Ge を蒸着した Si(110)-16×2 表面での特異な表面再構成構造
横山 有太
*Unique surface structure formations on a Ge-covered Si(110)-16 × 2 surface
Yuta YOKOYAMA
*1ABSTRACT:Si–Ge structures forming new shapes on a Si(110)-16 × 2 reconstructed surface were
investigated via scanning tunneling microscopy. Pyramidal-shaped Si–Ge nanoislands lying along the <1 1
1> directions were formed on the striped structure at high Ge coverage surface. However, when a single
monolayer of Ge was deposited on the Si(110)-16 × 2 surface, single-domain of 16 × 2 striped structure
disappeared, and a new double-domain striped structure was formed over the surface along directions that
differed from original directions. This structure represents a new Si–Ge striped structure that forms by the
mixing of Ge and Si due to high temperature annealing. These results indicate that the surface structure
changes specifically with a trace of Ge.
Keywords:Surface nano structure, Surface reconstruction, Scanning tunneling microscopy, Germanium
silicon alloys
(Received September 19, 2014)1.はじめに
Si-Ge半導体デバイスは,純粋なSiやGeを用いたデバイ スに比べて高速動作,低消費電力といった優れた特性を 持つ。そのためSi-Geは半導体において最も重要な系のひ とつであり,これまでに多くの研究やデバイス開発が行 われてきた1-3)。特に,Si-Ge薄膜は,歪Si薄膜を作製する ための下地として用いられる。Si-GeはSiに比べて僅かに 大きな格子定数を持つため,この格子定数の不整合によ り,Si-Ge上のSi薄膜には引っ張り応力が印加される。歪 Si薄膜は歪のないSi薄膜に比べて大きなキャリア移動度 を示すことから,この薄膜を用いたデバイス開発も盛ん に行われている4-9)。 半導体デバイスの高性能化は,素子の微細化に比例し て発展してきた。近年のSi半導体では,数~数 10 nmサイ ズの加工が可能となってきており,微細化によるデバイ スの低消費電力化,高性能化が一層進展している。しか し,現在のようにバルクの結晶を削って部品を作製する トップダウンによる方法では,これ以上の微細加工は困 難である。一方,原子・分子を組み立てて部品を作製す るボトムアップによる手法を用いれば,より微細な,究 極的には単原子・分子デバイスを作製することも可能で ある。 しかし,現在一般的に使用されているSi-Ge薄膜の厚さ は数 10~数 100 nmであり,構造を原子レベルで制御し ようとする試みはほとんど行われていない。今後より高 性能なSi-Geデバイスを作製するためには,より薄く,結 晶性の良いSi-Ge薄膜をボトムアップ的に作製すること が重要である。 本研究では,原子レベルで構造を制御した薄膜を作製す べく,Si(110)基板へのGe真空蒸着による薄膜作製を試み た。Si(110)表面は,他のSi低指数表面に比べて大きなホー ル移動度を示すことから,現在の主流であるSi(100)表面に 変わる次世代半導体表面として期待されている10-12)。 さらに,Si(110)表面は“16 × 2”構造と呼ばれる特徴的な 再構成構造を有することが知られている13-15)。この構造 は,幅2 nmほどの単原子高さ(約 0.2 nm)のストライプ 状の構造が,約5 nmの間隔で凹凸を繰り返す。このユニ ークな1 次元構造は,ナノワイヤーのような低次元ナノ *: 物質生命理工学科 助教 ([email protected])構造を作製するためのテンプレートとして利用できると 考えられる。 しかし,16 × 2 構造は互いに等価な 2 つの方向に沿っ て形成される(ダブルドメイン)ほか,ストライプ構造 になりきれなかった不規則構造が混在するため,本研究 ではまずストライプ構造を1 方向へそろえる単一ドメイ ン化を行った16,17)。単一ドメイン化は,16 × 2 構造が形 成される方向(例えば�1�12��方向)に沿ってdcを通電する ことで行う。電流を流すことで,電流および電界の影響 により表面のSi原子が通電方向に沿って動きやすくなる。 これを適切な温度・時間で行うことで,通電方向のみに 沿った16 × 2 構造を作製することができる。 本研究では,このようにして作製したSi(110)-16 × 2 単 一ドメイン表面へ Geを蒸着・加熱することで,新たなSi-Geナノ構造の作製を目指した。その結果,Ge蒸着量や表 面温度により表面構造がさまざまに変化し,ピラミッド 状のアイランド構造や,Si-Geによる新規ナノストライプ 構造が形成されることを見出した。
2.実験方法
本研究は,図1 に示すような超高真空装置を用いて行 った。この装置は試料導入チャンバー,トリートメント チャンバー,測定チャンバーの3 つのチャンバーで構成 されており,それぞれ独立に真空排気されている。トリ ートメントチャンバーにはGe蒸着のための蒸着源およ び膜厚計,表面形状・元素測定のための低速電子線回折 /オージェ電子分光(LEED/AES)装置が取り付けられて いる。測定チャンバーには,表面形状・電子状態を測定 するための走査トンネル顕微鏡(STM)が取り付けられて いる。測定チャンバーの到達真空度は2×10-8 Pa以下であ る。本研究では,すべてのSTM計測は表面温度室温,ト ンネル電流一定のモードで行った。Figure 1. Composition of experimental system.
実験はまず,基板となるSi(110)-16 × 2 単一ドメイン表 面の作製から行った。Si(110)基板はp型で比抵抗が 0.01-0.02 Ω cmのものを 1 × 7 × 0.3 mm3のサイズにカットし たものを使用した。このとき,<1 1 2>方向が基板の長辺 を向くようにカットした。超高真空へ導入する前に,ア セトン・エタノール・超純水による超音波洗浄を行い, 表面不純物の除去を行った。超高真空中でSi(110)基板の <1 1 2>方向に沿って通電加熱することで,単一ドメイン の16 × 2 構造を作製した。 Ge蒸着は,蒸着源として純度 99.999 %のGe片をグラフ ァイトるつぼへ詰め,るつぼを電子衝突加熱することで 行った。Ge蒸着時のSi表面温度は室温とした。Geの蒸着 レートは膜厚計を用いて計測し,およそ1.2 �/minになる ようにるつぼ温度を調整した。 最後に,基板を様々な温度・時間で加熱することで, 表面の Ge原子とSi原子のミキシングを起こし,新しいSi-Ge再構成構造の作製を目指した。
3.結果・考察
図2 に,dc通電加熱により作製したSi(110)- 16 × 2 単一 ドメイン構造のSTM像,LEED像および模式図を示す。 STM像より,�1�12��方位に沿ったストライプ構造が測定範 囲全体にわたって形成されていることが確認できる。こ れらのストライプの間隔はおよそ5 nm,高さは 0.2 nmで あり,過去の報告とも一致する17)。図2 に挿入したLEED 像には,16 × 2 単一ドメインに由来するスポットのみが 現れている。サンプルの異なる部分のLEED像も同様の スポットパターンであったことから,16 × 2 単一ドメイ ンは基板全体にわたって形成されていることが示唆され る。また,AESにおいても,Si以外の元素によるピークは バックグランドレベルであり,きわめて清浄な Si(110)-16 × 2 単一ドメイン表面が形成できていることを確認し た。 次に,この表面へGeを蒸着した。Si表面へGeを蒸着す る場合,3 原子層(3 ML)以上蒸着すると,SK成長により さまざまな形状のGeナノドットが形成されていること が知られている18-26)。SK成長モードは,基板元素と薄膜 元素の格子定数が僅かに異なる場合に生じる薄膜成長モ ードであり,薄膜成長初期は層状成長していくが,膜厚 が一定の厚さ(臨界膜厚)を超えると,3 次元的な島状 成長へ変化する。これは,格子定数の違いにより生じる 歪を緩和し,エネルギー的に安定化するためである。Figure 2. (a) STM image of a clean Si(110)-16 × 2 single-domain surface (Vs = 1.7 V, It = 0.1 nA,
300 × 300 nm2) and a LEED image in the inset.
A striped structure is formed only along the �1�12�� direction. (b) Magnified STM image (15 × 15 nm2). The unit cell of the 16 × 2
structure is indicated by the parallelogram superimposed on the STM image. (c) Schematic image of 16 × 2 structure.
本研究においても,Geを 3 ML以上蒸着した場合,3 次 元ナノアイランド構造が得られた。図3 に,Geを室温で 6 ML蒸着した後,表面を 973 Kで 4 時間通電加熱した後 のSTM像を示す。このアイランドはピラミッド状の形状 であり,典型的なサイズは一辺の長さが約20 nm,高さ が3 nmである。また,これらの底辺はほぼすべてが<1 1 1>方向に沿っており,基板のSi(110)-16 × 2 構造の方向で ある<1 1 2>方向には沿っていない。これまでに,<1 1 2> 方向に沿ったピラミッド構造は報告されているが25),<1 1 1>に沿ったものはいまだ知られておらず,これは新し いナノアイランド構造であると考えられる。
Figure 3. (a) STM image of the surface structure of a high Ge-covered ( ~ 6 ML) Si(110)-16 × 2 surface after 240 min annealing at 973 K (Vs =
1.7 V, It = 0.2 nA). (b) Magnified image (Vs =
1.7 V, It = 0.3 nA). (c) 3D image of a
pyramidal-shaped structure. ここで,基板表面の構造を詳しく観察すると,非常に 間隔の狭いストライプ構造が<1 1 1>方向に沿って形成さ れていることが確認できる。清浄なSi(110)表面やGe(110) 表面ではこのような構造は形成されないことから,この 表面は加熱によりSiとGeが混ざり合った,Si-Geによる再 構成構造であると考えられる。このSi-Geによるナノアイ ランド構造は,サイズが比較的揃っていることから,今 後アイランドの密度を高めることができれば,半導体レ ーザーや電子放出源としての応用が期待できる。 一方,Geを臨界膜厚以下である約 1 ML蒸着し,高温 で通電加熱した場合,アイランド構造とは異なる再構成 構造が形成されることが明らかとなった。 まず,図4 (a)のように,室温の表面へGeを 1 ML蒸着 すると,表面全体がGeのグレイン(粒状の構造)で覆わ れる。ただし,下地のSi(110)表面の<1 1 2>方向に沿った 16 × 2 構造は維持されている。表面温度室温の場合,Ge を3 ML以上蒸着した場合でも同様の構造が得られた。こ れは,表面温度が室温程度では,吸着したGe原子の表面 拡散が十分でなく,Ge原子は吸着位置に留まることを示 唆している。
Figure 4. STM images reflecting changes in surface morphology by Ge deposition and prolonged annealing. (a) After 1 ML of Ge deposition on Si(110)-16 × 2 single-domain surface at RT (Vs
= −1.5 V, It = 0.1 nA). (b) After 30 min annealing
at 873 K (Vs = −0.8 V, It = 0.3 nA). (c) After 30
min annealing at 927 K (Vs = 2.0 V, It = 0.3 nA).
(d) After 240 min annealing at 973 K (Vs = −0.8
V, It = 0.3 nA). そこで,Geの表面拡散を起こすため,この表面を 873 Kで 30 分加熱した。その時の表面形状を図 4 (b)に示す。 Geで覆われた 16 × 2 構造はほとんどが壊れ,不規則な構 造となっている。清浄なSi(110)-16 × 2 構造は 873 Kでも 安定であることから,この不規則構造はGe原子の表面拡 散により16 × 2 構造が破壊された結果であると考えられ
る。 次に,より高温(923 K)で加熱した場合,図 4 (c)のよう に,不規則構造が消失し,ダブルドメインのストライプ 構造がもう一度現れた。このストライプ構造を詳しく観 察すると,異なる方向に沿った2 組のストライプが混在 していることが確認できる。1 組は,清浄なSi(110)-16 × 2 構造と同じく<1 1 2>方向に沿ったものである。もう 1 組は,<1 1 2>方向から約 7°ずれたもので,<5 5 13>方向 に沿ったストライプである。 これらのストライプ構造は,高温で長時間加熱するこ とで,より規則的になることが明らかとなった。図4 (d) に973 Kで 4 時間加熱した場合のSTM像を示す。驚くべ きことに<1 1 2>方向に沿ったストライプが全て消失し, <5 5 13>方向に沿ったダブルドメイン構造のみが形成さ れた。この構造は非常に安定であり,973 Kで 12 時間以 上加熱しても構造が変化することはなかった。この温度 範囲でのSi(110)表面とGe(110)表面の安定構造はともに <1 1 2>方向に沿った 16 × 2 構造である。そのため,この 構造は純粋なSi(110)やGe(110)表面の構造ではなく,Siと Geがミキシングを起こしたSi-Geによる再構成構造であ ると考えられる。 ここで,このSi-Geによるストライプ構造と,清浄な Si(110)-16 × 2 ストライプ構造を比較する。図 5 に,それ ぞれのSTM像およびA-A’部分の断面形状を示す。まず, それぞれのストライプ間隔を計測すると,清浄16 × 2 構 造ではおよそ 5 nmであるのに対し,Si-Geストライプ構 造ではおよそ4 nmとわずかに狭くなっている。
Figure 5. STM images showing a comparison of (a) a clean Si(110)-16 × 2 surface and (b) Si–Ge striped structure.
また,清浄16 × 2 構造ではストライプ構造の凸の部分
(upper terrace)と凹の部分(lower terrace)では同じ幅・構造 であるのに対し,Si-Geストライプではupper terraceの幅が 広くなっている。また,upper terraceの構造も,16 × 2 構 造で見られるSi原子の 5 員環ペア構造とは異なって見え る。図5 の挿入図は,それぞれのストライプ構造の拡大 図である。本研究のSTM計測からだけでは詳細な構造の 決定には至らなかったが,Si-Geによるストライプ構造は, 清浄なSi(110)表面のストライプ構造とは原子の配列やサ イズが異なることは明らかである。 このように,Si(110)表面とSi-Ge/Si(110)表面では,非常 によく似たストライプ状の再構成構造が形成されるが, ストライプの方向やサイズは僅かに異なる。これは,Si とGeの大きさや物理的性質の違いによるものであると 考えられる。たとえば,SiとGeは格子定数が約 4 %異な る。そのため,Si(110)-16 × 2 構造を形成するSiのうち, いくつかがGeと置き換わった場合,その構造にはストレ スが生じる。そのような状態で安定な構造をとるために, ストライプの方向や構造が僅かに変化したと考えられる。 これまでに,<1 1 3>方向に沿ったSi-Geによるストライ プ構造がButzとLüthによって報告されている27)。彼らの 実験方法はSi表面へSiとGeを同時に蒸着するという手法 であり,本研究とはGe蒸着量や蒸着条件が異なる。しか し,Geのミキシングが 10 %以下の場合,ストライプ構造 の間隔がおよそ4 nmになると報告している。この報告に よれば,本研究で作製したSi-Ge構造のGe量は 10 %以下 であると考えられる。 実際に,本研究で行ったAES計測においても,Geのピ ーク強度はほぼバックグランドレベルであり,Siのピー ク強度の2 %以下であった。この結果は,非常に僅かな Geが混合しただけで,表面構造が大きく変化することを 示唆している。これはまた,Geのミキシング量を詳細に コントロールすることができれば,ストライプの方向が 制御できる可能性を示唆する。任意の方向に沿ったスト ライプ構造が形成できれば,ナノワイヤーなどの低次元 構造のテンプレートとしての利用価値がより高まるとい える。今後SiとGeのミキシング過程を解明することで, この表面を用いた新しいSi-Ge半導体デバイスの開発が 期待される。
4.おわりに
本研究では,蒸着量や表面温度などの条件を変えなが らSi(110)-16 × 2 表面へGeを真空蒸着することで,特異な 再構成構造を持つSi-Ge表面の作製に成功した。 Geを 3~6 原子層程度蒸着した場合,SK成長により, <1 1 1>方向に沿ったピラミッド状のSi-Geナノアイラン ド構造が形成された。一方,およそ1 原子層程度のGeを 蒸着し,973 Kで長時間加熱することで,基板であるSi(110)-16 × 2 構造の方向とは異なる方向に沿ったスト ライプ状の1 次元構造を作製することに成功した。この 構造は表面のSi原子とGe原子が混ざり合い,新たに再構 成した構造であると考えられる。また,SiとGeの混合の 割合により,ストライプの方向や間隔が変化することが 示唆された。 ストライプ構造のような1 次元構造は,ナノワイヤー などを作製するためのテンプレート表面としての応用が 可能であり,今後この表面を用いた新しいSi-Ge半導体デ バイスの開発が期待される。
謝辞
本研究は,独立行政法人日本原子力研究開発機構,量 子ビーム応用研究部門,ナノ構造制御研究グループの朝 岡秀人博士および魚住雄輝氏の協力の下に行われました。 この場を借りて厚く御礼申し上げます。参考文献
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