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Academic year: 2021

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2008 年 2 月 24 日新潟・富山の高波災害の要因分析

新潟大学院自然科学研究科 学生会員 白 晃栄 新潟大学工学部建設学科 正会員 泉宮 尊司 新潟大学工学部建設学科 正会員 石橋 邦彦 1. はじめに 2008 年 2 月 24 日に新潟県佐渡市および富山県入善 町を中心に漁港防波堤の大規模な被災および高波によ る越波浸水被害が発生した.被害が発生した佐渡鷲崎 漁港および水津漁港は南東向きに日本海に面しており, 通常の冬季風浪の影響は外海府より比較的小さいとこ ろに位置している.また,被害状況からみると,通常 の冬季風浪とは異なる特性を持った波浪が襲来した可 能性がある.このため,技術的な対策を講じる上で,2 月 24 日の高波の発生要因を調べることは重要なこと である.さらに,入善町では高波が護岸の天端高 7.7m を越えて越流し,20 棟以上の家屋・倉庫等が全壊して いる.農林水産省水産庁,富山県および新潟県の調査 によると,富山県では住家・非住家の全壊・半壊 59 棟,死者 2 名,新潟県では,住家・非住家の被害 95 棟,水産関係の被害だけでも 228 億円にも及んでいる (農林水産省水産庁,2008).このように今回の高波災 害は,富山湾で「寄り回り波」と呼ばれる北から北東 よりの周期の長い波である可能性があり,数分から数 10 分の長周期波の影響も無視できないと考えられる. そこで本研究では,このような大規模な高波災害が どのようなメカニズムで発生したかを探るために,気 象および海象の面からその要因について詳細に調べる ことを研究の目的とする. また,新潟県佐渡島の漁港 防波堤が被災した原因を明らかにすることを目的とす る. 2. 高波発生の気象要因 今回の高波発生の気象要因を調べるために,天気図 および日本海沿岸の風速および気圧データを収集した. 2 月 22 日 21 時に日本海に進んできた低気圧は 1008hPa であったが,日本海を東進するにつれて発達し,北海 道の江差付近に到達した 23 日 15 時には 984hPa にまで 発達し,その後進路を北東から南東に変えて移動速度 が遅くなり,その後太平洋に抜けたが,江差から津軽 海峡・陸奥湾を通過するのに,約 8 時間も要していた. 太平洋側に抜けた後も発達し,24 日 9 時に 974hPa に まで発達していた.このことが,日本海北部および中 部の海域に長時間強風が継続した要因と考えられる. 図-1 2008 年 2 月 23 日 21 時の地上天気図 図-1 は,2008 年 2 月 23 日 21 時の地上天気図を示し たものである.陸奥湾南部にある低気圧は 980hPa に達 しており,等圧線の向きから,間宮海峡から北海道西 部の北部日本海にかけて,北から北北東の強い風が吹 いていたことが推測できる.この低気圧は,2 月 22 日 21 時にサハリンの南部にあった 1006hPa の低気圧を吸 収しながら発達していた. このように日本海北部において,奥尻で観測された ような北東から北北東の強風が吹き,北海道西部の日 本海では,間宮海峡から吹送距離が約 1000km もあるこ とから 4m~5m 程度の高波が既に発達していたと考え られる.このような高波浪の存在は,気象庁の波浪推 算結果および間瀬・安田(2008)の推算結果からも見出 されている.さらに,高波浪を成長させた要因として, 発達した低気圧が北海道の江差付近に上陸後,平均的 に南東方向に移動したことも重要であると考えられる. すなわち,風波の伝播方向とほぼ同じであり,より長 時間に亘って風のエネルギーを波に与え続けることに なったためである. また,富山湾に襲来した波浪は,周期が 14s~16s と観測史上最長であったことや,今回の高波災害の被 災地域が佐渡の鷲崎および水津漁港や富山県入善と普 段は冬季波浪が小さいところで発生していることから, 通常の北西向きの波浪ではなく,北から北東向きであ ったことがわかる.

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西暦 元号 災害発生日時 通過緯度 通過前後気圧 移動速度 最低気圧 備考 hPa km/h hPa 1899年 明治32年 12月23日,24日 N41° 986 37.5 ≦ 986 生地 1916年 大正 5年 12月29日 N43° 986 - ≦986 下新川 1929年 昭和 4年 1月2日 N40° 981 32.9 ≦973 1955年 昭和30年 2月20日 N41° 986 45.4 954 宮崎・泊 1961年 昭和36年 1月26日,27日 N42.5° 986 23 978 朝日 1962年 昭和37年 1月22日,23日 N42° 980 18.8 980 入善 1970年 昭和45年 2月1日,2日 N39° 970 28.8 960 朝日・入善・黒部・滑川 1971年 昭和46年 1月5日 N40° 998 37.5 970 朝日・入善 1972年 昭和47年 9月19日 N43° 980-990 ≦10.0 980 朝日・入善・新湊・氷見 1972年 昭和47年 12月1日,2日 N42.5° 986 10.4 978 滑川・入善・氷見・朝日 1979年 昭和54年 3月31日 N42° 976 52.9 970 滑川 1991年 平成 3年 2月16日 N39° 980 33.3 960 滑川・入善 2008年 平成20年 2月24日 N42° 984 35-20 974 入善 表-1 顕著な寄り回り波の発生日と低気圧の特性 図-2 顕著な寄り回り波が発生する低気圧の移動コース 950 960 970 980 990 1000 36.0 37.0 38.0 39.0 40.0 41.0 42.0 43.0 44.0 45.0 46.0 列島通過時の気圧 (hPa) 低気 圧の列 島通 過緯 度  N ° 寄り回り波による 被害発生領域 図-3 低気圧の列島通過緯度と中心気圧 このような状況から,今回の高波が典型的な「寄り 回り波」の特徴を有している.そこで,過去に発生し た顕著な「寄り回り波」の気象条件を調べ,その発生 メカニズムを明らかにする. 表-1 は,顕著な「寄り回り波」によって起こった災 害の発生日と低気圧の特性を示したものである.この 表より,顕著な「寄り回り波」は,ほぼ 12 月から 3 月の冬季に発生していることが分かる. 図-2 は「寄り回り波」が発生する低気圧の移動コー スを示したものである.これらの図より,移動コース が大きく分けて 3 つのタイプになることが分かった. TypeA:日本海を東進しながら太平洋に抜ける場合, TypeB:日本海低気圧や南岸低気圧 が発達しながら北東方向に進行し, 日本列島を横断してオホーツク海 に抜ける場合,TypeC:発達した低 気圧が西進し,釧路付近で停滞す る場合,あるいは太平洋やオホー ツク海から進行してきた低気圧が 釧路付近で停滞する場合. 図-3 は低気圧の日本列島通過 緯度および中心気圧を示したものである.これより「寄 り回り波」が発生する場合には,中心気圧が 986hPa 以下であり,北緯 39 度から 43 度の位置で日本列島を 横断していることが分かる.これは北緯 40 付近に低気 圧が通過すると,間宮海峡から日本海北部にかけて, 北よりの強風が吹くために,長い吹送距離で波が発達 するため,「寄り回り波」のような長周期の波浪が発生 すると考えられる. 3.漁港防波堤における被災の要因分析 今回襲来した波浪は,波高が非常に大きく,周期も 通常の波浪と比べて長いものであった.表-2 に 2 月 23 日から 24 日の日本海沿岸で観測された最大波浪諸元 を示した.これらのデータは,国土交通省港湾局(2008) および新潟県のデータであり,2008 年 3 月 10 日時点 における暫定値である. 表-2 日本海沿岸で観測された最大波浪の諸元 地点名 有義波高 有義波周期 最高波高 最高波周期 起日時 H_1/3(m) T_1/3(s) Hmax (m) Tmax (s) 酒田 7.99 12.3 10.57 14.7 24日4時0分 岩船 6.26 11.8 9.67 7.9 24日4時 新潟沖 6.46 9.7 8.48 7.9 24日0時 柏崎 6.62 10.9 9.76 17.2 24日5時 直江津 6.40 10.2 8.23 10.9 23日19時 姫川 6.83 11.5 12.96 11.2 24日4時 富山 9.92 16.2 - - 24日16時 伏木富山 4.22 14.2 6.49 14.8 24日14時 輪島 7.73 13.2 - - 24日12時20分 金沢 6.10 10.7 9.23 11.0 23日20時40分 これらのデータから,2 月 23 日から 24 日にかけて 襲来した波浪は,山形県から石川県までの広い範囲で, 有義波高6m 以上の大きい値を持っていることが分か る.特に富山湾に面した富山や伏木富山においては, 周期が14 秒以上と非常に長い波が発生している. 最高波高に関しても,多くの地点で8m を超えてお り,発生時刻が柏崎(新潟県)以北で 0 時から 5 時と, 満潮時刻の午前4 時から 5 時付近であることも,今回 の高波被害が発生した要因の1 つであると考えられる. 被災した漁港のうち,被害が大きかった鷲崎漁港お よび水津漁港では混成防波堤ケーソンが大きく滑動す

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5 10 15 0 10 20 :鷲崎漁港 :水津漁港 マウンド水深 d (m) 滑動量 S ( m ) 図-4 被災した防波堤のマウンド水深と滑動量との関係 10 15 20 0 10 20 :鷲崎漁港 :水津漁港 水深 h (m) 滑動 量 S (m ) 図-5 被災した防波堤の滑動量と水深との関係 0 90 180 0 10 20 防波堤法線方向(E:90°) 滑動 量 S (m ) :鷲崎漁港 :水津漁港 図-6 被災した防波堤の滑動量と防波堤法線方向との関係 る被害や,防波堤前壁面のコンクリートが剥落する被 害が発生している. 図-4 は被災した防波堤のマウンド水深と滑動量との 関係を示したものである.マウンド水深が約10m 付 0 0.5 1 10−1 100 101 102 H/d 滑動 量 S (m ) :鷲崎漁港 :水津漁港 図-7 被災した防波堤の滑動量と波高マウンド水深 比との関係 近で鷲崎漁港・水津漁港共に滑動量が大きくなってい る.しかしながら,図-5 の被災した防波堤の滑動量と 水深との関係では,水深と滑動量の間に明確な関係は 見られない.これらの図より,今回の被災の要因は, マウンド水深が深く関係している可能性が示唆される. 図-6 は,被災した防波堤の滑動量と防波堤法線方向 との関係を示したものである.この図より,防波堤法 線方向が 90°(東向き)および 120°(東南東向き)の防 波堤が大きく滑動していることが分かる.また,水津 漁港の被災した防波堤において,防波堤法線方向が北 東よりの防波堤よりも東向きの防波堤の滑動量がやや 大きいこと,鷲崎漁港の被災した防波堤において,防 波堤法線方向が東向きおよび南東向きのものが大きく 滑動していることを踏まえると,今回襲来した波浪は やや北東よりから東へ,さらにはやや東南東からの波 浪も含まれていたと推測される. 図-7 は,被災した防波堤の滑動量と波高マウンド水 深比との関係を示したものである.この図より,波高 マウンド水深比が 0.75 付近において滑動量が最も大 きくなっている.合田の砕波指標から,波高マウンド 水深比が0.78 から0.79前後のとき砕波することより, 砕波の直前において防波堤前面に波浪が衝突したこと を示している.このことにより,衝撃砕波圧がケーソ ンに働き,滑動量がより大きくなったと推測される. 図-8 は衝撃砕波力発生の危険範囲を示したもので ある.この図からも,被災した防波堤の波高マウンド 水深比が0.75 付近に集中していること,および無次元 マウンド水深が0.5 に近く,防波堤に大きな衝撃砕波 圧が発生していたと推測される. このように,マウンド水深が砕波水深とほぼ一致し, 衝撃砕波圧が発生したため,防波堤が滑動したことが 示唆された.

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0 0.5 1 1 0.5 0 :鷲崎漁港 :水津漁港 d/ h H/h H /d =0.5 0.75 1.0 1.5 2.0 3.0 図-8 衝撃砕波力発生の危険範囲 さらに,波形勾配が鷲崎漁港では0.027 前後に,水 津漁港では 0.027~0.033 とかなり小さい値を示して いることから,防波堤前面に衝撃砕波圧がより発生し やすくなり,コンクリート壁の破壊などが発生したと 考えられる. 4.今後の対策について 今回鷲崎漁港・水津漁港に襲来した波浪は通常の冬 季風浪とは異なる性質を持ち,波高・周期共に設計値 を大きく上回るものであった.また,マウンド水深が 砕波水深とほぼ一致したため,滑動・転倒といった甚 大な被害が発生し,被害額も莫大なものになった. 今回の波浪による被害は,長周期の波による影響や, 防波堤前面での砕波,波形勾配の低減化といった波浪 条件に依存するものである.そのため,マウンド高を 現在より低くして,砕波を起こりにくくすると共に, 防波堤前面に消波ブロックを設けることで衝撃砕波圧 の発生を防ぐことが最善であると考えられる. 設計の段階においても,通常の冬季風浪だけを視野 に入れるだけでなく,今回襲来したようなより北より の長周期の高波浪に対応できるようにすることが望ま しいと考えられる. 5.結 論 2008 年 2 月 24 日に新潟県佐渡島および富山県入善 町に大きな高波災害を起こした要因を分析するため に,気象・海象データを収集・分析した結果,以下の 事柄が明らかとなった. (1)今回の高波は,日本海中部を通過しながら発達した 低気圧が北海道に上陸後,南東方向に移動し,その 速度が低下したことによって,強風が長時間継続し てもたらされたと推測された. (2)低気圧が日本列島を通過する際,長時間に亘り波に エネルギーを与え続け,エネルギーを与えられた波 が間宮海峡から日本海北部にかけ,長い吹送距離を 通じて波高・周期共に大きい波浪に成長したと推測 された. (3)これまでに発生した寄り回り波による顕著な災害 が発生した気象条件を調べたところ,低気圧の通過 緯度およびコースがほぼ特定され,Type A, Type B お よび Type C の3つのタイプに分類できることが分 った. (4)水津漁港に比べ,鷲崎漁港のほうが滑動量の値が大 きいため,被災の規模も大きかった.これは,鷲崎 漁港のほうが波高マウンド水深比が1 に近く,強い 衝撃砕波圧が発生したためと考えられる. (5)防波堤のマウンド水深が,襲来した波浪の砕波水深 とほぼ一致したため,衝撃砕波圧が発生し,滑動や 防波堤前面のコンクリートの破壊が起きたと推測さ れた. 本研究で用いた気象データは,気象庁のHP より入 手し,2008 年 2 月の地上および高層天気図は,(財)日 本気象協会の鈴木靖博士より戴いた.また,1970 年以 前の天気図に関しては,新潟地方気象台よりコピーを 戴いた.波浪データ並びに験潮所のデータは,国土交 通省北陸地方整備局新潟港湾空港調査設計事務所,お よび新潟県危機管理室,同港湾課および水産課よりご 提供戴いたことを付記し,感謝いたします. 参 考 文 献 気象庁(2008):平成 20 年 2 月 23 日から 24 日にかけて急速 に発達した低気圧に伴って発生した強風に関する気 象速報,平成20 年 2 月 25 日,東京管区気象台,12p. 国土交通省河川局(2008):高波災害対策検討委員会,第 1 回委員会資料,参考資料 1,資料 1,2. 国土交通省北陸地方整備局港湾空港部・富山県(2008):富 山湾における「うねり性波浪」対策検討技術委員会 資料,第 1 回,第 2 回委員会資料. 農林水産省水産庁(2008):2008 年 2 月の日本海高波浪に 関する技術検討委員会,中間取りまとめ,53p. 間瀬肇・安田誠宏(2008) : 2008 年 2 月 23 日~24 日にかけ ての有義波高と波向き,http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/web _j/contents/event_text/20080226.pdf 谷本勝利 (1976):昭和 51 年度港湾技研講演会講演集,15p 合田良實 (2008):耐波工学,鹿島出版会,103p~113p

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