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鉛直温度分布

ドキュメント内 地球惑星圏物理学 (ページ 47-50)

第 4 章 惑星大気 45

4.1.2 鉛直温度分布

図4-2.地球大気のエネルギー収支。成山堂書店『地球環境を学ぶための流体力学』より転載。

惑星大気の温度分布は、大局的には、大気に供給されたエネルギーを放射・対流・熱伝導 の過程で惑星間空間に運び出すような温度分布として理解できる。主なエネルギーの供給源 は、太陽放射と惑星内部の熱である。地球型惑星(岩石惑星)の場合、惑星内部の熱が大気の 温度分布に与える影響は太陽放射と比較して無視できるほど小さい。

惑星大気に入射した太陽放射のエネルギーフラックスのうち、一部は惑星大気に吸収され、

一部は大気分子や大気中の雲によって散乱されて最終的に大気外に反射される。地表まで到 達した太陽放射の一部は地表面で反射され、残りは地表に吸収される。惑星大気に入射した 太陽放射のエネルギーフラックスのうち、宇宙空間へ反射される割合Aアルベドという。

特に、すべての方向に対する反射を積分したアルベドをボンドアルベドと呼ぶ。大気と地面 に吸収されるのは、太陽放射のエネルギーフラックスのうち、(1−A)の割合である。

大気や地面に吸収された太陽放射は、大気や地面の温度に応じた波長で再放射され、大気 中での吸収・再放射を繰り返しながら、最終的に惑星放射として惑星間空間に放出される( 4-2)。太陽放射が主に可視域の波長であるのに対し、低温の惑星放射は主に赤外域の波長で ある。大気は可視域の太陽放射に対しては比較的透明だが、赤外域の惑星放射に対しては不 透明という特性を持つため、地表からの熱エネルギーの流出を阻害する。結果として、大気 上空と比較して地表付近の温度は高くなる。このことは大気の温室効果と呼ばれる。

図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。

図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。

下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。

dT dz = dp

dz (∂T

∂p )

s

=−ρg (∂T

∂p )

s

. (4.5)

ここで、(∂T /∂p)sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、

(∂T

∂p )

s

= µ ρcp

, (4.6)

となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s

4.1. 大気の物理構造 49

は式(4.6)より小さくなる。凝結の効果を取り入れた断熱温度勾配は湿潤断熱温度勾配と呼ば

れ、対比して式(4.6)は乾燥断熱温度勾配と呼ばれる。

中層大気:中層大気は、入射する太陽放射に見合うエネルギーフラックスが赤外放射によっ て運ばれている、放射平衡が成り立っている層である。大気がすべての波長について等しく 吸収・放射を行うと考えた場合(灰色近似と呼ぶ)、上向きにエネルギーを輸送するためには、

大気の温度は高度とともに減少する必要がある。実際の惑星大気では、分子が特定の波長を 選択的に吸収・放射することで、温度のピークが生じることがある。地球の場合、オゾン層 が紫外域の太陽放射を選択的に吸収することにより大気が加熱され、CO2の15 m帯からの 放射による冷却とバランスしている。このオゾン層の存在によって、地球の中層大気は成層 圏と中間圏に区分される。

高層大気(熱圏):高層大気の温度分布において重要となるのは、局所熱力学平衡(LTE)の 破れによる、冷却効率の悪化である。気体分子の赤外線放射による冷却は、分子の振動・回 転エネルギー準位の遷移にともなっている(図4-5)。中層大気以下の密度の高い層では、分 子間の衝突が頻繁に起こることで、(B)と(b)の過程が卓越し、気体分子はボルツマン分布に 従ったエネルギー分布をとる。この時には射出する赤外線の強度は温度だけで決まることに なる。一方、高層大気では衝突頻度が低いため、LTEが破れた状態にある。衝突が稀なため、

気体の熱運動のエネルギーは放射に変換されにくく。赤外線を放射する効率は悪くなる。こ の時、冷却効率は衝突頻度に比例し、そのため、密度が低いほど冷却効率は低くなる。以上 の理由から、熱圏では熱を中間圏界面まで熱伝導によって輸送し、十分な衝突頻度のある中 間圏から放射によってエネルギーが惑星間空間に運び出される。下向きに熱伝導で熱を運ぶ ために、熱圏下部では下向き温度勾配が形成される。

図4-5.振動回転エネルギー準位の遷移。岩波書店『比較惑星学』より転載。

外気圏:大気分子の密度が小さく、十分な速度を持った分子は他の粒子に衝突せずに大気圏 外へ出てしまう領域を外気圏と呼ぶ。外気圏の下端、エクソベース(exobase)の位置reは、

次式で定義される。

σ

re

n(r)dr= 1 (4.7)

ここで、σは気体分子の衝突断面積、nは気体分子の粒子密度である。この式は、エクソベー スから飛び出した気体分子は外気圏を通る間に1回程度しか衝突を経験しないことを意味し ている。外気圏は惑星大気と惑星間空間の境界であるといえる。

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