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樋口 埴田 藤島 : 達成動機づけと締め切りまでの時間的距離感が計画錯誤に及ぼす影響 参加者に計画遂行に関する理想的なシナリオ 悲観的なシナリオ 現実的なシナリオを書かせた その結果, 悲観的なシナリオ条件ではそのシナリオが妥当ではないと判断され, 他の条件と同様に計画錯誤がみられた 第 2 に,

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〔資 料〕

達成動機づけと締め切りまでの

時間的距離感が計画錯誤に及ぼす影響

樋 口   収       埴 田 健 司       藤 島 喜 嗣

一橋大学大学院社会学研究科 一橋大学大学院社会学研究科 昭和女子大学大学院生活機構研究科

要   約

本研究は,達成動機づけと締め切りまでの時間的距離感が計画錯誤に及ぼす影響について検討した。計画 錯誤は,課題の遂行を楽観的に予測するために生じるといわれている。先行研究は,予測時の動機づけが予 測を楽観的にし,また時間的距離感は楽観的予測を調整することを示唆している。そこで本研究は,48 人の 参加者に動機づけの操作のための乱文再構成課題(達成プライミング vs. 誘惑プライミング)と期末テスト までの時間的距離感に回答してもらい,また期末テストのための勉強時間を予測してもらった。その後,テ スト当日に,実際に行った勉強時間について回答してもらった。その結果,達成プライミング条件の参加者 は,誘惑プライミング条件の参加者に比べて,勉強時間をより楽観的に見積もり,計画錯誤が生じていた。 またこの傾向は,時間的距離感により調整されており,テストまでの時間的距離感が遠い場合にのみ,この 傾向はみられた。最後に,計画錯誤における動機づけと時間的距離感の影響および今後の研究の可能性につ いて考察した。 キーワード:計画錯誤,解釈レベル理論,達成動機づけ,時間的距離感 問題と目的 計画錯誤とその生起過程 私たちは,何らかの目標を達成するために計画を立て る。例えば論文を書くとき,締め切りに間に合うように 書くために,計画を立てる。論文を締め切り通りに書く ためには,適切な計画を立てる必要があるが,適切な計 画を立てることはそれほど容易ではない。実際,物事が 計画通りに進まなかったという経験は,誰しもあるだろ う。このように,実際よりもはやく課題遂行を見積もる といった楽観的な予測をする傾向は,計画錯誤(planning fallacy)と呼ばれる(Kahneman & Tversky, 1979)。計画 錯 誤 は こ れ ま で,卒 業 論 文 や 講 義 の 課 題 の 完 成 日 (Buehler, Griffin, & Ross, 1994),クリスマスプレゼントの 購入にかかる時間(Kruger & Evans, 2004)や授業に出席 するコマ数(村田・高木・高田・藤島,2007)といった 様々な課題で頑健にみられている。 一般に,将来を予測するときには,他者の情報や過去 経験といったベースレート情報を考慮せずにシナリオが 作成される(Dunning, 2007)。計画錯誤も同様の過程を経 て生起すると考えられている。Buehler et al.(1994)は, 参加者に課題遂行の予測をする際に考えていることを発 話させた。その結果,発話されたほぼすべての思考が, 課題を終了させるまでの計画やシナリオに関することで あり,過去の課題がどうであったかに言及したのはごく わずかであった。さらに,類似した過去の(失敗)経験 を想起させても計画錯誤は生じていた(Buehler et al., 1994; 村田他,2007)。これらの知見は,ベースレート情 報を無視したシナリオの作成が計画錯誤の生起因である ことを示唆している。 将来の予測に用いられるシナリオには,少なくとも 2 つの特徴があると考えられている(Dunning, 2007)。第 1 に,シナリオは理想を追い求めたものになりやすい。 Newby-Clark, Ross, Buehler, Koehler, & Griffin(2000)は,

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参加者に計画遂行に関する理想的なシナリオ・悲観的な シナリオ・現実的なシナリオを書かせた。その結果,悲 観的なシナリオ条件ではそのシナリオが妥当ではないと 判断され,他の条件と同様に計画錯誤がみられた。第 2 に,シナリオ作成の際には具体的事象が考慮されにくく, 結果としてシナリオは抽象的なものになりやすい。例え ば,先述のように,将来起こり得る障害という具体的な 事象を想起させても,計画錯誤はみられる(Buehler et al., 1994; 村田他,2007)。また Kruger & Evans(2004)は, 参加者に,クリスマスプレゼントとして誰に何を買うか といったような,課題遂行の具体的な手続きを予測前あ るいは予測後に尋ねた。その結果,予測前に尋ねた場合 にのみ計画錯誤は低減していた。これらの結果は,予測 をする際のシナリオでは,少なくとも自発的には具体的 な事象は考慮されず,抽象的なものになる可能性を示唆 している。 このように,シナリオを作成する際,ネガティブな事 象や具体的な事象は考慮されにくく,結果としてシナリ オは理想的で,具体的な事象を考慮しない抽象的なもの になりやすい。すなわち,計画錯誤が生じるのは,理想 的で抽象的なシナリオを作成し,それにもとづいた予測 を行うためだと考えられている(Dunning, 2007)。 シナリオ作成時における動機づけの影響 しかし,どのように理想的で抽象的なシナリオが作成 されるのかについては,必ずしも明らかではない。ただ し,シナリオの理想性については,1 つの可能性として, シナリオ作成時の動機づけの影響が考えられる。実際, Kunda(1990)は,動機づけがある結論に対して確証的 な情報処理を導くことを指摘している。計画を立てると いう行為自体,何かを成し遂げようと動機づけられてい ること(達成動機づけ)の所産であるとみなせるならば, 課題をうまく達成できるようなシナリオを確証的に作成 し,反証事例となる,課題達成を妨げるようなネガティ ブな事象は考慮されにくいのかもしれない(Buehler, Griffin, & MacDonald, 1997)。

Buehler et al.(1997)の研究は,シナリオ作成時の動 機づけに注目した数少ない研究である。彼らは,研究 1 で,税還付を期待する参加者が,期待しない参加者に比 べて,確定申告を早く済ませると回答し,計画錯誤を生 じさせることを示している。また研究 2 では,直近の課 題遂行に対して,早期終了の誘因を操作した。その結果, 早期終了の誘因が,予測時に過去経験や将来の障害につ いて考えさせず,課題完成予測を楽観的にしていた。こ のように Buehler et al.(1997)の研究は,動機づけが計 画錯誤に影響を及ぼすことを示唆している。 Buehler et al.(1997)の研究は先駆的だが,問題点も ある。第 1 に,彼らの研究 2 では計画錯誤は明瞭に見ら れておらず,計画錯誤に及ぼす動機づけの影響は必ずし も明白でない。さらに,動機づけの操作が直接的な教示 でなされているため,要求特性の結果である可能性もあ る。そのため,Buehler et al.(1997)とは異なる方法で 計画時の動機づけを操作し,再検討する必要があるだろ う。そこで本研究は,計画錯誤に及ぼす動機づけの影響 を検討することを第 1 の目的とする。Bargh(1990)は, 行為の動機もまたスキーマやカテゴリーといった他の知 識構造と同様に,心的に表象され,環境刺激によって自 動的に作動するという自動動機論(auto-motive theory) を提唱している(cf. 池上,2001)。及川(2007)は,この 理論にもとづき,乱文再構成課題によって達成動機づけ を操作し,達成動機づけが課題遂行量に及ぼす影響を検 討している。その結果,達成動機づけをプライミングさ れた(達成プライミング)条件では,達成行動を阻害す るような動機づけをプライミングされた(誘惑プライミ ング)条件よりも,課題遂行量が増えていた。このこと は,乱文再構成課題による達成動機づけの操作が有効で あることを示している。本研究は,この及川(2007)の 手続きを用いて,シナリオ作成時の達成動機づけが計画 錯誤に及ぼす影響について検討することとした。 計画錯誤の調整要因:時間的距離感(subjective temporal distance)の影響 計画錯誤は,シナリオを作成する際に,課題遂行を妨 げるようなネガティブな事象は考慮せず,達成動機づけ にもとづく理想的なシナリオを作成するために生じてい る可能性が考えられる。しかしながら,常にシナリオ作 成時の動機づけにもとづくシナリオが作成されるわけで はないだろう。

Trope & Liberman(2003)は,心理的距離――時間的・ 空間的・社会的距離など――に関する包括的理論として, 解釈レベル理論(Construal Level Theory)を展開してい る(see also, Liberman, Trope, & Stephan, 2007)。この理 論によれば,明日の自分を想像するよりも 10 年後の自 分を想像することの方が難しく,そこで想像される 10 年 後の自分は,明日の自分に比べて抽象的なものになりや すい。つまり,当該対象との心理的距離があるほど,そ の対象は抽象的に解釈される。 加えて,当該対象との心理的距離は,判断の際に用い ら れ る 情 報 に も 影 響 を 及 ぼ す。例 え ば,Nussbaum, Liberman, & Trope(2006)は,テストに対する自信を回

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答する際,テストまでの時間的距離によって用いられる 情報が異なることを示している。すなわち,テストまで の時間が近いと告げられた場合(15 分後)にはテストの 形式(e.g.,選択肢の数)などの具体的な情報の影響が みられるが,遠いと告げられた場合(1ヵ月後)には具 体的な情報の影響はみられなかった。このように,当該 対象に関する具体的な情報は,当該対象との時間的距離が 近い場合に考慮されやすく,時間的距離が遠い場合には 考慮されにくい(cf. Shepperd, Sweeny, & Carroll, 2006)。

このことを計画錯誤の文脈で捉えなおすと,課題の締 め切りまでの時間的距離は,シナリオの抽象度に影響を 及ぼすと考えられる。すなわち,課題の締め切りまでの 時間的距離が遠い場合には,具体的な事象を考慮しにく いため,相対的にシナリオは抽象的になると考えられる。 また具体的な事象を考慮しにくいことは,シナリオ作成 に及ぼす動機づけの影響を相対的に強めると考えられ る。他方で,時間的距離が近い場合には,具体的な事象 を考慮しやすいため,シナリオは具体的になり,またシ ナリオ作成に及ぼす動機づけの影響は弱まると考えられ る。すなわち,計画錯誤に及ぼすシナリオ作成時の動機 づけの影響は,締め切りまでの時間的距離によって調整 されると予測される。計画錯誤の研究はこれまで,締め 切りまでの時間的距離が比較的遠い,卒業論文や確定申 告の書類の提出といった事象を対象としており,達成動 機づけの影響がみられやすい状況で検討されてきたと解 釈することができる。そのため,先行研究の知見は,計 画錯誤が時間的距離により調整されるという予測とも矛 盾しないと考えられる。 しかしながら,時間的距離という変数は,課題を提示 してから締め切りまでの物理的な時間が一定であるため か,計画錯誤に関する研究では検討されてこなかった。 他方で,物理的な時間的距離が同じであっても,時間的 距離の主観的感覚(以下,時間的距離感)が異なり得る ことが示されている(Ross & Wilson, 2002)。このことは, 課題の締め切りまでの時間的距離感が計画錯誤に影響を 及ぼす可能性を示唆している。そこで本研究は,課題の 締め切りまでの時間的距離感が計画錯誤に及ぼす動機づ けの影響を調整するかどうかを検討することを第 2 の目 的とする。 本研究の概要と仮説 本研究は,予測時の達成動機づけと課題の締め切りま での時間的距離感が計画錯誤に及ぼす影響について検討 するために,講義内に行われる定期試験を利用した。参 加者は,まず 1ヵ月後にある学期末テストのための勉強 時間を予測し,その後テスト中に実際の勉強時間を回答 した。この予測の勉強時間と実際の勉強時間の差分を計 画錯誤の指標とした。また,時間予測時に,及川(2007) のプライミング手続きを用い,達成動機づけを操作した。 加えて,Ross & Wilson(2002)の手続きに則り,テスト までの時間的距離感を尋ねた。本研究の仮説は次のよう になる。達成プライミング条件は,誘惑プライミング条 件に比べて,計画錯誤量が大きいだろう。ただし,この プライミング効果は,テストまでの時間的距離感が遠い 場合に限られ,近い場合にはみられないだろう。 方   法 参加者 東京都内の美術大学に通う大学生 48 名(男性 9 名,女 性 39 名,平均年齢=19. 71 歳)が実験に参加した。乱文 再構成課題を用いたため,日本語が母語でない留学生 3 名 を除き,45 名(男性 8 名,女性 37 名,平均年齢=19. 44 歳)を分析対象とした。 手続き 学期末テスト 1ヶ月前の講義時間内に 2 種類の質問紙 をランダムに配布し,達成プライミング条件(n=22)と 誘惑プライミング条件(n=23)に割りあてた。匿名性を 保証し,実験の説明および回答上の注意の説明を行った 後,各自のペースで回答させた。回答の所要時間は 15 分 程度であった。 質問紙の構成は,次の通りであった。まず参加者に「複 数の課題を含む質問紙」であると教示し,質問紙に丁寧 に回答するよう求めた。質問紙の最初は,日本語の「語 彙課題」であるとし,括弧内に示された 5 語のうちから 4語を用いて 1 文を作る乱文再構成課題 10 問に回答させ た(動機づけの操作:達成プライミング条件「今回は特 にベストを尽くしたい」vs. 誘惑プライミング条件「今日 はいつもよりゲームで遊びたい」)。なお乱文再構成課題 は,及川(2007)の乱文再構成課題をもとに作成し,プ ライミングに関連する語を文章に含めるもの 5 問,含め ないもの 3 問,およびフィラー項目として条件間で共通 のもの 2 問から構成されていた(付録参照)。 次に学期末テストに関するアンケートとして,テスト までの時間的距離感ならびにテスト勉強時間について回 答させた。テストまでの時間的距離感は,「1ヵ月後の心 理学のテストの日のことを想像し」た上で,2 項目 9 点 尺度に回答させた。具体的な質問項目は,Ross & Wilson (2002)に則り,「テストの日がどれくらい先に感じるの か」に,1(非常に近くに感じる)~ 9(非常に遠くに感

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じる),1(まだまだ先のように感じる)~ 9(もうすぐそ このように感じる)で回答させた。時間的距離感に回答 後に,テスト勉強時間について回答(予測)させた。具 体的には,「テスト勉強にどれくらい時間を使うつもりで すか」という質問項目に対して,「( )時間」という形 で回答させた。その他の項目として,テストに対する不 安,およびテストの重要度に回答させたが(それぞれ 1 項目 7 点尺度),本研究の主たる分析には用いなかった。 テスト当日の質問は,テストの 1 週間前にテスト内に テスト勉強に関する質問項目があると説明した上で行っ た。質問の内容はテストの中に含まれ,テストの冒頭に 実際に行ったテスト勉強時間を時間単位で回答させた。 テスト当日,当該質問項目に関する説明は行わなかった が,特に参加者からの質問はなかった。 結   果 時間的距離感に関する項目を値が大きいほど遠くに感 じているように逆転し,2 項目の相関を求めた。その結 果,項目間に強い正の相関がみられたため(r(43)=.88, p<.01),2 項目の平均値を算出して時間的距離感の指標と した(M=5. 91, SD=1. 91)。また予測された勉強時間量 (M=2. 40, SD=1. 76)から実際の勉強時間量(M=1. 54, SD=1. 22)を引いたものを計画錯誤量の指標とした (M=.83, SD=1. 79)。 動機づけとテストまでの時間的距離感が計画錯誤に及 ぼす影響を検討するために,プライミング条件を示す変 数をエフェクトコーディングし(達成プライミングを +1,誘惑プライミングを –1),全体の平均値とケース得 点の差をとってセンタリングした時間的距離感1),および 交互作用項としてそれらの積を説明変数,計画錯誤量を 基準変数とした重回帰分析による分析を行った。まずモデ ルが有意傾向であり(R2=.17, F(3, 36)=2. 52, p<.08 2)), プライミング × 時間的距離感の交互作用のみが有意で あった(B=.33, t=2. 37, p<.05)。プライミングの主効果 (B=.31, t=1. 17, ns.),時間的距離感の主効果は有意では なかった(B=.11, t<1, ns.)。この交互作用効果を解釈す るために,プライミングと時間的距離感から予測される 計画錯誤量を表 1 に示した。時間的距離感得点が平均 ±1SDの地点でのプライミング効果を simple slope analy-sisにより検定したところ,時間的距離感を遠くに感じた 場合(+1SD)には,達成プライミング条件(予測値= 2. 14)の方が誘惑プライミング条件(予測値=0. 24)に 比べて,計画錯誤量が有意に大きかったが(B=.95, t= 2. 53, p<.05),時間的距離感を近くに感じた場合(–1SD) には,達成プライミング条件(予測値=0. 40)と誘惑プ ライミング条件(予測値=1. 06)の間に有意差はみられ なかった(B=–.33, t<1, ns.)。 プライミングにより活性化した動機づけが予測された 勉強時間量,実際の勉強時間量それぞれに影響を及ぼし たかどうかを検討するために,予測された時間量,実際 の時間量のそれぞれを基準変数として,同様の重回帰分 析を行った。 まず予測時間量を基準変数とした分析を行ったと こ ろ,モデルが有意であり(R2=.25, F(3, 37)=4. 18, p<.05),プライミング × 時間的距離感の交互作用効果の みが有意であった(B=.41, t=3. 20, p<.01)。プライミン グの主効果(B=.35, t=1. 47, ns.),時間的距離感の主効果 は有意ではなかった(B=.04, t<1, ns.)。この交互作用効 果を解釈するために,プライミングと時間的距離感から 予測される予測時間量を表 1 に示した。時間的距離感得 点が平均 ±1SD の地点でのプライミング効果を simple 1)各プライミング条件の平均値とケース得点との差をとってセンタリングし,分析した場合も同様の結果で あった。 2)一般に,計画錯誤は予測時に遂行量を過大に見積もることにより生じると考えられている。本研究も同様に, 達成動機づけと時間的距離感は予測された勉強時間量に影響を及ぼし,実際の勉強時間量には影響を及ぼさ ないと考えている。そのため,予測された勉強時間量から実際の勉強時間量を引いた計画錯誤量得点に対す る,達成動機づけと時間的距離感の説明力が弱い可能性がある。この点については,以下の分析で示す,達 成動機づけと時間的距離感が遂行量の予測,および実際の遂行量に及ぼす影響の結果も併せて解釈していた だきたい。 表 1 プライミングと時間的距離感の組み合わせごとの予測時 間,実際時間,錯誤時間の予測値 達成プライミング 誘惑プライミング 主観(近) 主観(遠) 主観(近) 主観(遠) 予測時間 1. 97 3. 73 2. 84 1. 47 実際時間 1. 65 1. 55 1. 64 1. 25 錯誤時間 0. 40 2. 14 1. 06 0. 24 注)主観的(近)=時間的距離感平均値–1SD,主観的(遠) =時間的距離感平均値+1SD

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slope analysisにより検定したところ,時間的距離感を遠 くに感じた場合(+1SD)には,達成プライミング条件 (予測値=3. 73)の方が誘惑プライミング条件(予測値 =1. 47)に比べて予測時間量が有意に大きかったが (B=1. 13, t=3. 33, p<.01),時間的距離感を近くに感じた 場合(–1SD)には,達成プライミング条件(予測値= 1. 97)と誘惑プライミング条件(予測値=2. 84)の間に 有意差はみられなかった(B=–.44, t=–1. 27, ns.)。 次に実際時間量を基準変数とした分析を行ったとこ ろ,モデルが有意でなく(R2=.02, F(3, 36)<1, ns.),また いずれの効果もみられなかった(表 1; プライミングの主 効果:B=.08, t<1, ns.; 時間的距離感の主効果:B=.07, t<1, ns.; 交互作用効果:B=.04, t<1, ns.)。 考   察 本研究の結果,プライミングの主効果はみられなかっ た。しかし,プライミングと時間的距離感の交互作用が 計画錯誤量においても,予測時間量においてもみられた。 すなわち,計画錯誤に及ぼす動機づけの影響は,時間的 距離感によって調整されていた。計画錯誤に及ぼす動機 づけの影響は,時間的距離感が遠い場合にのみみられ, 計画錯誤量は誘惑プライミング条件よりも達成プライミ ング条件で大きかった。これらのことは,本研究の仮説 を概ね支持していた。そこで,以下では,主として計画 錯誤における動機づけの影響と時間的距離感の影響につ いて議論する。 達成動機づけの影響 本研究の第 1 の目的は,動機づけが計画錯誤に及ぼす 影響を検討することであった。計画錯誤は,理想的で抽 象的なシナリオにもとづくために生じると考えられてい るが(Buehler et al., 1994; Dunning, 2007),本研究ではそ のようなシナリオ作成の一因として,シナリオ作成時の 動機づけの影響を想定した。時間的距離感が遠い場合の, 計画錯誤量および予測時間量の結果は,シナリオ作成に 動機づけが影響を及ぼすことを示唆している。Kunda (1990)が示唆するように,動機づけを確証するような 理想的なシナリオを作成し,反証となるネガティブな事 象は考慮されにくかったのかもしれない。このように, 計画錯誤の研究において達成動機づけの影響に注目する ことは,計画錯誤の頑健性を理解する上で有効であろう。 すなわち,計画を立てるという行為自体,達成動機づけ の所産であるとすれば,計画錯誤は必然的に生じるもの だといえる。ただし,本研究では予測に用いられたであ ろうシナリオの内容を測定していない。そのため,達成 動機づけが予測のためのシナリオを理想的なものにした のかを直接検討できていない。この点に関して,今後の 検討が必要である。 本研究では,動機づけの操作として及川(2007)の乱 文再構成課題によるプライミング手続きを用いた。その 結果,本研究における動機づけの効果は予測時間量でみ られ,実際時間量ではみられなかった。及川(2007)で はプライミングが実際の行動に影響を及ぼしていたが, これは,プライミング直後に課題を実施したためだと考 えられる。他方,本研究ではプライミングから行動の開 始までに約 1ヶ月の時間間隔があり,その間にプライミ ング効果は減衰し,実際の勉強量には影響を及ぼさな かったと考えられる。あるいはまた,そもそもプライミ ング効果が微弱で一時的なものであった可能性もある。 そして,このために,プライミングの主効果がみられな かったのかもしれない。 これらのことから,本研究で計画錯誤がみられたのは, 達成動機づけが一時的に高められたためであり,慢性的 に達成動機づけが高い場合には,実際の遂行量も多くな りやすく,その結果,計画錯誤が低減すると考えられる かもしれない。しかし,慢性的達成動機づけは,予測時 のシナリオ作成にも,より影響を及ぼす可能性がある。 このような場合,慢性的動機づけは実際の課題遂行を促 進する一方で,予測も楽観的にすると考えられる。その ため,ある程度の計画錯誤がみられることになるだろう。 これらの点を詳細に検討するためには,達成動機づけの 個人差(e.g.,堀野,1987)などを測定した研究が必要 である。 また,上記の可能性によって本研究の意義が著しく損 なわれるわけでもないだろう。「思い立つ日が吉日」とい う慣用句があるように,何かをきっかけに計画を立てる ということは,日常の場面ではよくみられる。また Bargh (1990)が主張するように,我々が環境刺激から自動的 に影響を受けていることを考慮すると,本研究の知見が 限られた状況においてのみ,みられる現象だとは考えに くい。その意味では,本研究の知見はさまざまな日常場 面において広く適用し得ると考えられる。 時間的距離感の調整効果 本研究の第 2 の目的は,時間的距離感が計画錯誤に及 ぼす影響を検討することであった。これまで計画錯誤の 研究では,物理的な時間的距離が一定であるため,時間 的距離という変数はこれまで考慮されてこなかった。本 研究では,解釈レベル理論(Liberman et al., 2007; Trope & Liberman, 2003)にもとづき,時間的距離感に注目す

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ることで,時間的距離の影響を検討した。その結果,時 間的距離感が計画錯誤量を調整していた。時間的距離感 は,作成されるシナリオの抽象度に影響を及ぼし,時間 的距離感が遠い場合には動機づけの影響を受けた抽象的 なシナリオを作成させたと考えられる。他方で,時間的 距離感が近い場合には,具体的な事象が考慮されること になったと考えられる。そのため,相対的に達成動機づ けの影響は弱まったのだろう。このような結果は,解釈 レベル理論の想定を支持しており,実際の時間的距離が 同じ場合でも,時間的距離感を考慮する必要があること を意味している(cf. Wilson & Ross, 2003)。ただし,本研 究では,予測時に具体的な事象をどれだけ考慮していた かを測定していない。そのため,時間的距離感が近い場 合に動機づけの影響が弱まる過程を直接検討できていな い。この点については,今後の検討が必要である。 また,本研究では,時間的距離感の源泉について検討 しなかった。すなわち,どのような場合に将来の出来事 を近くに感じたり,遠くに感じたりするのかが明らかで はない。本研究の文脈では,時間的距離感の源泉として, いくつかの可能性が考えられる。第 1 に,達成動機づけ が時間的距離感に影響を及ぼしている可能性が考えら れる。ただし,本研究では達成プライミング条件と誘惑 プライミング条件との間に有意な差はみられておらず (t<1, ns.; M=5. 98 vs. M=5. 96),少なくとも本研究にお いては達成動機づけが時間的距離感に影響を及ぼしたと は考えにくい。第 2 に,時間的距離感が将来の障害を反 映している可能性が考えられる。例えば,テストまでに 他にもやることが多く,テスト勉強の障害が顕現的に なっている場合には,テストまでに時間がないと感じ, 時間的距離を近くに感じるかもしれない。このような場 合には,動機づけにもとづく理想的で抽象的なシナリオ は作られにくいだろう。ただし,本研究では,時間的距 離感が近くなるほど,予測時間が短くなり,計画錯誤が 生じなくなるという結果は得られていない。その意味で は,この可能性も考えにくい。第 3 に,テストに対する 不安が時間的距離感に影響を及ぼし,テスト不安によっ て計画錯誤が調整されている可能性が考えられる。実際, 時間的距離感とテスト不安(単項目)の間には有意な相 関がみられ(r(41)=.35, p<.05),テストに不安を感じて いるものほど,テストまでの時間を遠くに感じていた。 ただし,テスト不安を基準変数,プライミング条件,時 間的距離感,およびそれらの積の項を説明変数とした重 回 帰 分 析 を 行 っ た と こ ろ,モ デ ル は 有 意 で は な く (R2=.12, F(3, 36)=1. 74, ns.),またいずれの効果もみら れなかった(プライミングの主効果:B=.04, t<1, ns.; 時 間的距離感の主効果:B=.25, t=1. 53, ns.; 交互作用効果: B=.06, t<1, ns.3)。この結果は,本研究の知見において, テスト不安が媒介していないことを示唆している。この ように,本研究から時間的距離感の源泉については明らか ではないが,今後検討していく価値は十分にあるだろう。 また本研究では,将来の出来事に対する時間的距離感 を扱ったが,過去の出来事に対する時間的距離感に注目 することも有意義であると思われる。すなわち,過去の 出来事に対する時間的距離感は,過去の失敗経験の想起 が計画錯誤の有効な低減方略ではない(Buehler et al., 1994; 村田他,2007)理由の 1 つを提供するかもしれな い。Wilson & Ross(2003)は,自己高揚的な記憶の再構 成について理論化し,その中で過去の出来事に対する時 間的距離感について言及している。Wilson & Ross(2003) によれば,現在の自己を肯定的に評価するために,ネガ ティブな過去の出来事は,現在の自己から切り離されや すく,そのため遠くに感じられやすい。この知見にもと づけば,過去の失敗経験は,ネガティブであるために, 遠くに感じられやすく,結果としてどのように失敗した のかという具体的な側面は考慮されにくいのかもしれな い。いいかえれば,過去の失敗経験を近くに感じさせた 場合には,計画錯誤は低減するかもしれない。この点に ついては,過去の出来事に対する時間的距離感を操作し た研究(cf. Wilson & Ross, 2003)を行うことで,検討す ることができるだろう。 結語 本研究の知見は,遠い将来の出来事について,何かを 達成しようと動機づけられているほど,具体的な事象を 考慮できず,計画錯誤を起こしやすいことを示している。 私たちは,まだまだ時間があると感じている場合,かつ ての過ちといった貴重な情報より,「今度こそ頑張ろ う!」といった気持ちに目を向けやすく,そのことが結 果として計画錯誤を引き起こしている可能性がある。こ のことからも分かるように,とくに遠い将来の出来事に ついて計画を立てる際には,具体的に考えようとするこ とが必要であろう。 3)またテスト不安と計画錯誤量(r(41)=.10, ns.),予測時間量(r(42)=–.13, ns.)との間に有意な相関はみられ なかった。これらの結果は,同時に,プライミングがテスト不安に影響を及ぼし,結果として計画錯誤量が 異なるという代替説明も排除するものである。

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謝   辞 本論文の執筆にあたり一橋大学大学院社会学研究科教 授村田光二先生,日本学術振興会(東洋大学)の及川昌 典先生,一橋大学大学院の村田ゼミの皆さんから貴重な ご意見をいただきました。記して感謝致します。 引用文献

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The effects of achievement motivation and subjective temporal distance to deadline on

planning fallacy

OSAMU HIGUCHI (Graduate School of Social Sciences, Hitotsubashi University) KENJI HANITA (Graduate School of Social Sciences, Hitotsubashi University)

YOSHITSUGU FUJISHIMA (Graduate School of Human Life Sciences, Showa Women’s University)

This research investigated the effect of achievement motivation and subjective temporal distance on planning fallacy. Planning fallacy occurs, in part, due to optimistic prediction of how long it will take to complete a task. Previous research has suggested that task motivation could lead to an optimistic prediction, and that subjective temporal distance moderates this optimistic prediction. Forty-eight participants were asked to complete a scrambled sentence task (achievement priming vs. temptation priming), report subjective temporal distance before the final exam, and predict the amount of study time they would spend for the exam. They were followed up on the day of the exam to report their actual study time. Results showed that participants who were primed with achievement motivation showed more optimistic estimate of study time (i.e., planning fallacy) than participants who were primed with temptation motivation. Subjective temporal distance moderated this tendency, and the priming effect was significant only among those who perceived the exam to be distant. The role of motivation and subjective temporal distance on planning fallacy, and their implication for future research were discussed.

Key Words: planning fallacy, Construal Level Theory, achievement motivation, subjective temporal distance

2007年10月 4日受稿 2009年 2月23日受理 付   録 乱文再構成課題で用いられた単語セット 達成プライミング 誘惑プライミング 達成する,仕事を,やはり,いつも,彼は 見てしまう,テレビを,やはり,いつも,彼は 尽くしたい,ベストを,今回は,特に,いつもより 遊びたい,ゲームで,今日は,長く,いつもより 目指している,常に,基準より上を,私は,今日も のばしている,思い切り,羽を,私は,今年も 完成できる,頑張れば,締め切り,前に,までに 間に合う,遊んでいても,締切りには,十分に,まだ よい,頑張って,あと,作った,作品を 友達から,少しで,あと,電話がくる,もう 今週も,いつものように,成し遂げる,行く,大学に 今週も,いつものように,怠ける,行く,大学に 食事を,私は,図書館に,きちんと,食べる 食事を,私は,マンガを,きちんと,食べる 髪を,入って,最高記録を,お風呂に,洗う 髪を,入って,カラオケで,お風呂に,洗う 街に,買いに,服を,つもりだ,行く 街に,買いに,服を,つもりだ,行く 歯を,しっかり,ちゃんと,毎朝,磨く 歯を,しっかり,ちゃんと,毎朝,磨く 注)上から 5 つがプライミング関連語を含めるもの,次の 3 つが関連語を含めないもの,残りの 2 つがフィラーである。

参照

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