総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成22年度)
テーマ1 小課題番号1.2-2
シングル配筋ラーメン構造の提案
小野里憲一1*
耐震補強、鉄筋コンクリート、ラーメン構造、シングル配筋、高強度鉄筋、高強度コンクリート
1.はじめに
既存の耐震補強工法として、図1に示すように建 物の外部に薄型の補強ラー メンを付帯させることに よる工法が開発されている 。その代表的な工法は 鉄 筋コンクリート補強ラーメ ン内に 鋼板を内蔵する。
現在、鉄筋とコンクリート の高強度化によって、こ れまでは鉄骨鉄筋コンクリ ート造で建てられていた 建物でも、鉄筋コンクリー ト造で建てられるように なってきた。そこで、高強 度化された鉄筋とコンク リートを利用すれば、鋼板 を内蔵しなくても、 鋼板 を内蔵した既往の工法に匹 敵する高い補強効果を得 られることが期待できる。 補強ラーメンに鉄骨を内 蔵させないことによる利点 は、鋼板を発注・加工お よび鉄骨の建て方を必要と しないことから工期が短 縮でき、断面の応力が集中 する断面の縁部分に鋼材
(主筋を)を集中して配置 できることから使用鋼材 が削減できる。また、あと 施工アンカーを鋼板に精 度よく貫通するという手数 のかかる作業がなくなる
ことから施工性が向上する等の期待があげられる。
ここで提案するシングル配筋ラーメン構造は図 2 に示すように柱・梁の主筋 をシングル配筋とした鉄 筋コンクリートのラーメン構造である。図2(b)のよ うに主筋をシングル配筋と することで、部材断面の 幅を 200mm程度に抑えることが可能だ。
使 用 す る 材 料 に は 、 コ ン ク リ ー ト 強 度 60N/mm2 級、鉄筋には SD490~SD685 級を用いて高い補強 効果を狙うことを目標とする。
なお、シングル配筋 ラーメ ン構造は耐震補強だけ でなく新築建物においても 、大きな断面の柱形を有 しないラーメン構造として 展開・応用することも可 能であると考えるが、まず は、1構面という単純な 構造で構築可能な耐震補強工法として提案する。
2.補強効果
高強度の材料を用 いたシ ングル配筋ラーメン構 造がどれくらいの補強効果 を期待できるのかを説明
*1:工学院大学工学部建 築都市デザイン学科 補 強 ラ ー メン
既 存 建 物
図1 既存建物の補強
500
500 50 50
5050 180
9090
500
52.552.5
50 50
(a)概要図 (b) 主筋をD25、せん断 補強筋をD10 とした場合の鉄筋の収まりの例
図2 シングル配筋ラーメン構造
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テーマ1 小課題番号1.2-2
する。図3(a)は主筋にSD685のD38、帯筋にSD345
の D13、コンクリート に Fc=60N/mm2を使用するこ
とを想定した部材断面図である。これに対し図3(b) は現在耐震補強されている 建物で使用されている平 均的な材料 として、 主筋 に SD345 の D22、帯筋に SD295の D10、コ ンクリー トに Fc=24N/mm2を用い ると仮定して、図 3(a)と同 等の 曲げ強度を有する断 面を示している。また、鋼 板内蔵ラーメン と比較し た場合には、鋼材にSN490級を用いるとして、図3(c) のような断面が曲げ強度が 同等になる。集合住宅を 想定した場合、図3の断面であれば何れも柱1本当
りで600kN程度のせん断力 を負担 できる。これらの
断面図を比較すると、図 3(a)のシングル 配筋ラーメ ン構造は高強度の材料を使 用して配筋をシングルと することで躯体断面は鉄骨 を内蔵させた場合と同程 度となり、使用する鋼材を 大幅に抑えられる ことが 分かる。
3.解決しなければならない問題点
しかし、これまでに行った 検討の結果、シングル 配筋ラーメン構造を実現化 するためには解決しなけ ればならない点がいくつか あることがわかった。そ れは高強度の太径鉄筋を利 用するため発生する問題 で、主に次の2点である。
1)鉄筋の定着長さの確保
高強度の太径鉄筋を用い た場合、必要な定着長さ がとても長くなる(図 4(a)、(b))。鉄筋を定着する部 材のせいは、既存部材より 大きくすることが望めな いため、必要な定着長さが 確保できない場合が発生 することが明らかになった(図 4(c))。
2)柱梁接合部のせん断破壊 防止
高強度の太径鉄筋を用いた 場合、柱梁接合部に大 きなせん断力が作用する。図5(a)と(b)に、 図3(a)と 同じ断面で主筋を一段配筋にした場合と 2段配筋に
40
200
600
600
600
190
600
450
2-D38(SD685) -D13@100(SD345) 2-D38(SD685)
主筋
主筋 帯筋
Fc=60N/mm2
-D10@100(SD295A)
帯筋 主筋
主筋
Fc=21N/mm2
10-D22(SD345)
10-D22(SD345) PL-40x450(SN490B)
(a)シングル配筋ラ ーメン (b)平均的な 材料 (c)鋼板内蔵ラーメン
図3 強度が同等な断面の比較
梁
柱
柱せいが小さいため定着長さが 必要定着長さを満足しない。
定着長さ 柱せい
(a)L形接合部の必要定 着長さ (b)十 字型接合 部の必要定着長さ (c)必要 な定着長さが確保できない
0 200 400 600 800 1000 1200 1400
10 15 20 25 30 35 40
必要定着長さ(mm)
主筋の径 SD6 8 5
SD5 9 0 SD4 9 0 SD3 9 0
0 200 400 600 800 1000 1200 1400
10 15 20 25 30 35 40
必要定着長さ(mm)
主筋の径 SD6 8 5
SD5 9 0 SD4 9 0 SD3 9 0
図4 定着長さ
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した場合の柱梁接合部に生 じるせん断力とせん断強 度の関係を示した。図のよ うに接合部に生じる力が、
接合部の強度を上回る場合 があることがわかる。こ れにより、図 5(c)に示すよ うに、 柱や梁が部材強度 を発揮する前に接合部が先 にせん断破壊を起こして しまう可能性があることがわかった。
4.問題解決へ取組み 1)鉄筋の定着長さの確保
図6に示すように接合部の形状によって、定着方
法は異なる。これまでの検 討で、既存部材の柱せい
を 600mm と想定した場合 、高強度の太径鉄筋では
定着長さを確保できないことがわかった。検討はRC 規準式 1)によって行われた もので、実験の検証結果 によってはより高強度の太 径鉄筋まで適用できる可 能性もあるが、そうでなか った場合に備えて解決案 について検討を行った。
① 延長定着
T形、ト形 、L形の定 着 部で鉄筋を定着する場 合 、 仕 口 内 に 定 着 す る よ り 、 図 7(a)、(b)に 示 す
(a)U字形延 長定着 (b)機械式延長定着 (c)スパイラル筋補強
図7 定着長さの確保
(a)井形斜め筋補強 (b)X形筋補強 (c)S型斜め 筋補強 (d)格子型 斜め筋補 強機
図8 柱梁接合部のせん断補強
T形 L形
ト形 十字形
図6 柱梁接合部の形状
(a)1段配筋にした場合 (b)2段配筋に した場合 (c) 梁接合部のせん断破壊
図5 柱梁接合部のせん断破壊
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
接合部に生じるせん断力(kN)
接 合 部 のせん断強度(kN) T形接合部 L形接合部 十字形接合部 ト形接合部
D 38 D 25
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
接合部に生じるせん断力(kN)
接 合 部 のせん断強度(kN) T形接合部 L形接合部 十字形接合部 ト形接合部
D 38 D 25
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テーマ1 小課題番号1.2-2
よ う に 定 着 鉄 筋 を 延 長 し て 外 側 の 主 筋 を 超 え て 定着することで、高い定着 効果が確保できること がわかっている2)。
② スパイラル筋補強
鉄 筋 の 定 着 強 度 を 向 上 さ せ る た め に 、 図 7(c) に 示 す よ う に 定 着 部 の 鉄 筋 を ス パ イ ラ ル 筋 で 覆 う。
2)柱梁接合部のせん断破壊 防止
① 延長定着
定着長さと同様に、T形 、ト形、L形の定着部 で、定着鉄筋を延長して外 側の主筋を超えて定着 す る こ と は 接 合 部 の せ ん 断 強 度 を 高 め る 効 果 が ある。
② 斜め筋補強
柱 梁 接 合 部 内 の せ ん 断 補 強 筋 は 柱 梁 の せ ん 断 補強筋と異なり、接合部の せん断強度を上昇させ る効果はほとんど無い。しかし、柱梁接合部がせ ん 断 変 形 す る こ と を 直 接 拘 束 で き る よ う 斜 め に 鉄筋を配筋できれば、せん 断強度を上げられる可 能性がある。斜め筋の配筋 は施工的に困難な場合 が多いが、 シング ル配筋ラ ーメン構造 であれ ば、
図 8 に示す ような 配筋が 比較的容易 に施工 可能 である。
3)定着補強と柱梁接合部 のせん断補強を同時に行 う場合
前述のような鉄筋の定着長 さの確保と柱梁接合部 の補強が個別の場合は図7、8に示すように補強が可 能であるが、現実には両者 を 同時に行う場合がある。
しかし、特にスパイラル筋 による定着部の補強は、
多くの場合柱梁接合部のせ ん断破壊防止筋と干渉す
るため、図 7(b)に示すX形筋による補強以外では組 み合わせが困難である。そこで図 9に示すように、
スパイラル筋の替わりに主 筋の両側をせん断補強筋 で挟み、防錆塗装した両端 コブ付き鉄筋を厚さ方向 に配筋することでスパイラ ル筋と同様の効果を期待 できるのではないかと考え る。定着部の補強と柱梁 接合部のせん断補強を同時 に行った場合の配筋案を 図10に示す。
5.おわりに
新しい耐震補強工法として、高強度鉄筋と高強度 コンクリートを利用したシ ングル配筋ラーメン構造 の提案を行い、これまでに 取り組んだ検討について 報告した。シングル配筋ラ ーメン構造は様々な利点 があるものの、定着長さ、 柱梁接合部のせん断強度 について解決しなければな らない問題がある。次年 度以降は実験による検証を しながら問題解決に取り 組む予定である。
参考文献
1) 日本建築学会:鉄筋コンクリート構造設計規準・
同解説、2010
防錆処理された コブ付き鉄筋
せん断補強筋 主筋 せん断補強筋
主筋 スパイラル筋
(a)スパイラル筋 (b)コブ 付き鉄筋
図9 定着効果を高める工夫
(a)井形斜め筋補強 (b)X形筋補強 (c)S型斜め筋補強 (d)格子型斜め筋補強機
図10 定着補強と柱梁接合部のせん断補強を同時に行った配筋