十九世紀アメリカ女性詩人たちの恋愛詩 : サラ・ホイットマン、オズグッド、アリス&フィービー・ケアリー

17 

Loading.... (view fulltext now)

Loading....

Loading....

Loading....

Loading....

全文

(1)

33

十 九 世 紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ちの恋 愛 詩

一 サ ラ ・ ホ イ ッ トマ ン 、 オ ズ グ ッ ド、 ア リス&フ ィ ー ビ ー ・ ケ ア リー 一

下 村 伸 子

1

  1990年 代 に 相 次 い で 出 版 さ れ た 十 九 世 紀 ア メ リ カ の 女 性 詩 人 の ア ン ソ ロ ジ ー に よ り 、 第 一 次 資 料 さ え 殆 ど 入 手 困 難 で あ っ た 詩 人 た ち の 作 品 及 び 伝 記 的 事 項 が 明 らか に な り、 十 九 世 紀 ア メ リ カ で い か に 多 くの 女 性 詩 人 た ち が 出 版 し、 読 者 を 獲 得 し て き た か が 窺 い しれ る こ と と な っ た 。1十 九 世 紀 後 半 に 創 作 を 続 け な が ら生 存 中 に 詩 集 を 出 版 す る こ と が な か っ た 詩 人 エ ミ リ ・デ ィ キ ン ス ン (Emily  Dickinson,1830-1856)と こ れ ら女 性 詩 人 た ち の テ ク ス トを 女 性 の 創 作 の 規 範 と い う観 点 か ら比 較 す る と い う動 き は 早 く も1982年 、Cheryl  Walker が そ の 著 書 、The  Nightingale's  Burden:Women  Poets  and A merican  Culture before  19002で 試 み た こ と か ら始 ま っ て い た が 、 当 時 の 女 性 詩 人 た ち の い わ ば 登 竜 門 の 一 っ で あ っ たAtlantic  Monthly誌 に 関 わ るT.  W.ヒ ギ ン ス ン (Thomas  Wentworth  Higginson)と 交 流 が あ っ た に も 拘 わ ら ず 、 詩 人 デ ィ キ ン ス ン が 出 版 に 至 らな か っ た 文 化 的 背 景 へ の 手 掛 か り を こ れ ら の ア ン ソ ロ ジ ー は 提 供 し て く れ る こ と と な っ た 。 な お か っ これ ら女 性 詩 人 た ち が 、 感 傷 詩 人 と   本 稿 は2000年6月17日 に 開 催 さ れ た 日 本 エ ミ リ ・ デ ィ キ ン ス ン 学 会 第16回 全 国 大 会 の シ ン ポ ジ ウ ム 「デ ィ キ ン ス ン と 同 時 代 の ア メ リ カ 女 性 詩 人 た ち 」 の パ ネ リ ス ト と し て 発 表 し た 内 容 に 加 筆 修 正 し た も の で あ る 。 1  イ ギ リ ス 女 性 詩 人 に っ い て も 同 様 に こ の 数 年 で 多 く の ア ン ソ ロ ジ ー が 出 版 さ れ た の は 周 知 の 通 り で あ る 。

2  The  Nightingale's  Burden:  Women  Poets  and  American  Culture  before  1900 (Bloomington:Indiana  UP,1982)以 下NBと 略 す る 。

(2)

34  英文学論叢 第44号

して 一 蹴 され る に は あ た らな い文 化 価 値 を もっ こ とが 再 評 価 さ れ始 め る萌 しが

見 え つ つ あ る。1998年 出版 の 圧 巻 、Encyclopedia  of 

American.Poetry:The

1>ineteenth Centuryで

は相 当 数 の 女 性 詩人 個 々 につ い て の 詳 細 に わ た る紹 介

と作 品 の評 価 が 掲 載 され た 。3

  しか しな が ら歴 史 的経 緯 の なか で 「

感 傷 的 」 と い う形 容 詞 を附 さ れ 、 そ れ故

に 時 代 の な か で 受 容 さ れ た 詩/テ

ク ス トに は 自 ず と 制 限 が あ る。Cheryl

Walkerが

自選 の ア ン ソ ロ ジ ー の序 文 で 、 女 性 詩 人 た ちが 男 性 批 評 家 と読 者 の

期 待 と許 容 の範 囲 内 と した創 作 の テ ー マを 幾 っ か に分 類 して い る の は注 目 に値

す る。 概 観 す る と、 まず 宗 教 的 慰 め や立 派 な行 いや 特 殊 な感 情 に対 して 贈 る も

の、 季 節 の折 々 の 自然 を テ ー マ とす る もの。 女 性 ら しい心 情 を 「

宝 石 の言 語 」

花 の 言 語 」 で 表 現 す る もの 。 女 性 の 生 活 の 場 面 か ら離 れ て 異 国 の 人 物 、 地 名

を扱 う 「

異 国 もの 」 と逆 に ア メ リカ 固有 の歴 史 、 地 理 、 英 雄 な どを 讃 え る 「

国 もの」。 美 や 自 由 を 象 徴 す る羽 ば た く鳥 に語 りか け る と い う 「自 由な鳥 の詩」

外 界 か ら保 護 され るべ き個 人 の聖 域 へ の憧 れ を表 現 す る 「

聖 域 の 詩 」。 叶 わ ぬ

恋 愛 の挫 折 が語 られ る 「

禁 断 の恋 の詩 」、 詩 人 が 禁 断 の 領 域 を 束 の 間 探 索 す る

とい う 「力 の 幻 想 」

、 文 字 通 りに 「

秘 密 の悲 しみ の詩 」 と い った よ うな 範 疇 を

Walkerは

示 して い る。4こ の分 類 は 「感傷 的」 の文 化 的意 味 を 憶 測 さ せ る に充

分 で あ るが 、 さ らに も う一 人 の ア ン ソ ロ ジー の編 者 、Paula Bennettの

言 葉 を

借 りて、 これ ら女 性 詩 人 た ち を読 む手 掛 か り と した い。 即 ち 、

  こ こで の要 点 は、 多 くの 十 九 世 紀女 性 詩 が 「感 傷 的 」 で あ る と して も、

そ れ は そ う な の で あ るが 、 そ の 言 葉 が 意 味 す る もの と それ が個 々 の テキ ス

3  Eric  L. Haralson  ed.,  Encyclopedia  of American  Poetry  The Nineteenth Century(Chicago,  London:Fitzroy  Dearborn  Publishers,1998)passim.以 下EAPと 略 す る 。

4  Cheryl  Walker,  ed.,  "lntroduction,"  American  Women  Poets  of  the Nineteenth  Century:  An  Anthology  (New  Brunswick:  Rutgers  UP,  1992)  xxiv-xxvi.以 下CWAと 略 す る 。 WalkerはNBで こ の 範 疇 の 幾 っ か を 原 型 と し た 。

(3)

十九 世紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ち の恋 愛 詩    35

トあ る い は作 家 の全 作 品 の な か で ど の よ う に作 用 す るか は、 ま と め る に は

極 め て複 雑 、 か っ危 険 で さえ あ る。...十

九 世 紀 女 性 の 文 学 は、 小 説 も

詩 も一 っ の意 味 しか もた な い も ので も、 透 明 な もの で もな い。他 の個 人 的、

社 会 的 経 験 の芸 術 的記 号 化 の 複 雑 な もの と同様 、 ず れ や皮 肉 的逆 転 に然 る

べ き注 意 を払 って読 まれ る必 要 が あ る。5

  詩 人 た ち の 個 々 の テ キ ス トの な か で 感 傷 的 で あ る こ と が 何 を 意 味 し、 ど の よ う に 作 用 し て い る か を 考 察 す る た め に 、 小 論 で は 、 先 のWalkerの 範 疇 の 複 数 に 跨 が り、 感 傷 性 の 複 雑 さ が 最 も微 妙 に 描 出 して い る と 考 え られ る恋 愛 詩 を 採 り あ げ た い 。 こ の 時 代 ま で の 英 詩 の 伝 統 的 な 一 範 疇 と して ソ ネ ッ トや ソ ン グ の 主 題 と な り、 詩 人 た ち の 意 識 の な か に も読 者 に も 定 着 して い た 恋 愛 詩 は 十 九 世 紀 と い う枠 組 み の な か で 女 性 詩 人 た ち に 踏 襲 さ れ っ っ も一 人 ひ と りの テ ク ス ト の 中 で 少 しず っ 変 容 さ れ て い る の で は な い か と 憶 測 さ れ る の で あ る。 単 行 本 、 当 時 編 集 さ れ た 女 性 詩 人 の ア ン ソ ロ ジ ー 、 新 聞 、 雑 誌 へ の 掲 載 を 含 め る と150 名 は く だ ら な い と さ れ る 詩 人 た ち をWalkerが 提 唱 す る よ う に 「初 期 国 民 派 」、 「ロ マ ン派 」、 「リア リス ト」、 そ し て 「モ ダ ニ ス ト」 と 分 類 す る こ と はWalker 自身 も認 め て い る よ う に 困 難 で あ ろ う が(CWA)、 最 近 の ア ン ソ ロ ジ ー を 概 観 し て 数 名 の 詩 人 を 抽 出 し、 彼 女 た ち が 活 躍 して い た 時 期 、 詩 人 と して の 生 活 様 式 、 出 版 な ど の 観 点 か ら幾 っ か の グ ル ー プ に 分 け る こ と は 許 容 さ れ る で あ ろ う。   十 九 世 紀 の 前 半 か ら 中 葉 に か け て 恋 愛 詩 を 書 い た 最 初 の 詩 人 達 と し て 、 同 時 期 の 文 芸 サ ロ ンで 活 躍 し た 次 の4人 の 女 性 詩 人 を 挙 げ る こ と が で き る 。 サ ラ ・ ヘ レ ン ・ホ イ ッ トマ ン(Sarah  Helen  Whitman ,1803-1878)と フ ラ ン シ ス ・

オ ズ グ ッ ド(Frances  Osgood,1811-1850)は エ ドガ ー ・ア ラ ン ・ボ ー(Edgar Allan  Poe,1809-1849)と の 関 係 が 深 い こ と で 知 ら れ 、 ア リ ス ・ ケ ア リ ー (Alice Cary,1820-1871)と フ ィ ー ビ ー ・ケ ア リ ー(Phoebe  Cary,1824-1871) は ボ ー 、 及 び1849年 にThe  Female  Poets  of Americaを 出 版 し た 批 評 家 グ リ

5  Paula  B.  Bennett,  "Introduction,"  Nineteenth-Century  American  Women

(4)

36  英文学論叢 第44号

ス ウ ォ ル ド(Rufus  Griswold)や 詩 人 ホ イ ッ テ ィ ア(John  G. Whittier,1807-1893)に 支 援 さ れ た 。 男 性 批 評 家 の 評 価 、 読 者 か らの 受 容 を 最 重 視 しっ っ 創 作

し な け れ ば な ら な か っ た こ れ ら4人 の 詩 人 の 恋 愛 詩 を 小 論 で は 考 察 す る 。

2

  ロ ー ド ・ア イ ラ ン ド州 、 プ ロ ヴ ィ デ ン ス 出 身 の サ ラ ・ヘ レ ン ・ホ イ ッ トマ ン は 結 婚 後 ボ ス ト ンで 暮 ら し、1829年 に 『ヘ レ ン』 と い う 名 前 でJosepha  Hale のAmerican  Ladies'  Magazine誌 に 最 初 の 詩 を 発 表 。 エ マ ソ ン、 ゲ ー テ、 シ ェ

リー 等 ロ マ ン 派 に っ い て の 評 論 も書 き始 あ た が 、1833年 に 夫 を 亡 く し て の ち プ ロ ヴ ィ デ ン ス に 戻 り 詩 人 、 ジ ャ ー ナ リス ト と して 本 格 的 な執 筆 生 活 に は い り、 文 芸 サ ロ ンで も 人 気 を 博 して い た 。 ボ ー と は1848年 に 出 会 い 、 婚 約 し た が 結 婚 に は 至 らず 、 ボ ー の 死 後 、Edgar  A llan Poe  and His Critics(1860)を 出 版

し て 彼 の 文 学 を 擁 護 し た こ と が 知 ら れ て い る 。 詩 集 は2冊 、1853年 と1879年 に 出 版 さ れ た(CWA  53-54)。   彼 女 の 詩 に は ボ ー に 賞 賛 を こ め て 贈 られ た"The  Raven"を は じ め ソ ネ ッ ト "S cience"や"To-"な ど タ イ トル か ら ボ ー の 詩 を 意 識 し て 書 か れ た こ と が わ か る も の が あ り、 そ の 影 響 の 多 大 さ も 指 摘 さ れ て き た 。6特 に 恋 愛 詩 の テ キ ス トに は 模 倣 か 、 パ ロ デ ィ か と見 紛 う ほ ど にPoeの 言 葉 が 響 い て い る が 、 亡 く な っ た 後 の そ の 人 に 捧 げ ら れ た6篇 の ソ ネ ッ ト"To-"は 考 察 に 価 す る。

IV

We met beneath

September's

gorgeous

beams:

Long in my house of life thy star had reigned; —

Its mournful

splendor

trembled

through

my dreams,

Nor with the night's

phantasmal

glories

waned.

We wandered

thoughtfully

o'er golden meads

6  "The  Raven"に は ボ ー の   "Raven"、"The  House  of  Usher"、"Ligeia"、 "Morella"

(5)

十九世紀 アメ リカ女性詩人 たちの恋愛詩  37

To a lone woodland, lit by starry flowers,

Where a wild, solitary pathway leads

Through mouldering sepulchres and cypress bowers.

A dreamy sadness filled with autumnal air ;—

By a low, nameless grave I stood beside thee,

My heart according to thy murmured prayer

The full, sweet answers that my lips denied thee.

O mournful faith, on that dread altar sealed—

Sad dawn of love in realms of death revealed!

(WDC, 38)7

  Lisa Carlは 、 こ の ソ ネ ッ トを ホ イ ッ トマ ンが 婚 約 の 破 棄 に よ り 「ボ ー を 拒 絶 し た こ とへ の 後 悔 」8を 述 べ た も の と 解 説 し て い る 。 冒 頭 の 「華 や か な光 線 」、 「あ な た の 星 」、 「黄 金 色 の 草 原 」、 「星 の よ う な 花 」 と い う こ と ば と 「悲 し み に み ち た 輝 き」、 「夜 の 幻 の よ う な 栄 光 」、 「寂 し い 森 」、 「荒 れ た 、 寂 し い 道 」、 「朽 ち か け の 墓 」 と い っ た 表 現 に よ り明 暗 の 対 比 を 錯 綜 さ せ な が ら、 詩 の 語 り手 と 相 手 の 出 会 い か ら破 局 、 相 手 の 死 、 そ し て そ れ で も消 え な い 語 り 手 の 想 い が 、 秋 の き ら.一き っ っ は か な げ な 陽 光 の な か で の 二 人 の 散 歩 と い う 場 面 設 定 で 、 ソ ネ ッ ト形 式 の 起 承 転 結 の 展 開 に 沿 っ て 暗 示 さ れ て い る。 ボ ー の こ と ば の 響 き は、 た と え ばBarbara  Ryanが 指 摘 す る よ う に 、4行 目 と8行 目 に 顕 著 で あ る 。9 ボ ー へ の 哀 惜 と オ マ ー ジ ュ が こ の 一 連 の ソ ネ ッ トの 主 題 で あ る こ と は 否 め な い で あ ろ う。 しか し"To-"と い う タ イ トル は ボ ー を 意 識 し て の み 附 さ れ た も

7  Robert  Bain  ed., Whitman's  & Dickinson's  Contemporaries:  An  Anthology cゾTheir  Verse(Carbondale:Southern  Illinois  UP)以 下WDCと 略 す る 。 こ の 連 作 ソ ネ ッ ト は 以 下 の 書 で"Mrs.  Whitman's  Sonnets  to Poe"と い う 章 に 掲 載 さ

れ て い る 。Caroline  Ticknor,  Poe'8  Helen(New  York:Haskell  House Publishers,  1973)  140-143.

8  Lisa  Car1,  "Sarah  Helen  Whitman,"  WDC  36.

9  Barbara  Ryan,"Sarah  Helen  Whitman,"EAP  496.  Barbara  Ryanは ボ ー か ら 影 響 を 受 け た こ と ば と 暗 く神 秘 的 な イ メ ー ジ で 彼 女 の 詩 の 傾 向 が 変 わ っ た こ と を 評 価 して い る 。

(6)

38  英文学論叢  第44号

の で あ ろ う か 。 連 作 ソ ネ ッ トの 一 番 目 に 戻 る 。

I

Vainly my heart had with thy sorceries striven:

It had no refuge from thy love,—no Heaven

But in thy fatal presence;—from

afar

It owned thy power and trembled like a star

O'erfraught

with light and splendor.

Could I deem

How dark a shadow should obscure its beam?—

Could I believe that pain could ever dwell

Where thy bright presence cast its blissful spell?

Thou wert my proud palladium;—could

I fear

The avenging Destinies when thou wert near?—

Thou wert my Destiny ;—thy song, thy fame,

The wild enchantments

clustering round thy name,

Were my soul's heritage, its royal dower;

Its glory and its kingdom and its power!

(CWA 60)

  ホ イ ッ トマ ンが ボ ー の 呪 縛 か ら逃 れ られ な い か の よ う に、 「私 の 心 は あ な た

の魔 術 に抗 お う と して 叶 わ ず 」 で 始 め られ、 語 り手 は 「あ な たか らの愛 の逃 げ

場 は な く、/あ

な た の 致 命 的 な存 在 に しか天 はな く」、 「私 の守 護 神 」

、 「あ な た

の歌 、 あ な た の 名 声 」

、 「

私 の運 命 」 と相 手 の か っ て の 存 在 の ま ば ゆ い ば か りの

絶 対 性 を 強調 し続 けて い る。 語 り手 自身 は相 手 の輝 き にお い て の み存 在 す る こ

とが誇 示 され るが 、 女 性 に期 待 され た感 傷 的 な 態 度 と解 釈 す る前 に最 終3行

再 考 した い 。 押 韻 す る"dower"と"power"か

ら、 恋 人 が もは や不 在 と な っ

た 今、 そ の 「名 前 の ま わ りに群 が る狂 お しい魔 法 」 はす べ て 「

遺 産 」 と して語

り手 の 「魂 の 力 」 とな った と述 べ るそ の調 子 は決 して弱 々 しい もの で はな い。

ま た6行 目 と10行

目 の 修 辞 疑 問 文 か ら も、 相 手 の 存 在 に 光 り よ り もむ しろ

暗 い影 」 や お そ ろ しい 「

復 讐 の運 命 の神 」 の気 配 が感 じ られ た こ と が 暗 示 さ

れ て い る ので は な い だ ろ うか 。Barbara  Ryanの

評 は そ の点 を考 慮 に い れ て い

(7)

十 九世紀 アメ リカ女性詩人た ちの恋愛詩   39

る 。

  自 らを真 実 の な か の真 実 の 女 性 と描 きっ つ 、 ホ イ ッ トマ ン はそ れ で も読

者 に生 き て い る の は誰 で、 死 ん で い る の は誰 か、 誰 が ボ ー の死 後 の経 歴 の

責 任 を 担 って い る の か を読 者 に思 い 出 させ る。 彼 女 は 当時 の社 会 で通 用 し

て い た 「(男女)別

の領 分(the  separate spheres")」 とい うイ デ オ ロ ギ ー

を 再 確 認 はす るれ ど も、 表 面 的 に は悲 しみ を表 現 す る こ とば で、 自 らが 優

位 に立 っ こ とを示 して い る。

      (EAP  470)

  1860、1870年 代 に ホ イ ッ ト マ ンが 以 前 よ り力 強 い 詩 を 書 き 、 詩 人 と し て も ボ ー 研 究 家 と し て も評 価 が 高 ま っ た こ と を 鑑 み て も、 こ の テ ク ス ト は 、 ボ ー の 呪 縛 に と ら わ れ て い る の で は な く む し ろ 解 放 を も た らす 生 命 力 を 内 包 し、 そ の 後 の 彼 女 の 創 作 に 方 向 付 け を 与 え た と理 解 して よ い だ ろ う。 こ の 連 作 の6番 目 の 最 終2行 、"My  soul shall meet  thee and its Heaven  forego/tiU  God's  great love, on both,  one hope, one Heaven  bestow"(Tickner  143)か ら も "To-" と い う タ イ トル の ダ ッ シ ュ の 部 分 に 省 略 さ れ て い る の は ボ ー だ け で は な く彼 女 の 「魂 」 で も あ る と 考 え られ る 。 彼 女 が 以 後 ボ ー を 忘 れ た わ け で な か っ た こ と は 、1870年 に も彼 へ の 哀 悼 を"The  Portrait"と い う詩 に 書 き 、 さ ら に1877 年 に は 彼 の"Sonnet-To  Science"を 思 い 出 さ せ る 一 篇 、"Science"を 書 い て い る こ と か ら も窺 え る が 、 特 に 後 者 で は 彼 か ら の 影 響 を 、 女 性 詩 人 ら し い 感 傷 性 を 超 克 す る 術 に 変 え た と考 え ら れ る 。 サ ラ ・ホ イ ッ トマ ン は ボ ー の 詩 に と り 愚 か れ た よ う に 創 作 に 埋 没 し て い くな か で 、 彼 女 自 身 の 詩 人 と し て の 指 針 を 見 い 出 した の で あ る。

3

  ボ ス ト ン に 生 ま れ 、14才 で 当 地 のJuvenile  Miscellany誌 に 最 初 の 作 品 を 発 表 した フ ラ ン シ ス ・オ ズ グ ッ ドは 、 夫 と イ ギ リス 滞 在 中 に 詩 集 を 出 版 し名 声 を 得 て 、 帰 国 後 ボ ー や グ リ ス ウ ォ ー ル ドに 認 め られ 、 文 芸 サ ロ ンで 活 躍 し、 短 い 人 生 を 閉 じ る前 に4冊 の 詩 集 を 出 版 し た 。 画 家 と の 結 婚 、 離 婚 、 ボ ー と の 関 係

(8)

40  英 文学論叢 第44号

な ど 当 時 と して は 自 由 な 女 性 と して 長 い 間 ボ ー 研 究 の 立 場 か ら紹 介 さ れ て き た 。 感 傷 的 な 詩 を 書 く女 性 詩 人 と し て 読 者 に 受 容 さ れ た よ う で あ る が 、Paula Bennettは 、 彼 女 を 十 九 世 紀 の 女 性 詩 人 の な か で も 最 も捉 え が た い ひ と り で あ る と解 説 して い る 。1993年 に 新 た に 草 稿 の 詩 が 見 っ か り 、 ジ ェ ン ダ ー 関 係 の テ ー マ の 詩 で 、 控 え め で 従 順 と い う 当 時 の 女 性 像 に ふ さ わ し く な い と危 惧 さ れ る 作 品 の 発 表 を 本 人 が 意 図 的 に控 え た と い う こ と が 報 告 さ れ て い る(PBA  61-62)a   ゆ え に オ ズ グ ッ ドの 詩 の テ ー マ の な か で 時 代 の 女 性 詩 人 の 枠 と最 も 拮 抗 し て い る の が 、Joanna  Dobsonが 指 摘 して い る よ う に 「愛 と情 熱 の 領 域 」10な の で あ る。DobsonもEmily  Stipes Wattsも 性 的 情 熱 か ら 愛 や 結 婚 へ の 絶 望 感 の 表 現 が 以 後1890年 代 ま で み ら れ な い ほ ど 大 胆 で あ る と 述 べ て い る が 、11何 よ り

も 辛 辣 さ に 注 目 し た い 。 恋 愛 詩 の な か で も  "He  Bade  Me  Be  Happy"や "F orgive  and Forget"な ど 語 り手 の 女 性 と相 手 の 男 性 と の 軽 妙 な 会 話 体 で 進 行 す る もの で は 、 女 性 は 弱 い 立 場 に い る よ う に み え な が ら、 相 手 の 台 詞 を 素 直 に 繰 り 返 す こ と で 巧 妙 に 反 撃 し、 従 順 さ 、 控 え 目 を 復 讐 の 手 段 と し て い る 。 前 述 の 、1993年 に 見 っ か っ た 原 稿 は、 恋 愛 終 焉 後 の 女 性 が 相 手 に 語 り か け る と い う設 定 の も の が 多 い が 、 出 版 が は ば か ら れ た の も頷 け る ほ ど に 辛 辣 で あ る。 "Won't  You  Die&Be  A Spirit"で は 語 り手 は

、 肉 体 を も つ 相 手 を も は や 愛 す る こ と は で きず た だ 相 手 の 死 を 願 う 。

But now I hate to hear you!

Go Away!

Just think how nice 'twould

be

To come & beam

10 Joanne

Dobson, Dickinson

and the Strategies

of Reticence:

The Woman in

Nineteenth-Century

America

(Bloomington:

Indiana UP, 1989) 33.

11 Dobson 33. Emily Stipes Watts, The Poetry of American

Women from 1632

to 1945 (Austin:

U of Texas P, 1977) 106.

(9)

+)Lt*E7

it 9 t trttgÃ

tz t opleg

41

Like  a star  about  my  pillow   Or  to seem

Avision-Ishould  love   To  love  a dream!

(25-30, PBA 63)

  本 心 を包 み 隠 さず 洩 した直 後 に最 終 連 で 「

枕 元 に星 の よ うに」、 「幻 」

、 「夢 を

愛 す る」 な ど故 意 に 女 性 ら しい言 葉 遣 い で相 手 の この 世 で の不在 を 求 めて い る。

  当時 の社 会 な らで は の男 女 関 係 の ドラ マ を オ ズ グ ッ ドは展 開 し て い くが 、

"The Lady's Mistake"で

は語 り手 の 女 性 が 三 人 称 で男 性 の 身 体 上 の虚 偽 性 を

暴 露 しな が らス タ ンザ を追 う ご とに 「

心 」 も 「

愛 」 も 「

財 産 」 も偽 りで あ った

と告 発 す る。4連 中 の最 終 連 を 引 用 す る と、

I had made up my mind to dispense

With a figure, hair, teeth, heart & sense

The calf I'd o'erlook were it ever so small

But to think that he is not — a count after all

That's not to be pardoned offence!

(PBA 64)

  最 後 に 「伯 爵 で な い」 と男 性 が社 会 的 地位 を 偽 った こ とを 「

許 され な い罪 」

とす る こ とで そ の 人 物 のす べ て を否 定 し たの で あ る が、 こ こで の 皮 肉 の対 象 は

男 性 で は な い 。 男 性 に誠 実 さば か りで な く地 位 も求 あ な け れ ば 自己 の存 在 が 危

う くな る女 性 に こそ 椰 楡 の鉾 先 は 向 け られ て い る の で あ る。1846年

の 『

詩 集 』

の"The  Lily's 

Delusion"を

採 りあ げ た い。

A cold, calm star look'd

out of heaven,

And smiled upon a tranquil

lake,

Where,

pure as angel's

dream at even,

(10)

42  英文学論 叢i第44号

The flower

felt that fatal

smile

And lowlier

bow'd her conscious

head;

"Why does he gaze on me the while?"

The light,

deluded Lily said.

Poor dreaming flower! — too soon beguiled,

She cast nor thought nor look elsewhere,

Else she had known the star but smiled

To see himself reflected there.

(PBA 65)

  頭 韻 が 顕 著 で 、 第 一 連 は 美 し い 場 面 設 定 に 見 受 け られ る が 、 天 空 か ら 自 分 を 見 下 ろ して い る 「星 」 に 対 して 夢 見 心 地 の 「百 合 」 は 、 実 は 星 が 百 合 で は な く 湖 に 写 る 自 分 の 姿 を 見 っ め て い た と い う 皮 肉 な ア レ ゴ リ ー に な っ て い る 。 Elizabeth  Petrinoは 、 こ の 詩 が 女 性 の 詩 の 伝 統 で あ る 花 の こ と ば を 皮 肉 的 に 使 っ て い る こ と 、 及 び ボ ー の1827年 の"Evening  Star"に 形 式 と 感 情 が 近 い こ と か ら も、 彼 の 裏 切 り へ の 抗 議 の っ も り で 書 か れ た と み な し て い る 。12第 三 連2行 目 の 「彼 女 は 他 の 所 に 考 え も 視 線 も投 げ か け な か っ た 」 に 「夢 見 る百 合 」 と して の 女 性 の 意 識 の な さ と や が て 「冷 た い 、 静 か な 星 」 の 「致 命 的 な 微 笑 み 」 に 破 滅 さ せ ら れ る 「女 性 の 最 終 的 運 命 」(Petrino,139)が 暗 示 さ れ て い る 。   恋 愛 詩 と い う範 疇 か ら は 逸 脱 して い る か も しれ な い が 、 女 性 へ の 椰 楡 が 投 げ か られ て い る テ ク ス ト と し て"The  Daisy's  Mistake"と い う60行 の 詩 が 挙 げ られ る。 デ ィ キ ン ス ン の 「ひ な 菊 」 の ペ ル ソ ナ へ の 影 響 関 係 は 批 評 家 の 指 摘 を 侯 っ ま で も な い 。 「陽 光 」 と 「西 風 」 の 巧 み な 誘 惑 に 負 け て 春 と は い え 時 期 尚 早 に 「ひ な 菊 」 は 咲 き 、 悲 惨 な 最 後 を 迎 え る と い う筋 書 き 。"...Do  not go! /You  had better be quiet, and wait  your  hour.,0"(33-35,  PBA  66)  と い

う 「本 能 」 の 声 に 従 わ ず 、"What  a belle 1 shall be!"(38)と 虚 栄 心 の ま ま に

12 Elizabeth

A. Petrino,

Emily Dickinson

and Her Contemporaries:

Women's

Verse in America,

1820-1885 (Hanover:

UP of New England,

1998) 139.

(11)

十 九 世 紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ち の恋 愛 詩    43

地 上 に で て 、"Ah!had  I courageously  answer'd  `no!'/Ihad  now  been safe in my  native  bower!"(59-60)と 瀕 死 の 後 悔 の 声 で 幕 を 閉 じ る こ と に な る。 第3連 か ら5連 へ の 「ク ロ ッ カ ス 」、 「キ バ ナ ノ ク リ ン ザ ク ラ」、 「キ ン ポ ウ ゲ 」 な ど 成 熟 し た 女 性 を 象 徴 す る 花 々 へ の 競 争 心 を 煽 られ て い た こ と か ら も、 こ の 詩 が 、Petrinoも 指 摘 して い る よ う に 、 初 め て 社 交 界 に 出 る 娘 へ の 教 訓 と し て 母 親 が 聞 か せ る寓 話 で あ る と の 感 は 拭 え な い(Petrino  155)。 しか し テ ク ス ト の 半 分 以 上 を 占 め る 、 男 性 中 心 社 会 を 象 徴 す る 「陽 光 」 と 「西 風 」 の 誘 惑 の こ と ば に は 、Petrinoの こ と ば を 借 り る と 「十 分 な 勇 敢 さ が な い か 怠 惰 す ぎ る 」 (Petrino  155)と い う 「ひ な 菊 」 の 花 と して の 義 務 感 に も訴 え る もの が あ り 、 そ れ に 抗 う こ と の 困 難 さ も暗 示 さ れ て い る 。 即 ち オ ズ グ ッ ドは 読 者 か ら受 容 さ れ る範 囲 内 で 、 女 性 の お か れ た 苦 境 を 表 現 して い る の で あ る 。   オ ズ グ ッ ドの ひ な 菊 は デ ィ キ ン ス ンの そ れ の よ う な 「伝 統 的 な 女 性 ら し さ の 概 念 に 反 発 す る 」(Petrino  156)ペ ル ソ ナ で は な い が 、 不 実 の 恋 人 に 別 れ を 宣 言 す る"Yes,  Lower  to the Level"(CWA  132-133)な ど の 後 年 の 詩 で の 女 性 の 語 り手 の こ と ば は 、 女 性 ら し さ の 仮 面 を っ け な が ら も 「ほ とん ど 反 抗 して い る」 とAlicia  Ostrikerも 認 め る 複 雑 さ を 帯 び て く る。13男 性 批 評 家 か ら 「心 か ら書 く よ う に 」(CWA  133)と の 批 判 を 受 け て 書 か れ た"Ah!Woman  Stil1" で オ ズ グ ッ ドの 反 論 は 静 詫 を 湛 え て い る 。

Ah! woman still

Must veil the shrine,

Where feeling feeds the fire divine,

Nor sing at will,

Untaught by art,

The music prison'd in her heart!

(1-6, CWA 133)

13 Alicia Suskin Ostriker,

Stealing the Language:

The Emergency

of Women's

Poetry in America

(Boston:

Beacon P, 1986) 37.

(12)

44 

英 文学論叢

第44号

  オ ズ グ ッ ドは、 読者 受 容 と 自 らの 内 面 の 「

神 聖 な炎 」 の 間 で 葛 藤 しっ っ、 女

性 詩 人 の 表 現 の 可 能 性 を 恋愛 詩 の テ ク ス トに探 り、 そ の 限 界 を 知 る こ と にな っ

た と考 え られ る。

4

  ア リス ・ケ ア リー はOhio州Mount  Healthyの 農 家 に 生 ま れ 、 妹 フ ィー ビー と共 に 殆 ど 独 学 で 文 学 に 志 した 。1830年 代 後 半 に 最 初 の 詩 が 地 方 紙 に 掲 載 さ れ た の が き っ か け で 、1849年 、 グ リ ス ウ ォ ル ド編 集 のThe  Female  Poets  of Americaに 若 い 詩 人 と し て 掲 載 さ れ る こ と と な っ た 。 そ の う ち の 一 篇 、 "Pictures  of Memory"が ボ ー に 認 め ら れ 、 グ リ ス ウ ォ ル ドや 詩 人 ホ イ ッ テ ィ ア の 援 助 を 得 て 、 翌 年 ニ ュ ー ヨ ー ク に 移 り 、 妹 と共 に 生 涯 独 身 で 、 万 人 救 済 論 者 、 奴 隷 制 度 廃 止 論 者 、 女 性 解 放 運 動 家 と い っ た 立 場 を 維 持 しな が ら 文 筆 活 動 で 生 計 を 立 て た 。 田 園 生 活 の 物 語 の 作 家 と し て 名 を 残 した が 、 当 時 は感 傷 的 な 詩 を 書 く女 性 詩 人 と して 高 い 人 気 を 博 し、 生 前 に3朋 、 死 後3冊 の 詩 集 が 出 版 さ れ た(CWA  168-69)。   姉 妹 の 詩 を 十 九 世 紀 ア メ リ カ の 「大 草 原 の 詩(prairie  verse)」 の 伝 統 に 位 置 付 け るSteven  Olsonは ア リ ス の 関 心 が 大 草 原 の 辺 境 で の 現 実 と 限 界 に 直 面 す る 「女 性 の 姿 」14に あ る と 述 べ て い る が 、 彼 女 の 詩 に は 辺 境 の 地 で 夫 や 恋 人 を 待 っ 女 性 の 悲 し い 運 命 を 語 る バ ラ ッ ドが た し か に 多 い 。 恋 人 へ の 思 い を 女 性 ら し く感 傷 的 に 述 べ る も の も あ る が 、 愛 の 不 在 か ら く る 女 性 に と っ て 悲 し い 状 況 と い う の が こ の 詩 人 の 得 意 と す る と こ ろ で あ ろ う 。Dobsonが 佳 作 と し て あ げ て い る"The  Bridal Veil"は 既 婚 の 語 り手 が 、 「花 嫁 の ヴ ェ ー ル 」 の 下 の 真 実 を 夫 に 対 し て 告 白 す る と い う場 面 設 定 で あ る(Dobson  39)。

14

Steven

Olson,

The Prairie

in Nineteenth-Century

American

Poetry

(Norman:

U of Oklahoma

P, 1994) 79-82.

(13)

十 九 世 紀 ア メ リカ女 性 詩 人 た ち の恋 愛 詩     45

Nay, call me not cruel, and fear not to take me,

I am yours for my life-time,

to be what you make me,—

To wear my white veil for a sign, or a cover,

As you shall be proven

my lord, or my lover;

A cover for peace that is dead, or a token

Of bliss that can never be written

or spoken.

(第4連 、CWA  184)

  こ の 厳 し い 口 調 の 最 終 連 に 至 る ま で に 語 り 手 は"Ihave  wings  flattened down  and hid under  my  veil:"(13)と 自分 の 心 が 夫 に 全 く支 配 さ れ る こ と の な い 自 由 な も の で あ る こ と を 述 べ て き た 。 愛 の な い 結 婚 を 余 儀 無 く せ ざ る を え な か っ た 当 時 の 女 性 の ペ ル ソ ナ は 、 「心 か ら ほ と ば し る 悲 し み 以 上 に 、 詩 に お け る 実 験 の よ う な も の 」(Petrino  28)を 書 い た と ケ ア リ ー を 非 難 し た 男 性 批 評 家 に 対 す る ケ ア リ ー 自 身 の ペ ル ソ ナ で あ る と も 考 え られ な い だ ろ う か 。   1855年 の 『詩 集 』 が 出 版 さ れ た と き 、 女 性 詩 人 に は 厳 し い 批 評 を 差 し 控 え る と い っ た1840,50年 代 の 傾 向 も あ っ て 、 賞 賛 も 受 け た が 、 幾 っ か の 書 評 は か な り厳 しか っ た と 言 わ れ る 。 例 え ばPutnum誌 の 書 評 は 、 「141篇 の う ち70 篇 近 く が 、 恋 人 の 不 実 の せ い で 死 ぬ と い う終 わ り方 を し て い る か 、 死 へ の 願 望 を 表 現 して 終 わ っ て い る 。 そ して 残 り の 作 品 の 殆 ど す べ て が 憂 諺 な 感 情 を 示 し て い る」15と い う酷 評 で あ っ た 。 感 情 の 憂 諺 さ が 時 代 の 女 性 の 姿 を 反 映 し て い る も の な の か 、 詩 人 個 人 の 精 神 の あ り よ うか ら く る も の な の か の 判 断 は 難 し い が 、 詩 集 の 出 版 を10年 間 控 え る こ と で 、 ア リス ・ケ ア リ ー は 、 よ り成 熟 し た ペ ル ソ ナ を テ ク ス トに 登 場 さ せ る こ と が で き た 。 厳 密 に は 恋 愛 詩 と は 言 え な い か も しれ な い が 、 ミ ュ ー ズ や 孤 独 に 恋 人 へ の よ う に 語 り か け る 詩 が 彼 女 に と っ て の 恋 愛 詩 の 役 割 を 果 た す こ と に な っ た と 考 え ら れ る 。"To  The  Spirit  of Song"は1865年 の 詩 集 の 巻 頭 に 載 せ られ た もの で"Apology"と い う 副 題 が 附 さ れ て い る 。

(14)

46 

英文学論叢

第44号

O ever true and comfortable

mate,

For whom my love outwore the fleeting red

Of my young cheeks, nor did one jot abate,

I pray thee now, as by a dying bed,

Wait yet a little longer! Hear me tell

How much my will transcends my feeble powers:

(1-6)"

  男 性 の ミュ ー ズ へ の 語 り か け は 女 性 の 詩 の ひ と っ の 伝 統 的 形 式 で あ り、 ケ ア リ ー は 同 じ タ イ トル の 詩 を1852年 に も発 表 し て い る 。Jonathan  Hallの 指 摘 の 通 り、 初 期 の そ の 詩 で は 男 性 の ミ ュ ー ズ は 若 くて 、 男 性 的 で 暗 い 恋 人 の よ う だ っ た の が 、1865年 の 方 で は 冒 頭 数 行 か ら も ミ ュ ー ズ がrよ り 親 し い 、 夫 の よ う な 関 係 に 変 化 し て い る 」(EAP  67)と 思 わ れ る。 全 体 の 表 現 は 感 情 が 抑 制 さ れ て い て 、"Sweet  master,  mending,  as we go along,/My  homely  fortunes with  a thread  of song,"((16-17)な ど女 性 詩 人 に 期 待 さ れ る慎 ま し さ が 表 出

して い る 。 しか し最 後 の2行 、"...Iknow  what  I resign,/But  at that great price I would  have  thee mine."で は 恋 人 を 獲 得 す る比 喩 で 創 作 意 欲 を 言 明 し て い る 。 ミュ ー ズ だ け で な く抽 象 観 念 を 擬 人 化 して 語 りか け る と い う の も伝 統 の 一 っ で あ る が 、 「孤 独 」 を 恋 人 と し て 人 生 の 疲 れ を 癒 す こ と を 求 め る"To Solitude"は 異 形 の 恋 愛 詩 だ と 考 え ら れ る。

    1 am  weary  of the working.       Weary  of the long day's  heat;     To thy comfortable  bosom,

      Wilt  thou  take me, spirit sweet?  (1-4)

16  Mary  Clemmer  ed., The  Poetical  Works  of Alice  and  Phoebe  Cary,  with  a   Memoir(ゾ 餓eかLε りεs(New  York:Hurd  and  Houghton,1877)92。 こ れ に は 副   題 の あ と[Prefacing  the  Volume(≧/BαZZα(1S,五 ツr`C8, an(1耳yπLπ8  P召 わZ`Sんε(i in   1865]と 付 加 さ れ て い る 。 尚1852年 発 表 の 同 題 の 詩 は 以 下 の 詩 集 参 照 。Mary   Clemmer  ed., Early  and  Late  Poems  of Alice  and  Phoebe  Cary  (Boston:   Houghton,  Mifflin  and  Company;  Cambridge:  The  Riverside  P, 1887)  186-87.

(15)

十 九 世 紀 ア メ リカ女 性詩 人 た ちの 恋 愛詩    47

I am weary of the trusting

Where my trusts but torments prove:

Wilt thou keep faith with me? Wilt thou

Be my true and tender love? (13-16)

Give thy birds to sing me sonnets?

Give thy winds my cheeks to kiss?

And thy mossy rocks to stand for

The memorials of our bliss

I in reverence will hold thee,

Never vexed with jealous ills,

Though thy wild and wimpling waters

Wind about a thousand hills.

(21-28, CWA 174-75)

  20行 目で"our"と

い うの は もち ろ ん 孤 独 と語 り手 な の で あ るが 、 失 っ た か

っ て の恋 人 を 暗示 して恋 愛 詩 の雰 囲気 を 醸 し出 して い る。 そ して 最後 の2行 が

示 す 孤 独 な世 界 の荒 涼 と した風 景 を 自 ら の も の と して抱 え て い くこ とを、w音

の頭 韻 を響 か せ な が ら、 恋 人 に訴 え か け る よ う に語 りか け る語 り手 は、感 傷 的

で は あ って も成 熟 した ペ ル ソナ とな って い る。

5

  フ ィ ー ビ ー ・ケ ア リー は14才 で 最 初 の 詩 集 を 出 版 し、 姉 に一 年 遅 れ て ニ ュ ー ヨ ー ク に 出 た 。 姉 と 共 に 催 した 「日 曜 日 の 夕 べ 」 の サ ロ ン は 有 名 で 、 作 家 、 詩 人 、 ジ ャ ー ナ リ ス ト、 女 性 解 放 運 動 家 た ち が 集 ま っ た 。 詩 の 傾 向 と して は 、 方 言 や 会 話 体 を 実 験 的 に 用 い た バ ラ ッ ドや 宗 教 詩 、 恋 愛 詩 の 他 、 パ ロ デ ィ を 多 く 書 い た こ と で 知 られ て い る 。 彼 女 の パ ロ デ ィ の 対 象 と な っ た の は シ ェ イ ク ス ピ ア、 ワ ー ズ ワ ー ス 、 ボ ー 、 ロ ン グ フ ェ ロ ー 、 ウ ィ リア ム ・ブ ラ イ ア ン ト、 フ ェ リ シ ア ・ ヒ ー マ ン ズ な ど で あ る 。 彼 女 の パ ロ デ ィ へ のGraham誌 の 批 評 は 、

(16)

48 

英文学論叢 第44号

「す べ て の 詩 歌 の な か で こ れ ら は 感 傷 的 な 女 性 が ユ ー モ ア の 練 習 に 選 ぶ と は 想 像 しが た い も の 」(EPA  68)と い う こ と で あ っ た が 、 Jonathan  Hallに よ る と 彼 女 が 問 題 に し た の は ま さ に そ の 「感 傷 的 な 女 性 の 定 義 」(EPA  68)で あ った 。

ジ ェ ン ダ ー 意 識 は 、 他 の 詩 人 た ち と 同 様 に 恋 愛 詩 の な か に よ り深 く反 映 さ れ て い る 。

  "We  are face to face, and between  us here / ls the love we  thought  could never  die;/Why  has it only lived a year?/Who  has murdered  it-you  or I?"1?で 始 ま る"Dead  Love"は か っ て の 恋 人 同 士 が 失 っ た 愛 を 自 分 た ち が 殺 し た 屍 と し て 検 死 の う え 、 罪 の 意 識 を も っ て 哀 悼 す る こ と を 呼 び か け る と い う 辛 辣 な も の 。

And, since we cannot

lesssen

the sin

By mourning

over the deed we did,

Let us draw the winding-sheet

up to the chin,

Aye, up till the death-blind

eyes are hid!

(第9連)

  こ の 詩 と、 も う一 篇 「寂 しい 海 辺 に 」 い る 語 り手 が 一 人 で 不 在 の 相 手 を 思 い な が ら 毅 然 と 立 っ"Alas"(Clemmer  169)は 、 姉 妹 の 詩 を 死 後 出 版 し た Clemmerに よ っ て 「情 熱 、 悲 哀 と や さ し さ が 結 合 し た も の 」(Clemmer  169) と し て 絶 賛 さ れ た 。 フ ィ ー ビ ー ・ケ ア リ ー の 場 合 も女 性 が 書 い て 受 容 さ れ る 範 囲 の 限 界 の と こ ろ ま で 、 想 定 さ れ う る 感 情 と ド ラ マ を 展 開 さ せ て い る と考 え ら れ る が 、 恋 愛 の 行 方 を 直 視 しな が ら も 、 「経 帷 子(winding-sheet)」 を 目 の と こ ろ ま で 引 き上 げ 、 「あ あ 」 と感 嘆 す る語 り手 は 、 女 性 の 領 域 を 越 え よ う と し て 躊 躇 す る詩 人 の ペ ル ソ ナ で あ ろ う。

  こ の ペ ル ソ ナ が 躊 躇 を 捨 て る 一 篇 が 、"Do  You  Blame  Her?"(Clemmer

17 Mary Clemmer

ed., A Memorial

of Alice and Phoebe Cary,

with Some of

Their Later Poems

(Boston:

Houghton,

Mifflin and Company,

1898) 167.

(17)

十九世紀 アメ リカ女性詩人 たちの恋愛詩   49

307-308)で あ ろ う。 こ の 詩 は 恋 人 を 拒 絶 す る 語 り手 の 言 い 訳 が11連 に 亘 っ て 述 べ ら れ る も の で あ る 。

Sadly of absence poets sing,

And timid lovers fear it;

But an idol has been worshiped

less

Sometimes

when we came too near it.

(第7連)

  自分 自身 を 詩 人 た ち の仲 間 と はみ な さず に、 語 り手 は恋 人 に 「

否 」 と言 い、

距 離 を保 っ こ とで 得 られ る か も しれ な い もの、"a queen's obtaining"に

思 い

を馳 せ、 遂 に は、"Imight  dream  like 

a 

fond romancer,"と

恋 愛 を 拒 絶 す る

こと で 「

甘 い夢 想 家 」 とな る こ とを 選 択 す る。 これ は詩 人 の ペ ル ソナ の女 性 の

枠 へ の精 一 杯 の挑 戦 で あ った と考 え られ る。

  以 上 、 十 九 世 紀 前 半 か ら半 ば に か けて 文 芸 サ ロ ンで 活 躍 した4人 の 女 性 詩 人

の恋 愛 詩 の 片 鱗 を概 観 した が、 各 々 の詩 人 が 、 読 者 及 び批 評 家 の受 容 を求 め、

感 傷 的女 性 詩 人 へ の期 待 に応 え な が らも、 詩 人 と して の別 の可 能 性 を も追 求 し

た こ とが 理 解 され る。 ペ ル ソナ が女 性 と詩 人 の狭 間 で拮 抗 す る と き、 テ クス ト

は感 傷 性 を 湛 えっ っ も、 恋 愛 の拒 絶 、 放 棄 の方 向 に傾 斜 して い くよ うで あ る。

恋 愛 詩 の 範 疇 の な か で恋 愛 放 棄 の詩 、 反 恋 愛 詩 とで も呼 ぶ べ き もの が ア メ リカ

の女 性 詩 人 た ち の 間 で模 索 され続 け た と推 察 さ れて な らな い。 そ れ が デ ィキ ン

ス ンを は じめ と して十 九 世 紀 後 半 か ら現 代 詩 へ と引 き継 が れ て い く女 性 詩 人 た

ち の新 た な 試 み の土 壌 とな った と考 え られ る の で あ る。

Updating...

参照

Updating...

関連した話題 :