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生命の起源と惑星の科学

ドキュメント内 地球惑星圏物理学 (ページ 98-103)

第 9 章 生命の起源 93

9.3 生命の起源と惑星の科学

陸上温泉

海底熱水噴出孔を生命誕生の場とする説には、いくつか反論がある。その一つは、海水の K/Na比は非常に小さいが、細胞内のK/Na比は1より大きいことである。周期表で同じ族 にあるこれらの元素について、生物がKを選択的に利用するようになったのかは定かではな い。もう一つの反論は、有機物を脱水重合して高分子化するための濃縮・乾燥が困難なこと である。海洋中では液体の水が常に豊富に存在するため、高分子を生成することが困難であ る可能性がある。

このような問題を回避する別の仮説として、陸における熱水である、陸上温泉を生命誕生 の場とする説がある。陸上温泉においては、海水と比較してNaが少ない環境がありえる。ま た、濃縮・乾燥も容易であると考えられる。ただし、原始地球大気にはオゾン層が存在しな いため、有機物を分解しうる紫外線から遮蔽された環境が必要である。

パンスペルミア説

地球上での化学進化説と同時期に、生命は地球外から到来したとするパンスペルミア説( 種普遍説)が浮上した。パンスペルミアについては、生命の起源の問題に答えを与えていない こと、生命が宇宙線や高真空という過酷な宇宙環境を生き延びることができるか、という点 で批判があり、高い支持は得ていない。しかし、近年では微生物の中にそのような極限環境 でも生存可能なものが見つかってきていること、火星起源の隕石によって物質の惑星間移動 が現実に起こっていることが立証されたことを受け、生命の惑星間移動の可能性は見直され つつある。

9.2.3 生命誕生の過程

生命の材料物質、生命誕生の場に加えて、もう一つの大きな謎として、生体機能がどのよ うな順番で獲得されて現存する生命に至ったかという問題がある。

前節で紹介したように、代謝を担うタンパク質、自己複製を担う核酸、外界と自己を隔て る膜を担う脂質が、生命の主要な機能である。この中で、特にタンパク質と核酸は互いに助 け合いながら生命活動の根幹を担っており、代謝と自己複製のどちらが先に生まれたかとい う「ニワトリとタマゴ」論争が続いてきた。

1982年に触媒活性をもつRNA、リボザイムが発見されたことで、核酸が最初の生命活動 を担っていたとするRNAワールド説が提唱された。生命誕生の頃には、RNAが自己複製 と代謝の両方を担っていたとする説である。ただし、現実的に化学進化の過程においてRNA が自然に合成されるかは不明であり、また、生命誕生の場が熱水環境であった場合、RNAが 熱に弱いことも問題点の一つである。

この他にも代謝に重きをおくパイライトワールド説や、様々な有機物を取り込んだ原始的 な膜構造こそが最初の生命であったとするゴミ袋ワールド説といった、異なるシナリオも提 案されている。

9.3. 生命の起源と惑星の科学 99 9.3.1 火星

地形学的・地質学的証拠から、火星には約40億年前に液体の水が流れていたとする証拠 が見つかっている。また、地下熱水活動があったとする証拠もあることから、過去に生命が 誕生した可能性や、現在でも地下に生命が存在する可能性が指摘されている。このような観

点から、Viking探査機においては、火星土壌に栄養物質を供給してCO2の発生を調べるな

ど、複数の生命検出実験が行われたが、いずれも未検出に終わっている。ただし、検出限界 の細胞密度が高かったとの指摘もあり、生命が存在しないと断定するには至っていない。ま

た、Curiosity探査機では突発的な大気中のメタンガス濃度の上昇が観測された。メタンガス

は短い時間で紫外線によって分解されるため、現在において大気にメタンガスを供給した未 知のメカニズムが存在することになる。地球におけるメタン生成菌のような生命活動の可能 性もあるが、メタンハイドレートなど、非生物起源の可能性もあり、どちらが正しいか判断 するためには更なる探査が必要である。

9.3.2 氷衛星

木星の衛星エウロパや土星の衛星エンセラダスには、内部海が存在していると考えられて おり、地球の海底熱水噴出孔と類似した環境があると期待されている。エンセラダスについ ては近年、Cassini探査機がプルーム(噴泉)を発見し、プルーム中から高分子有機物を検出 している。また、土星の衛星タイタンは地球と同程度の大気圧のN2 を主成分とし、数% CH4を含む弱還元的大気をもっている。タイタン大気は原始地球大気への紫外線・宇宙線照 射の天然の実験場であるといえる。タイタンの地表は液体の水を保持するには気温が低すぎ るが、CH4の湖の中での化学進化と生命誕生の可能性を調べる上で興味深い天体である。

9.3.3 系外惑星

系外惑星においては将来的な大気スペクトル観測によるバイオマーカー探索のターゲット として、ハビタブル・ゾーンに存在する系外惑星に注目が集まっている。大気スペクトル中 に酸素やオゾンの吸収線が存在した場合、生命存在の兆候である可能性がある(8章参照)

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付 録 A 物理定数

表. 基本的な諸物理定数 (カッコ内はcgs単位系での値)

重力定数(Gravitational constant) G= 6.672×1011 m3 kg1 s2 ( 6.672×108 cm3 g1 s2) 真空中の光の速さ(Speed of light) c = 2.998×108 m3 s1 ( 2.998×1010 cm3 s1) 真空の誘電率 0 = 8.8542×1012 F m1

真空の透磁率 µ0 = 4π×107 H m1

原子質量単位(atomic mass unit)1 u = 1.6605×1027 kg ( 1.6605×1024 g) 陽子質量(Proton mass) mp = 1.6726×1027kg ( 1.6726×1024 g) 電子質量(Proton mass) me = 9.1095×1031 kg ( 9.1095×1028 g) 電気素量(Electron charge) e= 1.6022×1019 Coulomb ( 4.8032×1010 esu) プランク定数(Planck’s constant) hP = 6.626×1034 J s ( 6.626×1027 erg s) ボルツマン定数(Boltzmann’s constant) kB = 1.3807×1023 J K1 ( 1.3807×1016 erg K1) アボガドロ数(Avogadro’s number) NA = 6.0220×1023 mol1

Stefan-Boltzmann定数    σS = 5.6703×108 J s1 m2 K4 (5.6703×105 erg s1 cm2 K4 ) Tomsonの散乱断面         σT = 6.6525×1029 m2 (6.6525×1025cm2 )

熱の仕事当量 J = 4.18580 J cal1 (4.18580×107 erg cal1 ) 電子ボルト(electron volt)2 eV = 1.6022×1019 J (1.6022×1012erg )

1. 水素原子質量mH

2 1Vの電位差がある自由空間内で電子1つが得るエネルギーを1eVと定義される。1eVの平均運動エネ ルギーをもつ気体の温度は11,604Kとなる。

表. 基本的な地球・宇宙物理の定数(カッコ内はcgs単位系での値)

天文単位(Astronomical unit) 1AU = 1.49598×1011 m ( 1.49598×1013 cm) パーセク(Parsec) 1pc = 3.0857×1016 m ( 3.0857×1018 cm) 年(year) 1year = 3.1558×107 s

太陽質量(Solar Mass) 1M = 1.989×1030Kg ( 1.989×1033g) 太陽半径(Solar Radius) 1R = 6.960×108 m ( 6.960×1010cm) 光度(Luminosity) L = 3.826×1026 J s1 ( 3.826×1033erg s1) 気圧(atm)1 1atm = 1.01325×105 N m2 2 ( 1.01325×106 dyne cm2)

1. 1atm=760mmHg=760Torr(トル)とする表現もある。

2. 1N m2=1Pa(パスカル)であり100Pa = 1hPa(ヘクトパスカル)。

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付 録 B 数学的背景

B.1 ベクトル公式

A·(B×C) =C·(A×B) =B·(C×A) (B.1) A×(B×C) = (A·C)B(A·B)C (B.2) (A×B)·(C×D) = (A·C)(B·D)(A·D)(B·C) (B.3)

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