGF受 容 体 シ グ ナ リ ン グ の 下 流 で も,  SHP‑2は や は り正 の制

御 因 子 と して 作 用 す る こ とが知 られ て い た.  これ らの 事 実 を踏 ま え,  培 養 液 に細 胞 内 で 発 生 す る程 度 の過 酸 化 水 素 を加 え, 特 殊 化 さ れ た in gelホ ス フ ァタ ー ゼ ア ッセ イ を 行 な っ た結 果,  SHP‑2が 特 異 的 に 酸 化 さ れ,  不 活 性 化 され て い る こ とが 明 らか とな った(15). さらに,  細 胞 を PDGF処 理 した 際 に も同様 にSHP‑2が 可 逆 的 に酸 化 さ れ る こ とが 明 らか とな った.  つ ま り, PDGFが 受 容 体 に 結 合 す る と,  下 流 の分 子 が チ ロ シ ン リン酸 化 され る と と もに,  発 生 した 過 酸 化 水 素 が 一 時 的 にSHP‑2を 酸 化 し て不 活 性 化 させ る こ とでSHP‑2が もつ ホ ス フ ァ タ ー ゼ と して の 機 能 を失 わ せ,  下 流 へ の シ グナ ル を 見 か け上 増 強 して い る とい う メ カ ニ ズ ム が 証 明 され た (図6)(15). 同 様 な メ カ ニ ズ ム は, 受 容 体 型PTPの 一 つPTPαで も証 明 され(16), 一過 性 の可 逆 的 な 酸 化 に よ るPTP活 性 の調 節 は,  細 胞 内 の シ グ ナ ル 伝 達 の 際 の 一 般 的 な 事 象 と して 認 識 され よ う と し て い る.

疾 患原 因 遺 伝 子 と して のPTP

細 胞 質 型PTKの 一 つSrcが 癌 遺 伝 子 産 物 と して 同定 さ れ た経 緯 を 考 え る と, PTPが 最 初 に 同 定 さ れ た 当 初 は, PTPの 癌 抑 制 遺 伝 子 と して の 作 用 が 期 待 され た.  し

図5  ■PTPに よ る プ ロ ラ ク チ ン 受 容 体 シ グ ナ リ ン グ の 制 御

PTP1Bお よびTC‑PTPは プ ロ ラ クチ ン受 容 体 シグ ナ リング の鍵 分 子STAT5を そ れ ぞ れ細 胞 質 お よび核 で 脱 リ ン酸 化 す る こ とに よ り, プ ロ ラ ク チ ン受 容 体 シ グ ナ リ ング を負 に制 御 す る.  一方SHP‑2は,  アダ プ タ ー 分 子 と して シ グナ ル カ スケ ー ドの一 翼 を担 う.

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か し こ こ まで 概 説 して き た通 り, PTPは 単 にPTKの 作 用 を ア ン タ ゴ ナ イ ズ す る とい う よ りは,  シ グ ナ ル 伝 達 の それ ぞ れ の 局 面 で 正 また は 負 の 制 御 因 子 と して作 用 して い る. 事 実 これ まで に, PTPが 癌 抑 制 遺 伝 子 と して 機 能 す る と い う報 告 は な い.  で は,  PTPは 癌 を は じ め とす る疾 患 の 原 因 遺 伝 子 と もな りう る の で あ ろ うか?  答 え はYESで あ る.  まだ まだ 事 例 は少 な い が,  SHP‑2が 異 常 な顔 骨 格 形 態,  低 身 長,  あ る い は肥 大 型 心 筋 症 な どを 伴 う Noonan  症 候 群(17)や, PTP  RJ  (DEP‑1/CD148) が 大 腸 癌(18)の原 因 遺 伝 子 と な り う る こ とを 示 す 報 告 が 相 次 い で い る. ゲ ノ ム プ ロ ジ ェ ク ト終 了 後,  SNP  (single nucleotide  polymorphism)  解 析 な どの 進 展 に伴 い,  今 後 も この よ うな報 告 が 増 え る と予 想 され る.

PTP研 究 がPTKの そ れ に比 し て 遅 れ て い る 原 因 は 様 々 で あ るが,  最 も問 題 な の は,  特 異 的 基 質 の 同 定 が 難

しい こ とに あ る.  図3に 示 したPTPの 触 媒 機構 を も と に,  活 性 中 心 の シ ス テ イ ンや ア ス パ ラ ギ ン酸 を置 換 し, 特 異 的 基 質 ト ラ ッ プ 型 変 異 体  (substrate‑trapping mutant)*と して利 用 す る 方 法 が 考 案 され(19), 特異 的 基

質 同 定 に功 を奏 す るか と思 わ れ た.  しか し,  この 方 法 と て す べ て のPTPに 利 用 可 能 で は な い こ とを,  筆 者 を含 め た 多 くの グル ー プ が 経 験 して い る.  また,  特 異 的 基 質 の 同 定 だ けで な く, PTPが い つ,  ど こで,  どの よ うに作 用 す る の か とい う点 にお い て も,  現 時 点 で我 々 は十 分 な 答 え を も ち 合 わ せ て い な い.  こ れ ら の 地 道 な 解 決 が, PTPを タ ー ゲ ッ ト と した 新 た な 創 薬 ア プ ロ ー チ に つ な が る と期 待 され る.

図6  ■レ ド ッ ク ス 制 御 に よ るPTPの 活 性 調 節

PDGFがPDGF受 容 体 に結 合 した結 果 生 じ るROSに よ って, SHP‑2が 可逆 的 に酸化 ・不活 性 化 さ れ る こ とに よ り, SHP‑2が ダ プ タ ー様 にシ グ ナ ル カ ス ケ ー ドに組 み込 まれ,  見 か け上PDGF 受 容体 シ グナ リン グ を正 に制 御 す る.

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*特異的 基 質 に対 し, 親 和 性 を保 った ま ま結 合 で き, か つ触 媒 活性 を示 さ な い こ とか ら, 特 異 的 基 質 が この 変 異体 に 結 合 した ま ま保 持 され る と考 え られ る.

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