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臨床でのデータ収集 疫学的研究の進め方

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 270 45 巻第 4 号 270 ∼ 274 頁(2018 年) 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 理学療法トピックス シリーズ 「臨床研究入門」. *. 連載第 6 回 臨床でのデータ収集 疫学的研究の進め方. 古 名 丈 人 1). はじめに. 疫学である。疫学には 2 つの主要な領域があり,その 1 つは,健康状態について年齢,性,地域別などの分布を.  疫学というとどうも地味な印象を受けることを否定し. 示そうとする領域であり,もう一方は,人口学の原理を. ないが,今や疫学は EBM(Evidence Based Medicine). 1) 健康と病気にまで拡張した領域とされている 。理学療. の根幹をなす医学・医療のもっとも重要な“学”のひと. 法は,この疫学の機能を“利用する”ことはもちろんで. つである。疫学とは, (個人ではなく)集団を対象とし,. あるが,ますます詳細化・個別化される病態とその応答. 疾病の発生原因や予防を研究する学問であるが,近年で. の多様性から,理学療法がそれらの分布や全体像を主体. は,洗練された高度な研究と統計手法により,治療の科. 的に把握すること,すなわち疫学的研究を実施すること. 学的根拠を付与するための欠くことのできない領域,臨. が求められるようになった。加えて,Evidence Based. 床疫学を形成している。. Physical Therapy(以下,EBPT)を推進してゆくため.  理学療法において疫学との関係性を考えるとき,もち. にも,メカニズム探求が目的である基礎研究も重要であ. ろん理学療法が医療の一側面を担っている以上,関係が. ることは論を待たないが,疫学研究(介入研究)の実施. あることは当然のことであるが,元来の疫学が有する機. なくしてはけっして EBPT は発展も洗練もされないこ. 能をうまく活用しているとは言い難い。理学療法士の大. とを,理解すべきである。. 多数が従事する病院という特殊な環境(蓋然的なサンプ リングバイアス),医学・医療研究のイニシアチブの問. 疫学研究の種類とデザイン. 題など,単に学術的な問題だけでは解決することが困難.  疫学研究は,研究方法の違いから観察研究と介入研究. な課題も横たわっているのが実情である。. に大別される.  本稿では,理学療法学における疫学の必要性や機能を. の症例集積研究からコホート研究における「調査」を主. 理解したうえで,臨床(地域を含む)において疫学研究. 体とする研究を指している。ただし,研究の分類は大筋. を実践してゆくために必要最小限の方法論を概説する。. では一致しているものの,分類によっては若干異なる部. 理学療法における疫学. 2)3). (表 1) 。いわゆる調査研究は,これら. 分も散見され,確定的ではないことに留意する。  疫学研究では他の臨床研究でも使われる研究手法のひ.  理学療法が扱う疾病,障害は,今やそれらのすべてと. とつである「調査法」が頻繁に利用される。調査法は,. いって過言ではない。治療は,戦略と戦術が必要である. 直接測定し難い(測定機器を使えない,測定機器がない). というメタファーをよく目にするが,この場合,戦略は. 生活,行動,心理・認知,社会的変数を測定する質問紙. 疾病の生物学的特性に基づいた合理的な考え方,一方戦. を多用し,必要があれば実測する検査などとの組み合わ. 術は戦略に基づく実際のプランとされ,その両者の関係. せにより構成される研究方法である。これらの変数はリ. 性を保持しつつ治療が進められることが重要である。こ. ハビリテーション医療における最終的な目的にも合致し. の戦略のもっとも基礎的な(臨床)情報を提供するのが. て,理学療法のエビデンス構築,とりわけ帰結評価のた めには必要不可欠な研究手法となっている。実際の調査. *. Understanding and Execution of Epidemiologic Research on Physical Therapy 1)札幌医科大学保健医療学部理学療法学第一講座 (〒 060‒8556 北海道札幌市中央区南 1 条西 17) Taketo Furuna, PT, PhD: Department of Physical Therapy, School of Health Science, Sapporo Medical University キーワード:疫学,調査法,研究倫理. では,郵送法,留置き法(配布後,回収) ,招聘法(直 接聴取) ,これらを合わせた方法などが行われている。 最近では,インターネットを利用した調査も散見される ようになってきた。それぞれの調査方法の利点,欠点に ついては表 2. 4) 5). に示した。これらの調査方法によらず,.

(2) 臨床でのデータ収集 疫学的研究の進め方. 表 1 疫学研究の分類. 271. 2)3). 表 2 調査方法の利点と欠点(過去の引用ひとつ) 郵送法. 留置き法. 招聘法. インターネット. 内容. ・配布,回収を郵便で行う。 ・調査員が配布,回収を行う。・調査会場に招聘し,調査員 ・インターネットを利用して が直接聴取する。 調査を行う。. 利点. ・多数の対象者に実施可能。 ・比較的多数の利用者に実施 ・調査(質問紙)の正確性が ・多数の対象者に実施可能。 可能。 高い。 ・訪問時に IC(Informed ・記入漏れ,ミスを訂正して Concent)を取る機会が もらう機会がある。 ある。 ・対面調査なので IC を取る 機会が十分にある。. 欠点. ・IC を取る場合の説明が不 ・調査票の記入漏れやミス 足する。 を確認する時間を取りに ・調査票の記入漏れやミスが くい。 多い。. ・対面調査の人員確保によ ・IC が取りにくい。 り,対象者数が決まる。 ・回答の正確性が低い可能性 ・測定値の正確性は高いが, がある。 測定会場に来ることができ ・ICT に慣れている人のみが る方に偏る可能性がある。 対象となる。. ・内山 靖,島田裕之:標準理学療法学専門分野理学療法研究法.医学書院,東京,2017,pp. 81‒88.. 研究の質を担保するために,対象者のリクルート方法,. 6) なっている。基本的には「人を対象とする倫理指針 」,. 調査を構成する質問紙の要件などを共通に考慮しなけれ. にしたがえばよいが,本指針は日ごろから研究倫理に接. ばならない。冒頭に述べた通り,約 90%が病院に勤務. していなければ,いったいどういった事柄が倫理要件を. する理学療法士においては,すべからく研究の対象は病. 満たすのか否かを把握するのは困難である。求められる. 院の患者さんになり,結果的にサンプリングバイアスが. 倫理要件が変わることもあり,疫学(調査)研究の責任. 存在することになるので,研究結果の一般化には慎重な. 者は,上記のガイドラインをはじめ最新の倫理要件につ. 態度が必要である。この他,サンプリングの方法が研究. いて理解しておく必要がある。たとえば,質問紙を郵送. の質に影響されるが,具体的な方法は成書. 4)5). を参照. していただきたい。. 疫学研究の倫理. して返送してもらう調査方法(郵送法)の場合,以前 は“返信をもって同意と見なす”方法が許容されてい た。また,公益に資する調査であれば,必ずしも倫理審 査を受けなくとも,公表をもってそれに代えることが認.  疫学研究における倫理は,他の(実験室的)研究など. められていた。しかしながら,近年の社会的な倫理意識. と同様に,今や研究を行ううえでもっとも重要な事柄に. の高まりから,これらは一部を除いてすべて倫理審査の.

(3) 272. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. 表 3 インフォームド・コンセントを得る方法 侵襲. 介入. 試料・情報の種類. あり. −. −. なし. あり. なし. なし. なし. なし. IC の手続き. 研究の例. 文書による IC. 未承認の医薬品・医療機器を用いる研究,終 日行動規制を伴う研究,採血を伴う研究等. −. 文書による IC または 口頭 IC と記録作成. うがいの効果など生活習慣に関わる研究,日 常生活レベルの運動負荷をかける研究等. 文書による IC または 口頭 IC と記録作成. 唾液の解析研究など. 人体取得試料. 人体取得試料 以外. 文書による IC または 口頭 IC と記録作成 または オプトアウト. 匿名のアンケートやインタビュー調査,診療 記録のみを用いる研究など. 理学療法士協会研究安全・学術倫理委員会 , e-learning 資料より. 対象であり,同意書については郵送法であっても取得す. ト,アルバイトの雇用など,通常の理学療法にはなじみ. ることが求められている。なお,インフォームド・コン. が薄い項目もあるので,しっかりとした調査計画を作成. セントの取得については,原則は書面で取ることである. することは調査のマネジメントの観点からも重要であ. が,介入内容や侵襲の程度により簡略化できる場合もあ. る。まず,事前に必要な項目を挙げ,それを調査実施日. る(表 3)。. に向けて時系列に整理し,研究スタッフで共有する。さ.  研究倫理の取得について筆者がもっとも推奨する方法. らに,それらを工程表(図 1)にまとめ,準備から当日. は,実施予定の研究を大学との共同研究として計画し,. の調査までを管理する。. その大学で倫理審査を受けるという方法である。また, どうしても倫理審査を受ける委員会がない場合について. 質問紙の選択とデータ管理. は,本誌に投稿予定であることを条件として,理学療法.  リハビリテーション医療の帰結評価に用いられる. 士協会内に設置されている「研究安全・学術倫理委員会. ADL や QOL は,既述したように直接測定困難な構成. (年 4 回開催)」で審査が受けられることを付記しておく。. 概念である。この他にもリハビリテーション医療にかか わる多数の構成概念が存在している。これらの構成概念. 疫学的研究の設計方法. を聴取することを意図した場合には,すでに信頼性と妥.  疫学的研究で多用される調査方法の詳細については,. 当性が担保され一般化されている尺度がないかどうかを. 多数の成書が出版されているので,ここでは実践的な側. 探索することである。ほとんどの場合,その“聴取した. 面を重視して,疫学的研究を遂行するうえでの注意点を. い・調べたい”と考えた構成概念の尺度は存在している. 記す。. と認識すべきである。この検索を怠って,尺度の作成法.  調査を企画する際にもっとも大切なことは,それを行. も意識せずいたずらに尺度もどきを作成することは避け. う目的を事前に明確にしておくことである。調査の目的. たい。また一見,目的に叶った尺度を見出した場合でも,. として,①一施設の病気や障害の分布が知りたい(予防. それが包括的尺度であるのか,特異的尺度であるのかは. 理学療法などの領域は,コホートのフレイルや転倒など. 必ず確認する。また,既存尺度を利用する場合,作成者. の発生率など),②退院後の機能的予後を知りたい,③. の許諾が必要となるもの(SF-36 など)があるので,利. 特定の介入の効果を知りたい,といった内容が挙げられ. 用する場合は手続きを怠らないように注意する。. る。目的に応じて対象のリクルート方法(バイアスの混.  測定会や健診などでは,複数の構成概念(測定変数). 入)や対称者数は異なるので,それに応じた調査の設計. を測定することになるので,それらは調査票として整理. や計画が求められる。なお,疫学的研究を計画する場合,. する必要がある。ID,測定指標のラベル,データの表. Strengthening the Reporting of Observational Studies. 記(有効数字)などは,データ整理や分析が円滑に進む. in Epidemiology(STROBE)声明のチェックリスト. 7). ように,計画時にその“つけ方・ルール”などを決めて. が研究の質を向上させるうえで役に立つので,この利用. おく。以前よりも表計算ソフトや分析ソフトの容量が増. を強く勧める。. え,ある程度自由に(byte に関係なく)名称(ラベル).  疫学的研究は,他施設との連携や対象者のリクルー. をつけられるようになっているが, “半角(1byte 文字) ”.

(4) 臨床でのデータ収集 疫学的研究の進め方. 273. 図 1 健診・調査のための「工程表」. を使って他の様々なソフトウエアへの(text 形式によ. しい成書にあたっていただければ幸いである。. る)データ移行を担保して置くことを推奨する。たとえ.  理学療法(学)のエビデンスの構築は,当然ではある. ば,測定指標・同年に繰り返し測定する回数・年とした. が日々の臨床(理学療法士の活動)に依拠している。た. 場合は,“grip_a_2018”などと付す(マイナスは演算記. だし,その臨床も理に叶った科学的な手法に基づいた. 号なのでアンダーバーを使用する)。このような繰り返. “記述”がなければ,到底,エビデンスの構築は進まな. し測定を想定したラベルの表記により,縦断研究への拡. い。最後に,医学・医療の研究の在り方を示した,本邦. 張にも対応できる。. のリハビリテーション医療の祖のひとりである砂原茂一. おわりに  本稿では,疫学的研究を進めるために大切なポイント. 先生の言葉. 8). を引用しておく。. 「現代医学は,より確かな事実,より洗練された法則,よ. を,見落としがちな事柄も含めて概説した。ただし,紙. り効果的な技術を求めて研究を行わなければならない。. 面の都合上,サンプリング技法,操作的定義による変数. そうでなければ,人類の幸福,社会の利益,そして一人. の定義などについては詳述していないので,これらに詳. ひとりの患者の願望,期待に正しく応えることができな.

(5) 274. 理学療法学 第 45 巻第 4 号. い。 (中略)これが現代医学の宿命である。  したがって,医療者は日常診療に精進するとともに研 究のための努力を一日たりとも怠るわけにはいかないの である。」 文  献 1)日本疫学会:疫学辞典(第 5 版).日本公衆衛生協会,東京, 2010,p. 108. 2)日本疫学会:疫学─基礎から学ぶために.南江堂,東京, 1996,pp. 193‒199. 3)上出直人:予防理学療法の研究法,予防理学療法要論.吉 田 剛,井上和久(編) ,医歯薬出版,東京,2017,pp. 22‒24. 4)Stephen BH, Steven RC, et al.:サンプリング,医学的研. 究のデザイン(第 3 版) .木原雅子,木原正博(訳),メディ カル・サイエンス・インターナショナル,東京,2009, pp. 32‒37. 5)古名丈人:疫学・調査研究,理学療法研究法(第 3 版). 内山 靖,島田裕之(編) ,医学書院,東京,2017,pp. 81‒88. 6)厚生労働省ホームページ 研究に関する指針について. http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html.(2018 年 5 月 22 日引用) 7)Vandenbroucke JP, von Elm E, et al.: Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology (STROBE): Explanation and Elaboration. Epidemiology. 2007; 18: 805‒835. 8)砂原茂一:研究と研究者,臨床医学研究序説─方法論と倫 理.医学書院,東京,1988,p. 14..

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