Y社では、材料となる鋼板を、図表3-1のようなプレス機を用いて精密プレス加工を施 し、ミクロン単位での精度を要求されるような精密部品を生産している。
また、Y社のプレス機作業工程は、簡略化すると、図表3-2のようにまとめられる。こ れに従って、プレス機作業工程の概要を確認しておこう。
図表3-1:プレス機の例
出所:Y社提供の写真
図表3-2:プレス機作業工程の概要
①段取
(金型取付・材料通し) ②寸法出し ③量産 ④材料替え ⑤量産
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まず、①段取作業において、生産する部品に合わせた金型をプレス機に取り付け、材料 となる鋼板を通す。その後、②寸法出しと呼ばれる調整作業が行われる。Y社が手掛ける部 品には、ミクロン単位での精度が求められるため、量産に入る前に各種の調整と確認を行 わなければならない。すなわち、試し打ちともいえるような作業となる。この寸法出しを クリアすると、③量産に入ることができる。量産に入ってしまえば、例外的なトラブルが ない限り、鋼板材料が切れるまでプレスを続けることができる。鋼板材料が切れたら、必 要な生産数量に応じて、④材料替えをおこない、再び、⑤量産に入る。以降、図表3-2で は省略しているが、量産が終了すれば、金型を取り外して、次の別の製品の生産に取り掛 かることとなる。
ここで既に言及した通り、技術的に難度の高い製品の製造を、いかにプレス機の稼働効 率を下げずに実現するかという点に注目する必要がある。同社は、これまで、稼働効率の 改善を目指して「プレス稼働調査表」というものを作成していた。これはプレス機の稼働 状況を記録したものである。この調査表では、プレス稼働の時間は概ね把握できていたが、
プレス機稼働時間以外の作業工程.......
の作業時間の把握に不十分な点が残されていた。そのた め、プレス機の稼働効率を下げている要因も十分に分析されていなかった。
この問題が特に顕在化するのが、②寸法出しの作業工程である。難度の高い部品を扱う ため、量産前の寸法出しに手間取る場合がある。しかし、単に、寸法出しに手間取るとい っても、その原因は多様である。原因を大きく 2 つに大別すれば、製造現場で対応すべき 調整がうまくいかないことによる「生産上の問題」と、そもそも金型等に不備があるため に、金型の調整をしない限り製造現場での対応は困難であるという「技術上の問題」とに 区分される。
以上のような背景事情をもとに、プレス機の稼働効率を下げる原因を把握するため、「プ レス工程の作業時間の見える化」が、当面の活動テーマとして設定された。活動にあたり、
まずは、Y社のA 工場における主力の設備である2つのプレス機を「見える化」の対象と することにした。また、図表3-2のように作業内容を切り分けて、各作業工程にかかる正 確な時間を、SCRUMを活用することによって測定することにした(図表3-3)。これによ り、プレス機の稼働効率を下げている原因分析を目的とした活動が開始された。
図表3-3:SCRUMの利用
出所:Y社提供の写真
64 3.2.4 成果と課題
3.2.4.1 成果
SCRUMにより、プレス機の稼働時間以外にどのような作業をしているのかに関する正確
な作業時間の把握がなされた。これにより、プレス機別、作業員別、製品別に作業時間が 把握され、製造現場の能率の問題によってプレス機の実稼働時間が低下しているようなこ とがあるのかどうか、データに基づいた検討をすることができるようになった。つまり、
データをとることで、作業内容の時間分析ができるようになってきた(図表3-4)。
図表3-4:SCRUMによって作業時間を把握したデータの一部
出所:Y社提供資料
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結果として、判明したことは次の3点であった。まず第1に、今回、調査対象とした 2 台のプレス機について、作業者ごとの作業時間のばらつきには、大きな問題はないという ことが判明した。第2に、金型調整を必要としていない製造現場での調整作業は、おおむ ね許容されている時間限度内に対応がなされているということであった。第3に、金型調 整を必要とするようなトラブルが発生すると、金型調整のために金型取り外しの作業や調 整後の金型取り付け作業なども発生し、結果として、メンテナンスに時間が掛かることで、
プレスの待機時間が発生しているということが判明した。
以上の通り、作業時間の把握と分析により、プレス機の稼働効率を向上させるためには、
金型調整が発生するような「技術上の問題」に対応していく必要があるという可能性が示 された。現在、対象工場を拡大し、多くの作業員がプレス機の多台持ちをしている別工場 においても、データを把握することで、プレス機の稼働効率を下げる原因の分析を行って いるところである。
3.2.4.2 今後の課題
現状においては、残された課題も多い。
まず第1に、Y社の場合、正確な実際原価を把握するための仕組みが、十分に整備されて いない。そのため、実際原価を把握する仕組みを整備することで、各種の改善活動の成果 を、原価ベースで確認することができるようになることが望ましい。
第2に、「技術上の問題」に対応する必要があるということは判明しつつあるものの、「生 産上の問題」であるのか、「技術上の問題」であるのかを判断するのは製造現場の作業者で ある。その判断をどのように行うべきか、また、その判断にかかる時間がどの程度まで許 容されるのか、改めて検討する必要がある。
第 3 に、問題の根本的な解決のためには、部門間の調整や連携を伴った活動を行う必要 がある。これまでは、部門間で議論をしようにも、関連するデータがなく、データに基づ いた議論が困難であった。Y社の場合、現時点では、製造現場と金型保全部門との調整、連 携についてまだ課題が残されている。今後は、製造現場と金型保全部門の間で、データに 基づいた議論ができるような土壌を構築していくことが求められる。
66 3.3 Z社の事例