.緒 言 ハンマー投げとは,直径 . mのハンマ ーサークルの中でスイングを行った後に か ら 回のターン動作を用いて . ㎏(一般男 子用)のハンマーヘッドを加速させ投げ出し その距離を競う競技である。現在の男子の世 界記録は 年 月 日にユーリ・セディフ (ロシア共和国=旧ソビエト連邦)が樹立し た . mであり,今日まで約 年間更新さ れていない。ハンマー投げの投動作は複雑で, 反時計回りで回転を行う場合には左足の踵と
研究ノート
ハンマー投におけるターン速度向上が
ハンマーヘッド速度と動作に及ぼす影響
― 年間の取り組みとその変化―
山 本 大 輔
),野 口 安 忠
)Influence of Turn Speed on Hummer Head Velocity and Motion in
Hummer Throw
Yamamoto Daisuke1,Noguchi Yasutada2
Keywords
hummers throw, hummer head, turn speed, duration time, height of center of mass ハンマー投,ハンマーヘッド,ターン速度,動作時間,重心高
Absutract
The purpose of this study was to investigate the changes in throwing motion after training for increasing turn speed in hummer throw. A subject was one male hummer thrower of the student in top-level. The duration time as turn speed and hammer head velocity and the height of center of mass of thrower (CM) during hummer throw were analyzed using three-dimensional-analysis method. As the Results, although turn speed and hummer head velocity at each instant were increased, release velocity and throwing distance were hardly changed due to insufficient acceleration of hummer head during final phase before release. It is thought that rise of the height of CM before final phase is that cause. These results suggested that it is necessary to control the height of CM during high speed turn, for achieving higher performance.
) 天理大学体育学部 ) 福岡大学スポーツ科学部
.Faculty of Budo and Sport studies, Tenri University .Faculty of Sport and Health Science, Fukuoka University
爪先を交互に中心にして回転し投てき方向へ 推進している。このハンマー投げ種目におい て,飛距離を決定づける最も大きな要因はリ リース時のハンマーヘッド速度であることが 報告されている,)。このことから,より高 い初速度を獲得するためにターン技術におけ る研究がなされてきた。ターン動作中におけ るハンマーヘッドには,下肢,体幹,上肢の 順に回転運動が生じることで速度が伝達さ れ),初速度の高い選手ほどこのハンマーヘ ッド速度はターン動作開始時からすでに高い ことがわかっている)。ハンマーヘッド速度 を高めるためには,身体のターン速度を高め る必要があるが,ターン速度が増加するとハ ンマーヘッドにかかる遠心力も増加すること になる。ターン速度の高い一流選手では体重 の約 .倍もの遠心力がハンマーヘッドに加 わっていることが報告されており),ターン 速度とハンマーヘッド速度を高めるためには 技術だけでなく高い体力的要素も必要とされ る種目である。このハンマー投げについて, 世界一流選手の技術について報告はなされて きているものの),同一の被験者を対象にタ ーン速度の向上を目的とした体力および技術 トレーニングの効果を検証した実践研究はほ とんどない。そこで,本研究では特に技術ト レーニングを中心にターン速度向上を狙いと した取り組みから,ターン速度向上がハンマ ーヘッド速度や投てき動作にどのような影響 をおよぼすのかについて,また 年と 年にかけての 年間の取り組みで投てき動作 がどのように変化したかについて明らかにす ることを目的とした。 .方 法 . .被験者 被験者は大学全国レベルの試合において入 賞経験を持つT大学陸上競技部でハンマー投 げを専門とする男子学生 名とした。 年 月および 年 月にそれぞれ実験条件下 にて投てき動作の撮影を行った。表 に被験 者の身体的特性およびシーズンベストと実験 時の投てき記録の変化を示した。 . . 年間の取り組み 被験者は 年から 年にかけて,ター ン動作開始から回転リズムを高めていくこと に重点をおいて,時期によっても異なるもの の週 ∼ 回の投てき練習に加えて以下の技 術練習についても取り組んだ。 ) 回転の空ターン:投てき物を保持し ないで行うターン練習。被験者は通常 回転 投法であるが,より高い回転速度での安定し た姿勢や足さばきを行うことを目的に 回転 を行っている。 )ショートハンマー:ワイヤー長が半分 程度のハンマーに . ㎏のプレートを付けた ショートハンマーを用いた投てき練習。ワイ ヤー長が短く回転半径が小さいので回転速度 を高めやすく,素早いリズムや動作の遂行能 力を高めるために行った。 )ケトルベル投げ: . ㎏の鉄球にハ ンマーグリップ装着したケトルベルをノータ ーン,あるいは ターンで投げる動作。両手 保持と左手保持でそれぞれ行った。 )ロングハンマー:ワイヤーを つ連結 したロングハンマーを用いたターン練習。両 足接地中のハンマーヘッドの加速に必要な, 表 .被験者の身体的特性およびシーズンベストと実験時の投てき記録の変化 年齢 身長(m) 体重(㎏) シーズンベスト(m) 実験時の投てき記録(m) 年 . . (PB) . 年 . . .
体幹の捻り戻しや体重移動などの動作を確認 するターン練習を行った。 また体力レベルを高めるために,ハイクリ ーンやフルスクワットやベンチプレスなど 様々なウエイトトレーニングを週 ∼ 回継 続的に行った。 . .測定方法 年および 年の実験は,T大学陸上 競技西グランドの投てきサークルにて行った。 被験者には十分にウォーミングアップを行わ せた後に全力での試技を 投行わせ,その投 てき動作 を 台 の デ ジ タ ル ビ デ オ カ メ ラ (Panasonic 製,HC-V 700 M, コマ/秒, / 秒)を使用して撮影するとともに,最 も良い記録をメジャーで測定した(図 )。 また投てき動作とともに,あらかじめ較正点 間の距離が分かっているキャリブレーション ポールを カ所に垂直に立てて撮影しておい た。最も記録の良かった試技の映像を動画解 析システム(DKH 製,Frame-DIAS IV)を 用いて身体分析点 点とハンマーヘッド 点 をデジタイズし,これらの 次元座標値を DLT方により算出した。さらに得られた座 標値をもとに両肩と両腰の中点および身体重 心を算出し,これらをバターワースデジタル フィルターにより Hz で平滑化して分析に 利用した。なお,本研究では投てき方向をY 軸,Y軸に垂直な右方向をX軸,鉛直方向を Z軸となるように静止座標系を定義した。デ 図 実験設定と実験の様子 図 ハンマー投げにおける動作時点と局面の定義 山本・野口 45
ベンチプレス フルスクワット ハイクリーン 年 ㎏ ㎏ ㎏ 年 ㎏ ㎏ ㎏ 表 .ウエイトトレーニングの RM ジタイズにおける各軸の実測値と平均値の誤 差は,それぞれ 年のX軸が . m,Y 軸が , m,Z軸が , mで 年のX軸 が , m,Y軸 が , m,Z軸 が , m であった。 . .分析項目と動作の時点定義 動作の比較をおこなうにあたりハンマー投 げの投てき動作時点を次のように定義した。 ハンマーヘッドのZ成分の変位が最も低い時 点を Lo,高い時点を Hi と定義し,これら の時点について動作開始時から時系列に か ら の数字を付記した(図 )。また,ハン マーグリップが手から離れた瞬間をリリース とした。 また,本研究ではターン速度向上が動作や ハンマーヘッド速度におよぼす影響について 明らかにするために,以下の分析項目を算出 し 年と 年の比較を行った。 )動作時間(s):動作開始から各時点 までにかかった経過時間を求めた。 )ハンマーヘッド速度(m/s):投てき 動作中の各時点のハンマーヘッド速度を算出 した。 )身体重心高(m):各時点の身体重心 高を求めた。 .結 果 . .ウエイトトレーニングの RM 被験者は投てき技術に加えて体力レベルを 高めるために,ベンチプレスとフルスクワッ トとハイクリーンを中心にウエイトトレーニ ングを継続して行った。その結果, 年と 年にかけてベンチプレスの拳上最大重量 ( RM)には変化は見られなかったが,フ ルスクワットとハイクリーンの RM はそれ ぞれ ㎏増加していた。 . .動作時間 ハンマー投げにおいて,ハンマーヘッド速 度を高めるためにはターン速度を高めること が重要である。 回転のターン速度はそれに かかった動作時間ととらえることもできるこ とから, 年と 年における動作時間に ついて比較検討した(図 )。その結果, 年における動作時間はターン開始から徐々に 短縮され,リリースでは 年に比べて約 . 図 分析項目
図 各時点における動作時間の変化 図 各時点におけるハンマーヘッド速度の変 化 図 各時点における身体重心高の変化 秒早く投てき動作が完了していた。このこと から, 年ではターン速度が高まっていた ことが確認された。 . .ハンマーヘッド速度 年における投てき動作中のハンマーヘ ッド速度は, 年に比べて全ての時点にお いて向上していた(図 )。また両年ともタ ーン開始から各 Lo のハンマーヘッド速度は Loまで徐々に増加する共通した速度変化 パターンを示していたが,それ以降の投げ出 し局面では 年は . m/s 増加している のに対して 年は . m/s の減速すると いう違いがみられた。投げ出し局面はリリー スに向けてハンマーヘッドを加速させ初速度 を決定づける重要な局面であるにも関わら ず, 年ではハンマーヘッドを加速させる ことができていなかった。 . .身体重心高 ハンマーヘッドは両脚支持局面で加速させ るため,両脚支持局面へ移行する右足接地動 作を適切に行うことが重要な技術での一つで あるといえる。そのためには身体重心高のコ ントロールが重要であり,ターン中の身体重 心高の大きな変化はスムーズな右足接地動作 やそれに続くハンマーヘッドの加速に影響を 及ぼす。そこで身体重心高の変化について検 討した(図 )。その結果,特に Lo 以降で 違いが認められた。 年は Hi から Lo にかけて . mと大きな増加はなく, Lo からリリースで . mと大きく増加していた。 その一方で 年では, Hi から Lo の局 面で . mと大きく増加し, Lo からリリ ースにかけて . m増加していた。 .考 察 ハンマー投げにおいてより良いパフォーマ ンスを発揮するためには,ハンマーヘッド速 度を高めることが重要である,).そのハン マーヘッド速度を高めるためには,ターン中 の回転半径を大きくするか,そもそも回転速 度(ターン速度)を高める必要がある。その ため本研究における被験者は,ターン速度を 高めハンマーヘッド速度向上を狙いとするト レーニングを行ってきた。ハンマー投げでは 専門的トレーニングとして,目的に合わせて ワイヤー長や重量の異なるハンマーを用いた 投てき練習を行う。正規の規格とは異なるた め,あくまでトレーニングの補助的な役割を 果たしているが,これによりターン感覚の養 成やスピード強化など技術の向上や修正に取 り組むことができると考えた。坂東たち)は 山本・野口 47
投てき記録の良い選手ほど,投てき動作開始 時からすべての時点においてハンマーヘッド 速度が高かったことを報告している。このこ とから,ターン動作において各ターンの加速 を大きくすることだけではなく,高いハンマ ーヘッド速度で動作を開始できる技術の習得 をトレーニング過程で取り入れることが重要 であると示唆している。本研究における被験 者は,ターン速度の向上を目的にトレーニン グを行ってきたが,動作時間の結果から 年における各ターン速度が高まっていたこと が確認された。またターン速度の向上に伴っ て, 年に比べて 年は動作開始から全 ての時点においてハンマーヘッド速度が向上 していた。しかしながら,実験時の投てき記 録は . mの向上に留まっていた。これは, リリースに向けてハンマーヘッドの最終加速 を行う投げ出し局面において, 年の投て きではその加速が十分に行われていなかった ためであると考えられる。このハンマーヘッ ドの加速は,主に片脚支持局面中に捻転した 体幹を両脚支持局面で捻り戻す動作や,ハン マーヘッドに対してハンドルがやや先行した 状態で Lo から右足離地にかけての両脚支持 局面中に身体を後方へ倒し込む動作によって 引き起こされている,)。実際に Hi から Lo の局面でハンマーヘッドが加速している様子 が本研究の速度変化からもみてとれる。また, これらのターン動作は絶えずハンマーヘッド とは逆方向に身体を移動させて,ハンマーヘ ッド速度の増加に伴う遠心力に対抗する力を 発生させ続けながら行われている)。このよ うに高速で複雑な動作の中で身体重心をコン トロールすることは,回転運動を継続するう えで必要不可欠な運動である。この身体重心 の変位に着目すると, 年に比べて 年 の投てき動作では投げ出し局面直前の Hi から Lo にかけて極端に重心高が上昇して いる様子がみられた。 年に投げ出し局面 において十分にハンマー速度を高められなか った理由は,この直前の両脚支持へと移行す る局面での身体重心高の上昇にあると考えら れる。片脚支持局面から両脚支持局面へと移 行する Hi から Lo の局面で身体重心高が極 端に上昇すると,スムーズな右足接地動作の 遅れやそれに続くハンマーヘッドの加速に支 障をきたす可能性がある。右足接地が遅れる と体幹の捻転がほどけてハンマーヘッドが先 行しやすいため,ハンマーヘッドを加速する 局面が短くなったり,あるいはハンドルに対 してハンマーヘッドが先行してしまうことで 倒れ込み動作を利用したハンマーヘッドの接 線方向の加速ができなくなってしまう。また, いずれの時点においても身体の伸び上がりに よって極端に身体重心高が上昇すると,脚の 力を十分に発揮できないだけでなくバランス を保持すること自体が困難になってしまう。 さらに,ターン動作後半はターン速度ととも にハンマーヘッド速度も高まり,軌道が徐々 に水平から垂直方向へと傾いてくる局面でも あるため,斜め上方向に加わる大きな遠心力 に対して釣り合う求心力を短時間の動作の中 で発揮できなければ身体重心が引き上げられ やすくなる。さらには, Hi から Lo とそ れに続く Lo からリリースの投げ出し局面 は,連続してハンマーヘッドを加速させ続け なければならないため,投てき者には投げよ うとする意識が働きやすくなる局面でもある といえる。このように様々な条件を鑑みると, 本研究における被験者は右足接地前にリリー スに向けて最終加速を行おうとしてしまい身 体が伸びあがった状態,一般に指導現場で言 われる投げ急ぎの動作となってしまっていた と考えられる。これによって,上述のように 右足接地の遅れや,それに伴ってハンマーヘ ッドの加速動作が十分に行えなかったため最 終的により高い初速度を発揮することができ なかったのであろう。 より高まったターン速度の中で,安定した ターン動作を行うためには体重や筋力などの 体力的要素の向上とターンの技術や感覚の両 面の改善が重要であると考えられる。本研究
における被験者のウエイトトレーニングにお ける RM の値をみると,廣瀬たち)の報告 における類似した競技レベルを有する選手と 比較しても同程度であることから,本被験者 においては特に技術的な改善が今後の主な課 題であると考えられる。 本研究の結果から,このようにターン開始 から高いターン速度で動作を行おうとした場 合,ターンが進むにつれて動作時間の短縮お よび遠心力の増加,それに伴う技術的な新た な課題が浮き彫りとなった。ターン速度向上 に取り組む際にはリズムだけでなく,短い動 作時間の中で増加する遠心力と,それに釣り 合う求心力の発揮に必要な技術および体力的 要素との関わり合いを鑑みながら指導および トレーニングを進めていくことが重要である と考えられる。残念ながら,これらの課題に 対する改善方法は具体的に示すことはできな かったが,事例を蓄積しながら様々な選手の 課題に応じた解決策を導いていくことが今後 の課題であると考えられる。 Ⅴ.結 論 本研究では, 年から 年にかけて 回転の空ターンやショートハンマーなどター ン速度向上を狙いとする技術練習に取り組み, ハンマー投げにおけるターン速度がハンマー ヘッド速度や動作に及ぼす影響について探っ た。その結果,ターン速度の向上に伴いハン マーヘッド速度増加し,全ての時点において ハンマーヘッド速度が上がっていた。一方 で, Hi から Lo にかけて身体重心が鉛直 方向へ伸びあがる運動が早かったことにより, 投げ出し局面ではリリースに向けて十分にハ ンマーヘッドを加速しきれなかった。そのた め 年から 年にかけて初速度および投 てき記録は向上していたものの,その変化は 大きいとはいえないものであった。しかしな がら,ターン動作開始時から Lo までは高 いハンマー速度で動作を遂行することができ, 高いパフォーマンスを発揮するための技術が 部分的にではあるものの獲得できていたこと が示唆された。このことからターン速度向上 に取り組み,より高い初速度を発揮するため には,特に時間的・体力的・技術的に複雑な 動作となる後半において的確な動作を遂行す るという課題に対して,あらかじめ必要とな るであろう技術および体力的要素と競技者と の関わり合いを鑑みながら指導およびトレー ニング計画を進めていくことが重要であると 考えられる。 Ⅵ.引用文献 )坂東美和子,田辺智,伊藤章( )ハ ンマー投げ記録とハンマーヘッド速度の 関係.体育学研究 ( ): ― . )廣瀬健一,高梨雄太,青木和浩,金子今 朝秋( )ハンマー投競技者のパフォ ーマンスとコントロールテストの関連性 について―ケトルベル投に着目して―. 陸上競技研究 , ― )室伏重信,斉藤昌久,湯浅景元( ) ハンマー投のバイオメカニクス的研究― 投射時におけるハンマー頭部の初速度・ 投射角・投射高が飛距離に及ぼす影響―. 中京体育学研究, ( ): ― . )岡本敦( )ハンマー投げの牽引力に 体重の与える影響.環境経営研究所年報 , ― . )田内健二,藤井宏明( )ハンマー投 げ―回す力,飛ばす力―.体育の科学, ( ): ― )梅垣浩二,室伏広治,藤井宏明,桜井伸 二,田内健二( )第 回世界陸上大 阪大会の男・女ハンマー投上位入賞者の バイオメカニクス的特徴.世界一競技者 のパフォーマンスと技術,財団法人日本 陸上競技連盟: ― . )湯浅景元,奥山秀雄,室伏重信,斉藤昌 久( )ハンマー投げのバイオメカニ クス的特性.体育の科学, ( ): ― . 山本・野口 49