やさしいハードの話:携帯機器用燃料電池
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(2) 触媒担持電極. 触媒担持電極. 水素. 燃料. 酸素 H+ H+. H2. e. O2. 固 体 高 分 子 膜. 酸素 (空気) ++ H+ H. CH3OH+H2O. e. 水 (H2O) CO2. e. O2. 固 体 高 分 子 膜. 水 (H2O). e e. e. 電子. 電子. 燃料極:CH3OH+H2O→6H++6e+CO2 空気極:6H++6e+1.5O2→3H2O. 水素極:H2→2H++2e 酸素極:2H++2e+0.5O2→H2O. -1. -2. DMFC. (DMFC: Direct Methanol Fuel Cell)である.. ン」で行う.また,自動車を動かすだけの電力を作るた めには電池効率を高める必要があり,一般には電池の. DMFC の基本原理は自動車用や家庭用の燃料電池と. 動作温度を 80 ℃程度にしている.家庭用燃料電池では. 同じである.ただし,燃料としてメタノール水溶液を. 電極反応において同時に発生する熱も利用することで,. 用いることで,燃料極において,水とメタノールから. 電気と熱をともに供給する「コジェネレーションシステ. 水素イオンと電子,および二酸化炭素が生成される.. ム」として開発されている.この場合には,家庭に行き. 酸素極(携帯燃料電池では空気中の酸素を使う)では水. 渡っている都市ガスを「改質器」と呼ばれる前処理シス. 素の場合と同様に水素イオンと酸素イオンから水が生. テムにおいて水素ガスに変えて,燃料として電池に送. 成され,全体としてはメタノールの燃焼反応になる. り込む.都市ガスなどから効率よく水素を作り出すに. (. も高い温度が必要であり,さらに高純度の水素の改質. -2).現在のところ,電解質はやはり固体高分子膜が. 最適である. DMFC を携帯機器用の電源として用いる場合の実効. にはかなり大掛かりなシステムが必要となる.. 的な電圧は 0.5 ボルト程度である.現在,多くの携帯機 器は 3 ボルト,ノートパソコンでも 15 ボルト程度の入力 電圧で設計されているので,実際には燃料電池を直列 につないで(スタックといわれる)使用することになる. 0.5 ボルトの電圧を仮定した場合,DMFC の重量エネル. このような特徴を見ると,「携帯機器用燃料電池」は 自動車用や家庭用とは大きく異なり,まったく違った. ギー密度(単位重量当たりに電池の蓄えるエネルギー). 技術ベースが必要となってくることが分かる.高圧水. は 1,600Wh/kg に達する☆ 1.燃料電池はその単純な構造. 素ガスボンベをカバンに入れて持ち歩いたり,高温の. 上,将来的には電池セルの大部分は燃料容器になると. 大きな改質器を一緒に携帯することは現実的ではない.. 考えられているが,大雑把に電池の 8 割を燃料が占める. 携帯用機器用燃料電池として最も有望であると考えら. と仮定しても,1,300Wh/kg のエネルギーを蓄えること. れているのが,室温動作の直接メタノール型燃料電池. ができる.これは現在のリチウムイオン二次電池の値. ☆1. 図-2 の化学式に従えば,メタノールと水の 1 分子ずつの混合溶液から 6 個の電子が流れることになる.電子は 1 個当たり 1.6 × 10-19C(クーロン: 1 クーロ ンは 1A(アンペア)の電流が 1 秒間に運ぶ電気と定義され,電流・時間(A ・ s)と同じで単位である)の電荷を運ぶことができるので,メタノール 1 モル (32g)と水 1 モル(18g)からなる燃料(合計 50g)からは 3,200Ah/kg の電流量が取り出せることになる.実効的な電圧を 0.5 ボルトと仮定すれば,重量エネ ルギー密度は 1,600Wh/kgとなる.. IPSJ Magazine Vol.43 No.9 Sep. 2002. −2−. 1019.
(3) (130Wh/kg)の 10 倍に相当するが,もう少し具体的な 例で考えてみる.ノートパソコンの 13 インチディスプ レイ(およそ 20cm × 20cm)の背面に厚さが 1cm(燃料容 積 4 0 0 c m 3 )の 燃 料 電 池 を 取 り 付 け る と す る . こ の DMFC はおよそ 450Wh のエネルギーを蓄えていること になるので,パソコンの消費電力が 20W ならば 22 時間. 重量エネルギー密度 (Wh/kg). 10,000. 以上の連続使用が可能ということになる.これならば. 燃料 電池. 出張の際の往復の新幹線はもとより,海外へ行く国際. 1,000. 線のフライト中ずっとパソコンを使い続けることも可 能になる.このエネルギー容量の大きさこそ,携帯燃 リチウム. 100. 料電池がモバイル時代のボトルネック解消の切り札と して期待される所以である(. NiH 鉛. DMFC 携帯燃料電池のもう 1 つの大きな利点は,充電. NiCd. 10 10. 100. -3).. 1,000. に相当する燃料補給の便利さと速さである.通常,携. 10,000. 帯機器の充電には一晩近くかかるが,DMFC では燃料. 体積エネルギー密度 (Wh/l). カートリッジやガスライターの補充ボンベのようなも ので燃料を補給すればすぐに使用可能となる.駅の売 店などで取り扱えるようになれば,充電器を同時に持. -3. ち歩く必要もなくなるし,万が一,電池切れが起こっ たとしてもすぐに「電池フル」の状態が再現できるので ある.. 燃料注入口 外部電極. 空気. 燃料電池 セル膜. 触 触 媒 高 媒 担 分 担 持+子 + 持 電 膜 電 極 極. 燃料容器 (メタノール水溶液). -4. 1020. 30. 4. 5mm. 43巻9号 情報処理 2002年9月. −3−.
(4) たカーボンのチューブが放射状に伸びた構造からなる 凝集体である 1).詳しいメカニズムは分かっていないが, この 1 年ほどの間に電気メーカを中心に携帯燃料電池. カーボンナノホーンに担持された触媒金属は,非常に -5).. 開発への参入,試作発表が相次いだ.燃料電池自動車. 細かく,また均一に分散することが確認された(. や家庭用コジェネシステムがコストや耐久性,インフ. メタノールや水素が水素イオンに分解する触媒反応は,. ラ整備の問題から本格的な普及見通しが先延ばしにな. いわば表面反応であるので,触媒金属の粒子をできる. るのに反して,携帯燃料電池は比較的早く市場に出回. だけ細かくして表面積を大きくすることで,同じ量の. るという意見が多くなってきている.実際に,携帯燃. 触媒でもより有効に働くわけである.. 料電池の試作器とも呼べるものがいくつか報告されて. 一方,携帯機器用燃料電池が実際にポストリチウム. いる.. イオン電池として市場に出回るまでにはまだいくつか -4. の解決すべき技術課題もある.たとえば,電解質であ. の写真に示す.大きさが 30 × 40 × 5mm の容器内にメタ. る高分子膜を燃料であるメタノールの一部が透過して. ノール燃料を入れ,前面に高分子と触媒担持電極から. しまうという問題(「メタノールクロスオーバー」と呼ば. なる燃料電池セル膜が取り付けられており,外側から. れている)の解決は急務である.透過したメタノールは. 空気を取り入れることにより発電する.構造はきわめ. 酸素極でも分解反応を起こし逆向きの起電力を発生さ. て単純であり,燃料電池の主要部であるセル膜自体の. せるため,電池から取り出せる電圧が低くなってしま. 厚さは 0.3mm 程度なので,小型化も容易であることが. う.現状では燃料のメタノール水溶液を 10% 以下の濃. 大きな特徴である.. 度に下げることで凌いでいるが,それによってエネル. たとえば,我々が試作した小型燃料電池の一例を. また,DMFC の高出力化の試みとして,電極材料に. ギー容量(電池全体の重さや容積を基準として単位当た. カーボンナノホーンと呼ばれる新しいナノ材料を用い. りに取り出せるエネルギー量)は低いレベルにとどまっ. て触媒活性を上げることも行っている.カーボンナノ. ている.また,室温付近でのメタノールの分解に適し. ホーンはカーボンナノチューブの一種で,先端の閉じ. た触媒の開発は,自動車用や家庭用での開発とはまっ たく異なる領域であるため,今後,研究開発をすべき 余地が大いにあると思われる. 携帯機器用燃料電池は自動車用燃料電池や家庭用発 電システムとは異なる技術ベースがあり,それ故に,. カーボンナノチューブ (ナノホーン). この分野の研究開発はまだ始まったばかりの初期段階. 白金触媒. にある.しかし,携帯燃料電池の原理は図-2 に示したよ うにきわめて単純であり,主要な技術課題領域は,電 極,触媒,高分子電解質膜などの「材料開発」と「小型 化とシステムインテグレーション」とはっきりとしてい る.しかも,DMFC のポテンシャルは前述のように大 きなものであり,何といってもこの技術に対する市場 からの強力な要請がある.電気メーカのみならず,材 料メーカ,化学メーカも参入して急速に立ち上がりつ つある開発競争環境によって,携帯機器用燃料電池は 今までにない早さで市場に登場するかもしれない 2).. 50nm. 1)Iijima, S. et al.: Nature 354, 56( 1991), Chem. Phys. Lett. 309, 165 (1999) . 2) 「日経エレクトロニクス」 (2001 年 10 月 22 日号) , 「日経マイクロデバイ ス」 (2002 年4 月号)などに燃料電池開発の特集がある. (平成14 年7 月8 日受付). -5. IPSJ Magazine Vol.43 No.9 Sep. 2002. −4−. 1021.
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