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代謝レギュロンはいかに確立したのか? - J-Stage

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(1)

植物は,比較的単純な化合物から,複雑な化学構造を有する 多種多様な二次代謝産物を生合成・蓄積する能力をもってい る.二次代謝系は,環境条件や発生段階などに依存してダイ ナミックに制御されている.特定の生合成系を構成する遺伝 子 バ ッ テ リ ー(battery) は,し ば し ば 共 通 し た 転 写 レ ベ ル で の 制 御 を 受 け,レ ギ ュ ロ ン(regulon) を 構 成 し て い る.

生合成酵素やトランスポーターなどの二次代謝系遺伝子の同 定 に,共 発 現 解 析 な ど が 盛 ん に 活 用 さ れ て い るDNA結 合 性 タ ン パ ク 質 で あ る 転 写 因 子 は,標 的 遺 伝 子 の プ ロ モ ー ター領域に存在する比較的短いシス制御配列( -regulato- ry element)を特異的に認識し,基本転写因子やクロマチン 構造などへの作用を通じて,RNAポリメラーゼIIによる転 写開始の頻度に,正または負に影響を及ぼす.本稿では,い くつかの防御性二次代謝系に共通して機能する転写因子とそ れらが統括する代謝レギュロンについて解説し,進化的に保 存された転写因子がレギュロンの確立・進化に主導的な役割 を果たしている可能性について論考する.

防御性二次代謝系に共通する転写因子

多くの二次代謝産物は,特定の種や属に特異的に分布 している.ナス科植物であるタバコ(

)は,殺虫性アルカロイドであるニコチンを,根で 生合成し,地上部に輸送することで,全草に蓄積す

(1, 2)

.また,ソラニンやトマチンなどのステロイドグ

リコアルカロイド(SGA: steroidal glycoalkaloid)は,

主にジャガイモ( )の芽やトマト

( )の未熟果実など,ナス科作物

の非可食部位に蓄積する毒性成分である(2)

.一方,キョ

ウチクトウ科の薬用植物であるニチニチソウ(

)は,抗腫瘍活性を示すビンブラスチンなど のインドールアルカロイドを生合成する(1)

.これらの毒

性アルカロイドは,互いに化学構造も生合成経路も全く 異なっているが,いずれの生合成もAP2/ERFファミ リーのグループIXaに属する転写因子(図

1

A)である タ バ コERF189(3)

ト マ トJRE4 (4〜6)

ニ チ ニ チ ソ ウ ORCA3(7)によって,それぞれが正に制御されている.い ずれの転写因子遺伝子も,傷害ホルモンであるジャスモ ン酸(JA: jasmonate)によって発現誘導され,標的物

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

Repeated  Recruitment  of  Metabolic  Genes  into  Regulons  for  Specialized Pathways in Plants: The Dawn of Evo-Meta Biology Tsubasa SHOJI, 奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域

代謝レギュロンはいかに確立したのか?

代謝進化のリクルート説とEvo-Metaへの展開

庄司 翼

(2)

質 のJAシ グ ナ ル 依 存 的 な 蓄 積 増 大 を 可 能 と し て い る(3, 5, 7)

と は,それぞれの植物ゲノムにおい て,複数の相同 遺伝子とともに,遺伝子クラス ターを形成している(図1B)(3〜5, 8)

.クラスターの両端

部分に位置する は,トマトとタバコの種間で明確

なオルソローグ関係が推定されるのに対して,

や などのクラスター中央付近の遺伝子はそれぞれ の種に特異的である(図1)

.遺伝子重複によりクラス

ターが拡大する過程で,これら特異的な が出現し たと考えられる(8)

と の組織別,生育段 階別の発現パターンは,代謝産物の蓄積パターンと非常 図1防御性二次代謝系に共通するERF転 写因子

A: AP2/ERFファミリーのグループIXaに属 する転写因子の分子系統樹.全長アミノ酸配 列を用いて近接結合法により作成した.アル カロイド生合成の制御因子にはアステリスク を付けた.推定されるオルソロガスな関係を 破線で示した.ERF: Ethylene Response Fac- tor, JRE: Jasmonate-Responsive ERF, ORCA: 

Octadecanoid-Responsive    APETALA 2. B:  と は複数の相 同 遺 伝 子 と ク ラ ス タ ー を 形 成 し て い

(4, 5, 8).遺伝子(黒)と偽遺伝子(灰色)の

位置と方向を矢尻で示す.オルソロガスな関 係が推定される遺伝子を破線で結んだ.

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● 化学 と 生物 

ヒトの全遺伝子数は,23,000程度と推定されてい る.ほとんどの高等生物において,たかだか数万個の 遺伝子によって,受精から死に至るまでの諸々の生 命現象が操られている.光合成から形態形成や環境 応答まで,広範多岐にわたる植物の生理現象を考え ると,数万個の遺伝子のうち,果たしていくつの遺 伝子が二次代謝に関与しているのだろうか? 植物 のもつ膨大な化学多様性の支える遺伝子の数は意外 と少ないのかもしれない.

代謝系の進化は,酵素の機能進化とそれら遺伝子 の発現パターンの変化に主に依存している.限られ たタンパク質ファミリーに属する酵素が,構造安定 性を侵さない範囲で,その触媒機能を変更することに も,限界がありそうである.やはり,酵素タンパク 質の変化に加えて,特定の時空間的パターンで発現

する酵素遺伝子の組み合わせを変更することも,代 謝多様性にかなり寄与しているのではないだろうか.

バリエーションをもたせるために,持ち駒を使い回 すほかないのである.

従来の天然物化学が得意としてきた天然物の構造 決定,有機合成,生理活性解析などに加えて,生合 成研究が過去30年間で急速に進展し,数多くの生合 成酵素遺伝子がクローニングされた.特に,広範な 植物種を扱う化学多様性の研究にとってゲノム科学 的手法の貢献も大きい.一方,転写因子やシグナル 伝達因子の同定・機能解析などは,分子遺伝学・分 子生物学が得意としてきた.これらの領域は,限ら れたモデル生物を中心に普遍性を追究してきた.二 次代謝の制御メカニズムに関する研究は,多様性と 普遍性がせめぎあう境界にある未開拓な領域であり,

今後の展開が十分に期待できる.

コ ラ ム

(3)

によく相関しており,また,それらの転写産物量は生合 成組織において,クラスターの中で最も多い(4, 5, 8)

.一

方,ほかのクラスター構成遺伝子の大半は,JAのみで なく塩ストレスによっても顕著に誘導されることから も,生合成制御に関与する可能性は低い(6, 8, 9)

.低ニコ

チン形質を示すタバコ 変異は, を含むゲ ノム領域の欠失に起因すること(3, 8)や, のDNA結 合性損失変異はSGAの顕著な蓄積低下をもたらすこ と(6)なども,これらが主要な生合成制御因子であること を裏づけている.

前駆物質から最終産物にいたる生合成経路のほとんど の ス テ ッ プ が,マ ス タ ー 転 写 因 子ERF189あ る い は JRE4による制御を受けている(図

2

.二次代謝に特異

的な下流部分のみならず,代謝中間体を供給する上流の 一次代謝経路も,これら転写因子による制御を受ける.

これら一次代謝酵素は,多くの場合,二次代謝系と共発 現する遺伝子とそうではないもの,すなわち2種類の発 現 制 御 が 異 な る 遺 伝 子 に よ っ て コ ー ド さ れ て い

(6, 10, 11)

.一方,二次代謝に特異的な生合成遺伝子であ

る タ バ コ の (12)

(13)

ト マ ト の (14)

,  ,  (11)は,一次代謝遺伝 子の重複と二次代謝レギュロンへの取り込みに加えて,

遺伝子産物である酵素タンパク質の触媒機能の変化(新 機能分化:neo-functionalization)によって出現したも のである.前駆体や代謝中間体などを共有する一次代謝 系の重複と,その後の遺伝子発現や酵素機能の変化が,

代謝経路の延伸や派生をもたらし,二次代謝系を出現さ せたと考えられる(15)

シス制御配列の獲得

重複により生まれた遺伝子は,いかに転写因子の制御 を受けるようになるのだろうか? NAD生合成酵素で あるQPTは,タバコにおいてニコチン生合成にも代謝 中間体を供給している(16)(図2)

.下流経路における中

間体の需要増加を補うために,タバコ属の出現時に遺伝 子 重 複 が 起 こ っ た と 推 定 さ れ る.タ バ コ と は,発現パターンに基づき,それぞれNAD生合 成とニコチン生合成に主に寄与するものと考えられ る(10)

はプロモーター領域に複数のERF189の標 的配列をもち,それらは機能的なシス制御配列として,

のERF189による転写活性化に必要である(10)

.遺

伝子重複後に はこれらのシス制御配列を順次獲 得したことで,ERF189の制御するレギュロンにリク 図2 はニコチン経路を, はステロイドグリコアルカロイド(SGA)経路を統括的に制御する

タバコのニコチン経路(A),トマトのSGA経路(B),および,それぞれに関連する経路を示した.並行する部分の酵素遺伝子(丸印)は それぞれの転写因子による制御の有無を指標に,各々の代謝流への寄与を推定した.詳細は文献6, 8, 11を参照.ODC: ornithine decarbox- ylase, SPDS: spermidine synthase, PMT: putrescine  -methyltransferase, MPO:  -methylputrescine oxidase, DAO: diamine oxidase, BBL; 

berberine bridge enzyme-like, AO: aspartate oxidase, QS: qunolinate synthase, QPT: qunolinate phosphoribosyltransferase, ACAT: ace- tyl-CoA  -acetyltransferase, HMGS: hydroxymethylglutaryl-CoA synthase, HMGR: hydroxymethylglutaryl-CoA reductase, IDI: isopente- nyl diphosphate isomerase, FPPS: farnesyl diphosphate synthase, SQO: squalene monooxygenase, CAS: cycloartenol synthase, SSR: sterol  side chain reductase, SMO: sterol methyl oxidase, HSD: 3β-hydroxysteroid dehydrogenase, CPI: cyclopropylsterol isomerase, CYP51: ste- rol C14-demethylase, HYD2: Δ14-sterol reductase, HYD1: 3β-hydroxysteroid-Δ8Δ7-isomerase, DWF: Dwarf, GAME: Glycoalkaloid Metabo- lism, GABA: γ-aminobutyric acid, NAD: nicotinamide adenine dinucleotide.

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● 化学 と 生物 

(4)

ルートされたと想像される(図

3

.タバコとトマトに

おいて,レギュロンを構成する遺伝子群のプロモーター 領域に,ERF189やJRE4の標的配列が有意に多く存在

している(5, 8)

.シス制御配列の獲得によるレギュロンへ

の取り込みが,これらの生合成遺伝子の進化にもあては まる可能性が高い.

一般的に,機能的制約から高い保存性を示すタンパク 質コード領域に比べて,短いうえに,冗長性を許容しう るシス制御配列は,点変異や転移などによって,比較的 容易に出現・消失するとされている(17, 18)

.一方,トラ

ンスに働く転写因子の変化は,数多くの標的遺伝子に多 面的,波及的に影響しうることから,比較的制限されて いると考えられている.制御ネットワークの変化は,ト ランスよりもシス側の進化に依存していると考えられ る.

転写因子の進化

シス制御配列に比べてその変化は限定的であるとされ るが,転写因子もまた,その機能性や発現様式がそれぞ れの系統で独自に修飾される(19)

.グループIXaに属する

ERF転写因子に関して,異なるシス制御配列(GCC  boxとその類似配列であるCS1 boxとP box)に対する 結合性のメンバー間での相違と,その相違がDNA結合 性ドメイン内の少数のアミノ酸残基の違いによって合理 的に説明されることが示された(20)(図

4

.ERRファミ

リー因子の典型的な標的配列であるGCC boxのみに結 合する因子から,複数の配列に結合できるORCA3など の中間型因子を経て,GCC boxへの結合性を失いつつ も,その類似配列P boxに結合性を示すERF189などの タバコに特異的な因子が漸進的に進化してきたシナリオ を考えることができる.一般的な防御応答遺伝子に頻繁 に利用され,数多くのERFの標的であるGCC boxには 依存しない独自のシス・トランス系の確立(21)は,制御 ネットワークの混線を避け,系統特異的な二次代謝系を 進化させるために必要であったと考えられる.

ニコチンとSGA生合成は,JA誘導性やそのエチレンに

よる抑制(6, 22)などの共通点も多いが,その組織特異性は異

なっている.タバコの根で特異的に合成されるニコチンと は対照的に,SGAは葉や根などを含む非可食部全般で生 合成される.このような生合成組織の相違は,

と の発現特異性に依存している(4, 5, 8)

と は,ともにJA応答性などを保持しつつ,それぞれ の標的毒性成分が防御物質として機能することを保証す るために,組織特異性をそれぞれの系統で独自に変化さ せてきたのであろう.転写因子とその生合成遺伝子バッ テリーは,化学防御に特化した独立のユニットとして,系 統ごとに柔軟に進化してきたことがうかがえる.

図3シス制御配列の獲得による二次代謝レギュロンへのリク ルート

遺伝子の進化(10)を模式的に示した.遺伝子重複により出現 した は,ERF189標的配列P boxをプロモーター領域に獲 得することで,ERF189による制御を受けるようになった.タバ コゲノムにおいて, と は約75 kb隔てた位置に存在 している(8)

図4DNA結合特異性の漸進的な変化 DNA結合ドメイン内の4残基(ドメインN末 端から数えた位置;3, 6, 7, 12)を示した.3, 7,  12位の塩基性残基(R, K)は,DNAへの非特 異的な結合性を増大させる.また,6位におけ るRのK(*)への置換は,シス配列残基の認 識特異性の変化(GCC boxとCS boxのGから P boxのTへ)に寄与すると考えられる. 

AtERF1からERF189に至る結合性の変化は,

機能的な中間型を経て,ごく少数の残基の置 換によって説明できる(8).組換えORCA3の各

シス配列への 結合性を配列ロゴとして

示した(8).GLN: β-1.3-glucanase, STR: stricto- sidine synthase.

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● 化学 と 生物 

(5)

代謝進化のリクルート説

物質代謝は,生物としての基本的な要件の一つであ る.原始的な物質変換系は,反応特異性も触媒効率も低 く,比較的限られた種類の触媒に依存していたと思われ る(図

5

A)

.代謝系はその秩序と効率を増加させる方向

に進化してきた(23)

.現存する代謝系は,反応特異性と

触媒効率が高い酵素に支えられている(図5B)

高度に洗練された触媒である一次代謝酵素を,オリジ ナルな手本として,遺伝子重複とその後の変異蓄積によ る新機能分化によって,二次代謝酵素が派生したと考え られる(図5C)

.特異性と効率性の制約からの解放は,

新しい遺伝子の自由な進化を許容した.特異性の喪失が 生んだ「曖昧さ(promiscuity)」をもつ多機能性酵素の 出現は,代謝網の拡大に貢献した(図5C)

.基質濃度や

発現量が低いために実際には代謝フローにほとんど寄与

していない潜在的な酵素も,この代謝網には含まれてい る(むしろこうした潜在的なものほど淘汰されにくい)

植物の生存に有害であるために,淘汰選択(purifying  selection)されない限り,遺伝的浮動(genetic drift)

などの中立進化によって,代謝網の獲得は継続したので あろう.独立栄養生物である植物が,光合成産物であ り,多少なりとも抗酸化能をもちうる低分子化合物を,

液胞などに隔離・蓄積することに大きな不都合は考えに くい.そもそもごく痕跡量で蓄積されるすべての天然物 が適応的な意義をもつわけではない(24)

二次代謝産産物を効率的に生合成・蓄積する経路が確 立するためには,代謝網の中から,特定の代謝フローが 選択されて,再び秩序を高める方向の進化が起こる必要 がある(図5D)

.この過程は,偶然に依存した中立的な

ものでなく,積極的な正の自然選択(positive natural  selection)に主に依存したものであると想像される.

図5代謝経路の出現と酵素機能の変化 A:  太古の物質変換系は,触媒効率が低く,

反応特異性の低い比較的少数の触媒に依存す る.B:  触媒効率や反応特異性が改善される ことで一次代謝系が確立された.C:  遺伝子 重複により生じた新たなコピーが,変異を蓄 積することで新機能分化し,代謝網が拡大さ れる.D:  特定の酵素群の選択とそれら触媒 の効率化・特異化を通じて,効率的に二次代 謝産物を合成できる経路が出現する.

図6代謝進化のリクルート説

複数の生合成酵素遺伝子(a, b, c)が,シス 制御配列の獲得(B)を通じて,進化的に保 存されたJA応答性ERF転写因子の下に順次 リクルートされていく(A).遺伝子(a)の リクルートに伴う代謝フローの変化は,別の 遺伝子(b, c)のリクルートや酵素機能の至 適化(b)の可能性を高める.

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● 化学 と 生物 

(6)

進化的に保存されたJA応答性転写因子のもとに,複 数の生合成遺伝子が繰り返しリクルートされることで,

新規な代謝レギュロンが確立されるとする仮説「代謝進 化のリクルート説」を考えてみたい(図

6

.代謝網を

構成する遺伝子が,シス制御配列を獲得し,転写因子の 制御を受けるようになるとき,代謝フローに変化が生じ る.こうした変化は,比較的容易に(高い頻度で)起こ りうるが,大抵は集団に固定されることなく,すぐに失 われてしまうであろう.一方,新たなフローが,防御物 質の蓄積などの生存に有利な結果をもたらし,植物の適 応度を高める場合,これが固定される確率は格段に上昇 する.また,このように有利な代謝フローが一度生じる と,フローに沿った遺伝子の活性化や,フローに沿った 酵素の特異性や効率の至適化など,代謝フローを強化す るイベントも,格段に起こりやすくなる.このように,

最初は偶然であった代謝フローの創出も,複数の変異の 相乗的な累積を促し,進化的には比較的短い時間で代謝 レギュロン・代謝経路の確立に結び付く可能性がある.

代謝進化を語るとき,従来,酵素タンパク質機能の進 化に力点が置かれてきた(23, 25)

.遺伝子が活性化され,

酵素が機能的に発現した状態,すなわち十分な代謝フ ローが存在する状態になければ,タンパク質コード配列 の選択や淘汰は起こりえない.転写因子による生合成遺 伝子の活性化が,酵素機能の進化的変化に先立つことを 仮定することで,上述の仮説はこの点も説明しうる.

Evo-Metaの挑戦

“Nothing in biology makes sense except in the light  of evolution” と はDobzhansky博 士 の 言 葉 で あ る(26)

ボディプランを司るホメオティック遺伝子の発見は,普 遍性の高い形態形成メカニズムの解明とともに,発生過 程の進化的な変化を追究するEvo-Devo(進化発生学)

の進展に大きく貢献した.形態学や発生学は,伝統的に 進化・分類などの領域と親和性が高く,化石に基づく古 生物学なども進化生物学を支えている.

二次代謝産物などの化学多様性も,生物進化の賜物で ある.残念ながら太古の花が何色でどのような香りがし たのかを推し量ることは容易ではない.しかし,現存す る植物の有する化学多様性とそれを支えるゲノム多様性 は,未解明なものも含めてきわめて膨大である(27)

種々雑多な天然物の収集の時代を経て,今日のわれわれ は,生合成経路や酵素の観点から,その多様性はある程 度は整理可能な,いわば むら のある多様性であるこ とを知っている.実働部隊である生合成酵素のみでな

く,それらの指揮系統である転写因子などの制御因子が 解明されることで,多種多様な天然物・代謝系に通底す る普遍性が明らかにされることが期待される.植物の化 学多様性の成り立ちを明らかにするEvo-Meta(進化代 謝学)の挑戦は始まったばかりである.

謝辞:長年,共に研究を進めた橋本隆先生(奈良先端科学技術大学院大 学教授)に,本稿に関してコメント・議論していただきました.山田康 之先生(奈良先端科学技術大学院大学名誉教授・京都大学名誉教授)に 折に触れて励ましをいただき,研究展開を見守っていただきました.本 稿内容に関する講演に際し,中西重忠先生(京都大学名誉教授・サント リー生物有機科学研究所長)に,力強い励ましをいただき,研究に勇気 を得ました.ここに感謝いたします.

文献

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日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(7)

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プロフィール

庄 司  翼(Tsubasa SHOJI)

<略歴>1995年京都大学農学部農芸化学 科卒業/2000〜2001年日本学術振興会特 別研究員/2001年奈良先端科学技術大学 院大学バイオサイエンス研究科博士課程修 了/同年同助手/2004〜2006年日本学術 振興会海外特別研究員・ブリティシュコロ ン ビ ア 大 学(カ ナ ダ)/2007年 同 助 教/

2015年同准教授/2018年奈良先端科学技 術大学院大学先端科学技術研究科准教授

<研究テーマと抱負>ナス科アルカロイド 生合成・蓄積の分子遺伝学的,ゲノム科学 的研究により,植物の化学多様性の成り立 ちを理解したい<趣味>登山・スキー・水 泳

Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.671

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