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第 3 章 多国間協力の限界性と ARF プロセス 第1節  協調的安全保障

第2節 信頼譲成措置

1  ARFにおける信頼譲成措置:合意および履行状況  

第一回ARF議長声明に示されたように、信頼醸成措置は発足当初からARFの主要な検 討課題とされている。第二回ARFでは信頼譲成措置を促進することが最優先課題として合 意された。同会合では「コンセプトペーパー」が示され、今後のARFの活動の道筋を①信 頼醸成措置の促進、②予防外交の推進、③紛争へのアプローチの充実という三つの段階に 沿って漸進的に進められることが確認された6。また、ARFプロセスを進展させる制度につ いては、公式の政府レベル(第一トラック)と非政府組織(第二トラック)が実際の作業 を担うことになる。

第2回ARF会合におけるコンセンサスに基づき、第一トラックでは「ARF信頼譲成措置 に関する支援グループ」(ARF Inter-sessional Support Group on Confidence Building)が 信頼譲成措置に関する包括的な討議を行う場として設定され、その継続が確認されている。

また、特定のテーマに沿って具体的な信頼譲成措置の検討についてはこれまで「捜索救難」

「PKO」および「災害救助」についての会期間会合(Intersessional Meeting)が開催され た。

これまでのARF会合での検討作業を経て、信頼醸成の具体的な措置の内容として合意さ れたのは、①軍事交流、②安全保障対話、③国防白書の発行、④国連兵器移転登録制度の 四分野である。また第三回ARF会合ではARFのコンタクト・ポイントの設置、自然災害 時における軍の役割に関する情報交換、軍事演習の事前通告と演習へのオブザーバー招聘 に関する情報交換が新たに合意された7

第一の軍事交流では第2回ARF会合では軍事研究機関、国防大学、訓練を通じた相互交 流を高めることの有益性が確認され、第 3回会合では①ARF-ISG-CBM及びARF-SOMへ の各国国防当局者の参加、②自国の軍事交流実績の ARF-SOM への報告、③参加国国防大 学間の情報交換および人的交流を奨励することが合意されている。

第二の安全保障対話では、ARFプロセスを継続していくことが毎回の会合で確認されて いる。第 2回ARFでは二国間、サブリージョナルおよび全域の三つのレベルで安全保障対 話を強化していくことが合意された。また、第3回ARFでもARFプロセスの中で安全保 障対話を継続することや、各国ベースで進められている安全保障対話の実績に関する情

第6図  アジア太平洋地域における信頼譲成措置の合意と提案

      (出所)山元菜々「アジア・太平洋地域における信頼譲成措置重層、補完、補強の発展構造       『国際関係論研究』第1182

報交換を継続することが合意されている。

第三の国防白書発行では、第二回ARF会合において参加国が任意ベースで「国防政策に 関する文書」を提出すること、また第3回ARFでは国防白書の年次発行を推進することが それぞれ合意された。現在はすでに国防白書を発行している国々がその発行の意義を強調 し、他の参加国に同様に情報を定期的に公開することを求めている。

第四の国連兵器移転登録制度では、第3回ARF会合にて、①国連軍備管理登録制度の改 善に関する議論の継続、②任意ベースでARFにも同様のデータの提出、③同制度の拡大の ために、国連と共同行動を行うことが合意された。

このようなアジア太平洋地域における信頼譲成措置には以下のような特徴がある。第一 に、信頼譲成措置の内容が軍事的な分野に限定されず、広範な分野と内容を持っているこ とである。これは、ARFが参加国間での安全保障対話を継続するにあたり、まずは相互理 解と信頼関係の促進を念頭においていることが挙げられる。同時にARFのモメンタムの維 持のために、軍事的な分野に限った活動を進展させていくよりも、より非論争的な分野で の合意を目指そうとする動きと理解できよう。

第二は現在のアジア太平洋地域の信頼譲成措置はその履行が各国の自発性に委ねられる 性格を持っていることである。これは CSCEにおけるヘルシンキ宣言と同様に、初期の信 頼譲成措置に共通してみられる特徴である。

このようにARFにおける信頼譲成措置は、安全保障に特化しない非論争的な分野から進 められているため政治的なコストが少なく、また自発性に委ねられているため参加国の義 務のレベルが低い。このような特徴によって、ARFの信頼譲成措置は「全参加国に受け入 れ可能なペースで進展」(第4回ARF議長声明)しているのである8

2  アジア太平洋地域における信頼譲成措置の限界性

(1) 協力レベルと利得の非対称性

a. ARF議長声明のドラフト作成過程

信頼譲成措置の第一の限界性は、各国の協力レベルと利得の差に基づくものであり、そ れを構造化させているのが、多くの信頼醸成措置の意思決定がコンセンサス方式で行われ ていることである。ARFのこれまでの意思決定プロセスもコンセンサス方式に基づくもの であり、第4回ARF議長声明でもこの方式を継続することが確認されている。しかし、ARF の意思決定のプロセスに関する問題は、さらにこのコンセンサスがどのように形成されて いるかというところに溯る。

ARFがASEANのイニシアティブによって発足したことにより、ASEANはARFにおけ

る「重要な牽引役」(第2 回ARF議長声明)を担うことが確認されている。発足より現在

までARFはASEAN各国が年次交代で議長国を務めることが慣例化し、名目どおり

第7図  ARFの合意形成プロセス

      (出所)筆者作成

ASEANが会議の中心的な位置に存在し、ASEAN域外国を招聘するというシステムとなっ ている。

ARF閣僚会合の準備のため、例 年5月上旬にはARF-SOMが開催される。ARF-SOMに おける次官級の会合で、地域の安全保障問題についての意見交換が行われるとともに、今 後の活動方針が議論される。通常この議論の結果が7月に開催されるARF-SOMのたたき 台となる。しかし、ASEANはこの間に例年ASEAN-中国会議を開催し、ARFで討議され る内容についての打診を行う。7月のARF-SOM に提出される議長声明のドラフトは、こ

のASEAN-中国会議の結果を経て議長国が行うことになっている(第7図参照)9。このよう

にARF会合の事前にASEAN諸国の間、またASEANが利害関係を持つ国との調整のもと に決定されているというのが実状なのである。すなわち、コンセンサス方式の実状は

ASEANを中心に進められているものであり、非ASEAN諸国が調整として介入できる場が

限られている構造となっているのである。

B. 主要参加国の協調と対立

日本・ASEAN・米国および中国が ARFプロセスにおける信頼譲成措置に関してどのよ うな対応をしてきたのか、以下ではその協調している側面と対立している側面を示す。

  多国間安全保障協力に対する認識に協調が見られるとすれば、それは第一に、日・

ASEAN・米・中は、同じ理由または異なる理由が混在しながらも ARFを必要とし、今後

の継続を望んでいることである。日米両国および ASEAN は信頼関係を発展させ、紛争の 危険を軽減する「予防アプローチ」に期待をかけ、ARF プロセスの進展に努力している。

また、中国はARF発足当初は中国脅威論軽減の方策として、また最近ではそれに加え望 ましい信頼醸成措置の進展の制御と二国間同盟に対する牽制の手段としてARFに積極的に 関与するようになっている。

第二に、多国間安全保障協力は自国および二国間同盟の安全保障機能を損なわない範囲 内で行われるという点でも共通している。日米が二国間同盟を基軸として多国間協力を「代 替するものではなく補完」と明記しているのは、ARFにおける「予防的アプローチ」と日 米同盟による「抑止・対処」のアプローチを厳格に区別しているからである。ARF におけ る協力と具体的な措置の進展に積極的な日米も、前者のアプローチは後者の領域に踏み込 んではならないという認識を堅持しているのである。また、中国も台湾のARF加盟反対、

台湾問題への言及の牽制、また信頼醸成措置の進展の制御という手段を用いて、多国間安 全保障協力に一定の留保をつけながら協力を捉えている。後述するように、日米中の「予 防的アプローチ」への認識は異なるが、限られた範囲内での多国間協力という性格はいず れの国家も有していると捉えるべきである。

  これら主要参加メンバー間のARFプロセスにおける対立の第一は、ARFの達成すべき目 標とその進展のプロセスについての対立である。日米はともにARFの議論を更に深め、具 体的な合意を達成し、その合意を域内各国が遵守することにより協力を拡大していくとい

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