3.3 “ 多項式関数 ” 、有理関数の連続性
9.1 平均値の定理
高校の数学の微分法で、イメージで納得していたような「よく知られた事実」をきちんと証明しよ うとすると、平均値の定理のお世話になることが多い。
微分係数の定義f′(x) = lim
h→0
f(x+h)−f(x)
h より、直観的に“明らか”に、十分小さな|h|に対して f′(x)≒ f(x+h)−f(x)
h
であるが、大体等しい ≒は数学的な主張 (命題) ではなく、厳密な論証に使えない。
26思い出せた場合は良いけれど、そうでない場合に調べるのは案外難しいかもしれない。学校の教科書をもっ と簡単に見返すことが出来るような仕組みがあると良いですね。ちなみに筆者は子供が使い終わった教科書をも らって本棚に入れてある。
定義 9.1 (極大値、極小値、極値) I を R の区間、 c∈ I, f: I →R とする。f(c)が、x が cに十分近い範囲での f の最大値になっているとき、すなわち
(∃ε >0)(∀x∈I :|x−c|< ε) f(c)≥f(x).
が成り立っているとき、f(c) は f の
きょくだいち
極大値である、f は c で極大である、という。同様 に
きょくしょうち
極 小 値, 極小が定義される。極大値、極小値をあわせて極値と呼ぶ。f が c で極値を 取るとき、 cを極値点と呼ぶ。
命題 9.2 (内点で極値を取れば、微分係数 = 0) I をRの区間、f: I →R, cは I の内点, f(c) はf の極値、f は cで微分可能 =⇒ f′(c) = 0.
(適当なグラフを板書する。端の点で極大になっているような場合を描いたり。) 証明 f が cで極大になる場合を考える (極小になる場合も同様)。極大の定義から、
(∃ε >0)(∀x∈I :|x−c|< ε)f(c)≥f(x).
|h|< ε ならば、
f(c+h)−f(c)≤0.
まず h >0 の場合を考えると、
f(c+h)−f(c)
h ≤0.
ここで h↓0 として27 f′(c)≤0 が得られる。一方 h <0 の場合を考えると、
f(c+h)−f(c)
h ≥0.
ここで h↑0 としてf′(c)≥0 が得られる。ゆえに f′(c) = 0.
命題 9.3 (Rolle の定理) f: [a, b]→ R は連続で、(a, b) で微分可能, f(a) =f(b) が成り 立つならば、∃c∈(a, b) s.t. f′(c) = 0.
(これも適当なグラフを板書する。授業では端の点で最小になっているような場合を描いた。)
証明 I = [a, b] はRの有界閉集合であるから、I 上の連続関数である f は最大値と最小値を
持つ。最大値と最小値が等しい場合、f は定数関数であるから、c:= a+b
2 とおけばf′(c) = 0, a < c < b.
最大値と最小値が等しくない場合、少なくとも一方は f(a) =f(b) に等しくない。すると、
ある内点 cで、f は最大値かまたは最小値を取ることになる。定理 9.2 によって、f′(c) = 0.
27hを正の方から0に近付けることをh↓0と書く。h→+0と同じこと。同様にh→ −0をh↑0とも書く。
命題 9.4 (平均値の定理 (the mean value theorem)) f: [a, b]→Rは連続で、(a, b)で 微分可能とするとき、∃c∈(a, b) s.t.
f(b)−f(a)
b−a =f′(c).
証明 x∈[a, b]に対して
g(x) :=f(x)− f(b)−f(a)
b−a (x−a)
とおくと
g: [a, b]→R 連続, gは(a, b)で微分可能, g(a) = g(b)
となり, g は Rolle の定理の仮定を満たす。よって、∃c∈(a, b) s.t. g′(c) = 0. ところで、
g′(c) =f′(c)− f(b)−f(a) b−a であるから、
f(b)−f(a)
b−a =f′(c).
注意 9.5 (1) この定理は、いろいろな表し方がある。例えば、
∃θ ∈(0,1) s.t. f(b)−f(a)
b−a =f′(a+θ(b−a)) のようにc のかわりに θ で表現したり、
∃c∈(a, b) s.t. f(b)−f(a) = f′(c)(b−a) のように分母を払った形にしたりする。またb−a=h として、
∃θ∈(0,1) s.t. f(a+h) =f(a) +f′(a+θh)h
とした形は、h <0の場合も成り立ち、便利であるので、特によく使われる。
(2) 平均値の定理はいわゆる「存在定理」であって、c の存在は主張するが、cの値について は、a と b の間にあるという以外に何の情報も与えていない。
命題 9.6 (微分がいたるとこと正ならば狭義単調増加) f: [a, b]→Rが連続で、f は(a, b) で微分可能、f′ >0 in (a, b) とするとき、f は [a, b] で狭義の単調増加である。すなわち
a≤x1 < x2 ≤b=⇒f(x1)< f(x2).
証明 平均値の定理より、f(x2)−f(x1) =f′(c)(x2−x1) を満たす c∈(x1, x2) が存在する。
仮定より f′(c)>0,x2−x1 >0 であるから、f(x2)> f(x1).
命題 9.7 (微分がいたるところ非負ならば単調増加) f′ ≥0の場合は広義の単調増加とな る。すなわちf: [a, b]→R が連続で、f は(a, b)で微分可能、f′ ≥0 in (a, b)とするとき
a≤x1 < x2 ≤b =⇒f(x1)≤f(x2).
証明は上と同様なので省略する。
次の微分法を習った人なら誰でも知っている定理(しかし案外証明を知っている人は少ない) も平均値の定理で証明できる。
命題 9.8 (微分がいたるところ 0 ならば定数) f: [a, b]→R が連続で、f は (a, b) で微分 可能、f′ ≡0 in (a, b) とするとき f は [a, b] で定数となる。
これも証明は上と同様なので省略する。
問 60. 命題 9.6, 9.7, 9.8のいずれかの証明を書け。(「上と同様」と言うのはまったく正しい けれど、読むことと書くことは違うので、書く練習と思ってやってみよう。)
注意 9.9 平均値の定理はベクトル値関数では成立しない。例えばf(t) = (
cost sint
)
(t∈[0,2π]) とすると、f(0) = f(2π),f′(t) =
( −sint cost
)
̸
= (
0 0
)
であるから、f(2π)−f(0) =f′(c)(2π− 0) を満たすcは存在しない(左辺は0 だが、右辺は0 にならない)。しかし、次の定理は多次 元でも成立するので、あまり困ることはない。
命題 9.10 (有限増分の公式) f: [a, b]→R が連続で、f は (a, b)で微分可能、f′ は (a, b) で有界とすると、 sup
x∈(a,b)
|f′(x)|=M とおくとき、 |f(b)−f(a)| ≤M(b−a).
これも証明は平均値の定理からただちに導かれる。なお、f が C1 級であれば、平均値の定理 を使わなくても、f(x) =
∫ x a
f′(t)dt (x∈[a, b]) から
|f(x)|= ∫ x
a
f′(t)dt ≤
∫ x
a
|f′(t)|dt≤M
∫ x
a
=M(x−a)≤M(b−a)
と容易に導くことが出来る(ただし、連続関数の積分の存在を証明するのにも、それなりに手 間がかかるので、論理的に近道が出来るわけではない)。
次の定理は、載せていないテキストもあるが、しばしば利用される重要なものである。
命題 9.11 I = [a, b],c∈(a, b), f: I →R は連続、f は I \ {c} で微分可能、A ∈R, limx̸=c
x→c
f′(x) = A
が成り立つならば、f は c でも微分可能でf′(c) =A が成り立つ。
問 61. 命題9.11 を証明せよ。
余談 9.1 (やや覚えにくい定理について言い訳のようなもの) 平均値の定理(命題9.4)の仮定
の中で、「f は [a, b]で連続で、(a, b) で微分可能」という条件を、シンプルな「f は [a, b]で 微分可能」で置き換えるテキストを最近見かけるようになった。
ここら辺は教える側の意見が揃わないところなのだけど、私は次のように考えている。
• シンプルにすることで証明自体が簡単になって、より多くの人が理解可能になるのなら ば、教育的見地からシンプルなものを採用することは考えられる。(一般の場合の証明が ものすごく大変な定理というのがいくつかあって、そういうときに証明を全く省略する よりは、簡単化した定理の証明を見せるのは価値がある。) しかし今の場合はシンプル にしても証明自体はまったく変わらない。
• シンプルでないと、そもそも覚えることすら出来ないかもしれない。覚えられないより は覚えられた方が良いので、シンプルなバージョンを教える価値がある、という考え方 には一理ある。
• 微積分は「基本」であるとして、色々な人達に講義される。対象者によって教え方が違 うのは当然である。将来道具として使いこなさないといけない人には、使うときのこと を考えて、それなりにシャープなナイフを渡すべきである。
一般論としては、どういう選択をするか、結構悩ましい。今回は、命題 9.6 を証明するに は、シンプル・バージョンの定理ではなく、シャープな命題 9.4 が必要になることも考慮して、
少々覚えにくいがシャープなバージョンを採用した次第である。