日・中・韓 大学金型グランプリの取り組み
An action of the university die Grand Prix by Japan / China / Korea
太田 和良、 中村 佳史、 前田 晃穂、 鈴木 勝博 OHTA,Kazuyoshi NAKAMURA,Yoshinobu MAEDA,Teruho SUZUKI,Katsuhiro 1.はじめに 日本の金型は世界最先端の技術を有し、もの づくり立国日本を支える基盤技術である。しか し、近年では技能者の減少や後継者不足により 技術・技能の伝承が問題となっている。 日本の金型製造業を中心に設立された「日本 金型工業会」においてもこの点を危惧しており、 今後の人材確保・人材育成において積極的な活 動を開始しているところである。 その日本金型工業会の取組みのひとつとして、 大学生など就業前の者に対して金型に興味を持 ってもらい、金型業界への理解を深めるために、 金型設計・製作の大学対抗グランプリを開催す ることとなった。 このグランプリ出場校は金型技術に取り組ん でいる日本の大学はもとより、近年金型技術の 進歩が目覚しい中国・韓国において金型学科を 有する各大学も参加し、国際的な大会となって いる。 2008 年度の取組みが第一回となり、現在で第 二回まで開催されている。職業大東京校もコー ス制の中で金型に特化したカリキュラムを行な う「モールドデザインコース」の学生が参加し たので、その取り組みについて報告する。 2.金型グランプリ 2.1 グランプリ概要 金型グランプリは,社団法人日本金型工業会 主催で開かれ,金型について学ぶ日本・中国・ 韓国の大学生が同一課題で設計・製作を行い, その成果を金型の世界的な展示会である「INTER MOLD」にて展示・発表を行うものである。この グランプリは金型産業の重要性の理解と金型技 術の向上を目的とし,金型産業の裾野を広げる 取り組みの一環として初めて日本で開催するこ とになった。 グランプリはプラスチック用金型部門とプレ ス用金型部門の2 種目からなり、課題図面が 10 月頃に事務局より提示され、翌年度4 月頃に展 示・発表を行なう。 また、金型サイズの制限や材料の自己調達、 製作に関してプロの手を借りないなどの制約事 項が提示され、最終的に成形品 300~500 個程度 の提出が要求されている。 第一回大会は金型関係団体から推薦された 10 校(日本 5 校、中国 2 校、韓国 3 校)が参加 し、第二回大会は、13 校(日本 5 校、中国 4 校、 韓国 4 校)が参加し、開催された。 2.2 グランプリ課題 第一回大会で提示されたプラスチック部門の 課題は 500 円玉相当用のコインケース(図 1) である。 図1 コインケース課題(第一回課題) コインを入れる本体とふたがヒンジでつな
この3 次元モデリングと光造形試作品を用い ながら、金型設計ミーティングがより具体的に 議論できるようにした。 がり、アンダーカットとなるフタの開き留めが 一箇所備わっている。さらに、フタ側中央に大 学名などを刻印することが求められた。 また、図4・図5に示すような流動解析を行 い、ゲート位置や金型の配置レイアウトなどを 検討している。 第二回大会で提示されたプラスチック部門の 課題は、複数の部品からなり、部品同士を組み 合わせてロボットの模型となるプラモデルのよ うな製品(図2)である。 図4 コインケース流動解析結果(充填時間) 図2 ロボット模型課題(第二回課題) 特に、ロボット模型課題は異形状の部品を一 緒に成形するファミリーモールドとしたかった ので、その際の適切なゲート位置やランナー径、 ランナーレイアウトを検討することを目的とし て取組んでいる。計算時間の短縮と取扱いの容 易さから東レエンジニアリング㈱の「Timon Mold Designer」を使用した。 成形品はキーホルダーになるように、全長が 43mm と小さく、さらにその中に校名などの文字 加工を要求され、小物加工の技術が問われる課 題である。 課題図は、各回とも 2 次元図面(印刷物とD XFデータ)で提供され、これを元に設計・製 作を行なった。 3.金型の設計・製作 3.1 金型設計 第一回、第二回ともに同じような流れで金型 設計に取組んでいる。まず、与えられた2 次元 図面からCADで3 次元モデル(図3)を作成 し、光造形で試作を行なっている。 図5 ロボット模型流動解析結果(充填時間) コインケース金型では、製品の見栄えや後処 理を考慮し、ピンポイントゲートを採用して3 プレート金型とした。また製品にアンダーカッ トがあるため、スライドコアをアンギュラピン 図3 コインケース3 次元モデル
金型の構想としては、BODY と ARM にアンダ ーカットがあり、スライドコアを用いることと し(図9)、HEAD の首部はPL位置をずらすこ とで対応することとした(図10)。 により動作させる構造とした(図6)。 図6 コインケース金型構造 図9 スライドコア(ロボット模型金型) コアについては、深リブのガス抜けを良くし、 切削加工や磨きを行ないやすくするために、部 分的な入れ駒方式としている(図7)。 図7 コア分割 ロボット模型金型は、成形部品が多く金型部 品点数が増えるため、金型構造をシンプルに 2 プレート構造(図8)とした。 図8 ロボット模型金型構造 図10 HEAD 部 PL(ロボット金型) 構想設計は、学生グループ内、時には教員も 設計ミーティングに参加し、グランプリ参加に おける自分たちが設計する金型の特徴や金型設 計時のポイントを明確にし、金型製作や成形に おける問題点を抽出して、これらの解決案を盛 り込んだ金型構想を練っていく。製品の良し悪 しの大部分がここで決まるため、一ヶ月以上か けてさまざまな案を出しながら実施している。 コインケースの金型では、金型の小型化と冷 却、メンテナンス性の良さを特徴とする設計を ポイントとしている。 ロボット模型金型は、金型の小型化と不要部 分(スプルーランナー)の削減にポイントをお いている。 入れ駒 PL位置
3.2 金型製作 金型製作では、学生がこれまでの授業で学ん できた汎用工作機械、NC工作機械、研削機械、 放電加工機、CAD/CAM、各種測定機を用い、授 業の総括としての総合制作実習課題として適 する内容である。 学生は、各種加工方法を駆使し、加工工程を 検討する。 コインケース金型の製作では、キャビティは コインケース製品のコーナー部分のRが小さ く(R0.5)、深さが 15mm 以上あることから、切 削加工は難しいと判断し、電極を作成して形彫 り放電加工機を用いることとした。求められて いる学校名などの刻印は、後工程でマシニング センタ加工を行なった(図11)。 図11 キャビティ(コインケース) また、コア側は冷却効果を高めるために、図 12のように、各部屋に冷却水管をいれており、 より実践的な金型としている。 図12 コア側水管(コインケース金型) ロボット模型の金型加工では、キャビ・コア の細部加工において、時間短縮のため、電極を 作らなければならない放電加工を避け、微小工 具を用いた直彫り加工を実践した。図13は製 作したコアである。ここでは、工具径φ0.3 工 具長 4mm といった工具もやむを得ず使用しな ければならず、切込みを薄くし時間をかけて加 工を行なった。 図13 ロボット模型コア このように加工した金型部品を組み立てる 際にいくつかの設計ミス・加工ミスが発覚し、 これらの改善策を検討して、問題点の修正を行 っている。期日の迫った時期ではあったが、こ こでの経験は対処方法の習得や設計知識習得 など学生にとって良い経験となっている。 刻印 コインケース金型(図14)では、単純な加 工ミスによるエジェクトピン位置のずれやガ イドレール位置の設計ミスによる樹脂漏れな どが発生し、改善策を討議し、金型修正を行っ た。 ピンゲート 図14 コインケース金型 バッフル板 ロボット模型金型(図15)では、金型の仮 組み時には、キャビ・コアの型合わせ部分の高 さが合わず、リューターで干渉部分を除去して 対処した。本来であればCAM加工時に調整す べきであったが時間的に間に合わないため、応 急的な処置にとどまっている。
31 31 製作金型 製作金型 33.金型製作.金型製作 コア側 キャビティ側 図18はロボット模型(ランナー付き)、図 19はロボット模型(組立後)である。 図15 ロボット模型金型 3.3 射出成形 最終的な製品は、金型を用いて成形したプラ スチック製品である。これらを評価して金型の 出来が評価できる。 図18 ロボット模型(ランナー付き) 図16はコインケースの成形品である。 肉厚に差が生じる 図16 コインケース成形品 図19 ロボット模型(組立後) ふたと本体との肉厚に差がつき、この原因と してはゲート位置の問題でキャビティ内圧力 に差が生じ、図17に示すキャビティ側金型の 中央壁面を押して金型が塑性変形していた。ヒ ンジ部にウェルドをつけない工夫が裏目に出 てしまった結果である。満足のいく出来ではな かったが、成形条件を工夫して成形品数量を確 保した。 ロボット模型金型では、LEG 部の白化やヒケ、 ARM 部の成形品変形(図20)などの不具合が 観察された。これらの対策とて離型剤を用いて 対処したが、金型の抜き勾配をもう少し取るべ きであったという反省が残る。 また、組立て製品の腕部の勘合が甘く、外れ やすいというところも改善の余地がある。 図17 キャビティの塑性変形 図20 ARM部の成形品変形 樹脂圧力 成形品変形
4.展示および発表 また、関係者から講評を頂き、第一回では、 「 金 型 の 冷 却 が し っ か り 入 っ て お り 実 践 的 な金型である」、第二回では「スプル・ラン ナの廃棄部分が少なくエコな金型である」と 評価をいただくことができた。 国際的な金型関連展示会「INTER MOLD」 に金型グランプリの展示ブースが設けられ、製 作した金型と成形品、これらの経緯をまとめた 報告書など各大学の作品が展示された。図21 は当校の展示ブースである。 5.終わりに このグランプリは、専門課程の総合制作実 習として取組んでおり、他大学の参加者とし て4年生や大学院生が取組んでいることから すると、早い段階から金型技術を習得できて いることが伺える。これは、本校が取組んだ コース制において、金型専攻の「モールドデ ザインコース」を立ち上げた成果である。ま た教員のグループ制により、応用課程教員と も連携した取組みができ、学生指導の充実や 器工具共有、出展・発表準備作業などの分散 等やりやすい環境を構築することもできた。 図21 INTERMOLD 展示ブース 第一回は2009 年 4 月 8 日~11 日の 4 日間、 東京国際展示場(東京ビックサイト)にて、第 二回は2010 年 4 月 14 日~17 日に大阪のイン テックス大阪での開催であった。この開期 2 日 目には各大学の取り組みについて、金型ごとに 発表時間 15 分(通訳、質疑時間含む)で学生の 発表会(図22)も行っている。一般来場者を 含む金型関係者が多く聴講し、国内外の学生間 交流や社会人の方からの質疑応答など、学生に とって良い経験となった。さらに全国の金型関 連企業、工業高校の先生などからの問い合わせ もあり、当校のアピールにもつながっている。 さらに、グランプリに参加することで、主 催 し て い る 金 型 工 業 会 と も 連 携 強 化 に つ な がり、セミナー・企業人スクールの広報や学 生の就職、実践型人材養成システムの活用な ど に お い て 緊 密 な 連 携 が と れ た こ と も メ リ ットであった。グランプリ後に日本金型工業 会プラスチック部会において、今回の学生の 取組みを特別講演で発表する機会を頂き、学 生 発 表 と 本 校 の P R も さ せ て い た だ く こ と もできた。 学生は、他大学との競争や対外的な発表を 行うことなどで興味も高く、さらに金型の設 計技術や各種加工技術を駆使することで、学 生・教員ともに学ぶことの多い取組みである。 しかし、スケジュール的にはかなり厳しく、 学 生 へ の 負 担 が 大 き か っ た こ と が 学 生 の 感 想として挙がっており、教員のサポートのあ り方について考える必要がある。 参考文献 1. 第1回 日・中・韓大学金型グランプリ資 料集、2009 年社団法人日本金型工業会 図22 INTERMOLD学生発表 2. 第2回 日・中・韓大学金型グランプリ資 料集、2010 年社団法人日本金型工業会