12 Lagrange の未定乗数法
12.1 はじめに : Lagrange の未定乗数法の使い方の復習
楕円面
x2 1 + y2
4 +z2 9 = 1
上での、関数 f(x, y, z) =x+y+z の最大値と最小値を求めよ。
このような問題は「よくある問題」で、理工系の多くの学科の学生、経済学部の一部の学生 が遭遇する。彼らは次のような答案を書く。
36この事実は、Morseの補題という定理から簡単に証明できる。Morseの補題については、例えば服部晶夫、
「いろいろな幾何 II」、岩波書店 (1993)の命題3.1 や横田一郎、「多様体とモース理論」、現代数学社(1991)を 参照するとよい。
すごい? いや、実は論理の無い “解答”
g(x, y, z) :=x2/1 +y2/4 +z2/9−1,F(x, y, z, λ) :=f(x, y, z)−λg(x, y, z)とおく。極値の 条件は
Fx=Fy =Fz =Fλ = 0.
つまり
1−λ2x
1 = 0, 1−λ2y
4 = 0, 1−λ2z
9 = 0, x2 1 +y2
4 +z2
9 −1 = 0.
これを解くと、
(x, y, z, λ) =± (
√1 14, 4
√14, 9
√14,
√14 2
) . f
( 1
√14, 2
√14, 9
√14 )
=√
14, f (
− 1
√14,− 2
√14,− 9
√14 )
=−√ 14.
ゆえに最大値は √
14, 最小値は−√
14である。(図形的には、空間内の平面x+y+z =k が楕円面と交わりを持つための条件は−√
14≤k ≤ √
14で、k =±√
14が接するための 必要十分条件である。)
定理 12.1 (条件つき極値問題に対する Lagrange の未定乗数法, Lagrange (1788年)) Ωを Rn の開集合、f と g を Ω で定義され R に値を持つ C1級の関数として、
Ng :={x∈Ω|g(x) = 0} とおいたとき
∇g ̸= 0 onNg
が成り立つとする。条件g(x) = 0 の下で、f は a∈Ng で極値を取るならば、
(∃λ ∈R) ∇f(a) = λ∇g(a).
(暗記術) F(x, λ) := f(x)−λg(x) とおくとき、a, λ は次の方程式を満たす。
∂F
∂xj
(a, λ) = 0, ∂F
∂λ(a, λ) = 0.
∇f = (∂f
∂x1, . . . ,∂x∂f
n
)T
である。
上の「答案」は実はツッコミどころ満載である。
(a) 最大値と最小値が存在するのはなぜか。
(b) 定理を使うわけだけど、極値は存在するという仮定は満たされるのか。
(c) 定理の仮定 ∇g ̸= 0 はチェックしなくて良いのか。
(d) 計算で求まったのは本当に極値なのか。それが最大値と最小値に等しいのはなぜか。
Ng はRnの有界集合であり((x2+y2+z2)/9≤x2/1 +y2/4 +z2/9 = 1よりx2+y2+z2 ≤9.
すなわち |(x, y, z)| ≤3)、f は連続であるから (これはもう分かるだろう)、Weierstrass の最 大値定理により、Ng での最大値と最小値が存在する。(a) はクリア。
こういう問題で極値とは何か、定義することが必要であるが、それをやれば「最大値は極大 値」、「最小値は極小値」はすぐ証明できるので、(b) もすぐクリア出来る。
(c) の ∇g ̸= 0 はチェックする必要がある。やってみよう。
∇g = 0 ⇔ 2x 1 = 2y
4 = 2z
9 = 0 ⇔ (x, y, z) = (0,0,0).
g(0,0,0) = −1̸= 0 であるから、(0,0,0)̸∈Ng. ゆえに Ng 上では ∇g ̸= 0. これで (c) クリア。
上の定理から、最大値、最小値を与えるa は (対応する λ と合わせて) はFx =Fy =Fz = Fλ = 0 を満たす。その方程式の解が2つしかなかったから、大きい値が最大値、小さい値が 最小値である。
そういうわけで、上の定理を理解すれば、問題は完璧に解けたことになる。
たとえ話: ある殺人事件の犯人を捕まえたい。まずそれが本当に殺人事件であることを確認
する(事故や自殺で亡くなったのではない)。そうでないと、そもそも犯人がいないかもしれな
い(無実の人を生んでしまうかも)。犯人がもし存在するならば、必ずある不審者条件を満たし
ていることが分かっている。不審者条件を満たしている人はある方法でもれなくピックアップ 出来る。実際にそれを実行したら該当者が2人だけ存在した。簡単な方法でそのうち一人は犯 人でないことが分かったら、残った一人が犯人である。
上の枠内の答案のやり方は、もしかすると無実の人を生むかもしれない、捜査方法である。
時間がおしているので、脱線はほどほどに。
このようにかなりこみ入った論理が必要になる理由は、問題が多変数関数であるため、1変 数のときのような増減表が使えないから、ということも出来る。増減表はとても良く出来た ツールで、表を完成させれば、ほぼ完全な捜査が出来たことになる。
A 問の解答
問1の解答 U が A の上界であるとは、
(∀x∈A) x≤U ということなので、その否定は
(∃x∈A) x > U.
問2の解答 A が上に有界であるとは、(∃U ∈R) (∀x∈A) |x| ≤ U ということであるから、
その否定は
(∀U ∈R)(∃x∈A) |x|> U.
問3の解答 上限の定義を見てみよう。S が A の上限であるためには、S はA の上界である 必要がある。特に A は上に有界である。
問4の解答 (こうして出題すると、問のすぐ上に答が書いてあるので、人を馬鹿にしている
ような問題になってしまうけれど、こういう問に答えられることは大事で、試験には良く出 す。用語・記号の定義を学ぶごとに、白い紙を前にして、自問自答することを勧める。)
A ⊂R, S ∈ R とするとき、S が A の上限であるとは、以下の (i), (ii) が成り立つことを いう。
(i) ∀x∈A x≤S.
(ii) (∀ε >0)(∃x∈A) x > S −ε.
問5の解答 S = 2 とおく。
(i) x∈A とするとき、1< x <2 = S であるから、特に x≤S.
(ii) ∀ε >0とする。ε <1 のとき、−1<−ε <0 であるから、1<2−ε <2. x:= 2+(22−ε) = 2−ε/2 とおくと、1<2−ε < x < 2 であるから、特にx∈A, x > S −ε.
ε≥ 1のとき、2−ε <1 であるから、x= 3
2 とおくと、x∈A, x >1>2−ε=S−ε.
特にx > S −ε.
いずれの場合も∃x∈A, x > S −ε が成り立つ。
以上より S は A の上限である。
問6 の解答 これも定義を写すだけだけど、この文書に書いてある定義は、分かりやすくす る目的でしばしば冗長になっている(同じことを表現を換えて繰り返し書いている)。問題の答 としては冗長に書く必要はない。
supA:=
{
Aの上限 (A が上に有界のとき)
∞ (A が下に有界のとき)
問7 の解答 C の最大値が存在すれば、それは C の上限である0に等しいはずである。とこ ろが 0̸̸=C. C の最大値は (最大値の定義によって)C に含まれる必要があるので、これは矛 盾である。ゆえに C の最大値は存在しない。
問8の解答 任意の実数が空集合の上界であるので、空集合は上に有界である。ここまでが 問の解答。後はおまけ。上界全体 (= R)は最小値を持たないので、空集合は上限を持たない。
なお、上界の最小値は存在しないので、上限は存在しない。上界の集合は下に有界でないの で、sup∅=−∞ と定めるテキストもある(かなり違和感があるので、この文書では空でない 集合に対してしかsup を考えないことにしてある)。Weierstrassの公理に「空でない」とある 理由が分かってもらえただろうか。
問9 の略解 A := {x∈Q|x≤0∨(x≥0∧x2 <2)} とおく。R や √
2 を知っていれば、
A={
x∈Q|x <√ 2}
である。A⊂R と見なすと supA=√
2であるが、√
2̸∈Q であるの で、Q だけで考えたとき、A は上限を持たない。
問10 の解答
infA= minA= 1, infB = 0, infC = minC =−1, infD= minD= 1.
なお B の最小値は存在しない。
問11 の解答 (∀x∈E) 0 ≤x≤1 が成り立つので,E は上にも下にも有界である。
(∀x ∈ F) 1 ≤ x が成り立つので、F は下に有界である。一方 F は上に有界でない。実際 U を任意の実数とするとき、アルキメデスの原理より ∃n ∈ N n > |U| ≥ U. ne ∈ F かつ n2 ≥N であるから、F は上に有界ではない。
問12 の解答 これは宿題として出した問題なので、そちらの解答を見て下さい。
問13 の略解 A ⊂ R, A ̸= ∅, A は下に有界とする。このとき A′ := {−x|x∈A} とおく と、A′ ⊂ R, A′ ̸= ∅ で (なぜでしょう?)、A′ は上に有界である (なぜでしょう?)。従って
Weierstrass の公理により、A′ は上限を持つ。それをS と書くことにする。実は−S は Aの
下限になる (なぜでしょう?)。
問14の解答
(a) |A| ≤B とする。B ≥0であることはすぐ分かる。|A| ≤B であることから、A≥0であ ればA≤B,A < 0であれば −A ≤B. A≥0 である場合、−B ≤0≤A≤B. A <0で ある場合、−B ≤A <0≤B. いずれの場合も −B ≤A≤B.
逆に−B ≤A≤Bとする。B ≥0であることはすぐ分かる。A >0であれば|A|=A ≤B.
A <0であれば (−B ≤A の両辺を−1倍した不等式を用いて)|A|=−A≤ −(−B) = B.
いずれの場合も|A| ≤B.
(b) −|x| ≤ x≤ |x|, −|y| ≤y ≤ |y| であるから、−(|x|+|y|)≤ x+y ≤ |x|+|y|. ゆえに (a) から|x+y| ≤ |x|+|y|.
問15の解答 背理法を用いる。A ̸= 0 と仮定する。ε:=|A| とおくと、ε > 0 である。仮定 (♠) より|A|< ε. これは矛盾である。ゆえに A= 0.
問16の解答 {an} が a に収束するとは、(∀ε >0) (∃N ∈ N) (∀n ∈N: n ≥N) |an−a| < ε ということであるからその否定は
(∃ε >0)(∀N ∈N)(∃n ∈N:n ≥N) |an−a| ≥ε.
{an} が収束するとは、(∃a ∈R) (∀ε > 0) (∃N ∈ N) (∀n ∈ N: n ≥N) |an−a|< ε というこ とであるからその否定は
(∀a∈R)(∃ε >0)(∀N ∈N)(∃n∈N:n≥N) |an−a| ≥ε.
問17の解答
(1) 任意の正数ε に対して、(∃N ∈N)N ε >1. このとき n≥N を満たす任意の n ∈Nに対 して、n2 ≥n≥N であるから、
1 n2 −0
= 1 n2 ≤ 1
N < ε.
ゆえに lim
n→∞
1 n2 = 0.
(2) 任意の正数 ε に対して、ε2 >0 であるから、(∃N ∈N) N ε2 >1. ゆえに √
N ε >1. この ときn≥N を満たす任意の n∈N に対して、
1
√n −0 = 1
√n ≤ 1
√N < ε.
ゆえに lim
n→∞
√1 n = 0.
問18の解答 (準備中)
問19の解答 (略 — 色々な本に書いてある。)
問20の解答 |a| = |a−b+b| ≤ |a−b|+|b| より |a| − |b| ≤ |a−b|, a と b を入れ換えて
|b| − |a| ≤ |a−b| となるので、−|a−b| ≥ |a| − |b|. ゆえに ||a| − |b|| ≤ |a−b|. εを任意の正数とすると、lim
n→∞an=aであるから、(∃N ∈N) (∀n∈N: n ≥N)|an−a|< ε.
このとき
||an| − |a|| ≤ |an−a|< ε.
ゆえに lim
n→∞|an|=|a|.
問21の解答 (数直線上に状況を図示してみれば、以下でやっていることは簡単である。)
∀ε >0 に対して、
(∃N1 ∈N)(∀n ∈N:n ≥N1) |an−b|< ε, (∃N2 ∈N)(∀n ∈N:n ≥N2) |cn−b|< ε.
N := max{N1, N2}とおくとき、n≥N を満たす任意の n∈N に対して、
−ε < an−b かつ cn−b < ε.
仮定 an≤bn≤cn よりan−b≤bn−b ≤cn−b であるから、
−ε < an−b≤bn−b≤cn−b < ε.
ゆえに |bn−b|< ε. これは lim
n→∞bn=b を示している。
問22の解答 an:=−1
n, bn := 1
n とおくと、an ≤ n1sin1n ≤bn, lim
n→∞an= lim
n→∞bn= 0 である ので、lim
n→∞
1 nsin1
n = 0 (収束して右辺に等しい)。
問23の解答
∑n k=1
1 k! ≤
∑n k=1
1
2k = 1−(1/2)n
1−1/2 ≤ 1
1−1/2 = 2 であるから、an:=
∑n k=0
1 k! は、
an = 1 +
∑n k=1
1
k! ≤1 + 2 = 3, an+1−an= 1
n! >0 より an < an+1
を満たす。ゆえに {an} は上に有界な単調増加数列であるから収束する。
問24の解答 誘導に従えば、問23とほとんど同じなので、省略する。
問25の解答 まず ∀n∈N に対して an>0 である。an+1 は an と 2/an の平均であるから、
an+1 = 1 2
(
an+ 2 an
)
≥
√ an· 2
an =√ 2.
a1 = 2>√
2であるから、∀n∈Nに対して an≥√
2である。ゆえに{an}は下に有界である。
an+1−an= 1 2
(
an+ 2 an
)
−an = 2−a2n 2an ≤0 であるから、{an} は単調減少数列である。
ゆえに{an} は極限a を持つ。漸化式で n → ∞とすると、
a = 1 2
( a+ 2
a )
. これから a2 = 2. an≥√
2 であるから a≥√
2. ゆえに a=√
2. すなわち lim
n→∞an =√ 2.
y =x と y = 12( x+x2)
のグラフを描いて、{an} の定め方が図形的に解釈してみよう。ま た上では最初から √
2 という数を持ち出したが、もし有理数の範囲で議論したければ、まず a2n>2を帰納法で証明し (∵a2n+1−2 = 14
(
a2n+ a42 n
)
>0)、それから {an} が単調減少である ことを証明することも出来る。
1 2 3 4 5
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図 10: y=x, y= 12(
x+ 2x)
のグラフ
問26の解答 an =n (n ∈ N) とおく。U を任意の実数とする。a := 1, b :=|U|+ 1 とおく と、a >0, b >0. アルキメデスの公理から、(∃N ∈N) N a > b. すなわち N >|U|+ 1. この とき、(∀n∈N:n≥N)
an=n≥N >|U|+ 1 ≥U.
これは lim
n→∞an =∞ を示している。
問27の解答 {an}n∈N を単調増加数列とする。{an} が上に有界ならば、命題 2.14 によっ て、{an} は極限を持つ。{an} が上に有界でないならば、任意の実数 U に対して、(∃N ∈N) an > U. 単調増加であることから、n ≥ N を満たす任意の n ∈ N に対して、an ≥ aN > U. ゆえに lim
n→∞an =∞.
問28 の解答 R\ {(n+ 1/2)π |n∈Z}
問30の解答 「δ = ε とおくと」「|x−a|< δ = ε.」