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生態 内陸に生息しているヒグマより 遡上するサケやマスなどを食べられる環境にいるものの方が巨大となる 中でもアラスカ沿岸のコディアック島とカムチャッカ半島に生息するものは 共に 500 kg以上の個体記録がある エゾヒグマの最大記録は 450 kgである 食性は 雑食だがツキノワグマに比べると肉食傾

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Academic year: 2021

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エゾヒグマの認知能力と

研究対象としての可能性について

長尾充徳,松永雅之(京都市動物園)

・ヒグマについて

・分布

  ヨーロッパからアジアにかけてのユーラシア 大陸と北アメリカ大陸の森林地帯に広く生息。    北アメリカ北西部にはハイイログマ(グリズ リー)、アラスカにはコディアックヒグマ、そして 北海道に生息するエゾヒグマなど、いくつかの 亜種が存在する。   

(2)

生態

 

  内陸に生息しているヒグマより、遡上するサケ やマスなどを食べられる環境にいるものの方が 巨大となる。中でもアラスカ沿岸のコディアック島 とカムチャッカ半島に生息するものは、共に500 ㎏以上の個体記録がある。エゾヒグマの最大記 録は450㎏である。    食性は、雑食だがツキノワグマに比べると肉 食傾向が強い。

・ヒグマの能力

 運動能力は、獲物を襲う時や逃げる時に

時速5~60㎞で走ることができ、木登りも得

意といわれ、泳ぐことに関しても優れている

とされている。

 視覚は、動いているものに関してはよく見

えているが、静止しているものについては凝

視することが苦手で、近視である。ハンター

たちの間では、目があまり良くないと伝わっ

ている。

(3)

 聴覚は、良く発達し、音響によってその物体

も判断できるといわれているが、体の大きさ

に比べ貧弱な耳であることや、内耳の構造が

単純であることで、あまり発達していないとの

見方もある。

 臭覚は、特に敏感で彼らの「最大の武器」と

いわれるほど発達している。今回のフィー

ダー操作に関しても、臭覚をかなり発揮させ

ていた。

・ヒグマの知能

 漢字で「能ある四つ肢」となる熊は、昔からハンター たちに利口な動物といわれてきた。      

 先回りしたり、止め肢を使い、時には樹上か

ら獲物を狙うこともある。

 人里に現れる時は、夕闇に紛れることが多

く、体を巧みに隠したり、接近する時には物音

を立てない。

 記憶力も良く、危険な目にあった場所は避

けたり、隠した獲物の場所は決して忘れない。

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•  ウシやウマを襲っても完全に殺さず、背負いながら 後肢で歩かせながら運ぶことがある。 •  獲物の防腐法や貯蔵法を知っており、時には水中 貯蔵をすることがある。 •  銃痕にヨモギやササなどを詰め込んで、止血する ことがある。 •  復讐心や執着心が非常に旺盛である。        ヒグマによる過去の事故では、1度襲って殺したヒトの死体をヒトに取り返され、その翌日自分の獲物と認 識しているその死体を、お通夜が行われている時に奪い返しに来た。   以上は、ハンターや野生ヒグマ研究者などからのエピソード ではあるが、かなりの知能を持っている 可能性が伺える。

・対象個体

アイ(愛) 性 別 : メ ス 生年月日:1984.1.10 体 重 : 200㎏(’06.1.30) キサブロウ(喜三郎) 性 別 : オ ス 生年月日:1984.1.7 体 重 : 270㎏ (’06.1.23)

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・使用したフィーダー

        

(報酬:クマ用ペレット,殻着き落花生) 重機用タイヤ 塩化ビニール 製パイプ 漁具のフロート (転がし用) (吊り下げ用) *吊り下げ用は地上約30 ㎝と  約130㎝の2種類を使用

・重機用タイヤ

• 操作個体:  殆どの場合メスのアイが操作。               キサブロウの操作は限定的。これは        起立時の高さが合わず無理な体勢と        なるためか?報酬が嗜好性の高いリ        ンゴの時は、オスのキサブロウが操         作する(その日の担当者を認識し、判        断している様子である)。 • 操作方法: タイヤ内側に報酬を入れると、すぐ        に立ち上がり前肢の爪でき出す。

(6)

・塩化ビニール製パイプ及び

         漁具のフロート

(転がし用)

操作個体: 殆どの場合キサブロウが独占し       

ていたが、最近ではアイが操作        

する場面も見られるようになった。

操作方法: 最初からフィーダーを乱暴に扱 

(キサブロウ)

うことが殆どなく、穴から臭いを嗅      

ぎ餌の有無を確認後、転がしたり、      

少し持ち上げて落としたりを繰り       

返した。

 操作方法: 

穴に爪を引っかけて持ち上げ、揺   (キサブロウ)

すったり、落としたりを繰り返す。2日          目もすぐに転がしたが、10分後、故       意にプールへ落とした。落とした後は          すぐに触らず、沈むのを待っていた。          その後水中でそっと転がし、報酬が浮          かんでくるのを食べていた。     *フィーダーは、初日もプールに沈んでいたので、   同じことをしていたと思われる。

(7)

• 操作方法:

報酬が浮かんでこなくなると       水中より引き上げ、水と共に出        てくるものを食べた。 • 操作方法:  転がしたり、持ち上げて落としたり   (アイ)

  するまでは、キサブロウと同じだが、       

  その後は、咬んで破壊し取り出した。 *その後も以上の操作を繰り返していた。 *パイプを漁具フロートに交換しても同じ操作を行 う。

・漁具のフロート(吊り下げ用)

操作個体:  キサブロウが独占して操作す      

る。アイは、キサブロウと隔離し       

て、1頭でグラウンドに放たれる       

と、低い方を操作した。その後、       

高い方も扱うようになった。

操作方法: 高い方も低い方も、先ずは、

(キサブロウ)

前肢で叩き、飛び出てくる報酬        

を獲得する。

(8)

操作方法: 低い方は、叩いても出にくくなる

(キサブロウ)

と脇にフロートを挟み揺すった。5       

日目からは、叩くことをやめ、すぐ       

に揺するようになった。

         

高い方は、脇に抱えることがで       

きず、10日後から檻に向かってフ       

ロートをぶつけるようになった。

操作方法:  低い方は、初め押したり小突

(アイ)  い

たりしていたが、やがて両前肢      

の爪を穴に引っかけて揺すり、        

獲得時間を縮めた。

          高い方は、低い物の操作後だ       

ったため、すぐに爪を引っかけて       

揺すっていたが、2足立ちで思っ       

たような操作ができなかったため、       

檻に押しつけ安定させながら、穴       

を下に向けようとしていた。

(9)

・その他の事例

• 2007年7月29日「氷のプレゼント」イベントがあり、 フルーツ入りと魚入りの2種類を与えた。   フル-ツ入りは、表面に果物があったので、その まま囓って食べたが、魚入りの方は、氷の内部に埋 め込まれているため、囓ってもなかなか取り出せな いので、プールに落としたり、滑らせてコンクリート に何度もぶつけ、氷を割って取り出して食べた。 •   パイプに報酬として入れてあったクマ用ペレット が、水にふやけ崩れやすくなり、水中を浮遊してい た場面では、慌てて取りに行かず、優しく手の甲で すくい上げて食べていた。

 毎夕の給餌時間には、キサブロウとアイ

を隔離し、隣り合う部屋に収容しているが、

収容時、キサブロウは、アイの部屋を経由

し自分の部屋に入る。キサブロウの部屋に

もグラウンドに繋がる扉があるが、2年前

に旧収容舎から引っ越して以来、その扉は

「開かずの扉」状態で、使えないようにして

ある。 しかし、給餌時間前に扉を叩く習慣

のある2頭は、それぞれ自分の部屋の扉

を叩いている。

(10)

・まとめ

•   全てのフィーダーにおいて、短時間に報酬を獲 得し、初めての物に対しても破壊行為(アイのパイ プ以外)には及ばず、浮遊する崩れやすい物に関 しても、加減して扱った。        これらは、力任せではなく、物に対する判断がはや く、それに対する適応能力にも優れているとも見て 取れる。 •   全てのフィーダー操作は、殆どキサブロウが行 い、アイは2頭を隔離した後、触るようになった。    これには、2頭の優劣関係が影響していると考えら れる。         また、タイヤでは、報酬の違いと担当者の関係も認 識でき、ヒトの見分けもできると思われる。

 

キサブロウはパイプ,フロートで、次々と操作を変 化をさせ獲得時間を短縮し、その操作では、「沈むま で待つ」ということまで確認され、魚入り氷でも割るこ とにまで気づき獲得した。また、アイも(タイヤも含め) キサブロウほどではないが、小さな操作変化が見ら れた(ただ操作時間が制限されるため、大きな変化 までたどり着かない可能性はある)。        これは、より効率の良い方法に行動を変化させると いう、一例ではないだろうか。    そして、パイプからフロートへ形を変化させた時も、迷 わず同じ操作を行い、その応用力にも可能性を残し た。            一方のアイの操作から、観察学習はできないのでは ないかと考えられる。         

(11)

•  扉を叩く事例に関してキサブロウは、経験したこと のない「開かずの扉」が自分の部屋に繋がっている ことが分かっている様子で、毎日同じことを繰り返し ている。エピソードの「回り道ができる」ことなどから 考えると、彼らは頭の中で、テリトリー内の地図が出 来上がっていて、行動を起こす前に、シミュレーショ ンができる可能性も考えられる。        霊長目の手は、第1指が他の4本と向き合うことに より、物を掴むという操作ができる。このことが知能の 発達に、大きく貢献しているともいわれている。     しかし、食肉目の手(前肢)は、第1指が向かい合わ ない。イヌ科やネコ科においては、指をそれぞれで自 在に操作することもできない。 しかし、クマ科は、そ れぞれの指を巧みに使うことが可能であり、その爪も 指の延長として、引っかけたり、ほじくったりと活躍す る場面も多く見られる。       クマの知能の発達には、このことも関係があるのでは ないだろうか。   

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以上のことから考えると、野生のエゾ

ヒグマも、彼らの生活で遭遇する様々

な場面において、その多彩な操作を変

化させることや、指を巧みに使うこと、

そして何よりも、彼らの持ち前である執

念深さを発揮することにより、困難を解

決している(解決できない場面も多いと

思うが)と想像できる。

         

・今後について

• もう少し課題のレベルを上げる。        今回のフィーダーは、揺する,叩くなど、1段階の操作で報酬を得ることができたので、 もう 少し課題のレベルを上げたい(2,3段階の物など)。        • 因果関係の認識について、もう少し詳しく 調べてみる。      「落花生が浮く」ということを認識しているのか、「フィーダーを水に落とすと落花生が出   る」ことを認識しているのか?また、形の定まらない水という物を道具として使用すること   ができるのか?などについても調べてみたい。 • 知能の高さとそのギャップある行動を考える。      クマは、「知能が高いのではないか」と話してきたが、実は「なぜこんなことが分からない の?」と思える、抜けたような行動をとるところも観察されている。例えば、冬ごもりの穴にサ サなどを敷き詰めるが、そのササなどを穴のすぐ近くで刈り取り、すぐに穴の位置を見破ら れ命を落としたり、今回の「扉を叩く」ことでも毎日与えられている日課にもかかわらず、「叩 く」ことをやめ「待つ」ということができない。        このような事例を増やしていき、知能の高さとギャップのある行動について考えてみたい。

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そして・・・

自分の立ち位置

   飼育員として動物園で働いているが、動物園は研究の場として の役割も担っていくところである。しかし、これまでそれほど多 くの成果を上げていないように思う。もちろん、観察に費やす時 間にも限度があり観察方法や実験方法も詳細について多くを知ら ない。ただ、毎日の飼育現場で様々な動物の行動に触れる機会は 研究者の方よりは多いと思う。ただそれが、すごいことなのかど うかをあまり知らない。        そこで、これからは研究者の方々と協力し、お互い歩み寄りなが ら連携することで、色々な動物たちの「心について」その一端を 探っていくことが大事なのではないか、と思うようになった。  そうすると、私たち飼育現場の動物を見る「角度」が増え、明ら かになることも、少なからずあるように思う。

伝えると言うこと

          動物園には、毎日多数の来園者がある。最近ではイベントも 増え、私たち飼育現場の者が、来園者に話をする機会も増えて きた。しかし、研究者の方々が一般の方にお話しする機会は、 あまり多くないと思う。       そこで、自分の担当している動物たちが、今どの辺りまで研究 されているのかを知り、その内容についても、理解できる範囲 で、分かり易く伝えていくことも必要なのではないか、とも考 える。すると、一般の方にもっと動物たちについて興味を持っ てもらうことができ、そこから発展して、環境の方にも多くの 目を向けることができたら素敵なことだと思う。

(14)

END

求む!研究者の方!

クマたちも、よろしくお願いしま

す!

参照

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