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分権化で問われる総合型企業の本社機能

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NAVIGATION & SOLUTION

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分権化で問われる

総合型企業の本社機能

渡辺 茂

最近、カンパニー制や純粋持株会社についての議論が盛んである。

組織論としてみると、カンパニー制や純粋持株会社制の内容は、

本来の事業部制そのものである。これらが注目を集めるのは、これまでの日本企業の

事業部制が中途半端に細分化され、明確な責任を問うだけの自己完結性が

与えられていなかったことに対応している。

純粋持株会社は、日本では「本当に徹底した」事業部制を実施するという

メッセージである。これらの分権化が進展すれば、とりわけ事業分野が拡散した

総合型企業の本社は、本社機能の付加価値が改めて問われることになる。

事業を入れ替えるポートフォリオ戦略と幹部人事などのガバナンス(統治)機能とで

複数事業を束ねるだけのコングロマリット型の本社には、投資家が付加価値を

認めないからである。コングロマリット型本社を超える付加価値を傘下の事業に

付与する能力がなければ、純粋持株会社本社が不採算本社として

消滅の対象となるだろう。

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日本企業に多い

不完全事業部制

企業の内部組織は、大きく機能別組織と 事業部制組織とに分けられる(図1)。 機能別組織(functional organization)の 企業は、製品の開発、生産、販売などの機 能を担う部門に区分され、それぞれの活動 は経営者によって統合される。 事業部制組織(divisional organization) は、企業内に、開発、生産、販売などの機 能を備えた複数の独立した事業部をつくっ て、権限を委譲するとともに、利益責任を 持たせる制度である。権限委譲による責任 の明確化と、市場や顧客ニーズへの迅速な 対応を図ることがねらいである。 ボトムラインの責任を問う事業部制は、 本来、結果の責任を負えるだけの権限を事 業部長が持っていることが前提である。た とえば、他部門で生産された部品が高けれ ば社外から購入する権限が、よく例に引か れる。 ところが、日本企業を観察すると、おも しろいことに、開発や生産の機能を持たな い販売事業部、販売機能を持たない生産事 業部が多く見られる。これらの事業部は、 自己完結的でなく、業績が自らの権限の及 ばない他の事業部の意思決定や活動に大き く依存するので、完全な事業部とはいいが たい。不完全事業部あるいは職能別事業部 という範疇になる。 権限の付与と組織割りにとどまらず、事 業部の成果測定の徹底にもコストがかかる。 1975 年に上場以来初の赤字決算となった キヤノンは、優良企業構想を掲げ、そのな かで事業部制についても手をつけた。しか し、「これには時間が必要だった。それま で事業の発展に応じて、どの工場でも空い ているスペースに次々と新しい生産ライン を組み込んでいったため、カメラ、事務 機、光学機器が雑居状態で生産されてい た。そこで新たに専門工場を設けるなどし て、工場ごとに製品を分け、そのうえでカ メラ、事務機、光学機器の製品別事業部体 制を作りあげていったのである」(賀来龍 三郎「私の履歴書」『日本経済新聞』1993 年3月21日)。 事業部制は、こうしたコストをかけて、 さらに生産などの規模の利益を犠牲にして も、責任の明確化によるインセンティブ効 果のメリットがそれらを上回るという考え 方である。しかし、多くの企業は必ずしも ここまで徹底していないので、複数事業部 の製品が同一工場で作られ、製品コストは 工場の共通経費の配賦方法に影響され、事 業部ごとの成果測定は不完全となる。

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カンパニー制は

本格的事業部制の試み

1994 年にソニーが導入したカンパニー制

Ⅰ 分権化される企業の内部組織

図1 企業の内部組織 機能別組織 不完全事業部制 完全事業部制 規模の利益 出所)野村総合研究所 イ ン セ ン テ ィ ブ

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は、組織論では普通の事業部制そのもので ある。これが企業関係者の関心を引いたの は、日本企業の多くの事業部制が、実は不 完全事業部制にとどまっていたためであ る。 カンパニー制がより完全な事業部制への 試みであることは、導入から1年後のソニ ー幹部の、事業部間取引の振り替え価格に ついての発言からうかがえる。振り替え価 格は「市場価格を前提にしよう、というと ころに落ち着いてきている。以前なら、重 要な商品ならコストを無視しても他部門に 売るなど、あいまいな点があった」(伊庭 保副社長『日経産業新聞』1995 年7月 17 日)。 各カンパニーに資産と資本を振り分け、 各カンパニーの貸借対照表を作成すること にしたことも注目された。本来の事業部制 の分類に従えば、事業部制は、利益責任を 負う点で、すべてプロフィット(利益)セ ンターである。プロフィットセンターのう ち、貸借対照表を備え、最終的に資本効率 まで測定・評価できる事業部制は、インベ ストメント(投資)センターと呼ばれる。 米国の事業部制はほとんど貸借対照表を 備え、資本効率まで測定できるインベスト メントセンターである。これに対し日本企 業の事業部制では、インベストメントセン ターは少数派で、この意味でも不完全事業 部となっている。 社内での交渉力があれば他部門の負担で 利益をかさ上げできる不完全事業部の集合 体が機能するためには、事業部間の最終的 な調整に当たるトップが、事業のオペレー ションを理解していることが必要である。 しかし、会社の事業範囲が広がるとこれは むずかしくなる。 トップによる調整は微妙な問題を含んで いる。トップの指示で妥協することが定例 化し、そうすることに対して全面的な補償 が与えられるなら、事業部長は官僚化して 責任の明確化という事業部制の目的そのも のが成り立たなくなる。このため、何が会 社全体の利益かについての健全な判断基準 が、社内の異なる部門の人たちの間で共有 されることが望ましい。しかし、これも事 業範囲が広がるとむずかしくなる。 不完全事業部制は、円滑に機能すれば、 販売部門の一体運用など機能別組織の規模 の利益を活かすことができ、細分化された 事業部間の競争も期待できるが、事業範囲、 企業規模が大きくなれば、調整コストが大 きくなる。したがって、完全事業部制にす る必要性が高まる。ソニーが事業部制の完 全化を企図した背景には事業規模、範囲の 拡大がある。 カンパニー制が一般の関心を集めた、た ぶん最も大きな理由は、カンパニーという ネーミングに事業ごとの独立採算を厳しく 求める響きがあることである。カンパニー 制を発表したときのソニーは、収益の回復 が課題だった。 事業部ごとの独立採算の強化は、戦後の 東芝の大争議をはじめ、リストラを図る際 の常套句として知られている。また、事業 部によって人事体系、給与水準、採用など が異なることになるのではないかという連 想も与えた。不況下では、これは大半の従 業員にとっては給与減少につながりやす い。 実際には、ソニーはカンパニーに統合し たマーケティング機能・販売部門を 1996 年 4月に再び分離して、営業本部を設立し た。事業部制度としては完全度を薄めてい

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る。さらに、1年後には国内営業本部を分 社している。トップの発言もカンパニーの 独立性の徹底という方向を緩和している。 同じソニーに入ったのだからという意識の 共有は、不完全事業部制のもとでの部門間 の健全な協力のためには重要であろう。

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松下と東芝の再編史

分権化と統合をめぐる企業の組織再編 は、めずらしいことではない。松下と東芝 の例を見てみよう。 松下電器産業の事業部制は、戦前からの 長い歴史を持ち、資料や研究も最も豊富で ある。その歴史は、組織改編の歴史である (表1)。 同社の組織再編は、時代の流れとともに かつての花形だったラジオ事業部の名前が 消えて、パーソナルコンピュータ事業部が できるといった、製品構成の変化に伴うも のだけではない。本社機構との関係で、事 業部の独立性が強化されたり、反対に事業 部間の協力、本社による統合機能が強化さ れたりしてきている。後者の統合機能強化 の代表的な組織改革としては、いくつかの 事業部を束ねた事業本部制の導入があげら れる。 事業本部長およびそのスタッフは、本部 内の事業部の協力推進のための調整機能を 果たす組織である。この場合、利益責任は あくまで事業部が負っているが、事業本部 の助言、調整は、実際上は指示に転化しや すく、事業部長の権限と責任は侵食されて しまう。事業部制度に期待される企業家的 な迅速な意思決定は薄まってしまう。 経済環境と市場、技術進歩による製品の 変化は、分権と統合の振り子の位置を決め る一要素である。これに加えて、重複によ る無駄よりも、独立採算の徹底によって生 まれる小企業的な活力を重視して、洗濯機 事業部、掃除機事業部など事業部を細分化 している松下の場合は、定期的な事業部間 の調整強化を必要としてきたように思われ る。 代表的な総合型企業として、この4月に 純粋持株会社への移行も視野に入れてカン パニー制を導入した東芝も、1969 年に当時 の土光敏夫社長のもとで、事業部内閣制度 の名称で事業部制の徹底を図っている。各 事業部をそれぞれ独立企業形態にレベルア ップし、東芝を事業部会社からなる複合企 業的運営とするために、担当事業分野の運 営につき、一切の責任権限を事業部長に委 譲した。 事業部内閣制度と名付けられたのは、事 業部経営の強化のため、事業部内に幹部6、 7人で事業部内閣を編成したためである。 事業部の貸借対照表も資本金・資産を見直 し、投融資勘定を事業部に移管、土地の再 表1 松下電器産業の組織改編 注)事業部の権限強化を分権としている 出所)『松下電器50年の略史』その他より野村総合研究所作成 時期 組織改編 方向 1918年 松下電気器具製作所開業 27年 電熱部新設 分権 33年 事業部制採用 分権 35年 事業部を分社化 分権 44年 分社を吸収し製造所制へ移行 統合 49年 工場制へ移行 統合 50年 事業部制へ復帰 分権 54年 事業本部、営業本部など4本部制 統合 65年 事業部と販社の直接取引 分権 72年 製品グループ別担当制 分権 75年 総括事業本部制 統合 78年 事業部制へ復帰 分権 76∼ 79 年 4事業部を分社 分権 84年 本部制(社内分社制)導入 統合 91年 部門制(セクター制)導入 統合 94年 事業部制へ復帰 分権 97年 社内分社制導入 統合

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評価も実施した。役員については、特定部 門の利益を代表し、部門の経営責任を感じ ながら全社の経営方策を論じるという、二 重の性格を有する「担当役員制」を廃止し、 役員は文字どおりの社長の分身として性格 づけられた。事業部内閣制度は、今日の用 語でいえば、カンパニー制であり、執行役 員制である。 松下や東芝の例からわかるように、個々 の大企業の内部組織は分権化と統合化を繰 り返してきた。個々の組織再編の評価は別 にして、組織図の書き換えだけでは望まし い効果はあげられないと考えてよいだろ う。

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規制産業の純粋持株会社

本社機能に特化し自らは事業を行わない 純粋持株会社の設立も、カンパニー制と併 せて、事業部門ごとの責任の明確化と独立 採算性の強化の方法として議論されてい る。 規制産業の場合は、純粋持株会社形態の 意義は理解しやすい。日本の場合も、純粋 持株会社の解禁の原動力となったのは、政 府によって規制された銀行を中心とする金 融機関の多角化、企業合同のニーズであ る。また、米国の純粋持株会社のほとんど は、銀行および電力会社などの規制業種で ある。 監督する立場からすれば、これらの企業 は規制対象外の事業と法的に分離されてい ることが望ましいのは明らかである。別会 社化されている場合も、出資分が銀行や電 力会社の貸借対照表に載っていれば、この 別会社についても本来は監督対象とせざる をえない。このため、持株会社を設立し、 規制対象の銀行などとそれ以外の企業とを 持株会社のもとに並べる方式が一般化して いる(図2)。 なお、純粋持株会社の主な収入は子会社 の配当しかないので、米国の銀行持株会社 や電力の持株会社の債券は、子会社の銀行 や電力会社よりも低く格付けされている。

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純粋持株会社の3類型

ハーバード大学の著名な経営史学者、チ ャンドラー教授は、一般の事業会社の企業 組織の歴史を総括して、「欧米では非関連 事業に多角化するコングロマリットのブー ムが 1970 年代に終わると、経営組織として 純粋持株会社形態にメリットを認める考え 方は過去のものになり、米国で発展した本 社組織によって統合される近代的大企業組 織が、いずれの国でもノーマルな企業形態 と見なされるようになった」と結論してい る。 米国の場合は、19 世紀から今世紀初頭に かけて、企業の合同が進む過程で純粋持株 会社が登場した。これらの企業の連合体は、 一方では近代的な一元的経営システムを持 つ1つの企業として合併・統合された。他 図2 純粋持株会社の組織 出所)野村総合研究所 規制を受ける事業 (銀行など) 多角化事業 純粋持株会社

Ⅱ 純粋持株会社のタイプ

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方、純粋持株会社のもとでの緩やかな連合 体としてとどまった企業の多くは、一元的 な経営システムを完成した企業との競争に 敗れて消滅していった。純粋持株会社は、 企業の合同過程の暫定的な組織形態だった ということができる。 米国ほど市場と企業規模の拡大が急テン ポでなかった英国では、創業者およびその 家族による経営が長く続いた。創業者の家 族がしだいに事業経営から離れるにつれ て、事業の実際の経営は専門の俸給経営者 にまかされ、家族の持ち分は資産管理会社 としての純粋持株会社に集約・分離されて いった。 この2国に比べて近代的大企業の登場が 遅かったフランスの場合は、企業連合の要 としての持株会社が比較的長く存続してき た。またドイツの場合は、間接金融とカル テルによる企業連合が機能していた。 チャンドラー教授によれば、これら各国 でも第二次大戦後は、米国流の分権と集権 を組織化した経営システムにしだいに移行 していったとされる。 この見方からすると、純粋持株会社の主 なタイプは、①コングロマリット企業、 ②企業が合併(あるいは分割)する過程の 暫定的な組織、③創業者の持ち分などを起 源とする資産管理会社──の3つというこ とになる。 もちろん、純粋持株会社の類型をさらに 探れば、税制上の優遇措置のある国・地域 に本社を置いたり、本国市場が不釣り合い に小さい多国籍企業の本社組織などのケー スもあるが、以下では扱わない。 資産管理会社としての純粋持株会社の典 型は、社長の座に財閥一族が座った戦前の 日本の三菱や三井など、財閥の本社として の純粋持株会社である。傘下の直系企業の 事業分野はコングロマリット的で、多方面 に広がっており、事業面のシナジー(相乗 効果)は薄かった。事業の拡大も、純粋持 株会社化した後は、直系の企業が事業持株 会社として自らの子会社群を増殖していっ た。純粋持株会社の下に、新たな企業が生 まれたわけではない。 戦後の財閥解体の影響も、事業経営の面 から見れば、財閥本社が解体されたことよ りも、三菱重工業や三井物産のような各事 業会社が分割されたことの方が大きいと考 えられる。 大蔵大臣や日本銀行総裁を務めた池田成 彬も、三井合名の筆頭常務理事時代は、株 主である三井 11 家の人たちからは呼び捨て にされ、「自分の三井合名生活の中で過半 のエネルギーは三井家対策のため費やし た」。これも、資産管理会社としての財閥 本社の性格を反映しているといえるだろ う。 今日でも、創業家の影響力が残る企業で は、創業家と経営の分離、創業家の財産保 全の観点からの純粋持株会社設立が考えら れている。

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コングロマリット・

ディスカウント

ベルギー最大の純粋持株会社 SGB(ソシ エテ・ジェネラル・ド・ベルジック)は、 傘下の子会社とともに自らも公開企業であ った。公益、金融、非鉄、エレクトロニク スなどの子会社を有するコングロマリット である(次ページの図3)。 創価大学の村松司叙教授の論文「欧州純 粋持株会社の財務戦略」(『企業会計』1998 年4月号)によると、SGB の時価総額は、

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保有ポートフォリオの市場価格を恒常的に 下回り、1996 年は 27.7 %、97 年7月には 17.9 %下回った。いわば純粋持株会社 SGB は、コストを浪費する本社組織にすぎず、 戦略立案などの機能は市場で評価されてい ないことになる。 これは、コングロマリット型純粋持株会 社に共通の問題で、保有株式の時価総額か らの割引率をできるだけ小さくすること が、純粋持株会社のポートフォリオ管理担 当者の目標となる。SGB の目標値は 10 ∼ 15 %といわれる。どんなに効率良くポート フォリオを管理しても、10 %程度の割引率 (コングロマリット・ディスカウント)は 残るとされている。 持株会社の存在が正当化される理由は、 ベルギーやオランダでは、子会社株式の売 却益は非課税、配当収入への税率もゼロか 低率であることである。SGB の役員は、日 本では「今更何故こんな時代遅れの純粋持 株会社制度を創るのか」「創設を正当化で きるようなメリットが企業側にあるのか」 と尋ねたと村松教授は記している。 なお、SGB は 1998 年に大株主によって買 収され、非公開化された。

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コングロマリット企業の

本社機能

互いに関連のない複数事業部の本社部 門、また非関連の複数事業子会社を持つ持 株会社の業務は、次の3つからなる。 ①子会社の事業ポートフォリオの選択 (いわゆる戦略機能) ②インセンティブシステムの構築と幹部 人事などのガバナンス(統治) ③会計報告の作成、経理・給与計算、広  報、情報システムといったサービス業 務 これらの3つを本社業務とし、これらを 効率的に行うという考え方が、小さな本社 という議論である。 ポートフォリオ戦略は、純粋持株会社の 能力が株式市場のファンドマネジャーを超 えなければ、ただの複数株式の抱き合わせ 販売となり、SGB のようなコングロマリッ ト・ディスカウントを受ける。 ガバナンスは、本来的には株主総会と取 締役会の機能であるが、市場の個々のファ ンドマネジャーでは果たしにくい機能であ る。大株主としての純粋持株会社が、ガバ ナンス機能を十分に果たすこともあるだろ うし、甘い庇護者や理不尽な介入者になる 場合もあるだろう。 サービス業務は、今日では盛んにアウト ソーシングされている分野である。先の2 つと反対に、子会社が対価を払う顧客なの で、グループ外からのサービス購入を許さ

Ⅲ 総合型企業の本社機能

図3 SGBグループの概要 注 1)カッコ内は主要事業、数字は SGB の持ち分比率(1997 年 9 月) 2)SGB :ソシエテ・ジェネラル・ド・ベルジック 出所)村松司叙「欧州純粋持株会社の財務戦略」『企業会計』1998 年 4 月号より 野村総合研究所作成 トラックテベル(電力・ガスなど) ジェネラル・バンク(銀行) ユニオン・ミニエール(非鉄金属) フォーティス AG(金融・保険) レクティセル(ポリウレタン) サゲム(エレクトロニクス) その他 50% 30% 19% 25% 70% 20% SGB(持株会社)

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ない場合、持株会社のサービスの効率性が 問われることになる。 持株会社のサービスについては、この7 月に持株会社となる NTT が昨年末、表2 のようなサービスに対して NTT データな どの子会社群に約 10 億円といった対価を提 示したところ、自らも上場している子会社 側が、価格の合理性に反発したと報じられ た(『日本経済新聞』1998年12月31日)。 配当などに収入が限られる純粋持株会社 の場合、同じような問題が他企業でも起こ りうる。サービスの本社以外からの購入も 認められれば本社サービス効率化の機会に なろう。

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ジニーンの徹底管理型本社

コングロマリットは、以上の3つの要素 だけで統合されている。コングロマリット が輝いていた時代に、ITT(インターナシ ョナル・テレフォン・アンド・テレグラ フ)社の CEO(最高経営責任者)として経 済界で名声をほしいままにしたハロルド・ ジニーンは、会計士のバックグラウンドを 持ち、ポートフォリオ戦略とガバナンスの 徹底で、通信からレンタカー、製紙業など 多種多様かつ多国籍の事業を経営し、増収 増益を続けた。 ジニーンの手法は、一定以上の市場の成 長率と利益率が見込まれる産業を事業領域 として、買収と売却でポートフォリオを組 み立てるとともに、傘下の企業に一定の業 績達成を指示して、彼自ら徹底的に個々の 企業、経営陣の評価に当たるというもので ある。 彼は、業績目標に届かない企業を建て直 すために、出張先の欧州で深夜を過ぎて会 議を続けていた際に、電球が切れたのでス タッフの1人が「電球も疲れたようです」 と言ったのに対して、「怠け者の電球だけ が眠りにつく」と言って意に介さなかった という。しかし、超人ジニーンが去ると、 広大な帝国を経営できる人はおらず、ITT は長期的な低迷に陥った。

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GE の教育型本社

今日の米国の代表的な高収益企業、ジャ ック・ウェルチ会長の GE(ゼネラル・エ レクトリック)社は、原子力発電、放送 局、電球、ノンバンクなど異業種の集合体 である(次ページの図4)。ノンバンクの GE キャピタルが融資対象の産業について の情報を得られることはあるにしても、原 子力発電と放送局の事業にシナジーはな い。事業構成からは、関連のない事業から なるコングロマリットである。 GE の事業のラインアップは、業界1位 か2位になる事業以外は撤退するという有 名な基準からなっている。エジソンの電球 以来、技術の発展とともに拡大・拡散して きた事業を整理する基準として、最初に宣 表2 NTT持株会社のグループへの主なサービス 注)東西会社、長距離会社のみ対象としたものは除く 出所)『日本経済新聞』1998 年 12 月 31 日 ①グループ経営や情報流通産業に関する情報提供と助言(国際分野を含む) ② 新事業領域開拓のための調査・分析 ③ 資本戦略に関する助言、経営不振などに陥った場合の支援 ④ グループ情報システムの提供 ⑤ グループとしての防災対策統括機能の提供 ⑥ 研究開発に関する助言 ⑦ 経理・税務・法務に関する助言、情報提供 ⑧ ロゴマークと NTT ブランドの使用許諾 ⑨ グループ広報の企画・立案・実施 ⑩ マネジメント層の研修、人材あっせん ⑪ グループ代表としての対外対応の実施

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言されたものである。しかし、GE のシナ ジーが感じられない事業メニューをながめ ていると、業界1、2位の優良事業である から、個々の企業に分解してしまっても同 じではないかという気がしてくる。 GE の本社が加えているユニークな付加 価値は、教育的なものである。業界1位、 2位の現在の優等生企業を集めてきて、優 等生がチャレンジできる高い目標と、いっ そう高度な経営を求める。同時に、次のよ うな観点から、優等生企業が陥りがちな慢 心、官僚化を倦むことなくチェックするこ とを求める。 ①ベストプラクティス──会社の大小を  問わず、何かの分野で自分たちより優  れたやり方をしている企業があるはず である。それを発見すること、謙虚に  学び続けること。 ②ベンチマーク──何らかの分野で自分  たちより優れた成果をあげている企業  があれば、目標に設定し追いつく努力  をすること。 ③ワークアウト──環境の変化、悪い情  報から目を背けない、率直な議論のた  めの職場の人間関係の改革。 ④シックスシグマ──現状に満足しない 徹底的な品質管理。 ⑤アジル──小企業に負けない俊敏な意 思決定の強調。 ウェルチには、企業のトップとしての企 業買収などの交渉、財務的目標の設定など の仕事ももちろんあるが、これらは各企業 がバラバラになっても個別企業で行われる ものである。GE がおもしろいのは、こう した優良企業のための教育活動に際して、 ウェルチ自らが講師となって繰り返しセミ ナーを実施し、さらに職場を訪れて議論し ていることである。 優良企業の教育は教師の技量によるとこ ろが大きいと思われる。ウェルチ後の GE が、普通のコングロマリットとなる可能性 もなしとはしない。 GE の本社の教育的付加価値は、優等生 を対象にしたものである。異なるレベルの 生徒を一緒に教育することは効率を損なう だろう。パフォーマンスの悪い企業では、 もっと別の科目が必要だろう。ウェルチが その場合も最も良い教師であるかどうかは わからない。

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LBO ファンドの病院型

本社機能

優良企業ではなく、同じような症状を示 図4 GEグループの主な事業

出所)GE 社のホームページ( http:// www. ge. com/ )より野村総合研究所作成

GEエアクラフト・エンジン(航空機・エンジン) GEアプライアンス(家電) GEインダストリアル・システムズ(産業システム) GEキャピタル・サービシス(金融サービス) GEインフォメーション・サービシス(情報サービス) GEライティング(照明) GEメディカル・システムズ(医療システム) GEプラスティックス(プラスチック) GEパワー・システムズ(電力システム) GEサプライ(物流) GEトランスポーテーション・システムズ(交通システム) NBC(放送局)

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す問題企業を集めて経営の再構築を進めて いるのが、LBO(買収先企業の資産やキャ ッシュフローを担保にした借金による買 収)の専門業者である。 こうした専門業者は、問題企業を交渉に よって買収・非公開化し、経営者の選択、 インセンティブシステムなどガバナンスメ カニズムの再構築を行う。LBO ファンド自 体は株式会社ではないが、投資先企業を再 生後に再公開してキャピタルゲインを得る ことを予定しているので、期間を限定した 病院型本社ということができよう。 病院型本社は、すべての問題企業を対象 にする再建屋とは異なる。ブランドが確立 している食品メーカーやスーパーなど、キ ャッシュフローが豊富だが資本効率は十分 高くないという共通性を持つ企業の経営を 改革する能力が、彼らの付加価値である。 LBO の専門業者は、最初から企業再生後 の売却を目的としている。一方、英国の公 開企業で純粋持株会社のハンソンは、同様 のコンセプトで低迷企業の買収、再生を業 として成長した。しかし、企業を再生させ る能力は必ずしも企業を継続的に発展させ る能力と同一ではない。傘下企業の業種が 拡散し、コングロマリット化が進んだハン ソンは業績が低迷し、1996 年以降のリスト ラで、産業別の4つの企業に分割された。 そのうちエネルギー分野の1社は、米国の 電力会社に買収された。 同様の視点から見ると、新規事業に投資 するベンチャーファンドも本社機能の一部 を取り出したものに他ならない。ベンチャ ーファンドは、事業の評価、ガバナンスメ カニズムの構築、経営支援のサービスなど の機能を持っている。また、ハイテク、バ イオなど業種による特化に加えて、設立間 もないハイリスク、ハイリターンという企 業成長のステージに特有の問題に対する経 営関与能力に特化している。

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持株会社化の

チャプターイレブン的要素

純粋持株会社組織は、法的に別会社とな るので、賃金体系、雇用形態などで異なっ た制度をとりやすいといわれる。こうした 目的を達成するために、日本企業は機能単 位の子会社を日常的に設立してきた。地方 の工場や販売部門を本社と切り離している 企業はめずらしくない。したがって、業務 に対応した処遇の実現が目的なら、これま でと同様、一部の事業を別会社化すれば、 異なる雇用賃金体系を導入できるわけであ る。 純粋持株会社の場合には、あえていえば 現在の会社がいったん消滅するので、賃金 体系、雇用形態、年金制度全体を見直すき っかけとすることができるようである。 米国の企業法制度では、経営に行き詰ま った企業は、破産法第 11 条(チャプターイ レブン)を申請することによって、比較的 簡単に破産、更正が認められ、現在の労働 協約を無効にできる。賃金水準や年金など で問題を抱えた企業にとって、純粋持株会 社への組織変更は、チャプターイレブン申 請によるリストラに似た効果を持ってい る。 不完全事業部の現状から考えると、カン パニー制は、「徹底した」事業部制を実施 するというメッセージであり、純粋持株会 社化は、「本当に徹底した」事業部制を実 施するというメッセージとして意味がある だろう。また、貸借対照表は必然的に分け られるので、インベストメントセンター化

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はしやすくなる。 純粋持株会社が子会社を事業部制と同じ ように扱うなら、経営システムの観点から 見ると、両者の違いはない。本社スタッフ と事業部、および事業部相互の関係という 事業部制に伴う経営上の問題は、純粋持株 会社の本社と子会社の間にも同様に生じ る。 経営の観点から見ると、持株会社化で達 成されて、事業部制で不可能な重要事項は ない。反対に、純粋持株会社のもとに企業 グループが再編されても、各企業の経営が 持株会社の指示下にあって独立性が保たれ ないなら、事業部制的な責任の明確化は実 現されない。事業部制が広く普及している 米国で、本社を純粋持株会社化している一 般企業がほとんどない理由である。 したがって、チャプターイレブン的な暫 定的な効果が触媒の機能を果たすほかは、 純粋持株会社組織への再編が、分権と統合 という組織の問題を解決するわけではな い。 事業部制組織の企業は本来、微妙なバラ ンスの上に乗っており、自己完結的に各事 業部の事業を進められる程度に事業が独立 している一方、同一の中央意思決定機関の もとにあることがプラスに働くと評価され る必要がある。それは、事業部相互に関連 があり、それぞれの事業を遂行する上で利 害の衝突があり、実現すれば有益な協力の 余地があるということに他ならない。 このような条件に乏しい事業部門が集積 している場合、すでに見たように、単純な コングロマリット的なポートフォリオ管理 では、本社は付加価値を与えない。技術開 発、顧客情報の移転、経営スキルなど、傘 下の企業が共通に利益を受ける何らかの資 源を保有、開発する能力が必要である。そ の具体的内容は、事業分野が広くなればな るほどむずかしくなる。 ソニーの社長の守備範囲に比べると、松 下電器産業の社長の守備範囲はエアコンや 冷蔵庫などの家電製品があるだけ広くな る。日立製作所の社長の場合は、さらに原 子力発電機や大型コンピュータ、鉄道車両 が加わる。オーディオやビジュアル製品の 将来について、ソニーの社長と同じ理解を 持つことは不可能に思われる。日立製作所 の社長の仕事は、ソニーの社長の仕事とは 質が異なるのである(表3)。 事業分野だけを見れば、東芝や日立製作 所のそれは、ソニーと三菱重工業を合わせ たようなポートフォリオである。多角化し た総合型企業には、内部労働市場を形成し

Ⅳ 本社の付加価値が問われる

表3 ソニー、松下電器産業、日立製作所の事業分野 注)AV :オーディオ・ビデオ、FA :ファクトリー・オートメーション 出所)各社の有価証券報告書より野村総合研究所作成 事業内容 家 電 AV機器 情報・通信機器 電子デバイス 大型コンピュータ 機 械 重機械 プラント 重 電 冷蔵庫 エアコン 洗濯機 調理器 テレビ ビデオ オーディオ パソコン 電話機、カーナビ 放送・通信機器 半導体 電子部品、液晶 大型コンピュータ FA機器 鉄道車両 エレベーター 汎用機、冷熱機器 プラント 送電・受変電機器 発電機 ソニー 松下 日立 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

(12)

て雇用リスクを軽減する効果や、事業ごと の収益の変動をならして資金調達力を高め る効果がある。大きな資金を要する、リス クの高い事業を手がけるのには有利であろ う。 しかし、今日、この観点からソニーと三 菱重工業の合併にメリットを見出す人がい るだろうか。この仮想の合併により登場す る本社によって、両社の既存事業は良くな るだろうか。財務や幹部人事の機構が、既 存の2社の上にできることによって、両社 のガバナンスが向上するだろうか。そして 合併企業の社長と本社スタッフの仕事は、 何の付加価値をつけるのだろうか。 本社は、資金配分、予算、人事、報告徴 集などの権限を持っている。これは、国に 置き換えれば、補助金交付や許認可の権限 に等しい。傘下の事業のエネルギーが、こ れら本社資源の獲得に消費されることもあ りそうである。 近年の総合型企業の状況から見ると、伝 統的な雇用や財務面の規模の利益を超え て、改めて、多様な事業を1人の社長、1 つの本社のもとにゆだねるメリットを明確 にすることが求められている。それは、多 様な事業を傘下に持って、本社は何の付加 価値をつけているのかということである。 事業が多様なため社長が十分に理解できな い部分を支援しているスタッフは、事業分 野が広すぎるために必要になっただけで、 付加価値はつけていない。経営と執行を分 離すれば、それだけで戦略本社ができあが るというのは、コングロマリット企業の例 を見れば幻想に思える。 こうした点に答えがないなら、純粋持株 会社化した場合に再編・消滅の対象となる のは、傘下の不採算事業だけではなく、投 資家にとって不要な不採算本社、純粋持株 会社かもしれない。 著者────────────────────── 渡辺 茂(わたなべしげる) 資本市場研究部企業経営研究室長 1976 年東京大学教育学部卒業、1986 年ハーバード 大学ビジネススクール卒業 専門は企業金融、コーポレートガバナンス 電子メール [email protected]

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