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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み--在英日系企業の場合---香川大学学術情報リポジトリ

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−J−

日本企業の経営実践と管理会計の

国際移転の一つの試み

一在英日系企業の場合一 井 上 信 一・書)

M.プロムウイチ=)

M.ギーツマン*=) Ⅰはじめに Ⅱ 調査方法及び回答企業の概要 Ⅲ在英日系企業の経営活動 Ⅳ管理会計実践 Ⅴ原価構造と原価計算 Ⅵ結びに代えて 参考文献 付録1調査企業の統計資料 付録2 管理会計/原価管理の国際移転に関する調査票(邦文) 付録3 管理会計/原価管理の国際移転に関する調査票(英文) Ⅰ わが国企業のグローバル化は、1985年のプラザ合意以後急速に進展してきた。 アンチダンピング問題及び1992年のEC統合を目前に控えて−、ヨーロッパ、と りわけ英国では現地生産の基地として一日本の製造企業の進出が1980年代の後半 に積極的に展開された。その主な目的は、ヨー・ロツパでの貿易摩擦の解消、販 *)香川大学、**) ***)ロンドン大学(ばE)。

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J餅 香川大学経済学部 研究年報 33 ー2− 売市場の確保であり、それを英国政府及び開発公社など地方政府が熱心にサポ ートして−くれたこと、交通網などのインフラ・ストラクチャーがよく整備され ていたこと、及び英語が母国語であることなどが英国進出の主な背景である。 またこのような日本企菓の海外進出は、意志決定権限が日本本社に集中して いる本社集権型であり、権限やオペレーションの現地在英企業へ委譲が余りな されていないという指摘は、ダニング、パートレット&ゴシヤーゾレの著書を始 め広くなされている1) ○ 本論文は、このような日本企業の海外進出の最近の動向と特徴を踏まえて、 1989年と1992年の二度に亙る在英日系製造企業への面接調査により、この3年 間に日系企業の経営括動の現地化の進展、特徴及びその間題点を、また会計的 な管理(特に管理会計活動と原価管理活動)の特徴と課題をも併せて検討する ことにあるg) 本論文の構成は、第2節で調査方法及び回答企業の概要、第3節で日本的経 営を中心にした経営活動のロー・カル化の特徴、第4節で管理会計(会計情報シ ステム、国際振替価格、業績評価、資金調達、及び設備投資の経済性計算)の 側面、そして−最後に原価構造と原価計算の面よりローカル化の特徴を検討する。 以上により、日系企業が現時点で英国社会へどの程度ローカル化が行われてい るか、及び現時点での課題(限界、問題点)を、経営活動と管理会計の側面よ り一瞥するご) 1)例えば、Dunning(1988)第8車、Bart1ett&Ghoshal(1988)第1部などを参府のこと。 2)なおここで、「日系企業」とは、「日本の親会社(あるいは同資本系列の在欧企業)の資本出資 がほぼ100%近く、また経営活動のかなりの租度が日本人経営者により扱われている企業」のこと を、念頭に置いている。これは、調査(面接)対象企業の概要に、その実儀が示されている。また 「現地化あるいはローカル化(loealisation)」とは、「在英日系企業が、経営意志決定及び執行 上、日本の親企業の影響を受けずに現地単独で経営意志決定及び経営職能、会計職能などの計画・ 執行がどれだけ可能であるか」と理解している。 3)なお本論又は、日本会計研究学会第52回大会で報告した論文と同一の調査に基づくものであり、 井上(1994)をも合わせて参考頂ければ率いである。

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −3一 Ⅱ 面接調査の対象企業は、日本貿易振興会編『在欧日系企業の経営の実態』に 1989年時点で掲載されている在英日系製造企業82社のうち、海外進出企業の代 表的な産業である自動車、電気機械など組立生産型企業を中心に29社を調査対 象に、1989年9月から12月にかけて前もって配布した調査票(付録2及び3を 参照)に基づく面接調査を実施した。 1992年にも、同様の方法で8月末から10月中旬にかけて、時系列的な比較と 調査期間の制約のため、上記29社のうち1989年の調査結果を参考に、親企業の グローバル化の進展、かつ在英日系企業そのものの英国社会へのロー・ カル化、 経営規模、及び日本の親企業の出資比率などを考慮して16社を選び、面接調査 を実施した。そのことにより、現在時点における時系列的な比較可能な在英日 系製造企業の代表的なケー・スを抽出することが出来たと思われる。 各企業のインタビュー対象者は、何れの企業も複数の経営者がインタピコ.一 に応じて−くれたが、調査票回答の責任者はつぎのとおりである。まず回答者の 国籍は、1989年にはすべて一日本人であり、1992年は16社のうち15社が日本人、 残りの1社jま英国人であった。回答者の職位は、社長が5社、経理部長が9社、

そしてその他(senioImanagerI:1社、COrpOrate planner:1社)が2社であ

った。

また、調査対象企業の業種は、CTV、VTR、電子レンジ、電子部品など

を作っている電気機械器具が10社、複写機、プリンターなどを作っている精密 機械が3社、自動車及び自動車部晶などを製造している輸送用機械が2社、そ してシャベルローダなどの一・般機械が1社の合計16社であり、上述のとおり、 何れも組立生産型の企業である。 面接企巣の経営規模などを示す数字は、表−1のとおりである。 回答企業の産営規模を中心に特徴的な点を列記すると、次の5つに纏められ る。

a)面接企業の1社平均の産営規模は、1992年時点で資本金では約57億円

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Jタタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 −」− (なお最高は360億円)で1..57倍、売上高は341億円(最高は約1,871億円)で、 1.、49倍、従業員数は1,015人(最高約3,800人)で、1.、36倍と、1989年とを比較 す−ると、この3年間に在英日系企業の経営規模は着実に拡大している。 b) 日本の親企業の出資比率は、100%出資が16社中15社あり、親企業の出資 比率の平均値は97%と、ほとんどの企業が日本の親企業の100%出資である。 なお残りの1社も、過半数出資であり、英国政府の政策上100%出資に出来な かったが、設立当初から経営管理(management)の責任は日本サイドに全面的 に任されている。 c)全従業員数は:1社平均1,015人であり、そのうち日本人は平均19人と全従 表−1 調査企業の概要 1989 1992 倍 率 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差1992/1989 企業の概要 資 本 金(百万円) 出資比率 (%) 売 上 高(銅円) 従業員数 (人) :うち日本人(人) 取 締 役(人) :うち日本人(人) 3,606 5,739 5,653 8,921 97 13 97 12 22,892 18,594 34,080 46,667 749 513 1,015 950 19 12 6‖13 2.61 − 4..67 2い02 7 0 9 6 一 5 0 4 3 1 1 1 1 一 一 平均勤続年数: 管 理 職(年) 3.73 一・般従業員(年) 2 54 年間採用比率(%) 33 9 5 8 3 1 6 、 6 2 1 3 5・4・軋 51 9 8 9 1 2 . 3 0 6 丁 2 2 ■⊥ ■⊥ 0 5 6 2 0 5 0 *)出資比率=日本の親企業(同資本系列の在欧日系企業を含む)の出資比率をいう。年間採用比率 は、調査時点で在斉している従業員数に対する割合をいう。「−」印は、調査項目がないため不明 であることを示す。(為替レートは、1989年・1992年とも何れも£1。00=240円で換算した。)

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日本企業の経営実践と管理会剖の国際移転の一つの試み −5一 業員の2%弱と、外資系企業の場合(0.5%)に比べると、派遣者の比率はか なり高くなっている。また.取締役数は1社平均で613人であるが、そのうち日 本人の割合は4り67人と、取締役会に占める日本人役員の割合が非常に高いのが 特徴であり、このことは在英企業の性格にも大きな影響を与えている。具体的 には、取締役が全員日本人が占めているという企業が6社あり、日本人以外は 1人という企業も3社ある。逆に、日本人以外が過半数という企業は1社のみ である。このように、取締役会における日本人の割合が非常に高くなって−いる。 (在日外資系企業の場合は、1社平均の取締役総数は9い55人であり、その内の 親会社のある国籍の人が取締役であるのは平均3..11人(32り6%)とローカル化 が進んでいる。このため人材のローカル化という点からは、在英日系企業は、 在日外資系企業に.比べて余り現地化が進んでいるとはいえない。 d)従業員の平均勤続年数も、管理職の場合が5.59年、−・般従業員の場合が 4い18年と、管理職の場合が長くなっている。また管理職、−・般従業員のいずれ の場合も、この3年間に、日系企業の換業期間が長くなると共に、勤続年数は 着実に長くなっており、それだけ英国社会に受け入れられている。これは、19 89年の調査以後、会社を辞める人が少なくなっているという経営者の説明や、 1992年の採用比率が非常に減少している(勿論不況の影響が大きいが)ことか らもそのことが窺える。 e) 日系企業の会社∵設立年は、表−2のとおりである。製造企業の場合は、

1980年代は3社、そして1980年から1985年の間に8社、そして1986年以降に5

社と、調査対象になった日本企業の英国への進出は、1980年代以降が大部分で あることがわかる。 しかし、調査対象になった日本の親企業が販売会社を設立した時期は、1960 年代から平均して進出して−いることがわかる。

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香川大学経済学部 研究年報 33 Jβ夕4 −β− 表−2 会社設立年 設立年次別 販売会社 製造会社 1969年以前

1970−1979

1980−1985

1986年以降 2(28.、57%) 2(28り57) 2(28一.57) 1(14..29) 0( 0%) 3(1臥75) 8(50.00) 5(31.25) n 7(100.00) 16(100り00) *)1992年現在による。なお、ここでは販売会社の設立年は、販売会社が現在別会社 としてある蓼合のその販売会社の設立年である。 なお、2社は英国企業との合弁を開始した時期でさまなく、100%日本の親企業出資 になった時期を会社設立年としている。 Ⅲ この節では、在英企業の一・般的な特徴、製造活動及び研究開発活動、日本的 経営実践、製品のライフサイクル及び生産方式の特徴について検討する。 3−・1在英企業の一・般的特徴 1)進出の目的 これまでの日系企業のヨーロッパ市場への進出は、輸出=販売型の進出であ ったが、ローカル・コンテンツ問題などの貿易摩擦を解消しながら、ヨーロッ パで市場を確保するためには、現地生産=現地販売型、す−なわち製造基地を現 地に移すことが是非とも必要になってきたことが、英国での現地生産に踏み出 した最大の理由である。このことは、表−3の結果がよく示している。その理 由は、1992年のEC市場の統合を控えていたため、1980年代に急速に展開して いる。それは、現地生産を行うことにより、関税問題や現地調達比率問題の解 消と共に、これまでどおりにヨーロッパで市場を確保するためには避けて通れ ない、製造機能のローカル化の第一歩であった。 また、ヨーロッパのうちで何故英国に進出するかという理由は、これまでの

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −7一 日本と英国の長い交渉の歴史、英国政府や地域社会(開発公社等)のサポート 及び言語が比較的馴染み易い英語であることが大きな理由であった。 表−3 英国への進出目的 得 点 平均値 標準偏差 進 出 の 目 的 1)貿易摩擦の解消 2)市 場 の 確 保 3)政府・地元のサポート 4)産業基盤の整備 5)人材(労働力)の確保 6)政 治 的 安 定 7)研 究 開 発 拠 点 8)原 材 料 の 調 達 9)そ の 他 2.00 1.、15 1..88 1=36 1一.13 0.. 72 0.31 0い71 0.25 0.58 0.19 0 54 013 0 50 0 0 0.13 0.50 *) n=16(1992)。なお、表中の得点は、1位→3点、2位→2点、3位→1点と して、総得点を合計し、回答企業数で割った、項目ごとの平均点をだした。 2)労働組合の活動 日系企業16社のうち、労働組合がすでにあるのは9社であり、労働組合がな い企業は7社である。従って−、労働組合の組織率は56‖25%と、英国企業の場 合(英国の数字:42り2%(1987))と比べると、14%高くなっている。 また、労働組合がある場合、組合の形態は、形式的には産業別組合7社、職 能別親合2社であるが、実質的には9社すべてが日本のいわゆる「企業別組合

(company−Wide trade union)」に近いものであり、同時に交渉の窓口は1組 合とのみというSINGLE UNION AGREEMENT、NO STRIKE AGREEMENTや労使協議制 などを大部分の企業で採用しているご)また在英企業の従業員が加盟している組

4)なおSingle Union協定の有無については、(有り−7社(8750%)、無しTl社(12.50%))、 また労使協哉制の有無については(有り−11社(73“33%),無し−4社(28.67%))である。 ノ・一ストライキ協定などを含めて、詳細は、Pい ウイルキンソン(1989)を参考のこと。

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Jタタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 −β−

合は、AEU、EETPUなど比較的労使協調的な組合のようである。また従

業員雇用に際しては、その人選が非常に慎重かつ念入りに行われ、日本的経営

制度(5S運動、多能工制度、TQC、平等主義、制服の着用など)に好意的

で、理解を示す若年労働者(男子・女子)の雇用が多い。 表−4 組合の有無 組合の有無 1989 1992 あ り 9(56.25%) 9(56い25%) な し 7(43‖75) 7(43一.75) *)n=16(1989),n=16(1992)。 3)経営組織の特徴 在英製造企業は、同資本系列の販売会社が別会社として分離・独立してある 場合が73%と、製造会社と販売会社が分離・独立している場合が多いのが特徴 である。その理由としては、次のことが考えられる。 まず第一の理由は、これまでの輸出=販売型の海外進出(ECを中心にヨー・ ロツパ全体を販売対象にし、各国に販売会社を持っていた)から、現地生産= 現地販売型に対応した組織形態に再編される過程(製造職能と販売職能を同時 に立ち上げることが難しいこともあり)にあるためである。その結果、英国で 生産し、英国、フランス、ドイツ、スペインなどEC諸国を中心に、ヨーロッ パ市場での販売・流通機構(販売会社)を整備し、生産のローカル化に対応し た販売会社の再編成を行って−いる過程にある。 第二の理由は、日本企業は、もともと日本国内でも、製造会社と販売会社を 機能的に分離・設立している場合が多いが、国内と同様の形態をとっている場 合が多いことにもよる。 以上のように、製造会社と販売会社が別会社として分離・独立している、い

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −−9−

わゆる製販分離しているのが英国での日系企業の特徴である。また、地域統轄

本社、金融会社などの設置をも含めて、これからヨーロッパでのオペレー・ショ ンの統合化・ロー・カル化が徐々に整備されていくであろう。このように、在英 企業の権限はいまだ日本企業のグローバル展開の視点が強く(本社集権型であ り)、現地在英企業がヨーロッパの地域統轄会社を中心に分散型で、ロー\カル に統合される段階には至っていない。 表−5 日系企業のタイプ 会 社 の タ イ プ

1992

製造・販売会社 3(20.00%) 製造のみの会社(別に同系列の販社あり)11(73,33) 製造のみの会社(現地代理店が販売)

0( 0)

そ の 他

1(6.67)

*)n=15(1992)。 4)生産システムの調達先 英国に進出している日系製造企業が、英国を中心に現地で生産システムを調 達しているか、あるいは日本から輸入したもので生産を行っているかというこ とも、日系企業の英国社会への経営あるいは技術移転やロー・カル化を考える際 の、一つの重要なメルクマールである。

日本企業の英国社会への進出は、前述のとおり、電気機械、精密機械と自動

車関連のメーカー・が中心であり、日本の進んだ生産技術(設備)を英国に国際 移転することにより、日本の最新工場と同じ最新レベルの装置、機械でもって、

英国内で製造するというのが、基本的な考え方である。例えば、電子部晶の自

動挿入機、プレス機、塗装ロボットなどの機械装置、及び冶具、工具、型式な どは、日本の親企業あるいは日本の他メーカーで製造あるいは購入するなど、 日本から調達、輸入据え付けが行われる場合が多い。その内訳は、表−6のご

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Jタタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 −J♂− とく、日本の親企業と日本の他企業からの輸入は、上述のようなメインの生産 システムを中心に、それぞれ69%と75%とかなり高い比率になっていることか

ら窺える。これは、日本企業における製造システムは、世界で最も進んでいる

と共に、各企業に固有(company−SpeCific)の独自技術が多いことも大きな要 因である。 それに対して、ベルト・コンベヤー・など、付属装置等のように技術的に独自 性や高精度を要求されず、比較的現地で調達が容易なものは、英国あるいは他 のヨー・ロツパ諸国で購入している。このような傾向は、この3年間にほとんど 変化がみられない。 表−6 生産システムの調達方法 調 達 先 1989 1992 7(43.75%) 10(6250) 0( 0) 7(43.75) 0( 0) 11(68い75%) 12(75.00) 0( 0) 11(68い75) 0( 0) 社社社社他 日 本 本 日 本 地 現 地 自 現 地 他 そ の *)n=16(1989),n=16(1992)。 3−2製造活動、R&D活動、及び部品調達のロー\カル化 ここでは、在英日系企業が貿易摩擦の解消、現地生産のための原材料・部品 などのロー・カル・コンテンツを引き上げるために、最も重要である製造職能、 R&D職能、及び部品調達職能のローカル化をどのように進めてきているか、 少し詳しくそのプロセスを探ってみたい。 1)製造活動のローカル化 在英企業での製造活動(物作り)は、日本である程度パーツの組立を行いユ ニット部品にし、その、ユニット部品をもとに単純な最終段階のみの組立生産 (いわゆるノックダウン生産(スクリュー・ドライバー生産、あるいはSKD

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −ノノー (semi止nockdoⅥl)と呼ばれる組立活動)を現地で行うという形で、ヨー・ロツ パでの現地生産が開始された。 第二段階は、ユニット部品の組立工程をも現地で行うやり方であり、これは

CKD(coJnpleteknockdown)と呼ばれる組立生産の段階であり、組立工程の

ローカル化がより拡大され、製造のローカル化がSKDよりはワン・ステップ 進んだ形態である。このように製造の前工程(段階)へと、現地での組立生産 が拡大するにつれて、製造活動のローカル化は徐々に進展してきている。 例えば、ある企業では、VTR生産のための組立ラインの国際移転は、まず SKDとしてシヤー・シの組立→PCBの自動挿入、基盤組立→ドラム組立→異

形部品挿入と進み、その後にCKDとして、F/Lユニット組立、そして部品

加エであるシリンダー切削、チップ実装というように、製造工程のローカル化 が進んできている。 2)R&D機能のロー・カル化 製品企画、研究開発、設計という広い意味でのR&D機能のうち、最もロー・ カル化が困難なのは研究開発(狭義)の分野であり、基礎研究や基本設計など の機能を担う技術者などの人材、研究開発のための検査、設備などハー・ドゥェ アを現地で独立に保持するためには、膨大な人材、設備、資金、情報という経 営資泳が必要である。現時点では、在英日系企業にはとてもそこまで出来る余 裕は無く、研究開発活動は日本本社に集中している。ただ徐々にR&D機能の ローカル化を進めてきているが、現時点での在英企業におけるR&D活動は、 設計活動(その中でも詳細設計)を中心に、R&Dや技術(ソラトウエアとハ ードウエアを含めて)の国際移転を積極的に行っており、R&D機能の国際移 転の第3段階にある企業が大企業を中心に多い…) R&Dや設計活動の前提になる製品(商品)企画は、まず最初にローカル化 が必要な産営活動(機能)である。その理由は、ヨーロッパ市場で自社製晶を

販売するためには、何らかの意味でヨーロピアン・ニーズ(スタイル、趣向、

文化など)を取り込むことは必須のことであり、それなしにはヨーロッパ市場 で自社の製品を販売することは容易でない 。ただこのような必要性を満たすた め、英国にすでに製品企画部門を持っている日系企業は、いまだ3社と少ない。

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−J2」 香川大学経済学部 研究年報 33 J9夕4

それ以外の企業は、現時点では、同資本系列の販売会社や自社の営業部門が、

欧州市場での消費者の製品ニー∵ズに関する情報を日本本社の製品企画や設計部 門にフィードバックし、日本本社で欧州市場向け製品の研究開発・設計を行う という形態をとって−いる。 在英日系企業で現在最も精力的にロー・カル化を進めているR&D活動は、設 計部門(機能)であり、特に詳細(応用)設計(日本仕様をヨーロッパのニー・ ズ、各国の安全性規格などに合うよう、また現地部品で調達出来る部品を考慮 した設計のモデフイケーション)が中心であり、−・部のメーカーでは基本設計 あるいは機能設計をすでにローカルに行っている。 そのため、在英企業の現在の到達点は、生産のローカル化に非常に熱心な場 合でも、ヨー・ロツパ(あるいは英国)での研究開発に割ける人材、資本、設備 やヨー・ロツパの産業基盤の相違から困難なことも多いようである。例えばCT V、VTLRと自動車の場合を比較してみると、CTⅤなどは歴史も古く、ヨー・ ロツパにもフィリップスやトムソンというプライス・リーダーである巨大企業 があり、またそれら企業に部品を提供している部品メー・カー・も多く、その裾野 5)なお、開発l・設計の国際移転の4段階とは、次の4つのステージが考えられる。 第1段階:日本人により日本本社で開発・設計を行う段階。朝地(海外)からは、商品仕様、製 品企画などの情報(部品・原材料などの調達可能なコストテーブルなどの情報を含む)を日本本社 へ取り入れ、日本の親会社で、日本人技術者が開発・設計を行う段階をいう。 第2段階:第1段階に、現地の技術者(開発・設計者)を加えて、彼らへの技術移転(教育・訓 練)をも行いながら、日本人を中心に現地の技術者を加えて、日本本社で開発・設計に取り組む段 階。 第3段階:日本人を中心に、在英日系企業での開発・設計を行う段階。この段階から、英国企業、 在英日系企業との共同による現地開発・設計=現地生産(部品・製品)がより可能であり、また有 利になる。 第4段階:英国人を中心に、在英日系企業での開発・設計を行う段階。この段階が、開発・設計 の現地へのロ、一カル化が最も進んだ段階にある。 在英日系企業における現時点での国際移転の段階は、第2段階か第3段階にある企業が多いよう である。第4段階にある企業はいまだ見られない。

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −Jβ− も広いため、グローバル化に先進的な企業ではニローカル化(現地部品調達比率) が90%を越しており、ほぼ現地ヨー・ロツパで原材料、部品を調達できる体制に なっている。 また.、CTVの場合には、放送方式、安全基準などは各国により異なるが、 機能的にそれほどの相違はなく、文化的に普遍性が高く、製品そのものも成熟

商品であり、研究開発にも自動車ほどの人材、技術などを抱える必要が無く、

広い意味でのR&D技術者が50人位おれば、英国で新製品の設計開発が可能で ある。しかもその方がローカルなニー∵ズをタイムリーに取り入れることが出来、 現地の部品メーカーの実態(現地での部品調達)を十分に考慮した上での設計 が可能であうというメリットもあり、また.ローカル化しないととても採算が合 わない状況にもある。 しかし、VTRになると、日系部品メーカー以外に部品を作れるメーカー・が 少なく、またシリンダー‥ヘッドなどの精密加工部品は日本の親企業(あるい は日系の電子部晶などの部品メー・カーうに依存する比率も高く、現地調達比率 は50%強に過ぎない。また自動車の場合には、部品点数が1万点とも2万点と もいわれ、ルーカスやボッシュのような日本の承認図メー・カー・に近いローカル な部品メーカー・もー・部にはあるが、いまだギアー・ボックスなどエンジン回り の部品を中心に、部品調達を日本の親企業に依存している場合が多く、ローカ ル化もこの3年間に着実に増加してきてはいるが、それでも現時点でのロー・カ ル・コンテンツは約80%である。 3)部品調達のローカル化 在英日系企業における部品調達の実態を、表−7をもとに検討する。まず全 体での日系企業が部品調達(取引)している部品メーカー数は、組立メー・カー・ 1社あたり、平均で約102社ある。そのうち英国内の企業(英国(現地)企業 +外資系企業(日系企業をも含む))が83社(約82%)と、ロー・カル企業の割 合が大部分である。ただ英国内の企業のうち、現地企業(平均で約60社)から の調達は、既成製品や国際規格品など標準化された部品の調達が多く、逆に日 系企業(約23社)からは、各企業オリジナルな仕様の部品(組立メーカーそれ ぞれのオリジナル部品)を調達している場合が多く、また金額的にも電子部晶

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−J4− 香川大学経済学部 研究年報 33 J9タ4 など部品単価の高いものが多くなっている。 最後に日本の親企業からの調達比率は、購入金額ベースでみると、平均で約 2臥06%と3割近くになっている。この数字は16社平均の数字であるが、製品 による差異が大きく、CTVなどの場合はロー\カル・コンテンツの比率が高く、 90%を越える企業もある。他方電子部晶製造や精密機械などの場合には、40∼ 50%近くを日本の親企業から調達しているケースもみられる。 表−7 原材料一部晶の調達先 (1992) 平均値 標準偏差 N 1)全体での調達先会社数(社) 101..93社 52.43 2)うち英国内の企業数(社) 83り33 42り00 3)2)の内、日系企業数(社) 22.67

20.95

4)親会社からの調達比率(%) 28い06 15い30 5 5 5 6 1 1 1 1 *)親会社からの調達比率は、海外子会社の原材料購入金額に占める割合をいう。 またローカル・コンテンツの向上のため、部品調達(生産)をどのようにロ ーカル化を具体的展開してきたかについては、次のようなケースが多くみられ る。初期には日本から調達していた部品を、アジア諸国やヨー・ロツパ諸国での 調達・生産を増加させることにより、ロー・カル・コンテンツを着実に上昇させ てきている。例えばVTRのシリンダー・ヘッドの場合は、日本での生産から フランスでの生産、CTVのブラウン管の場合は、シンガポール・マレーシア などアジア諸国からの調達を、順次トムソンやフィリップスというヨーロッパ 大陸からの調達・生産へと切り替え、現地生産を行うことにより、ローカル・ コンテンツの上昇や付加価値率の向上に努めている。また、電子部晶などのよ うなハイテク部品も、これまでの日本からの調達を、日本での購買と同じやり 方を維持しながら、英国へ進出した日系企業からの調達に順次切り替え、現地 部品調達比率(ロー・カル・コンテンツ)を徐々に高め、現在1社平均で72%

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −ノダー (高いところでは92%)にまで高められている。 ただ、現地の英国企業からの調達は、未だルー・カスなど−・部の大きな部品企 業からか、あるいは比較的安価でかさばる部品に限られる傾向にあり、ヨー・ロ ッパ大陸の現地企業からの部品調達を含めて、今後に残された課題も多いよう である。 3−3 日本的経営実践 前項では、経営職能(活動)がどの程度現地単独で行われているか、またそ の場合にはそれらの機能がどの程度英国人に委譲されているかの検討を通じて、 在英企業における経営職能のロー・カル化のレベルをみた。 本項では、表−8にあるように、日本企業で数多く実践されてきた経営活動、 いわゆる「日本的経営」と呼ばれている経営実践がどの程度日本社会固有のもの か、また逆にどの程度在英日系企業、延いては英国社会に受け入れられている かを中心に、日本企業の英国社会へのローカル化を検討してみたい。 全体的に最も広く普及して1、るのは、制服あるいは標準服と呼ばれる「ユニ フォー・ムの着用」(4.′93−1位)、社長、副社長、部長などに特別の部屋(個 室)がなく、ほぼ全員が一つの部屋で仕事をする「大部屋主義」(4..80−2位)、 駐車場、食堂、ロッカー・などの会社の設備を会社での地位に関係なく平等に使 用できる「平等主義」(4.73−3位)、「整理、整頓、清潔、清掃、躾」という、 日本語でいずれもSで始まる「5S運動(あるいはクリーンな工場)」(4..47− 4位)、終身雇用制の影響もあり会社の都合で簡単に従業員をレイオフしない 「ノー・レイオフ」(4.33−5位)などの実践は、1989年、1992年共に4点台であ り、ほとんどの在英企業で広く受け入れられ、定着している。 勿論日系企業の現場従業員は、比較的平均年令が若く(ある会社では平均20 才)て、しかも女性の比率が高く(同50%)、従業員は採用の際に「日本的経 営」にある程度の理解を持ち、また採用の際にそのことを前もって十分に説明 を受け、それを了解したものが雇用されている場合が多い。しかも上述の活動 は、比較的形式的で、目に見え解り易く、かつ一・般従業員にとっても自分たち の参加意識を高めると共に、メリットも大きい(平等志向、民主的、雇用保証

(16)

Jβ94 ーJβ− 香川大学経済学部 研究年報 33 などの面で)ことが、これら経営実践が広く普及している理由である。 「ある程度導入」されている経営実践は、現場の従業員(職長、班長など)に 産営管理デー・タなどの産営情報をフィードバックする「現場主義」(3..87−6位)、 現場の従業員にQCD(品質、コスト、納期)などの問題に積極的・自主的に コミットすることを奨励する「QCサークル」(3い73−7位)、一・人の従業員が 何種類もの作業(.jobs)を担当出来るように教育・訓練する r多能工の養成」 (3‖50−8位)、ミドルあるいはロアー・の管理者の意見を経営意志決定に広く 取り入れるミドルアップあるいはボトムアップといわれる意志決定方式である 「集団的な意志決定」(3い13−9位)、ジョブローテーション(3.00−10位) などである。 これらの活動は、形式的側面だけでなく、日系企業を取り巻く英国の文化的、 表−8 日本的経営実践 1989 1992

平均値 標準偏差 平均値 標準偏差

4..81(2) 4..94(1) 388(3) (1) 0.26 (2) 0.56 (3) 0.59 (4) 0.74 (5) 0.82 (6) 1.06 (7) 1..33 (8) 089 (9) O183 (10) 1り20

着主主

用義義場 ︵U O 1 0 1 1 1 40 4‖93 4‖80 25 4‖73 09 4“47 4∩33 81 3.87 25 3‖73 26 3。50 15 3.13 3.00 の屋 ンレ な イ 皿= リ i ク ノ エオ フ 義ル成定 ︶ ︶ ︶ ︶ 3 6 7 5 ︵ ︵ ︵ ︵ 8 1 3 6 t OU 3 1 3 3 3 3 3 現 場 主 Q C サ ー ク 多 能 工 の 養 集団的な意志決 ジョブ・ローテー・ション 1い60(11) 0..99 1.53(12) 0り74 年 功 昇 進 制 度 年 功 賃 金 制 度 *) n=16(19さ9),n=15(1992)。なお表中の得点は、額極的/全面的に実施→5点、…、ある 後塵実施→3点、 、実施していない→1点とし、実施の程度を記入してもらい、回答企業 数で割って、1社あたりの平均値をだした。なお、表中の「−」は、1989年の調査に対応する項目 がないためである。

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −J7一 社会的、組織的な側面にも触れ、これまでのイギリスには余りなかったことで あり、導入に伴って生じるコンフリクトも種々あるが、得点も少しずつ上昇し てきており、英国社会でもそのメリットが徐々に理解され、受け入れられてき ている。 在職年数とともに徐々に昇進あるいは昇給する「年功昇進制度」(1.60−11位)、 「年功賃金制度」(1.53−12位)などの「年功制度(seniority system)」は、い ずれの日系企業でも現在までほとんど導入されて−おらず、今後とも導入を考え ている企業はほとんどみられない。年功制度は、個人主義あるいは業績主義の 色彩の濃い英国社会の制度、文化には馴染まず、日系企業にとってもメリット が少ないため、日系企業で年功昇進制度や年功賃金制度を採用している企業は みられない。これは比較的簡単に転社(転職でなく、例えば同一・地区でも、貸 金、休日(ホリディ)などの相違により簡単に会社を移動)する現場従業員も

多く、日本的な人事制度を導入するメリットはほとんどない。英国の社会、経

済、文化、労使関係などに非常に密接に関係して−おり、日系企業も英国企業の 行っているやり方に従っている。従って−、英国企業の貸金・給与体系と同じや り方を踏襲し、職務給などの能力給制度を採用し、同業種の他企業(自動車メ ーカでは例えば、日産は英国フォードやボックスオ・−ル(GM)などと比べて) と同一・あるいは少し高めの給料(賃金)を支払っている日系企業が多いのが実 態である。 以上のように、この3年間の在英日系企業での「日本的経営」実践は、全体的 には定着化の傾向にあるか、あるいは少なくとも現状維持の状態にある。とり わけ「制服の着用」、「大部屋主義」、「平等主義」、「クリーンな工場」、「ノー・レ イオフ」6)などの経営実践は、1989年、1992年ともに4点台であり、ほとんど 6)在英日系企業では、従業員の雇用を保証する方向で考え、これまで出来る限り従業員のレイオ フをすることを極力避けてきたようである。これが、日系企業の労務管理の基本であり、これを 日系企業、従業員(英国社会)ともに、日系企業で働くことの一つの大きなメリットとして考え てきた。それがノーレイオフの数字にも表れている。 勿論、1992年に在英日系企業の面接調査を行った際に、経営者が異口同音に指摘していたこと であるが、「企業である限りレイオフをしないという約束は、経営者としては出来ない。」しか し「出来るだけしないよう努力しているし、今までにレイオフをしたことはない」、という言い 方をしている経営者が多かった。しかし、最近の世界同時不況の影響もあり、日系企業でも雇用 調整(レイオフや解雇など)をせざるを得ない企業も出てきているようである。

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Jタタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 −Jβ− の在英企業で広く定着しているといえる。また、「QCサークル」、「多能工 の養成」など生産現場の実践に関係するスコアも、この3年間に着実に上昇し て−おり、生産管理活動に関する経営実践も、この3年間に着実に受け入れられ てきているようである。 3−4製品品種の特性と生産方式 1)製品品種の特性 在英日系製造企業の製品ポートフォリオは、表−9のとおりである。在英

日系企業の製品は、前述のとおりカラーテレビ、ビデオー、電子レンジ、プリン

ター・、自動車、電子部品など組立部品が多いのであるが、BCGマトリックス により製品構成の側面から見たのが、次の表のとおりである。 表−9からもわかるとおり、在英企業が製造してヽ、る製品構成の特徴は、市 場占有率は高いが、成熟商品である「金のなる木」が47..13%と半分近くを占め、 また市場成長率も市場占有率も低い「負け犬」と呼ばれる製品が48%とこれも半 分近くをしめており、今後に問題を残す−製品構成になっている。すなわち、花 形製品や問題児と呼ばれる、成長率が高く、今後にその成長を期待できる製品 群が少なく、余り良い製品構成とは言えない。 製品成長率という側面からは、在英日系企業が生屈している製品はほとんど

表−9 BCGによる製品構成

製品構成

平均値

標準偏差 花形製品 1ハ20 金のなる木 47り13 問 題 児 3り67 負 け 犬 48,.00 4.. 65 41り32 8.99 43。70 *) n=15(1992)。表中の、それぞれの製品構成の分類基準は、製品の市場成 長率と当該企業のヨーロッパにおける市場占有率とから次のように分類した。 花形製品とは(市場成長率が10%以上、市場占有率が業界3位以上の製品(以 下同様))、金のなる木(10%未満、3位以上)、問題児(10%以上、4位以  ̄F)、負け犬(10%未満、4位以下)と分類した。

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一・つの試み −Jクー (95%)が成熟製品である。その理由は、CTV、VTR、自動車、電子レン ジなど、ヨー・ロツパでも既にかなり普及しており、今後急速に普及が期待でき ないからである。 他方日系企業の市場占有率という側面からみると、欧米系企菓に比べて日系 企業の進出は遅く、従って上述のとおり相対的に経営規模もいまだ小さく、欧 米系企業に比べると市場占有率は小さい。例えば、CTVなどは、テレビを製 造して−いるすべての日本メーカーが英国に進出しており、そのため個々の企業 の市場占有率は低くなっている。すべての日系企業の市場占有率を全部合わせ れば、トムソンやフィリップスとようやく対抗出来る規模になるようである。 従って、日系企業が特に強い分野、例えばドット・プリンター、電子レンジ、 VTR及び電子部晶など限られた分野の製品を在英日系企業で生産しているが、 カラーテレビなどは欧州にもフィリップスやトムソンという寡占企業があり、 日系企業で利益が出でいる企業は一部に限られている。そして−ヨー・ロツパでC TVを日系企業が作り続けて−いるのは、利益よりも寧ろヨーロッパの高い通借 技術などのためであると言われていた。このように製品マトリックスの観点か ら見て一行くと、日系企業にとって今後に成長が期待できる製品成長率や市場占 有率の高い製品群を必ずしも現地生産しているとは言えない。寧ろ日系企菓は 成長率の低い成熟製品を中心に、これまで日本から輸出していた製品を現地生 産に切り替えているためである。勿論上述のように、日系企業は経営規模も小 さく、このような在外日系企業を現地企業と同じレベルで、製品マトッリクス で見てみるというには、それなりの意義はあるが、また同時に限界があること も認識しておく必要もある。 2〉 製品のライフサイクル 次に、日系企業が生産している製品を、製品のライフサイクルという観点か ら表−10によりみると、全体的にはこの3年間に徐々に長くなってきている。 その理由としては、在英企業が英国社会での換業期間が長くなるにつれて、 それだけ生産している企業の製品のライフサイクルもこの3年間に徐々に長く なって−きていることがまず指摘できる。また製品の種類は、弱電などは、ライ フサイクルはもともと1年∼2年と短いが、売れ筋製品のローカル化がより進

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Jβタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 −2♂−− むことにより、製品のライフサイクルはある程度長くなってきて−いることが考

えられる。しかし、日本企業の組立生産の場合と比べると、製品のライフサイ

クルは非常に短い。これは在英企業で生産している製品が、CTV、VTR、

自動車、プリンター・、電子レンジなど組立生産の中でも、特にライフサイクル の短い製品の割合が高いためだと思われる。 表−10 ライフサイクル別の製品構成 1989年 1992年 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 製品のライフサイクル 80‖56% 32.65 65.81% 44..98 19.44 32。56 16い53 29い70 0 0 17.56 36り12 3 年 未 満 の 製 品 3年以上6年未満の製品 6 年 以 上 の 製 品 *)n=16(1989),n=16(1992)。 3)製品の市場的特性 日本企業は、もともと企業グループという意識が強く、ヨーロッパへの進出 もまた同資本系列に属する企業グループとして英国に進出している場合が多い

ように思われる。例えば、販売会社、部品、組立を行う製造会社(部品会社と

製品別の組立会社)、金融会社、サービス会社、地域統轄本社等がヨー・ロツパ に設立され、企業グループとして相互に役割(機能)分担しながら経営が行わ れている場合が多い。 そのことが影響しているためか、在英製造企業の製品の市場的特性も、表− 11にあるごとく、同資本系列の販売会社からの注文に基づいて一生産している企 業の比率が11社(69%)を占めており、その比率は7割近くと高いのが特徴で ある。そのため、それ以外の注文生産(本来の意味でのオーダーメイド生産) は2社(12.5%)、そして市場見込生産は4社(25..0%)に過ぎない。その理 由は、日本企業は国内でも販売会社と製造会社は分離・独立している傾向にあ

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −2ノー るが、それと共に在英製造企業は現段階ではもの作りに専念できるよう販売職 能から自由な生産職能に専念できる組織形態になっている場合が多いためであ る。そして販売などの経営機能は、これまでにヨーロッパ市場ですでに経験を 積んでいる同資本系列のヨーロッパの販売統轄会社を中心に、各国の販売会社 のネットワークに多様な製品市場を持つ製品市場での販売を委託し、それを抱 え込むことによる経営の複雑性を回避している。 表−11製品の市場的特性 市 場 的 特 性 1992 11(68,.75%) 2(12..50) 4(25.00) 1(6一25) 同系列の販社の注文生産 それ以外の注文生産 市 場 見 込 生 産 そ の 他 *)n=ユ6(1992)。複数回答可。 4)製品種類の変化 ここでは、在英日系製造企業のロー・カル化を、製造している製品の多様性の 側面より考察する。1987年と1992年の2時点における製品種類数を、絶対数で 示すと表−12のような特徴がみられる。 まず、基本的な製品分類(例えば、乗用車、CTV、VTR等というレベル :基本種類)では、この5年間に製品種類に変化はみられず、1社平均で2品 目(例えばCTVと電子オーブン)の製造をおこなっている。これは、個々の 在英企業は前述のとおり従業員規模で1,000人程度と比較的規模が小さく、2 社∵を除いてはすべて1会社1工場である。その理由は、ヨーロッパ全体にある 同資本系列の製造企業をあわせて欧州市場をカバーするというのが日系企業の 経営戦略であり、在欧の個々の製造企業はある程度限られた製品種類(例えば CTVとVTRとか)の製造に特化し、企業グループ全体として−欧州市場で必

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Jタタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 −22」 要とする製品種類を確保し、それを同資本系列の欧州の販売会社が販売ネット ワー・クを組織し、欧州−・円をカバーする形態になっている。このように限られ た製品種類の製造に特化す−る方が、在英日系企業にとって製造及び経営管理が 単純であり、日本国内での生産でも困難な工場あるいは製品の立ち上げを、海 外生産という余りノウハウの蓄積されていない地で製造の立上げの困難性を少 しでも軽減することが可能である。そして、製造活動がうまく軌道に乗った後、 徐々に生産規模の拡張を図っているようである。例えば英国では、CTV、電 子レンジ、ドイツでVTRなどと各子会社での製造品目を限定しながら、グル ープ全体で人口3億人余のヨーロッパ全体をマーケットにし、個々の日系企業 としてはヨーロッパ全体で規模の経済性を維持している、というのが他の理由 である。 表−12生産している製品種類の動向 基本的分類 製品特性レベルの分類 仕様レベルの分類 平均借 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 <推移> 1987年 2..00 1.00 6り33 701 33..21 35.19 1992年 2り00 1..21 8u44 11り58 56い27 47。33 *) 基本的分類(n=15:1987,n=16:1992),製品特性(n=15:1987,n=16:1992),仕様レベルの分 類(n=15:1987,n=16:1992)。 次に、代表的な製品の基本分類(例えば、CTVで説明すると、14インチ、 17インチなどというレベルの分類:機種)では、製品種類は徐々に増加の傾向 にあるといえる。それは、1社平均で、1987年に6∼33機種であったのが、1992 年には平均8り44機種へと、1社平均で2機種(品種)余り製品種類が増加して いることからわかる。これは、それだけ機種のレベルで現地生産している製品 の割合が増加し、それだけ生産のローカル化が進んでいることを示している。 最後に、スペック(CTVで言えば、ステレオ、衛星放送、放送方式、色彩、

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −ガー 材質などの付加機能(オプション)を考慮にいれた製品分類:仕様あるいは品 番)のレベルで在英企業の製品種類を見てみると、1社平均で仕様数が1987年 には33い21仕様であったのが、1992年には56小27仕様へと、約7割(69.4%)も

増加してヽ、る。これは、輸出先国の増加とともに、各国ごとに文化的に独自性

の高いヨー・ロツパ諸国のそれぞれの国民のニーズを満たすには、出来るだけ各

国の安全基準、社会、文化にマッチした製品を作る必要性があり、それぞれの

国民のニーズを満たすため、製品種類の多様化多品種生産)をそれだけ積極的 に進めてきた結果であろう。

以上のことより、日系製造企業は、CTV、VTR、乗用車、及びプリンタ

ー・製品を中心に、生産量(売上高)の増加、製品種類の多様化の両面で、ロー・ カル化を進めており、現地生産=現地販売の方向に徐々に移行しているといえ る。 5)生産方式−ロットサイズ 一つの生産ラインで一度に製造している生産量のことを「ロットサイズある いはバッチサイズ」というが、その観点から生産方式を分類すると、表−13の ように個別生産から単種大量生産までに分類される。在英企業で最も多い生産

方式は、小ロット生産であり、ついで中ロツト生産である。以上二つの場合が

大部分のケースを占めているが、他に単種大量生産や個別生産も一・部見られる。 表−13 生産方式一 口ツトサイズ ロットサイズ 1989 1992 0( 0%) 8(50.00) 8(50一00) 0( 0) 0( 0) 1(6..25%) 8(50り00) 4(25い00) 2(12∩50) 1(6.25) 個 別 生 産 小ロット生産 中ロット生産 単種大量生産 そ の 他 *)n=16(1989),n=16(1992)。

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香川大学経済学部 研究年報 33 一朗一 J5汐4 ヨー・ロツパの日系企業の生産ラインの特徴は、上述のように輸出先国が多く、 輸出先により安全基準(規格)、放送方式や使用言語などが異なり、それに応 じて多様な製品を作る必要性が高いことである。その結果、在英日系企業の製 品種類は、上述のように欧州諸国の消費者ニーズに応じて、製品種類を多様化 せざるを得ないのが実態である。それに対応するため、在英企業がとって−いる 生産方式は、基本的には製品別(例えばCTVでは、インチ別)に生産ライン を区分(固定)し、国別の仕様(スペック‥それぞれのロットごと)に応じて 生産ラインを切り替えている。例えば「A」という生産ラインでは、CTVの 21インチを流し、それを英国向け、ドイツ向け、フランス向け、北欧向け等の

ロット毎に、生産ラインを切り替えていく方式である。そのため、北米などに

比べると、ロットサイズはどうしても小さくなり、それに応じて頻繁に段取替 えをせざるを得ないのが、ヨー・ロツパの日系企業での製造形態の特徴である。 6〉 生産方式一生産管理上の特性 在英企業における生産管理の方式は、表−14のように、資材所要量計画方式

(MRP:materialrequirements planning)が中心であり、12社(75%)が

この方式を導入している。あとは、製番方式が3社とカンバン方式が2社とい う割合である。 表−14生産方式一生産管理上の特性 生産管理上の特性 1989 1992 製番 方 式 カンパン方式 MR P方式 そ の 他 ︶︶︶︶ %550 02 7 5 . .68 7 6 3 ︵./\︵ /■\ 61 10 1 ︶︶︶︶ % 5 000 7 50 8 2 5 1 1 7 ︵︵︵︵ 3220 1 *)n=16(1989),n=16(1992)。複数回答あり。

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −ガー Ⅳ この節では、在英企業の管理会計の実態の検討に焦点をあて、その現状と日 系企業でのローカル化の一・局面を考察する。ここでは、在英日系企業における

業績評価、国際振替価格を中心に、会計情報システムの整備と移転、資金調達

の方法、及び設備投資の経済性計算の実態についても検討する。 4−1海外子会社の業績評価 英国進出している日本企業の場合、日本の親会社は海外子会社である在英企 業の業績評価をどのように行っているか。−・般には、海外子会社の自律化が進 むにつれて、海外子会社の業績評価をするシステムも整備され、親会社はその 評価基準によって−のみ海外子会社の業績評価をする体制が整備されてくると思 われる。勿論進出の経緯や個々の企業の事情により、必ずしも理論どおりにす べての企業が海外子会社の業績評価を行っているとはいえない。 また日本企業の業績評価の方法が、欧米企業の場合と異なることも考えられ

る。例えば日本企業では、事業計画の作成、予算及び財務諸表の月次報告制度

などにより、在英日系企業の実状について、会計情報を中心に産営情報の頻繁 かつ事細かな報告を受けている。それと共に、日本人スタッフを通じての正規 の報告以外のコ ミュニケー・ションもなされていることは、英国人の経営者が面 接調査の際に指摘していたことである。ここでは上記のことも考慮に入れなが

ら、日本企業の在英子会社の業績評価の特質を、海外子会社そのものと、その

経営者の場合に分けて\表−15、16をもとに検討してみたい。 1)業績評価の有無 日本の親企業が、海外子会社である在英日系企業の経営活動を評価す−るため、 日系企菓それ自体の業績評価を行っている比率は、全体の約3/4を占めている。 ただ「知らされていない」という企業も3社あり、また「業績評価基準がない」 という企業も1社ある。これは企業である限り株主の立場、あるいは多国籍企 業の親企業という立場より、在英企業の業績評価を行うのは当然のことであり、 3/4(12社)の企業では、すでに何らかの形で業績評価が実施されて−いる。

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Jタタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 −2β」 それでは、在英企業の経営者の業績評価は、どのようにされているのであろ うか。表−15のごとく、在英企業の経営者の業績評価を行って−いる日本企業は 53。33%と、全体の約半分余であり、20%(3社)の企業では、子会社の業績 評価を必ずしも経営者の評価とリンクさせていない。逆に、経営者の業績評価 については、「知らされていない」と回答した企業も4割を占め、その比率が高 いのが特徴である。 表−15 海外子会社の業績評価基準があるか

1992

海外子会社 業凍評価の有無

1989

︶ ︶ ︶ % 3 7 0 3 6 0 3 6 0 5 4 1.1 ︵ 8 1 6 有 る 12(75‖00%) 11(73.33%) な い 3(18.75) 1(6い67) 知らされてない 1(6り25) 3(20。00) *).IUK:n=16(1989),n=15(海外子会社:1992)、n=15(経営者:1992)。 なお「知らされて−いない」という内容をインタビューでより詳しく尋ねてみ ると、海外子会社の業績評価のためのマニュアルが整備されていなく、また社 長など経営者が海外に派遣されるときには、具体的な業席評価については派遣 の際に何も指示されないのでわからない、あるいは欧米企業のように「契約も 交わされていない」という説明を、海外進出企業の経営者から度々受けた。ま た半年あるいは1年毎になされる子会社の事業計画や予算書の親会社の承認・ 評価システムから考えると、業績評価の基準がある場合でも、その指標が「ワ ン・セット(利益率、マーケット・シェア、売上高、製品の不良率などの指標)」 で与えられ、在外日系企業の置かれている状況に応じて−、「セット」の中の色

々な指標のうちから、ある指標が重点的 に指示される。あるいは、月次決算

の報告の際に、本社サイドよりアドバイスや注文を受ける。しかし、そのよう

なアドバイスや注文も、在英企業の業績評価、特に経営者のボー・ナス・昇進と

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −27− は、直接にはリンクされていない場合が普通である。 たぶん在英企業の経営者には、上述のように日本人出向者が多く、日本人出 向者の場合、公式の経営組織の担当者(社長、技術部長、経理部長などのマネ ジャー・)は少なく、大部分の人ぽアドバイザー(歌舞伎の黒子)の役割を果た して1\る場合が多く、そのことが産営者の巣績評価を一層難しくして−いること も考えられる。また日本本社での「日本的な業績評価」のあり方を反映して−、日 本本社の長期的な人事考課(昇進、昇級)には何らかの形で加味(反映)され ているが、派遣期間が短期(技術者で3年、事務職で5年が一応の基準)であ るため、在英企業での経営者の業績評価を直ちに日本本社に帰ってからの職位 に結び付けることは、日本本社にいる同期入社の人事などとの関係(年功制度 など)もあり、難しいことも大きな理由の劇つである。 しかし、その場合にも、日本企業の海外子会社管理のやり方や経営制度を支 える日本的な経営風土が、在外日系企業の業績評価を積極的に導入することを 困難にしている場合が多い。しかし英国人経営者とのインタビューを通じて、 現在の在外日系企業から得られる情報量でもって、日本本社は海外子会社だけ でなくその経営者の業績評価をするのに必要なだけの情報を充分に得ていると いう印象を筆者は受けた。 2)巣績評価の指標 海外子会社で実際に業績評価を行っている場合、その業績評価の指標は表− 16のとおりである。まず在英企業そのものの業績評価を行っている11社で、そ の指標として重要なものは、1).利益額の予算・実績比較(1位)、2)一.年度 の利益額(2位)と製品品質(2位)、3)一.売上高の予算・実績比較(4位) という項目である。 在英日系企業の業績評価の特徴的な点は、利益額、製品品質の重視及び売上 高の指標である。まず、絶対額で利益が発生しているかどうか、及び予算・実 績を対比して「予算どおりに利益が出ているかどうか」というのが最も重視され ている指標である。また、その延長線上で、「設立からこれまでの累積額で、 黒字になっているかどうか」など、利益額という指標が最も重要な業績評価の 物差しになっている。

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Jタタ4 香川大学経済学部 研究年報 33 一都ト 2番目の特徴は、「製品の品質」を重視している点であり、在外日系企業の 現地サイドからみて、業績評価の基準として生産活動全体に係わる指標であり、 日系のメーカーでは重視度が高い項目である。そして3番目に「売上高の予算 ・実績比較」の指標である。 表−16 業績評価の指標 業績評価の指標 海外子会社 経 営 者 ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ % 7 0 0 0 0 0 7 0 7 7 6 nV O O 6 6 6 6 0 0 0 6 6 6 6 5 5 5 ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ 4 3 3 3 0 0 1 0 1 1 ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ % 4 5 5 6 00 9 9 9 9 9 6 5 5 3 1 0 0 0 0 0 3 4 4 6 の0 9 9 9 9 9 6 5 5 3 1 ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ 7 6 6 4 2 1 1 1 1 1 1)利益額(予算・実績比較) 2)利益額(年度の) 3)製品品質 4)売上高(予算・実績比較) 5)ROI(予算・実績比較) 6)投資利益率(ROI) 7)生産性(予算・実績比較) 8)市 場 占 有 率 9)従業員の定着率 10)地域社会への貢献 *)n=11(海外子会社),n=6(経営者)(いずれも1992)。

次に、社長など経営者の場合も、サンプル数は多くないが、海外子会社それ

自体の業績評価の場合と良く似ており、利益額、製品品質及び売上高が重要な 指標であり、子会社とその経営者の評価基準の間にはほとんど差異は見られな い。

以上のように、海外子会社の業績評価そのものは、利益額、製品品質及び売

上高などの指標を使っており、それは海外子会社が存立して行くためには重要 な指標である。しかしその場合でも、必ずしも子会社の経営者の業績評価には 結び付けていない場合が多いのが実状である。これは上述した.ように、日本企 業の業績評価が短期的な基準ではなく寧ろ長期的な評価を重視すること、また 海外子会社での日本人経営者の在職期間が3年から5年と比較的短期であるた め、そこでの業績を即座に日本人経営者の評価(人事考課)に取り入れると混 乱を来たし、日本本社に帰ってからの「遅い昇進」や「年功賃金制度」といわれ

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の−・つの試み −2β− る年功を加味したこれまでの日本本社の人事制度を歪める恐れがあるためであ る。そのため、間接的には在外子会社での経営者の業績を反映させて−いるが、 直接的には業廣評価制度がある場合でも個々の経営者の短期的な評価(特に現 地子会社でのボーナスや昇進など)には結び付けて−いない場合が多いためであ る。 4−2国際振替価格 ここでは、在英日系企業を中心にして、日本の親企業からの原材料・部品の 調達、また在欧日系販売会社への製品版売の際に用いられる国際振替価格の基 準(方法)を、ニつの場合に分けて検討する。す−なわち1)在英日系企業‖

UKs)が日本の親企業(JPCs)から原材料や部品を購入する場合、2).

在英日系製造企業が在欧日系販売会社りES s)へ製品を販売するケー・スで ある。

1)原材料、部品購入の場合(JPCs→JUKs)

在英日系企業は、資本が日本法人により過半数を所有されているという意味 では日系企業であるが、英国の会社法により設立されている英国企業でもあり、 日本の親企菓とは別の法人格を有する独立会社である。従って−そのことにより、 日本国内の子会社との間では生じない国際間の会計上の諸問題が発生する。こ

こでは、在英日系製造企業がCTVやVTRなどの製品製造のため、日本の親

企業から原材料、部品を販売する場合の国際移転価格(国際振替価格)を、表 −17をもとに検討する。 日本の親企業が原材料、部品を在英日系企業に販売する場合、その国際振替 価格は、原価プラス利益基準と市価基準と回答した企業がそれぞれ6社(1992 年)、そして原価基準と回答した企業は5社である。傾向としては、英国での 換業開始からの年数が長くなるにつれて−、市価基準を採用して−いる企業の比率 がやや多く(85年以前:6社/11社中)なって−おり、逆に設立年が最近の企業 ほど、原価プラス基準を採用している傾向(1986年以降:4社/5社中)にあ

る。それだけ換業年数が長くなるにつれて、在英企業の自立性が高まり、その

ことが市価基準の採用増加に繋がっているのでないかということがインタビュ

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香川大学経済学部 研究年報 33 表−17 国際振替価格(JPCs → JUKs) Jタタ4 ーββ」 在英日系企業 日本企業 1989 1992 1992 国際振替価格(原材料) 4(25…00%) 5(31り25%) 34(21..11%) 7(43.75) 6(37.50) 80(49い69) 5(31“25) 6(37.50) 47(29い19)

0( 0) 0( 0) 3(1∩86)

原 価 基 準 原価プラス利益基準 市 価 基 準 そ の 他 n 16(100.00)16(10000)164(100..00) *)n=16(JUKs:1989),n=16(JUKs:1992),n=164(.JPCs:1992)。 −での回答より推測できるが、サンプル数が少ないため、より詳細なフォロー・ アップ調査が必要である。 また日本の親企業への調査と比較する(ここでもサンプル数などが異なるの で留保が必要であるが)と、原価プラス利益基準の割合が少なく、原価基準と 市価基準が多くなっている。これは在英企業には、日本の親企業の原価が公開 されていないこともあると思われるが、同時に在英日系企業と日本の親企業の 間に国際振替価格の基準についての認識のギャップが見られることも事実であ る。すなわち在英日系企業では、原価基準或いは市価基準で日本の親企業から 調達して−いると考えているが、日本の親企業サイドでiま原価プラス利益基準で あると考えている企業が多い。この辺りのギャップは、日本の親企業からの調 達部晶の原価が在英日系企業には十分に知らされていないこともあり、またそ の価格決定の権限が日本本社により、多く留保されている事実などを合わせて 解釈する必要があるg) 2)製品を販売する場合(JUKs→.JES s) まず最初に、ヨーロッパにおける日系企業の製造会社と販売会社の関係にっ いての特徴を若干述べて−おく必要がある。日系企業の欧州への進出は、上述し たとおり、まず販売会社による販売機能(活動)のみをヨー・ロツパで行う、い

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日本企業の経営実践と管理会計の国際移転の一つの試み −βノー わゆる「輸出=販売型」の欧州進出であった。従って販売会社(代理店を含め て)は既にヨー・ロツパ全体に張り巡らされており、そこで販売する製品(商品) の生産基地を1980年代後半に日本国内からヨーロッパ(とりわけ英国)に移転 し、いわゆる「現地生産=現地販売型」になった経緯がある。従って製造機能 (基地)は、英国を始めドイツ、フランス、スペインなどヨーロッパ諸国内の

それぞれの基地(製造会社)で1∼2製品(例えばCTVとVTRなど)を生

産し、それを同資本系列の欧州の販売統轄会社、及び各国の販売会社(そのネ ットワーク網)を通じてヨー・ロツパ全体で販売するという生産・販売形態にな ってきた。このことは、これまでヨーロッパの現地企業が比較的自国内で生産 ・販売し、他のヨーロッパ諸国での販売にあまり熱意を示してこなかった場合 が多い(例えば、自動車や−・般機械など)のとは好対照をなしている。 表−18は、在英日系製造会社とその販売形態(販売会社の有無)を示してい る。1992年時点で、在英製造会社のうち14社(87∩5%)は、製品の製造のみに 専念しており、販売は独立の販売会社が担当する、いわゆる製造と販売が分離 した会社形態であり、製造・販売が−‥附こなっている企業は2社(12.5%)に 過ぎない。日本企業の英国進出の典型的なタイプは、CTVの会社にみられる

ような製造・販売の分業体制である。例えば、製販分離の場合、生産会社で製

造された製品がラインオフし、製品倉庫に収納されると、その製品は販売会社 の製品になるという企業も多くみられた。 表−18 販売会社の有無 販売会社の有無 1992 2(は50%) 14(87.50) 0( 0) 製造・販売会社 販売会社は別会社 そ の 他 *)n=16(1992)。 7)詳しくは、井上(1992)1621−・167ペー・ジを参照のこと。

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