はじめに
“Reading
for Change” をもとに
山 本 茂 喜
いわゆるPISA型「読解力」(Reading Literacy) では、非連続型テキストの読みと、論理的な表 現力のみが注目されがちである。物語文の「読 解力」が、従来の我が国のそれとどのように異 なるのかは、最もわかりにくく、言及されるこ 1 とも少ない。そのため、従来と大差ない指導 が、PISA型「読解力」の指導として提案されて いることも、まま見受けられる。 PISA型「読解力」については、文部科学省 による分析(2005)を初めとして、数多くの論 議がなされている。しかし、物語文について、 PISAの問題と正答例を詳細に分析した考察は 意外に少ない。 これまでに翻訳公刊されているOECDの報 告書や文部科学省の分析結果に、具体的な正 答例は示されていない。しかし、読解力につ いては、未だ翻訳されていない詳細な解説書“Readinμor Changc:Performance and Engagemcnt across Countries Results from PISA 2000" (OECD、 2002a)が公表されている。そこには、正答例
の他、出題意図や採点の観点が具体的に記され
ている。また、“Programme for lntemational Stu-dent Assessment" (OECD、2002b)にも採点基準
と正答例が載せられている。 本稿では、問題「贈り物」の問七を取り上げ、 これらの文献を基に、そこで必要とされている 具体的なPISA型「読解力」を明らかにしたい。 なぜこの出題を取り上げるのか。 −1− 第一には、この「贈り物」が物語文(NaITation) の問題だと言うことである。 PISA型と比較し て従来の文学教材の読みの指導にどのような観 点が欠けていたのか、この問題を分析すること によって見えてくるだろう。 第二の理由は、この問七が、読解力(Reading Literacy)を中心に行われた2000年のPISA調査 の中で公表されている問題の内、最も正答率 の低いものの一つだったからである。(正答率 は34.2%。「プラン・インターナショナル」が 10.9%、「新しいルール」の問2が、24.4%。こ れら二つは、それぞれ「表」と「解説」の読解で ある)確かにこの問は難問であり、15歳児だけ でなく、指導する教師の側でも、どのように答 えれば正答となるのか、困惑する人が多いので はないだろうか。 なぜこの問七は難問なのか。この問は、「批 評的に読」む(石原千秋、2005、P.53)ことを求 めるタイプの問題であり、従来の国語科には見 られないものなのである。 文部科学省(2006)でも、「改善の具体的な方 向」として、三点が示されているが、その1番 目として、「①テキストを理解・評価しながら 読む力を高めること」があげられている。 しか し、物語テキストを「批評的に読む」、「評価し ながら読む」ためには、具体的にどのような方 法と力が必要なのかは、詳らかにされていな い。 本稿では、「贈り物」の問七の出題意図と正 答例、採点の観点を詳細に分析することによっ
山 本 茂 喜
て、物語文の批評的な読みにおけるPISA型「読
解力」の求めているものを明らかにしたい。そ
れにより、我が国の読みの指導の改善の方向性
を示したいと思う。
1 問題「贈り物」について 読解力(Reading Literacy)を中心に行われた 2000年のPISA調査において、いわゆる物語文 (Narration)の問題は、18問(全問題の約14%) である。テキストタイプ別に見ると、議論・説 得と同じ問題数を占めている。いわゆる連続型 テキストの中で占める割合は、21%である。最 も多いのは、「解説」(36%)であり、そこに実 用的な読解力を重視するPISA調査の特色があ らわれている。しかし、物語文は、議論・説 得と併せて三本柱の一つであり、PISA型「読解 力」においても、やはり垂要な位置を占めてい ると言っていいだろう。 物語文の問題の中で、現在公開されているの は、「贈り物」と「アマンダと公爵夫人」である。 この内、「アマンダと公爵夫人」は戯曲である ので、小説が中心の日本の文学教材に近いの は、「贈り物」ということになる。 「贈り物」は、次のような要旨の物語である。 洪水に家が流され、孤立してしまった主人 公。夜中に目を覚ますと、犬木にのってヒョ ウが流されてきて、ポーチから家に入ろうと している。ヒョウは、「洪水の贈り物」とい うわけである。彼女はヒョウを銃で撃とうと するが、思い直して、ハムの固まりを与え る。次に目が覚めたとき、水は引き、ヒョウ も去っていた。ポーチの上には、ハムが白い 骨となって残っていた。 「贈り物」の問題は全七問だが、その中で最 も難問と思われるのが、問七である。問七は、 「「贈り物」の最後の文が、このような文で終わ るのは遮切だと思いますか。最後の文が物語の 内容とどのように関連しているのかを示して、 あなたの答えを説明してください。」という問 題である。 「贈り物」の最後の文は、次のような一文で−2-ある。
ポーチの上には、かじられたハムが白い骨に
なって残っていただけだった。
この問題の日本の正答率は、34.2%であり、 OECD平均は37.1%である。最も正答率の高い カナダは50.7%である。完全正答を見ると、目 本は12.0%であり、OECD平均(20.5%)の半分 に近い。カナダの35.2%と比べると、三分の一 である。また、特筆すべきは、無回答の率の高 さ(40.7%)である。最も低いアメリカ(8.0%) の五倍にのぼる。(国立教育政策研究所、2002、 p.234) 正答率は完全正答だけではなく、部分正答も 含んでいるが、採点基準を見ると、部分正答は かなり不十分な回答も含んでいる。つまり、日 本では、この問七に関して、十全な回答ができ た15歳児は、約一割に過ぎなかったということ である。 2 Γ︲ 贈り物」の採点基準 この問題の「採点基準」は、国立教育政策 研究所(2002)の「付録」の中に記されている (p.234)。それによれば、完全正答(3点)につ いて、次のように記されている(下線は原文、 以下同じ)。 物語を文字通りに正確に理解し、その奥に示 された意味を解釈している。物語の主な関 係、論点または比喩を最後の文に関連づけ、 主題の完結性の点から結末を評価している。 ヒョウと女性の関係、生き延びること、贈り 物または感謝などについて答えてもよい。適 切かどうかの意見は、明記しても暗に示して いてもよい。 また、部分正答(2点)は、「物語を文字通り に正確に理解し、その奥に示された意昧を解釈 している。物語後半の全般的な文体や雰囲気を 最後の文に関連づけ、文体または雰囲気の点か ら結末を評価している。」としている。 部分正答(1点)は、「物語を文字通りに正確 に理解し、文字通りのレペルの答えを示している。実際にあった出来事を最後の文に関連づ け、物語の順序の点から結末を評価している。」 としている。
この国立敦育政策研究所(2002)は“Knowledge and Skills for Life"(OECD、2001)をもとにし た日本独自の編集になるものだが、原本には、 「付録」に相当する部分はない。この「付録」が OECDのどの報告書を訳したものかは明記され ていないが、OECD(2002b、pP.67 − 68)に該当 する箇所がある。先にふれたたように、そこで は解答例も示されているのだが、日本版では省 略されている。また、日本版の完全正答3点と 部分正答2点が、スコア2で、部分正答1点 が、スコア1と相違があるが、その理由は不明 である。 さて、この完全正答の採点基準の訳文はいさ さかわかりにくい。「物語の主な関係、論点ま たは比喩を最後の文に関連づけ、主題の完結性 の点から結末を評価している。ヒョウと女性 の関係、生き延びること、贈り物または感謝 などについて答えてもよい。」とあるが、原文
では、They should evaluate the ending in terms of thematic comPleteness、by relating the last sentence to centra1 relationshipsjssues or metaphors in the story.とある。「最後の文を、物語の中心の関 ---−・ヽ−--係、問題、または比喩と結び付けることによっ て(波線山本)」主題の完結性の点から結末を評 価しなくてはならない、と訳した方がわかりや すいだろう。「物語の中心の関係」が「ヒョウと 女性の関係」、(中心の)問題]が「生き延びるこ と」、「比喩」が「贈り物または感謝」ということ になる。 アメリカの読みの指導においては、小学校の 段階から、「物語の中心となる人物関係」や「物 語の中心となる問題」、あるいは結末における その「解決」について、ストーリーマップ(拙稿、 2006参照)等を用いて学習する。物語論に基づ いた物語の基本的な構造の学習である。このよ うに、物語の基本構造や表現効果(レトリッ列 の観点から、結末と主題とを結び付けて評価す ることが求められているのである。 さて、OECD(2002b)に示されている完全正 -3 答の例は以下のようである。 ・はい。物語は彼女が人生において真に本質 的な物と出会うように進んでいきました。 そしてきれいな白い骨はその象徴です。 ・はい。私は、ヒョウによってハムとして残 された物もまた贈り物であり、「共存共栄」 というメッセージだと思います。 ・はい。ハムは贈り物のようであり、それは 物語のテーマです。 ・はい。ハムの骨は私たちに女性に起こって いたかも知れないことを思い出させます。 ・それは適切です。なぜならその動物は彼女 にハムという、一種のお礼をしたからで す。 次に部分正答2点は、「一般的な文体や雰囲 気」(general style or mood)と結末とを関係づけ る場合である。 正答例として示されているものは、次のよう である。 ・はい、それは物語の語っている問題の事実 に適合しています。 ぺよい、何か不気昧な効果が持続します。 ・いいえ、物語のほとんどがとても詳絹に与 えられている時に、それは唐突すぎます。 先の完全正答3点と、部分正答の2点とは、 表現と結末とを結び付けている点では共通して いる。しかし、「主題の完結性」と結び付けて いるかどうかで、解答の深さに違いが生まれて いる。 一方、部分正答1点の場合は、「実際にあっ た出来事を最後の文に関連づけ、物語の順序 の点から結末を評価している。」「物語の顔序」 (narrative sequence)は、物語の最も基本的な要 素である。この解答例は、次のようである。 ・はい、それはあなたに、猫が食べ物を食ベ たかどうかの答えを与えます。 ・いいえ。肉についての部分はすでに終わり ました。 ・肉が終わったからそれは終わったのであ り、物語もそうです。 はい。今や、洪水はおさま れています。猫にとってと り 肉は食べら どまる理由はあ
山本茂喜 りません。 ・私はいい結末だと思います。なぜならそれ はヒョウがポーチにとどまっていたことを 証明しているからです。[字義通りのレペ ルで物語において出来事が“本当に起こっ た”ことを理解している。一原注、以下同 じ] ・いいえ、それは適切な終わり方ではありま せん、それは贈り物ではなく、とても危険 でした。[完全に字義通りの読みを示して いる。] ・雨の後だったことを書くのは適していま す。[洪水の終わりに反応している。] また、スコアOについては、まず、「不十分 か曖昧な答え」の例として、次のよう あげられている。 なものが それは効果的以上です。それは本当に衝撃 的です。 いいえ ん。 贈り物は結末に関係していませ
・いいえ。もっと何かエキサイティングな終
わり方の方がよかったかもしれない。[結
末を物語の残りに関係させていない。]
・骨を描写することによってそれは終わりま
す。
さらに、「素材の不正確な理解を示す答え、
あるいは信じられないあるいは的外れの答え」
として、次のような例があげられている。
・はい、それはすべてがただの夢だったこと
を示していました。(信じられない)
・いいえ、なぜなら読者はなぜ猫がいなく
なってしまったのか知らないから。 の欠如を示している) (理解 以上のように、次の四段階の採点基準となっ ている。 ①主題と関係づけている ②表現と関係づけている ③物語の順序と関係づけている ④不正確や的外れ これらの四つの観点から、評価のルーブリッ クを形成していることが分かる。 3.「熟考・評価」とはどのような力なのか さて、この問題の「プロセス」は、「熟考・評 価」である。「贈り物」に関しては、問1も「熟 考・評価」である。問1は、「以下は、「贈り物」 を読んだ二人の会話の一部です。」として、「話 し手1:ぼくは、物語のなかの女性は心が冷た く残酷だと思う。」「話し手2:どうしてそう言 えるの?私は、彼女はとても思いやりのある人 だと思うわ。」という会話を示し、「この二人が 自分の意見を証明するには、それぞれどう言え ばよいでしょうか。この物語からそれぞれの証 拠をさがして、次に示して下さい。」と問うも のである。 PISAにおける「熟考・評価」の「プロセス」 とは、どのIようなものなのか。「プロセス」と は、「読む行為のタイプ」(国立敦育政策研究 所、2002、p.12)のことであり、目青報の取り出 し」「テキストの解釈」と「熟考・評価」の三つ のタイプがある。「熟考・評価」(Renection& Evalution)とは、「テキストに書かれていること を知識や考え方、経験と結び付けること」(同、 p.33)とされている。 そもそも、PISAにおいては、読解力を、基本 的に「テキスト内部の情報を利用」することと、 「外部の知識を引き出す」ことに二分している。 そして、後者の、「外部の知識を引き出す」(同、 p.97)ことが、「熟考・評価」にあたるのである。 ここで注意すべきは、「外部の知識を引き出 す」ことには、「文脈に焦点を当てる」、すなわ ちテキストの「内容」の熟考・評価と、「構造に 焦点を当てる」、テキストの「形式」の熟考・評 価との二つがあることである。つまり「外部の 知識を引き出す」対象は、テキストの内容面と ともに、形式面にも及ぶのである。 そして、「内容について熟考・評価すること と形式について熟考・評価することの間の区別 は、実際のところ幾分恣意的であると考えられ たので、テキスト内容の熟考・評価とテキスト 形式の熟考・評価を下位尺度「熟考・評価」と した。」(同、P.104)とされている。 この「贈り物」の問7で問われているのは、 −4−主として形式面における「熟考・評価」と言え よう。結末というテキスト構造に焦点を当てた 設問なのである。 さて、問1の完全正答は習熟度レペル3 であり、問7の完全正答はレベル5である。 (OECD、2002a)「熟考・評価」におけるレペル 3とは、「テキストの特徴を結び付けたり、比 較したり、説明したり、評価したりすることが できる。身近な日常的知識との関連においてテ キストの詳細な理解を示したり、あまり一般的 ではない知識を導き出すことができる。」(国立 教育政策研究所、2004、p.110)とされている。 また、レペル5とは、「特殊な知識を使って批 判的に評価したり、仮説を立てたりすることが できる。予想に反した概念を処理し、長く複雑 なテキストに関する深い理解を導き出すことが できる。」(同)とされている。 また、各タイプに共通した「連続型テキスト」 全体におけるレベル5とは、「テキストの特定 の部分が暗示的主題や意図に対して待っている 関係性を見分けるために、論述構造が明確また は明白に特徴づけられていないテキストをうま く処理することができる。」(同)とされている。 以上のように見ると、この「贈り物」の問七 の設問の意図が見えてくる。 すなわち、「テキストの特定の部分が暗示的 主題や意図に対して持っている関係性を見分け る」ための問題であり、その関係性について「特 殊な知識を使って批判的に評価したり、仮説を 立てたりすることができる」ことを求められて いる。 つまり、次のような三つの段階の読解力が求 められていることになる。 ①テキストの暗示的主題や意図を読みとる ②テキストの特定の部分にの場合は鍛後の 一文)との関係性を読みとる ③内容と形式の両面において、「特殊な知識」 を使って批判的に評価する ここで問題となるのが、「特殊な知識」とは 何かと言うことである。 そもそも、「熟考・評価」とは、「外部の知識 を引き出す」ことであった。「特殊な知識」が、 その「外部の知識」ということになるのだろう。 それでは、どのような「知識」を用いて、ど のような「関係性」を読みとることが求められ ているのだろうか。 ここで、先に見た採点基準を振り返ってみよ う。そこでは、最後の一文を、「物語の中心の 関係、問題、または比喩」と結び付けることが 求められていた。これらが、問七における「外 部の知識」と読み取るべき「関係性」の骨子なの であろう。 この点についてさらに知るために、“Reading for Change”(OECD、2002a)における「熟考・ 評価」の解説を次に訳出することにする。
4.“Reading for Change・ における「熟考 価」の定翁
4.1.“Reading for Change”の訳
テキストの内容を熟考・評価する。 評
テキストの内容を熟考・評価することは、読
者がテキストで見つけた情報を、他のソースか
らの知識に結び付けることを必要とする。
また、読者は世界に関する彼ら白身の知識に
対して、テキストにおいてなされた異議を評価
しなければならない。
しばしば、読者は、彼ら自身の観点を明確に
表現して、防御するように求められる。
そうするためには、読者は、テキストで言わ
れていて、意図されていることを理解していく
ことができなければならない。そして彼らがも
ともと知っている情報か、あるいは他のテキス
トで見つけた情報かのどちらかに基づいて、彼
らが知っていて、信じていることに対するその
心的な表象をテストしなければならない。
読者は、テキストの中の支持している証拠を
引き出すとともに、それを他の情報源と比較し
なければならない、抽象的に推論する能力と同
じように、一般的かつ特別な知識を使用して。
このプロセスのカテゴリを代表している評価
課題は、テキストの外から証拠あるいは反論を
5山本茂喜
提供することを、情報あるいは証拠の特定の断
片の関連性を評価することを、あるいは道徳的
ないし美的な規範との比較を導き出すことを含
んでいる。
受験者は、作者の議論を強化するかもしれな
い代わりの情報を提供する、あるいは、特定す
ること求められるかもしれない。あるいはテキ
ストにおいて提供された証拠あるいは情報が十
分であるかを評価することを。
テキストの情報が関連づけられている外部の
知識は、受験者白身の知識から来ているかもし
れないし、評価において提供された他のテキス
トからかもしれないし、設問において明らかに
提供された考えからかもしれない。
テキストの形式を熟考・評価する。このカテゴリにおける課題は、読者に、テキ
ストから離れ、それを客観的に考え、その質と
適切さを評価することを求める。
テキスト構造、ジャンル、およびレジスタ
(言語形態一訳注)のような事柄に関する知識
はこれらの課題で重要な役割を果たす。
作者の技法の基礎を形成するこれらの特徴
は、この種の課題に固有のスタンダードの理解
において重要な役割を果たす。
作者がいくつかの特徴を描くか、または読者
を説得することにおいて、どれくらい成功して
いるかを評価することは、実質的な知識による
だけではなく、言語においてニュアンスをみつ
ける能力にもよるーたとえば、形容詞の選択が
解釈を彩色するかもしれないような時を理解す
ることのような。
テキストの形式を熟考し評価することの特色
を示す評価諜題のいくつかの例は、指定された
目的のために特定のテキストの効用を決定する
こと、そして特定の目標を達成することにおけ
る作者の特定のテキスト上の特徴の使用を評価
することを含んでいる。
また、受験者は、作者のスタイルの使用、お
よび作者の目的と態度が何であるかということ
を特定するか、または批評することを要求され
るかもしれない。(32−33頁) 4.2.テキストの形式における「外部の知識」 以上のように、まず、テキストの内容面にお ける「外部の知識」とは、「世界に関する」読者 自身の知識であり、「他のテキストで見つけた 情報」や「設問において明らかに提供された考 j えあるいは「道徳的ないし美的な規範」であ
る。 一方、テキストの形式面における「外部の知 識」とは、「テキスト構造、ジャンル、および レジスタ(言語形態・言語使用域)のような事 柄に関する知識」であり、それは「作者の技法 の基礎を形成する」ものである。それらを用い て、「特定の目標を達成することにおける作者 の特定のテキスト上の特徴の使用を評価する」 ことが求められている。そしてそのためには、 「作者の目的と態度が何であるかということを 特定するか、または批評する」ことが必要とな るのである。とくに「贈り物」のような物語の 場合、テキスト構造や言語形態に関する知識、 さらにそれらを基礎とする「作者の技法」に関 する知識が「外部の知識」ということになろう。 そして、それらと、「作者の目的と態度」、すな わち文学作品で言えば、主題、語り手の「態度」 や雰囲気(トーン)、モードとの「関係性」を読 み取ることが、「熟考・評価」の読みなのである。 では、そのような「熟考・評価」の読みのテ ストである「贈り物」の問七においては、具体 的にはどのような読みが求められているのか。 「贈り物」における正答について、“Reading for Change” にさらに詳しく説明されているの で、続いて訳出する。5バReading for Change” における「贈り物」 の解答例
満点のためには、読者は字義通りの解釈を
超えなくてはならない(太字原文、以下同じ)。
そして、テキストを批判的に評価することを求
められる。長く複雑なテキストについての専門
−6−化された知識と深い理解を利用して。読者は、
一般的なテーマあるいはモード(雰囲気一訳注)
にどのように結びついているかを熟考すること
によって、物語の結末の適切さについて批判的
に批評する必要がある。読者は、明らかに述ベ
られてはいないが、読書の問に活性化された考
えを利用して、椎論を引き出す必要がある。読
者は、結末を「適切」にしている内面化された
感覚に基づく答えに絶対的に基づいていなけれ
ばならない。そしてこのレベルの答えのために
言及された標準は、表面的で字義的であるより
も、深く抽象的である。例えば、満点の答え
は、骨の暗喩(メタファー)的な意昧、あるい
は、結末の主題的な完全さについて述べている
かもしれない。これらの概念は、正式な文学の
考えにもとづいて引き出したもので、15歳のた
めの専門化された知識と見なすことができる。
物語の解釈の範囲は満点の答えの以下の例に示
されている。
「はい。私は、豹によってハムとして残さ
れたものは、共存共栄というメッセージと
いう贈り物でもあったと思います。」
「私は結末は適切であると思います。なぜ
なら、私は豹は洪水を止めるための贈り物
だったと信じるからです。彼女が豹をうっ
かわりにそれを与えたから洪水は止まった
のであり、そしてほとんどミステリーのよ
うに、ポーチに肉の残りが置かれていま
す、まるでありがとうのように。」
「洪水は終わった、そして残されたすべて
のものは損害であり、基本的には、それが
最終行が述べていることだ、すなわち、骨
の白さは、ハムの残されたすべてだった」
部分点のためには、課題は、物語におけるそ
の一貫性について批評することによって、生徒
がもっと字義的なレベルで結末の適切さを評価
することを必要とする。満点の答えの範躊のよ
うに、部分点の範躊もまた結末における遺切さ
を構成するものについての考えに基づいた評
価(肯定的であれ否定的であれ)を必要とする。
しかし、部分点の答えは、物語の表面的な特徴
について言及する、例えば、プロットの一貫性
一7−といった。このスコアカテゴリ(レペル4)の
相対的な困難さは、答えが、どのような形であ
れ適切性の形式上の基準に言及しなければなら
ないという事実を反映している。そして、おそ
らく、もっと重要なことには、それが長く複雑
なテキストの正確な理解を示さなくてはならな
いという事実を。部分点の答えのいくつかの例
は次のようだった。
「私はそれはかなり良い結末だと思う。彼
女がそれに食べ物を与えたとき、すべてが
良くなった。動物は、彼女を放っておき、
すべては変わった。]
「はい、肉が終わったので、それは終わっ
た。そして物語もそうだ。」
「私は、それは愚かな結末だったと思う、
それは愚かな物語を終わらせるのにぴった
りだ!もちろんハムは食べられるだろう。
私はそれを知っていたが、作者がわざわざ
それに言及するほど愚かだとは決して考え
なかった」
これらの例に見られるように、そして似たよ
うな課題においても同様なように、クレジット
(単位一訳注)は、積極的な評価でも否定的な
評価でも両方に適用できる。答えの妥当性は、
テキストに対する洞察の質と、批評の道具の洗
練性に応じて判断される。読者の側の、「正し
い」あるいは「間違った」観点のどんな考えより
も。
この課題に対するいくっかの答えには、どん
なクレジットも与えられなかった。これらは、
つぎのような、信じがたいか、あるいは全くの
不正確な読みを含んでいた。
「私はそれは適切な結末だと思う。もしか
したらけっして豹はいなかったことをそれ
は示している。そして彼女が窓から投げた
ハムがまだそこにあることがこの点を証明
している。」
そして次のような返答は、あまりに漠然とし
ていると考えられる。
「はいそうです。なぜなら、それはあなた
に最後に何が起こったのかを語っているか
らです。」 (58−59頁)
6 「批評の道具」とは 山 本 茂 喜 おわりに 以上のように、結末の一文から、「骨の暗喩 (メタファー)的な意昧、あるいは、結末の主 題的な完全さ」を読み取り、「一般的なテーマ あるいはモード(雰囲気)にどのように結びつ いているか」を批評することが求められている。 具体的には、[共存共栄というメッセージ]で あり、「贈り物」「感謝」「損害」というような メタファーの解釈を読み取り、主題と結び付け ることである。 もとより、「積極的な評価でも否定的な評価 でも」いいのであり、「答えの妥当性は、テキ ストに対する洞察の質と、批評の道具の洗徐吐 に応じて判断される」のである。 ここで、[批評の道具]とあることに注意し たい。要するに、主題を「洞察」「推論」し、「批 評の道具」を用いて、結末の適切性を評価する のである。 「物語の解釈の範囲」とあるが、メタファー の読みの妥当性は、それによって判断される。 先に見たように「物語の中心の関係」が「ヒョ ウと女性の関係」、「(中心の)問題」が「生き延 びること」である。この物語の場合、中心人物 の女性の「問題」かつ「目的」は、「生き延びるこ と」であり、中心の関係は、ヒョウとの関係で ある。この関係は、「敵対」から「共感・親和」 に変化している。 これがこの物語の基本的な「テキスト構造」 であり、そこから主題も仮定される。すなわ ち、「生存」あるいは「動物との共感」という「解 釈の範囲」が想定される。 そして、「白い骨」のメタファーの読みもま た、「生存」あるいは「動物との共感」をめぐる 範躊のものに限定されよう。(また、二項対立 として、「破滅」や「動物による殺害」という反 対の意昧を読みとってもよいかもしれない。) このように「批評の道具」とは、この場合、 メタファーという知識であり、テキスト構造の 把握の方法である。 これらの道具の使用力が問われているのであ る。
ここでもう一度、「贈り物」の問七の正答の
ために必要とされている読みの過程を整理して
みよう。
①中心人物の問題、中心人物と登場人物の関
係、語り手の目的、態度などを読み取る。
②①をもとに、テキストの暗示的主題や意図
を読みとる
③メタファーなど、テキストの特定の部分と
主題の関係性を読みとる
④その効果について、内容と形式の両面にお
いて、批判的に評価する。
このように見ると、現在の我が国の文学教材
の読みに欠けている読解力の具体が明らかにな
る。第一に、テキスト構造に関する知識、そ
して次に、それに基づいた主題の仮定、メタ
ファーや卜−ンなどのレトリックを、仮定した
主題に結び付けて評価すること、である。
これらが物語文におけるPISA型「読解力」に
おける「批評力」の内実であり、これらの指導
がなされてこなかったために、問七に答えられ
なかったのである。
テキスト構造というトップダウン型の指導が
行われていないこと。また、個性尊重や読者論
の流行によって、主題の仮定が行われていない
こと。したがって、主題と細部の表現との関係
性が読み取られていないこと、またその効果を
批評する学習がなされていないこと。これら
が、物語文における批評的な読みの力の欠如の
要因である。
〈引用文猷〉゜OECD,2001,“Knowledge and Ski】ls for Life” Paris, France
・ OECD.2002a,“Reading for Change : Perfornlance and Engagement across Countries Results from PISA 2000” Paris, France
‘OECD,2002b,“Programme for lnternational Student Assessment” Paris,France
・国立教育政策研究所編,2002,2005,5版,『生き るための知識と技能』ぎょうせい
・国立教育政策研究所監訳,2004,2005再版,『PISA 2003年調査 評価の枠組み』ぎょうせい ・石原千秋,2005,『国語教科書の思想』ちくま新書 ・文部科学省,2006,『読解力向上に関する指導資 料』束洋館出版社 ・山本茂喜,2006,「フィンランド国語敦科書におけ る「物語の構造」の学習についてーその系譜と意義 −」『香川大学国文研究』31号 *本稿は、平成18年度香川大学教育学部研究開 発プロジェクトによる研究成果の一部であ る。 一 Q J 一