CaI路町24:101-105 (2015) Carcinological Societyof Japan
甲殻類の教材化
高等学校の現場から
Teaching materials of crustacean -From the field of senior high school
小林弥吉
l Yakichi Kobayashi 高校生に「甲殻類とはどんな生物か」と質問した ところ,生徒の多くは,エビ,カニの仲間であると 答えた.それらは,食材であったり,テレビ番組中 で紹介されたものや,インターネットからの情報な どが多く,学校の授業の中で取り上げられたものは 少なかった.本稿では,学校現場でどのような内容 で甲殻類が扱われているかを明らかにし,これから の学校教育における甲殻類の教材化に実践を含め, 有効な手段を模索した. 圃 は じ め に 文部科学省「学校基本調査・2014年度結果 (www. mext.go・jp)J によると,高 等 学 校 へ の 進 学 率 は 全 日制・定時制・通信制を含めると, 1950年に42.5% で あ っ た が,1974年 に90% を超え, 2014年 で は 98.4%である.同様に神奈川県では98.6% 12014年 度 神 奈 川 県 学 校 基 本 調 査 (www.pref.kanagawa.jp)J
である.つまり中学校卒業後ほとんどの生徒が高等 学 校 に 進 学しているということが言える.2012年 から始まった現学習指導要領では,高等学校におけ る理科においては, 1物理基礎J
,1化 学基 礎J,1生 物基礎J,1地学基礎」から3科目を履修するか,も しくは「科学と人間生活」を含み,上記科目からl 科目を履修するものとするとなっており,神奈川県 公立高等学校全日制普通科101校の「生物基礎」の 1横浜市立戸塚高等学校 干245-u061 神奈川県横浜市戸塚区汲沢2-27-1 Totsuka SeniorHigb School2-27ー1Kumisawa, Totsuka, Yokohama, Kanagawa 245 -0061, Japan E-mail:yakichi目[email protected] 取り扱いについて各校の教育課程を調べたところ, 図1のような結果であった. この数字からわかるよ うに,93%超の高校生が 「生物基礎」 を学んでいる ことになる. 私の勤務している戸塚高等学校生徒100名余りに 「甲殻類とはどんな生き物か」 と聞き取り調査をし たところ,多くの生徒の回答はエビ,カニの仲間と した.面白い回答では,カブトムシTη'Po砂lusdi -cholomusseplenlriona!is,ゴキブリPer月planela
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tligi -nosa, カ メ の 仲 間Testudines,ワニ Eusuchia, ア ル マジロDasypodidae,コウカクキドウタイ(攻殻機 動 隊 ) と い う も の も あ っ た . 彼 ら の 情 報 源 と し て は,中学校での学習,自宅にある図鑑, TV,イン ターネット,自分がアレルギーだから知っているな どであった.エビ, カニと答えた生徒もその多くが 一般的に食材としての種類が多かった.多くの生徒 の反応として関心が低いように感じた.1なぜ恩11染 みがないか」という質問に対しては,小学校や中学 校の授業で紹介されていない, 専門の動物園とかな く,あまり専門的に公開されていない,鉄があった り,練がいっぱいあり,怖そう,グロテスク,可愛 いくない,痛そうなイメージである, エビ・ カニは 食べたらおいしいが,食べづらい,あまり家の食卓 には上らない.といった回答であった. .中学校・高等学校理科における甲殻類の取り扱い 中学校理科では, 2年生で学習する「動物のなか まと生物の進化」の中の背骨のない動物には,どの ようななかまがいるのかという項目で節足動物が紹 介されており,教科書のボリュームでは2ページの 内容である.高JI教材としての理科便覧においても無 日 本 甲 殻 類 学 会 物np
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101神奈川県公立高等学校全日制普通科
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校におけ
る「生物基礎
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の取り扱い
• 1年もしくは2年で必履修 .2年で選択 a設定なし .データなし 図1. 神奈川県公立高等学校全日制普通科101校における 「生物基礎」の取り扱い(神奈川県教育委員会 県 立高等学校ナビデータをもとに作成 2014). セ キ ツ イ 動 物 の な か ま と し て 節 足 動 物 の 紹 介 はl ページにとどまっていた.教科書,理科便覧で紹介 されている甲殻類はオカダンゴム、ンArmadillidium 間信G即,アメ リカザリカゃニProcambarusclarkiiが多 高等学校 「生物基礎」では,出版社5社を比較し た結果,いずれの教科書においても無脊椎動物の体 液濃度調節の内容においては,無脊椎動物の体液の 濃度調節でケアシガニA旬。splmgera. チチュウカ イミドリガ、ニCarcinusaestuarii. モクズガニErio -cheir japonicaが例としてあげられており,生物の多 様性と生態系においては,生態系のバランスで,カ メノテCapitulummitella. フジツボ 8alaninaが取り 扱われている.生態系の保全で特定外来生物のウチ ダザリガニPacifasωcusleniusculus trowbridgii.干潟 の生態でチゴガニIlyoplaxpusilla.人間活動による 生態系への影響の水質評価でサワガニGeothelphusa dehaani.外来生物のアメリカザリガニ, チチュウ カイミドリガニ, 生物濃縮でアミMysida.土 壌 生 牧lでオカダンゴムシ,ヨコエビ Gammaridea. ワラ ジムシPorcel/ioscaber. ヒメフナムシLigidiumja -ponicum.外来種の移入による在来種への影響で、ニ ホンザリガニCambaroidesjaponicusがあげられてい る. 「生物基礎」を履修した後に選択科目である「生102
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物」では,出版社4社を調べた結果,生物の環境応 答において走性の例としてアルテミアArtemiasalina が,生物の進化と系統においては節足動物(クルマ エヒ"Marsupenaeusjaponicus)の観察が,節足動 物 の付属肢の相同でアメ リカザリガニが,動物の分類 と系統においてアメリカザリガニ,クルマエビ,ヤ ドカリPaguroidea. イ ソ ガニHemigrapsussanguine -us. タカアシカーニMacrocheirakaem前nがあげられ ている.また, 生態と環境においては,食物連鎖で フジツボ,カメノテが,土壌生物ではワラジムシ, オカダンゴムシ, ヨコエビ, ヒメフナムシがあがっ ている. 一方副教材として用いられる生物図説5社では, 生物の体内環境の維持において,無脊椎動物の体液 の濃度調節で,ケアシカ。ニ,ヨーロッパケアシガニ Maja squinado. チチュウカイミド リガニ,モクズ ガニ, チュウゴクモクズガニEriocheirsinensis.カ当 例にあげられ,脱皮・体色変化でアメリカザリガ ニ, 無 脊 椎 動 物 の ホ ルモンでイセエヒア'anulirus japonicus. アメリカザリ、ガニが,窒素化合物の排出 でアメ リカザリガニがあ、げられている.生物の多様 性と生態系においては,水質汚染でサワガニが,外 来生物でアメリカザリカ、ニ, チチュウカイミドリガ ニが,生態系・食物網でフジツボ,カメノテ,オキ アミ Euphausiidaeが,干潟の保全でシオマネキUcaarcuataが , 深 海 生 態 系 で ユ ノ ハ ナ ガ ニ Gandalfus yunohanaが,食物連鎖でオオミジンコ Daphnia mag-na, ヌマエビ Paratyacompressa, アメリカザリガニ が,環境調査でヨコエビ,オカダンゴムシがあげら れている.発生と生殖においてはフジツボ,ケンミ ジンコCopepodaのノープリウスがあげられている. 生物の環境応答においては,効果器でウミホタル 均rgulahilgendo柿の発光, 平 衡 器 で イ セ エ ビ, 走 性ではオカダンゴムシ,アルテミア,行動様式でシ オマネキ,アメリカザリガニがあげられている.生 物の進化と系統においては,進化でカブトエビTri -ops grananus,生 殖 的 隔 離 で テ ッ ポ ウ エ ヒ"Al)ロheω brevicristatus,分類でフジツボ, ミジンコDaphnia pulex,ケンミジンコ,オカダンゴムシ,アメリカ ザ・リガニ, スナガニOcypodestimpsoni, タカアシガ ニがあげられている.生態と環境においては,密度 効果でフジツボが,異種個体群聞の相互作用でフジ ツボ,カメノテ,テッポウエビ,ヤドカリイソギン チャク Calliactisjaponicaがあげられている. 教科書においてはほとんど記載のない甲殻類であ るが,副教材にはそれなりの種類が載っていた. こ れらを取り扱い紹介するのは学校事情や生徒の実情 に合わせた各学校のカリキュラムに準じた授業展開 を実施する教師に委ねられている. 教 科 書 「生物基礎
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生物」に観察・実験として 紹介されている甲殻類は,水生生物を指標とする河 川の水質調査の中でサワガニが紹介され,土壌生物 の観察で,ワラジムシ,オカダンゴムシ, ヒメフナ ムシ, ヨコエどがあがっている.動物の行動では光 走性の観察でアルテミアが教材になっている.節足 動物の観察では,脊椎動物との形態比較でクルマエ ビが材料になっている.複数の教科書会社が扱って いるのは外来生物が在来種に与える影響に関して で,アメリカザリガニがあけ‘られている.一方 「生 物図説」においては,土壌生物の調査でオカダンゴ ムシ,ヨコエビがあがっているだけである.これら をみても甲殻類を直接題材にした観察・実験は極め て少ない. なお,ザリカwニは本邦在来種であるが,教科書な どに記載のあったザリガニはその図から外来種のア メリカザリガニとして集計した. .観察・実験教材としての甲殻類(戸塚高校での 実践例) 本物を見せる,実物に触れることの大切さや,比 較的容易に入手できるものに主眼をおいて展開して きた. 磯採集・観察の実施休日を利用し神奈川県内の磯 や,市内の大学との連携で大学の所有する実験場に 宿泊し研修. 水中微生物の観察 ミジンコ類,ケンミジンコ類, アルテミア 解剖観察材料 アメリカザリガニ,ウシエビアenae -us monodon,サワガニ,アサヒガニRaninaranina, ウチワエビ"Ibacusciliatus 効果器(発光) ウミホタル ホルモン アメリカザリガニ 遺伝(染色体数) アメリカザリガニ,ウチダザリ ガニ 走 性 ア ル テ ミ ア 交替性転向反応 オカダンゴムシ チリメンモンスター観察数種類のゾエア,メガロ パ幼生 ス ケ ッ チ の 方 法,材料(図2) ニホ ンザリガニ, アメリカザリガニ,ウチダザリガニ 生態系(外来生物法・特定外来生物) ウチダザリ ガニ,アメリカザリガニ,チュウゴクモクズガニ, 図 2,生徒がスケッチした本邦に生息するザリガ ニ3種.1
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チチュウカイミドリガニ また,本校の講師がJAMSTECで仕事をしていた こともあり,ダイオウグソクムシBathynomusgigan -teωの標本を授業中に紹介してくれたときの生徒の 反応は大変良かったということであった. これらを通しての生徒の感想として,観察・実 験 を通して本物に触れ,身近なところでの生物の不思 議や面白さ多様性に触れることができた.それほど 興味がなくてもそのような切り口から入ってくれた ことに親しみを感じたと述べている. . こ れ が ら の 学 校 教 育 に お け る 甲 殻 請 に つ い て 実物を知ることから,見る,触れる事の出来るよ うな教材が児童, 生徒には記憶に残るのではなし、か と考える. 環境教育という観点から, 比較 的 容 易 に 入 手 で き,身近に生息する種という観点に注目すると,す でに北海道などでは実施していると思うが,在来種 ニホンザリガニと外来種ウチダザリガニ,アメリカ ザリガニを用いての実践がある. 戸塚高校では生徒とともに標本の整理作業を行っ た.実際に携わることで多様性と共通性が理解でき た生徒もいた(図3). そこで活用アイデア等の情報の交換,共有のため のネッ トワーク作りが重要と恩われる.そのために は産学連携,博学連携,大学との連携,地域との連 携 な ど を 推 進 し て い く こ と が 課 題 で あ る . ま た 今 後,学会員によって,学校向けの「実験の手引き」 などが編集され,広く活用さ机ることが有効な手段 かもしれない 図 3. 生徒が整理した甲殻類の乾燥標本. 104
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n伺r24 (2015) 圃 謝 辞 本研究に協力助言いただいた北海道立総合研究機 構・稚内水産試験場の川井唯史氏に厚く感謝いたし ます.E
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朝 倉 彰 , 2003.甲殻類学 エビ・カニとその仲間の 世界.東海大学出版会,東京,pp. 13-19, 21, 22, 26ー
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