携帯電話のWarning Signalは 予定の遂行に有効なのか1
吉崎一人・遠山智子2
雑事のなかで予定されたイベント(以後,予定)を時間通りに実行していくことは,重要で ある.時には,予定を忘れて社会的信用をなくしたり,そのことが原因で大きな責任を負った りすることもある.このような予定,いわゆる「未来に行うことを意図した記憶」を心理学の 領域では,「展望的記憶」と呼んでいる.
本報告では,携帯情報機器による警告シグナル(Warning Signa1:以下, WS)の予定・行為 実行への有効性について考えようとした.携帯情報機器として普及してきている携帯電話のア ラーム機能を使い,アラームのセット時刻や予定実行の時間帯と,予定遂行成績との関連性に ついて予備的検討を行った.
1.いつ思い出せばいいのか?
例えば,朝10時に「17時に得意先に電話をかける」という約束をしたとしよう.17時まで の7時間,その予定を意識上(作業記憶上)にのぼらせておく(ON状態)のは難しい.メモ や手帳などの外的記憶装置に記録するなどして,その予定はいったん,意識から消す(OFF状 態)ことになる.昼休みに『17時に何か予定があったはずだ』ということを意識(存在想起)
することや,あるいはその予定内容を思い出す(内容想起)こともあるかもしれない.自発的 に手帳やメモを確認することもあるだろう.いずれにしても予定を実際に実行するまでにON やOFFが繰り返されることが予想される.時刻が決まっている予定遂行に重要なのは,指定さ れた時刻以前にONへのスイッチがはいることと,最終的スイッチでON状態を実行予定時刻 まで維持しておくこと,の2点である.
日常生活に実行すべき様々なイベントがあることを考慮すると,ONへの切り替えは最小限 にとどめ,最終のON状態へのスイッチは, ON状態を維持出来そうなタイミングが理想的なの
かもしれない一・
1 本論文は,NTrコミュニケーション科学基礎研究所,共同研究報告書(2001年3月)として提出したもの に加筆修正したものである.
2 本学卒業生.
愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部篇一 第3号
2.どのようにして思い出せばいいのか?
残念ながらわれわれは,ONへの切り替えをこのように理想的にはできない.そこでわれわ れは,予定実行のために多くの方略を試みている.川口・吉崎・渡辺(1999)でも示されてい るように,内的方略や,外的記憶方略をわれわれは利用している.特に手帳の携帯者は多いよ うである.手帳の問題点は,予定想起を促すことが難しい点にある.つまり,手帳に頻繁に,
あるいは定期的に自らアクセスしなければならない「受動的装置」なのである.カレンダーへ の書き込みや普段よく見るところへのメモ添付も受動的装置といえるだろう.人によっては,
受動的装置へのアクセスを習慣化するという方略を獲得しているけれども,予定時刻を過ぎて アクセスしたため予定が実行できないこともある.
これに対して「能動的装置」として予定の存在想起を促す方法に,物理的なサイン(音,光 やバイブレーション),Warning Signa1(WS)がある.目覚まし時計のアラーム機能が代表的な
ものである.PC上で使用するスケジューラソフトやWEBサイトにも,予定実行時刻前にサイ ンあるいはメールを発するものも見られる.これらに共通するのは,装置として能動的に物理 的サインを発している点にある.しかしながらPC上の装置は,携帯性という点で劣っている.
その点,最近注目を集めている電子手帳に代表されるようなPDAや,携帯電話のスケジュー ラ,アラーム機能は携帯性という意味で優れている.
以下の3つの研究では,1)携帯電話のアラーム機能の利用実態,2)アラームセット時刻の 意識(メタ知識),3)アラームの予定遂行への有効性について検討した.
3.研究1 携帯電話のアラーム機能の使い方3
携帯電話はコミュニケーションッール以外に,多くの機種でスケジューラ,アラーム等の PDA機能も兼ね備えている.本研究では,大学生を対象に,携帯電話に付帯したアラーム機能 の利用実態について調査した.
方 法
対象者 18歳〜20歳までの大学生78名(女性64名)を対象に調査を実施した.
調査内容 質問紙は3種類の項目から構成された.1つ目は携帯電話(PHSを含む)所有の 有無であった.2つ目は,携帯電話を所有している者だけに尋ねるもので,アラーム機能の有 無(『あなたの携帯電話にアラーム機能はついていますか』)について尋ねるものであった.「は い」,「いいえ」,「わからない」のいずれかを選択するように求められた.3つ目は,アラーム 機能がついていると答えた者にアラーム機能の使い方について尋ねるものであった.「目覚ま
し時計として使う」,「予定日を知らせるため」,「時間(約束)を知らせるため」の3項目から
3 平成12年度愛知淑徳大学応用コミュニケーション論5(担当,吉崎)で行われた「情報ツールに対する意 識調査」の一部である.
なり,それぞれ「非常によく使う」,「よく使う二,F時々使う一i,ごあまり使わない」,「全く使わ ない」の5段階で回答することが求められた.
結果と考察
(1)携帯電話の所有率
携帯電話を所有していると答えたのは,78名中76名(97.49c)であった.
(2)アラーム機能の有無
携帯電話を所有していると答えた者のうち,アラーム機能が「ついている」と答えたのは 89.49c,「ついていない」と答えたのは1.39c,「わからない」と答えたのは9.2%であった.
(3)アラーム機能の使い方
「非常によく使う」を5点,「全く使わない」を1点として,各項目ごとの評定値の平均とSD が算出された(表1).
さらに図1には,項目別の回答率が示されている.表1,図1からもわかるように,目覚まし としての使用頻度が他の利用に比べ,高いことが伺える.予定日や約束時間を促すアラームと しては約半数の人が使用した経験があるようであった.
携帯電話を使用している間に,コミュニケーション機能以外の価値を見つけ,予定の想起に 役立つと考え,使用しはじめていると思われる.川口・吉崎・八巻(1998)は,携帯電話に対 してポジティブな態度を持っている人ほど,手帳やメモなどの外的記憶方略を使う頻度が高い ことを報告している.このことからも,常に携帯するツールとして一般的になった携帯電話 が,今後さらに予定想起の道具として使われる頻度が高まることが予想される.
表1 アラーム機能の使い方(1点〜5点)
目覚まし時計 予定日 時間(約束)
均D 平S
3.61.67
19
1.29
2,3 1.38
1田全く使わない〔]あまり使わない 口時々使う口よく使う■非常によく使う
時間1約束ノ
予定日
目覚まし時言十
0% 10% 20% 3eef. 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
図1 各項目の回答率
愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部篇一 第3号
4.研究2 携帯電話アラームのセット時刻
研究1から,携帯電話所有者のうちの約半数が予定想起のためにアラーム機能を使用してい ることが明らかとなった.これは,携帯電話に本来の機能(人とのコミュニケーション)以外 の価値を見つけていることを示唆している.予定想起を促す道具としては,常に携帯してお り,WS機能として「能動的」であることが重要だと思われる.その意味で,携帯電話は現在 最も有効な装置であろう.
それでは,われわれはWSとしてどのような使い方が,予定の遂行に有効だと考えているの だろうか.本研究では,予定の時刻(日)とアラームセット時刻の差(LAG)に注目する.
大学生を対象に予定の遂行を促すためにアラームをセットすることを想定してもらい,何分
(あるいは何時間)前の時刻にアラームをセットするかを尋ねる.想定する予定として次の2 つが用意された.1つは時刻が決まっている予定として,「アルバイト先に電話をする」ことと する.もう1つは指定された時刻はないが,指定された日に実行すべき予定,「郵便局にお金を おろしに行く」こととする.
この調査では,「これくらい前に,あるいはこれくらいの時刻にセットすれば,うまく予定を 遂行できるだとう」というメタ知識を測定しているのである.
方 法
対象者 女子大学生91名(年齢18歳〜20歳)を対象に調査を実施した.
調査実施時期 調査は2000年10月下旬〜11月中旬に行われた.
調査内容と手続き 心理学実験終了後,あるいは授業中に調査が実施された.項目は以下の 3つから構成された.1つ目は携帯電話(PHSを含む)所有の有無で,残り2つがアラームセッ
ト時刻であった.
アラームセットの1つ目は,「もし仮に,『2週間後の12時25分にアルバイト先の店長に電 話をかけなければならない』とします.忘れないように,あなたの携帯電話等のアラーム機能 を使うとします.何時にアラームをセットしますか.」というものであった.調査実施日から2 週間後はウィークディであり,指定された12時25分は,大学の2限目の授業が終了した昼休 み中であった.この問いに対して,前日か当日の何時何分にアラームをセットするかを記入す ることが要求された.
2つ目のアラームセット内容は,「『12月28日に郵便局に行ってお金を引き出さなければな らない』とします.何日の何時何分にアラームをセットしますか.」というものであった.12 月28日はウィークディで調査実施日から約2ヶ月後であった.この問いに対して,アラーム セットの日と時刻を記入することが要求された.
結果と考察
(1)携帯電話の所有の有無
91名全員が携帯電話を所有していた.
表2 「アルバイト先への電話」(2週間後)に対するアラームセット時刻
LAG セット時刻 人数 割合
当日
0分
1分前 2分前 5分前 6分前 10分前 15分前 25分前 35分前 265分前
12:25 12:24 12:23 12:20 12:19 12:15 12:10 12:00 11:50 8:00
5407104611
1﹂弓 − 5.5%4.4°10
11.0%
51.6%
1.1%
1卍0%
4.4%
6.6%
1.1%
1.1%
前日
22:00 19:00
1.1%
1.1%
(2)「アルバイト先への電話(12:25)」予定(2週間後)
91名中前日にWSをセットすると答えた者は2名(2.2%)であった(19時00分と22時00分).
当日にセットすると答えた者は89名(97.8%)であった.表2にはアラームセット時刻別の回答 率が示されている.
表2からもわかるように,5分前とする者が半数以上を占めた.さらに予定時刻ちょうどか ら5分前までと答えた者は,全体の7割を占めた.前日と答えた者並びに,1時間以上前に セットした者は,3名(3.3%)だけであった.
これらのことから,時刻の指定された予定の想起を効果的に促すタイミングとして,予定時 刻の前5分以内が適当だと考えていることが示唆された.つまりその程度の時間差(LAG)な
ら,予定を遂行できると考えているのである.
(3)「郵便局へお金をおろしに行く」予定(2ヶ月後)
表3には,アラームセット時刻(時間帯)別の回答者数と回答率が示されている.
表3からもわかるように,当日の午前中(12時以前)と答えた者が8割近くを占めていた.前
表3 「郵便局にお金をおろしに行く」(2ヶ月後)に対するアラームセット時刻
セット時刻 人数 割合
前日 21〜23時 5 5.5%
当日
〜9時
〜12時
〜15時
〜16時
734つ乙
2411 29.7%47.3%
15.4%
2.2%
愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部篇一 第3号
日と答えた者は5名(5.5%)だけであった.
多くの郵便局において,窓口での出金業務が16時,ArMでの出金が17時30分まで可能で あることを考えると,予定遂行可能時刻よりも4時間以上前にアラームをセットしていること になる.時刻が指定されていない予定の場合は,予定を遂行できる時間(機会)が多くとれる 時刻にアラームをセットすることが,予定遂行に効果的だと考えているのかもしれない.
5.研究3 アラーム機能の使用が予定遂行に及ぼす影響(実験的検討)4 研究2の調査から,時刻が指定された予定に対しては,5分前のアラームセットが予定遂行
に効果的だと考えていることが明らかとなった.研究3では,時刻が指定された予定の実行に 対して,その予定の想起を促すWSの有効性について実験的に検討する.
今回の実験は,Herrmann, Sheets, Wells, and Yoder(1996)を参考にして計画された.彼らは,
指定された時刻に大学の留守番電話に電話すること(展望的記憶課題)を被験者に要求した.こ の電話課題を想起させるために,貸与されたPDA(電子手帳)のアラーム機能を使うことが要 求された.彼らが操作したのは,アラームセット時刻(電話をかける課題の何分前にセットす るか(LAG):2分前,10分前,20分前)と電話をかける時間帯(朝,昼,夕方)であった.
これらの操作が電話課題の遅れ,忘れにどのように影響するかに注目した.4つの実験から明 らかになったのは,朝の時間帯が最も遅れることが少なく,時間帯が遅くなるにつれ電話課題 の遅れが多くなることであった.アラームセット時刻(LAG)は,電話課題に影響がなかった.
彼らの結果は,本報告の研究2で明らかとなったアラームセット時刻の知識とは整合的では ない.つまり,比較的直前(5分前)のアラームが展望的記憶課題に有効だというメタ記憶を 持っているようであるが,Herrmann et al.(1996)の行動レベルでの検討結果では,アラーム
とスケジュール実行時間の差(LAG)は影響を与えなかった,
この整合性がない結果の原因の1つは,PDA自体にあるかもしれない.つまり,実験のため に貸与されたPDAは,それを携帯しているだけで電話課題想起の手がかりになった可能性があ る.あるいは,彼らが設定した(2分〜20分)以上のLAGを設定すれば,予定遂行の低下を もたらすかもしれない.
そこで今回は,自己所有の携帯電話のアラーム機能を使って,携帯メール(空メール)を実 験者に送信する(メール送信課題)ことを展望的記憶課題とする.その際,メール送信課題の 遅れに次の2つの要因が与える影響について検討する.
LAG要因として5分前設定条件(Short:S条件)と90分前設定条件(Long:L条件)を設 ける.研究2の調査結果から,5分前のアラームが有効に働くと考えていることが明らかと なっている.逆に90分以上前の設定が有効だと答えているものは3%にすぎなかった.研究
4 平成12年度愛知淑徳大学応用コミュニケーション論5(担当,吉崎)において,酒井千裕,近藤弘美,水 野智美,助永佳奈美とともに行われたものの一部である.
2で得られた結果から考えると,Short条件でのメール送信課題の遂行成績は, Long条件より も優れているだろう.
さらに,メール送信を実行する時間帯も操作する.1日のうちの早い時間帯(午前:M条件)
と遅い時間帯(午後:A条件)が設定される.Herrmann et al.(1996)に従えば,午前中の時 間帯のメール送信成績が午後の送信よりも高いことが予想される.この理由としては,いくつ か考えられる.例えば,1日のうちの早い時間帯の予定が遅い時間帯の予定に干渉するという ことも考えられる(Searleman&Herrmann,1994).また1日のうち朝方は夕方と比較して,疲 労も少なく注意の維持力や動機づけも高いため,予定が想起されたON状態が比較的長く続け
られるとも考えられよう.
さらに考えられるのは,行為や出来事の時間帯による差異である.渡辺・川口(1999)は,
特定の時刻から連想される行為・事象を調査した.その結果,朝方(7時〜12時)の連想量 は,他の時間帯に比べ高いことが明らかとなった.つまり朝方の時間帯は,他の時間帯に比べ ると構造化されたスキーマが構築されていることを示唆している.このことを裏返せば,昼間 の時間帯は変動性,移動性が大きいとも考えられる.つまり,電話等を含んだ他人との接触,
場所の移動が朝方の時間帯に比べ,多く,予期せぬ形で生じると考えられるのである.このよ うな時間帯では,ON状態へのスイッチの機会,さらにはその持続が難しいと推察される.
方 法
実験計画 送信時刻要因(午前(M)条件,午後(A)条件)とLAG要因(Short(S)条件, Long
(L)条件)の2×2の2要因計画で実験が行われた.何れの要因も被験者内要因であった.
被験者 研究1に参加した大学生のうち,実験者と携帯メールの送受信ができる24名が本実験 に参加した.何れの被験者も,アラームがついたスケジューラ機能を持つ携帯電話を所有していた.
手続き 被験者は,数名単位で集められ教示を受けた.まず被験者は,各自の携帯電話の時 刻を実験者(メール送信の相手)の携帯電話の時計と同時刻にセットし直すことが要求された.
次に実験者のメールアドレスを被験者の携帯電話に登録することが要求された.被験者は,指 定された日時に空メールを実験者の携帯電話に送ることが要求された.メール送信を想起させ るために携帯電話のアラームをセットすることも同時に求められ,各被験者は教示の際にア ラームをセットした.メール送信は4回で,何れも異なる日で,ウィークディであった.その
表4 教示日と送信日
携帯メールの送信日
教示日 1回目 2回目 3回目 4回目
7月
6日(木)
7日(金)
10日(月)
11日(火)
10日(月)
10日(月)
14日(金)
14日(金)
12日(水)
12日(水)
17日(月)
17日(月)
13日(木)
13日(木)
18日(火)
18日(火)
14日(金)
14日(金)
19日(水)
19日(水)
愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部篇一 第3号
うちの1回が,送信時刻M条件でかつ,送信5分前にセットするS条件(M_S条件)であっ た.2つ目は,送信時刻M条件でLAGがL条件であった(M_L条件).以下同様に, A_S,
A_L条件であった.
4回のメール送信日と教示日が表4に示されている.4条件の個人内での順序は,被験者間 でカウンターバランスされた.
送信時刻は,午前(M)条件については原則9:00であったが,移動中等で送信できないとの申 し出が被験者からあった場合は10:45とした.午後(A)条件については,原則16:35であった が,19:00の送信時刻も認めた.LAGについては, S条件は送信時刻の5分前であった. L条件 については,送信時刻の原則90分前としたが,授業中である場合,移動中である場合等の理 由で100分,あるいは120前にセットすることも許可された.
結果と考察
実験終了後の内省で,送信日時を手帳等にメモしたり,アラームと同時に画面に予定内容が ポップアップするような設定をしたと報告した被験者は分析から除外され,以下19名が分析対 象となった.Herrmann et al.(1996)にならい,携帯メールの受信時刻が指定された時刻と±
2分以内の場合を指定時刻通りとみなし,プラス2分を越えた場合,並びにメールが送信され なかった場合をメール送信課題失敗とみなした.条件ごとに19名中のメール送信課題達成率 を示したのが表5である.
表5 条件毎のメール送信課題達成率
午前(M) 午後(A)
Short Long Short Long
平均 .316 .526 .368 .421
2値(成功(1)/失敗(0))を使った分散分析には問題はあるが,Herrmann et・al.(1996)
の分析手法にならい,この達成率を使って送信時刻×LAGの2要因分散分析が行われた.そ の結果,何れの主効果,交互作用とも認められなかった.以上の結果は,メール送信課題の遂 行には,アラームと遂行予定時刻との差(LAG),並びに送信時刻(午前/午後)の影響がないこ
とを示唆している.
表6〜9は,午前送信条件と午後送信条件の比較,Short条件とLong条件の差異をみるため のメール送信成功人数のクロス表である.それぞれについて,McNemar検定を実施したとこ ろ,何れも有意ではなかった.
今回の知見は,Herrmann et al.(1996)の結果を支持するものではなかった.つまり設定時 刻(午前,午後),LAGの長さはともに予定遂行成績に影響を与えなかったのである.
彼らの結果と今回の結果を比べると,今回の結果の方が全体的に達成率が低い.特に午前の 送信では,He㎜annらの結果は60%〜70%であったのに対して,我々の結果は42%であった.
表6 午前送信条件におけるメール送信成功人数 Long
成功 失敗
Short
功敗成失 4戸0 百乙7
表7 午後送信条件におけるメール送信成功人数 Long
成功 失敗
Short
功敗成失 4刀﹃ 38
表8 Short条件におけるメール送信成功人数 午後
成功 失敗
午前
功敗成失 う04 3Q︶
表9 Long条件におけるメール送信成功人数 午後
成功 失敗
午前
功敗成失 CVつ乙 47
この差異には,Herrmannらの実験に参加した被験者と我々の実験に参加した被験者の研究目的 の理解度から生じる動機づけの差異が関係しているのかもしれない.Herrmannらの研究では,
PDAのアラームを使った予定実行(想起)の向上を目指すプログラムに参加しているという意 識が被験者にはあった.実際,実験実施前に数日間アラームを使った予定想起の練習を行って いたのである.これに対して我々の実験では,記憶(予定想起)の実験とは知らされず,空の メールを送るという被験者にとって意味のないものであった.したがって,その時刻に送らね ばならないという動機づけは起こりにくく,そのことが送信率の低下,並びに送信時刻やLAG の長さの影響を見えなくしてしまっている可能性がある.
Herrmann et al.(1996)と我々の結果の差異を説明するもう1つの可能性は, PDA(本研究 では携帯電話)に対する慣れの差異である.Herrmannらの被験者は事前にPDAの操作を練習 し,一定期間試験的に使用している.その意味では装置に対する慣れにおいて被験者間での差 異は少ないと思われる.
これに対して今回実験に参加した被験者は,予定想起を促すためにアラーム機能を使った経 験がない者もいた.その場合は,携帯電話からアラーム音が鳴ること自体が非常に新奇な経験 であり,それによって予定の想起が促進されるとも考えられよう.逆に普段頻繁にアラーム機
愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部篇一 第3号
能を使っている被験者は,そのアラーム音発生自体で予定の想起が促進されるとは考えにく い.他の予定と混同することさえあるかもしれない.そこで全被験者のうち,研究1のアラー ム機能の使い方において,約束の想起にアラーム機能を使ったことがないと答えた被験者(6 名)群と非常によく使うと答えた被験者(5名)群のメール送信成績について比較した.4回 の送信のうち遅れずに送信できた回数は,前者が3.17回,後者の群は2.00で,この平均値間に は差が認められた(t(9)ニ2,63,ρ<.05).このことは,普段使わないアラーム音自体の新奇性 が予定の想起を促す可能性を示唆している.
今後Waming Signalの設定時刻や時間帯と展望的記憶の遂行成績の関連性については,上で 挙げてきた問題を是正して再検討することが必要となる.また被験者のメタ(展望)記憶の個人 差,日常生活での記憶方略の個人差という要因も含めた検討も必要となるだろう.
6.まとめ
3つの研究報告より,展望的記憶に対するメタ知識と実際の記憶課題成績とのズレが明らか となった.
研究3での実験的報告から,予定の実行時間帯は予定の遂行に影響しないことが示された.
しかしながら,予定遂行時刻の知識としては,研究2の結果から,時刻指定のない予定におい て,午前中にアラームセットする傾向が高いことが明らかとなった.
同様に実験3からアラームセット時刻と予定遂行時刻とのLAGは,予定の遂行に関係ない ことが示された.しかしながら,研究2から,5分前のアラームが有効だという知識を我々が 持っていることが明らかとなった.
研究1より,携帯電話の付加価値的な使用法として,予定の想起を促すためにアラーム機能 を使っている実態も明らかとなった.今後このような使用方法の頻度が高まれば,LAGと予定 の遂行成績との関係に関する知識も構築されてくるのかもしれない.
引用文献
Herrmann, D。, Sheets, V., Wells, J.,&Yoder, C.(1996). Palmtop computerized reminding devices:The effectiveness of the temporal properties of waming signals. AI&Society,10,289−302.
川口潤・吉崎一人・渡辺はま (1999).外的記憶利用とメタ記憶一質問紙調査および実験による検討一 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 1998年度 共同研究報告書.
川口潤・吉崎一人・八巻俊文 (1998).外的記憶利用とメタ記憶 NTTコミュニケーション科学基礎研 究所 1997年度 共同研究報告書.
Searleman, A.,&Herrmann, D. (1994). Memory from a broader perspective. New York:McGraw Hill,
渡辺はま・川口潤 (1999).日常的行為・出来事の連想における時間的特性 情報文化研究,10,159−
178,