調 査 報 告
デンマークの若者支援
―
若者へのインタビュー
―福島大学人間発達文化学類
三 浦 浩 喜
福島大学人間発達文化学類
谷 雅 泰
福島大学総合教育研究センター
青 木 真 理
は じ め に
デンマークでは,1990年代に「巨大なドロップアウ ト」が問題となり,1993年以降,「すべての者に教育 と訓練を」をスローガンとして教育・福祉を含む多く の分野で新しい施策が模索されてきた。「巨大なドロッ プアウト」とは,当時,「同一年齢の25%が青年期教 育を完了していないこと,なんらかの職業的資格を取 得できる教育を受けていないものが三分の一も存在す ること」を表現したものだが,2002年発行のデンマー ク教育省発行のパンフレット⑴でも,次の事実が確認 できる。デンマークでは義務教育後の進路が,①後期 普通中等教育への進学,②職業的教育訓練への進学,
③それ以外の基礎的訓練の3つに分かれるが,その③ は進路決定時は4%しかいないのに,最終的には17%
にもなる。①や②からの進路変更者が多いからで,3 分岐のどの道を歩ませるかに加え,その後の転轍をい かに支援するかが課題であった。
支援のための施策のひとつが2004年に創設された
「若年者教育ガイダンスセンター」であり,それにつ いては,私たちの研究グループがセンターのカウン セラーへのインタビューを行っている⑵。本稿は,そ れを受けて,ガイダンスの受け手である若者がどのよ うな支援を必要と感じているのかを明らかにするため に,若者への直接のインタビューを試みたものである。
インタビューは,2008年秋にデンマークを訪問して 行った調査の中で,2度の機会にわけて行った。それ は以下の通りである。
① 職業選択に当面している20代の若者へのインタ ビュー
2008年9月18日,Teknisk Erhvervsskole Center
(TEC)・Gladsaxe校にて4名の学生を対象に行っ た。2名ずつで2回インタビューした。
② 進路選択に直面している10代後半の若者へのイン タビュー
2008年9月23日,Det 10.Element Albertslund 10.‑klasseskoleにて2名の学生を対象に行った。
具体的なインタビューの記録を御覧いただく前に,
それぞれの教育機関についてごく簡単に紹介しておく ことにしたい。
1.TEC について
Teknisk Erhvervsskole Center(技術職業学校セン ター)は,後期中等教育・高等教育に該当する職業教 育訓練のプログラムを供する教育機関であり,生涯教 育の要求にも応じている。2002年春,6つの教育機関 が集まってこの名称となったが,今も6つのキャンパ スでそれぞれの教育を行っている。今回訪問したのは,
そのなかの Gladsaxe校で,創立は1917年,TEC とな るまではGladsaxe技術カレッジという名称であった。
1年あたりの学生数では生涯教育として短期の訓練 コースを取った成人が16,559人と全体の7割を占める が,年間通じてのコースでみると,職業教育訓練コー スの学生が3,638人と4分の3近くを占め,これに後
期中等教育600人,短期コース533人,学位レベル192 人と続く⑶。
デンマークの職業教育訓練のもっとも重要な特徴 は,それが「デュアルシステム」をとっているところ にある。3年半というのが典型的な期間であり,その うち,三分の一が学校での座学に充てられ,三分の二 は現場での訓練に充てられる。学生は契約を結んだ企 業で専門的な訓練を受けることになる。
TEC の教育の特徴はその柔軟さにあり,学生は入 学後,基礎的なプログラムを学ぶことになるが,その 期間も10週から60週の間で個々の事情に応じて適切な 期間学ぶことになっている。その後は学校での学びと 現場での訓練を繰り返す。これらは個々の教育プラン によって行われ,学生はガイダンスカウンセラーの助 言を得ながらそのプランを発展させていくのである。
TEC では,そのガイダンスカウンセラーである Benny Wielandt氏からレクチャーを受け,氏の紹介 で4名の学生にインタビューすることができた。配管 工の仕事の訓練を行うコースの学生2名,陶器の絵付 けを行うコースの学生2名である。
2. 10 年生学校について
インタビュー②は,10年生学校の学生に対するイン タビューである。他のヨーロッパ諸国でもみられる が,デンマークでも前期中等教育までの9年間の教育 を終えたあと,次の教育段階に入る前にもう1年間学 校にとどまることができる。デンマーク教育省の統計 によれば,2006年度の10年生クラスの在籍者は33,998 人,前年度の9年生クラスの在籍者は64,631人である から,同年齢の生徒のうち10年生を経験するのは実に 5割を超えることになる⑷。インタビュー①で出会っ た4名の若者がすべて10年生クラスの経験者であった ことからも,10年生クラスは現在のデンマークの教育 制度の中では決して例外的なコースではないことがわ かる。インタビューにも出てくるように,10年生修了 が条件となっている学校もある。すなわち,後期中等 教育には,ギムナジウム(STX),技術学校(HTF),
商業学校(HHF)という3年制の学校と並んで,2 年制の HF(後期中等準備教育)のコースがあり,前 者は9年生の義務教育修了が条件なのに対し,後者は
10年生の経験が必要である。3年間という期間がそれ
で揃うことになる。
10年生クラスには,国民学校のなかにあって9年生 修了後そのまま残れるクラスとは別に,10年生のクラ
スだけ独立して生徒を集める学校があるが,今回対象 としたのは後者である。
Det 10.Element Albertslund 10.‑klasseskole(第 10要素 アルバーツルンド10年生学校)はコペンハー ゲン西地区の Albertslund区にあるが,同区は駅前の 風情も典型的な新興住宅地であった。中東などからの 移民も多い。私たちの研究グループが調査してきた西 地区若年者教育ガイダンスセンターの近くにあり,同 センターの管轄である⑸。
同校では,副校長の John Christiansen氏にもイン タビューを行い,貴重な意見を徴することができた。
10年生クラスが,私たちのもっていた,単に9年生ま での前期中等教育を補完する期間というイメージと異 なり,若者の育ちのプロセスに重要な役割を果たして いること,デンマーク中央政府の方向性はそれに反し,
10年生を減らして9年生から後期中等教育へのスムー
スな移行を目指すもので,現場には批判があること,
などである。このことは,私たちの研究グループの研 究課題にとっても大きな意味をもつものである。若者 支援のための機能的なシステムと見てきたデンマーク の若者へのガイダンス制度への批判にもつながるから である。そこで,それについては稿を改めて詳しく報 告することとし,ここでは,このあとのインタビュー を御覧いただく上で参考になると思われることについ てのみ記すことにする。
この学校には専門のコースがあり,インタビューを 受けてくれた二人の学生は,社会・心理(SOSU)のコー スに所属している。インタビューを読んでいただけれ ばわかるように,ふたりともしっかりした考えをもっ た若者であった。私たちの求めに応じて二人を推薦し てくれた John Christiansen氏は,ここでの目標は成 績ではなく,将来の方向性を明確にすることだという。
その意味では,クラスでの学習により将来のことはだ いたい決まったという二人にとって,この10年生学校 で学んだ意義は大きいと言えるだろう。
John Christiansen氏によれば,このクラスに来る 理由は,①将来への不安,②苦手分野の克服,③一年 間の人間的成熟,などであり,生徒自身の意思によっ てここを選択してくる。だからこそ,彼等のニーズに そった教育を行う必要があるのだという。
インタビュー①の4人が10年生クラスを経験してい ることは先に述べたが,②を含めて計6人の,私たち が会った若者たちのすべてが,10年生クラスを肯定的 に評価していたことは大変興味深いことであった。用 意されている進路をいわばまたいで渡り歩いているこ
の国の若者たちにとって,10年生クラスが大きな意味 を持っていることを感じさせられた。だからこそ,こ れからこの制度がどうなるかについて興味が湧くのだ が,それについてはまたの機会に考察することにし たい。
3.インタビュー①:TEC
⑴ 配管工コースの学生
対象者:Henrik Tjåderさん,
Lise Bohn Larsenさん
インタビュアー:青木真理・谷雅泰・三浦浩喜 同席者:Benny Wielandt氏
(ガイダンスカウンセラー)
(敬称略,以下同じ)
青木:私たちは日本から来た大学の教員です。デン マークの教育に興味を持っています。特に今は若者の キャリア選択に興味を持っています。それでお二人に どのようにしてこの学校を選んだのか,どのような職 業に就きたいのか聞きたいと思います。まずお名前を お願いします。
ヘンリック:私はヘンリックです。28歳です。
リーサ:私はリーサ,同じように28歳です。
青木:二人とも,カーペンターのトレーニングを受け ているんですね。
ヘンリック:水回りの技術,特にエネルギー関係,天 然ガス,太陽エネルギー,地域暖房やセントラルヒー ティングなどの配管技術です。
青木:なぜ,この学校で配管について学ぼうと思った のでしょうか。
ヘンリック:私は販売員などいろいろと仕事をやりま したが,自分の手を使った仕事をしたいと思ったから です。父も同じ仕事をしているので,一緒にやりたい と思いこの仕事を選びました。
青木:何歳から,この仕事を考えたのでしょうか。
ヘンリック:今年の1月です。
青木:何かきっかけがありましたか。
ヘンリック:お店の店員として何年か働きましたが,
自分の関心に一致しないことがわかり,父もこの仕事 をしている影響から,その働いている姿を見て自分の 手を使いたいということで,面白いと思って挑戦する ことにしました。
青木:この1月に何かあったのでしょうか。
ヘンリック:1月に特に意味はありませんが,今の教 育はこれまでの自分の受けた教育につみ重ねてエンジ ニアなどに発展させることができたり,ほかにいろい ろと広げていけることが選んだ大きな理由です。配管 の会社とすでに実習制度の契約を取っています。
青木:入学はいつですか。
ヘンリック:8月です。まだ2ヶ月しかたっていませ ん。
谷:学校に入ってから配管の会社と契約をしたのです か。
ヘンリック:学校に入る前に契約をしました。4年間 の契約です。いろいろな技術的・実践的な面を教えて もらうという契約をしました。
谷:会社から,この学校に行けといわれたのですか。
リーサ:会社との契約には二つのタイプがあります。
若い人はこの学校にいる間に契約を取るというやり方 です。私たちは28歳で大人で,このように年齢的に上 だと,技術的には未熟でも先に会社と契約をして,こ ちらで専門的なトレーニングを積むというやり方があ ります。
青木:リーサさんはどうして,この仕事を選んだので すか。
リーサ:私は家を持っていて,壊れたところを自分で 直そうと思ってこの仕事に就きました。
青木:それはいつですか。
リーサ:1年前です。私もはじめに会社で仕事を始め て,会社にこの学校を紹介されました。この学校のこ とをそれまで私は知りませんでした。
青木:最初に勤め始めたのはいつですか。
リーサ:1年半前です。
青木:お二人の職歴や学歴を教えてください。
ヘンリック:デンマークの場合は義務教育が9年です
Henrik Tjåder さん
がその後10年生クラスを出て,デンマーク北部の商業 学校で4年間販売員としての教育を受け,その後軍隊 に行きました。そして水道など水回りの故障を直す会 社に就職しました。
リーサ:私の場合はいろいろあって,10年生クラスを 終えて2年間商業学校で勉強をして,1年間お店で働 き,その後,介護福祉の教育を受け,看護師のアシス タントをやりました。
青木:その後で,家の配管が壊れてこの仕事に就いた のですね。
リーサ:1年半前に主人が亡くなり,そのときに家を 改装しようとしてそのときに自分で水回りを変えよう として始めました。ついでに教育も受けようと思いま した。
青木:女性は同じコースに何人ぐらいいますか。
リーサ:5%くらいです。
青木:私たちは,これまでいくつかの国民学校に行っ て,スクールカウンセラーと話をしてきました。スクー ルカウンセラーの仕事は子どもたちに将来のことを考 えさせることだと聞きましたが,お二人はスクールカ ウンセラーとどのように話をしましたか。そしてその 話は現在に影響を与えていますか。
リーサ:私が通っていた国民学校では,9年生か10年 生の時に1週間実習があり,そのときにスクールカウ ンセラーと話をして,普通高校に行った方がいいのか,
商業高校に行った方がいいのかなどを話しました。
ヘンリック:私は話をしていません。
青木:15,6年前のその頃はまだカウンセラーとの相 談が義務化されていなかったのですね。
ヘンリック:いや,生徒自身が将来どうしたらいいの かわからない場合にカウンセリングを受けます。私の
場合は,100%決まっていたので受けなかったのです。
リーサ:私は将来について迷っていたので,カウンセ リングを受けました。
青木:でも,ヘンリックさんは国民学校のときは決 まっていたけれども,実際に仕事に就いてからキャリ アを変更したのですよね。
ヘンリック:最初の1週間の実習の時はお店を選びま した。でもそのときは14歳だったのでまだ将来のこと はよくわかりませんでした。行ってみたらどうも違う かもしれないと思い,15歳の時には船に乗って航海を しました。可能性がある限り試したかったのです。お 店の仕事をやってみて続けなかったのは,店員の場合 は朝の9時から夕方の6時7時まで働きますが,将来 家族を持って子どもができたときに,家族や子どもの ための時間がほしい,今の仕事だと4時ぐらいに帰れ るので,この仕事を選びました。一つの理由として。
谷:日本では仕事を変えるのはだめなことと見る傾向 もありますが,デンマークではキャリアを変えるとき にどのようなサポートがあったのですか。
ヘンリック:私は特にカウンセリングを受けたのでは なく,友だちと相談したり直接業界の組合に行って調 べたりしました。でもそれは私の場合であって,普通 に国民学校に行った人がどのようにしているのかは私 はわかりません。
青木:私たちは明日西地区若年者ガイダンスセンター
(UU‑Vestegnen)に行くのですが,その存在は知っ ていますか。
ヘンリック:知りません。それはできて4年くらいで すから。
青木:この TEC に入ってどうですか。ベニー先生の 前でなんですが。
ヘンリック:満足しています。いろいろな教育を受け られるので満足しています。はじめは年齢が上なので,
心配していましたが今はそれはありません。安心して 授業を受けることができます。
青木:何が心配だったのですか。
ヘンリック:人間としての成熟度の違い,国民学校を 卒業したばかりの人たちとやっていけるのかが心配で した。でも私の入ったクラスでは,30%が25歳以上な ので大丈夫でした。
リーサ:私も満足しています。私はやる気があって,
教育への期待がありました。ここではテストを受け,
成績がつくのでモチベーションが上がります。若い人 だったら途中で迷いが出てくるかもしれないけれど も,成績や評価をもらうと目標が明確になり,モチベー
Lise Bohn Larsen さん
ションが上がるのではないでしょうか。これまでの学 校はテストがありませんでした。
谷:成績がつくのですね。成績は会社に行くのですか。
リーサ:会社に知らされます。
ベニー:出席の有無などいろいろなデータがコン ピュータに記録されていて,会社は自由にアクセスす ることができるようになっています。
青木:それは給料に反映されるのですか。
リーサ:それはないです。
ヘンリック:組合の規則でそれはできません。
リーサ:契約をしているので,成績が悪くてもそれを 理由に会社を辞めさせることはできません。
谷:契約を更新するときに反映されることはないので すか。
リーサ:それもありません。
ヘンリック:4年の契約が終わったらそれで終わりな のです。その後はこの学校の試験を受けなければなり ません。会社との契約は試験に受かればそれで終わり なのです。受からなかったら半年とか延長されます。
谷:4年間が終わると新しい会社に行くのですか。
リーサ:ほとんどの人は,新しい会社に勤めます。同 じ会社だと挑戦的なことができなくなるのです。少数 の人は残ることもあります。
ベニー:同じ会社に10年,15年といることは少ない。
面白いプロジェクトがあればそちらに行く。会社で考 えるのではありません。
谷:いままでの日本では OJT のように,会社に入っ てから仕事をしながら訓練をして,一人前になったら 会社に一生勤めるのが普通でしたが,そのシステムは 会社にとってどんなメリットがあるのでしょうか。
ヘンリック:会社にとっては,その人間がいろいろな
ところでいろいろな技術やトレーニングを積むという ことがメリットになります。自分が同じ会社に戻りた いと考えればいつでも戻ることができます。会社に とっていろいろなところで転々と経験と技術を積んで きた人の方がメリットがあります。質のいい社員を雇 うことができます。
谷:全体にとってのメリットということでしょうか。
ベニー:ここの教育のバックグラウンドは,会社と 学校が一体になってやっていくということですから,
この学校を出た人が次にどこで働くかといえば,デ ンマーク中のどこでも,ということになります。決 まった会社でなくて,それが自然な形態として定着し ています。デンマークのどこの学校で教育を受けて も,どこでも働くことができるフレキシキュリティ flexicurityという政策がとられています。
谷:給料はいくらぐらいもらっていて,水準としては どうですか。
リーサ:訓練工たちの給料は,25歳以上だと1時間 150クローネ,もう少し熟練すると150から180クロー ネ,もっと若い人たちだと1時間50クローネです。1 週間に37時間です。
青木:最後の質問ですが,デンマークの若者や労働者 へのサポートで不満はありませんか。
ヘンリック:それは個人によってあるいは分野によっ て違うので,答えるのが難しい質問です。自分の分野 については,特に問題はありません。
リーサ:教育政策に不満があります。自分はカトリッ ク系の学校を出たのですが,全体としてデンマークの 学校の教師は子どもに対して厳しさが足りません。ど の生徒も好きなように発言や個性を出していいとして おり,デンマーク人が減少し,いろいろな文化的な背 景を持った移民も入っていますから教師も神経質に なっています。厳しさがなく子どもはやりたい放題で,
そのことが教育を悪くしています。
青木:どうもありがとうございました。
(次のインタビューの時間になったためいったん中断。
その終了後,リーサさんのみ残ってくれて先ほどの 話を続けた。)
青木:今の国民学校には厳しさが足りないということ ですが,詳しく教えてください。
リーサ:今の親は子育てができていないと思います。
カーリングにたとえると,親はストーンを滑らせるほ うきの役割で,ほうきでちゃんとやらなければならな
Benny Wielandt氏
いのにやっていません。70年代や80年代は親はちゃん とやっていたと思います。教師もなかなか目が行き届 かないと思います。やりたい放題というのは言い過ぎ ですが。今の若い子たちは自分のことに責任を持たな い,キャリアとか自分で何とかしようと思わない,他 人に頼る傾向があるのではないか。結果的に自分が何 をやりたいのかわからない人が多く,自分の教育や仕 事に責任が持てない。座っていて,ほかから助けても らおうとしている人が多い。問題が起きてもそれを乗 り越えることができない,と思います。
青木:それを解決するためにはどうすればいいです か。もしもあなたが先生だったらどうしますか。
リーサ:締め付けを厳しくすべきです。たとえば学校 に遅刻してきたら,その時間は出席させないくらいの 厳しさが必要だと思います。宿題を忘れたら成績表に つける,などが大切だと思います。学校の規則が守ら れていないので,きちんとやるべきです。先生が子ど もに時間通り来なさいと言うと,今の子は甘やかされ ているので,親が学校に出てきて先生に言うという状 況になっています。それが困った状況です。
青木:日本も同じ状態です。
ベニー:中国でも一人っ子政策で,子どもが増長する 傾向があります。
青木:責任を教えることも重要だと思いますが,夢を 育てることも大切だと思います。デンマークでは夢や 理想を追いかける心は育っていますか。
リーサ:夢や理想がありすぎます。誰でも首相になり たい,ロックスターになりたいということはできる。
しかし誰もゴミ集めの人になるという言葉は出てこな い。責任はメディアにもあります。メディアはタレン トを紹介して,若い子たちはこうなれば贅沢な人生が 送れるとつい思ってしまいます。いろいろな職業のい い部分だけを見て,たとえばハリウッドのスターだと それを陰で支える人がいるのに,そこには目が届きま せん。そういうことをやりたくないという若い人が 多いです。たぶん豊かになりすぎたのでしょう。16歳 まで仕事をしてはいけないということで,子どもはお 金がどこから来るのがわかりません。飴を買うのにい くらかかるのか,1時間働いて5クローネなので飴を 買えるとか学習できるのに,そういう機会がほとんど ありません。仕事に関してもどこからお金がくるのか もわかりません。今の子は500クローネをぽんとお小 遣いでもらったり,すぐに携帯電話を買ってもらった りするので,子どもたちは自分から身を削って働きま せん。
青木:私たちは今まで,デンマークのキャリア教育の いいところだけを聞いてきましたが,今の話は,その 欠けている部分と理解しました。
リーサ:教育自体に問題があるのではなく,親や社会 に問題があると思います。教育自体に問題があるとは 思いません。夢を持つのはいいのですが,限界がある ことも知らなければなりません。挫折することも知ら なければなりません。
ベニー:先生自体にも問題があるかもしれません。政 策的にはしつけが必要だと思っていますが,過去30年 ほどは先生が親切すぎました。親切すぎる先生にいき なり厳しくといってもうまく回らない。現状の先生と 政府の持って行きたい方向が両極端で真ん中をとるべ きです。若者たちの自立心を壊すわけにはいきません し,規則も必要ですし,若者が反対することも必要で すし,やりたい放題でもいけないし,ブレーキも必要 で,その間が難しいと思います。たとえば学校が厳し くしても家ではやりたい放題では,枠がない。真ん中 の枠が足りないのです。Hellerup Skoleという学校が あり,そこでは生徒が自由に時間割を決めることがで きて,自分でやることを決めることができますが,そ れにも限界があり,個人差もあり,先生が個性や能力 を見極めて指導してやる必要があります。真ん中のと ころを学校の先生がやらなければならないのではない でしょうか。生徒が自分で荷物を運んでいくために,
先生がカウンセリングをして,生徒自身に考えさせる ことが必要です。生徒は最初は非常に好奇心があるの だけれども,賢くなると最初にやりたい気持ちがなく なってしまいます。
青木:ゆっくり学ぶ方がいいのですね。
ベニー:好奇心を持つことがモチベーションにつなが るので,それをなくさないことが大切です。たとえば 宿題が出て,それをやるのに情報が足りないと,これ は何とかしなければならないという挑戦につながって いきます。突然自分が期待していなかったことが起 こったときに,本当の資質が試されることになる。工 具が壊れたたり,材料が届かないときにどうするの か,そういうときに新しい視野が広がってゆくと思い ます。
青木:充実したインタビューでした。ありがとうござ いました。
⑵ 陶器絵付けコースの学生
対象者:Katja Søgaardさん,Liv Sahlgreenさん インタビュアー:青木真理・谷雅泰・三浦浩喜
キャッチャ:キャッチャ,23歳です。
ティーナ(Liv):ティーナ,17歳です。
青木:お二人の学歴と職歴を教えてください。
ティーナ:国民学校が終わった後,10年生クラスにも 行きました。絵を描くのが好きだったので,9年生の 時にロイヤルコペンハーゲンで実習をしました。その 後はチボリ公園でゲームコーナーのアルバイトなどを しました。
キャッチャ:10年生を終わってから,南の方にあるデ ザイン学校に通いました。また別のデザイン学校に通 い,コペンハーゲンに戻ってから3Dグラフィックの コースに5ヶ月間通いました。そして,ビボーという 学校でアニメーションを学びました。
青木:そして今は二人とも,ここで陶器の絵付けの訓 練を受けているのですね。
二人:そうです。
青木:この学校を選んだ理由は何ですか。
キャッチャ:最後にやっていた仕事があまり好きでな くて,どうしようか考えていたときに,父が記事でこ の学校を知り,私がほかにもいろいろな学校に行って いたので,学校の修了証を集めてこの学校に入ること にしました。
ティーナ:両親がロイヤルコペンハーゲンで働いてい て,9年の時に実習を受けて,陶器工場に行くにはど うすればいいのか聞いたら,ここで訓練を受けなさい といわれたので来ました。ここを卒業したらロイヤル コペンハーゲンに行きます。
青木:アルバイトをしたといいますが,直接入らな かったのはどうしてですか。
ティーナ:夏休みのアルバイトです。この8月に入っ たばかりです。二人は同期です。
青木:TECはどうですか。
キャッチャ:やること自体は難しいですが,教育には 満足しています。難しいですがやればできるようにな ります。これまでいろいろなデザイン学校に通ってい るので,それをいかせると思います。
ティーナ:1週間ロイヤルコペンハーゲンで実習をし たのである程度はできますが,難しいです。技術的に もう一度やり直すことは時間がかかってたいへんです。
青木:この学校のいいところはどんなところですか。
キャッチャ:常に新しくて面白いことが勉強できます。
自分の知らない技術を得ることができます。
ティーナ:ほかのコースはフルですが,私たちの仕事 は金曜日が休みなのでいいと思います。
青木:キャッチャさんはいろいろな学校を経験してい ますが,TECと比べてどうですか。
キャッチャ:ここの方がダイナミックです。元々アニ メーターになりたかったのですが,ビボーのアニメー ションの学校では一日中机に向かっていなければなら ない。ここでは皿とか実物をさわって仕事ができるの でダイナミックでいいです。
青木:学校を卒業したら,ティーナさんはロイヤルコ ペンハーゲンに行くといっていましたが,キャッチャ さんは決めていますか。
キャッチャ:私もロイヤルコペンハーゲンに行きたい です。入れなければまたアニメーションの学校に行き たいです。それもだめなら,ほかのことを考えます。
青木:今一番やりたいのは,アニメーションの仕事で すか。
キャッチャ:特に今はこれをというのはありません。
アニメーションを始めたのもやりたかったのではな く,何をしていいのかわからなかったのでいきました。
今の仕事がものになるかどうか見ている状態です。
青木:日本のアニメーションは好きですか。
キャッチャ:「犬夜叉」や「ガンダム」が好きです。「こ の醜くも美しい世界」も好きです。
青木:宮崎駿やジブリの作品は好きですか。
キャッチャ:「千と千尋の神隠し」「トトロ」「ものの け姫」などが好きです。
青木:ベニー先生とはよく会いますか。
キャッチャ:あまり会いません。
青木:なぜ,ベニー先生はあなた方に声をかけたので
Liv Sahlgreen(ティーナ)さん
すか。
ティーナ:ベニー先生がコースの先生方に声をかけ,
インタビューを受けたい人はいませんかと募ったの で,それに応じました。
青木:授業を選ぶのにベニー先生のサポートを必要と しないのですか。
ティーナ:最初の基礎教育が終わったときにカウンセ リングがあるかもしれませんが,今はありません。
青木:国民学校でスクールカウンセラーと話をしたと 思いますが,それはどのような経験でしたか。
キャッチャ:自分の場合は100%決まっていたので,
意味がありませんでした。
ティーナ:8年生と9年生と10年生の時にカウンセリ ングがありました。転機は9年生の時にカウンセラー と話して10年生をやることに決めたことで,スポーツ 学校にいってサッカーをやっていました。それをやり ながらロックバンドを組んでいました。8年生の頃は 学校に行くのがあまり好きではありませんでした。絵 を描くのが好きだったので,9年生の時に陶器工場に 行くことを勧められました。10年生をやったのは意味 があり,600人くらいの生徒と寝泊まりをし,1年間 が3年分くらいあり,人間性が成熟していい経験にな りました。
谷:10年生だけの学校で600人ですか。
ティーナ:一つの敷地にエフタスコーレ(efterskole)
とホイスコーレ(højskole)⑹があり,全体では1,000 人以上,一緒に食事をしたので日常的に600人から 1,000人くらいの人と会うことになります。
青木:デンマークでは,国民学校を卒業したらどこか の学校に行くことが薦められますが,ティーナさんの 場合は学校があまり好きではないのなら,直接就職で
きた方がいいのではないでしょうか。
ティーナ:私は8年生までにいじめに遭い,実際学校 を変えています。9年生や10年生でやっと本当の学校 に出会った感じです。はじめは授業に集中できなかっ たのですが,家族を持ったり子どもを持ったりしたと きに算数などができた方がいいので,それなりの教養 を身につけたいので学校に行くことを選びました。エ フタスコーレはそれほど勉強が厳しくなくてゆっくり やってくれるので私にとって楽で,得るものが多かっ たと思います。
青木:日本ではいじめや不登校がたくさんあります。
各学校にカウンセラーを置きましょうということで やっています。
ティーナ:8年生までいじめに遭って学校を変え,約 1年半学校らしい学校に通い,10年生学校ではいじめ に遭うことはありませんでした。人数が少ないといじ めに遭いやすいですが,ここは人数が多いのでいじめ られることはありませんでした。
青木:国民学校ではいじめから助けてくれる人はいな かったのですか。
ティーナ:コペンハーゲンの真ん中にあるクリスチャ ニア(Kristiania)の国民学校に行き,3人の姉妹が それぞれの学年でいじめられました。先生もいじめに 加わるようなところがあり,学校の環境がよくありま せんでした。みんな学校を変えてからいじめられるこ とはなくなりました。妹たちは今は学校に行くのが楽 しいと言っています。
青木:デンマークの若者や労働者の政策に対して言い たいことはありませんか。
ティーナ:特にありません。
キャッチャ:私もありません。
青木:デンマークに住んでいて幸福ですか。
ティーナ:クリスチャニアは無法地帯のようなところ ですが,全体としてはいいと思います。
谷:前の政府と比べて今の政府はどうですか。
ティーナ:特に前の政府がどうとかと言うことはあり ません。社会民主党が政府に入っていてほしいと思い ます。自由党が政治を続けるべきではありません。
キャッチャ:住んでいるところも特に問題はないので,
デンマークはいいと思います。政治に関してあまり関 心はありません。政府が変わってもあまり変わりはな いと思います。
Katja Sogaard さん
4.インタビュー②:Det 10 .Element Albertslund 10 .‑klasseskole(第 10 要素 アルバーツルンド 10 年生学校)
対象者:Maria Naleurさん,
Sisse Kyster Olsenさん
同席者:John Christiansen氏(副校長)
インタビュアー:青木真理・谷雅泰・三浦浩喜
ジョン:ここで話してくれる二人は10年生で,9年生 を終わってここに来ました。
青木:はじめに,どうしてここに来たのか自由に話し てください。
マリア:ここの学校にはいろいろな可能性と選択肢が あるので,この学校を選びました。私の場合は,将来 子どもに対する職業に就きたくて,ここの学校にはそ れに関するいろいろな人と接することができるので選 びました。
ジョン:二人とも,ここの社会・心理コースをとって います。
シッセ:私がなりたいのは児童対象の心理職です。子 どもと遊ぶのが好きで,私は実際に子どもたちに体操 を教えるトレーナーをやっています。それで,社会・
心理コースを選びました。
青木:どうしてストレートにギムナジウムに行かない で,ここに来たのですか。
シッセ:直接高校に行かなかったのは,すぐに全部の ことを決めかねたからです。というのもこれから児童 対象の心理職として働くには,高校を出た後7年間の 教育を受けなければならない。それだけの長い教育を 受ける気持ちの準備ができていなかったので,手探り 状態だったために自分の気持ちをはっきりさせたかっ たので10年生学校に来ました。
マリア:私もだいたい同じような理由ですが,私の場 合はいろいろなことに関心があったので,自分が本当 にやりたいことに焦点を当てたかったのと,子どもが 好きで先生になりたかったのだけれども,100%確実 ではなかったので,いろいろな可能性を試す中で本当 にやりたいことは何か知りたいと思ってここに来ま した。
谷:それで,気持ちは固まったのですか。8月に入学 したばかりですが。
マリア:今の時点で100%固まっています。
シッセ:私も決まりました。今までいろいろと試す機
会がありましたので,気持ちが固まっています。
ジョン:どのような背景があって,このように短期間 に決めることができたのか,説明してあげてください。
シッセ:二つ理由があって,一つはクラスの中の社会 的雰囲気が助けになったことです。同じような境遇,
立場,年代の生徒が集まっているので,彼らと話すう ちに固まっていったというのがあります。それから,
数学と英語では能力別にクラスを分けているのです が,自分が児童対象の心理職につく上で,数学や英語 の能力が充分なのかどうかわかりませんでした。それ が能力別に分けられたので自分のレベルがどのくらい か,またあとどのくらい勉強しなければならないのか,
わかるようになりました。
ジョン:ここのポジティブな部分は二つあります。一 つは専門科目の分野で知識が得られるというのと,も う一つは同じ年代の若者の環境ということです。9年 生を終えてだいたい16歳ぐらいの若者たちがここに集 まってきます。さっきクラスの社会的な雰囲気と言っ ていましたが,その二つの部分があってプラスになっ ているのではないでしょうか。つまり,専門的な分野 で知識が得られるというのと,高校に行くのと同じよ うな若者の文化ですとか,若者のいる環境が一つにコ ンパクトにまとまっている,この二つが,彼女たちの 将来を決める上で,両方の面で役に立っているのでは ないかと思います。今日しゃべってくれている二人は,
100%将来について決まっている人たちですが,ここ に1年間いても将来が決まらない若者たちは,まだた くさんいます。どこの学校にもそういう生徒はいます。
彼女たちは,特別とは言いませんが。
谷:日本と制度が違うのでよくわかりませんが,環境 というのがポイントになるようですね。同い年と言っ ていましたが,年齢のことなのでしょうか。
ジョン:そうです。16,7歳というのは,子どもから 大人になるときで,大人へのドアを開けるときですか ら,抱えている悩みとか,将来への不安,決めかね方 がみんなよく似ていますから,まとまった16,7歳と いう環境は意味があると思います。
マリア:デンマークには,国民学校卒業後,HF とい うコースをとって何年か後に大学入学資格を取って大 学に入るというコースと,普通に高校に3年間通う コースとがあるのですが,私の場合,ここに来る前,
どちらがいいのかわからなかったというか,不安で決 めかねていました。ここに来ていろんなコースをやる うちに,どっちに行ったらいいのか,気持ちが固まり,
HF のコースをとることに決めました。それは普通の
高校だと1年間が終わったときに成績が出るわけで す。HF というコースをとると教科ごとの成績ではな くて,いろいろなタスクや宿題,レポートなどがあり ます。それらのレポートに対して評価が出るので,そ ちらの方が自分に向いていると思ったからです。試験 を受けて,成績を出すという日本と同じようなことを デンマークでもしていますけれども,それではない方 法が自分には合っていると思いました。
青木:午前中,近くのギムナジウムに行ってきたので すけれども,19歳の子たちのクラスで聞いたら8名中 2名が10年生クラスを終えてきたと言っていました。
その中の一人に「10年生クラスはどうだったか」と聞 いたら,「とてもいい経験になった。いろいろな経験 ができたのと,勉強があまりきつくない,宿題をたく さん出されるということがない」と言っていましたが,
そのあたりはどうですか。
マリア:ここはそうではないと思います。英語や数学 のレベルが高く,英語は週に1回は書いて出す宿題が ありますし,数学も試験がたくさんあります。私の場 合は,ここに来ても時間を無駄に費やしたという考え はありません。決して勉強が易しいということはあり ません。
青木:ということは,10年生クラスというのもいろい ろあるということですか。
ジョン:学校によって10年生クラスのレベルが違うと いうことはなくて,この学校の中にもいろいろなレベ ルがあるということです。彼女たちは教科のレベルも かなり上で,普通に高校に確実に入れるレベルです。
ただ,将来に対して100%確実でなかったのでここに 来たということです。同じこの学校でもレベルの低い 子とか,いろいろなバックグランドを抱えた生徒が集
まってきている。学校のタスクとしてはそういったい ろいろな子どもをちゃんとしたところに導いてやるこ とです。ほかの学校と比べてこの学校がどうこうとい うことではありません。ここだけではなくてデンマー クで一番問題になっているのは,ドロップアウトする 生徒が多いということです。この学校の課題はなるべ くドロップアウトさせない,この10年生クラスを終え た後に,確実に青少年教育の場に引きついでいけると いうことが仕事で,実際98%が次の段階の青少年教育 のコースにつくことができています。今日行った若年 者ガイダンスセンター(UU‑Vestegnen)でガイダン スの中に,2週間のこちらとの橋渡しのコースがある というのを聞いてきましたか。ここにいる1年間に2 週間二つのコースがあって,どちらかを選ぶことがで きます。他の普通の高校のコースと,商業や技術の学 校を選ぶコースがあります。
青木:それは,実際に行って体験するコースがあると いうことですか。
マリア:そうです。いくつかの国民学校ではやったこ とがあるのですが,ここだけではない10年生クラスの 全員が集まって,一つのクラスになって,高校や商業 専門学校などの実習をするということです。
青木:あなたたちはまだ行っていないのですか。
シッセ:まだ行っていません。今週中にどこに行くか 決めなければなりません。
ジ ョ ン: 今 の 橋 渡 し 研 修 の ほ か に,2日 間 だ け TEK‑10⑺で商業大学やビジネススクールに行って,
そこの先生に教えてもらうというコースもあります。
それも橋渡し教育の一環になっています。
青木:ガイダンスカウンセラーと話をすることは大事 だと思うのですが,あなたたちはよく話をしますか。
マリア:1年に2回カウンセラーがクラスに来て,職 業について説明をしてくれます。その後で,何回か,
1回ということもありますが,カウンセリングを受け ます。
青木:すでに個人カウンセリングを受けましたか。
マリア:まだ受けていません。ただ話したいことは話 しました。自分が行きたい学校が遠くにあるので,情 報をもらいたくて話をしました。
シッセ:私もまだ受けていません。実習に行くときに,
この学校と提携した学校があるそうなのですが,それ 以外の離れた学校や特別な学校に行きたいというとき に,カウンセリングの先生を通じて紹介をしてもらう,
情報を集めるということが必要になってきます。そう いう話はしました。
Maria Naleur さん
青木:社会・心理コースは何人受けているのですか。
マリア:19人です。全員女の子です。
青木:日本も同じで,心理学はどうしても女の子に偏 りがちです。
マリア:はじめは男の子が一人いたのですが,自分以 外全員女の子なので,コースを変えていきました。
青木:19人の中でお互いに将来を話したりしますか。
シッセ:非常にたくさん話します。レベルもいろいろ 違いますし,同じレベルで集まって話したりします。
たとえばHFのコースをとるか大学のコースをとるか など,自分たちのレベルがどのくらいなのかなど,よ く話します。
青木:レベルというのは学力のことですか。
マリア:そうです。私たちは同じ社会・心理コースを 選んだので,将来に対して同じ関心がある,その中で どういう勉強をしていったらいいのか悪いのか,話し やすい環境にあります。
ジョン:カウンセラーの役割は二つあります。一つは もちろん橋渡しのためのいろいろなテーマのプロジェ クトがあるという情報を教えることと,生徒との会話 です。会話というのは何をしなさいと要求するのでは なくて,話しているうちに彼女たちがどういう方向に 行ったらいいのか,自分で見いだせるようにすること が重要な仕事です。前者はガイダンスのことで,具体 的な情報を与えることで,後者は人間的に成長するこ とを手助けするという,この二つです。それがカウン セリングをする人の役割です。ガイダンスは時にはた いへんなときもあって,たとえばこの子たちを真ん中 において親と対峙して,つまり,親はこの子たちにこ う進んでいってほしいというのがあると,彼女たちの 弁護士としての役割をして,親との間に不和が起きる
ことが多々あります。
青木:みなさんは親御さんとの意見は一致していま すか。
マリア:私の場合は,両親はやりたいことをやってく れるのが一番だと言っています。
シッセ:最終的には,親は理解してくれました。社会・
心理のコースはとても長いので,親は本当に大丈夫な のかと心配しました。何度も何度もディスカッション をして,最後にはバックアップしてくれると言ってく れました。
青木:児童心理学を勉強して,どういうところで働く のですか。
シッセ:おばさんが病院附属の心理クリニックの児童 心理職です。私もそうなりたいです。通常は自分で開 業してカウンセリングを行うこともできます。
青木:自治体に,PPR(Pædagogisk Psykologisk Rådgivning)という学校で働く心理職の部署がある と聞きましたが,それには関心はないですか。
シッセ:私はその方向は考えていません。
マリア:私はそれも考えましたが,学校の心理カウン セラーは多くの場合先生としての教育を受けてきて,
後から心理カウンセラーの勉強をするので,私はそう ではないと感じました。
青木:私は,関心があるので来年は PPR を訪問しよ うと思っています。
ジョン:Albertslund の学校には,PPR を通して心理 カウンセラーが市のすべての学校に配属されています が,この学校はまだ人数が足りません。あなた方がも し望むのであれば,PPR にインタビューできるよう に紹介してあげましょう。ここに心理カウンセラーが いないのはとても残念です。もしこの人たちが9年生 までいた学校で,いろいろな問題があって,それを引 きずってここに来ているのであれば,新たなカウンセ ラーがいればここで話すことができるのですが,過去 に戻ろうと思ったら自分の過去の学校の心理カウンセ ラーに戻らなければなりません。
青木:ここは寮制の学校ですか?
ジョン:違います。
青木:いくつか,寮制の学校があると聞きましたが。
ジョン:年齢的には同じですが,形態が違います。
青木:どのように違うのですか。
ジョン:一緒に寝食を共にするというのがエフタス コーレで,ここは近隣から通ってきます。
青木:けれども,エフタスコーレと10年生クラス学校 は,目的は同じですか。
Sisse Kyster Olsen さん
マリア:一つはイエスです。どちらであっても,選べ るテーマや教育の内容は似通っている,もちろん将来 に対して生徒が確実になるようにします。エフタス コーレは寮制の学校ですから,たとえば家庭に問題が あって,家に住むことができない子どもたちが,場合 によっては家からかなり離れたところで勉強する環境 ができているというのが違うでしょう。
青木:去年訪ねた学校の中には,国民学校の中に 10年生クラスがあるという学校がありましたが,
Albertslund区の中にはそういう学校はないのですか。
マリア:そうです。
ジョン:10年前と今とではだいぶ変わってきていま す。10年前だと,おっしゃるとおり国民学校の中 に特別に小さなクラスの形で10年生のクラスがあ りました。しかし9年前から状況は変わってきて,
Albertslund も含めて,全国の傾向ですが,10年生ク ラスを国民学校から外して独立してつくるようになり ました。Albertslund に住んでいて10年生クラスに行 きたい人は,すべてここに来るように変わりました。
青木:センターにしたというのは,予算を小さくする ためですか。
ジョン:政治家に聞けば絶対にそういう理由ではない というでしょうが,確かにその面はあるでしょう。個々 の学校が10年生クラスを持つよりも,センターとして まとめた方がいろいろなことができる,たとえば,音 楽のコースにしても,演劇のコースにしても可能性を 広げることができる,ということもありますから予算 の問題だけではありません。
青木:こんなにすばらしい10年生学校なのに,政府は,
10年生クラスを経由しないで直接ギムナジウムに行っ てほしいと言っていますが,それについてはどう思い ますか。
シッセ:政府がそういう考えをしているのは事実で す。しかしそうなれば,非常に多くの生徒がドロップ アウトしてしまうでしょう。将来に対して決めかねて いる生徒はたくさんいるので,それは問題になります。
ジョン:政府の対策としては当然のことで,日本と同 じように少子高齢化が進んでいますから,高齢者に対 して子どもの数が少ないですから,なるべく早く教育 を終えて,なるべく早く労働市場に出して生産性を高 めたいというのが政府の本音です。もちろん,国の考 えからすればここの1年間は何もすることもなく無駄 だという考え方が現実にあります。ヨーロッパで行わ れた労働市場の調査によれば,労働市場に出るデン マークの若者の年齢がかなり遅いのだそうです。しか
しそれは逆に言えば,それだけのものを人間的に身に つけてから,つまり人間的に成熟してから労働市場に 出るということが現実です。政府の考え方とは違いま すが,無駄ではありません。
青木:がんばって残そうとするのですか。
ジョン:今政権を握っているのは自由党で,Albertslund 区の路線は社会民主党なのですが,政策が異なり,10 年生クラスを残したいとしています。当然残すために がんばりたいと思います。
青木:逆に,なぜ9年間では決められないのですか。
国民学校に何か足りないものがあるのでしょうか。
ジョン:証明はできませんが,学校に足りないものが あるというのではなく,9年間で将来を確実に決める 子どもも確かにいます。しかし,9年間の教育を受け た子どもは15歳ですが,ここで1年間過ごすと16歳,
17歳で,―これは100%自分の推測ですが―,年
齢的に15歳で自分の将来を決められる子がどれだけい るのか,16,17という年齢は自分の将来に対して真剣 に考える時期,そういう年齢の差なのではないかと思 います。学校自体に何か足りないということではない と思います。
青木:生徒さんはどう思いますか。
マリア:普通の学校は9年制ですから,9年生の終わ りになって試験になって成績がついて,そこからあな たはどうするのかと選択を突きつけられる,それでは 遅いと思います。もうちょっと早くからやれば,選択 の余地もあるけれども,9年生の最後になって決めろ といわれても決めかねる,ここでの1年間でいろいろ な選択肢を考えることによって,選択する時間があり ます。
青木:国民学校などに行って感じたことですが,カウ ンセラーが何度も何度も「将来何になるの」と聞いて いましたが,それでも決められないものなのでしょ うか。
シッセ:私たちの学校は半年前に本格的なカウンセリ ングが始まったので,やはり遅すぎた。ここに来てレ ベルとか目標について話しますが,そういう社会的な 面で話し合う機会が少なかったので,決めるのが難し かった。
ジョン:システムとして1年生からガイダンスはでき るのですが,実際問題となってくるのは9年生になっ てからだと思います。どれだけ子どもたちが将来の計 画に対して不確実かというと,ここの学校に入る前に 教育プランというものを出すのですが,それが1年の 間に何回も変わります。それだけでもいかに不確実か
がわかるでしょう。
青木:教育プランのフォーマットを見せてもらいました。
シッセ:私たちがプランを書いたのは8年生か9年生 でした。しかし私の3つ下の弟はもう教育プランを書 かされたり,質問に答えたりしているので,もっと早 くからやればもっと違っていたかもしれません。
青木:早くなっているということですか。
シッセ:そういうことです。
谷:ここに入ることを決めるのは何月ですか。
ジョン:3月15日です。この市の学校にパンフレット が1月に配られ,2月3月の間に見て決めます。最初 から10年生をめざしている生徒は3月15日までにここ に申請を出して,夏休みが終わって,8月にここで始 めます。しかし生徒の中には9年生を終えて高校に 行ってからレベルについて行けず,本当について行け ないのかとテストをしたら合格できず,結果としてこ こに来てしまったという生徒もいます。
谷:二人は3月15日に手続きをしたクチですよね。
シッセ:そうです。
谷:ここに来ようと心の中で決まったのはいつ頃で すか。
マリア:時期としては2月頃です。私は別の市から来 ていて,自分のところのカウンセラーに相談してここ に来ることに決めました。
シッセ:私も別の市に住んでいて,父が Albertslund 区の市の学校で働いていて,父から紹介してもらって インターネットで調べて自分で決めました。
青木:遠いのですか。
シッセ:隣です。電車で一駅隣です。2,3分です。
ジョン:隣の市だけでなく,この学校はどこでもオー プンです。隣の市にも10年生学校があるのですが,別 の学校に行く場合,隣の市がこちらの市にお金を払う 仕組みになっています。
青木:すべての人が UU‑Vestegnen のようなガイダ ンスセンターでフォローされるわけですが,そういう ケアされているシステムというのは,逆に窮屈な,管 理されているという感じはしませんか。
シッセ:しません。自分で教育プランを立てて,やっ てみてできないときに,UU‑Vestegnenのようなとこ ろで相談すると,「このようにしなさい」と要求され るのではなく,「あなたは何がしたいの」というよう に聞いてくれる,管理されているという面もあるけれ ども,窮屈だとは思いません。
青木:UU‑Vestegnenの扱うクライアントにはドロッ プアウトしたあげく何もしていないという人もいて,
カウンセラーたちは彼らの家に行ってアドバイスする ということもありますが,それはお節介だと思いませ んか。
シッセ:状況が違うのでわかりませんが,私たちはお 節介だと思えばお節介だと言える年齢ですから。
ジョン:私も以前カウンセラーでしたが,場合によっ てはせっかくアドバイスしても反応がないので行った ら,これ以上話したくないと断られたこともあります。
青木:今朝カーステン(UU‑Vestegnen所長)と話し ていて,子どもたちに将来を決める上で誰の影響が強 いかと調べたら,10年前は1位が「お母さん」だっ た,現在はどうかというとやはり親の影響が強いので すが,UU‑Vestegnenの影響も強いと言ってほしいと 言っていましたが,あなたたちは誰の影響が強いので しょうか。
マリア:人によりけりでしょうが,最後は自分だと思 います。自分で決められないときは家族のアドバイス が貴重だと思います。
ジョン:調査をしたときにプロフェッショナルの教育 を受けたカウンセラーの仕事がどれだけ役に立ってい るかという調査で,トップ10の4番目だったのですが,
それではいけない。もちろん母親は自分の子どもが何 に向いているか知っていますが,プロの仕事がこれで は情けない,そこからこういう話になったのです。
青木:カーステンの気持ちが理解できますか。若者は どう思っているのでしょうか。
マリア:もちろんそういう意味では理解しています。
どういう教育を受けたらいいのかについて確実な情報 を与えるプロの人たちのことを信頼しています。
青木:お二人と話をして,10年生クラスの意義がよく わかりました。ありがとうございました。
(学生が帰った後,副校長のジョン氏に対して補足的 な質問を行う。)
三浦:現在の生徒数が年によって,どの程度変動して いるのか,また先生の数がどのように対応しているの か聞きたいと思います。
ジョン:現在125人います。多いときで150人ぐらい,
もちろん9年生の数によって変わりますが,だいたい 50%の9年生の子が10年生クラスに来ています。少な いときで99人でした。99人の時は130人でスタートし たのですが,「ここに来たのは間違いだった」と去っ ていった生徒がいました。始めるときに生徒たちに言 います。「私たちはあなたたちを助けるためにいろい
ろなことをしてあげたい,しかしあなたたちの方から も自分たちで受け入れる態度を持ってくれないと困り ます」と。もちろん,ここに来たけれどもやめるとき には,必ず親御さんたちと何度も話を重ねます。それ はここに残ってほしいという話し合いではなく,ここ を出た後にどうするのかということを話し合います。
谷:やめるというのは,違うキャリアに変えられると いうことですか。9月,10月にここに来る人もいると いうことですが。
ジョン:さっき述べたTEK‑10というプロジェクトで,
1週間に2回よそに行って商業学校などで授業を受け るというのがありましたが,ここをやめる子の典型的 な例としては,専門学校に行ってやるんだったら,商 業学校に直接行こうと言ってやめるというものです。
谷:それは,先生にとってある意味では喜ばしいこと ですか。
ジョン:もしかしたらそうかもしれませんが,専門学 校や商業学校を受け直すというのは目標がはっきりし ているわけですね。メイクアップアーティストならそ のコースというように。でもTEK‑10の目標はいろい ろなコースを経験できるというものです。はっきり決 めかねている人が100%決まらない段階で商業学校の ように目標がはっきりしたところに行くと失敗する可 能性があります。
青木:もしTEK‑10を途中でやめて,商業学校やTEC に行くとしたら,数ヶ月待たなければならないのです よね。
ジョン:どこの教育機関に行くかによって異なりま す。たとえば普通の高校だったら1年間待たなければ なりません。商業学校なら1年に2回入るチャンス があります。ほかの技術学校だったら,5週間に1回
ぐらいチャンスがあります。待っている間長いと1年 ぐらいになりますから,その間の生活のためにアルバ イトをすることになり,それが面白くなって戻ってこ なくなるということもあります。1年間待って高校 に行く予定だったのに,行かなかったということが あります。そういうときに威力を発揮するのが UU‑
Vestegnenで,そういう生徒をつかまえて,どう考え ているのか聞いたりします。
谷:生徒の進路がどうなっているのか,大まかでいい ので教えてください。
ジョン:資料は UU‑Vestegnen にあり,学校にはあ りません。だいたい,1/2以上の生徒は,高等教育,
つまりHFのほうに進みます。残りは別のところに進 みます。そのHFのコースをとるには10年生クラスを とらなければならないので,HFに行く人が多いです。
谷:HF にいくには10年生クラスをとらなければなら ない?
ジョン:そうです。ただ HF にもいろいろあって,
HF の教育課程は2年間で,その2年間のまとまった 教育課程をとるためには10年生クラスは必須です。た だ,生涯教育としてHFのどれか1個の科目だけをと るのは可能で,10年生クラスは必須条件ではありません。
谷:HFに行って大学に行く道があるのですね。
ジョン:そうです。
谷:ギムナジウムに3年間と,10年生クラスで1年プ ラスHFで2年間がそろうのですね。
ジョン:そうです。たとえば HTX とかいろいろほか にあるのですが,それらはすべて同じ大学入学の資格 を得ることができます。たとえば高校に行ってたとえ ば数学の試験を受けて,レベルがBとかCだった場合,
大学に入る資格が得られないので,その場合補助コー スを受けて資格に達するまで教育を受けるコースもあ ります。その場合余計に教育を受けることになります。
青木:そもそもHFはどのような目的で,いつつくら れたのですか。
ジョン:HF は学校ではなくシステムです。25年ぐら い前ですかね。元々の目的は高校の教育を終えて美容 師などになったときに,やはり大学に戻りたいという 人に可能性を与えるために,また労働市場に出てし まったけれどもまた大学に戻りたいという,つまり成 熟した人に大学に戻る可能性を与えることが目的でし た。彼女たちのように10年生クラスに行って,HF に 行くというのは当初の目的からは外れています。普通 に9年生を出た後,高校に行けばいいわけですから。
元々のデンマークの教育の考え方は生涯教育ですか
John Christiansen氏