2017 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
なぜ携帯電話のCMは人気があるのか
A1442389
林 佑太朗
2018年 1 月 15 日提出
目次
I. はじめに
II. CMで見る日本携帯電話市場の歴史
III. iPhoneが残したモノ
IV. 過熱するシェア争い
V. CM戦争
VI. 新興勢力の登場
VII. 携帯電話業界の未来
参考文献・資料
I. はじめに
「昨今、テレビを見ていてケータイのCMを見ない日はない。」そう断言できるほどに携 帯電話会社のCMは勢いがある。それを如実に表すデータとして以下に示すのが、2017年 上半期のCM好感度ランキングである。
順位 企業名 商品名 代表作品名
1 KDDI au 三太郎シリーズ
2 NTTドコモ NTT DOCOMO 特ダネを追え!シリーズ
3 ソフトバンク Softbank 白戸家シリーズ
4 ソフトバンク ワイモバイル 桐谷とピコ太郎とふてニャン:
SIM太郎
5 リクルート タウンワーク 松本人志:コーヒーショップ 6 UQコミュニケーションズ UQ 家族、だぞっ:JKになる三女 7 日本コカ・コーラ ジョージア 山田孝之:おつかれ、俺たち。
8 アマゾンジャパン Amazonプライム ポニー
9 サムスン電子 GALXY 昨日までを、越えてゆけ 10 住友生命 1UP 瑛太:試験で1UP 出所:CM総合研究所「2017年上半期 CM好感度ランキングTOP10」
トップ10銘柄のうち携帯電話会社のCMは5銘柄あり、首位のauはこの時点で3年連続 のNo.1に輝いている。確かに現在の携帯電話業界においては、ドコモ・au・ソフトバンク の「3強」や上記のUQに代表されるMVNO、さらに最近では楽天が「第4のキャリア」
として参入することを表明するなど厳しいシェア争いが展開されており、広告宣伝に力を 入れることには頷ける。しかし実際に各社の CM を詳しく見比べてみると、自社の製品の 宣伝というよりは「抽象的」で、顧客の「情緒面」方向に訴えかけるものが多い印象を受け る。CMの内容に関しても、表現の方向性は違えども、ドコモの「シェアパック」とソフト バンクの「ギガモンスター」などはほぼ同じサービスである。ここから疑問として浮かぶの は、日本の携帯電話市場がコモディティへと収束して行っているのではないか、という点で ある。
そこで、本論文においては
日本の携帯電話市場はコモディティ化が進行している
という仮説の下、「CM」という観点からその実態を解明していく。
II. CMで見る日本携帯電話市場の歴史
第一期:概念の定着(1979年~1994年)
日本の携帯電話はガラパゴス市場であるが、同時に世界最古の市場でもある。そもそも、
現在の携帯電話の原型となったのは自動車に搭載される自動車電話であり、1979年に電電
公社(現NTT)より世界で初めて実用化された。残念ながら当時のCMは確認できず、当
時の雰囲気を偲ぶことはできなかったが、契約時の保証金が20万円、月額基本料が3万円 という料金体系からは、この商品が決して一般大衆向けではなく、一部の富裕層や即時性の 求められるビジネスマンといった限られた層に向けたものであったことはうかがい知れる。
本当の意味での「携帯」電話が登場したのは1985年、民営化により誕生したNTTより発 売された「ショルダーホン」である。これは、それまでは据え置き型だった自動車電話を車 外にも持ち出せるようにした、といった趣の製品であり、重量が3kgもある一方、連続通話 時間は40分ほどしかなく、まさに「持ち運べるようになった」だけの代物であった。こち らも CM が確認できなかったが、料金体系がほぼ同様であることを鑑みると製品のターゲ ット層は自動車電話と変わらないことが推測できる。1987 年には 900g まで小型化したハ ンディタイプの機種が登場し、NTTはここで初めて「携帯電話」の呼称を用いている。CM ではキャリアウーマン風の女性が電話をかけるシーンが使われており、相変わらずターゲ ット層はビジネス方面のような印象を受ける。
このように、初期の携帯電話は非常に高額な製品であり、サービスもNTTが独占している 状態であった。こうした状況に転機が訪れたのは1988年、IDO(現KDDI)の参入を皮切 りにDDIセルラー(現KDDI)などの新規参入が始まり、NTTの独占状態が終焉を迎えた のである。競合の登場により高止まりしていた価格の引き下げ競争が始まり、ビジネス層を 中心に携帯電話が徐々に普及していった。当時のIDOのCMでは、ビジネスシーンのほか に若者たちが楽しそうに携帯電話で通話するシーンが描写されており、低価格化による一 般層への普及も見越したものであるといえる。
自動車電話の登場からこの時点までの販売・広告戦略を総括してみると、今までになかった まったく新しい概念である携帯電話を認知してもらうことが第一義であったといえる。CM において描写されているのはもっぱら屋外で通話しているシーンであり、どこでも電話で 切る便利さをアピールしている。そうした概念周知の重要性はNTTのCMにおける「電話 が、家を出た」というシンプル極まりないキャッチコピーに象徴されているといえる。
第二期:定着と高機能化=ガラパゴス化の時代(1994年~2008年)
携帯電話業界に次の大きな変革は1994年に買い取り制が導入されたことによってもたら された。それまでの携帯電話は電話会社からのレンタルという形をとっており、高額な初期 費用や月額料金の中には保証金や保険料が含まれていた。これをユーザーが端末を買い取 る形式に改めることによって料金の大幅な低廉化が実現し、携帯電話の一般層への普及が 拡大していくこととなった。こうした動きに呼応するように、業界にも新規参入業者が次々 と現れ、J-PHONE(のちボーダフォン、現ソフトバンク)などが名乗りを上げた。
こうした競争の激化は、サービスの多様化や端末の高機能化といった形で表面化すること となる。その先陣を切ったのが1996年に登場したDDIのPメール(SMS)である。これ により、初めて携帯電話に電話「以外」の機能が与えられることとなり、以降も高機能化の 一途を辿ることとなる。当時の CM においても、もはや電話機能に対するアピールはほと んどなく、メールの利便性やサービスエリアの広さといった機能・サービス面のアピールが 主となっている。同年には NTT ドコモが世界初の着信メロディ機能を導入、直後に IDO も同様の機能を搭載するなど携帯電話業界においては競争の激化により新機能の導入→他 社の追随という動きが繰り返され、ますます高機能化の道を突き進んでゆくこととなる。
こうした高機能化を最も象徴する機能として1999 年に登場したのがドコモの「iモード」
である。これは、携帯電話史上初のインターネット接続機能であり、それまで敷居の高かっ たインターネットの門戸を多くの人に開放し、携帯電話、ひいてはインターネットの爆発的 な普及に大いに貢献するとともにインターネットサービスを利用した携帯電話の多目的ツ ール化がますます進行することとなった。こうして、日本の携帯電話は世界的に見ても極め て高機能かつ独特の進化を遂げたフィーチャーフォン(いわゆる「ガラケー」)へと進化し ていった。こうした流れは携帯各社の CM にも如実に表れており、この時代の携帯電話の CMと言えば機種の宣伝が主であり、その機種に搭載された新機能(例えば、カメラやワン セグなど)をアピールするものであった。
出所:総務省 東海総合通信局「移動体通信の年度別人口普及率と契約数の推移」
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250%
300%
0 5000000 10000000 15000000 20000000
1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
携帯電話契約数(東海地方)
契約数 前年比
上に示したグラフは東海地方における平成元年からの携帯電話の契約数と前年比の増加率 を示したものである。これを上記の携帯電話業界の動きに当てはめてみると、1994 年の買 い取り制度開始とともに非常に高い伸び率を記録していることがわかる。この急速な伸び はiモードが導入される1999年まで続いており、携帯電話の高機能化が多くのユーザーを 惹きつけたこの6年間が日本における携帯電話の定着期と言えるだろう。
第三期:ソフトバンクの登場とiPhoneの襲来、そしてコモディティ化(2006年~)
こうしてきわめて独創的な進化を遂げた日本の携帯電話であったが、それは同時に進化 の袋小路、さしずめサーベルタイガーのような状況に陥ってしまったということでもある。
彼らは究極の高機能を目指して進化を続けた結果、ガラケーという名の袋小路へと追い込 まれ、最終的には機能も似たり寄ったりなコモディティに陥ってしまったのである。
こうした状況を、製品の面からもCMの面からも打破して見せたのがソフトバンクである。
不振に陥っていたボーダフォンの日本法人を買収して2006年に携帯電話事業に参入したソ フトバンクは、まさに「予想外」の手法で携帯電話業界に旋風を巻き起こしていった。その 火付け役となったものこそ 2007 年に放映開始され、現在もなお続いている CM の「白戸 家」シリーズである。このCMの大きな特徴として挙げられるのがストーリー形式であり、
それぞれの CM は独立したものではなく、共通の世界観の下に話が展開していくものとな っている。CM内で自社の製品に対する露骨な宣伝が行われることはなく、「予想外」に代 表される印象的なフレーズや犬のお父さんに代表される個性豊かなキャラクターたちの軽 妙な掛け合いにより抽象的に示されるにとどまっている。その斬新な手法は多くの顧客を 惹きつけ、ソフトバンクの顧客増に大きく貢献しただけではなく、放映開始から 8 年連続 で好感度一位に輝いて携帯電話のCM、ひいては日本の CMそのものに大きな影響を与え ることとなった。このような CM 手法が採られるようになったことは、日本の携帯電話業 界がコモディティに陥っていることを如実に示しているといえる。機械やサービスとして の携帯電話に違いがなくなってきた以上、イメージは貴重な差別化ポイントとしてその存 在感を増しつつあったのである。
ソフトバンクが業界に巻き起こした旋風はこれに留まらなかった。次なる革命としてソフ トバンクが用意していた「本命」がiPhoneである。タッチパネルを用いた革新的な操作感 に圧倒的な高性能、そして洗練されたデザインを持ったこの「黒船」はガラパゴスの日本に 大いなる衝撃を与え、以後急速にスマートフォンという概念が広まっていくことになる。
しかし、皮肉にもこの新たなる来訪者は日本の携帯電話市場をさらなるコモディティの渦 へと引きずり込んでゆくのである。
III. iPhoneが残したモノ
iPhone は世界初のスマートフォンではない。しかし、日本にスマートフォンという概念
を根付かせたのは間違いなくiPhoneである。前項でも触れたとおり、ソフトバンクが2008 年に導入したこの「黒船」はガラケーしか見たことのなかった日本人に大きな衝撃を与えた。
発売当初はイロモノとみる向きも少なくなかったが、元来アップル製品が大好きな日本人
にiPhoneが受け入れられるまでにかかる時間はそう長くはなかった。当時はソフトバンク
が iPhone の独占販売権を有しており、他社のスマートフォンもほとんどない状況の中で
「実質0円」などによる猛プッシュをかけたため、「スマートフォンを使いたい」というニ ーズ=ソフトバンクのiPhoneを使うという構図になり、ソフトバンクの契約者を大きく増 やすとともに、日本人の意識の中に「スマートフォン=iPhone」という認識を植え付けてい った。しかし、こうした状況を競合 2 社が指をくわえて見ているだけのはずもなく、2011 年に発売されたiPhone 4Sからauが参入し、2013年のiPhone 5sからはNTTドコモが参 入するに至り、3大キャリアがそろってiPhoneを販売することとなった。その結果として 待ち受けていたのは、それまでよりも強烈なコモディティ化の波であった。以下に示すのは、
日本におけるスマートフォンの普及率の変遷とそれに占めるiPhoneの割合である。
出所:メディア環境研究所「メディア定点調査2017」
日本における携帯電話の主流がスマートフォンへと移り変わってゆく中で、iPhoneは7割 近いシェアを有しており、日本人の 2人に 1人が iPhone を使っている計算になる。これ は、世界的に見ても異常な高さであり、この「iPhoneだらけ」な市場に大手3社がひしめ き合っている超コモディティな事態に陥っているといえる。
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
スマートフォン普及率とiPhoneの割合
スマホ全体 iOS
IV. 過熱するシェア争い
iPhoneの登場は携帯電話業界に均質化をもたらした。「会社は違えども売っている商品は
同じ」な時代が訪れたのである。そのような中で携帯電話各社が躍起となったのが顧客の
「囲い込み」である。「この機種/この機能を使いたいからここと契約する」といったキャリ ア間の差がなくなり、ユーザーが特定のキャリアにこだわる必要がなくなった以上、キャリ アは一度得た顧客を離すまいと契約者にあの手この手の「縛り」をかけたのである。各キャ リアは端末代や月額料金の値引きでユーザーを惹きつけ、その適用と引き換えに 2 年以上 の長期契約を結ぶ。通常の契約の解除は2年に1回訪れる1か月程度の解約機関にしか行 えず、それ以外での解約に対しては高額の手数料を請求することで、ユーザーからキャリア 変更の意欲を削ごうとしている。こうした契約の走りとなったのは2007年に登場したドコ モの「ひとりでも割50」であり、auも同年「誰でも割」、ソフトバンクも2010年に「ホワ イトプランN」と銘打って追随し、熾烈な囲い込み競争が展開された。一方で、2006年に 登場した携帯電話番号ポータビリティ制度(MNP)はキャリアを変えることによるスイッ チングコストを大幅に引き下げ、キャリア間のユーザーの奪い合いが加速していった。他社 からユーザーを奪うには、自社が他社よりも魅力的である必要があるが、扱っている製品が 似ていて、サービス面でもあまり違いを打ち出せない(新サービスはすぐに他社に模倣され る)以上、キャリアが最も手早く用意できる「魅力」とはカネ以外の何物でもなかった。各 キャリアは MNP による乗り換えで転入した顧客に高額のキャッシュバックを付与し、最 盛期には7~8万円にも達した。2013年にはおよそ600万件のMNP(携帯電話総契約者数 の5%)に対して3400億円ものキャッシュバックが行われ、MNPをしていない95%ユ ーザーが1人当たり2800円ずつ出し合ってこれを支える構造となっていた。
こうした「新規を優遇し、1 度囲い込んだら後は放置」「長期ユーザーほど損をする」とい う歪な構造は多くの不満を呼び、2014年にはこれを問題視した総務省から行政指導が入る に至り、業界の自主規制という形で過度なキャッシュバックは鳴りを潜めた。
コモディティ化が進む中で、キャッシュバックという安易な顧客獲得手段を封じられた携 帯電話会社に残された手はいよいよ限られてきた。その限られた一手こそが CM であり、
私はこの2014年度が「携帯CM戦争元年」であると考える。
V. CM戦争
iPhoneの躍進、競争の果てのサービス均質化、国の規制…キャリア間の違いがますます
薄れていく中で脚光を浴びることとなったのがCMの力である。それをよく表すデータと して以下に示すのは、2012年から2016年までのキャリア別の純増数(契約数から解約数 を差し引いた値)を示したグラフである。
出所:一般社団法人 電気通信事業者協会「事業者別契約数」
CMの力を示すデータとして注目したいのは、2013年までのソフトバンクの強さである。
この年までソフトバンクは7年連続でCM好感度1位を獲得している「絶対王者」であ り、iPhoneの好調にも支えられて高い純増数を誇っていた。これはiPhoneを持たず、
CMも地味な印象だったドコモとは好対照である。しかし、「CM戦争元年」として挙げた 2014年の数値はまさにコモディティの象徴と言える横一線となっている。これは、ドコモ
のiPhone参入による3者そろい踏みや規制の強化によるところが大きい。こうした拮抗
状態を脱するための起爆剤、ブランドのイメージリーダーとして期待されたものこそが CMであった。それまでソフトバンクの後塵を拝し、その成功を目の当たりにしてきたほ かの2社にとって、この横並び状態はその牙城を崩す絶好の機会だったのである。こうし て2015年1月からauの「三太郎」シリーズが、同4月からはドコモの「特ダネを追 え!」シリーズが開始され、「携帯CM三国志」が開幕した。これらのCMはどれもソフ トバンクを意識したつくりとなっており(印象的なキャラクター・抽象的な内容・シリー ズ物)、その評価の高さは冒頭に示した通りとなっている。最新2017年の統計では「新 CM王」であるauが純増数1位に躍り出るなど、まさに「CMの人気がキャリアの人気」
という時代が到来し、キャリアは面白いCMを作り続けなければ競争に敗れてしまうとい う、熾烈な「場外乱闘」が繰り広げられている。
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2012 2013 2014 2015 2016
キャリア別純増数
ドコモ au ソフトバンク
VI. 新興勢力の登場
このように、大手同士が激しい争いを繰り広げてきた携帯電話業界であったが、伏兵は 意外なところに潜んでいた。それがMVNO、俗にいう「格安スマホ」の台頭である。
MVNOとは「仮想移動体通信事業者」の略称であり、自前の通信設備を保有せず、大手 からインフラを借り受けて携帯電話事業を営む事業者の総称である。大規模なインフラや 販売網を有さずとも事業を展開できるため、大手の半額以下という圧倒的な低コストを武 器に存在感を増しつつある。長年の寡占状態によって価格が高止まり傾向にあった大手3 社も相当の危機感を抱いており、ドコモやauは従来よりも割安な料金プランを設定し、
サポート面の充実などMVNOとの違いをアピールしており、ソフトバンクもサブブラン ドのワイモバイルで低廉なプランを展開して格安スマホとの対決姿勢を鮮明にするなど 各社対抗策を打ち出し始めている。一方のMVNOはその参入障壁の低さにより700社以 上の企業が参入し、激しい競争が繰り広げられている。CM面でも大いに台頭したUQの ような企業が現れる一方、昨年12月には業界大手の「FREETEL」ブランドを展開してい たプラスワンが倒産するなど、独自性を打ち出せなかったり、体力に乏しい企業が淘汰さ れる段階にきているといえる。
また、キャリアにも新顔が現れることとなる。楽天は昨年12月、第4のキャリアとして 携帯電話業界に参入することを表明し、早ければ2019年初頭のサービスインを予告し た。このニュースは発表されるや否や業界に大きな衝撃を引き起こした。以前から参入の 噂はあったものの、「楽天に勝ち目はない」との見方が大勢であったためである。事実、
通信事業者として携帯電話業界に参入することのハードルは極めて高い。全国をカバーで きる通信インフラや販売網の整備に莫大な初期投資が必要となり、仮にそれを成しえても すでにより充実したインフラやノウハウを有す大手3社が立ちはだかる、という構図であ る。こうした逆風をものともせず、いったいどのような方策で楽天が第4のキャリア―と しの地位を築き、寡占業界に新しい風を吹かせるのか、注視していく必要がある。
VII. 携帯電話業界の未来
現在の携帯電話のCM人気は確かに驚くべきものではあるが、日本携帯電話業界の特殊 性と均質化を象徴する出来事であるとも言える。こうした事態を巻き起こす大きな要因と なったのが、端末とキャリアを紐づけした商慣行である。振り返れば自動車電話の頃より 端末は一貫してキャリアが販売してきた。この制度により様々な割引が実現されたのも事 実であるが、それらは究極的には、「端末ありき」の商売になってしまっているともいえ る。何かのイノベーションがあれば、各キャリアからその新機能を持った端末が発売さ れ、それに応じたサービスが展開されるし、メーカーはキャリアが端末を売ってくれるか らほかのメーカーとのシェア争いに必死になることもない…そんな「馴れ合い」を繰り返 した結果、国産メーカーのスマートフォンはすっかり競争力を失い、iPhoneに支配される コモディティと化した。それこそが今の日本の携帯電話業界なのである。この状況を打破 するために採るべき策はただ一つ、キャリアと端末の明白な区別を行うことしかない。つ まり、ユーザーは自分の好きな端末を買って、好きなキャリアと契約できるような仕組み を整備する必要がある。これにより、メーカーはメーカー同士、キャリアはキャリア同士 切磋琢磨できる健全で活力ある競争関係が創出される。各社は顧客を獲得するために製品 やサービスの質を高め、差別化を図ろうとするために消費者の便益は向上する。これこ そ、日本の携帯電話市場のあるべき姿である。
日本に合わせて進化を遂げたはずの「ガラパゴス」は、いつしか「外来種」の跋扈する 荒野となり果てていた。変革の時は、とうに訪れているのである。
参考文献・資料
CM総合研究所 「2017年上半期 CM好感度ランキングTOP10」
http://www.cmdb.jp/release/20170712.html
総務省 東海総合通信局 「移動体通信の年度別人口普及率と契約数の推移」
http://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/tool/tokeisiryo/idoutai_nenbetu.html 一般社団法人 電気通信事業者協会 「事業者別契約数」
http://www.tca.or.jp/database/
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 「メディア定点調査2017」
http://www.hakuhodody-media.co.jp/newsrelease/report/20170620_18189.html StatCounter- Mobile Operating System Market Share Japan
http://gs.statcounter.com/os-market-share/mobile/japan
日経コミュニケーション 「MNPユーザーに年間3400億円も支払われている」、NRI北 氏が指摘
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20140328/546786/
日経NETWORK 2018年1月号pp.42-43 700社のMVNOが乱立、生き残り賭ける格安 スマホ
東洋経済オンライン 楽天が「携帯キャリア」に参戦できる深い理由 http://toyokeizai.net/articles/-/202156
NTTドコモ
https://www.nttdocomo.co.jp/
NTTドコモ歴史展示スクエア
http://history-s.nttdocomo.co.jp/index.html au
https://www.au.com/
ソフトバンク
https://www.softbank.jp/mobile/
日本における携帯電話 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/日本における携帯電話 自動車電話 – Wikipedia