第 8 章 太陽系外惑星 83
8.2 系外惑星の多様性
系外惑星に関する重要な発見は、「太陽系とは大きく異なる姿を持つ惑星系が存在する」と いうことである。太陽系惑星と比較して、軌道・質量・半径・大気スペクトル(数例のみ)な ど系外惑星について得られる情報は限定的であるが、これらの情報から推定される系外惑星 の姿の中には、太陽系惑星に存在しないような惑星が多く含まれている。
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8.2.1 ホット・ジュピターとエキセントリック・プラネット
図8-6. 惑星の軌道不安定の模式図。日本評論社『太陽系と惑星』より転載。
太陽系惑星には存在しないタイプの系外惑星の例がホット・ジュピターやエキセントリッ ク・プラネットと呼ばれる惑星である。ホット・ジュピターは、中心星のごく近傍を公転す る巨大ガス惑星である。明確な定義はないが、ここでは100地球質量以上・0.1 AUより小さ い軌道半径の惑星をホット・ジュピターとする。主要な系外惑星検出法であるドップラーシ フト法やトランジット法は中心星に近く重い(大きい)惑星を発見しやすいため、系外惑星の 発見が報告されはじめた当初はこのような惑星が多く発見された。また、太陽系惑星がほぼ 円軌道であるのに対し、軌道離心率が大きなエキセントリック・プラネットと呼ばれる系外 惑星も多数発見されている。
これらの発見は、太陽系形成過程の標準モデル(2章)と一見矛盾しているように思える。
標準モデルでは、中心星から離れるほど孤立質量が大きくなることから、惑星質量が大きく なる。さらに、スノーライン以遠ではH2Oの凝結によって固体質量が増加し、大きなコアが 形成されて巨大ガス惑星となる。この標準モデルでは、中心星近傍では巨大ガス惑星は形成 せず、円盤ガス中で形成された惑星はほぼ円軌道となる。
この矛盾を解決する最も有力なモデルは、惑星が形成後に移動したとするものである。惑 星がある程度大きくなると、原始惑星系円盤ガスとの重力相互作用により、ガスに角運動量 を受け渡して内側に移動する。このようにして、遠方で形成された巨大ガス惑星が中心星近 傍に移動してきてホット・ジュピターとなったという説である。また、エキセントリック・プ ラネットについては、複数の巨大惑星同士の重力散乱(図8-6)による移動が提案されている。
ホット・ジュピターやエキセントリック・プラネットを持つ惑星系でこのような惑星移動 が起き、太陽系で起きなかった理由は定かではない。近年では、太陽系においても巨大惑星 同士の重力相互作用で惑星の軌道は形成当時のものから変化したとする説も提案されている (Niceモデル、Grand Tack モデル)。
8.2.2 スーパー・アース
図8-7.系外惑星の質量と半径。(a) 代表的なトランジット惑星。 (b)代表的なスーパーアー ス。線はある組成の惑星の質量と半径の関係の理論的予想。上から、A:氷。B:75 %氷、22
%岩石の外殻、3 %鉄のコア。C:同様に 45 %, 48.5 %, 6.5 % (ガニメデ類似)。D:同じく 25 %, 52.5 %, 22.5 %。E:岩石。F:67.5 % 岩石マントルと 32.5 % 鉄のコア (地球類似)。 G:同じく30 %, 70 % (水星に類似)。H:形成モデルからの密度限界値。化学同人『アスト ロバイオロジー』より転載。
観測機器の発展に伴い、2010年頃から比較的低質量の系外惑星も発見されるようになった。
その中で、スーパー・アースと呼ばれる1-10倍の地球質量程度の系外惑星が数多く発見され ている。海王星よりやや小さい質量の惑星という意味で、サブ・ネプチューンと呼ばれるこ ともある。どちらも明確な定義は存在せず、またスーパー・アースと呼ばれる系外惑星であっ ても惑星が岩石惑星であることを意味しないことに注意が必要である。
ドップラーシフト法とトランジット法の両方で惑星を観測できた場合、惑星の質量と半径 から平均密度を決定することができる。平均密度は惑星の組成(鉄・岩石・氷・ガス)を知る 重要な手がかりとなる。図8-7に代表的な系外惑星の質量と半径の関係、及び様々な組成の 天体の質量と半径の関係の理論的予想(内部構造計算に基づく)を示す。図8-7(a)をみると、
木星質量程度の系外惑星は水素・ヘリウムガスで構成された天体の半径に近く、巨大ガス惑 星であることが確かめられる。一方、図8-7(b)をみると、スーパー・アースの半径は質量が 同程度のものでも様々で、単一の組成ではないことがわかる。これらのスーパー・アースは 全てスノーラインより内側の公転軌道を持つが、氷を含むと考えられるスーパー・アースも 存在していることから、惑星移動を経験した可能性がある。また、一部のスーパー・アース はH2Oの氷のみで構成された天体の半径よりも大きな半径を持っていることから、水素・ヘ リウムガスをまとっていると考えられる。このようなスーパー・アースの組成の多様性がど のようにして生まれたかはまだよくわかっていない。
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8.2.3 ハビタブル・プラネット候補天体
図8-8. 様々な恒星質量に対するハビタブル・ゾーン。点線の領域は雲量の変化に伴う境界の 変化を表す。赤線は主星に近すぎて潮汐固定(公転周期と自転周期が同期)する境界。化学同 人『アストロバイオロジー』より転載。
液体の水は生化学反応における不可欠な溶媒であることから、惑星表面で液体の水を保持 できる軌道範囲をハビタブル・ゾーンと呼ぶ(第7章参照)。また、そのような惑星をハビタ ブル・プラネットと呼称する。いずれも生命の存在そのものを指すわけではないことに注意 が必要である。
ハビタブル・ゾーンにある系外惑星があったとしても、その惑星が実際に表面に液体の水を 保持しているか、さらに生命が存在するかは現状の観測技術では知ることができない。そこ で、特にスーパー・アースのような岩石惑星の可能性のある惑星がハビタブル・ゾーンに存在 した場合、そのような惑星をハビタブル・プラネット候補天体 (potential habitable planet) と呼ぶ(図8-8)。2016年1月現在、十数個ほどのハビタブル・プラネット候補天体が発見さ れている。
2020年以降に計画されている次世代望遠鏡においては、ハビタブル・プラネット候補天体 の直接撮像が可能になるかもしれない。生命の存在は、バイオマーカーと呼ばれる生命活動 の痕跡を探すことで判別できると期待されている。地球におけるバイオマーカーである大気 中の酸素O2やオゾンO3がハビタブル・プラネット候補天体にも存在した場合、近赤外線や 可視光での大気スペクトル観測から読み取ることができる。また、光合成を行う植物は可視 光を吸収し、赤外線を反射する性質を持つため、約0.7 μmより長波長側で反射率が増加す る(レッドエッジ)。系外惑星におけるレッドエッジの存在もバイオマーカーとなり得る可能 性がある。