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アジア太平洋地域諸国がARFに集い、協調的安全保障の枠組みの中で信頼譲成措置を進 展させつつあることは率直に歓迎すべき状況であるといえよう。先行研究が示すように、

この安全保障体制の可能性に着目した研究によって培われた知的コミュニティのコンセン サスが、実際のプロセス進展に果たした役割は無視できない。その点でいえば、本稿のよ うにやみくもに限界論を述べ立てることは現在のアジア太平洋地域諸国の信頼譲成措置に 関する知的および政治的努力への積極性(例えばCSCAPに代表されるTRACKIIにおける 知的コミュニティの活動や、1995 年以降の中国の南沙諸島に対する態度の変化やARFへ の関与の姿勢)を見失うことにつながりかねない。そのような危険を回避する意味で、多 くの論者が取っている立場は、アジア太平洋地域の多国間安全保障協力はプロセスそのも のが重要なのだ、という考え方である。

  しかし、そこに欠落しているのは多国間安全保障協力プロセスが行き着く先はどのよう な地点かという視点である。現在あるいは将来のアジア太平洋の安全保障環境の下で、多 国間安全保障協力がいかなる機能を持つことが求められるのか。多国間安全保障協力を他 の安全保障システムを組み合わせて、重層的な安全保障システムを構築するには、どのよ うな機能バランスが求められるのか。筆者はこの問題に接近する鍵を、多国間安全保障協 力の限界性の分析に求めたのである。もちろん、第 3 章第3節「評価と展望」で示したよ うな、限界を突破する可能性を模索し、今後もこの地域の多国間協力の可能性は肯定的に 模索されなければならない。その突破の先にどのような安全保障の秩序が見えてくるのか、

それは今後の動向分析に委ねられる。この問題の結論を出すに至るには程遠いが、本稿が この地域の安全保障システムの考察に何らかの参考になれば幸いである。

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1 John Gerald Ruggie, "Multilateralism: The Anatomy of an Institution," In John Gerald Ruggie ed., Multilateralism Matters: The Theory and Practices of an Institutional Form (New York: Columbia University Press, 1993), p11.

2 Ibid, pp.8-14.なお、このラギーの三つの基準を厳格に適用すれば、多国間協調主義に基づ

くレジームなど現存しないという批判もありえよう。例えば、「一般化された行動原則」が 全ての国に普遍的に適用されるという解釈をとった場合、そのような国際組織は存在しな くなるのではないか。そのため、地域に限定した形での他国間協調枠組みを多国間協調主 義と呼ぶかどうかについては、ラギーの定義を柔軟に解釈し、「負の外部効果を持たない」

地域機構(山本吉宣)であることが必要とされるであろう。また、多国間協調主義を目的 と手段にわけて論じる議論もある、詳しくはJames A. Caporaso, "International Relations Theory and Multilateralism: The Search for Foundations," in Ruggie ed.,

Multilateralism Matters pp.51-90. 本稿では多国間協調主義の最も厳しい解釈はあえて採 用しない。それは分析枠組みを著しく狭めることになるからである。多国間協調主義は「主 義」であり、ある一定の枠組みからみたものの見方を示す。したがって、実際の制度が多 国間協調主義に基づくか否かはその組織がどのような規範を持ち、どのような理念型に基 づき運営されているのかによるのである。この点で「多国間主義の制度」(Institution of Multilateralism)と「多国間の制度」(Multilateral Institution)に分類したマーティンの議 論は参考になる。Lisa L. Martin, "The Rational State Choice of Multilateralism" in Ruggie ed., Multilateralism Matters pp.91-122.

3 「拡散された互恵主義」はそもそも複合的相互依存を論じたR・コヘインの用いた概念で

ある。Robert O. Keohane, "Reciprocity in International Relations," International Organization (Winter 1985), Vol. 40.

4 Ruggie, op. cit. p.11.

5 山本吉宣「協調的安全保障の可能性—基礎的な考察」『国際問題』第425号(1995年8 月)。

6 Alexander George, ed., Avoiding War, (Boulder: Westview, 1991).

7 GRIT: Graduated Reciprocation In Tension Reduction. Charles E. Osgood, An Alternative to War or Surrender, (Urbana: University of Illinois Press, 1962).

8 この定義は、香西茂『国連の平和維持活動』(有斐閣、1991年)7〜9頁、筒井若水『国 連体制と自衛権』(東京大学出版会、1992年)5頁、杉山茂雄「集団的安全保障」川田侃・

大畠英樹編『国際政治経済辞典』(東京書籍、1993年)306〜307頁、を参照しながら筆者 が整理した。

9 山本吉宣「協調的安全保障の可能性」7頁。

10 この定義について参照したのは、同上書、5頁、David Dewitt, "Common, Comprehensive and Cooperative Security," The Pacific Review , Vol.7, No.1 (Oxford University Press, 1994) pp.4-7.; Jeoffrey Wiseman, "Common Security In the Asia-Pacific," The Pacific

Review, Vol.5, No.1 (Oxford University Press, 1992) pp.42-48.

11 Olaf Palme, et al., Common Security: A Blue Print for Survival (New York: Simon and Shuster, 1982).

12 協調的安全保障の概念について、これまで最も包括的な検討をしている山本吉宣の定義 を参照した。山本吉宣「協調的安全保障の可能性」。

13 神谷によって整理された集団的安全保障の成立条件は、①機構が、いかなる平和破壊者 をも圧倒できるだけの軍事力を持つこと。②構成国、特に主要国が、自国の国益を集団全 体の利益に従属させ、機構の集団的措置の発動に協力する意思を持つこと。③構成国、特 に主要国が、どのような平和が守られるべきか(維持されるべき現状をどのように定義す るか)、そしてどのような行為を平和破壊的と認定するかについて共通の認識を持つこと、

である。それぞれの条件の成立はきわめて困難であり、その結果、歴史上有効な集団安全 保障体制は存在していないといえる。神谷万丈「アジア太平洋における重層的安全保障構 造に向かって—多国間協調体制の限界と日米安保体制の役割」『国際政治』第 115号(1997

年5月)151-155頁。また、神谷がこれら条件を案出するにあたって参照した文献は、Hans

J Morgenthau and Kenneth W. Thompson, Politics Among Nations: The Struggle for Power and Peace, sixth edition (New York: Alfred A. Knopf), pp. 452-457. 香西茂『国連 の平和維持活動』34-36頁。

14 山本武彦「信頼譲成措置」川田侃・大畠英樹編『国際政治経済辞典』(東京書籍、1993 年)338頁。

15 浅田正彦  「信頼醸成措置の概念について」『外交時報』1988年4月号。

16 藤田久一、浅田正彦「信頼醸成措置の包括的研究(国際連合事務総長報告書)(一)(二)」

『関西大学法学論集』第35巻1号(1985年4月)、第35巻2号(1985年6月)。

17 CSCEプロセスと信頼譲成措置の意義の変遷について中心的に参照したのは、坪内淳 

「欧州安全保障会議(CSCE)における信頼醸成措置(CBM)の確立と発展」『早稲田政治 公法研究』第47号(1994年7月20日)。また、坪内淳「欧州安全保障会議(CSCE)の 機構化と信頼醸成措置(CBM)の意義変化」『早稲田政治公法研究』第49号(1995年8 月20日)。

18 James Macintosh, "Confidence Building In the Arms Control Process: A Transformation View," Prepared for The Non-Proliferation, Arms Control and

disarmament Division, Department of Foreign Affairs and International Trade, Arms Control and disarmament studies, No.2., October 1996. pp. 53-54.

19 森本敏「アジア・太平洋の安全保障とその枠組み」『外交時報』1993年10月号、また納 屋政嗣「アジア・太平洋における予防外交の構想」森本敏・横田洋三編『予防外交』(国際 書院、1996年)。

20 Richard Snyder, "Regionalism in East Asia," in Robert Scalapino and Masataka Kosaka, eds., Peace, Politics and Economics In Asia: The Challenge to Cooperate (Washington, D.C.: Pergamon-Brassey, 1988).

21 アジア太平洋地域における二国間・サブリージョナルレベルでの信頼譲成措置、全域レ ベルでの信頼譲成措置、および両レベルの関係について検討したのが、山元菜々「アジア・

太平洋地域における信頼譲成措置—重層、補完、補強の発展構造」『国際関係論研究』第 11 号、1997年。

22 山本吉宣「協調的安全保障の可能性」8頁。

23 この三条件は以下の文献を参照した上、筆者が修正したものである。西原正「多国間協 調主義の脆弱性」『防衛大学校紀要』第68号(1994年3月)22頁、神谷万丈「アジア太 平洋における重層的安全保障構造に向かって—多国間協調体制の限界と日米安保の役割」

153頁。

24 もっとも、米ソが核戦争の危険回避の手段として信頼譲成措置をそれほど高く評価して いなかったという指摘もある。Barry M. Blechman, "Efforts to Reduce the Risk of Accidental or Inadvertent War" in Alexander L. George, Philip J. Faley and Alexander Dallin eds., US-Soviet Security Cooperation: Achievements, Failures, Lessons (Oxford:

Oxford University Press, 1998), p.479.

25 Conference on Security and Cooperation in Europe: Final Act (London: her Majesty's Stationery Office, August 1975).

26 この議論についての根拠は、マッキントシュ論文における信頼譲成措置の進展する条件

①である「安全保障環境の現状を変更しようとする意志の共有」、が協調的安全保障の枠組 みではそもそも想定されていないことである。

27 Marie-France Desjardins, Rethinking Confidence-Building Measures: Obstacles to Agreement and the Risks of Overselling the Process, ADELPHI Paper 307, (IISS, Oxford University Press, 1996) p.60.

28 Desjardins, Rethinking Confidence-Building Measures, p.33.

29 Pauline Kerr, "Maritime Security in the 1990's: Achievements and Prospects" in Andrew Mack ed., A Peaceful Ocean? Maritime Security in the Post-Cold War Era (Canberra: Australian National University, 1993), p190. また、米国側の見方はU.S.

Department of Defence, "A Strategic Framework for the Asian Pacific Rim: Looking Toward the 21st Century," (April 1990), pp.22-25.

30 Desjardins, Rethinking Confidence-Building Measures, p.36

31.Ibid. p33.

32 John Borawski, From the Atlantic to the Urals: Negotiating Arms Control at the Stockholm Conference, (London: Pergamon-Brassey's, 1988), pp.78-79 および pp.120-121.

33 Desjardins, Rethinking Confidence-Building Measures, pp.33-34.

34 抑止の定義およびその心理的な影響について検討したR・ジャービスらの著作としては、

Robert Jervis, Richard Ned Lebow and Janice Gross Stein, Psychology and Deterrence (London: Johns Hopkins University Press, 1985)

35 坪内淳「「信頼醸成」—国際安全保障理論の新たな視角」『早稲田政治広報研究』第 51号

(1996年)44〜47頁。

36 この三つの側面は、Desjardins, Rethinking Confidence Building Measures, p38を参照 の上、筆者が修正した。

37 Desjardins, Rethinking Confidence-Building Measures, p.41.

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1 ARFの設立過程に関して、主に以下の著作・論文を参照した。佐藤行雄「1995年の節目

に向かって--アジア太平洋地域の安全保障」『外交フォーラム』64号(1994年1月)、西原 正「アジア・太平洋地域と多国間安全保障協力の枠組み」『国際問題』415号(1994年)、 菊池努『APEC—アジア太平洋新秩序の模索』(日本国際問題研究所、1995年)第7章、佐 藤孝一「ASEAN地域フォーラム(ARF)—アジア太平洋における安全保障協力の試み」財 団法人日本学術協力財団編『冷戦後のアジアの安全保障』(日本学術協力財団、1996年)、 Michael Leifer, ASEAN Regional Forum—Extending ASEAN's Model of Regional Security, ADELPHI Paper 302 (IISS, Oxford University Press, 1996), 拙著「ASEAN地 域フォーラムの成立過程にみるアジア・太平洋地域の多国間関係」(総合政策学部卒業論文、

慶應大学湘南藤沢学会、1996年)。

2 菊池努『APEC』260頁。

3 Chairman's Statement, The First ASEAN Regional Forum, July 1994. Available in http://www.aseansec.org/politics/pol_arf1.htm.

4 The ASEAN Regional Forum: A Concept Paper, August 1995. Available in http://www.aseansec.org/politics/arf_ch2c.htm

5 The Chairman's Statement, The Second ASEAN Regional Forum, August 1995.

Available in http://www.aseansec.org/politics/pol_arf2.htm.

6 The Chairman's Statement, The Fourth ASEAN Regional Forum, July 1997.

Available in http://www.aseansec.org/politics/pol_arf4.htm

7 日本の多国間安全保障対話への対応経緯についての業績としては、佐藤行雄「1995年の 節目に向かって--アジア太平洋地域の安全保障」『外交フォーラム』64号(1994年1月)、 西原正「アジア・太平洋地域と多国間安全保障協力の枠組み」前掲論文、菊池『APEC』

前掲書、第7章、Yoshihide Soeya, "The Evolution of Japanese Thinking and Policies  on Cooperative Security in the 1980s and 1990s", Australian Journal of International Affairs, Vol.48, No.1 (May 1994). などを参照。

8 佐藤行夫「1995年の節目に向かって」13頁。

9 第120回国会中山外務大臣外交演説、1991年1月21日。外務省『外交青書---わが外交 の近況』(1991年版・第35号)379頁〜386頁。

10 菊池努『APEC』263頁〜264頁。佐藤行雄「1995年の節目に向かって」前掲論文、14 頁。

11 佐藤行雄「1995年の節目に向かって」14頁。

12 以下の文章は、佐藤局長が1991年6月5日-7 日にマニラで開催されたフィリピン・タ イ外務省主催の国際会議、及び6月10日-14日にジャカルタで開催された第5回アジア・

太平洋ラウンドテーブルにて亭主された論文の抜粋・要旨である。論文名は、Yukio Sato,

"Asia-Pacific Process for Stability and Security".

13 『朝日新聞』1991年7月21日(夕刊)。

14 「中山提案」が直ちに各国に受け入れられなかった理由としては、外務省の根回し不足

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