第 2 章 マグマ、半群、モノイド、群 28
2.3 モノイド
2.3.1 単位元とモノイド
定義2.3.1. (S,◦)をマグマとする。このマグマの左単位元(left unit)とは、Sの元aであって、
∀s∈S a◦s=s
を満たすものであり、右単位元(right unit)とはSの元bであって、
∀s∈S s◦b=s を満たすものである。
右単位元でかつ左単位元でもある元を単に単位元(unit)という。
問題 2.12. もしマグマに左単位元と右単位元が存在すれば、それらは一致することを示せ。
特に、マグマに単位元があればそれはただ一つである。
ヒントは、上の定義で言えばa◦bを計算してみることである。
定義2.3.2. 単位元をもつ半群をモノイド(monoid、単位的半群)という。
すなわち、モノイドGとは材料としては GA (台集合などと呼ばれる)集合G0
GB (積、合成などと呼ばれる)G0上の二項演算◦
GC (単位元と呼ばれる)e∈G0
の組(G0,◦, e)であって、次の性質(モノイドの公理と呼ばれる)を満たすもの。
G1 (結合法則, associative law)
∀g1, g2, g3∈G0 (g1◦g2)◦g3=g1◦(g2◦g3).
G2 (単位法則, unit law)
∀g∈G0 g◦e=g, e◦g=g.
2.3. モノイド 41 注意2.3.3. モノイドとは(G0,◦, e)の組のことである。が、しばしば「(G0,◦)はモノイドで ある」という言い方をする。これは、上の問題2.12により、単位元は存在すれば一意的に決 まってしまうからである。つまり、「モノイド(G0,◦)」と言えば、単位元は唯一つに決まるの で、明示しないことが多い。
例 2.3.4. 1. (N,×,1)はモノイドである。
2. 半群(N,+)はモノイドにならない。和に関する単位元がNにないからである。
3. 0を付け加えて、(N∪ {0},+,0)とするとこれはモノイド。
4. 0以上の有理数の集合は、和に関してモノイドとなる。
5. (Map(S, S),◦,idS)はモノイドである。
2.3.2 モノイド準同型
定義 2.3.5. (S,◦S, eS), (T,◦T, eT)をモノイドとする。SからT へのモノイド準同型とは、
f :S→T なる写像であって、マグマ準同型でかつ単位元を単位元に写すもの。すなわち、
HB ∀s, s′∈S, f(s◦Ss′) =f(s)◦Tf(s′) HC f(eS) =eT
の二つをみたすもの。
例 2.3.6. 先に見た
exp : (R,+,0)→(R,×,1)
はモノイド準同型である。マグマ準同型であり、かつ単位元0はe0 = 1に移されるからで ある。
いままで見た半群準同型の多くがモノイド準同型ともなっている。
上の定義で、[HB]は[GB]に、[HC]は[GC]に対応している。1.2.1節の用語を使えば、[GB]
は「集合に二項演算が与えられている」ということができるし、[GC]は「集合に0項演算が 与えられる」ということができる。
[HB]は2.1.1節で見たように次の可換図式で表すことができる。
S×S f→×f T×T
↓ ◦S ⟳ ↓ ◦T
S →f T
同じように、少し無理をすれば[HC]は次の可換図式により記述される。
S0 f
→0 T0
↓eS ⟳ ↓eT
S →f T
上の行は
S0={()} →T0, ()7→()
であり、左縦の写像は()をeSに移す写像、右縦の写像は()をeT に移す写像である。左上の ()を、左下経由で右下に持っていくとf(eS)であり、右上経由で持っていくとeTとなる。図 式の可換性は、
f(eS) =eT と同値である。
2.3.3 演算と写像のコンパチビリティ
より一般に、次のように「演算と写像のコンパチビリティ」を定義する。
定義2.3.7. Sをn項演算αS:Sn→Sの与えられている集合、Tをn項演算αT :Tn →T の与えられている集合とする。写像f :S→TがαS, αT とコンパチブルであるとは、
∀s1, s2, . . . , sn f(αS(s1, s2, . . . , sn) =αT(f(s1), f(s2), . . . , f(sn)) が成立すること。
この定義は、図式
Sn f
→n Tn
↓αS ↓αT
S →f T
が可換であるとも言い換えられる。ここに上の行のfn:Sn →Tnは、
fn(s1, . . . , sn) = (f(s1), . . . , f(sn)) で定義される。
この用語を使うならば、「マグマ準同型とは、台集合の間の写像であって、指定された二項 演算◦とコンパチブルなもの」と言い換えられるし、「モノイド準同型とは、台集合の間の写 像であって、指定された二項演算◦とコンパチブルで、かつ指定された0項演算eとコンパチ ブルなもの」と言い換えられる。
後で見る群でも環でも同じなのであるが、「準同型」を定義するときに写像に要請される条件 は、「指定された複数の演算とのコンパチビリティ」のみなのであり、公理は構わなくて良い。
注意2.3.8. fnという記法は、混乱している。上の場合には
fn:Sn→Tn であるのであるが、一方f ∈Map(S, S)の時には
fn:=f◦f◦ · · · ◦f ∈Map(S, S)
をあらわす。(定理2.2.14参照。)文脈に従って、どちらのことなのかを各自判断して欲しい。
2.3. モノイド 43 命題 2.3.9. (S, αS), (T, αT), (U, αU) を集合とその上にn項演算の定義された集合とする。
f :S →TをαS, αT とコンパチブルな写像、g :T →U をαT, αU とコンパチブルな写像と すると、
g◦f :S→U はαS, αU とコンパチブルである。
直接証明することもたやすい。次の図式を使うこともできる。
Sn f
→n Tn g
→n Un
↓αS ⟳ ↓αT ⟳ ↓αU
S →f T →g U
注2.1.7参照のこと。
問題2.13. 上の命題2.3.9を証明せよ。
系 2.3.10. 二つのモノイド準同型の合成は、モノイド準同型である。
半群の場合(命題2.2.4)を参照して欲しい。証明するべきことは二項演算◦に関するコンパ チビリティと0項演算eに関するコンパチビリティである。が、命題2.3.9からどちらも従う。
問題2.14. 上の系を証明せよ。
注意2.3.11. 1.3.3節では「同値関係と写像のコンパチビリティ」を、系1.3.19では「演算と 同値関係のコンパチビリティ」を、ここでは「演算と写像のコンパチビリティ」を扱った。
次は、二項演算に関する系1.3.19の一般化であり、証明は全く同じである。
定理2.3.12. Sをn項演算α:Sn →Sの与えられている集合とし、∼をαとコンパチブル なS上の同値関係、すなわち任意のs1, s′1, . . . , sn, s′n∈Sに対し
s1∼s′1, s2∼s′2, . . . sn∼s′n⇒α(s1, . . . , sn)∼α(s′1, . . . , s′n) とする。このとき、商集合S/∼にはn項演算α¯ であって
¯
α([s1], . . . ,[sn]) =α(s1, . . . , sn) となるものが唯一つ存在する。
すなわち、商写像qがα,α¯ とコンパチブルになるようなα¯ が唯一つ存在する。
例 2.3.13. (Mn(R),×, En)はモノイドである。ここにEnはn次単位行列である。
n次正方行列の下に一行と右に一列、0のみからなる行と列を付け加える写像f :Mn(R)→ Mn+1(R)は、積に関して半群の準同型であるがモノイドの準同型ではない。単位元が単位元 にうつされないからである。
問題2.15. 上の事実を証明せよ。
定義2.3.14. (S,◦S, eS)をモノイドとする。idS :S→Sはモノイド準同型となり、恒等射と 呼ばれる。
(T,◦T, eT)もモノイドとする。モノイド準同型f :S→Tとg:T →Sであって g◦f = idS, f◦g= idT
となるものがあるとき、gをf の、fをgの逆射という。逆射を持つような準同型を可逆射、
または同型射、同型写像、または単に同型という。モノイドであることを強調してモノイド同 型ともいう。
このような状況のとき、モノイドSとTはモノイドとして同型であるという。
半群の場合の定義2.2.5と全く同じであることに注意してほしい。
注意2.3.15. カテゴリー論(圏論)を学ぶと、逆射の定義を統一することができる。
命題 2.3.16. f :S→T がモノイド準同型でかつ全単射であるとする。このとき、fの逆写
像gが存在し、g:T →Sもモノイド準同型となり、したがってfの逆射となる。
定義2.3.17. S,S′をモノイドとする。SからS′へのモノイド準同型(monoid homomorphism) の集合を
Hommonoid(S, S′) で表す。特に、S =S′のとき
Endmonoid(S) := Hommonoid(S, S)
とおいてSのモノイド自己準同型(monoid endomorphism)の集合という。(Endmonoid(S),◦,idS) はモノイドとなる。
2.3.4 部分モノイド
定義2.3.18. (部分モノイド)
モノイド(S,◦, eS)の部分モノイドとは、Sの部分集合T であって、Tが◦について閉じて いて、かつeS ∈Tであるものを言う。このとき(T,◦, eS)はモノイドとなる。このモノイド を部分モノイドという。
証明. 証明するべきことは(T,◦, eS)がモノイドになるということである。半群の場合の命題 2.2.9により、やるべきことはeS が半群(T,◦)の単位元であること([G2])を示すことである。
が、これは命題2.2.9の証明であらわれた「Sで成り立っているんだから、その部分であるT でも成り立つ」という理屈により自動的に成り立つ。
ここでも公理[G2]は自動的に成り立ってしまう。
問題2.16. (Mn(R),×, En)を正方行列が積についてなすモノイドとする。この部分集合Sと して、右端の列と最下段の列が0であるようなものを考える。(S,×)は(Mn(R),×)の部分半 群であるが、部分モノイドではないことを示せ。
2.3. モノイド 45
注意 2.3.19. この問題が示唆するところは、マグマや半群の場合(命題2.2.9)と異なり、◦
で閉じているだけでは部分モノイドにはかならずしもならないということである。この違い は、モノイドには単位元という新たな演算(0項演算)が指定されていることに起因する。部 分集合が部分モノイドであるためには、指定された二つの演算について閉じていることが必 要かつ十分なのである。
問題2.17. Sを集合、α:Sn→Sをn項演算とする。T ⊂Sがαに閉じているとは、
∀t1, . . . , tn∈T α(t1, . . . , tn)∈T
が成り立つことである。n= 0の場合を考察することで、部分モノイドの定義に現れたeS ∈T なる条件が、「T が0項演算eに閉じている」と言い換えられることを示せ。
例 2.3.20. 例2.2.10で見た半群とその部分半群は、全てモノイドとその部分モノイドとなっ
ている。
2.3.5 商モノイド
モノイドに、二項演算(および、実は不要になるが0項演算)とコンパチブルな同値関係 があるとき、商集合は自動的にモノイドとなる。これを商モノイドという。半群の場合の定理 2.2.11参照。
定理2.3.21. (S,◦, eS)をモノイドとし、∼をS上の同値関係とする。商写像 q:S→S/∼
がモノイド準同型となるような二項演算¯◦とe¯S がS/∼に定義される必要十分条件は、◦と
∼がコンパチブルである(系1.3.19参照)ことである。
このとき、¯◦はただ一通りに定まる。(S/∼,¯◦,e¯S)をSの∼による商モノイドといい、qを 商準同型と言う。
証明. 定理2.2.11の証明の場合を十分良く思い出して違う部分だけ考えるならば、e¯S = [eS] となるしかないことと、(S/∼,¯◦,e¯S)が[G2]を満たすことと、およびq(eS) = ¯eSを示せばい いということがわかるはずである。
どれも簡単だが、混乱しがちなことである。とはいえ証明は読者に任せたい。
例 2.3.22. 自然数mに対し、Zにおける和はmを法とする合同関係とコンパチブルである
(問題1.26)。従って定理2.3.21により
q:Z→Z/m, n7→[n]
をモノイド準同型とするようなモノイドの構造(Z/m,+,¯ [0])が商集合に入る。
平たくいうなら、Z/mに[a] ¯+[b] := [a+b]で和を定義することができ、[0]を単位元とする モノイドとなる。