• 検索結果がありません。

キャリア・デザインとリカレント研修体制

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "キャリア・デザインとリカレント研修体制"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

理学療法学 第 40 巻第 8 号 708 はじめに  昨今の理学療法士の職域は,医療のみならず,介護老人保健 施設をはじめとした介護保険分野,保健所や市役所等の行政分 野,教育現場やスポーツ分野等々多岐にわたるが,まだまだ医 療分野に所属する理学療法士の割合が多い。医療分野において は,病院だけでなく診療所に勤める理学療法士の割合が多く なってきており 1 ∼ 5 人までの職場もまだまだ多いが,全体の 割合としては回復期リハビリテーションの影響か6∼ 10 人お よびそれ以上の人数を抱える施設の割合が増加傾向にある(図 1)。人数が多くなってくると個としての成長は当然のことなが ら,組織全体としての成長も求められるようになる。  そこで,キャリア・デザインとリカレント研修体制づくりに ついて,個および組織として当医療法人リハビリテーション部 の取り組んできたことをご紹介したいと思う。 キャリア・デザイン  「キャリア・デザイン」とは,「キャリア」と「デザイン」と いう言葉から成り立っている。言葉の意味から見ると,キャリ アとは単なる職歴や経歴だけでなく,仕事への憧れやこだわ り,その仕事を通じて実現できる生活水準などを含んだ生涯に わたるライフスタイルのプロセスを指し,デザインとはそれを 計画・企画することである。つまり,どういうプロセスを描 き,なにを実現したいのかを明確にするのが「キャリア・デザ イン」の役割ということである。  さて,皆さんには,「目標はありますか?」,「目標とする人 (ロールモデル)はいますか?」そして,「その目標はいつまで に達成する予定ですか?」,「その目標に向かっての行動をいつ から開始しますか?」・・・目標を立て,その目標をいつまで に,その目標に向かっていつから行動するか,ということが 「キャリア・デザイン」だと考える。  「キャリア・デザイン」は,その人その人のライフイベント などの転機となる時期で,その都度その都度どんどん変化して いくものだと思う。そのキャリア・デザインをつくり上げてい くのは自分自身である。 リカレント教育  「リカレント(recurrent)教育」とは,「回帰教育・還流教 育」と訳される。なんらかの理由で離職していた人への復職支 援教育的な意味合いで使われてきたように思うが,本来は,経 済開発機構(OECD)が提唱する生涯教育構想で,社会人が必 要に応じて学校へ戻って再教育を受ける循環型の教育体制のこ と(大辞泉より)をいい,社会人が人生の途上で様々な形で学 ぶことを意味している。  我々理学療法士は技術職だが,その根幹となるものは教育で ある。医学や制度は変化していく。その変化に対応できるよう に,生涯にわたる学習(生涯学習)をしていく必要性がある。 筆者は常々「リカレント教育」とは「生涯学習」であると考え ており,当然のことながら卒後教育もリカレント教育として捉 えている。  狭義の意味でのリカレント教育としては,産休・育休後や介 理学療法学 第 40 巻第 8 号 708 ∼ 711 頁(2013 年)

キャリア・デザインとリカレント研修体制

─理想的な職場管理の確立に向けて─

職場におけるリカレント研修体制づくり

谷 口   千 明

**

専門領域研究部会 教育・管理理学療法 特別セッション「パネルディスカッション」

Career Design and a Recurrent Training System: To Establish the Ideal Workplace Management: The Making of Recurrent Training System on the Workplace

**

医療法人順天会 放射線第一病院リハビリテーション科 (〒 794‒0054 愛媛県今治市北日吉町 1‒10‒50)

Chiaki Taniguchi, PT: Department of Rehabilitation Hohsyasen Daiichi Hospital

キーワード: キャリア・デザイン,リカレント研修体制,職場管理

図 1 所属人数別施設数の推移(%) Japanese Physical Therapy Association

(2)

キャリア・デザインとリカレント研修体制 709 護休暇後の復職支援および離職者の復職支援等が挙げられる。 これらの復職支援の際には,背景にある労働基準法,育児・介 護休業法等の法律を知っておくべきであろう。いずれの法律も 厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)からみ ることができる。その他,母性健康管理サイトや両立支援総合 サイト,イクメン・プロジェクトなど厚生労働省委託事業のサ イトもあり,わかりやすく具体的アドバイスが充実しており, またパンフレットのダウンロードなどもできるので,一度はア クセスしてみることをお勧めする(表 1)。 臨床実習教育  卒後教育を考えるには,まず卒前教育における「臨床実習教 育」を抜きにしては考えられない。「臨床実習教育」は,具体 的環境と対象にあたりながら,学内教育で学んだ知識や技術, 医療専門職としての態度を含む総合的な実践力を養うためのも のである1)。ただし,臨床実習はあくまで養成教育の単位のひ とつであることを忘れてはいけないと思う。  臨床実習の到達目標は,2000(平成 12)年日本理学療法士 協会発行の臨床実習教育の手引き第 4 版によると「基本的理 学療法が独立して行える」であった。それが,2007(平成 19) 年発行の同第 5 版では「ある程度の助言・指導のもとに,基本 的理学療法が遂行できる」に変更された。「独立して」から「あ る程度の助言・指導のもとに」という低い設定となったのであ る。その背景には,養成校の増加と理学療法士・作業療法士学 校養成施設指定規則等の教育制度の変化や一人職場が少なくな るなどの就労環境の変化などが考えられる2)3)。  表 2 は,理学療法士・作業療法士学校養成施設指定規則の変 化を示している。臨床実習時間数は,1966 年には養成時間の 50.9%であったが,1999 年には 19.4%と 33 年の間に約 3 分の 1 にまで減少している3)。つまりは,臨床(実習)経験値が大幅 に減っていることになる。その減った臨床(実習)経験値の差 を埋めていく経験の場は,卒後教育の場(特に職場)に他なら ないのである。 臨床教育(卒後教育)  臨床教育は,卒後教育としての臨床実習から続く教育であ り,臨床実習で「ある程度の助言・指導のもとに,基本的理学 療法を遂行できる」ようになっているであろう新人を,臨床の 場で「基本的理学療法が独立して行える」ようにしていくこと だと思う。ただ,「独立して行える」という目標は最低限の到 達目標である(図 2)。  卒前教育における臨床実習教育を踏まえて,卒後教育到達目 標を考えると卒後教育の課題は大きく 3 つあると思う(表 3)。 1.若手理学療法士の臨床教育(新人教育),2.臨床教育にお ける指導者の育成(中堅教育),3.生涯学習を続ける環境整 備(専門教育)の 3 つであり,1 ∼ 3 に向けて,教育の場は院 内から院外へと変化し,対象はスタッフ全員から個々人へと変 化していく。若手理学療法士の臨床教育は,院内にて全スタッ フを対象として最低限実施すべきことであるが,生涯学習を続 けるための環境整備となると院内のみでは限界があり,院外研 修等から大学・大学院教育等がここに該当していくものと考え る。日々の臨床の中にあっても,通信制も含めた大学や大学院 等へ進学・通学しやすいサポート体制や,研修会・講習会等へ も積極的に参加できる職場環境をつくることも管理者の大切な 役目である。もちろん,理学療法士一人ひとりの,専門職とし ての学びの姿勢や時間の確保等への努力も欠かせない。 表 1 知っておくとお得なサイト! ・改正労働基準法(平成 22 年 4 月) ・改正育児・介護休業法(平成 22 年 7 月) 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/ ・母性健康管理サイト(厚生労働省委託) http://www.bosei-navi.go.jp/ ・両立支援総合サイト(厚生労働省) http://www.ryoritsu.jp/index.html. ・イクメン・プロジェクト (厚生労働省 雇用均等・児童家庭局委託事業) http://ikumen-project.jp/index.html. ・一般財団法人女性労働協会 http://www.jaaww.or.jp/ 表 2 実習時間の減少 理学療法士・作業療法士 学校養成施設指定規則 実習時間数 / 養成時間 % 1966 年 1,680/3,300 時間 (50.9%) 1972 年 1,080/2,700 時間 (40.0%) 1989 年 810/2,990 時間 (29.0%) 1999 年 18/93 単位 (19.4%) (吉元洋一:総合リハ.36(4): 335‒341, 2008 より一部引用) 図 2 臨床実習から卒後教育の到達目標 表 3 卒後教育の課題 課 題 教育の場 対象 1. 若手理学療法士の臨床 教育(新人教育) 院内 全員 2. 臨床教育における指導 者の育成(中堅教育) 院内∼院外 全員∼個人 3. 生涯学習を続ける環境 整備(専門教育) 院外 個人

Japanese Physical Therapy Association

(3)

理学療法学 第 40 巻第 8 号 710  卒後教育の現状としては,施設内教育,都道府県理学療法士 (協)会の研修会等,日本理学療法士協会の学会・研修会や生 涯学習プログラム,学際領域の学会・研修会等があり,最たる ところに大学・大学院教育がある(図 3)。施設の規模や業務 の煩雑さ,指導者の有無,臨床教育に関する意識の度合い,ス タッフの経験年数の分布といった要因により,もっとも格差が 予想されるのは施設内教育である。その施設内教育における最 低限到達すべき教育目標は,理学療法士一人ひとりが「基本的 理学療法を独立して行える」ようにすることである。それら は,施設の責任において実施していかなくてはならないことで ある。 当法人におけるリカレント研修体制づくり  当法人は,今治市内でも中心部にあり,市北部の県立病院, 市南部の済生会病院と並び中核的役割を果たしている。当法人 のリハビリテーション部は,経営母体の「放射線第一病院(以 下,病院)」,「介護老人保健施設八惠苑(以下,老健)」,「第一 訪問看護ステーションかとれあ」と「放射線第一病院訪問リハ ビリテーション事業所」(以下,訪問リハ)の大きく 3 部門に 分かれている。病院は,内科・呼吸器科中心の 110 床で,理学 療法士 7 名,作業療法士 3 名,言語聴覚士 1.5 名(1 名老健と 兼務)が所属しており,脳(Ⅰ),運動器(Ⅰ),呼吸器(Ⅰ), がんリハの各施設基準を取得している。老健は,ショートステ イを含む入所 80 名・通所 20 名定員で,理学療法士 5 名(内, 1 名育休中),作業療法士 1 名,言語聴覚士 0.5 名(病院との兼 務)が所属している。訪問リハは,訪問看護と訪リハ事業所の 兼務で理学療法士 4 名が所属している。3 部門で,理学療法士 16 名,作業療法士 4 名,言語聴覚士 2 名の合計 22 名のセラピ ストが所属している法人である。  スタッフ数は,この 5 年くらいの間に右肩上がりに増員して おり(図 4),経験年数は平均 7.6 年,7 割強が 10 年以下の若 い職場である。当法人におけるスタッフの特徴といえるかどう かわからないが,セラピスト資格を取得後に通信課程ではある が学士を取得した者が 2 名,修士取得者が 1 名いる。彼らに対 しては,スクーリングの際の休暇取得や,業務量の調整などの フォロー体制をスタッフで共有した。また,日本理学療法士協 会の生涯学習システムに関しても,専門理学療法士(暫定)取 得者が延べ 4 名,認定理学療法士取得者が 2 名いる。新人教育 プログラムにおいては,1 年目を除き全員修了している(図 5)。 これは,愛媛県の生涯学習担当部局を当法人で担当しているこ とも一要因と考えるが,新人教育プログラム研修会への新人の 参加を積極的に促している結果だと思われる。  さて,このように教育・研修等へ比較的積極的な取り組みを してきた当法人リハビリテーション部ではあるが,次のよう な大きな問題点がある。それは,①新人スタッフの臨床(実 習)経験値の低下,②新人・経験年数の少ないスタッフの急増, ③経験年数の少ない若手による新人指導をしなくてはならない こと,④疾患別に専門性がより求められるようになったこと等 である。これらの問題点への対策として,1. 新人教育,2. 中堅 教育,3. 専門教育の大きく 3 つの教育についての検討の必要性 が考えられた。これは,臨床教育(卒後教育)の課題と合致し たものである(表 3,図 6)。この問題を解決していくにあたり, 当法人として取り組んできたことを紹介していきたいと思う。  はじめに,役職者として「主任」(リーダー)を任命し,各 図 3 卒後教育の現状 図 4 当法人セラピスト数の推移 図 5 当法人セラピスト数の経験年数 図 6 問題点とその対策 Japanese Physical Therapy Association

(4)

キャリア・デザインとリカレント研修体制 711 部門の管理を任せ,組織運営・事業展開をしていった。リー ダー間での情報共有を主目的としてリーダー・ミーティングを 毎月開催,その時々の問題解決策を検討し,業務改善等を図っ ていった。全スタッフ対象に上期・下期ごとの個人面談を実施 し個人ごとの目標管理を行った。半期ごとの面談で,達成でき た目標はなぜ達成できたのか,達成できなかった目標はなぜ達 成できなかったのか,自分の強みはなにか等,自分を振り返り つつ,次期にいかせるような目標を改めて設定するということ を継続して実施。  さらには,今年度よりリーダーによる部門ごとの目標設定も 開始し,部門としての目標達成に向けて現在取り組んでいると ころである。研修制度としては,新人教育は 1 対 1 を基本とし た OJT(On the Job Training)で行い,Off -JT として 3 年目 までを対象とした勉強会を週 1 回 30 分程度の座学で疾患別や 保険制度等の講義をリーダーに実施してもらい,リーダーに は「教えること」を学んでいってもらった。数年後には,各部 門内の業務改善を中心とした役割を中堅(5 ∼ 10 年目)のサ ブ・リーダーに任せていくとともに,この「教える」役目も移 行していった。「教えてもらう」立場から「教える」立場への スキルアップである。マンパワー的に少しゆとりの生まれた今 年度は,新人に対し各部門を 1 ヵ月ずつ計 3 ヵ月の研修期間を 設け,各部門において 1 ヵ月のうち 1 週間だけだが他職種の研 修を受けてもらった。病院では看護師に,老健では介護職およ び看護師に,訪問では看護師にそれぞれついて他職種の仕事を 体験してもらった。今後,チームとして協業していく他職種の 仕事を知るとともに,自分たちを知ってもらうことが目的であ る。新人スタッフは,これから各部門へ配属となり,「基本的 理学療法が独立して行える」ことをひとまずの目標として,指 導者とともに OJT で患者や利用者を担当していくことになる。 新人スタッフが「基本的理学療法が独立して行える」ようにす るため,指導者による具体的な指導ができることを目的とした チェック表を取り入れた。しかし,指導者の専門知識・技術の 不足や経験値の違いなどから新人への指導の差が生じないよう な標準化を図っていく必要があると思われるが,それらは今後 解決していくべき課題である。  以上のような取り組みから,目標管理を定期的に実施するこ とで研修やスキルアップの必要性が明確となり取り組む姿勢が できた,縦の組織の意識づけができ役割が明確になったとい う声をスタッフから聞くようになった。このような気づきも, 「キャリア・デザイン」につながるものなのかもしれない。  その他として,月 1 回プレゼンテーションをするという体験 を主目的とした勉強会を,近隣施設からも自由参加で開催して いる。この勉強会から,県学術集会やブロック学会・全国学会 等へつながることを期待するものである。施設外活動として, 愛媛県理学療法士会活動にも参加し,他施設理学療法士や介護 予防事業・スポーツ支援など広く県民との交流も図り,視野を 広げるような活動も支援している。また,信頼関係のもと書籍 販売店からは,見計らいとして書籍を見せていただいたうえで 購入したりしている。  管理者として,研修会等の年間計画をもとに出張の交渉や, 呼吸療法認定士等の各種資格取得や大学院への進学などに対す るサポート体制,部内業務・環境調整等も重要な役割だと考え ている。まだまだ十分な研修体制とはいえるものではなく,ビ ジョンや情報共有をスタッフと図りつつ,現在進行形で研修体 制づくりが進んでいる。 ま と め  キャリア・デザインとリカレント研修体制という観点から, 職場管理の確立に向けてのリカレント研修体制づくりについて というテーマで,当法人の取り組みを紹介してきた。  新人教育・中堅教育,そして専門教育といった課題に向けて 取り組んできたが,新人指導者の指導能力,教育方法等まだま だ多くの課題が存在している。指導方法の標準化や評価基準の 作成など,課題解決をするためにはまだまだ時間をかけて根気 よく取り組む必要があると思う。  患者や利用者を対象とした理学療法士の仕事は,コミュニ ケーションも重要である。同様に,新人教育や中堅教育等のス タッフ教育にもコミュニケーションは必要不可欠なものであ る。子育てのように,スタッフの育成も暖かく支援していきた いと思っている。管理職の職場管理としてもっとも重要な仕事 は,スタッフ教育(共育)だと思う。スタッフみんなでともに 育まれる環境・体制づくりをこれからも取り組んでいきたいと 思う(写真)。 文  献 1) 社団法人日本理学療法士協会:臨床実習教育の手引き(第 5 版). 2007,p. 7. 2) 社団法人日本理学療法士協会:臨床実習教育の手引き(第 5 版). 2007,pp. 17‒23. 3) 社団法人日本理学療法士協会:理学療法教育ガイドライン(1 版). 2010,pp. 7‒8. 4) 吉元洋一:理学療法士,リハビリテーション関連職種の卒前・卒 後教育─課題と展望.総合リハ.2008; 36(4): 335‒341. 写真 Japanese Physical Therapy Association

図 1 所属人数別施設数の推移(%)

参照

関連したドキュメント

[r]

都道府県 高等学校 体育連盟 都道府県

の改善に加え,歩行効率にも大きな改善が見られた。脳

入学願書✔票に記載のある金融機関の本・支店から振り込む場合は手数料は不要です。その他の金融機

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

5月 こどもの発達について 臨床心理士 6月 ことばの発達について 言語聴覚士 6月 遊びや学習について 作業療法士 7月 体の使い方について 理学療法士

その1つは,本来中等教育で終わるべき教養教育が終わらないで,大学の中

社会教育は、 1949 (昭和 24