*1聖路加産科クリニック,聖路加看護大学(St. Luke's birth clinic, St. Luke's college of nursing)
*2聖路加看護大学看護実践開発研究センター 客員研究員(St. Luke's college of nursing research center for development of nursing) *3静岡県立大学(University shizuoka) *4聖路加看護大学(St. Luke's college of nursing)
*5聖路加看護大学看護実践開発研究センター(St. Luke's college of nursing research center for development of nursing)
2010年11月8日受付 2011年4月29日採用
原 著
周産期喪失を経験した家族を支えるグリーフケア:
小冊子と天使キットの評価
Grief care for families experiencing perinatal loss:
evaluation of bereavement booklet and angel kit
堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)
*1石 井 慶 子(Keiko ISHII)
*2太 田 尚 子(Naoko OTA)
*3蛭 田 明 子(Akiko HIRUTA)
*4堀 内 祥 子(Shoko HORIUCHI)
*2有 森 直 子(Naoko ARIMORI)
*5 抄 録 目 的 周産期喪失を経験した母親・家族に対して,小冊子「悲しみのそばで」および,「天使キット」(別れの 身支度,記念品等)を提供し,その試用経験から実用性を評価する。 対象・方法 探索的記述研究デザインであり,これは試作開発した教材の実用化に至るトランスレーショナル研究 のプロセスである。対象は,東京都近郊の5箇所の病院において,2006年5月から2008年5月までの間に, 周産期喪失(流産・子宮内胎児死亡・死産・新生児死亡等)を経験した母親である。小冊子および天使 キットを使用した結果を,自己記入式質問紙を用いて評価してもらう。評価は記述統計および自由記載 に関する内容分析をおこなった。 結 果 死産を経験した母親84名が試用し,質問紙は43名から返送された。 小冊子に関しては,42名(97.7%)が「とても参考になった」「参考になった」と回答し,天使キットに 関しては,全例が感謝を表明し,好意的な評価であった。 小冊子に対する感想の内容は5カテゴリーに分類できた。①〈受け入れられて,心が楽になった>②〈何 が自分に起こっているか理解できた〉③〈ひとりじゃない,つながっている感覚〉④〈自分のペースでい い,時間がかかってもいいという保障〉⑤〈人それぞれに違った悲しみの表現があると知る〉に分かれた。 天使キットについては,5カテゴリーの評価内容が抽出された。①〈数少ない思い出の品となった〉②〈時機を得た支援だった〉③〈限られた時間の中で,遺品を残すことの後押しになった〉,④〈大切な赤ちゃ んとして扱ってもらえた〉⑤〈医療者とコミュニケーションがとりやすかった〉。 結 論 小冊子および天使キットは,試用した母親から良好な評価を得た。小冊子は,喪失後の悲しみについ て認知・情動の理解を助け,天使キットは認知・情動・および行動を助けた。この道具は,周産期喪失 による悲嘆作業を進める上での道標として実用化が望まれる。 キーワード:死産,悲嘆作業,ペリネイタルロス,周産期喪失,グリーフ Abstract Aim
To assess the outcome of providing Japanese mothers and family who have experienced a perinatal loss with a booklet called Living with Grief, and the Angel Kit, which included keepsakes and preparations for parting with their baby.
Methods
A descriptive exploratory study design was used to translate research from the trial kit into feasible materials. Participants were mothers from five Tokyo maternity hospitals who experienced perinatal loss (such as abortion, intra-uterus fetal death, stillbirth, death of a newborn) between mid-May 2006 and May 2007. The main outcome measures were self-administered questionnaires developed by the authors which each mother completed. A content analysis approach was applied to the evaluation comments.
Results
Eligible mothers were hospitalized: 84 mothers trial-used the Booklet and Angel Kit, and 43 mothers returned the questionnaire. Forty-two mothers (97.6%) thought the booklet was helpful and very helpful. All mothers ex-pressed appreciation and favorable comments about the Angel Kit. Five themes emerged for the Booklet: 1. To help relief and acceptance, 2. Understanding the experience of loss, 3. No feeling of loneliness, and sense of linkage to somebody, 4. Assurance of one's grieving pace, and that it takes a long time, 5. Knowing about personal differences in expression of grief. Five themes emerged for the Angel Kit: 1. The Kit was one of the few keepsakes, 2. Timely assistance and help in case of need, 3. Appropriate guide for memory-keeping and support to make decisions, 4. Treated the dead baby carefully like a valuable human being, 5. Made it easier to communicate with nursing/mid-wifery staff.
Conclusion
Both Living with Grief and the Angel Kit were evaluated well by mothers. The Booklet helped mothers recog-nize their grief and understand their cognitive and emotional processes. The Angel Kit helped with cognitive, emo-tional and behavioral activities of grief. They would be a good guide to the grieving process, therefore they can be of practical use.
Key words: stillbirth, grief, bereavement, Japan, perinatal loss
Ⅰ.問題の背景
愛するわが子との出会いが,同時に別れの瞬間にな る,それが周産期喪失である。周産期における子ども との死別は,多くの場合予期しない形で起こる。喪失 に対して準備ができていない親にとって,子どもの死 は暴力的で,奪い取られたとさえ感じられるかもしれ ない。親たちは,子どもという愛着の対象を喪失する だけでなく,描いていた子どもの未来や子どもととも にある自分の未来,家族としての未来を同時に失うこ とになる。 楽しみにしていたわが子の誕生から一転して,突然, 死との対面を余儀なくされた家族の戸惑い,驚き,悲 しみは計り知れない。母親学級では,万が一の異常に 備えての講習は聞いていたとしても,自分自身に起 こるとは予想しない。その為,突然の入院に続く分娩, 何の準備もなく子どもと出会い,そして別れなければ ならない。Saflund, Sjogren, & Wreding(2004)らは,死産を経 験した57名の親に2度の面接した結果から,彼らがケ ア提供者に対しどのようなサポートを求めているか調 べている。特に大混乱(カオス)状態へのサポートと,
る周産期のグリーフケアを構築することが急務の課題 であると考える。今回,周産期喪失後のグリーフケア を推し進めるための道具を開発したので,試用経験を 通じてその評価を行なう。
Ⅱ.研 究 目 的
死産を経験した母親・家族に対して,小冊子「悲し みのそばで」および,「天使キット」(別れの身支度,記 念品等)を提供し,その試用経験から,実用性を評価 することを目的とする。 死産を経験した母親へのケアは,一部の施設で実施 されているに過ぎず,パンフレットや子どもとの出会 いや別れを容易にする道具は,その時々に,にわか仕 立てで作製されるものが多い。本研究によって開発さ れた道具が,母親の入院中の子どもとの出会いと別れ を出来るだけ悔いのないものに導き,背負っている痛 みの軽減や精神的健康の回復に貢献することが本研究 の意義である。Ⅲ.研 究 方 法
1.研究対象者 次の条件を満たす者とする。①死産を経験した母親 である(妊娠12週以降の死産を指す)②日本語を読む ことができ,質問紙が記入できる,③研究の主旨を理 解いただき同意の得られた方。 2.データ収集期間 2006年5月から2008年5月まで。 3.評価対象物 小冊子「悲しみのそばで」(表1参照) 目的:①周産期喪失で起こる心身の反応を説明する, ②悲しみについて説明し,母親をはじめ周囲の人々 への理解を促す,③同じような体験をした親の思い を伝える,④赤ちゃんにしてあげられることを紹介 する,⑤地域でのこころのサポートを紹介する,⑥ 医療者とのコミュニケーションの道具とする。開発経緯:冊子は,英国セルフヘルプ・グループStill-birth and Neonatal Death Society(SANDS)の発行し ている死産を経験した母親や家族へ配布している小 冊 子「Stillbirth and Neonatal Death Society; Saying Goodbye to your baby—A Guide for Parents whose 子どもとの面会と別離を必須事項として挙げている。 また太田(2006)は,死産を経験した母親14名に入院 中のケア・ニーズをインタビューした結果,2名を除 く全員が子どもとの出会いや別れに「悔いを残してい る」と報告している。 一方,出生前検査等の発達は,妊娠中に胎児の異常 を早期に発見することを可能にしたため,苦しみなが ら妊娠の終了を親自身が選択する人もいる。その決 定に罪悪感をもち,悲しむことすら許されないと感 じ,苦しみながらその日を迎える場合もある(Harris, 2004; Rillstone & Hutchinson, 2001)。
死産を経験した家族へのケアは欧米では多くの研 究があり,ケアのガイドライン(AAP & ACOG, 1997; Bartellas & Van Aerde, 2003; Fox, Pillai & Porter, 1997; Kohner, 1995)が作成されている。わが国では,英国 セルフヘルプ・グループ,SANDS(Stillbirth and Neo-natal Death Society)の作成したガイドラインが翻訳 (SANDS/竹内;1993)され,体験者グループの一般 書「誕生死」(2002)の出版をきっかけに社会における ケアに対する関心が高まってきた。体験者の声に耳を 傾けて,よりよいケアを模索するべきとの主張が相次 いだ。(石井,2006;堀内,2006;竹内,2004)。 死産をはじめ周産期の喪失に対する助産師の教育 は,本邦では十分行なわれいるとは言えない。助産師 はケアに戸惑いを感じ「どのように接すればいいか分 からない」「退院後のフォローができない」などの困難 を抱えているという(岡永,2005)。看護者は両親の激 しい感情に直面し,同時に自分自身の感情を管理しな ければならないことから,両親と同じような情緒的苦 痛を体験すると指摘されている(Mander, 1996;佐藤, 2005)。 著者らは(宮本・太田・堀内他,2005;太田・堀内 ・石井他,2009),死産を経験した母親に対するセル フヘルプ活動「天使の保護者ルカの会」での体験者の 語りを通じて,入院中の母親が受けたケアに改善する べき点が多いことを知った。「医療者は母親との直接 の対話を避ける」,「子どもに出会うプロセスの軽視」, 「亡くなった子どもとの別れに対する希望を聞くこと なく進める」,「退院時に渡されるパンフレットが正常 分娩をした母親と同じ冊子」等,意図せず母親を傷つ けている実態のあることがわかった。 以上の現状を踏まえて,母親や家族が悲嘆から回復 することを促すために,母親のニーズに応じながら, 出来るだけ悔いのない子どもとの出会いと別れを支え
baby dies around the time of birth—」の翻訳が基盤 となっている。さらに,日本の状況に合った法律や 宗教的内容,思い出つくりの内容を加筆し,また相 談できる関連団体探索し掲載の許可を得て加筆した。 流産・死産・新生児死亡のセルフヘルプ・グループ である「お空の天使パパ・ママの会」のスタッフの 意見を取り入れて修正加筆を行った。 様式:B5版サイズ,31ページで構成され,周産期喪 失による認知状態の特殊性を考慮して,活字はでき るだけ大きい読みやすい文字を用いた。尚,小冊子 の翻訳および加筆,配布の許可をSANDSから得た。 「天使キット」(写真1参照) 目的:周産期の喪失に対する悲嘆作業を進める上での 子どもの写真や記念品を残すことを容易にする。 開発経緯:米国の病院視察(ニューヨーク聖ルカ病院 やオレゴンヘルスサイエンス大学病院等)でメモ リーボックスの実物を入手し,それらを参考にして 日本文化に受け入れやすいものを考案した。Alex-ander(2001)は,メモリーボックスやカードの紹介 を行っている。メモリアルボックスに含めるものは, 前述の「お空の天使パパ・ママの会」のスタッフおよ び,聖路加看護大学看護実践開発研究センター「天 使の保護者ルカの会」の参加者らの意見を参考にし て考案された。衣類や布団は,滲出液などに配慮し た素材を使用し,日本手芸普及協会キルトリーダー ズ東京に作成してもらった後,優しく愛らしい印象 になる色やデザインを改良し試作品を完成させた。 様式:基本の箱(メモリアルボックス)製作は,入院 中に子どもとの出会いと別れの助けになるように, また子どもとの思い出つくりに役に立つよう考案し た(小茂田工業依頼)。退院後に家庭でメモリアル ボックスが子どもの思い出を語る拠り所となるよう 立て掛けて使えるように考案した。(実用新案権: 登録3138-222号 平成19年12月5日写真立て付き遺 品メモリアルボックス)「天使キット」の中に入れる 衣類等は,子どもの大きさに合わせて対応できるよ うサイズ・枚数を工夫し,ケープ型2枚,着物仕様 2枚とした。 4.データの収集方法 研究の主旨に同意した,関東近県5箇所の病院産科 病棟において実施した。 1 ) リクルート方法:死産を経験した家族へのケアに 関心を持つ都内近県の産科病棟の看護ケア責任者お よび助産師に研究の主旨を説明する。協力への同意 が得られた場合,研究者が当該産科病棟の助産師 (以後,研究協力助産師とする)に向けて小冊子の 内容および,「天使キット」の使用方法について説明 を行う。 2 ) 研究協力助産師は,対象者を選び研究の趣旨を説 明し,研究参加の同意を口頭で得る。対象者に小冊子 表1 小冊子「悲しみのそばに」 第一部:はじめの週に からだへの影響,感情, 赤ちゃんにしてあげられること̶入院中̶, お別れの方法̶葬儀・供養の方法̶, 法律上の手続き,社会保険上の手続き, 解剖 第二部:退院した後に 赤ちゃんについて語ること, どこに救いを求めるか, パートナーと語ること, 父親,祖父母,友達,きょうだい,記念日, 赤ちゃんにしてあげられること ̶赤ちゃんの思い出つくり̶ 地域でのこころのサポート セルフヘルプ・グループ,インターネット情報, 専門家のカウンセリングが受けられるところ 写真1 天使キット 脚注:天使キットに含む品 メモリアルボックス(写真を入れるケース付) 天使の衣服; 帽子,ケープ(小さな身体を包むことも出来る), 肌着(白い着物形),お布団一式(敷き布団,掛け布団,枕) 手型や足型を取ることの出来る文具,専用の台紙( わたし達 の赤ちゃん のタイトル) セレモニーカード(友人や心配してくださる方への忌中メッ セージ) 赤ちゃんの爪や髪の毛をいれる袋 ハートあるいはクマのぬいぐるみ二つ(体験者による手作り) 名前カード スタッフからのメッセージカード等 ハートのポプリ(日本手芸普及協会会員製作)
「悲しみのそばで」および「天使キット」を試用するこ との承諾を得る。退院後半年以内に質問紙を返送する よう依頼する。 3 )評価方法 評価は,小冊子の参考になった項目の記載や程度を 「とても参考になった」から「参考にならなかった」ま での4段階評価で,また感想や改善点については自由 記載を依頼する。「天使キット」については,洋服・布 団やセレモニーカードの使い心地や印象,キットを介 しての医療者との関わり,改善点など自由記載を依頼 した。 また対象からは,受けたケアの内「子どもとの出会 い」「子どもとの別れ」「思い出つくり」の実態について 選択肢を提示し回答してもらった。 質問紙の構成は見やすく工夫し,子どもを亡くした 直後の母親に読みやすいように活字は大きくする。質 問紙の回収は,母親から郵送されるのを待つ。配布し た対象者の特性については,各病院担当の助産師から 対象者の特性や面会の状況記録を得る。 5.分析方法 返送された質問紙は項目ごとに集計し,記述統計の 分析を行う。 自由記載の部分は,萱間(2007)の質的データの分 析を参考にして次のようにコーディングを行った。① 要素や内容を抜き出す,②ある程度の類似点があるそ れらのデータに存在する普遍的な概念を網羅的にあげ る,③何らかの仮説を形成しうる概念を見出し,ほか のデータで支持されるかどうかをテストする,④中 心となる概念やそのつながりを見出した後で,データ 全体の文脈の中でそれが指示されているかどうかを既 存のあるいは新しいデータとの適合性を試す。分析は, 周産期喪失の研究を行なっている助産学研究者および 心理学研究者らで検討を行う。なお,対象者の特徴や 面会の様子については,研究協力施設の助産師から情 報を得て,総合的に分析する。 6.倫理的配慮 研究への協力を依頼する際,研究対象者の権利を守 り,害を与えないように以下の内容に配慮する。 1 )対象者の匿名性の確保 質問紙は匿名で回答していただき,質問紙は研究終 了後すべて破棄する。 2 )研究協力の承諾 小冊子「悲しみのそばで」および「天使キット」を手 渡す時に,現在開発中であることを説明し,その試用 の承諾が得られたとき,一度目の同意とし,後日質問 紙の返送をもって最終的な同意とする。 3 ) 対象者の受けるサービスおよび研究協力の自由意 志の保障 看護・医療サービスは,質問紙への回答を行わない 場合にも,全く変わりのないことをあらかじめ伝える。 質問紙への回答は,自由意志であることを保障する。 4 )対象者の受ける心理的影響への配慮 母親が小冊子および「天使キット」を試用すること によって,抱く不安や疑問に関しては,相談窓口を設 ける。セルフヘルプ・グループのお話会を複数紹介す ることや,個人カウンセリングの紹介制度のあること をあらかじめ伝える。 尚,本研究計画書は聖路加看護大学研究倫理審査委 員会から承認(承認番号:06-001)を受けている。およ び(財団法人)聖路加国際病院研究審査委員会の承認 (受付番号:06-024,承認番号:0146)を受けている。
Ⅳ.結 果
1.対象の特性 条件の合った100名に研究を紹介して84名(84%) が試用を承諾した。(表2参照)試用を承諾した母親 の年齢は,20歳から47歳の範囲で,35歳以上が38名 (45.2%)と多かった。初めての妊娠が21名(25%), 初めての分娩が31名(36.9%)であった。病因は子宮 内胎児死亡(IUFD)が33名(39.3%),破水等による早 産16名(19%),胎児の疾病(食道閉鎖,無脳症・心 臓奇形等)で20名(23.8%),21および18トリソミー等 の染色体異常11名(13%),母親の癌・精神疾患等4 名(4.8%)であった。さらに全体を自然死産,人工死 産で分類をすれば,人工死産は26名(31%)であった。 喪失の妊娠週数は,21週までが48名(57.1%)と最も多 く,22週から36週までが27名(32.1%),37週以上42週 未満は6名(7.1%)であった。 このうち質問紙を返送した母親43名(51.2%)を分 析の対象とした。喪失からの時間は,1ヶ月以内16名 (37.2%),6ヶ月以内19名(44.2%),で6ヶ月以上が8 名(18.6%)であった。2.「子どもとの出会い」「子どもとの別れ」「思い出つ くり」の実態 子どもとの面会の時期については,「出産後すぐ」が 26名(60.5%),次いで「数時間たって」が8名(18.6%), 「1日後退院までに」5名(11.6%),「会わなかった」2 (4.7%)名であった。 面会することを決断するまでのプロセスについては, 「自分で希望した」が27名(62.8%)と最も多く,次い で「夫や家族に相談して」が6名(14.0%),「医療者に薦 められて」が4名(9.3%),「考える間もなく進んだ」は 3名(7.0%)認められた。(図1参照) 子どもと共に過ごすことのできた時間については, 「十分な時間会うことができた」が29名(67.4%),「短 時間で十分に関われなかった」は2名(4.7%)であった。 母親が一緒に面会したのは,「父親」が37名(86.0%)と 最も多く,「祖父母」23名(53.5%),「上のこども」7名 (16.3%)であった。面会の様子は「会いたいときに会 えた」母親は36人(83.7%)「触れることができた」33人 (76.7%),「抱っこできた」29人(67.4%)「着せたかっ た衣服を着せた」は11人(25.6%),「お風呂に入れるこ とができた」は3人(7.0%)であった。 子どもとの別れについては,「希望を伝えることが できた」母親は,20名(46.5%),自宅に連れて帰った 13名(30.2%)であったが,一方「考える間もなく進ん で行った」8名(18.6%),「葬儀に行きたかったけれど 行くことができなかった」が1名に認められた。思い 出つくりの遺品として残したものは,図1に示す通り である。 3.小冊子に対する評価 小冊子を読んでの母親の評価は,「とても参考にな った」29名(67.4%)と「参考になった」13名(30.2%)で, 合わせると42名(97.7%)が好意的な回答であった。「誰 と一緒に読んだか」の質問に「父親」が32名(74.4%), 祖父母3名との回答であった。 参考になった項目を複数回答で問うと,図2に示す とおり第一部は「赤ちゃんにしてあげられること」32 名(74.4%),「感情」29名(67.4%),「お別れの方法」25 名(58.1%),「身体への影響」22名(51.2%)の順に多 自分で希望した 夫や家族に相談して 医療者に勧められて 考える間もなく進んだ 0 5 10 15 20 25 30 35 40 (人) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 (人) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 (人) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 (人) 会いたいときに会えた 触れることができた 抱っこできた 着せたかった衣服を着せた お風呂に入れることができた 希望を伝えることができた 自宅に連れて帰った 考える間もなく進んで行った 葬儀に行きたかったけれど できなかった 母子手帳 足型 へその緒 手型 写真 モニターの図 ネームバンド 髪の毛 爪 カルテのコピー 面会することを決断するまでのプロセス 面会の様子 子どもとの別れについて 思い出つくりの遺品として残したもの 図1 「子どもとの出会い」「子どもとの別れ」 「思い出つくり」の実態 表2 「天使キット」の試用を承諾した対象(n=84) 特 徴 人 % 年齢 20歳から34歳 35歳以上47歳 不明 32 38 14 38.1 45.2 16.7 妊娠歴 はじめて 1回以上 不明 21 28 35 25.0 33.3 41.7 分娩歴 はじめて 1回以上 不明 31 22 31 36.9 26.2 36.9 病因 子宮内胎児死亡 破水等で早産 胎児疾病(食道閉鎖・無脳症・奇形等) 染色体異常(18・21トリソミー) 母親の癌・精神疾患等 33 16 20 11 4 39.3 19.0 23.8 13.1 4.8 人工死産 自然死産 2658 31.069.0 喪失の時期 21週まで 22週から36週まで 37週以降 不明 48 27 6 3 57.1 32.1 7.1 3.6
かった。第二部は「赤ちゃんについて語ること」30名 (69.8%),「パートナーと語ること」29名(67.4%),「赤 ちゃんにしてあげられること」25名(58.1%),「父親」 24名(55.8%)の順で多かった。地域での心のケアの 部では,「インターネット情報」17名(39.5%),「セル フヘルプグループ」および「専門家のカウンセリング」 がそれぞれ16名(37.2%)であった。 小冊子に対する自由記載を分析すると5つのカテゴ リーに分類できた。①〈受け入れられて,心が楽にな った〉②〈何が自分に起こっているか理解できた〉③〈ひ とりじゃない,つながっている感覚〉④〈自分のペー スでいい,時間がかかってもいいという保障〉⑤〈そ れぞれに悲しみの表現があると知る〉に分かれた。 下記の斜体部分は,実際のコメントを引用した部分 である。 ①〈受け入れられて,心が楽になった〉 予想しない出来事で混乱している母親にとって,小 冊子のことばは,起こって当然の混乱や感情であると いう肯定や承認となっていた。 私の気持ちを代弁しているような気がしました。自 分の中で湧き上がるいろいろな思いが,決して変わっ たものではないこと,たくさん悲しんでもよいと肯定 していただいたようで,安心しました。 改めて自分じゃない誰かに,「ほんとうに無理しな くていいんだ」「泣いていいんだ」と言われ,そう思う ことができました。 周囲の悪気のない言葉にさらに傷つくというつらい 状況の中にいましたが,冊子を読んで,自分に押し寄 せてくる感情が普通のことなんだ,赤ちゃんのことを 今でも大切に思っていていいんだと思い,心が楽にな りました。 突然の出来事で頭がおかしくなりそうでした。この 小冊子のおかげで,泣いてもいい,落ち込んでもいい んだと思い,心の片隅で少し楽になりました。 ②〈何が自分に起こっているか理解できた〉 自分自身に起こっている状況や心模様が解説されて いるため,時間が経過した後でも,繰り返し読むこと で,次の段階へと進む道しるべになっていた。 当日は,まったく読む気になりませんでした。何を 言われてもまだ信じることが出来ず,夢なのか,現実 なのか認めたくない自分がいました。翌日,やっと手 にすると,涙があふれて,何もかも当てはまり参考に なりました。何かしらヒントをくれるし,こう思うこ とが自然なんだとわかりました。 亡くなって次の日読み,今後自分がどんな感情に襲 われるか不安になったが,自分はうまく子どもの死を 受け入れるんじゃないかと思った。しかし,その後感 情が不安定になり,49日が終わったあとは,一段落し たら仕事とかいろいろ思ったらもっと感情が不安定に なり,死にたいとまで思った。小冊子を読み直したら, 私はこの小冊子に書かれている感情のほとんどが押し 寄せてきていたんだと思った。とっても役に立ちまし た。 どうしてこんな気持ちになるのか,読みながら涙 しても,この冊子で心が落ち着くことが出来ました。 時々読み返しては,泣いたりもしますが,少しずつ前 に進んでいるように感じます。 ③〈ひとりじゃない,つながっている感覚〉 小冊子のことばから同じ体験者がいることを知り, 緩やかなつながりや眼差しがあり,孤独ではないと感 じていた。 死産で悲しいのは,自分だけではないとわかり,気 が楽になりました。 ひとつひとつの言葉やメッセージがその時の自分の 気持ちに答えてくれて,泣きながら読みました。「泣 くのを我慢しなくてもいい」,「自分と同じことを他の 0 5 10 15 20 25 30 35 (人) 0 10 20 30 40 (人) (人) 0 5 10 15 20 25 30 35 赤ちゃんにしてあげられること 感情 お別れの方法 身体への影響 法律上の手続き 社会保険上の手続き 解剖 赤ちゃんについて語ること パートナーと語ること 赤ちゃんにしてあげられること 父親 どこに救いを求めるか 記念日 友達 きょうだい 祖父母 インターネット情報 セルフヘルプグループ 専門家のカウンセリングが受けられる はじめの週 退院したあと 地域で 図2 参考になった小冊子の項目(n=43)
お母さんもしている」など,後悔や自分の怒りで心の 整理が出来ない私には,身にしみた言葉でした。 思いがけず提供していただいたおかげで,お会いし たことのない天使ママと心がつながっている気がしま した。あたたかい眼差しのようなものを感じました。 悲しみの中にいながらも感動しました。 ④〈自分のペースでいい,時間がかかってもいいとい う保障〉 時間経過の中でゆっくりと悲しみが変化していく気 持にどう対処したらいいのか,ありのままでいいと肯 定する助けになっていた。 退院後2ヶ月間は,検診以外まったく外出できず, 家の中だけの生活をおくっていました。今までなんと も思わなかった日常生活を送ることさえ出来ずにいる 自分にずいぶん戸惑いました。でも冊子の中に「自分 自身に寛容であってください」と書いてあり,救われ ました。こんな自分の姿もありのまま認めようと考え を変えることが出来ました。 自分の大切な赤ちゃんなのだから,赤ちゃんの死を 受け入れるのに時間がかかることも仕方のないことだ と考えを変えることが出来ました。 入院中,病院にはずいぶん配慮してもらえたと思い ますが,退院後は大海にひとり放り出されたような不 安で孤独な日々でした。これからどういう風に時間が 経過していくのか,どんな風に過ごせばいいのか,途 方にくれていたので,助けになった。 ある人から「自然淘汰だから」と言われ,周囲の人 に会えなくなりました。子どものことが頭からはなれ ず,仕事も辞めてしまいたいと考えていましたが,冊 子に「1年は重大な決心をするな」とあり,思いとどま りました。自分はもう狂ってしまったのではないかと 思いましたが,冊子を読んで少し安心しました。自分 のペースでいいんだ,時間がかかってもいいんだと思 えました。とても感謝しています。 ⑤〈人それぞれに違った悲しみの表現があると知る〉 家族との感情のズレや,周囲の人々の無理解や心無 い言葉に傷ついている母親にとって,どう向き合った らいいのかヒントとなった。他者に同じように悲しむ ことを求めるよりも,他者との相違を当然のこととし て認める小冊子の姿勢が共感をよんだ。 心のケアに関する情報のおかげで,今自分が感じて いる心の痛みや悲しさ,家族との微妙な心のズレなど は,自然なことだという認識を持つことが出来ました。 周りに話しても自分の気持ちが伝わらず,また話を 自分から避けるようにしたり,自分の中だけで気持ち をおしつけることができない辛い時期にとても役に立 ちました。 1ヶ月が経った今,夫や周りの人はまったく普通の 生活に戻っています。それが悲しくてさびしいとも感 じますが,冊子に書かれていたように皆それぞれが悲 しみを受けとめ,そのとらえかた表現の仕方それぞれ だと納得しました。そして,苦しくて立ち直れなかっ たら,紹介されていたサポート団体もあるのだという 存在を知ることだけでも,大分楽になりました。 4.天使キットに対する評価 43例全例が感謝のコメントを記した。天使の洋服 や布団の使い心地については,31人(72.1%)が「とて も使いやすかった」「使いやすかった」と回答した。退 院後にどのように天使キットを用いているかの問いに 「時々開けて見ている」と回答した人は,24人(55.8%) であった。 医療者からの製作の意図や使い方を聞き,子どもの 遺品を残す,別れの身支度をすることを親として考え, 遂行するのに必須なものであったとの評価であった。 (表3参照) 自由記載された評価の内容は,次の5つのカテゴ リーに分類できた。①〈数少ない思い出の品となった〉, ②〈時機を得た支援だった〉,③〈限られた時間の中で, 遺品を残すことの後押しになった〉,④〈大切な赤ち ゃんとして扱ってもらえた〉,⑤〈医療者とコミュニ ケーションがとりやすかった〉に分かれた。 ①〈数少ない思い出の品となった〉 キットの中に入っていた手型・足型をきっかけにし 表3 自由記載から抽出された評価 【小冊子】………認知・情動への影響 受け入れられて,心が楽になった 何が自分に起こっているか理解できた ひとりじゃない,つながっている感覚 自分のペースでいい,時間がかかってもいいという保障 人それぞれに違った悲しみの表現があると知る 【天使キット】………認知・情動・行動への影響 数少ない思い出の品となった 時機を得た支援だった 限られた時間の中で,遺品を残すことの後押しになった 大切な赤ちゃんとして扱ってもらえた 医療者とコミュニケーションがとりやすかった
て,思い出つくりができた感謝の記載が多く,メモリ アルボックスは,開発の意図どおりに家庭に持ち帰り, 子どもを語る場所としても使用してもらえた。 手型・足型が取れるものがあってよかった。小さな 赤ちゃんだったので,助産師さんが足型を取ってくれ てうれしかった。今見ても涙が出ます。 手が汚れることなくとることが出来てよかった。今 となっては数少ない思い出の品でコピーして持ち歩い ています。 手型・足型は,はじめはちょっと小さすぎて残すの はどうかなあとおもいましたが,上の子ども達にも教 えてあげられてとてもよかった。 全体にとても可愛らしく天使という感じです。退院 してからは(メモリアルボックスを)家の中でベビー コーナーとして飾って見ています。 退院したあと,自宅で納骨するまでずーっと(天使 キットの箱を)開けて眺めていた。 ②〈時機を得た支援だった〉 突然の出来事に戸惑っている時に,具体的に親とし て「赤ちゃんにしてあげられること」の例があり,行 動をとることが可能であった。 「赤ちゃんにしてあげられること」や「お別れの方法」 の部分は,小冊子を読んで参考になりました。いろい ろと病院のスタッフに希望を伝えることが出来て,そ れに答えていただいたのでよかった。 急な出産になって,小さい子ども用の衣服を用意し ていなかったので,可愛らしいものが用意され,心地 よかった。こんな大変な状況で「地獄で仏」に出会っ た感じだった。洋服も3着あって,天国へ行く身支度 ができて,かわいく飾ってあげることが出来ました。 手続きや葬儀についても,正しい情報がわかったの で,葬儀社に頼まず,すべて自分でやり,お金もかか らず手つくりの納得いく供養が出来ました。 ③〈限られた時間の中で,遺品を残す行為の後押しに なった〉 遺品を残すための時間が限られている中で,何をど のように準備するかという具体的な例や説明文は,親 の考えや行動,意思決定を後押した。 この小冊子があったおかげで,写真を撮ることが良 いことと確信でき,夫も説得できました。男性は,何 かを残すことに消極的で女性の感性と異なることが多 いので,病院で渡されたことで信頼性もあった。 何も考えられなかったので,洋服や布団など役に立 つものばかりだった。これがなければ後悔だけで,あ れもしてあげればよかったと悔やんでいたとおもう。 子どもの記念品を残すことを具体的に考えることが出 来た。 今となっては,この思い出の品に支えられています。 赤ちゃんが生きた証を手にすることが心の支えになっ ています。この冊子に書かれてあったこと,周りの 人々のおかげでほとんどできたなあと,周りの人々へ の感謝の気持ちでいっぱいになりました。 ④〈大切な人として扱ってもらえた〉 小さな胎児は,時に人として認めてもらえないこと もあり,衣服を準備し着ることを通して,大切な人間 として尊重された感覚をもたらした。 きれいにしていただいて,ほんとうにありがたく, 14週の胎児だったけど,人として扱っていただけた だけで嬉しかった。 洋服はとてもうれしかった。この子は生まれてみん なに見守られていると感じられた。人の優しさ,温か さを感じられて嬉しかった。 赤ちゃんを元気に産んだ人は,赤ちゃんを抱っこし て帰るけれど,私にはこの天使キットが子どものよう で抱っこしているように両手で大事にしていた。 天使ママさんがつくったぬいぐるみがあり,温かく てありがたい気持ちになりました。心のどこかで自分 はひとりじゃないという気持ちがわいてきました。 天使ママからのクマの人形,「ひとつは棺に,ひと つは親が手元において……」という説明を看護師から 聞いたとき,心から涙があふれてきました。悲しみが 大きく受け止められたような温かさで,感動しました。 わが子もひとりで旅立つのにかわいらしいクマちゃ んと一緒で少し心強いように思えました。今も,もう ひとつのクマちゃんが毎日部屋の片隅で見守ってくれ ています。 ⑤〈医療者とコミュニケーションがとりやすかった〉 天使キットを介してどのように遺品を残すかの話を する,選択肢を知るなど,自分なりの意思決定ができ るようになった。医療者とのコミュニケーションの障 壁を低くした道具であった。 病院では母乳を止めるホルモン剤を投与されました が,薬を使わない方法も可能ということがわかり,相 談し薬を止めて絞り,とてもよかった。
何度も残したいものを確認してくれて,しかもそれ が私を対応する看護師全員に伝わっているのでとても 好感が持てた。 それまでは特に親しい助産師さんはいなかったので すが,入院中に「天使キット」を持ってきていただい た際に,その助産師さんと初めてゆっくりと話が出来 ました。 子どものために今やること,妊娠中の後悔,自責の 念を聞いてもらった。 面会を迷っていると伝えると,「かわいかったです よ。お洋服も着ていて」といわれて嬉しくなって面会 することにしました。 このようなキットを用意している病院ということで, いっぺんに病院に対する評価が高まった。 5.改善への意見 小冊子の文章の語尾に〈∼してあげましょう〉〈∼す るとよいでしょう〉という表現があるが,賛同できな いものもあるので気になるという意見,命名の項目で 〈用意していた名前を呼んであげてください〉とある が,押し付けられているという意見が2名から寄せら れた。 天使キットに入れてほしいものとして「へその緒を 入れる箱」,「赤ちゃんへの手紙のセット」が挙げられ た。残念な点として,医療者の勘違いで棺として使わ れ遺品として母親の手元に戻らなかった例が認められ た。また,母親誰もがもらえるのもだと勘違いして, 退院の時に赤ちゃんの記念として堂々と大事そうに持 って院内を歩いたので,後日気がつき,少し気恥ずか しい思いにさせた事例があった。
Ⅴ.考 察
周産期喪失を体験した母親に試用していただいた小 冊子「悲しみのそばに」および天使キットは,好意的 な評価であった。研究者の制作の意図は,試用プロセ スを経て,どのように伝わり評価されたのであろうか。 正常な悲嘆反応の保障 喪失に伴う反応は,身体・認知・情緒・行動のあら ゆる面の反応が一度に起こる。当事者は喪失に関する 予備知識を持つはずもなく,突然の喪失と対峙しなけ ればならない。急性期には,自分が保てないほどの混 乱が生じる。 大井(2001)による周産期喪失を体験した母親10名 への面接調査では,喪失後に「ショック」「悲しみと泣 くこと」「怒りと苛立ち」「自責感・罪悪感」「抑うつ」 「絶望」などの情緒的反応と,「不眠」「食欲不振」「体重 減少」などの身体反応が見られたと報告する。 本結果において,小冊子の言葉が喪失を経験した母 親の感情や認知を代弁しているため,〈受け入れられ て,心が楽になった〉〈何が自分に起こっているか理 解できた〉との評価を得た。小冊子は,正常な悲嘆反 応についてわかりやすく解説し,身体への影響は当然 だと伝える。感情については,孤独・恐怖と不安・怒 り・自責感・嫉妬・相反する感情の波など。また個人 での経験に差があることも説明している。一貫して伝 えていることは,「長い間悲しみは無視され続けてき た。両親たちは,起こったことを忘れるように言われ てきた。しかし今では,悲しみは無視するべきことで はないことがわかってきた。つまり悲嘆とは,何か大 切なものを失った時に,人がその状況を受け入れてい くために必要なものである」と説明する。 特に「泣くこと」についての記述は,多くの母親に 安堵をもたらした。泣くことの大切さ,周囲に伝えた いこと,泣きたくない時,悲しみの変化等について記 述している。Turton, Hughes, Evans et al.(2001)が行った調査で は,周産期喪失後の妊婦29%がPTSDと診断され,特 にパートナーや家族からのサポートが得られないと いう認知とPTSDとの間に相関関係のあることを示唆 している。同様にBailham & Joseph(2003)やHughes, Turton, Hopper et al.(2001)も周産期喪失とPTSDとの 関連を指摘している。堀内(2007)は,周産期喪失を 体験した女性17名に面接を行なった結果,全員が強 い悲嘆反応とPTSD症状を喪失直後に呈するが,時間 経過とともに減少していたと報告する。しかし,3例 は病的悲嘆の経過をたどり,時間経過しても悲嘆反応 やPTSD症状が強く現れ,3例に共通して喪失直後に 感情表出の機会が少なく,周囲の無理解による感情表 出の抑制が認められたと報告する。 「泣くことを奨励し保障すること」は,文字にして しまえば,特別なことではないけれど,しかし真正面 からは誰も伝えてくれない言葉である。また小冊子は, 母親本人が読むだけでなく,夫や祖父母など周囲の 人々への悲嘆作業への啓発も意図しており,その重要 性がわかる。 Worden(1991)は,悲哀プロセスの4つの課題として,
第1に「喪失の事実の受容」,第2に「悲嘆の苦痛の克服」, 第3に「死者のいない環境への適応」,そして第4に「死 者の情緒的再配置と生活の継続」を挙げている。この プロセスを完了するまでに要する時間については明確 な答えはない。 本結果から,〈自分のペースでいい,時間がかかっ てもいいという保障〉,〈それぞれに悲しみの表現が あると知る〉は,退院後の長い時間経過の中で戸惑う ことに対する道標として評価された。竹内(2004)は, 体験者からの声を集め,医療者や周囲の人々からの 「つらかった言葉・受け入れられなかった言葉」が多 くあると指摘する。正常な悲嘆作業は,月単位年単位 での変化を遂げるといわれているにもかかわらず,そ の間の過ごし方をさし示す資料は母親の手元にはない。 小冊子は,どのように気持ちを持っていけばよいのか の例を紹介している。 地域でのこころのサポートの項目は,悲しみはひと りで抱えるには大きすぎることを伝え,支援がほしい ときのセルフヘルプ・グループの情報提供をしている。 蛭田(2007)は,周産期の喪失を体験した女性がセル フヘルプグループに参加することの意味を,悲しみを 分かち合うだけでなく,グリーフワークを促し,母親 としてのアイデンティティ育成や人間的成長を可能に し,そこで得た人間関係は,支え合って生きていく力 に発展すると指摘する。 また,小冊子には個人カウンセリングの紹介もあ る。本研究の対象者のように人工死産を選んだ場合は, 体験を共有できる仲間を探すことがより困難である。 Harris(2004)は,選択的な妊娠中断の場合の,中絶前 後のカウンセリング支援の必要性を説く。心理学的予 後についてハイリスクであることの確認や対処行動に ついてのカウンセリングの必要性を謳っている。 Deeken(1983)は,喪の作業を進めるプロセスは, 心の傷が癒えるとは単に健康な状態に復元することで はなく,人格的に大きな成長を遂げることを意味する と指摘する。喪失体験は,多くのものを奪い破壊する が,体験者自身がそこから何かを得ることによって新 たな人生をももたらすといえる。 通常用意されている産後のパンフレットは,新生児 との生活が前提になったものであり,子どもを亡くし た母親が読んで参考になる部分は皆無である。正常な 悲嘆作業を進めていくためにも,繰り返し読むことの できる小冊子は必須である。 「出会いと別れ」「思い出つくり」を後押しする 周産期の喪失を経験した母親に臨床心理士として関 わってきた橋本(2004)は,生まれるときに既に死ん でいる子どもであっても,母親にとっては,会って別 れるというプロセスが重要であると主張する。 「子どもとの出会い」には,子どもとの時間の共有 の重要性や意義,会えることの情報の提供(AAP & ACOG, 1997; Bartellas & Van Aerde, 2003; Fox, Pillai, & Porter, 1997; Kohner, 1995),怖さの軽減や意思決定 への後押し(太田,2006;Mander, 1996)が必要である と指摘されている。
「子どもとの別れ」には,お別れの時間,お別れの 身支度,家族一緒の時間,お別れのセレモニー(AAP & ACOG, 1997; Bartellas & Van Aerde, 2003; Fox, Pil-lai, & Porter, 1997; Kohner, 1995)に関して十分な配慮 と情報提供が必要であり,母親を中心として家族でお 別れ方法の意思決定のプロセスが重要である(Kohner, 1995; Saflund, 2004)と指摘されている。 本結果にあるように小冊子の「赤ちゃんにできるこ と」の項目を入院中に読むことができれば,面会や別 れに対する実質的な準備が可能になる。 「思い出つくり」には,記念品として考えられるも の,思い出つくりへの両親の参加,医療者からの選 択肢の提示(Bartellas & Van Aerde, 2003; Fox, Pillai, & Porter, 1997; Kohner, 1995; Mander, 1994)が重要であ ると指摘されている。しかしながら,実態としては, 十分に行われていない。米田(2007)によれば,276名 の助産・看護職に対して周産期の「望ましいケア」の 実態を調べた結果,「児と家族が過ごす時間の確保」は 81.2%が行なっていたのに対し,「児の思い出の品を残 す」は52.6%に留まり,「赤ちゃんの思い出つくりの方 法とその大切さの情報提供」も37%の実施だったと報 告している。 本結果の中にも,小冊子に書いてあったことが後押 しして,写真を撮ることができ,後悔のなかったこと が記されており,医療者からの理論に基づいた情報提 供が認知・情動・行動に影響したことがわかる。 蛭田(2009)は,死産を体験した母親5名にインタビ ューを行い,悲嘆の過程において,亡くなった子ども の存在をどのようにとらえているか母親の語りを記述 した。「残せるものは残しておけばよかった」と母親達 は後日後悔しているが,その必要性は「その時にはわ からなかった。思いつきもしなかった」と述べている。 死産に限っては,子どもの思い出の品は意図しなけれ
ば何も残らず,またそれが必要であると思ったときに は,子どもの実体はすでに存在しないのである。喪失 の初期には,子どもへの愛情を抱きながらも後悔や罪 悪感,傷つき,空虚感といった苦悩が強かったが,時 間の経過とともに,子どものことを語ることや思い出 の品を通じ,子どもを自分の人生に組み込み,人間的 成長を遂げていたと報告している。 長い目で見たときの悲嘆作業を考えるとき,この思 い出の品はもつ意義は大きい。Worden(1991)は,グ リーフカウンセリングの有効な手段として,故人の写 真やビデオテープ,衣類などがひとつの 象徴 とし て役立つと指摘している。Neimeyer(2002/2006)は, 死は愛情関係に終止符を打つものというより,別の形 へと変化させるものと表現したほうが適切であり,必 要なのは,愛する人の思い出を遠ざけるのではなく, 大切にすること,故人との関係を目に見える身体的な 存在から目に見えない 象徴的な絆 に移行させるこ とだと述べる。同様の指摘は,やまだ(2007)も指摘 しており,死者と共に生きることは,ここにいない死 者と不在のコミュニケーションをすることである。死 者の祭壇を祀ることは,それは,この世の見えない価 値に光を当て,水をやり,育てることであると指摘す る。 天使キットは,入院中に子どもとの思い出や遺品を 集め,大切に保管する。そして退院後は,自宅に帰っ て,キットの扉を開けて立て,両扉にある写真に語り かけ,焼香のたびに声をかけ,好物を供えるといった まさに祭壇の一部を構成するようにと考案した。退院 してからの地域で過ごす長い悲嘆作業の時間の中で, 「子どもの思い出つくり」に費やす貴重な時間の意味 に着目するべきであろう。 配慮あるコミュニケーション 岡永(2005)の実態調査から「どう働きかけたらい いかわからない」という助産師が多いことがわかった。 太田(2006)によれば,母親がひとり隔離されて誰も 話し相手のない状態は決してケアとは言えず,まるで 腫れ物にさわるような対応は,母親の気持ちには届か ない。Chan, Chan, & Day(2004)は,香港において周 産期喪失に関する教育を110名の看護師を2群に分け て行い,教育を受けたほうが喪の作業に対して肯定的 な態度になったと報告している。さらに太田(2009)は, 看護師・助産師を対象に「ペリネイタル・ロスのケア に関する教育プログラムの効果」をランダム化比較試 験で実施し,その有効性を検証している。 本結果からも「天使キット」を通じて,母親とのコ ミュニケーションを図ることが可能であることが明ら かになった。足型を取るプロセスを通じて,知らなか った子どもの様子を看護師から教えてもらったり,母 乳を止めたくないと申し出たり,葬儀についての希望 を医療者に伝えたりすることが容易であったことが本 結果から判明した。 天使キットの中に入れてある体験者からの「ぬいぐ るみ」は,非言語的寄り添いの品として評価されてい た。体験者のつくったぬいぐるみは体験者とのつな がりからの安堵感や慰めをもたらし,人としてあつか ってもらった感動が示された。ひとり旅立つ子どもの お供に,また子どもの身代わりとして存在すると回 答していた。やまだ(2007)は,墓地にみる生者と死 者のコミュニケーションについて,ぬいぐるみが死の 現場や新しい墓に飾られる暗黙の意味について次のよ うな理由を指摘する。ひとつは,死者を慰め,墓地を 訪れる生者をも慰める「慰撫」の品としての機能。ぬ いぐるみは,安らぎや癒しをもたらし,寂しい場所に 華やぎをもたらし,人の気持ちを元気づける効果であ る。二つ目には,死者の「お供」としての機能。死者 をひとりぼっちにしておくのは,寂しすぎる。三つ目 は,死者の身代わりの「人形(ひとがた)」としての機 能である。ぬいぐるみは,生者に訴えかける無言のメ ッセージを持つ。見る者に,単なるモノとして看過で きない感情,罪のない子どもに対する「哀れ」な感情 をかきたてる。本結果にも,まさにこの暗黙の意味を 受け取っていたと推察される評価があり,結果として 緩やかなつながりや眼差しがあり,孤独ではない感情 をもたらした。 一方,若干名であるが小冊子中の文章表現の語尾に 対し「押し付けられている」のコメントがあった。石 井(2007)は,周産期死別体験者にかけられる言葉を 質的に分析した結果,周囲の人々からの言葉や態度で 「つらかった言葉や態度」は,指示的アドバイス,価 値観の強制,解釈(ネガティブ),諦念・諦観,否定 であり,逆に「うれしかった言葉・態度」では,共感 的アドバイス,承認,解釈(ポジティブ),積極的言 動,非言語的寄り添いであると報告している。小冊子 のことばが受け入れられ,安心したという肯定的な反 応になったのは,体験者の経験に基づいて作成されて いるため,慰めや共感,承認に溢れていると思われる。 その一方,指示・強制と受け止める人もいることから,
文章表現にさらなる工夫が必要である。 また,改善への意見に寄せられた事例から関わるす べてのスタッフが天使キットの開発の意図を理解した 上で,母親や家族と配慮あるコミュニケーションを取 ることが求められる。天使キットを臨床で用いる前提 として,医療者が周産期喪失とその支援について正し く理解していることが誤用を避けるためにも重要であ る。実態として「子どもとの面会や別れ」において「考 える間もなく進んで行った」事例があることからも, 周産期喪失に対する現任教育を普及することは喫緊の 課題である。 研究の限界と次への展望 今回の小冊子および天使キットの試用は100名の方 に配布したが,評価の質問紙は,1年の研究期間中に は43部しか返送されなかった。サンプル数の少なさ は否めない。喪失後のフォローアップ体制を整え,今 後さらなるデータ収集を通して,より良いものに改善 してゆきたいと考える。 現在は,この研究を元に「臍の緒を入れる箱」を加 えて,天使キット(小冊子を含む)は市販されている。 しかし臨床においては,使用予定数を見越すことが容 易でなく,購入数量が少数であり単価が高額となって いることが普及を妨げている。産後の母親に配る通常 の産褥セットに変わるものとして,天使キットが常備 されるようになることを願う。
Ⅶ.結 論
出会いと同時に失うという周産期喪失は,限られた 時間に家族の絆を確かめ記念品を残す作業を行わなけ ればならない。周産期喪失を経験した母親に小冊子 「悲しみのそばで」および「天使キット」(別れの身支度, 記念品等)を提供し,その試用経験から実用性を評価 した。 小冊子および天使キットは,母親から良好な評価を 得た。小冊子は,喪失後の悲しみについて認知・情動 の理解を助け,天使キットは認知・情動・および行 動を助けた。特に正常な悲嘆反応であることを保障 し,「出会いと別れ」「思い出つくり」の意思決定を後押 しする,さらに喪の作業を進め慰めにつながるコミュ ニケーションを促進することがわかった。退院後の長 期的な観点からも,喪失による心痛の軽減や,精神的 混乱への理解や回復に向かっての支援を促進していた。 この道具は,周産期喪失による悲嘆作業を進める上で の道標として実用化が望まれる。 謝 辞 お子さんを亡くされ大変な時期にもかかわらず,本研究 にご協力してくださいましたお母様方に心より感謝いたし ます。また研究に協力いただきました聖路加国際病院,日 本赤十字社医療センター,独協医科大学病院,順天堂医院, 埼玉協同病院の看護師・助産師スタッフの皆様に心より御 礼申し上げます。 本研究は,日本学術振興会 科学研究費補助金基盤研 究B(平成17年度から19年度)「死産を経験した家族の出 会いと別れを支えるグリーフケアの開発」堀内成子代表 (17390587)の一部である。 引用文献Alexander, K.V. (2001). The one Thing You can never take away. MCN, 26(3), 123-127.
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