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ブンカのスキマ、お埋めします―英語教育言説における

「文化」と「コミュニケーション」の胡乱な邂逅

No End of Genesis: Intercultural Communication, of What

Type Would It Be?

北 和丈

東京理科大学

Kazutake KITA

Tokyo University of Science

Abstract

Recent developments in corpus-linguistic discourse analysis may be good news for those

casting sceptical eyes on the arguments favoured in the mainstream of English language teaching;

they have begun to contribute towards forming a detailed picture of the term communication, known

as a prominent buzzword in the field. The study reported here is along a similar line, based on the

author’s observation of the key term’s tendency to collocate with particular culture-related

adjectives (cultural and intercultural) in the discourse after the 1990s. The analysis of a

self-compiled electronic corpus comprising articles of ELT Journal published between 1946 and 2014

shows that, in this specific British periodical, the ideas of communication and culture started to form

a link in the early 1990s, strengthen the bond in the same decade by giving it a fixed name

intercultural communication, and have now further established their relationship under the

influence of academic advocates supporting the ELF (English as a lingua franca) movement.

1. 背景と課題

日本で英語教育に携わる者にとって、平成元年(1989年)公示の中学校・高等学校学習指導要領が その「外国語」の節に史上初めて「コミュニケーション」の文言を配したという事実は、年号のきり の良さも相俟って、さすがに記憶から抜け落ちる見込みは低そうである。その一方で、このときもう 一つ別の鍵語が同じ指導要領に潜り込み、その後の改訂を経ても消えずに残っていることは、あまり 知られていない。次の引用は、上から順に昭和52年(1977年)、平成元年、そして最新の平成20年(2008

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16 年)改訂版指導要領が掲げる、中学校「外国語」の「目標」である(以下、学習指導要領の文言はい ずれも「学習指導要領データベース」(https://www.nier.go.jp/guideline/)より引用)。 [昭和52年] 外国語を理解し、外国語で表現する基礎的な能力を養うとともに、言語に対する関心 を深め、外国の人々の生活やものの見方などについて基礎的な理解を得させる。 [平成元年] 外国語を理解し、外国語で表現する基礎的な能力を養い、外国語で積極的にコミュニ ケーションを図ろうとする態度を育てるとともに、言語や文化に対する関心を深め、国際理解の 基礎を培う。 [平成20年] 外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図 ろうとする態度の育成を図り、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことなどのコミュニケーシ ョン能力の基礎を養う。 「コミュニケーション」が唯一のカタカナ語として否応にも目につく平成元年以降の文言において、 そのすぐ近くに置かれた「積極的」「態度」という言葉が一緒に視野に入ることは想像に難くない。 むしろ見落としがちなのは、読点で区切られた別のかたまりに浮かぶ「文化」という言葉である。実 のところ、外国語の学習指導要領に「文化」の文言が現れるのは、これが初めてではない。かなり時 代を遡ることになるが、過去の指導要領のなかでも最も記述が詳細なことで知られる昭和26年(1951 年)改訂版「外国語科英語編」の第7章「英語における生徒の進歩の評価」には、評価可能な項目と して「英語を話す国民の文化と文学を理解し鑑賞すること」が含まれている。また、「文化」という 言葉自体はその後いったん姿を消すものの、意味内容のうえで「文化」と読み替えられそうな文言は、 常に指導要領のどこかに組み入れられてきた。上記の昭和52年改訂版にも「外国の人々の生活やもの の見方など」という言葉が見られるが、これを「外国の文化」と言い換えても、特段不都合が生じる ことはない。つまり、異名でずっと舞台に居続けた役者が、なぜか「コミュニケーション」が華々し く登場した平成元年に、役柄は変えることなく、かつての芸名だけをひっそりと復活させたというの が事の顛末なのである。因果関係の仔細はともかく、「文化」と「コミュニケーション」という言葉 がこのころに何らかの繋がりを持ち始めていたと考えることも、不可能ではないだろう。 この仮説には傍証がある。ほぼ同じ時期に日本の外で展開されていた英語教育論でも、同様の現象 が見られるのである。近年、一貫した基準で収集した大量の電子テクストに計量的分析を加えるとい うコーパス言語学の手法が応用されつつある英語教育言説の研究においては、素材としての入手に伴 う困難が少ないという点から、英語圏の英語教育関連雑誌を活用する方向性が模索されている(e.g. Hunter & Smith, 2012; 北, 2015)。そのなかで、とりわけ歴史の長さと知名度ゆえに格好の分析対象と なっているイギリスの雑誌ELT Journal(1946年創刊、以下ELT)には、英語教育言説における 「communication」という言葉の用い方について、見逃し難い通時的変化があった可能性が垣間見える (表1)。使用頻度の大小と共起語の種類から窺う限り、1970年代後半に激増し、「real/genuine(本 当の、真の)」といった形容詞と特異な結びつきを持ちながらELTの英語教育言説に定着したらしい 「communication」は、1990年代を境にその関係を徐々に解消し、意味内容がより明確で具体的な形容 詞と共起し始めているように見える(Kita, in press)。そのなかでも顕著な共起強度を示しているのは、 「文化」に関連した「cultural(文化の)」「intercultural(異文化間の)」であり、とりわけ後者につ

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17 いては、21世紀のELTにおける「communication」の代表的な共起語の一つになっているのである。 もちろん、イギリスの英語教育言説が日本の英語教育言説と直接的な影響関係を持つという安易な 発想は避けねばならない(そもそも現状では、似た現象が似た時期に生じたらしいとしか言えないの である)。それでも、「コミュニケーション」が英語由来のカタカナ語である以上、この用語にまつ わる現象を論じるうえで、英語圏の言説の動向を無視することはできない。また、イギリスにおける 言説史の流れを確認しておくことは、日本の言説史が辿る筋道を分析・予測するうえでの間接的な手 がかりを得る作業ともなり得る。本研究はこのような認識に基づき、「文化」の言説と「コミュニケ ーション」の言説との関係性をめぐる以下の問いに対して、コーパス言語学の視点から一定の答えを 提示しようとする試みである。 問1:イギリスの英語教育言説において、「cultural/intercultural」と「communication」はどのよう な経緯で結びつきを強めることになったか。また、その要因は何か。 問2:「communication」の共起語として、「cultural」と「intercultural」との間に何らかの差異は 存在するか。その差異とはいかなるものか。

表1 ELT Journal における「communication」の共起語(相互情報量 5.0 以上)

注:Kita(in press)を基に作成。年代の右側の数字は「communication」の粗頻度 、「freq.」は各共起語の粗頻度、「MI」は相互情報 量(共起語との結びつきの強さを測る指標の一つ)、「(BNC)」は British National Corpus(第2節参照)の学術出版物部分における相 互情報量である。以上は北(2015)および Kita(in press)を踏襲したものであり、同様の方針と表記法を表3にも適用する。なお、 相互情報量は大きいが共起頻度が極端に低い語を除外するため、共起頻度 5 以上の語のみを対象としている。

freq. MI (BNC) freq. MI (BNC) freq. MI (BNC) freq. MI (BNC) 1965-69 communication 99 1990-94 communication 424 2000-04 communication 501 2010-14 communication 676

real 5 7.2 - intercultural 6 9.5 - mediated 8 9.7 - intercultural 73 9.3 -

1970-74 communication 174 focused 17 8.0 - engineering 8 8.4 - mediated 12 8.6 - wider 5 8.5 - oral 8 6.5 6.0 intercultural 11 7.9 - workplace 5 6.5 - international 9 8.4 9.6 professional 11 6.1 - natural 23 7.8 3.8 oral 16 6.3 6.0 oral 5 5.9 6.0 business 6 5.5 3.2 technical 5 7.4 - business 12 6.0 3.2

1975-79 communication 308 successful 5 5.5 5.8 oral 15 6.3 6.0 international 20 5.8 9.6 real 8 6.3 - international 5 5.4 9.6 authentic 11 5.9 - successful 8 5.8 5.8

1980-84 communication 433 cultural 11 5.2 - cultural 22 5.7 - ELF 21 5.7 - verbal 8 7.1 7.7 1995-99 communication 417 international 7 5.1 9.6 effective 13 5.5 5.4 successful 7 6.5 5.8 intercultural 7 9.6 - 2005-09 communication 419 life 6 5.1 - international 5 6.3 9.6 mediated 6 9.0 - mediated 6 9.4 -

face 5 6.2 - genuine 20 8.5 5.4 intercultural 26 8.8 - real 14 6.1 - natural 11 6.8 3.8 interactive 8 7.3 - personal 6 6.1 7.8 oral 15 6.6 6.0 successful 13 7.2 5.8

1985-89 communication 390 real 15 6.2 - international 21 7.1 9.6 nonverbal 10 9.8 10.1 effective 9 5.9 5.4 meaningful 6 6.8 5.6 genuine 11 8.3 5.4 cultural 12 5.9 - personal 13 6.6 7.8 verbal 15 7.7 7.7 international 9 5.8 9.6 effective 5 5.2 5.4 real 8 5.6 - personal 8 5.5 7.8

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2.研究方法

英語教育言説を電子コーパス化して計量的分析を加える研究はまだ萌芽期の段階にあるが、その先 駆的な例であるHunter & Smith(2012)やその影響下にある北(2015)、Kita(in press)がいずれもELT を利用していることから、本研究もそれを踏襲し、1946年から2014年までに出版されたELT中の記事 のうち、NII-REO(http://reo.nii.ac.jp)およびOxford Journals(http://www.oxfordjournals.org/en/)から電子 版で入手可能であったもののすべてを素材とした。 電子コーパスを計量的に処理して「cultural/intercultural」や「communication」といった鍵語の用例や 共起する語の傾向を確認する際には、多機能コンコーダンサであるAntConc(version 3.2.4)(Anthony, 2011)を多用した。また、ELTから作成した本研究の分析対象コーパスに見られる特徴が英語教育言 説に顕著なものかどうかを検証するための参照コーパスとしては、現代イギリス英語の一般コーパス であるBritish National Corpus(BNC)をCORPUS.BYU.EDU経由で使用した。この方法で確認できるの は1980年代~1993年に収集されたおよそ1億語のデータの傾向に限られるので、分析対象コーパスと の年代のずれが生じる難点は否めないが、イギリス英語をこれほど大規模に収集したコーパスはBNC を措いてほかにないため、問題の存在を意識しつつ、補足的に使用することとした。

この研究方法が抱える問題の一つは、分析対象コーパス上の鍵語に関する情報を解釈する際に、コ ンコーダンサが出力した用例一覧を「精読」する過程が入るため、分析者の主観を排除できない点に ある(e.g. Hoey, 2005; Hunston, 2011)。とりわけ3.3節の分析はこの限界を克服しきれていないため、 そこで提示される解釈は、あくまでも筆者が可能と見なすものの一つに過ぎないことに留意されたい。

3. 分析

3.1 ELTにおける「文化」および「コミュニケーション」言説の登場頻度

表1から判断する限り、ELT上で「cultural/intercultural」と「communication」が遅くとも90年代以降 に繋がりを持ち始めていることは窺えるが、その詳細を分析する準備段階として、この雑誌における 「文化」と「コミュニケーション」をめぐる言説がどのように変遷してきたのかを、個別に確認して おく必要がある。これを踏まえて、まず「文化」関連語の頻度数の経年推移を示したのが図1である。 図1 「culture(s)」「cultural」「intercultural」の調整頻度(100 万語あたり) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 19 46 19 48 19 50 19 52 19 54 19 56 19 58 19 60 19 62 19 64 19 66 19 68 19 70 19 72 19 74 19 76 19 78 19 80 19 82 19 84 19 86 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 20 06 20 08 20 10 20 12 20 14

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19 図1のグラフが明確に示すように、ELTにおける「文化」関連の用語は、「culture(s)」と「cultural」 に限れば、登場頻度は高い確率で連動していると言ってよい。その一方で、一つだけやや毛色の異な るのが「intercultural」である。頻度が低いため、グラフだけでは見極めにくいところもあるが、年ご との調整頻度を基に相関係数を計算すると、表2のとおり、「intercultural」だけがほかの用語とは違 った動きを見せていることが察せられる。特に顕著なのは、第一に「intercultural」が90年代以降にな ってようやく普及し始めた言葉であるらしい点、そして第二に、とりわけ2010年代以降はこの用語が 「culture(s)」や「cultural」とは別の軌道を描いている点である。その要因は定かではないが、ELTで使 用される「cultural」と「intercultural」には、それぞれ別の力学が働いているのかもしれない(問2)。 このような「文化」関連語の推移を「コミュニケーション」関連語の推移と比較してみると、偶然 として切り捨てるのがためらわれるような傾向が見えてくる。図2は、(1)「コミュニケーション」関 連語(「communication/communicative」)の調整頻度の和、(2)「文化」関連語(「culture(s)/ cultural」) の調整頻度の和、および(3)「intercultural」の調整頻度について、経年変化をグラフで示したものであ る。まず目に付くのは、(1)と(2)のグラフが、あたかもお互いを避け合っているかのように、異なる時 期に山を作っていることである。もっとも、「コミュニケーション」ブームを過ぎた80年代末以降に 両者の頻度がいずれも高水準で推移している(なお、BNCの学術出版物部分(以下、BNC-aca)での 調整頻度は、「communication」104.4、「communicative」20.5、「culture」200.17、「cultural」159.67、 「intercultural」0.00である)ことや、90年代半ばと2000年代前半に散発的にグラフの形状が重なる部分 が見られることなど、共通点がないわけではないが、それ以上の類似点を読み取るのは難しい。 表2 ELT における「文化」関連語使用頻度の相関表(左は創刊年から、右は 1990 年以降) 注:**は1%、*は5%水準で有意な相関があることを示す。

culture cultures cultural intercultural culture cultures cultural intercultural

culture - 0.85** 0.89** 0.54* culture - 0.76** 0.82** 0.32 cultures - 0.83** 0.65* cultures - 0.73** 0.48* cultural - 0.56* cultural - 0.31 intercultural - intercultural - 図2 「コミュニケーション」関連語と「文化」関連語の調整頻度(100 万語あたり) 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 19 46 19 48 19 50 19 52 19 54 19 56 19 58 19 60 19 62 19 64 19 66 19 68 19 70 19 72 19 74 19 76 19 78 19 80 19 82 19 84 19 86 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 20 06 20 08 20 10 20 12 20 14

(6)

20 一方で、「intercultural」の推移だけに絞った(3)のグラフに目を向けると、2000年代前半まではほか の「文化」関連語に近い動きを見せているものの、2000年代後半以降は、グラフの形状がむしろ「コ ミュニケーション」関連語のそれに近いことがわかる(特に(1)と(3)の見た目が似通い始める2006年以 降の調整頻度で計算した相関係数は0.72と極めて高いが、同時期の(1)と(2)の相関係数は0.32と低く、 有意とは言い難い)。これに加えて、表1で2000年代後半以降に「intercultural communication」という 連語が急増し、同時に「cultural communication」という連語が一覧から消えていることも考えあわせる と、ELTにおける「文化」の言説と「コミュニケーション」の言説は、「intercultural」という用語に間 を取り持たれる形で2000年代後半に結束したと推測することもできそうである(問1・2)。

3.2 ELTにおける「文化」言説の周辺

前節で概観した状況をさらに明確な像として捉えるべく、「文化」関連語と共起する可能性の高い 語を一覧にしたのが表3である。「culture」については、70年代後半に登場頻度が増加したのを皮切り に、90年代に至って急激にELTの言説に普及したことは窺えるが、その用法に関しては、現在までに それほど劇的な変化を経験したわけではなさそうである。とは言え、その言説史のなかで、一貫して 強い結びつきが維持されている共起語が「local」「target」である点は注目に値する。つまり、ELTに おける「文化」の問題とは、常に学習者の属する文化(「local culture」)と学習対象たる英語および その教授者の属する文化(「target culture」)の二項対立で捉えられる場合が多かったのである。 同様の傾向は、「cultural」の連語関係からも観察することができる。顕著な共起語を一瞥するだけ でも、ELTで展開されてきた「文化」言説において、学習者の持つ文化的背景(「background」)、規 範(「norms」)、価値観(「values」)が学習言語たる英語やその教授者の抱えるものとは異なると いう事実(「differences」)が、英語教育や英語学習に影響する要因として認識されていたらしいこと は読み取れる。異文化の存在を前提とした英語教育論、英語学習論の構図が浮かび上がるのである。 ただし、そのような文化的差異にどう対処するかについては、時代ごとに異なる見方が採られてい たと思しき面がある。80年代までの言説には、異文化は理解(「understanding」)すべき対象であり、 そこに見られる規則性(「patterns」)を学習内容(「content」)として習得するという姿勢が垣間見 える。流れが変わったと思われるのは、異文化の交流や意思疎通(「communication」)という発想が 持ち込まれた90年代前半である。要するに、異文化という問題が、知識として静的・一方向的に処理 するのではなく、相互の働き掛けによって動的・双方向的に取り組むべきものと考えられ始めたので ある(この意味において、90年代の顕著な共起語に「imperialism」が入っているのは興味深い。従来は 英語という文化が一方向的に押し付けられてきた、という批判的な認識の産物と考えられるからであ る)。あくまでも一つの解釈に過ぎないが、図2によれば、「コミュニケーション」の言説は80年代 に大流行して広く認識されるようになっていたはずなので、それに触発される形で、すでに存在して いた「文化」の言説が90年代初めごろに変容したのだとしても不思議ではない(問1)。 「cultural」については、同じく90年代以降、(上位10語にはわずかに届かないため表3から漏れて いる時期のほうが多いが)常に「awareness」が相互情報量5.5~6.5という強い結びつきを維持しており、 しかもそれがBNC-acaには見られない連語であるという点も見逃せない。特定の異文化を所与の条件 としてその理解を目指すのではなく、まず文化というものの存在を「意識」するというメタ的な自己 客体視が、英語教育言説において尊ばれてきたことを示唆するものだからである。また、2010年

(7)

21

表3 ELT Journal における「文化」関連語の共起語(相互情報量 5.0 以上、原則上位 10 語ま で)

注:1974 年以前はいずれの語も頻度が小さく、鍵語としての顕著な特徴も見られないため割愛している。

Culture Cultural Intercultural

freq. MI (BNC) freq. MI (BNC) freq. MI (BNC) freq. MI (BNC)

1975-79 culture 176 cultural 192 intercultural 4

Indian 6 8.3 - revolution 14 11.4 7.8 -

own 6 5.0 3.7 concepts 6 8.3 -

background 11 8.2 6.2

understanding 5 6.8 -

patterns 7 6.6 5.5

1980-84 culture 135 cultural 125 intercultural 5 American 5 7.6 3.3 norms 7 10.0 7.1

target 7 7.1 - background 12 8.7 6.2

own 7 5.6 3.7 differences 6 7.6 5.1

content 8 6.4 -

1985-89 culture 152 authentic 88 intercultural 1 American 10 8.3 3.3 bias 5 9.6 -

another 5 5.8 - background 5 7.6 6.2

action 5 7.3 -

1990-94 culture 382 cultural 448 intercultural 13 invisible 7 9.5 - imperialism 7 9.3 7.8 content 34 7.0 - communication 6 9.5 -

local 13 7.5 - backgrounds 6 8.3 8.1 differences 13 6.7 5.1

target 13 6.7 - identity 8 8.3 6.7 attitudes 8 6.5 4.5

American 9 6.6 3.3 values 13 7.6 6.2 factors 7 6.4 5.3

British 6 5.2 4.4 background 25 7.5 6.2 . . .

norms 5 7.2 7.1 communication 11 5.2 -

1995-99 culture 295 cultural 307 intercultural 14 youth 6 10.9 7.0 imperialism 17 8.9 7.8 perspective 6 6.8 - communication 7 9.6 -

national 6 7.0 4.7 politics 6 8.8 4.4 contexts 10 6.7 6.0

local 6 6.2 - values 8 7.5 6.2 communication 12 5.9 -

target 6 6.2 - background 12 7.5 6.2 awareness 8 5.7 -

differences 11 6.9 5.1 studies 6 5.3 4.7

2000-04 culture 660 cultural 604 intercultural 61 popular 51 8.7 7.5 artefacts 7 10.1 7.8 differences 28 7.3 5.1 communication 11 7.9 -

western 13 7.9 6.3 mandates 6 9.7 - norms 8 7.2 7.1 communicative 8 7.8 -

target 17 6.0 - continuity 14 9.2 - values 9 6.9 6.2

national 5 5.8 4.7 integrity 8 8.6 - background 10 6.6 6.2

Chinese 6 5.3 - backgrounds 5 8.3 8.1

local 6 5.2 - diversity 8 8.1 8.2

2005-09 culture 334 cultural 332 intercultural 102 popular 6 7.6 7.5 conditioning 9 10.6 6.8 values 8 7.5 6.2 exchange 8 9.5 -

target 10 6.6 - chauvinism 5 10.4 9.7 background 7 7.1 6.2 communication 26 8.8 -

American 7 6.5 3.3 stereotyping 7 9.8 - norms 7 7.1 7.1 communicative 7 6.8 -

local 6 6.2 - backgrounds 9 8.6 8.1 differences 10 6.9 5.1

Chinese 5 6.1 - diversity 8 8.5 8.2 impoliteness 5 6.5 -

2010-04 culture 455 cultural 503 intercultural 156 heritage 7 8.7 - competencies 7 9.2 - values 5 6.9 6.2 communication 73 9.3 -

popular 15 8.1 7.5 backgrounds 20 8.7 8.1 differences 17 6.8 5.1 competence 8 7.8 -

local 5 5.4 - dimension 6 8.1 5.8 awareness 20 6.5 - awareness 12 7.4 -

target 7 5.2 - background 15 7.3 6.2 pragmatics 5 6.1 - communicative 9 6.9 -

(8)

22 代に「competencies」が共起語として浮上していることからすると、このような文化に対する意識や気 づきは、英語学習者の備えるべき「能力」として体系化されつつある可能性も否定できない。 ところで、上で述べたような90年代以降の「文化」言説の変容については、実のところ「culture/cultural」 の共起語だけを眺めていても、雑音が多すぎて捕捉しにくい面がある。その様子がもっと露骨な形で 見えてくるのは、「intercultural」という言葉を中心に据えて観察したときである。表3からも明らか なように、この用語は事実上「文化」言説と「コミュニケーション」言説を結びつけるためだけに導 入されたものと言ってよい(問2)。90年代の段階で「intercultural」の登場頻度はまだごくわずかで あるにもかかわらず、そのおよそ半数が「intercultural communication」という連語として用いられてい るのである。さらに2000年代になると、「コミュニケーション」関連語との繋がりを「cultural」から 譲られたような格好の「intercultural」はその存在感を増し、先述した文化への「意識(awareness)」、 文化に対処する「能力(competence)」に言及する場合の形容辞としても冠せられ始めている。ELTに おける「文化」言説と「コミュニケーション」言説の関係性を把握するうえでは、この「intercultural」 に係わる言説を精読するのが、最も確実な方法になりそうである(問1)。

3.3 ELTにおける「文化」言説と「コミュニケーション」言説の邂逅

「intercultural」という用語が「communication」の介添えとして目立ち始めるのは、前節までで確認 したとおり90年代になってからではあるが、厳密に言えばそれ以前にも、ELTの記事本文中でこの連 語が用いられた例が2件だけ存在する(Kabakchy, 1978; Alptekin & Alptekin, 1984)。そして皮肉にも この希少な用例こそが、当時のELTの英語教育言説においていかに「文化」が軽視されていたのかと いうことを、弱々しく物語っている。

. . . due to the notorious lack of awareness about foreign languages and cultures in English-speaking countries . . . , it is quite apparent that foreign language study which is ‘billed as a guarantor of international and intercultural communication and understanding . . . does not even enable its graduates to sustain an ordinary conversation with a native speaker’. (Alptekin & Alptekin, 1984, p. 15; 強調筆者)

英語圏における英語以外の語学教育を論じている部分なので差し引いて考える必要はあるが、仮に当 時の英語圏出身の英語教員にそもそも「外国語や外国の文化に対する意識が欠けて」いたとすれば、 「異文化コミュニケーション」などという言葉が空しく響いてしまったとしても無理はない。 90年代になると、「intercultural communication」の登場頻度も微増してはいるが、その担い手の数自 体は、90年代全体でわずか4人である。ただし、次の引用のように「異文化コミュニケーション」が 差し迫った問題として捉えられている場合があるのは注目に値する。奇しくもこの箇所で論者が問題 視しているのは、極東アジアの英語教育におけるコミュニカティブ・アプローチの妥当性である。

Because English language teachers in foreign settings are operating through language to teach language,

intercultural communication theory would lead us to expect many misunderstandings between Western

(9)

23

awareness could even prevent the instructors from applying their linguistic or cultural knowledge while still behaving in a culturally acceptable manner. (Ellis, 1996, p. 217; 強調筆者)

要するに、教授者である英語話者が極東アジアで英語教育に臨むとき、「コミュニケーション」や「文 化」というものを客体視できる意識がなければ誤解が生じてしまうという可能性を、「異文化コミュ ニケーション理論」が示唆している、というのである。事実、論者がこの箇所の直後でスクトナブ= カンガス(Tove Skutnabb-Kangas)やフィリプソン(Robert Phillipson)といった社会言語学者の業績に 言及していることからも窺えるように、このころには英語教育における「文化」と「コミュニケーシ ョン」の問題を学術的に論じるための方法論が整い始めていたことになる。90年代のELTで「文化」言 説が急増した背景には、このような事情もあったものと推察される。 2000年代に入ると、「文化」と「コミュニケーション」の言説は、「intercultural communication」と いう連語に象徴される形で一つの流れに収斂し始める。2000年以降にこの連語を用いている論考の数 は、2000年代が11本、2010年代はまだ5年しか経過していない段階ですでに10本に達しているので、 まさに加速度的な普及を遂げていることになる。この急速な使用拡大を促した要因は、表3のような 共起語の一覧のみからは判然としないものの、鍵語をより広い文脈のなかに置いてみると、いくつか の手掛かりが見えてくる。たとえば、AntConcが特定した2000年代のELTにおける「intercultural communication」の各用例について、文脈上の意味が特定できるように前後50語から100語程度の部分 を抜き出して一覧を作成し、周囲で並置・対置されている内容語(特に名詞や形容詞)に着目して精 読すると、表4のように、21本の論考がこの鍵語を用いて論ずる話題には三つの傾向が見られること がわかる(表4では、各論考中で「intercultural communication」と絡めて論じられている話題として該 当する項目に*を付している。より具体的な補足が必要な場合はカッコ内にその内容を記している)。

表4 2000 年代の ELT Journal における「intercultural communication」の使用文脈

実務上の必要性 (教育現場を含む)

インターネットの普及 脱英米志向(共通語と しての英語(ELF))

その他

Tajino & Tajino (2000) * (教育現場)

Wilson (2000) * (開発事業協力)

Flinders (2001) * (実務一般) *

Alptekin (2002) *

Linder (2004) *

Hansen & Liu (2005) * (教育効果の一例)

Dogancay-Aktuna (2005) * (教育現場)

Holliday (2007) *

Eastment (2008) * (実務一般) *

Goh (2009) * (ELF)

Sifakis (2009) * (ELF)

Corrius & Pujol (2010) * (辞書制作)

Kuo (2011) * (教育効果の一例) Suzuki (2011) * Yuen (2011) * Jenkins (2012) * (ELF) Murray (2012) * (ELF) Roever (2012) * (慣用表現の研究) Baker (2012) * (ELF)

McConachy & Hata (2013) * (教材制作)

(10)

24

第一の傾向は、「intercultural communication」という鍵語が、そのような意思疎通を必要とする実務 の現場に言及して用いられることである。2000年代前半を中心に6本の論考が取り上げている具体的 な現場は、「team-teaching」(Tajino & Tajino, 2000)、「development co-operation」(Wilson, 2000)、 「business」(Flinders, 2001)など様々だが、いずれの場合にも、英米に限らない異なる文化的背景を 持つ者が業務上の必要から英語を用いるという状況に即して「intercultural communication」の重要性を 訴えている点は共通している。ただし、先に引用した90年代の言説からもわかるように、このような 社会状況が2000年以降になって突然生じたというのは考えにくい。むしろ、以前から意識されていた 実務上の英語使用に伴う話者間の接触・交流・衝突などが、「intercultural communication」という言葉 を得ることによって、2000年代のELTに表面化したと解釈するほうが、話の辻褄は合いそうである。 第二の傾向は、「intercultural communication」という行為が、媒体としての「Internet」(Linder, 2004) や「website」(Eastment, 2008)と関連づけられたうえで、英語教育や英語学習を促すものとして扱わ れていることである。表4ではこの種の視点を持つ論考が2本にとどまっているが、ほかにも 「intercultural communicative competence」という用語の周囲でインターネットに言及している例がある (e.g. O’Dowd, 2007; Guth & Helm, 2012)。21世紀の爆発的普及を考慮すれば、言及数が少なすぎる印 象すらあるが、少なくとも2000年代のELTの英語教育言説において、英語によるインターネットでの やり取りが、異文化を跨ぐ(intercultural)言語行動と認識されつつあったことは確認できる。

第三の、そして最も顕著な傾向は、「intercultural communication」という用語が、英米中心主義・母 語話者中心主義を示唆する「anglocentric」(Flinders, 2001)や「native speaker norms」(Alptekin, 2002) といった言葉の対極に置かれたり、英語に対する見方や英語そのものの変容を示唆する「English as a world language」(Alptekin, 2002)や「English as a lingua franca (ELF)」(Murray, 2012)といった言葉と 結びつけられたりしつつ、脱英米志向を象徴するような意味合いを付与されていることである。ELT 中でこの傾向を示す論考は、2000年からの10年間で5本、2010年からはわずか3年で6本に上り、現 状では「intercultural communication」の論じ方の主流を成しているとも言える。 これら三つの傾向には、言説上で直接の関係性を観察することはできないものの、第一・第二の傾 向が第三の傾向に先んじて表れている事実に鑑みれば、そこに時系列的な影響関係を推測することも 不可能ではない。つまり、英米中心主義を前提としない英語の「intercultural communication」が、2000 年代に至って実務的に必要になり、技術的に可能になったがゆえに、今や英語使用のあり方の新たな 典型と見なされ、それに従って英語教育の理念を見直していく過程で、「ELF」が学習対象、「intercultural communication」が学習目的として組み入れられたという筋書きである。これはあくまでも一つの仮説 に過ぎないが、表4のような傾向から判断する限り、「intercultural communication」をめぐる言説の形 成過程を考えるうえでは、いかなる仮説を立てるにしても、このような複数の要因が絡んだ力学の存 在を念頭に置いておく必要があるだろう。

4. 結論・考察

以上の分析と解釈をまとめると、少なくともELTにおいては、80年代に一世を風靡した「コミュニ ケーション」言説の影響下で「文化」言説が90年代に変容を遂げる、という形で始まった二つの思潮 の繋がり(問1)が、一方では社会言語学などの関連諸分野からの学理的な下支えを得つつ、他方で

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25 は英語を取り巻く社会状況からの現実的な圧力を背景にしてさらに結びつきを強め、その複合体が 「intercultural communication」という名称を得ることで、2000年以降に英語教育関係者に広く認識され るところとなった、と考えることができそうである(問2)。 21世紀以降の急速な普及から判断すると、「intercultural communication」という用語に代表される「異 文化コミュニケーション」の概念は、英語教育界においてかなり好意的に受け止められているらしい。 しかしながら、それが英語教育・学習の質を具体的な形で向上させているか否かについては、やや懐 疑的な見方もある。たとえばMcConachy & Hata(2013)は、「intercultural communication」を看板に掲 げた英語教材の多くが、ただお題目としてこの言葉を唱えているだけで、その中身は旧態依然として あまり変わり映えがしないことを嘆いている。それだけならばまだ手を打つ余地はあるが、もう一つ 懸念されるのは、仮に「intercultural communication」がもっと大きな規模でも単なるお題目に終わって しまった場合、それがむしろ英語教育・学習の質を低下させることになりかねないということである。 上述してきたとおり、英語をめぐる「異文化コミュニケーション」の概念は、文化と文化の間隙に 目を向けようとする一方で、これまで英語が背負ってきた文化の「核」または典型を取り去るという 理念上の操作を行っている。皮肉ながら、「文化」に目を向けることに重きを置くはずの言説が、「文 化」を論じないという判断をしているのである。ところが、「文化はがし」とも言えるこの操作を経 て出来上がるはずの「ELF」というのがどのような「英語」なのかについては、これまでに十分な記 述がなされているとは言い難く、それゆえこの理念に基づく英語教育の学習対象が何なのかというこ とは、現状では判然としない(O’Regan, 2014)。そして、記述できない言語は教えようがないのであ る。この点については、今後の言説でどのように論じられていくのか、注視していく必要があろう。 もちろん、本稿で論じてきたELTにおける動向は、日本における今後の英語教育言説を観察してい くうえでも、示唆するところが少なくない。現行の学習指導要領の文言を見る限り、「国際共通語と しての英語」を念頭に置いた「異文化コミュニケーション」の思想は、まだその前面に出ているわけ ではなさそうである。「コミュニケーション」と「文化」を隔てる読点一つ分の隙間は、決して小さ くはない。問題は、この隙間が埋まったときである。そのときに背後で何が起きているのかについて は、本研究で得られた知見が、もしかすると役に立つのかもしれない。

引用文献

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参照

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