25章:今回の要点
(1) π欠如(不足)芳香族ヘテロ環化合物の構造、
性質、および合成法:ピリジン
(2) π欠如(不足)芳香族ヘテロ環化合物の反応:
ピリジン、キノリン、イソキノリン
・求電子置換反応(反応性・位置選択性)
・求核置換反応(反応性・位置選択性) (3) アルカロイド
25章 ヘテロ環化合物:
ヘテロ原子を含む環状有機化合物 p1507‒1525
目標:反応性と置換の位置選択性を説明できるように
25章:芳香族ヘテロ環化合物の分類
環の電子状態(炭素原子上のπ電子密度)による分類は、
化学的性質および反応性を整理・理解する上で合理的
2) π欠如(不足)芳香族ヘテロ環化合物:今日の講義 1) π過剰芳香族ヘテロ環化合物:先週の講義
・窒素を含む6員環の芳香族ヘテロ環化合物
・窒素原子の電子求引効果のため、窒素原子はπ電子過剰になる一方、
環の炭素原子はπ電子不足になる
・求電子置換反応の反応性が低下
・求核置換反応の反応性が向上
・ヘテロ原子を含む5員環のヘテロ環化合物
・6つのπ電子が5つの原子上に共役して分布するため、
環の炭素原子はπ電子過剰になる
・求電子置換反応の反応性が向上
N ピリジン
N N
ピリミジン O
フラン
NH ピロール S
チオフェン N
H インドール
N キノリン
25-5:ピリジンの構造
p1507ピリジンはπ欠如(不足)型の芳香族ヘテロ環化合物で、
その電子構造は電気陰性度の高い窒素原子により乱されている ピリジン
・イミン(17章-9)と同じく窒素原子は sp2 混成
・陰性な窒素原子の電子求引性誘起効果によって、環の電子密度が減少
・孤立電子対がπ電子系に関与しないため、ピリジンは弱い塩基性 孤立電子対は 窒素に局在 N
ピリジン
’!”
25‑5ピリジン(アザベンゼン)の構造と合成
まとめピロール, フラン, チオフェンのヘテロ原子上の孤立電子対がジエ ン部分に供与されることによって, これらの化合物の炭素原子は電子が豊富 となり, ベンゼンの場合よりも芳香族求電子置換反応が起こりやすくなる.
求電子攻撃はC2で優先的に起こる場合が多いが, 反応条件および基質や求電 子剤の種類によってはC3での置換も観測される.ヘテロ環のなかには加水分 解によって開環できるものもあり, また、 チオフェンの場合には脱硫によっ て開環することができる フランのジエン部分はDiels‑Alder環化付加を起 こすほど反応性が十分に高い. インドールは非局在化した兀電子系をもつベ ンゾピロールである.
25‑5↓ビリジン(アザベンゼン)の構造と合成
ピリジン(pyridine)は, CH部分がSp2混成の窒素原子に置換されたベンゼン 誘導体すなわちアザベンゼン(azabenzene)とみなすことができる したがっ てピリジン環は芳香族性であるが, その電子構造は電気陰性度の大きい窒素原子 の存在によって著しく乱されている.本節では.この単純なアザベンゼンの構造、
スペクトル, および合成について述べる
典
Sp2̲一..
ピリジン
ピリジンは芳香族である
ピリジンは, イミン(17‑9節参照)の場合と同様なSp2混成の窒素原子をもっ ている. ピロールとは対照的に,芳香環の芳香族兀電子配置を完成させるために 用いられているのは、 p軌道の電子一つだけである フェニルアニオンの場合の ように,孤立電子対は分子平面上にあるSp2混成原子軌道の一つに入っている(IXI 25‑2). したがってピリジンでは.窒素は分子の残りの部分に過剰の電子密度を 供給することはないそれどころかまったく逆であり,窒素は炭素よりも電気陰 性度が大きいので(上巻;表 −2参照) ,誘起効果および共鳴効果の両方によって,
環から電子密度を引きつけている.
p軌道
(A) 環の元電子 (
格に垂直
H
道
図25‑2 (A)ピリジンの分子軌道図窒素上の孤立電子対はSp2混成軌道にあり,芳 香環の刀電子系の−部ではない(8)ピリジンの静電ポテンシャル図によって,孤立電 子対が分子面上の窒素(赤色)に局在すること,および電気陰性度の大きい窒素が芳香族 刀電子系に電子求引効果を及ぼすことがよくわかる.芳香族汀電子系の色(緑色)をピ ロールの静電ポテンシャル図(25−3節)と比較しよう
静電ポテンシャル図 N
µ = 1.57 D
ピリジンの軌道の形(6つのπ電子) sp2混成 p軌道
sp2軌道
(π電子に垂直) N
25-5:ピリジンの塩基性
p1508N
+ H+
N 芳香族 H
芳香族
重要:ピリジンは弱い塩基性を示す
・孤立電子対がπ電子と直交しており、芳香族性に関与しないため
・電子構造のため(sp2混成)、アルキルアミンよりは弱い塩基 塩基性度
超重要:塩基度の比較
共役酸の酸性度
N H
NH2
N N
H 最も強い塩基 最も弱い塩基
sp3
N H
NH3
N N
最も弱い酸 最も強い酸
H H H
H H
pKa ≈ –4.4 pKa ≈ 5.3
pKa ≈ 4.6
pKa ≈ 11
25-5 ヒドロキシピリジン
p15122位または4位にヒドロキシ基をもつピリジンや ピリミジン誘導体には互変異性体との平衡が存在
NH O N
H O
双性イオン形共鳴構造 NH O
双性イオン形共鳴構造の寄与により芳香族性を保持して安定化
2
N N
OH N
H NH
O
OH O
4
ウラシル
核酸塩基のウラシルや睡眠導入剤の基本骨格バルビツール酸は ピリミジノン形で存在
2
N 2-ヒドロキシ
ピリジン
OH N
H O ピリド-2-オン
(2-ピリドン) 水中での
存在比 1 : 1000
2
N N
OH N
H NH
O
OH O
4
バルビツール酸 HO
6
O
25-5:イミダゾールの軌道図と塩基性 p1549
イミダゾール
N N H イミダゾール
3 1
芳香族化合物、塩基性が高い
N N
イミダゾールの軌道の形 6つのπ電子 sp2軌道
(π電子に垂直) H
sp2混成
p軌道の孤立電子対 (π電子雲の一部) p軌道
sp2混成
注意:3位窒素の孤立電子対がπ電子と直交し塩基性を示す
超重要:塩基性度
N N
H 最も強い塩基
sp3 N N H
最も弱い塩基
プロトン化 N N H + H+
芳香族
3 N N H
芳香族
H N N
1 H H
pKa ≈ 7.0
25-5:ピリジンの合成法
p15072分子のβ-ジカルボニル誘導体とアルデヒドおよびアンモニアとの縮合、
生成するジヒドロピリジンの酸化を経る合成法 重要:Hantzsch ピリジン合成法
例:
O R1O
R2 O O R2 OR1 O R3
H O
NH3
Δ
N H R3
R2 R2 OR1 O R1O
O
酸化
ジヒドロピリジン
N R3
R2 R2 OR1 O R1O
O
O
OEt O
2 +
H H O
+ NH3 Δ
– H2O N
H
OEt O EtO
O
Et = -CH2CH3
H
H HNO3
H2SO4
89%
N
OEt O EtO
O
65%
H
参考:25-5 Hantzsch ピリジン合成の反応機構
段階1:アルドール縮合と脱水(Knoevenagel 縮合, 18章-5)
O R1O
R2 O O R2 OR1 O R3
O H
NH3
Δ
N H R3
R2 R2 OR1 O R1O
O
酸化
ジヒドロピリジン
N R3
R2 R2 OR1 O R1O
O
+
R2 HO
OR1 O
R3 O
H
R2 O
OR1 O HO
R3
– H2O
R2 O
OR1 R3 O
段階2:エナミンの生成(17章-9)
O R1O
R2
+ NH3 O
O R1O
R2 HO
NH2 – H2O
O R1O
NH2 R2
参考:25-5 Hantzsch ピリジン合成の反応機構
段階3:エナミンの Michael 付加
段階4:分子内イミン形成(17章-9)と互変異性
R2 O
OR1 R3 O
O R1O
NH2
R2 R2 H2N O
R3
R2 OR1 O R1O
O
+ H+ – H+
H2N O R2
R3
R2 OR1 O R1O
O
オキソエナミン
1 2
3 4 5
6
H2N O R2
R3
R2 OR1 O R1O
O
N R3
R2 R2 OR1 O R1O
O H
– H2O N
H R3
R2 R2 OR1 O R1O
O
ジヒドロピリジン O
R1O
R2 O O R2 OR1 O R3
H O
NH3
Δ
N H R3
R2 R2 OR1 O R1O
O
酸化
ジヒドロピリジン
N R3
R2 R2 OR1 O R1O
O
25-6:ピリジンの求電子置換反応
p1512超重要:
・ピリジン環は電子不足であるため、求電子置換反応に対して不活性、
一方、求核置換反応には活性
・共鳴構造式から推察されるように、2位と4位が特に電子不足
N N N N N
1 2 3 4
ピリジンの 共鳴構造
1) 芳香族求電子置換反応
1 2
3
– H2O
4.5%
N 4
H2SO4, 300 °C
N
NO2 NaNO2
Br Br
1 2
3
– HBr
86%
N 4
H2SO4, SO3
N Br 臭素化 ニトロ化
C3位で起こる、激しい条件が必要
N NH2
電子供与基=活性化基 Br Br
– HBr CH3CO2H, 20 °C
N NH2 Br
90%
5 3
N NH2 Br 臭素化 立体障害
ピリジンの Friedel-Crafts 反応は進行しない
25-6:ピリジンの求電子置換反応
p15121) 芳香族求電子置換反応 C3位で起こる、激しい条件が必要
ピリジンはベンゼンよりも反応性が低い
求電子置換の反応性の比較: N
NO2 反応性高 反応性低
超重要:
・ピリジン環は電子不足であるため、求電子置換反応に対して不活性、
一方、求核置換反応には活性
・共鳴構造式から推察されるように、2位と4位が特に電子不足
N
E+
N E
環が電子不足な上、ピリジンの窒素原子の孤立電子対が求電子剤(E+)と 反応して不活性な錯体を形成しやすい→求電子置換反応に不活性
不活性化:
25-6:求電子置換反応の位置選択性
p1513C2での反応
C3での反応
:相対的に不利
ピリジンの求電子置換反応の選択性発現理由(C3位優先)
N
E+
H N
E H 最も不安定
N E
H N
E H 3つの共鳴構造
N
E+
N
3つの共鳴構造
H E
H
N E
H
N E
H
N
E+
N
3つの共鳴構造
H H E
N H E
最も不安定
N H E
C4での反応 :相対的に不利
C3優先
25-6:ピリジンの求核置換反応
p1516反応の必要条件:
脱離基のオルトまたはパラ位に強力な電子求引基 (通常ニトロ基) が1つ以上存在 復習:芳香族求核置換反応(イプソ置換) (22章-4)
重要:求核置換反応に対しては、
ピリジンはベンゼンよりも反応性が高い
L
Nu
+ L Nu
EWG EWG
反応機構:付加-脱離
L
+ Nu
EWG EWG
Nu L 付加
律速
脱離
Nu
EWG – L–
ピリジンも類似の求核置換反応を起こす
N L
Nu– : RO–, RS–, RC(=O)NH–, RNH–, R–
+ Nu 付加
N L Nu
脱離
– L– N Nu
律速
25-6:求核置換反応の反応機構
p15162) 芳香族求核置換反応
・電子求引性の窒素原子が中間体を安定化
・ベンゼンの求核置換とは異なり、強力な電子求引基が不要
重要:C2位とC4位で起こるC2 C4
N 2 Br – NaBr Na NH2 NH3
N NH2 67%
– NaCl
75%
N 4
N
Cl Na OMe
MeOH
OMe
N Cl
NH2
N
NH2 付加 Cl
安定化されたアニオン – Cl
脱離 N NH2
O Cl
NH2 付加
安定化されたアニオン – Cl O Cl 脱離
NH2
O NH2
塩化アシルの
求核置換反応に類似 (p1149)
反応機構
類比
付加-脱離機構
遅い 速い
25-6:求核置換反応の位置選択性
p1516求核置換反応の選択性発現理由(C2位, C4位) C2への攻撃
C3への攻撃
C4への攻撃
N L 脱離 Nu
N L Nu 最も安定
N L Nu
N L 付加 Nu
– L
N Nu
N
Nu
N L – L
Nu L
N Nu L
N Nu L
N Nu
N 脱離 Nu
N
最も安定 付加
– L
L L Nu
N L Nu
N L Nu
N Nu
C2およびC4への攻撃は、負電荷が電気陰性な窒素上にある安定な中間体を与える より不安定な中間体を与える
25-6 求核置換反応:Chichibabin 反応
p15133) Chichibabin 反応
π欠如芳香族ヘテロ環の2位にアミノ基を導入する方法
ピリジンの 共鳴構造
ピリジンの2位はいくぶん正電荷をもつ
N N N N N
1 2 3 4
N 2 H
Na NH2 NH3 (liq.)
N NH2 1)
2) H+, H2O
70%
+ H H
反応機構
H H N H
NH2
N H NH2
付加 脱離
– H
N N H H H
–
N N H
H+ H2O プロトン化 芳香族化
N NH2
25-6:ピリジンの求核置換反応
p1513付加により芳香族性が失われるが、付加体を加熱 あるいは酸化することで芳香化される
N H
+
Li
toluene 110 °C
– LiH N
49%
N H
+
Li
N Li
O2 H
N 80%
Chichibabin 反応と類似の置換反応:
ピリジンと有機リチウム試薬または Grignard 試薬と処理すると、
C2位で求核置換反応が進行する
練習問題
次の各反応の主生成物を示せ。
N NH2
1) NaNO2, HCl 2) H2O, Δ a)
N
1) NaNO2, HCl 2) H2O, Δ b)
NH2
? ?
25-7:キノリンとイソキノリンの反応
p1516ピリジン環にベンゼンが縮環したキノリン、イソキノリンは 医薬品の母格として重要
N キノリン
1 3 2 5 4
8
N イソキノリン
1 3 2 4 5
8
ピリジン環側はπ電子不足
1) 芳香族求電子置換反応 ベンゼン環上のC5位とC8位で起こる
不活性な環
不活性な環
5
8 N
キノリン
HNO3 H2SO4, SO3
– H2O N
+
N NO2
NO2
35% 43%
5
8
N イソキノリン
HNO3, H2SO4
– H2O N +
N NO2
NO2
72% 8%
25-7:キノリンの求電子置換反応の選択性
ナフタレン類似の反応とみなせる(=環縮合位隣で起こる:16章-6)
キノリンの 反応中間体
C5, C8位での反応 C6, C7位での反応 優先
類比
N H E
N H E
アリル型共鳴による安定化
8
5 vs
N
6
E H
7 N E
H アリル型共鳴安定化なし より安定な中間体
ナフタレン 2
1 C1
E+
E E E
その他 芳香環を保ったアリル型共鳴 芳香環が崩れる共鳴
より安定な中間体 優先
C2 E+
ベンジル型カチオン
その他
E E
芳香環が崩れる共鳴
25-7:キノリンとイソキノリンの反応
p15162) 芳香族求核置換反応 電子不足のピリジン環上で起こる
N 2
Na NH2 NH3 (liq.)
N NH2 1)
2) H+, H2O
80%
Chichibabin 反応 ハロゲンを脱離基 とする求核置換反応
1 N
K NH2 NH3 (liq.)
N 1)
2) CH3COOH
71%NH2
COOH COOH
4
N Cl
NaOMe 4
N OMe
N 2
Li 1)
Et2O
2) H+, H2O N H
PhNO2, Δ
N
有機金属試薬 との反応
25-8:アルカロイド
p1520・医薬品にはアミンに分類されるものが多い
・特に天然の窒素原子をもつ有機化合物で、塩基性を示すものは アルカロイドとよばれ、医薬品の重要な化合物群である
HO
O
H HO H
H N
Me モルヒネ (麻薬性鎮痛剤)
N MeO
HO N H
H
H
キニーネ (抗マラリア薬)
NH MeO N
H
O H OMe MeO2C
H
H H O
OMe
OMe OMe H
レセルピン (降圧・向精神薬)
練習問題
次の各反応の主生成物を示せ。
N a)
N
270 °C
?
N
b) KSH
CH3OH, Δ
? Br
H2SO4, SO3 (発煙硫酸)