3.3 “ 多項式関数 ” 、有理関数の連続性
4.7 多変数関数の極限に関する注意
これらの関数の多くは C∞ 級であることが分かり、証明も同様である(ただし √
x が C∞ 級であるのは、x > 0 の範囲で、x = 0 を含めると成り立たなくなる、などの注意は必要で ある)。
例 4.4 f(x, y) = x2+ 2xy+ 3y2+ 4x+ 5y+ 6 は2変数の多項式関数であるから、R2 上の関 数として連続である。
φ(x, y) = sin(x2+ 2xy+ 3y2+ 4x+ 5y+ 6) は、g(z) = sinz とすると、φ=g◦f. f も g も連続関数であるから、合成関数 φは連続である。
問 43. 次の各関数がR2 で連続であることを示せ (理由を述べよ)。
(1) f(x, y) =x2 +√
2xy+ (log 3)y2+ π4x+e5y+ 6 (2) g(x, y) = exp (3x+ 2y+ 1) (3) h(x, y) = x2+ 2x+ 3
x2+y2+ 1 (4) φ(x, y) = log (
1 +√
x2+y2 )
(5) F(x, y) = (
x3 −3xy2 3x2y−y3
)
図 1: f(x, y) = xy のグラフと等高線
Plot3D[x^y,{x,0,1},{y,0,1}]; ContourPlot[x^y,{x,0,1},{y,0,1}]
次の例を考えるために、一つ準備をする。
命題 4.6 (関数が極限を持つとき、制限した関数も同じ極限を持つ) ∅ ̸= Ω′ ⊂ Ω ⊂ Rn, f: Ω→Rm とするとき、f の Ω′ への制限 f|Ω′: Ω′ →Rm が f|Ω′(x) =f(x) (x ∈Ω′) で 定義されるが、a ∈Ω′, A∈Rm, lim
x→af(x) = Aとするとき、
xlim→af|Ω′(x) = A.
(limx→af|Ω′(x) のことを、lim
x∈Ω′
x→0
f(x)で表す人が多い。)
(この命題は簡単すぎるのか、ほとんどのテキストに載っていないが、知っておくと、色々な 場面ですっきりすると思われる。考えてみると、数列については「収束する数列の部分列は同 じ極限に収束する」という命題はほとんどすべてのテキストに載っているのに、この命題を載 せていないのはバランスが悪いな、という感想を持つ。)
証明 極限の定義から
(∀ε >0)(∃δ >0)(∀x∈Ω :|x−a|< δ)|f(x)−A|< ε となるので (Ω′ ⊂Ω であることから)
(∀ε >0)(∃δ >0)(∀x∈Ω′ :|x−a|< δ)|f(x)−A|< ε.
これは lim
x→af|Ω′(x) =A を示している。
系 4.7 連続関数の制限は連続である。
たとえ lim
x→alim
y→bf(x, y) = lim
y→blim
x→af(x, y) であっても、それが lim
(x,y)→(a,b)f(x, y) に一致すると は限らない。
例 4.8 (極限の存在しない例 (とても有名)) f: R2\ {(0,0)} →Rを f(x, y) = xy
x2 +y2 ((x, y)∈R2\ {(0,0)}) で定めるとき
xlim→0lim
y→0f(x, y) = lim
y→0lim
x→0f(x, y) = 0 であるが18、
lim
(x,y)→(0,0)f(x, y)
は存在しない。実際、実数 k を固定して、直線 y = kx に沿った極限を考えると(つまり Ωk := {(x, y)∈Ω|y=kx}, f|Ωk: Ωk → R, f|Ωk(x, y) := f(x, y) ((x, y) ∈ Ωk) と定義して、
lim
(x,y)→(0,0)f|Ωk(x, y)を考えると) lim
(x,y)→(0,0)f|Ωk(x, y) = lim
(x,y)→(0,0)y=kx
f(x, y) = lim
x→0f(x, kx) = lim
x→0
x·kx
x2+ (kx)2 = lim
x→0
k
1 +k2 = k 1 +k2. これは k に依存するから、 lim
(x,y)→(0,0)f(x, y) は存在しない。実際、もし lim
(x,y)→(0,0)f(x, y) が存 在すれば、命題4.6 により、 lim
(x,y)→(0,0)f|Ωk(x, y)も同じ極限を持つはずであるが、それが k に
依存しているので (k を変えると異なる値を取るので)、そういうことはありえない。
図 2: f(x, y) = xy
x2+y2 のグラフと等高線 この例では、グラフよりは等高線の方が分かりやすい
Plot3D[x y/(x^2+y^2),{x,0,1},{y,0,1}]; ContourPlot[x y/(x^2+y^2),{x,0,1},{y,0,1}]
18a >0,a̸= 1とするとき指数関数 x7→ax というものを考えた。それはR 全体で連続で、x= 0のとき 1 という値を取る。特に lim
x→0ax=a0= 1. 一方、α >0 に対してx7→xα という関数を考えると、これは[0,∞) で連続で、x= 0のとき0 という値を取る。特に lim
x→+0xα= 0α= 0.
そういうわけで、y=kxのように近づき方を指定してみることで、極限が存在することの 証明は出来ないが、極限が存在しないことの証明は出来ることがある。また極限が存在する 場合に、極限の見当をつけることも出来る。つまり lim
(x,y)→(a,b) y=kx
f(x, y) を計算して、常に (k に よらない) A という値を取ったとするとき、それだけで lim
(x,y)→(a,b)f(x, y) = A とは結論でき ないが、もし極限が存在するならば、それは A 以外にありえないことは分かる。そこで後は
|f(x, y)−A|が 0に収束するかどうか調べる、という手順で考えるのは有効である。
例 4.9 f: R2 →R を
f(x, y) = x2y
x2+y2 ((x, y)∈Ω :=R2\ {(0,0)}) で定めるとき
lim
(x,y)→(0,0)f(x, y) = 0.
実際、
|f(x, y)−0|= x2y
x2+y2
= x2
x2+y2 |y| ≤ x2 +y2
x2 +y2 |y|= 1· |y|=|y|.
任意の正数 ε に対して、δ :=ε とおくと、δ > 0 で、|(x, y)−(0,0)|< δ を満たす (x, y)∈Ω に対して、
|f(x, y)−0| ≤ |y| ≤√
x2+y2 < δ =ε.
これは lim
(x,y)→(0,0)f(x, y) = 0 を示している。
余談 4.1 (計算の工夫) 上の二つの例は、極座標変換 x =rcosθ, y= rsinθ を施すと簡単で 見通しが良くなる。いつもそうなるわけではないが、紹介しておく。まず (x, y)→(0,0)より r →0になることに注意しよう。
xy
x2+y2 = rcosθ·rsinθ
r2 = cosθsinθ= 1 2sin 2θ
であるが、これは r →0 のとき、極限を持たないことは明らかである (方向により違う値を 取ることも良く分かる)。一方
x2y
x2+y2 = (rcosθ)2·rsinθ
r2 =rcosθsinθ は r →0のとき、0 に収束する。実際、
x2y
x2+y2 −0
=r|cosθsinθ| ≤r→0 であるから。
関数が無限大に発散することも定義しておこう。
定義 4.10 (関数の無限大への発散) Ω ⊂ Rn, f: Ω → R, a ∈ Ω とする。x → a のとき f(x) が ∞ に発散する とは
(∀U ∈R)(∃δ >0)(∀x∈Ω :|x−a|< δ) f(x)> U が成り立つことと定義する。
せめて1行覚えるならば
xlim→af(x) = ∞ def.⇔ (∀U ∈R)(∃δ >0)(∀x∈Ω :|x−a|< δ) f(x)> U.
−∞への発散も同様に定義する。
問 44. −∞へ発散することの定義を書いてみよ。
定義が出来れば、次のような命題 (1変数の場合は、事実としては、高校生も知っていて、
使っている)を証明するのは難しくない。
命題 4.11 Ω⊂Rn, f: Ω→R, a∈Ωとする。
(1) lim
x→af(x) =∞ ならばlim
x→a
1
f(x) = 0.
(2) ∀x∈Ωf(x)>0, lim
x→af(x) = 0 ならば lim
x→a
1
f(x) =∞.
証明
(1) ∀ε > 0 に対して、U := 1
ε とおくと U > 0. 仮定 lim
x→af(x) = ∞ より、∃δ > 0 (∀x ∈ Ω)
|x−a|< δ ⇒ f(x)> U. このとき、0 < 1
f(x) < 1
U =ε. ゆえに 1
f(x) −0
< ε. ゆえに
x→alim 1
f(x) = 0.
(2) ∀U ∈ R に対して,ε := 1
|U|+ 1 とおくと、ε > 0. 仮定 lim
x→af(x) = 0 より、(∃δ > 0) (∀x∈Ω)|x−a|< δ =⇒ |f(x)|< ε. 仮定 f(x)>0より、このとき、f(x) = |f(x)|> 1
ε =
|U|+ 1 > U. ゆえに lim
x→a
1
f(x) =∞.
合成関数の極限に関する命題 3.13 と同様の命題が、±∞ に発散する場合にも得られる。
これ以外に (Ωが有界でない場合に) lim
|x|→∞f(x) のような極限もあるが、省略する。
問 45. 次の極限が存在するかどうか調べ、存在する場合はそれを求めよ。発散する場合も
∞ または −∞であるときはそれを指摘せよ。出来る限り根拠を書くこと。
(1) lim
(x,y)→(1,2)(3x2+ 4xy+ 5y2) (2) lim
(x,y)→(0,1)
2 + 3xy
4x2+ 5y2 (3) lim
(x,y)→(0,0)
1 x2+y2 (4) lim
(x,y)→(0,0)
x+y
log(x2+y2) (5) lim
(x,y)→(0,0)
x−y
x+y (6) lim
(x,y)→(0,0)
|x|
√x2+y2 (7) lim
(x,y)→(0,0)
x2y2 x2+y2 (8) lim
(x,y)→(0,0)
sin(xy) xy .
問 46. つぎの関数が原点 (0,0)で連続かどうか調べよ。
(1) f(x, y) =
xy2
x2+y2 ((x, y)̸= (0,0)) 0 ((x, y) = (0,0))
(2) f(x, y) =
x2y2
x2+y2 ((x, y)̸= (0,0)) 0 ((x, y) = (0,0)) (3) f(x, y) =
x2−y2
x2+y2 ((x, y)̸= (0,0)) 0 ((x, y) = (0,0))
(4) f(x, y) =
x+y
log (x2+y2) ((x, y)̸= (0,0)) 0 ((x, y) = (0,0)) (5) f(x, y) =
xy
x+y (x+y̸= 0) 0 (x+y= 0).
解答(結果のみ) (1) 連続である (2) 連続である (3) 連続でない (4) 連続である (5) 連続でない
(最後の (5) は y=kxに沿った極限は、k によらず 0 であるが、 lim
(x,y)→(0,0)f(x, y) は存在し ない、という微妙な例である。分子が2次同次、分母が1次同次で、分子の次数が分母の次数 よりも大きいから、0に収束しそう、という粗い直観にも反している。)
Intermission ( 休憩時間 ): 目標の再確認
この講義では、初回のイントロダクションで目標をかなり明確に述べたつもりであるが、実 際に講義してみて、目標を修正することにした。
関数列の極限 (例えば一様収束) を解説するという野望を持っていたが、他の講義 (例えば 複素関数)にまわすことにする。その代わりに多変数関数の極限について解説した。微積分段 階の解析を説明する方が重要である、と判断したためである。
以下、しばらくは連続関数の持つ、3つの有名かつ便利な性質 (1) “Weierstrass の最大値定理”
(2) 中間値の定理
(3) コンパクト集合上の一様連続性
のうちの二つを目標にする(最後の一つは、積分の議論が重要な応用で、そこまで話をする余 裕がないと判断した)。
5 数列 , 点列の極限 (2) 極限の存在条件
何らかの意味で数列(点列)の極限が存在することを保証する定理を3つほど述べる。論理 的には積み木になっていて、最初の区間縮小法の原理自体が、Rの連続性を本質的に用いてい
るので(ここでは命題 2.14 から導く)、どれもR の連続性のおかげで成り立つ定理と言える。
最初に数列について述べてから、点列の場合に言及する。