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デンマークの若者はどのように進路選択するか

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(1)

はじめに

 私たちはここ数年,デンマークのキャリアガイダン スに関心をもって調査を行ってきた。ガイダンスセン ターのカウンセラーへの聞き取り調査,教育省官僚へ のガイダンスシステムについての聞き取り調査などが それである 。

 本稿はそれらの調査報告に引き続くもので,2008年 9月のデンマーク訪問の際の,コペンハーゲン西区の 若年者教育ガイダンスセンター UU-vestegnen での カウンセラーによるレクチャーおよび聞き取りをもと に,デンマークの若者がどのように進路選択をし,そ れをガイダンスセンターや学校はどのように支援する かについてまとめることを目的とする。

 なお,若年者教育ガイダンスセンターUngdomens  Uddannelsesvejledning Centre( 英 語 訳 で はYouth  Guidance Centre)とは「25歳までの若者,そしてそ れ以上の年齢の者でより高い教育プログラムを希望す るもの」を対象とし,「主に義務教育から青年期教育 への移行を支援」 する機関で,2008年9月段階で全 国45か所に設けられている。

1.デンマークにおける若者の進路選択  について―西区ガイダンスセンターカ  ウンセラーによるレクチャー―

 講 師 ベント・ストアゴー Bent Storgaarrd氏      (男性)

 同席者 アン−マリ・クリフォース Ann-Mari      Clifforth氏(女性)

     カロリーネ・フォス Karoline Foss氏(女性)

 日 時 2008年9月23日 午前9時から  調査者:青木,谷,三浦

 レクチャーはベント氏により,プレゼンテーション 資料を提示しながら英語ですすめられ,随時,同席の 他のカウンセラーが補足説明を加えた。また調査者も レクチャーの途中で質問を行った。

 この項ではそのレクチャーと補足説明をもとに,デ ンマークでは義務教育修了後の若者がどのように進路 を選択するか,そしてそれを支える仕組について概観 する。

 1)9年生修了者の進路選択

 9年間の義務教育を修了した若者がどのような進路 をとるかについて述べる。図1にその進路の選択肢を 示す。

  ① 10年生クラス

 図1の基部に示されているものである。

 10年生は,9年までの教育を終えたとき,次の学校 に進む準備ができていない生徒がさらに1年間を過ご すクラスである。また高校に入るのに必要な学力が不 足している生徒もこのクラスに進学する。したがって 10年生クラスに進む生徒は非常に多い。10年生への進 学率は地域によるが,この地域(コペンハーゲン西区)

は同年齢の若者の20〜25%にあたる。

  ② 高校

 デンマークには4つのタイプの高校がある。技術高 校(HTX),商業高校(HHX),「昔ながらの」何か に特化しない大学進学の準備をする高校(ギムナジウ ム,STX)。これら3つはすべて上級学校への準備教 育の学校である。技術高校は理科,技術教科に特化し ている。たとえば理系の技術者になりたい若者は技術 高校もしくはギムナジウムに行くのが普通である。

 優秀な生徒は9年生修了後,10年生を経ないで直接,

高校に進学する。そういう生徒はこの地域ではすべて の同年齢の若者のうち50から55%である。ここよりも

*a:福島大学総合教育研究センター教育相談部門  *b:福島大学人間発達文化学類

 2008年9月に,デンマークのキャリアガイダンスを担うガイダンスセンターで聞き取り調査を 行った結果をもとに,義務教育を修了した若者がどのように進路選択を行うか,それがどのように 支えられているかについて整理する。

〔キーワード〕デンマーク  若者  進路選択  キャリアガイダンスシステム          カウンセラー

デンマークの若者はどのように進路選択するか

― ガイダンスセンターでの調査をもとに ―

三 浦 浩 喜*

青 木 真 理*

,谷   雅 泰*

(2)

裕福な地域であるコペンハーゲン北部地域では,高校 に直接進学する生徒の数はより多く,およそ70%であ る。このコペンハーゲン西区は革新派の社会民主党支 持基盤であり,移民や学歴の高くない親の子どもが多 く在住する。また高校に進学する伝統があまり強くな い家庭も少なからずある。それらの結果,この地域の 高校への直接進学者は比較的少ないと言えるだろう。

 ただこの30年で高校進学者は飛躍的に増えている。

現在60代のベント氏の若い頃は高校進学者は8%だっ たが,その後30〜40年のあいだに50〜60%に増えた。

 ベント氏の現在32歳の息子は高校卒業後,電気工と して働き,その後電気工としてのより高い教育を受け,

技術者になった。これは高等教育の受け方のひとつの やり方である。

 4つめの高校はHFである。これは上級教育への準 備教育という機能をもつ。この学校の生徒は,他の高 校の生徒より年長であることが多い。たとえば年を重 ねてから大学,専門学校レヴェルの上級学校に行きた いと考えたとき,HFで2年間学び,上級学校に進む 資格を得る。XのつくSTX,HTX,HHXは3年間で ある。HFに進学する典型的な生徒は,卒業後,4年 制大学より短い期間の教育を受ける職業,たとえば教 師,ペダゴー ,つまり小さな子どもたちに係る仕事,

それから看護師などに就こうとする人たちである。

  ③ EUD(Erhvervsuddannelse 職業教育)

 EUDはたとえばTECのグラッドサックス校 がそ れにあたり,煉瓦職人,大工,配管工,電気工などを 養成する学校である。

 その養成システムは,20週,つまり半年の基礎訓練 を受けた後,商店もしくは会社で働きながら訓練を受 ける。この働きながらの訓練は多くの場合,3年から 3年半で,基礎訓練と合わせると通算で4年間となる。

  ④ HG

 商業について学ぶ学校で,商店もしくはオフィスで 働きたい人がいく学校である。

 商店の店員になりたいなら,1年間HGで学び,そ の後3年間店で働きながら訓練を受ける。事務員とし て働きたければ,HG1,HG2と2年間学び,その後2 年間オフィスで働きながら学ぶ。

  ⑤ SOSU

 SOSUはサービス・医療分野の職員のための基礎的 な教育であり,たとえば老人介護施設や病院の看護助 手である。

  ⑥ EGU(Erhvervsgrunduddannelse 職業基礎    教育)

 このグループに属する若者は少ない。EGUは特別 な訓練を受ける基礎的訓練のグループである。たとえ ば,清掃や庭木の手入れなどに関して,トラクターや 様々な道具の使い方の訓練を受ける。そしてその訓練 の方法は若者個人に合わせたやり方をとり,個別的に

行う。

  ⑦ その他

 その他のなかには,義務教育修了後,すぐに就職す る人たちがいる。カウンセラーとしてはそれはあまり 望ましくないと考えている。

 このようにすぐ働きたい若者は,しばしば,職場で 働きながら訓練を受ける。半年あるいは1年間働いた 後訓練を受け,また働く,というようにである。かつ て15歳の少年が鍛冶屋に勤め,その中で訓練されたよ うに,いまは鉄工業の会社に行ってそこで教育を受け ることができる。

 これは職場と学校のパートナーシップのうえに成り 立っている。このやりかただと,訓練修了までふつう 3年〜4年かかる。

 その他を除いた進路が若者のおよそ90%を占める。

 ギムナジウム(STX),HTX,HHX,HFは大学な どの上級学校への準備教育なので,これだけで終わっ ては何の仕事にもつながらない。

 2)商業に就きたい若者の進路選択

 図2には商店で働きたい人の3つの経路が示される。

 一番下の経路では,まず商店に就職する。「あなた の店で働きたい,そして私に教育を受けさせてくださ

図1 デンマークの青年教育機関

図2 商業の訓練教育

(3)

い」という契約を若者と商店の間で結ぶ。

 最上段の経路では,HG1においてはHGで1年学び,

その後3年間店またはオフィスで働く。真ん中の経路 は,HGで2年学びその後店またはオフィスで働く。

 いずれの場合も必ず学校にいかなければならない。

 最初から就職するという一番下の方法の場合でも学 校に通うことが求められる理由は,政府の説明では,

店やオフィスはあらゆる種類の教育を提供することは できないから,ということになっている。

 4)技術訓練教育

 図3には,技術訓練教育機関が示される。TECは これに相当する。

 このような学校に進む若者は9年生修了後,10週間 から20週間,学校に通う。学ぶ内容は図の6つの八角 形に示されているように,多種多様であるが,それら は互いに関連をもっている。たとえば建築に進みたい 若者は配管,大工など建築に関連する基礎的な教育を 受ける。

 図の下部は,メインコースで,煉瓦工,電気工等そ れぞれに特化した訓練と教育を受ける。期間は3年間 から4年間。

 どのような専門に進むにせよ,その先にさらなる教 育を受けることができる。つまり上級学校に行けるだ けの資格を得たら進学することができる。

 図4には技術教育を受ける例が示される。

 薄い色の部分は職場での実習,濃い色の部分は学校 を示す。

 左側6つのコースではまず基礎教育を受ける。たと えばコックになりたい場合,基礎教育の後4年間学ぶ。

他にウェイター,受付,パン屋,園丁など。

 この図の右側に示されるのは,9年生修了後,直接 職場に入る場合である。職場で働き,周期的に学校に 通って学ぶ。

 どちらの場合も全体で4年くらいかかる。4年間の なかで学校に通って教育を受ける期間は総合すると1 年ほどである。

 5)社会・健康分野の教育機関

 図5は健康に関わる仕事の訓練に関する図である。

この訓練に参加する人は,20週間から40週間の基礎訓 練を受けたあと,SOSUヘルパーとして14か月働く。

その時点で訓練を終えて仕事についてもよいが,さら なる教育を受けることもできる。その場合はSOSU助 手として20か月働く。そうすると病院,自治体の公的 施設などで働くことができる。より高い資格に結びつ き,たとえば注射を打つこともできるようになる。あ るいは老人施設での夜間ケアや薬についても処方はで きないが管理をすることができる。

 最下段に関しては,その先たとえば看護師,助産師 になるための教育を受けることができる。それは難し いけれどもチャレンジする若者もいる。

 6)Erhvervsgrunduddannelsen(EGU)職業基礎   教育

 図6はEGUの説明である。ベント氏はこれに関連 する仕事をしている。ベント氏の管轄区域には5万 人の住民がいてEGUに該当するのはその中でわずか 20名で,対象者は非常に少数である。EGUの仕事は,

図3 技術訓練教育機関

図5 社会・健康分野の教育機関 図4 技術教育の一例

(4)

通常の教育に入っていけない人たちが教育のラインに 乗れるように援助することである。かつてはこのよう な人たちは教育,職業のラインに乗れなかったが,今 は彼らがもっている技術を生かして仕事のラインに乗 れるように援助する。

 図6に示したのはごく一例にすぎない。というのは,

支援の対象の若者によって訓練の形式と実際は異なる からである。図では1年半から3年までの教育を受け るとなっているが,その期間は若者によって異なる。

 9年生を終えたら,自治体が費用を負担して若者に

「見学 visitation」を受けさせる。これはどこか特定 の職場に入って仕事をしてみるというものである。給 料も得られる。最初は月給1,500クローナで,この額 は大学生が1か月にかかるお金と大体同じである。

 給料を支払うことの目的は,彼らが公的扶助を受け て生活しないで済むこと,お金を使うことを学べるよ うにすることと,彼らが早期に退職して年金生活者に なるのを遅らせることである。かつては彼らは訓練と 職業のラインからから遠く離れていたが,今はそのラ インに乗せることが重要と考えられている。

 7)上級学校資格試験

 国民学校の卒業試験もしくは10年生の最終試験は,

国語,数学,物理および化学,ドイツ語またはフラン ス語から成り,2006年〜2007年からは生物と地理が加 わった。

 そして個別教育計画により,上級学校に進む資格が あるかどうかが判断される。この判断はガイダンスカ ウンセラーの仕事である。

 8)ギムナジウム(STX)の教育 2005年度  図7は2005年度のギムナジウムの教育課程である。

生徒は半年間の基礎コースで,デンマーク語,英語,

2つの外国語,歴史,自然科学などを学ぶ。そのなか で特に好きな科目,得意な科目を知り,その後,それ に応じて選択を行う。

 基礎コースを終えたあとの2年半の学びのなかの必 須科目においては,要求されるレヴェルも定められて いる。ただしこの図は,STXの教育課程であり,他 の高校であれば要求される科目のレヴェルは異なる。

ただし国語についてはすべての高校でAレベルを要求 される。

 選択科目はバラエティに富んでおり,将来就きたい 仕事に合わせて科目を選択する。それは16,17歳で将 来の仕事,それにつながる上級学校の選択を考えない といけないということを意味し,それはある種の子ど もたちにとっては難しいことである。将来の仕事の選 択,それにあわせての科目選択を助けることも,カウ ンセラーの仕事である。

2.教育計画 Uddannelsesplan

 教育計画 はすべての生徒ひとりひとりについて作 成されるものである。

 1)特別ニーズをもつ子どもの教育計画

 図8は特別ニーズをもつ子どものための就学・教育 計画のフォーマットをスライド提示したのを撮影した ものである。図9にはその日本語訳を掲げる。

 最初の欄には生徒氏名,社会保険番号,ガイダンス カウンセラー氏名,コミューネ(自治体)名がかかれる。

図 6 EGU

図7 ギムナジウムの教育課程2005年度版

図8 特別ニーズをもつ子どもの就学・教育計画

(5)

その次の欄には「9年生修了後の夏休みに何をするか」

を記入する。その例の中のエフタスコーレefterskole について詳しく説明してもらった。

 10年生クラスと同様,義務教育修了後次の学校に進 学するには成績や心理的な準備が十分でないと感じた 生徒が1年間在籍する学校であるが,10年生クラスと の違いは,エフタスコーレが私立の全寮制の学校であ るということである。またスポーツ,芸術など何かし ら特化した特徴をもっている。エフタスコーレに行く 子どもは社会性を成長させる必要性を感じていて,そ れを目標としている場合が多い。エフタスコーレの多 くは郊外に位置し,コペンハーゲンのような都市には 少ない。義務教育修了の若者の12%がエフタスコーレ に行くというから,かなりその人数は多いといえるだ ろう。

 教育計画に戻る。

 第3欄には,子どもが自分について書く。自分の得 意なもの・長所と思う点,それから改善すべきと感じ ている点を書く。

 この欄の下部には,学校に進学するについて何か援 助を受ける必要があるかどうかを書く。それはたとえ ばコンピューターが必要であるとか,視力や聴力や身 体の障害など特別ニードをもっている,などである。

もしこの欄に生徒が「はい,私は助けが必要です。読 みに問題があります」と書いたなら,学校は生徒の読 みを助けるための方策を考えなければならない。

 次の欄には,義務教育学校時代に経験した職場体験 とそこから学んだこと,その次の欄には余暇の過ごし 方(サッカー,音楽バンドなど)を書く。

最後の欄には現在の居住環境(親と住んでいるのか,

など)を記入する。

 2)一般的な教育計画

 続いて図10に示すのは一般的な教育計画のフォー マットである。

 第2欄には自分について書きなさい,とある。得意 なこと,他の人たちと一緒にいたり協働したりするの は好きかどうか,それともひとりで作業する方が好き か。

 この計画を見て,次の学校や職場の担当者はその生 徒がどういう若者かがわかる。

 第3欄はこの生徒が修了した国民学校が記入する所 見であり,たとえばこの生徒は読みに問題を抱えてい る,とか,試験を受ける学力に達していないから受け ていない,等である。

 第4欄は親からの所見である。第5欄はガイダンス カウンセラーの所見である。第6欄は,ソーシャルワー カーの所見で,もし生徒がソーシャルワーカーの関わ りを受けていたら記入する。

 最後の3つの欄は署名欄で,本人,カウンセラー,

親,と続く。そして最後に,「次年度進学予定の機関 にこの書類を送ってください」とある。義務教育修了 後の次の学校のカウンセラーはこの書類を読み,どう

就学計画/教育計画

(国民学校修了後特別な教育に参加している生徒)

• 名前

社会保険番号

• カウンセラー      学校

• コミューネ(地区): 学校を修了した年月日

将来の志望:

9年生修了後の夏休みに何をしようと思っていますか?

• 10年生クラスへの進学

• 青年期教育

• エフタスコーレ

• プロダクションスクール

• 職業基礎教育(EGU)

• 家事学校

• その他

個人的な状況

将来の志望を実現するにあたって,あなたを助けてくれる ような長所・得意なことはありますか?

将来の志望を実現するにあたって,もう少し改善したほう がよいと思われる点はありますか?

特別な配慮/特別な教育上の支援

何か援助の必要なことがありますか?

(読みについての援助,あるいは移送に関しての援助な ど。)

実習そのほかのガイダンス活動

どんなガイダンス活動に参加していましたか?(たとえば 実習,プレゼンテーションコースなど)

そこから得たことは?

余暇:

余暇には何をしていますか。?

一緒に過ごす仲の良い友だちはいますか?

アルバイトはしていますか?

居住環境:

現在の居住環境は?

将来はどんなところに住みたいですか?

図9 特別ニーズをもつ子どもの就学・教育計画    (日本語訳)

(6)

したらその生徒を助けることができるかを考えるので ある。

 このフォーマットは9年生用である。ガイダンスカ ウンセラーは国民学校で6年生以上の生徒すべてと面 接を行い,そのなかでこの教育計画を生徒と話し合い ながら記入していく。この計画は生徒とカウンセラー のあいだで交わされるものであり,最後にカウンセ ラーと生徒,親の署名がなされる。

 6年生,7年生のフォーマットは,この9年生版に 比べるとより平易な内容である。8年生段階で,9年 生版の原型が作られ,それが修正されて最終的なもの になる。

 この教育計画は国民学校においては生徒の卒業後1 年間は保管される。また同じ内容の計画が国民学校の 次の教育機関に移送されその機関のガイダンスカウン

セラーがそれを保管し活用する。また面接を行って新 たな情報が加われば随時更新されてもいく。

3.ログブック

 すべての生徒についての情報はログブックと呼ばれ るものにおいて,ガイダンスカウンセラーによりコン ピュータ管理されている。ベント氏は西区のログブッ クをデータベースソフトによって管理している。ベン ト氏はその管理の実際をコンピュータ画面で示しなが ら説明を行った。

 ログブックにおいてはすべての25歳までの若者が社 会保険番号とともに登録され,氏名,住所,連絡方法,

現在の状態(学校に在籍しているか就業しているかな ど),これまでの所属機関などが一覧で示されるよう になっている。ただ全員の若者について現況がつかめ ているわけではない。

 データベース上で緑文字で書かれているのは,この 地区から外へ出た若者を示し,その場合はカウンセ ラーが情報を転入先の UU(ガイダンスセンター)に 送る。逆もまたしかりである。このような情報のやり とりは毎日のように行われている。

 興味深いのは現在の状態の欄に「LOP」という文字 が並んでいることで,これはlooking out position,つ まりどこに所属するかを現在探している,ということ を示す。デンマークの若者のキャリア選択の特徴にひ とつの学校を修了して次に移行する際1年から数年の

「サバトー sabbatar(英語のsabbatical year)」と呼 ばれる自由な時間をもつことがある。LOPはこのサバ トーを過ごしていることを示す。

 ベント氏が管轄する若者の数はおよそ2,600人であ るがそのすべてと面接しているわけではなく,情報管 理にとどまる若者がほとんどである。20%ほどの,面 接を必要とする若者たちが,ベント氏らカウンセラー の支援の対象である。面接を行って新しい情報が入る たびにこのログブックは更新される。カウンセラーが これまでにいつ会ったか,またこの次にいつ会うこと になっているかというスケジュールも記されている。

 ログブックを見ることができるのは,このブックを 管理するカウンセラーのみである。カウンセラーはそ れぞれログブックを持っている。義務教育学校段階を 担当するカウンセラー,たとえばカロリーネ氏は,担 当生徒が学校を卒業すれば,その後の段階を担当する ベント氏にその生徒のログブックを送る。

4.まとめ

 デンマークにおける若者の進路選択の道筋を,ガイ ダンスセンターカウンセラーのレクチャーを通じてま とめた。

教育計画 名前

社会保険番号: 生徒による所見

あなた自身について書きなさい。

たとえば得意なことは?

他の人たちといっしょにいるのは得意ですか?

他の人と協働するのは得意ですか,それともひとりで作業 するほうが好きですか?

学校による所見

        この生徒はひとつあるいは複数の科目を免除されています か?

家庭による所見:

カウンセラーによる所見:

ソーシャルワーカーによる所見

署名

日付 生徒署名      カウンセラー 保護者署名      学校

(次年度進学予定の機関にこの書類を送ってください) 図10 一般的な教育計画

(7)

 1990年初頭からの教育改革により,デンマークでは 義務教育修了後の若者すべてが何らかの教育を受ける ことが目指されている。これは,高度に発達した技術 社会においては義務教育修了のみで就業できる仕事が ほとんどなくなってきたということらしい。

 たとえ義務教育修了後すぐ就労する場合でも,職場 と学校のパートナーシップを基礎として,働きながら 学ぶというデュアルシステムが採用されている。ただ しその学びの形態は様々で,学校で学んだ後に職場で 働く場合もあるし,まずは就職してその職場の責任と して若者を職場と学校の両方で教育訓練していくとい う形態もある。

 また特別なニーズをもつ若者についてのキャリア支 援が細やかであることもデンマークの特徴といえるだ ろう。若者たちはそれぞれ個別の困難を抱えているが,

状況にあわせて教育と仕事のラインに乗せていく工夫 がなされている。その実態については今後調査したい と考えている1

 デンマークの進路選択支援におけるもうひとつの 特徴は10年生学校であろう。10年生が単なるモラトリ アムではないことは,すでに発表した10年生学校の生 徒および教員へのインタビュー1 で明らかにしたが,

10年生クラスもしくは10年生学校は,一見時間と金の 無駄に見えて,上級学校での適応をスムーズにするた めの橋渡し教育として有効であるというのが,学校現 場の教員ならびに若者たちの実感であるようである。

エフタスコーレも,10年生学校と類似した性格をもっ ている。詳細は別稿にて報告した1 が,エフタスコー レでの調査でもこの橋渡し教育としての重要性を確認 することができた。

 デンマークの若者の伝統としての「サバトー」もこ れら橋渡し教育と同様に,一見無駄に見えて,実はそ の後の長い教育,長い生涯において重要な役割を果た すもの,「急がば回れ」の知恵の生きた習慣として考 えることができるかもしれない。

 今回,個別教育計画とそれに基づくログブックの実 際を確かめることができたのも大きな収穫であった。

 実はこの日のレクチャーでこのようにすべての生徒 の情報が1ヵ所に集約されていることについて,調査 者は管理主義的な色彩を感じて,同日の午後に訪問し た10年生学校でのインタビュー1 でそのことを生徒 に尋ねてみたが,カウンセラーは考えを押し付けるわ けでないし,情報が集約されていることが不愉快な管 理であるとは感じない,との返答であった。このよう な返答をきくと,われわれ日本人はたとえば「管理」

ということに即応的に感情的に反応しすぎているかも しれないという気がした。計画は生徒自身が記入する 欄もある。そのようにユーザーとしての若者が,自身 のデータについて責任をもっているところが重要なの かもしれない。

 高校の進学に際してはガイダンスカウンセラーの判 断が重要な役割を果たすこともわかった。高校入学試 験のないデンマークでは国民学校の卒業試験もしく は10年生クラスの最終試験が,高校入学の可否を決定 する資料となる。その試験結果を見てガイダンスカウ ンセラーが希望の高校に入れるかどうかを若者と話し 合って判断し,その学校入学のために必要な学力が不 足している場合はそれを補う方法を提示する。その方 法とは,10年生クラスまたはエフタスコーレでの学習 である。これらの学校で補充的に学ぶことで,入学試 験の成績を上書きすることができるのである。

 このように,若者の意欲,関心,能力にあわせてき め細かく多様な教育制度が準備されていること,また ガイダンスカウンセラーがひとりひとりの若者の現状 や将来への希望を調査して管理することで,ドロップ アウトする若者を減らそうとする努力がなされている ことが,今回の調査で明らかになった。

 また,産業界と学校,ガイダンスセンターの相互の 連携もデンマークの若者支援の特徴と言える。以前の 論文1 で報告したように,デンマークのデュアルシス テムは,雇用者・労働者双方が,雇用契約とその解除 を自由に行えるセーフティネットシステムとも密接な 関係をもつ。いわば「お試し」雇用が可能な状況で若 者は自分に合った職業を探し,企業側もリスクを背負 うことなく,若者の就業しながらの訓練に協力する。

将来は別の企業で働くかもしれない若者を雇用して訓 練を受けさせるというシステムには社会全体で若者を 育てるという基本的な態度がうかがえる。

 今後は,キャリアガイダンスに関して,特別ニーズ をもつ若者に焦点をあてた支援,職業安定所の若者支 援についてさらに調査していきたいと考えている。

1)青木真理・谷雅泰・角間陽子「デンマーク関係者イン タビュー」,『福島大学地域創造』第18巻第1号,2006年 9月,pp111-129。

2)青木真理・谷雅泰・三浦浩喜「デンマークの進路指導 について―ガイダンスセンターにおける聞き取り調査―」

 『 福 島 大 学 地 域 創 造 』 第19巻 第 1 号,2007年 9 月,

pp96-106。

3)三浦浩喜・谷雅泰・青木真理「デンマークの若者支援

―若者へのインタビュー―」『福島大学地域創造』第18 巻第1号,2009年2月,pp40-56。

4)青木真理・谷雅泰・三浦浩喜 「デンマークのガイダ ンスシステムについて ―教育省でのインタビュー調査 を中心に―」『福島大学総合教育研究センター紀要』第 7号,2009年7月,pp67-74。

5)上記の4)。

6)ベント・ストアゴー氏ならびにアンーマリ・クリフォー ス氏は,上記の2)で報告した調査の際のインフォーマ

(8)

ントである。

7)ペダゴー pedagogとは「3年半の教育を受けた保育 士」(澤渡夏代ブラント『デンマークの子育て・人育て』

大月書店,2005,p10)である。

8)上記3)で,この学校での訪問調査について報告して いる。

9)個別教育計画については,上記3)の中でeducational  book(p102,p104)と記している。この調査の際,そ の実際を見せてほしいと依頼してあり,本調査において それが実現した。

10)それはたとえば生産学校の中に2008年から設けられた STUというコース(発達障害をもつ若者のための3年 間のコース),TECの中に設置されているアスペルガー 障害をもつ若者のためのコンピューターを学ぶコースな どである。

11)上記の3)。

12)谷 雅泰・三浦浩喜・青木真理「デンマークの若者支 援 ―若者へのインタビューその2・エフタレコーレと HTX―」『福島大学地域創造』第21巻第2号,2010年2 月

13)上記の3)。

14)上記の4)。

【謝辞】インタビューに応じてくださった,デンマー クの教育関係者の方々に対し,ここで改めてお名前を 挙げることはしませんが,深く感謝します。

【本稿は,平成20年度科学研究費補助金基盤研究 「若 者のキャリアガイダンスシステムの構築に向けて−デ ンマーク・日本の比較研究」による成果の一部である。】

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