成 膜 大 学 理 工 学 研 究 報 告 J.Fac.Sci.Tech.,SeikeiUniv. Vol.56No.2(2019)pp.21-24 (特 別 研 究 費 に 係 る 論 文)
小 胞 体 糖 タ ンパ ク質 品質 管 理 に お け る 多機 能 性 タ ンパ ク質
栗 原 大 輝*1,戸 谷 希 一 郎*2Bifunctional proteins in the endoplasmic reticulum
Taiki KURIBARA * 1, Kiichiro TOTANI * 2
1.は じ め に 2.Calreticulinの 多 機 能 性 小 胞 体 に て 生 合 成 され る新 生 タ ンパ ク質 の 多 くは 、 糖 鎖 が 結 合 し糖 タ ンパ ク質 とな る。 糖 タ ンパ ク質 上 の 糖 鎖 は 、 新 生 糖 タ ンパ ク質 が 折 りた た ま れ る上 で 様 々 な シ グ ナ ル と して機 能 す る こ とが 明 らか とな っ て い る1)。 具 体 的 に は 糖 鎖構 造 の 違 い に よ り糖 タ ンパ ク質 の 「折 りた た み促 進 」、 「選 別 」、 「分 泌 」 お よび 「分 解 」 を担 うシ グナ ル と して機 能 す る。 換 言 す る と、 シ グナ ル 糖 鎖 は タ ンパ ク質 部位 の 折 りた た み 状 態 を示 す シ グナ ル と して 機 能 し て い る と考 え られ る。 これ らの シ グナ ル 糖 鎖 は 、 小 胞 体 に お け る種 々 の 糖 鎖 認 識 タ ンパ ク質 や 糖 鎖 プ ロセ シ ン グ 酵 素 の働 き を 経 て 産 生 され る。 この よ うな 糖 鎖 を基 に し た糖 タ ンパ ク 質 の 折 りた た み機 構 を、 糖 タ ンパ ク質 品 質 管 理機 構 と呼 ぶ 。 本機 構 で 生 じる シ グナ ル 糖 鎖 は 、 タ ン パ ク 質 の 折 りた た み 状 態 を反 映 す るは ず で あ るた め、 小 胞 体 の糖 鎖認 識 タ ンパ ク質 や 糖 鎖 プ ロセ シ ン グ酵 素 は 、 糖 鎖 部位 に加 え タ ンパ ク質 部位 の 折 りた た み 状 態 に応 じ て 結 合 力 や 反応 性 が 変 化 す る もの と考 え られ る。 実 際 、 UDP-glucose:glycoproteinglucosyltransferase1(UGGTl) に お い て は 、MangGlcNAc2(M9)型 糖 タ ンパ ク質 の タ ン パ ク質 部 位 の 折 りた た み 状 態 に応 じ たUGGT1活 性 の 変 化 が 知 られ て い る。 この よ うな 知 見 を踏 ま え る と、 本 機 構 に お い て 、UGGTIの 他 に も糖 鎖 変 換 と タ ンパ ク質 の 折 りた た み 状 態 を識 別 す る多機 能 性 の タ ンパ ク質 群 が 存 在 して い る可 能 性 が あ る。 本 稿 で は 、 小 胞 体 糖 鎖 関 連 タ ンパ ク 質 の 多機 能 性 に つ い て 、 我 々 が 近 年 見 出 した い く つ か の 結 果 を 紹 介 した い 。 Calreticulin(CRT)は 糖 タ ンパ ク質 品 質 管 理機 構 にお い て 、GlclMangGlcNAc2(GIM9)型 糖 タ ンパ ク質 を認 識 し、 タ ンパ ク部 位 の 折 りた た み を促 進 す る レ クチ ン様 分 子 シ ャペ ロ ンで あ る。糖 タ ンパ ク質 はCRTに 認 識 され る と、 本 シ ャペ ロ ン と種 々 の 酸化 還 元 酵 素 との 連携 に よ り、 そ の タ ンパ ク質 部 位 が 正 し く折 りた た ま れ る。 この過 程 に お い て 、CRTが 糖 鎖 のみ を認 識 して い る の か 、そ れ と も タ ンパ ク質 部位 も併 せ て認 識 す るの か は議 論 の 的 とな っ て い た。 我 々 は独 自に 開発 して き た糖 鎖 プ ロー ブ を用 い た解 析 に よ りCRTが 糖 鎖 部 位 に加 え て タ ンパ ク 質 部位 を 認識 す る多機 能 性 を 明 らか に した2)。 す な わ ち化 学 合 成 したGIM9型 糖 鎖 の ア グ リコ ン部 位 に 様 々 な疎 水 性 度 を有 す る置換 基 を 導入 し、 系 統 的 に 疎 水性 度 の 異 な る GIM9型 糖 鎖 プ ロー ブ を調 製 した。これ らを川 い てCRT との 結 合 を 評 価 し、 糖 鎖 近 傍 の 疎 水 性 度 が 高 ま る ほ ど CRTと の 結 合 が 強 くな る こ と を証 明 した 。この 結 果 か ら、 CRTは 、少 な く と も糖 鎖 付加 部位 近傍 の 疎 水性 度 を識別 す る多機 能 性 を有 す る可能 性 を 見 出 した。 3.α1,2-mannosidase類 の 多 機 能 性 *1:物 質 生 命 理 工 学 科 助 教 *2:物 質 生 命 理 工 学 科 教 授(ktotani@st .seikei.acjp) 糖 タ ンパ ク 質 品 質 管 理 機 構 に お い て 、 折 りた た み 工 程 と共 に 重 要 な の は 、 分 泌 お よ び 分 解 糖 タ ン パ ク 質 の 選 別 で あ る。小 胞 体 で 生 合 成 され る 糖 タ ン パ ク 質 の 約3割 は 、 本 質 的 に 折 り た た み 不 可 能 で 分 解 さ れ る こ と が 知 ら れ て い る。 分 解 糖 タ ンパ ク 質 が 小 胞 体 に 蓄 積 す る と 小 胞 体 ス ト レ ス 状 態 と な り 、ア ル ツ ハ イ マ ー 病 、パ ー キ ン ソ ン 病 、 糖 尿 病 な ど に 代 表 され る 折 りた た み 不 全 病 発 症 の 原 因 と な る と考 え られ て い る。 そ こ で 、 細 胞 恒 常 性 を維 持 す べ く小 胞 体 で は 、 α1,2-mannosidase類(ERManl、EDEM1、 EDEM2お よ びEDEM3)が 糖 鎖 を プ ロ セ シ ン グ し、分 泌 シ グ ナ ル 糖 鎖 や 分 解 シ グ ナ ル 糖 鎖 を 産 生 す る こ と で 、 分 一21一
成 践 大 学 理 工 学 研 究 報 告 Vol.56No.2(2019。12) 泌 お よび 分解 糖 タ ンパ ク質 を選 別 して い る と考 え られ て い る。 しか しな が ら、 シ グナ ル機 能 が 示 唆 され て い る糖 鎖 が 小 胞 体 内 で どの よ うに 産 生 され て い るか は 明 らか と な っ て い な か っ た 。 我 々 は 、 この 本 質 的 な 問 題 を、 マ ウ ス肝 臓 由 来 の 小 胞 体 両 分 と均 一 構 造 を有 す る合 成 糖 鎖 基 質 を 用 い た糖 鎖 プ ロセ シ ン グ解 析 に よっ て解 明 した3)。 具 体 的 に は 分 泌 あ るい は 分 解 シ グナ ル機 能 が 想 定 され て い る糖 鎖 産 生 を 標 的 と して 、 そ れ ぞ れ の シ グナ ル 糖 鎖 産 生 阻 害剤 を 見 出 し、小 胞 体 で の α1,2-mannosidase活 性 の 選 択 的 な 調節 に 成 功 した 。 この 手 法 を川 い 、 小 胞 体 で の 糖 鎖 産 生 を解 析 した と こ ろ、 ふ た つ の 独 立 した 糖 鎖 産 生 経 路 が 存在 す る こ と を世 界 で 初 め て 明 らか に した 。 さ ら に 、 そ れ ぞ れ の 経 路 に 対 応 す る糖 鎖 の シ グナ ル 機 能 を加 味 して 、糖 タ ンパ ク質 の 分 泌 お よび 分 解 経 路 に関 わ る シ グ ナ ル 糖 鎖 産 生 経 路 を解 明 した 。 分 泌 糖 タ ンパ ク質 の 表 面 は親 水性 ア ミ ノ酸 で 覆 わ れ て い て 、 分 解 糖 タ ンパ ク質 の 表 面 に は 疎 水 性 部位 が 露 出 して い る こ と を考 慮 す る と、 これ らの マ ン ノー ス 切 断 活 性 に は 、 タ ンパ ク質 部 位 の 表 面 疎 水 性 度 が 関 連 す る か も し れ な い 。 実 際 に α1,2-mannosidase類 の うち い くつ か の酵 素 は 、タ ンパ ク質 表 面 に 疎 水性 部位 が 露 出 す るに した が っ て 、 そ の 酵 素 活 性 が 向 上 す る と報 告 され て い る4)。 これ らを 総 合 す る と、 Ol,2-mannosidase類 に も多機 能 性 を有 す る酵 素 の 存 在 が 推 測 され る。 4.小 胞 体 糖 鎖 プ ロセ シ ング と多 機 能 性 上 記 の よ うに 、合 成 糖 鎖 基 質 や 阻 害 剤 を用 い た 化 学 的 手 法 に よ りCRTあ る い は α1,2-mannosidase類 が 、 糖 鎖 の み な らず タ ンパ ク質 部位 の 疎 水 性 度 を識 別 す る多 機 能 性 を 有 す る候 補 と して 挙 が っ て きた 。 これ らの 結 果 の さ ら な る裏 付 け と して 、 糖 鎖 近 傍 の 疎 水 性 部 位 の 距 離 を 様 々 な リンカ ー で 調 節 したGIM9お よ びM9型 合 成 基 質 を 川 い た 小 胞 体 糖 鎖 プ ロセ シ ン グの 網 羅 的 解 析 の 結 果 を 紹 介 す る5)。 マ ウス 肝 臓 由来 の 小 胞 体 画 分 とア グ リコ ン部位 の 疎 水 性位 置 を系 統 的 に 変 化 させ た 糖 鎖 プ ロー ブ を 用 い た糖 鎖 プ ロセ シ ン グ解 析 に よっ て 、CRTと α1,2-mannosidase類 に 対 して 以 下 の こ とが 判 明 した 。CRTは 小 胞 体 内 環 境 に お い て 、 糖 鎖 近 傍 の 疎 水 性 度 が 高 い 基 質 ほ ど結 合 力 が 高 くな り、 あ る距 離 以Il糖 鎖 部 位 と疎 水 性 部位 が 離 れ る と結 合 しな くな る。これ らの知 見 は、CRT が 疎 水性 部位 に 対 して ラ ンダ ム に 結 合 す るの で は な く、 特 定 の 距 離 も し くは位 置 の 疎 水 性 部位 を識 別 して 多 機 能 性 を 発 揮 す る 可 能 性 を 示 唆 し て い る 。 ま た 、 α1,2-mannosidase類 の 活 性 に お い て は 、糖 鎖 近 傍 か ら疎 水 性 部 位 が 離 れ る に つ れ て 糖 鎖 プ ロ セ シ ン グ 活 性 が 低 ドし た 。 さ ら に 、 同 じ基 質 群 に 対 し て のUGGT1の 糖 転 移 能 を解 析 し た と こ ろ 、 同 様 の 傾 向 が 観 測 さ れ た 。 こ れ ら を踏 ま え る と 、 特 定 あ る い は 複 数 のOl,2-mannosidaseが 、 糖 鎖 近 傍 の 疎 水 性 度 を 識 別 す る 多 機 能 性 を 有 して お り、 こ の 性 質 が 分 泌 あ る い は 分 解 糖 タ ン パ ク 質 の 選 別 に 寄 与 す る 可 能 性 が あ る。 し か し な が ら 、 糖 タ ン パ ク 質 の 分 泌 お よ び 分 解 経 路 を 担 う ど の α1,2-mannosidaseが 多 機 能 性 を 有 す る の か 証 明 す る 実 験 結 果 は 得 ら れ て い な い 。 現 在 は 、 こ の 疑 問 を 解 決 す べ く 、分 泌 お よ び 分 解 経 路 を 担 うα1,2-mannosidaseの 同 定 を 進 め て い る 。 5.総 括 本 稿 で は 、小胞 体 に お け る糖 タ ンパ ク質 品 質 管 理 に関 連 す るタ ンパ ク 質群 の 多機 能性 に つ い て 言 及 した 。 具 体 的 に はCRTお よ びot1,2-mannosidase類 に 多 機 能 性 の 可能 性 を 見 出 した(図1)。 小 胞 体 で は 、 糖 タ ンパ ク質 の 折 りた た み状 態 と糖 鎖 構 造 が密 接 に リ ン ク して い る。 こ れ らを踏 ま え る と、 多機 能 性 とい う概 念 は 、 糖 タ ンパ ク 質 の糖 鎖 変 換 に お け る糖 鎖 部位 とタ ンパ ク質 部位 の 関係 性 を さ らに分 子 レベ ル で理 解 す るた め の 助 とな る と考 え て い る。 さ らに 、我 々 は 、 細胞 質 に お け る糖 タ ンパ ク 質 の分 解 過 程 に お い て も、糖 鎖 近傍 の 疎 水性 や ア ミ ノ酸 の配 列 が そ の分 解 に影 響 を 与 え る可能 性 を示 して い る6)。 これ らを総 合 し、我 々 はす で に糖 タ ンパ ク質 関 連 タ ンパ ク質 に お け る多機 能 性 を総 説 と して発 表 して い る7)。 今 後 、 さ らに この概 念 を も とに糖 タ ンパ ク質 関 連 酵 素 の 分 子 レベ ル で の活 性 メ カ ニ ズ ム が 明 らか に され る こ と を期 待 して い る。
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図1.CRTと α1,2-mannosidase類 の 多 機 能 性 の 可 能 性参 考文献
) 1 ) 2 J.J.CarmeloA.J.Parodi.ノ,ラ ・7∫β5「」Le〃.20155893379- フ 3387. M.Hirano,YAdachi,YIto,K.Totani.Biochem. Bi(4phツs.Res.Co〃2〃lun.2015,466,350-355. 一22一成 践 大 学 理 工 学 研 究 報 告 Vol.56No.2(2019。12) ) 3 ) 4 ) 5 ) 6 ) 7 T.Kuribara,M.Hirano,G.Speciale,SJ.Williams,YIto, K.Totani.ChemBioChem2017,18,1027-1035. M.Shenkman,E.Ron,R.Yehuda,R.Benyair,1.Khalaila, G.Lederkremer.Commun.Biol.2018,1,172. K.Totani,K.Yamaya,M.Hirano,YIto.Carbo勿 ノdn Res.2017,439,16-22. T.Kuribara,T.Ishihara,T.Kudo,M.Hirano,K.Totani. 1)rotein1)epL.乙 θが.2017,24,723-728. T.Kuribara,K.Totani.Med.Res.Arch.2018,6,1852. 一23一