糖 蔵 に 関 す る 研 究(第3報)
一 糖 ア ル コ0ル に よ る カ ビ の 生 育 阻 害 効 果 に つ い て 一
坂 田 由紀子* 太 田 馨*
Stadies
on the Preservation
by Sugar
(Part
3)
—Effect of Inhibition by Sugar Alcohol upon the Growth of the Mold
Yukiko Sakata, Kaoru Ohta
ま え が き り 前 報 に於 て著者 らは 空 気 中 よ り耐 滲 透 圧iの カ ビを 分 離 し,こ れ を 用 い て糖 蔵 に お け る シ ョ糖 と他 の糖 の 併 用 に よ る防 腐 効 果 に つ い て 報 告 した 。 糖 蔵 は 糖 の 滲 透 圧 に よ って 微 生 物 の生 育 を 防 止 す る貯 蔵 法 で あ るが, 微 生 物 の 中 に は 高 い 滲 透 圧 の 中 で も充 分 に生 育 す る も のが あ る。 例 えば ヵ ビの 中 で もAspergillus属 の もの や,あ る種 の 酵 母 な ど で,こ れ らは60°0の シ ョ糖 中 で も生 育 す る。 糖 蔵 で は 現 在,専 ら シ ョ糖 が 用 い られ て い るが,シ ョ糖 だ け で は そ の 効 果 は 充 分 とは 言 え ず,前 報 で 報 告 した よ うに,例 え ばAsp.91aucusに 対 して は ブ ドウ 糖 の 併 用 で そ の 効 果 を 高 め る事 が 出 来 る。 そ の 他 糖 蔵 の 際 に 変 敗 原 因 菌 の 混 入 を 防 止 した り,pHの 低 下 を 図 った り,冷 蔵 な どの 手 段 を 用 い た り,更 に 保 存 料 の 使 用 な ど が 有 効 な 方 法 で あ る 。 しか し保 存 料 に つ い て は 最 近 消 費 者 の 間 で とみ に そ の 有 害 性 に つ い て 問 わ れ る事 が 多 く,出 来 れ ば そ の 使 用 は 避 け な け れ ば な らな い 。 糖 ア ル コ ール は 糖 の水 素 を還 元 して 得 られ る多 価 ア ル コ ー ル で あ り,甘 味 を 有 し,し か も カ ロ リー が低 く,合 成 甘 味 料 の衰 退 か ら ダ イ エ ッ トフ ー ズ と して 一 般 に 市 販 さ れ る よ うに な った 。 この 糖 アル コ ー ル は 一 般 に 微 生 物 に よ っ て 発 酵 され 難 い と され て お り,こ れ を糖 蔵 に 使 用 す る事 に よ り,そ の 甘 味 度 をあ ま り低 下 す る こ と な く,防 腐 効 果 を 高 め る こ と が で き る と予 想 さ れ る。 著 者 らは 市 販 され て い る糖 ア ル コー ル を 用 い て糖 蔵 の際 の 防 腐 効 果 に つ い て検 討 した の で報 告 す る。 2) D・ソ ル ビ トー ル はD一 グ ル コ ー ス の 糖 ア ル コ ー ル で あ り,現 在 で は グル コ ー ス を 還 元 す る方 法 で製 造 さ れ て い るが,そ の 用 途 は ビ タ ミ ンCの 原 料 と して,又 菓 子 や 食 品 む け の 甘 味 料 と して 大 半 が 消 費 され,歯 磨, 化 粧 品 な ど に 一部 利 用 さ れ て い る 。 そ の 効 用 と して は 粘 稠 剤,艶 出 し剤,酸 化 防 止 剤,保 蔵 剤,糖 尿 病 患 者 の 甘 味 剤 と し て 有 効 で あ る。 3」 マ ル チ トー トは マ ル ト ス の 糖 アル コ ー ル で,甘 し ょ,ト ウ モ ロ コ シ の 澱 紛 か ら製 造 さ れ て い て,そ の 用 途 は ダイ エ ッ ト食 品 の 甘 味 剤 と し て,又 保 湿 剤 と して 利 用 さ れ て い る 。 4J キ シ リ トー ル はD一キ シmス の 糖 アル コー ル と して キ シ ロ ー ス を水 素 添 加 す る事 に よ っ て 得 られ るが,甘 味 剤 と して 使 用 され る他,医 薬 品 と して 糖 尿 病 患 者 の 糖 質 代 謝 補 液,術 後 処 置 と して の 糖 質 補 液,肝 障 害 の 改 善 な どに 利 用 され て い る 。 又 緩 下 剤 の 作 用 を有 す る 処 か ら整 腸 剤 と して 用 い られ,一 部 は 皮 な め し用,染 色 用 な どの 用 途 も あ るが,現 時 点 で は 製 品 価 格 が高 く そ の 利 用範 囲 も限 られ て い る 。 実 験 の 部 *本 学食 品加工研究 室 ◎ 供 試 菌 前 報 と同 じ菌 を 使 用 した 。 空 気 中 よ り分 離 したAsp. glaucus, Asp. nigerで あ る。
実 験 に 供 した 糖 アル コ ール の うちD一 ソル ビ トー ル は 試 薬 一 級 の もの を 用 い た 。 マ ル チ トー ル,キ シ リ トー ル は 各 々 サ ン プ ル と して会 社 よ り提 供 され た もの を 使 用 した 。 ◎培 地 前 報 と同 じCzapek・Dox寒 天 培 地 に 糖 と糖 アル コ ー ル 全 濃 度 が40∼60%と な る よ うに 二 者 を 調 製 した 。
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糖アルコールの濃度とカピの生育との関係 1.D
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ソルピトールAsp. glaucus
に対しては,40%
,50%
の濃度では ソノレピトールのコントロールで、も菌はよく生育する。60%
の濃度でソノレピトーノレのコントロールは50%
の約 %に生育が抑えられるが, ショ糖と1:
1
の混合では 殆んど効果がみられない。Asp. niger-50%
の濃度で、ソルピトーノレのコγ
トロ ーノレはかなり生育が抑えられるが,ショ糖が 9に対し 結果および考察 図1
Czapek-Dox
培地の組成は前報の通りである。 @生育阻害効果の判定法 前報と同様に行った,すなわち培地を平板となし, 菌を殖菌後300C
にて培養し, 2日毎にとり出してコロ ニーの生育をもって判定のめやすとした。 用いた糖はショ糖であり,糖アルコールとしては,D
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ソルビトール,キシリトーノレ,マルチトールで、ある。 これらをショ糖と種々の割合に混合し,各々のコント ロールを比較した。誌面の関係で50%
,60%
のものを 示した。A
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Asp. niger-50%
のキシリトールのコントロールで は全く生育しない。濃度50%
でショ糖1
に対してキ シリトール9
の割合でもかなり生育は阻害された。濃 度60%
ではキシリトール4
に対しショ糖1
の割合でも その効果は著しい。3
.
マルチトール 糖アルコールの濃度とカピの生育との関係 て1
の割合で入ってもその効果はみられなくなる。6
0
%の濃度で同量の混合(ショ糖:ソルピトール 1:1) で生育は50%
の場合の約%となる。2
.
キシリトール 図2
Asp. glaucus-50%
の濃度では全く生育は阻害され ず,ショ糖と混合するとむしろショ糖のコントロールAsp. gIaucus-50%
のキシリトールのコントロール はAsp.g
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でもかなり生育は阻害される。しか しショ糖がキシリトールに対して少し添加されると生 育はあまり抑えられない。 より生育はよくなった。60%
でもあまり効果はなくマルチトールは糖アルコ 濃度60%
にしてもショ糖の混入によってその効果は かなり低下する。Sucrose: M
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糖アルコールの濃度とカピの生育との関係 コールは殆んど微生物に資化されないような事が市販 品には述べられているが,これらのカピでは充分生育 し万全を期する事は出来ない。これらのカピは耐法透 圧性を有すると同時に脱水素酵素を有し,糖アノレコー ルを資化していると考えられる。 カピの生育阻害に対して比較的効果のあったキ、ンリ トールは, 高居らの研究によればRat
に段階的に濃 度を高めて投与した場合,成長は必らずその濃度にな れるまで停止し,ヨiIれに従って段階的に増加するとさ れている。又,キシリトーノレは下痢に傾く傾向を有す 図3 ールの中で、も比較的貯蔵性は少いと考えられる。Asp. niger-50%
濃度のコントロールで、もよく生育 し,やはり糖アルコールの中で、は1
番よく資化した。60%
の濃度になると効果は出るが,糖アルコーノレの 中では最も効果は低い。 以上の結果よりA
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についてはキシリト ーノレが最も生育阻害効果が強く,ついでソルピトール でありマルチトールは効果があまり強くなかった。こ れはマルチトールが複糖類の糖アルコールで‘あるため, 単糖類のそれより効果は劣ると考えられるが,糖アルるため,食品として単独で濃厚な状態として利用する のは価格的にも無理であり,ソノLピトールの方が貯蔵 性もあり一般的に食品に利用され得ると考えられる。 以上のベたように糖アルコールがカピに対して全く資 化されないといわれた事は,この実験では否定的であ ったが,この実験では培地を使用しカピにとって最も 生育条件のよい状態での検討であり,一般の食品に於 てはもっと効果はあらわれると考える。しかも糖アル コールのダイエツトフーヅとしての意味は大きく貯蔵 間も高められるのでその利用は大いに考えられる。