【 論 文 】
いわゆる損失性引当金に関する会計問題
── 債務保証損失引当金を題材として ──
平 野 智 久
は じ め に
現金を支出した時点ではなくして,現金の出4によって取得した財貨用役を費消した事実をもって 費用を認識しようとする考え方を「発生主義」といい,今日の発生主義会計においては費用一般の 認識規準として捉えられている。この発生主義については広狭の考え方が存在しており,すなわち,
広義には,財貨用役を費消する事実4 4こそ将来に予定されているものの,その原因4 4となる事象が当期 において生起しているならば当期費用として認識する,とされる。このような広義の発生主義は「原 因発生主義」として,たとえば,引当金を計上する論拠となっている。しかしながら,「発生主義」
をもって本来的な費用一般の認識規準と捉えるならば,「原因発生主義」によって認識される「費用」
は未4発生費用と観念せざるを得ず,すなわち,そのような将来費用を当期に前倒して計上すること で,寧ろ,不適正4 4 4な期間損益を算出してしまいかねない1)。けだし,当期収益から当期費用を差し 引くことで当期利益を算出できるのであって,どうして将来費用を取り込むことが可能なのか,と いう素朴な疑問が湧出されるからである。このような指摘は,すでに,多くの論者によって指摘さ れているものの2),しかしながら,いまだに解決されていない点であるように思われる。
引当金の分類はさまざまに主張され得るが,本稿では「損失性引当金3)」について取り上げる。
具体例のひとつである,損害補償損失引当金(訴訟損失引当金)については,内川菊義教授によっ て詳細に検討されており4),筆者も内川教授の見解におよそ賛意を表することができるものと考え ているので,本稿では主として,もうひとつの具体例である債務保証損失引当金を俎上に載せる。
債務保証額のうち求償権5)
を行使しても被保証人から回収し得なかった保証人の最終的な損失を
「債務保証損失」と定義するならば,将来に発生すると見込まれる債務保証損失について,保証契 約を締結した期の損益計算に取り込むと同時に,負債として引当金を計上する処理が往々にしてお こなわれているようである。しかしながら,本稿では,叙上の問題意識から,幾つかの先行研究を
1) ただし,何をもって「適正」と判断するかの規準については種々の考え方があるかもしれない。
2) 平野 [2012b] 註64。
3) 損失性引当金という呼称(分類)については,たとえば,森川 [2008] 207頁を挙げられる。
4) 内川 [1998b] 229頁以下。
5) たとえば,横畠 [2012] 203頁では,「弁済した者が,他人に対して,その返還又は弁済を求める権利」と定 義されている。
概観し,内在する問題点を析出し,既存の会計理論の枠内で妥当といえる処理の追究を試みるもの である。
1. 債務保証に関する先行研究における仕訳
本節では,債務保証に関する先行研究における仕訳を,下記の【設例】をとおして概観する6)。 設例中の登場人物は,主たる債務者(被保証人)A,債権者
B,保証人 Z
の三者であり,以下では 保証人Z
の会計処理を中心に検討を進める。各社の決算日は12
月末とし,便宜上,利息は考慮し ない。通貨単位は省略する。【設例】
① [保証契約の締結]
X1
年8
月1
日に,AはB
に100
の借入を申し込んだところ,Bから保 証人を立てるよう要請された。Aは取引先Z
に保証人となるように依頼をしたところ,Z が承諾したため,BとZ
の間に保証契約(保証額100)が書面によって締結され,A
に100
の入金が為された。本契約はX2
年1
月末に返済期日を迎える。② [被保証人の財政状態の悪化]
X1
年11
月に,Aの資金繰りが急速に悪化し債務超過に陥っ た。X1年12
月末に,ZはA
の財政状態が悪化していることを鑑みて,企業会計原則注解18
に基づいて引当金を設定した。Zは回収不能額を65
と見込んでいる。③ [弁済義務の確定]
X2
年1
月末に,BはA
に対して借入金の返済を求めたが,Aはこれに 応じなかったため,Zに対して債務の履行を請求した。④ [弁済義務の履行]
B
から請求を受けたZ
はこれに応じ,Bに対して100
を支払った。こ の時点でのA
からの回収見込額は25
であった。⑤ [求償権の行使]
X2
年2
月末に,ZはA
に対して弁済額の支払を求め,20を回収し,残額 は放棄した。以下では,被保証人の財政状態の悪化,および求償権の取得についてどのように処理しているか,
といった点に注目しながら検討をおこなう。なお,引用にさいして,勘定科目は先行研究を尊重し,
数値は本設例に置き換え,先行研究に明示されていない仕訳は斜体字で補足する。
(1) 花田 [1983]
における仕訳
花田重典氏は,以下のような仕訳を示している。
① 仕訳なし
② (借)債務保証損失引当金繰入額 65 (貸)債務保証損失引当金
100
求償権35
6) 本設例は,松本 [2012] 287頁を主に参照している。
③ 仕訳なし
④ (借)債務保証損失引当金
100
(貸)現金預金100
⑤ (借)現金預金20
(貸)求償権35
債権放棄損失
15
検討すべきは ② で,引当金
100
が負債計上され,同時に,求償権35
が認識されている点である。企業会計原則注解
18
に基づくならば引当金の金額は65
となるはずだが,花田稿では「将来の財務 的負担額を表すために7)」100の引当金が計上されている。35の差額について,「要支払額と損失額 との差額は将来において回収可能な資産として認識・測定される8)」として求償権たる資産を認識 しているが,「保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,過失なく債権者に 弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け,又は主たる債務者に代わって弁済をし,その他自己の財産 をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対して求償権を 有する」という民法459
条1
項の規定からは,求償権を取得する時点は ② ではなく,寧ろ,弁済 をおこなう ④ ではないかと考えられる9)。もっとも,④ で求償権を認識するならば,「債権の計上よりも前にそれに対する貸倒引当金の計 上ができるのかという疑問が生じる10)」といった主張については興味深い。すなわち,「借方の債務 保証損失引当金繰入額は,求償権が回収不能と見込まれることによって生じる損失額であるから,
貸倒損失としての性質を有する。従って,損失額の計上を貸方の引当金とは切り離して,他の債権 と同じように貸倒れの評価および会計処理の問題として取り扱うべきであろう11)」という考え方か ら上述の処理が導出されたようである。たしかに,売掛金や貸付金が回収不能となった4 4 4部分につい て「貸倒損失」を計上することに異存はない。しかしながら,「引当金」の場合は,それらが回収 不能となることが見込まれる4 4 4 4 4に過ぎず,したがって,まだ回収不能と確定したわけではない。換言 すれば,引当金繰入額についても,損失として確定したわけではなく,あくまで予測・見積の範疇 なのである。ゆえに,債務保証損失引当金繰入額を貸倒損失と同一視している点については首肯し 得ないが,債権の計上よりも前に引当金を計上できるか,という疑問提起については,賛意を表し たい。
(
2
) 桜井[2011
]における仕訳桜井久勝教授は,以下のような仕訳を示している。
7) 花田 [1983] 39頁。
8) 花田 [1983] 39頁。
9) 仮に,民法の規定からいったん離れて,①〜③の時点で何らかの資産を計上するならば,いわゆる「契約会計」
を導入する可能性が考えられるものの,これについての卑見は後述される。
10)花田 [1983] 40頁。
11)花田 [1983] 39頁。
① (借)保証債務見返
100
(貸)保証債務100
② (借)債務保証損失65
(貸)債務保証損失引当金65 ③ 仕訳なし
④ (借)債務保証求償債権
100
(貸)現金預金100
債務保証損失引当金65
債務保証損失引当金取崩65
貸倒引当金繰入額75 貸倒引当金 75 保証債務 100 保証債務見返 100 ⑤ (借)現金預金 20 (貸)債務保証求償債権 100 貸倒引当金 75
貸倒損失
5
はじめに,① について,「子会社など他企業の債務を保証した場合,主たる債務者が債務不履行 に陥れば,保証人が主たる債務者に代わって債務を履行する責任を負わなければならない。それと 同時に,保証人は主たる債務者に対して求償権を行使することになる。そのような偶発債務と求償4 4 4 4 4 4 4 権の存在を明示するため4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4,対照勘定を用いた備忘記録が行われることもある12)」と述べられている 点には注意が必要である。④ で債務保証求償債権勘定が借記されていることから,① で明示され る求償権は偶発資産4 4 4 4として捉えられる。すなわち,対照勘定を用いた備忘記録は,貸借対照表日時 点の資産や負債の実在性を表しているとはいえない。
そして,② で引当金の相手勘定が「債務保証損失」とされているが,既述したように,実際に は「損失」は生じておらず,「保守主義の立場から将来に生じうる損失の早期認識という面を有す る13)」に過ぎないのである。このような処理の妥当性については,次節において検討される。
さらに,③ と ④ とを区別しない,という積極的な主張が為されているわけではなく,あくまで,
推測の域を出ないが,① で貸記された偶発4 4債務たる「保証債務」は債務の履行を請求された ③ で 確定4 4債務に変化したといえるだろう。現在の義務を負債として計上する財務表が貸借対照表である とするならば,③ で生起した変化を会計上も認識する必要性があるものと考えられる。
(
3
) 内川[1998a
]における仕訳内川教授は,以下のような仕訳を示している14)。
① (借)保証債務見返
100
(貸)保証債務100
② (借)債務保証損失引当金繰入額 65 (貸)債務保証損失引当金65
12)桜井 [2011] 249頁。なお,傍点は平野が付した。
13)五十嵐 [2011] 107頁。
14)内川 [1998a] 114頁では,③について,文脈の都合上,債務保証損失勘定が借記されているが,適宜,修正 している。
③ (借)保証債務
100
(貸)保証債務見返100
保証債務未求償金35
保証債務未弁済金100
債務保証損失引当金65
④ (借)保証債務未弁済金 100
(貸)現金預金100
貸倒引当金繰入額10
貸倒引当金10
⑤ (借)現金預金20
(貸)保証債務未求償金35
貸倒引当金
10
貸倒損失5
注目すべきは,② で計上された借方項目の性格である。内川教授は,債務保証損失引当金繰入 額について,「求償権が無効となることによって生ずる損失であって,当期においてすでに発生し ている損失ではない。したがって,この将来の損失を当期の損失として計上することは,損益計算 書上において,当期の費用がそれだけ過大に計上されることとなって適切ではない15)」としたうえ で,「貸方の当期の実現収益からの控除項目として,一種の評価勘定としての性格をもつ16)」と述べ ている。この見解は,費用一般の認識規準である「発生主義」を遵守しながら引当金繰入の理論を 構築した見解として吟味したい。
たとえば,取引先の倒産等により売上債権が貸し倒れた場合,「貸倒損失」は販売費として計上 される。卑見によれば,売上債権の回収見込の低い企業に商品を掛販売することで収益の金額およ び貸倒損失の金額を膨らませるような「押し込み販売」のような状況も想起されることから,「貸 倒損失」の性格は収益からの控除項目(実現収益の取消)と捉えるべきであると考えている17)。
(借) 貸倒損失
100
(貸)売上債権100
(収益の取消) (資産の減少)
(借) 貸倒引当金繰入額
100
(貸)貸倒引当金100
(収益の取消?) (資本の増加?)しかしながら,内川教授は「貸倒引当金繰入額」までも「実現収益からの控除項目」として捉え ている18)。貸倒引当金繰入額と貸倒損失との相違点は,対象となる売上債権が期末日までに回収期 日を迎えているか否かであるが,この差異は小さくない。すなわち,期日を迎えても回収できない という場合には債権の消滅(資産の減少)を認識することとなるが,「貸倒引当金繰入額」は,回 収不能額を見込んでいる4 4 4 4 4 4に過ぎず,債権が減少したり消滅したり,といった事象は実際には発生し
15)内川 [1998a] 111頁。
16)内川 [1998a] 112頁。
17)平野 [2012c] 註9。
18)染谷 [1999] 121頁でも,貸倒引当金繰入額の性格は「実質上は,実現しなかった収益をその会計期間の収益から 控除するもの」とされているが,貸倒引当金の性格については,特段の記述は見当たらない。
ていないのである。花田稿と同様に,債務保証損失引当金繰入額と貸倒損失とを同一視しているよ うに思われるため,この点については内川稿に疑問を禁じ得ない。
また,② で計上された貸方項目について,その性格が負債ではなく資本であることに言及した うえで,「資本の一項目であるといっても,それは,次期以降の将来において発生する債務保証損 失の補塡に充当するために,その使途を拘束されたものであるから,かかる使途を拘束されていな い自由に処分しうる当期利益とは,その資本としての性格をまったく異にする19)」と述べているが,
この点については,借方項目の議論とあわせて次節において検討される。
なお,③ で保証債務未求償金勘定が借記されているが,これは,民法
459
条1
項の「過失なく 債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け」を重視した考え方であると推察される。しかし,裁判所の決定は「弁済義務の確定」を意味するに留まり,実際に債権者へ弁済をしない限り求償権 は生じないことから,やはり,求償権の認識時点としては ④ が合理的であろう。さらに,その求 償権が
35
と評価されている点も疑問である。けだし,求償権が100
から35
まで減価した事実はな く,また,それが確定しているわけでもないからである。(
4
) 松本[1991
]における仕訳松本敏史教授は,松本 [1991]
において,以下のような仕訳を示している
20)。① (借)保証債務見返
100
(貸)保証債務100
② (借)未処分利益65
(貸)債務保証損失準備金65
③ (借)保証債務100
(貸)保証債務未払金100
④ (借)保証債務未払金100
(貸)現金預金100
保証債務求償金100
保証債務見返100
債務保証損失75
保証債務求償金75
債務保証損失準備金 65 未処分利益65
⑤ (借)現金預金20
(貸)保証債務求償金25
債務保証損失5
内川 [1998a]
では,② で計上する引当金が「資本の一項目」とされていたが,松本
[1991]でも,
「損失を繰り入れないのは,当該損失が未発生であり,そしてこの損失と当期の収益との間に対応 関係を見いだすことができないからである。さらに,これを準備金と称しているのは,費用・損失 を繰り入れる引当金と当該項目を区別するためにほかならない21)」として,債務保証損失準備金4 4 4の 名称が用いられている。また,借方項目については,「将来損失に備えた資金創出の手段としての 性格が強い。そうであれば,その設定は期間損益計算から切り離し,未処分利益を拘束する形でお
19)内川 [1998a] 112頁。
20)松本 [1991] 43頁。ただし,松本 [2004] 註21において修正が為されており,それを反映している。
21)松本 [1991] 43頁。
こなうべきである22)」と述べられている。実現収益を直接に資本に振り替える処理に比して,未処 分利益から準備金に積み立てる「利益処分」のほうが,既存の理論体系とも整合していることは言 うまでもなく,この主張は大いに首肯し得る。
ところで,松本 [1991]
において注目すべきは ① である。一般的に,備忘記録として捉えられて
いる対照勘定について,「保証先の財政状態が悪化してゆけば,両者は徐々に確定的な債権・債務 としての性格を帯びてくるだけでなく,その実質価値にも食い違いが生じてくる。であれば,もは や両者をオフ・バランス項目とすることは許されないはずである23)」として,資産または負債とい う貸借対照表の一項目として計上することが主張されている。そのうえで,債務保証損失準備金を 保証債務見返勘定から控除することで,当該求償権の実質価値を表すとされている24)。同時に,保証債務勘定と保証債務見返勘定が,③ と ④ という別個の時点で取り消されていると いう点にも注目したい。「債務保証取引の場合は弁済義務の確定時点と求償権の取得時点が同じで ある保証はない。むしろ両者の間にはタイムラグが生じるのが通例であろう。であれば,債務が確 定した時点で対照勘定と機械的に消去するのではなく,保証債務勘定(偶発債務)と保証債務見返 勘定(偶発債権)を,その確定のプロセスに合わせて段階的に消去すべきであろう25)」という思考 のもとに上掲した処理が為されている。備忘記録ではなしに,ひとつの資産または負債として計上 するという偶発債権・偶発債務の貸借対照表能力について,次節で検討する。
(5) 松本 [2007]
における仕訳
その後,松本教授は,松本 [2007]
において,以下のような仕訳を示している
26)。① (借)保証債務見返
100
(貸)保証債務100 ② (借)債務保証損失引当金繰入額 65 (貸)債務保証損失引当金 65
③ (借)保証債務
100
(貸)未払金100
④ (借)未払金100
(貸)現金預金100
未収金100
保証債務見返100
債務保証損失引当金65
債務保証損失引当金戻入65
貸倒引当金繰入額75
貸倒引当金75
⑤ (借)現金預金20
(貸)保証債務求償金100
貸倒引当金75
貸倒損失
5
松本 [1991]では,④ で保証債務求償金勘定が貸記され,同時に債務保証損失
75
が計上されて22)松本 [1991] 44頁。
23)松本 [1991] 44頁。
24)松本 [1991] 46頁。
25)松本 [2004] 260頁。
26)松本 [2007] 70頁。松本 [2004] 256頁以下でも,ほぼ同様の仕訳が示されている。
いた。もっとも,75の損失が確定したわけではなく,あくまで,見積のはずであり,再考の余地 があった。この点について,松本 [2007]では,未収金に対して貸倒引当金(すなわち,確定債権 に対する評価勘定)が設定されており,問題は解決されたものといえる27)。
ただし,ここで検討すべきは②である。松本 [2007]
では,「債務保証損失引当金の貸借対照表の
性格は求償権の評価勘定であり,負債ではない。であれば債務保証損失引当金は対象となる求償権 から控除して表示すべき28))」と述べられている。借方項目についてはおよそ説明されていないが,「確定債権としての求償権ではなく,保証債務見返勘定によって表示されている偶発債権に減価が4 4 4 4 4 4 4 4 発生した②の時点で損失を認識4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4するものであり,その根拠は直接融資と債務保証のもつリスクの同 一性にある29)」という記述が数少ない手掛かりとなるであろう。しかるに,松本 [1991]
に主張され
ていたように,「損失を繰り入れないのは,当該損失が未発生であり,そしてこの損失と当期の収 益との間に対応関係を見いだすことができないから30)」ではなかっただろうか。そもそも,偶発債 権は現在の資産ではなく,そのような債権に「減価が発生した」として,それを損失の発生として 当期の損益計算に取り込むことの理論的根拠はどこにあるのだろうか。むろん,「偶発債権の減価」は発生4 4費用とはいえず,ゆえに,「発生主義」を費用一般の認識規準と考える現行会計にそぐうも のではない。議論の変遷を追ったところ,ここにきて,借方項目の再検討を迫られることとなった。
2. 債務保証に関する理論的考察
本節では,前節で概観した先行研究の仕訳にみられる問題点の検討をおこない,既存の会計理論 の枠内で妥当と考えられる処理を導出する。
(1) 求償権や保証債務の貸借対照表能力
債務保証の会計問題について,川村義則教授は,「将来の損失の「発生の可能性が高い」状態に至っ たときに,突然,しかもしばしば巨額の損失が計上されるという点であろう。しかし,実際には,
支払不能に至るまで,徐々に損失の可能性(つまり,主たる債務者が支払不能となる確率)が膨ら んできたと考える方が実態に合っている31)」としたうえで,「保証債務は,債務として確定するかど うかが将来の不確実な偶発事象に左右されるという性格を有してはいるが,すでに現在負担してい4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 る債務4 4 4である。その債務の金額は,保証額から回収可能な求償権の金額を控除した金額であり,保 証債務の現在価値に相当する32)」と述べ,保証債務を現在価値で貸借対照表に計上することを主張 している。ここでの「すでに現在負担している債務」について,田中耕太郎教授の「負債の部の項
27)一般的に決算整理仕訳の一環として計上される貸倒引当金が,④ で未収金の認識と同時に計上されている が,既に ② で計上していた債務保証損失引当金を引き継いだため,と理解するより仕方がない。このような 処理は,JICPA [1999] 4. (4)③ にもみられる。
28)松本 [2007] 71頁。
29)松本 [2004] 註21。なお,傍点は平野が付した。
30)松本 [1991] 43頁。
31)川村 [1999] 85頁。
32)川村 [1999] 87頁。なお,傍点は平野が付した。
目として貸借対照表能力が問題となるのは所謂偶発債務即ち手形裏書に因る債務,保証債務,身元 保証人の債務等法律上の債務は存在するが然し其の実現自体又は其の範囲が不明なるもの33)」と いった記述を参照しているが,法律上の債務であっても会計上の負債となるかどうかは一概には決 定づけられないものと考える34)。
負債の測定規約として,[過去収入額],[現在収入額]および[将来支出額]の
3
通りを挙げら れるが35),たとえば,米国財務会計基準審議会の概念基準書において「過去の取引または事象の結 果として,特定の企業体が他の企業体に対して,資産を移転または用役を提供しなければならない,という現在の義務から生じる,発生の可能性の高い将来の経済的便益の犠牲36)」と定義されるよう に,負債の一般的な測定規約としては[将来支出額]が通説とされている。前節で言及された花田 稿でも,求償権(将来資産)を「将来において回収可能な資産」として[将来収入額]で測定し,
引当金(将来負債)の金額を[将来支出額]で測定する計算方式によって会計処理が為されていた。
将来資産と将来負債を認識する理論を構築する方途としては「契約会計37)」の考え方があるかもし れないが,そのような貸借対照表が決算日時点4 4 4 4 4の当該企業の財政状態を適正に表すものといえるも のか疑問である38)。決算日時点で実在しない資産や決済し得ない負債を計上することの有意味性を 会計理論としてどのように主張できるだろうか39)。これに対して,負債の測定規約について[過去 収入額]や[現在収入額]であったとしても,保証債務について,現金の入4を観念し得るだろうか。
【設例】における
X1
年8
月1
日の時点でB
とZ
の間で締結された保証契約によって,現金の授受 を観念することは難しい。よって,松本稿のように,ひとつの負債として貸借対照表に計上するこ33)田中 [1944] 238頁。なお,旧字体は新字体に変換している。
34)わが国の民法上,「債権」や「債務」についての明快な定義は存在しない。「物権」との対比,「請求権」との 区別,「債務」との関係を総合的に鑑みて,「債権」を位置づけている基本書が多い。それにもかかわらず,
会計学においては,「法的債務性の有無」といった論議が少なくないようである。負債と債務の関係について は,西村 [1993] が詳しい。
35)平野 [2012b] 12頁や24頁において,[過去収入額]と[将来支出額]の問題点が言及されている。
36) FASB [1985] par. 35。
37)井尻 [1976] 192頁において,「認識規準を現在の受渡しベースから,いわゆる契約ベースへ拡張しようとす るもの」と説明されており,松本稿の主張はまさに,契約会計の導入といっても過言ではないだろう。
38)平野 [2012b] 3頁では,このような貸借対照表観は「将来志向貸借対照表」と類型され,その論理の限界と して,継続企業の公準を前提とする限り,「資本」を合理的に説明し得ない点が指摘されている。たとえば,
わが国の会計基準において,「資本の部」に代えて「純資産の部」が設けられるようになったが,純資産の部 は,借4方差額の純財産が再記4 4された姿に過ぎず,すなわち,本来的には貸方の項目ではない。また,仮に,「負 債」との同質性を重視すると,企業主体理論のような会計主体論が想起され,やはり,「資本」を観念し得な い。なお,「再記」については,たとえば,笠井 [1996] 123頁以下を参照されたい。
39)将来負債を貸借対照表に計上した例として資産除去債務(ARO)を挙げられる。わが国の会計基準では,「企 業価値評価に役立つ情報の提供」といった観点からAROの負債計上が要請されている。平野 [2012a] 153頁 では,AROが「有害物質除去義務」と「将来設備撤去義務」とに区分され,後者については,現時点では決 済し得ない義務であり,現在の負債として計上すべきではないと主張されている。AROを計上するために一 時に損失が発生することを回避するための苦渋の策として,対応する除去費用を固定資産価額に加算して計 上する,いわゆる「資産負債両建処理」が採用されたものの,毎期の減価償却費の増額は避けられず,結果 的には,期間損益計算に与える影響は少なくない。期間損益計算という会計固有の役割を,ヨリ重要視すべ きではないだろうか。
とは難しいのではないかと思われる。
求償権と保証債務に貸借対照表能力を認めた見解は松本稿に先立ち,内川 [1983]
を挙げられる。
それによれば,「貸金の場合と同様に,債務者の債務弁済能力を信頼することによって成立する信 用取引であり,その債務者の債務弁済能力が欠如する場合には,ともに損失をこうむる結果とな る40)」として債務保証取引と金銭貸付取引とを同質と捉え,保証債務は「未払費用もしくは未払金 としての性格をもつもの41)」とされている。しかし,後に内川教授自身によって謬見とされてい る42)。「決算に当って損益修正に伴って一時的・経過的に計上される43)」経過勘定たる未払費用を,
決算修正に関連のない保証契約の締結時に貸記することに疑念を禁じ得ないが,その点は扨措くと しても,保証債務が確定債務たる未払金としての性格をもつ,という主張には,やはり首肯し得な い。けだし,財貨用役の流入に伴って決済しなければならない負債が増加したわけではなく,また,
A
自身が期日までにB
へ借入金を返済すればZ
には弁済義務が生じる余地もないからである。将来の保証債務は,その弁済義務の生起が不確実であり,現在の義務を表すものではないため,
現在の負債として貸借対照表に計上することは認められない。対応する求償権についても,契約時 点で企業の支配下にあるわけでもなければ,他者への売却が可能なものでもないことから,やはり,
現在の資産として貸借対照表に計上することは困難である。ゆえに,保証債務と求償権ともに,注 記による開示に留めるべきであると結論づけられる。
(2) 引当金と引当金繰入額の性格 ─ 貸倒引当金を例として
前節でも言及されたように,内川教授は,「原因発生主義」たる費用の認識規準の妥当性に着眼 して引当金会計の論理構築を目指した結果,引当金繰入額の性格を「実現収益からの控除」と結論 づけている。もっとも,同時に,引当金は「資本の一項目」とされているが,卑見によれば,収益 の取消と資本の増加とが直接に結びつくものか,疑問が残る。
内川稿では,債務保証損失引当金の検討に先立ち,貸倒引当金に関する検討が為されており,や はり,繰入額の性格は「当期の売上収益からの控除」,引当金の性格は「自己資本の一部」と捉え られているので44),本項では貸倒引当金を検討材料として,改めて両者の性格を吟味したい。なお,
引当金の性格を負債と考えるか資本と考えるかの結論は,対応する借方項目の議論を抜きにしては 導出し得ない。詳細は別稿に譲るが45),将来の特定目的の支出のために資金を留保する項目は引当 金のほかに「積立金」を挙げられる。両者の相違点は,それらの相手勘定(借方項目)が,費用の 発生と利益処分のいずれか,という点に顕在することから,借方項目を俎上に載せることとしたい。
当期に
100
の掛販売をおこなったが,全額未回収のまま期末を迎え,3%の貸倒引当金を見積計 上するとき,内川稿によれば,次のような仕訳が想定されるようである。40)内川 [1983] 286頁。
41)内川 [1983] 288頁。
42)内川 [1998a] 114頁。
43)飯野 [1993] 4-25頁。
44)内川 [1998a] 108頁。
45)平野 [2012b] 21頁。
販売時
:(借)
売上債権100
(貸)売上100
期末:
(借) 貸倒引当金繰入額3
(貸)貸倒引当金3
(収益の取消?)
(資本の増加)
貸倒引当金の見積計上が商品販売時ではなく決算整理仕訳の一環としておこなわれるいじょう,
上記の仕訳を通算することはできず,ゆえに,収益の発生と取消とは峻別され,資本の増加に対応 する借方項目は収益の取消と考えざるを得ない。既存の理論体系において,「資本の増加」を齎す 要因は,(1)出資などの「資産の流入」,(2)決算整理の一環としての「損益の振替」,(3)債務の 株式化などの「負債の減少」が考えられ,「収益の取消」は観念し得ない。けだし,実現収益を直4 接に4 4資本に振り替える処理は,安定した元利の回収を志向する債権者保護の見地からは認めがたい 論理であり,また,利害調整という財務会計の機能を著しく軽視する虞があるからである。
内川教授は,借方項目を「実現収益からの控除」と捉えることで,「当期に現実に発生している 費用のなかに,当期にはまだ現実に発生していない次期以降の将来に発生する費用を混在させる,
という[原因発生主義の ── 平野註]欠点をさけることができる46)」という長所を強調しているが,
結局は,引当金の見積計上額が当期の損益計算に影響を及ぼすことに変わりはない。換言すれば,
費用を過大に計上することを避けた点は賛意を表したいが,当期の収益を減少させることで,「貸 倒損失見積額を当期の収益に負担させる47)」ことに結びつけているのである。
卑見によれば,貸倒引当金の計上は(将来の)現金の出4に直結することはなく,「負債の増加」
とはならない。すなわち,貸倒引当金を現在の義務と捉えて負債として貸借対照表に計上しても,
それを現時点で決済する術はないのである。また,「資産の減少」と捉える向きにも首肯しかねる。
けだし,引当金設定の対象となる債権の回収を諦めて実際に引当金を充当するまでは,当該資産が 減少(消滅)することはないからである。既述したように,資金留保という目的に適う項目として
「積立金」も考えられることから,引当金の計上が「資本の増加」を意味する,という内川稿の見 解には賛同したい。同時に,借方項目は「利益処分」を観念することで特段の問題も生じないばか りでなく,既存の理論とも整合するはずである。
貸倒引当金を「資本の一項目」と捉えたときに生じ得る疑問のひとつが,売上債権の全額を回収 したときに計上される「貸倒引当金戻入益」の性格をどう捉えるか,という問題である。
回収時
:(借)
現金100
(貸)売上債権100
貸倒引当金3
貸倒引当金戻入益 3(資本の減少) (利得の発生?)
内川稿のように,収益控除の取消,という意味では,再度,収益(ないしは,利得)に振り戻す ことも考え得る。しかし,「将来の貸倒損失補塡のためにその使途を拘束されているから,かかる
46)内川 [1998b] 24頁。
47)内川 [1998a] 107頁。
拘束のない自由に処分しうる当期利益とは厳重に区別して取り扱われるべきもの48)」という記述か らは,貸倒引当金は「処分不能積立金」に他ならず,これを取り崩して,当期の損益計算に算入さ せる処理は,まさに,「資本取引・損益取引区分の原則」に抵触する虞がある。卑見によれば,貸 倒引当金繰入額の性格は「利益処分」と捉えられることから,「繰越利益剰余金」へ振り戻すことで,
損益計算への影響はなく,資本項目内部での振替に留まる。
もうひとつの疑問は,引き当てた金額を超えて回収不能となった場合の仕訳である。一般的には,
現実の貸倒額が貸倒引当金勘定残高を上回った場合には,「貸倒損失」が販売費または特別損失と して計上されるようであるが49),この点も問題なしとしない。
回収時
:(借)
現金90
(貸)売上債権100
貸倒引当金
3
引当不足額7
(損失の発生?)
仮に
90
しか回収できずに残額を放棄したとするならば,前期末における貸倒引当金の見積が不 足していたことによって,「引当不足額」が当期に7
だけ発生することとなる。当期の損益計算に 取り込む根拠として,実際に損失が生じたのは当期だから,という理由も考えられないわけではな いが,当期中に生じた売上債権の回収が不能になった場合に計上する「貸倒損失」とは峻別する意 義があろう。けだし,売上債権の回収実績は企業経営にとって最も重要な項目のひとつといえ,特 に,当期に発生した売上債権が当期中に貸し倒れるといった事態は財務戦略および商製品の販売戦 略の是非を問われることにもなり得るからである。このように,引当金設定額を上回る貸倒額が生 じた場合は,あくまで,前期の損益計算に算入させるべきである50)。前期の「収益控除」額が不足 していたならば,それだけ「繰越利益剰余金」が過大に繰り越されていると考えられることから,当該「引当不足額」の性格も,「損失の発生」ではなく,「資本からの控除」と捉えられることとな る。
(
3
) 卑見による仕訳前項では,貸倒引当金について内川稿を検討の題材としたが,債務保証損失引当金についても同 様の議論が可能だろうか。債務保証損失引当金の金額は求償権の評価勘定と考えることが可能であ るならば,売上債権について見積計上される「貸倒引当金」と同様に取り扱うという考え方と結び つき得るかもしれない。既述したように,債権と評価勘定の認識の順序が,「求償権(に対する債 務保証損失引当金)」と「金銭債権(に対する貸倒引当金)」とで正反対であることが,先行研究で 指摘されている一方で,内川教授は,金銭貸付と保証債務とで「現金の支出時期の相違は,当期利
48)内川 [1998a] 108頁。
49)トーマツ [2004] 210頁。
50)わが国では,「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が2009年に公表されたが,その規定は本稿 の主張とは相容れない。
益の算出過程に対して直接的に影響を与えるものではない51)」と述べているものの,しかし,卑見 によれば,ヨリ根本的な問題が残されているように思われてならない。
すなわち,内川稿では,貸倒引当金の場合は「売掛金等金銭債権52)」が議論の題材となっている。
売上債権が増加するにさいして,「売上」という収益の発生は不可避であることから,貸倒引当金 繰入額の性格を「実現収益からの控除」と捉えることは,いちおう,筋が通っている53)。これに対 して,金銭貸付の場合,金銭債権の増加の相手勘定は,収益の発生ではなく,現金の出4に他ならな い。このうえで,「当期の収益獲得過程に関連して発生54)」したために当期の収益から控除するとい う論理展開が為されているが,金銭貸付単体での議論では収益が発生しないいじょう,金銭貸付に 対する貸倒引当金については「実現収益からの控除」を観念し得ず,ゆえに,貸倒引当金一般の議 論を債務保証損失引当金に援用することはできないものと考える。したがって,以下では,貸倒引 当金の議論とは切り離して,債務保証損失引当金について検討したい。
先行研究をとおして得られた債務保証損失引当金に関する知見は,次のように纏められる。
① 保証契約の締結によって,何らかの資産や負債を認識することはない。
② 被保証人の財政状態の悪化については,利益処分によって積立金を計上する。
③ 弁済義務の確定と同時に,確定債務として負債を認識する。
④ 弁済義務の履行と同時に,求償権を認識する。
⑤ 求償権の消滅とともに,債務保証に関する損失が確定する。
はじめに,保証契約を締結したのみでは,何らかの資産の流入や決済せねばならない負債の増加 はなく,特段の会計処理は為されない ── ①。そして,「発生主義」を費用一般の認識規準に据え ているいじょう,引当金に限定して「原因発生主義」を持ち込むという論理は筋違いであり,引当 金を見積計上することはできない。このため,引当金と同じく,将来の特定目的の支出のために資 金を留保する「積立金」の方式を採用する ── ②。さらに,債権者から債務の履行請求が為され た時点をもって弁済義務は確定し,「保証債務」は偶発債務から確定債務へと変化する。本稿で は ② で計上していた「積立金」を取り崩しているが,積立金を取り崩したにもかかわらず,対応 する現金の出4がない,と捉えることもできる ── ③。
しかし,④ の仕訳については若干の検討が必要である。
51)内川 [1998a] 117頁。
52)内川 [1998a] 106頁。
53)もっとも,前節で議論されたように,「貸倒損失」と「貸倒引当金繰入額」とを同様に取り扱うことには首肯 できず,ゆえに,卑見によれば,「貸倒引当金繰入額」を「実現収益からの控除」と捉える見解には否定的で ある。
54)内川 [1998a] 112頁。
第
1
案:
(借) 債務保証未払金 100 (貸)現金預金100
(借) 債務保証求償権
100
(貸)?100
第
2
案:
(借) 債務保証未払金100
(貸)?100
(借) 債務保証求償権 100 (貸)現金預金
100
第
1
案では,債務保証未払金を現金の出4によって決済したのち,債務保証求償権を無償で取得し た,という理解が可能である。これに対して,第2
案では,債務保証未払金の負担義務からは解放 されたいっぽうで,債務保証求償権を現金の出4によって取得した,という理解が可能である。前節 で言及された花田稿,内川稿および松本稿では現金の出4は負債項目の決済に充てられていたが(第1
案),桜井稿では資産項目の取得に充てられていた(第2
案)。このように,④ の仕訳をどのよう に分解する,という具体的な判断規準は,先行研究では明らかになってないものと思われる。そもそも,本稿でいうところの債務保証損失積立金と一般にいわれる債務保証損失引当金とは,
保証契約の効果としてどれほどの現金の出4が将来に見込まれるかを表す貸借対照表の貸方項目とい う点での相違はない。そして,債務保証損失積立金は,保証人が債権者に対して支払う弁済資金の 留保を目的として設定され,③ の仕訳で貸記される債務保証未払金は,偶発債務が確定債務に変 化したことを意味するに過ぎない。この点をふまえると,④ の仕訳は「弁済義務の履行」という 側面だけをみれば,債務保証未払金の消滅が現金の出4と対応しているようにも考えられるが,求償 権の取得と現金の出4とが対応していると考えたほうが,資金の留保が適切に為されていたという事 実を忠実に表現するように思われる(すなわち,第
2
案)。けだし,求償権は,実際に弁済した時 点に認識され,その支払った金額をもって測定されるからである。同時に,債務保証未払金を消滅 させる処理が必要であるが,本稿では債務保証未払金と債務保証損失積立金とを同質に捉えている ことから,債務保証損失積立金の設定目的を達成したという事実は繰越利益剰余金に振り戻すこと で表現し得るものと考えている。なお,国際会計基準の処理規定について,松本 [2004]
では,債務保証求償権の取得と同時に求
償権取得益勘定が貸記され,「求償権の取得による純資産の増加を利益として計上する55)」として説 明されている。たしかに,④ のみであれば,求償権たる資産の流入にさいして,何らの対価の支 払もないことから,利得を認識する処理は不自然ではなく,延いては,損益計算書に特別利益とし て計上され,分配可能利益の算定に織り込まれていくかもしれない。しかるに,債務保証に関する 会計問題は ② や ③ の仕訳も合わせて議論されるべきだろう。そのような立場からは,第1
案を採 用したうえで債務保証求償権の相手勘定が無償取得益(利得)と考えられるか,あるいは,債務保 証求償権の取得と同時に繰越利益剰余金(資本)の増加を観念し得るか,といった検討が必要であ る。しかしながら,前者については,④ の時点で「Aからの回収見込額が25
であった」のにもか かわらず,100の利得を計上して処分可能利益を増額させることへの違和感を禁じ得ない。また,後者については,いかなる資本維持概念が想定されるものか不明瞭であると考えられる。
55)松本 [2004] 255頁。同時に,現金支出が未払金の決済に充てられている。松本 [2012] 288頁も同様。
このような議論をふまえると,債務保証についての卑見による仕訳は以下のとおりである。
① 仕訳なし
② (借)繰越利益剰余金
100
(貸)債務保証損失積立金100
③ (借)債務保証損失積立金100
(貸)債務保証未払金100
④ (借)債務保証未払金100
(貸)繰越利益剰余金100
債務保証求償権100
現金預金100
⑤ (借)現金預金20
(貸)債務保証求償権100
債務保証損失80
お わ り に
損害補償損失引当金とともに,いわゆる損失性引当金として類型される債務保証損失引当金につ いて,その計上に至るまでの根拠を悉に繙くと,実際には生じていない「債務保証損失」について,
保守主義の観点から早期に認識し期間損益計算に取り込む,という「原因発生主義」に基づいた処 理が為されていることは明らかである。しかし,費用一般の認識規準を「発生主義」とするいじょ う,引当金について「原因発生主義」を採用する論理を正当化することは困難ではないだろうか。
本稿では,かような問題意識から,保証契約の効果として将来に見込まれる弁済義務を履行する ための資金を「積立金」の形式によって留保することを提案した。この処理によって,将来の弁済 額が貸借対照表上で明らかになるだけでなく,費用一般の認識規準である「発生主義」を遵守する ことが可能となり,延いては,将来費用を含まない純粋な発生費用を収益から控除することで,適4 正4な期間損益計算の遂行が可能となる。さらに,弁済時の現金の出4は,未払金の決済に,ではなく,
求償権の取得に充てられていることを明らかにした点も本稿の貢献のひとつである。
ただし,資本の減少と負債の増加といった取引要素を結合させる利益処分のような考え方が,期 中における企業の経済活動の表現として適うか,という点や,費用一般の認識規準たる発生主義を
「損失」にも適用する,という点については,別稿で改めて検討したい。
引 用 文 献
飯野 [1993]: 飯野利夫著『財務会計論』三訂版 同文舘出版 五十嵐 [2011]: 五十嵐邦正著『基礎財務会計』第14版 森山書店 井尻 [1976]: 井尻雄二著『会計測定の理論』東洋経済新報社 内川 [1983]: 内川菊義著『引当金会計論』改訂増補版 森山書店
内川 [1998a]: 内川菊義稿「貸倒引当金と債務保証損失引当金」『會計』第154巻第4号 内川 [1998b]: 内川菊義著『引当金会計の基礎理論』森山書店
笠井 [1996]: 笠井昭次著『会計構造の論理』改訂版 税務経理協会
川村 [1999]: 川村義則稿「現在価値の測定をめぐる問題について」『會計』第156巻第6号 桜井 [2011]: 桜井久勝著『財務会計講義』第12版 中央経済社
染谷 [1999]: 染谷恭次郎著『現代財務会計』第10版 中央経済社
田中 [1944]: 田中耕太郎著『貸借対照表法の論理』有斐閣
トーマツ [2004]: 監査法人トーマツ編『会計処理ハンドブック』第3版 中央経済社
西村 [1993]: 西村勝志稿「会計上の負債概念と法律上の債務概念」『山梨学院短期大学研究紀要』第13号 花田 [1983]: 花田重典稿「損失性引当金について」『会計ジャーナル』第15巻第8号
平野 [2012a]: 平野智久稿「資産除去債務に関する会計問題」『産業経理』第71巻第4号
平野 [2012b]: 平野智久稿「貸借対照表の貸方を検討するための基本的視座」『慶應商学論集』第25巻第1号 平野 [2012c]: 平野智久稿「顧客へ付与する特典に関する会計問題」『三田商学研究』第55巻第1号 松本 [1991]: 松本敏史稿「保証債務のオフバランスと債務保証損失引当金」『會計』第139巻第5号 松本 [2004]: 松本敏史稿「債務保証損失引当金と債務保証引当金」『同志社商学』第56巻第2・3・4号 松本 [2007]: 松本敏史稿「債務保証会計と担保会計の新たな試み」『企業会計』第59巻第12号
松本 [2012]: 松本敏史稿「第11章 負債」佐藤信彦他編著『スタンダードテキスト財務会計論Ⅰ<基本論点編>』
第6版 中央経済社
森川 [2008]: 森川八洲男著『体系財務諸表論』第2版 中央経済社 横畠 [2012]: 横畠裕介編集執筆『有斐閣 法律用語辞典』第4版 有斐閣
FASB [1985]: Statement of Financial Accounting Concepts No. 6, “Elements of Financial Statements”, FASB
JICPA [1999]: 監査委員会報告第61号「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」
(付記) 本稿は2012年9月に開催された日本会計研究学会第71回大会での自由論題報告に加筆・修正したもので ある。なお,慶應義塾大学の「博士課程学生研究支援プログラム」による研究成果の一部である。
[福島大学経済経営学類講師]