厚生労働科学研究費補助金 こころの健康科学研究事業
精神保健医療福祉の
改革ビジョンの成果に関する研究
平成18年度 総括・分担研究報告書
主任研究者 竹島 正
平成 19(2007)年 3 月
目 次
Ⅰ.総括研究報告書
精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究
主任研究者 竹島 正
Ⅱ.分担研究報告書
1. 精神保健医療福祉の地域実態の把握と改革のフォローアップに関する研究
竹島 正,小山明日香,小山 智典,立森 久照,長沼 洋一,
箱田 琢磨
〔分担研究協力報告書〕
(1)改革ビジョンの成果に関する研究ホームページの開設
長沼 洋一,立森 久照,小山明日香,小山 智典,竹島 正
(2)平均残存率と退院率の偶発性の変動要因について
箱田 琢磨,竹島 正
2.入院形態ごとの適切な処遇確保と精神医療の透明性の向上に関する研究
白石 弘巳,伊藤 哲寛,岩下 覚,長瀬 幸弘,八田耕太郎,
平田 豊明,藤井 潤,益子 茂,松原 三郎,溝口 明範,吉住 昭,
重松 淳哉
3.自立支援医療(精神通院医療)の適正な給付に関する研究
山下 俊幸,黒田 安計,桑原 寛,白川 教人,築島 健
〔分担研究協力報告書〕
(1)自立支援医療における支給認定の状況調査
黒田 安計
(2)
「重度かつ継続」又は「高額治療継続」に関する論点整理
築島 健
(3)自立支援医療における指定医療機関の資格要件に関する検討
白川 教人
(4)診療報酬明細書審査のあり方に関する聞き取り調査
白川 教人
(5)
「社会医療診療行為別調査報告」による入院外精神科診療の状況
桑原 寛
4.自立支援医療(育成医療・更生医療)の適正な給付に関する研究
中澤 誠
5.精神障害者の、障害者自立支援法における総合的な自立支援システムの利用
の実態に関する研究
野中 猛,大谷 京子,青木 聖久,山口 みほ,木全 和巳,
吉田みゆき,瀧 誠,田引 俊和,山田 恭子,渥美 浩子,上原 久
6.認知症患者に対する精神科医療のあり方に関する研究
(1)老人性認知症疾患センターの今後のあり方について
浅野 弘毅,小山明日香,立森 久照,松原 三郎,竹島 正
(2)認知症疾患患者の救急医療の実態に関する研究
浅野 弘毅,粟田 主一,松原 三郎
7.精神保健医療の現状把握に関する研究
立森 久照,小山 智典,長沼 洋一,箱田 琢磨
〔分担研究協力報告書〕
(1) 精神科デイケア等に関する研究
長沼 洋一,立森 久照,竹島 正
(2) 各県の平均残存率に関連する要因の検討
小山 智典,立森 久照,小山明日香,竹島 正
Ⅲ.資料
精神科デイ・ケア検討会 会議録
研究班名簿
平成
18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究
総括研究報告書
主任研究者 竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究要旨 平成
16 年 9 月精神保健福祉対策本部報告書「精神保健医療福祉の改
革ビジョン」の公表や、平成
17 年 10 月障害者自立支援法の成立等を背景に、
本研究では、精神医療と、障害福祉サービスの体系の2つの改革が同時に進ん
でいくことになる精神保健福祉サービスにおいて、改革推進のためのフォロー
アップ研究を行い、根拠に基づいた改革の実現を図ることを目的とした。
「精神保健医療福祉の地域実態の把握と改革のフォローアップに関する研
究」では、本研究班において作成された全国データ資料集「目でみる精神保健
医療福祉-改革ビジョンの実現に向けて-」に掲載された全図表について個別
にまとめ、改革ビジョンの実現に向けての取り組むべき課題として示した。ま
た、改革ビジョンの成果に関する情報提供のための研究ホームページを開設し
た。
「入院形態ごとの適切な処遇確保と精神医療の透明性の向上に関する研究」
では、これまでの厚生労働科学研究班の成果を調査した。また、
630 調査に新た
に組み込むべき項目について候補を挙げた。聞き取り調査では、現在精神保健
福祉の改革ビジョンの課題に率先して取り組む精神科医療機関の取り組みを紹
介した。
「自立支援医療(精神通院医療)の適正な給付に関する研究」では、自
立支援医療開始後の支給認定の状況、重度かつ継続又は高額治療継続者に関す
る論点整理、指定医療機関の資格要件、診療報酬明細書審査のあり方、入院外
精神科診療の状況などを明らかにした。
「自立支援医療(育成医療・更生医療)
の適正な給付に関する研究」では、自立支援医療(育成医療および更正医療)
のうち、心臓機能障害を対象に、心臓移植後の患者を含む、継続的に高額な医
療費を必要とする疾患やカテゴリーを明らかにするために、その予備的検討を
行った。
「精神障害者の、障害者自立支援法における総合的な自立支援システム
の利用の実態に関する研究」では、退院促進についての聞き取り調査から、各
政令指定都市は独自に退院可能精神障害者の数値設定を行っていることが明ら
かになった。また、退院支援のための相談事業については、市町村相談支援事
業を中心とするセンターを想定している地域と、精神保健福祉法における精神
障害者地域生活支援センターの移行を想定している地域とがあることが明らか
になった。さらに、
630 調査の精神障害者社会復帰施設に関する項目の修正案を
提示した。
「認知症患者に対する精神科医療のあり方に関する研究」では、郵送
調査から、老人性認知症疾患センターを設置している病院の特徴が明らかにな
り、認知症の精神科医療の窓口および専門治療の実施に重要な役割を果たして
いると考えられた。また、救急医療施設に対する郵送調査より、救急医療施設
と老人性認知症疾患センターとの連携が十分に行なわれていない現状が明らか
になった。
「精神保健医療の現状把握に関する研究」では、以下のことが明らか
となった。
(1)急性期病床を有する病院はその地域の基幹病院的な役割を果た
している病院が多いと考えられ、そのような病院を整備することは改革ビジョ
ンに示されている達成目標のひとつである平均残存率の低下に一定の貢献があ
ると思われる。
(2)病床規模に比してデイケア等の件数が多い病院では、特に
入院後
1-3 カ月以内での退院率が高く、また入院期間が比較的長期にわたる患
者についても早期退院となることが多い可能性が示唆された。
(3)平均残存率
を従属変数とする重回帰分析においては、地域およびコメディカルあたり患者
数が、平均残存率と有意な関連を示した。
本研究で得られた成果は、精神保健医療福祉の現況を示す結果として、改革
推進のためのフォローアップ研究の基盤をなすものと考える。
分担研究者
(50 音順)浅野 弘毅
(東北福祉大学/認知症介護研究・研修仙台センター)
白石 弘巳
(東洋大学)
立森 久照
(国立精神・神経センター精神保健研究所)
中澤 誠
(
財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院小児・生涯心臓疾患研究所)
野中 猛 (日本福祉大学)
山下 俊幸
(京都市こころの健康増進センター)
研究協力者
(
*:フォローアップ委員会委員)粟田 主一
(仙台市立病院)
池淵 恵美
*(帝京大学医学部精神科学教室)
伊勢田 堯
*(東京都立多摩総合精神保健福祉センター)
伊藤 弘人
*(国立精神・神経センター精神保健研究所)
宇田 英典
*(鹿児島県川薩保健所)
萱間 真美
*(聖路加看護大学精神看護学研究室)
小山明日香
(国立精神・神経センター精神保健研究所)
小山 智典
(国立精神・神経センター精神保健研究所)
斎藤 治
*(国立精神・神経センター武蔵病院)
佐々川洋子
*(神奈川県保健福祉部障害福祉課)
中島 豊爾
*(岡山県立岡山病院)
平成 18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究」
分担研究報告書
精神保健医療福祉の地域実態の把握と改革のフォローアップに関する研究
主任・分担研究者 竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究協力者
小山明日香(国立精神・神経センター精神保健研究所)
小山 智典(国立精神・神経センター精神保健研究所)
立森 久照(国立精神・神経センター精神保健研究所)
長沼 洋一(国立精神・神経センター精神保健研究所)
箱田 琢磨(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究要旨
本研究班において作成した全国データ資料集「目でみる精神保健医療福祉
-改
革ビジョンの実現に向けて
-」に示された各図表を概観し、今後の研究において
分析の必要なことを示すことを目的とする。上記のデータ資料集に掲載された
全図表について、時間軸に沿って変化の傾向を把握し、精神保健福祉制度の改
正等の影響について考察し、今後、分析の必要なことをまとめた。
精神科病院の機能については、「精神療養
1」を備える病院の機能およびこの
病棟のもつ機能および実態を明らかにする必要がある。精神科病院の従事者の
地域別の実態を分析する必要がある。在院患者の実態については、在院期間「
1
年以上
5 年未満」の患者数の動向について都道府県単位で観察する必要がある。
入退院患者の動態については、
1 年以内社会復帰率を退院促進の質的な実態を
はかる指標として活用していくことが望まれる。
精神科デイケア等については、
630 調査のデータをもとに、特定の年齢や診断
の多い精神科デイケアをグループ化することで、精神科デイケア等の機能分化
の一端を把握することが望まれる。
精神科診療所は施設、従事者数とも相当数に達しており、その実態の把握は
不可欠である。
精神障害者社会復帰施設等のうち、入所施設の機能は精神科病院からの退院
先、通所施設は在宅精神障害者の
QOL 向上が主な役割と考えられるが、その実
態については検証が必要と考えられる。
近年の
24 条、26 条による通報件数の増加は、通報側の制度運用の変化によ
って生じている可能性があり、制度運用実態のモニタリングが必要である。
全国データ資料集の分析から、わが国の精神保健福祉の長期的な経過をまと
め、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」のベースラインデータとした。その
結果をもとに、今後の研究において分析の必要なことをまとめた。
平成
18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究
分担研究「精神保健医療福祉の地域実態の把握と
改革のフォローアップに関する研究」
研究協力報告書(2)
平均残存率と退院率の偶発性の変動要因について
研究協力者
箱田 琢磨(国立精神・神経センター精神保健研究所)
分担研究者
竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究要旨: 「精神保健医療福祉の改革ビジョン」に精神保健医療福祉体系の再編の指標として示 された平均残存率、退院率の各都道府県の実測値が大きく変動する場合、そこに偶発 性の要因が関与している可能性がないか検討し、指標としての安定性を確保する方策 を検討することを目的として、平成14 年度から平成 16 年度の 630 調査の結果、平均 残存率または退院率の変動の大きかった 3 県に問い合わせを行った。また、平均残存 率の分散と退院率の分散の差を検定した。問い合わせの結果、3 県のうち 1 県より、1 病院が分院を開設したことにより、これらの指標に影響が及んだ可能性があるとの回 答があった。都道府県で指標を算出する場合、仮に病院で分院化が行われ、それが調 査月にあたった場合は、退院率は増加し、平均残存率は転院する患者の退院可能性に 応じて変動すると考えられる。平均残存率の分散と退院率の分散の差を検定した結果、 退院率の分散が平均残存率の分散より有意に大きかった。都道府県単位で算出する退 院率を安定した指標とするには、現在の1 ヶ月の 1 年以上在院の退院患者数を 12 倍し て年間の退院患者数とする方法を改め、1 年間の 1 年以上在院の退院患者数を集計する 方法が考えられた。 A 目的 厚生労働省精神保健福祉対策本部は平 成 16 年 9 月「精神保健医療福祉の改革 ビジョン 」(以下、「改革ビジョン」)を とりまとめた。その基本方針は「入院医 療中心から地域生活中心へ」という基本 的な方策を推し進めていくため、国民各 層の意識の変革や、立ち後れた精神保健 医療福祉体系の再編と基盤強化を今後 10 年間で進めることであり、精神保健医 療福祉体系の再編の達成目標として、① 各都道府県の平均残存率(1 年未満群) を24%以下とすること、②各都道府県の 退院率(1 年以上群)を 29%以上とする ことを挙げている。 これらの数値は都道府県単位で算出さ れることから、偶発性の変動は避けるよ う工夫する必要がある。 本研究は、平均残存率と退院率が大き く変動する場合、そこに偶発性の要因が平成 18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究」
分担研究報告書
入院形態ごとの適切な処遇確保と精神医療の透明性の向上に関する研究
分担研究者 白石 弘巳 (東洋大学ライフデザイン学部)
研究協力者 伊藤 哲寛 (前北海道立精神保健福祉センター)
岩下 覚 (桜ヶ丘記念病院)
長瀬 幸弘 (たかつきクリニック)
八田 耕太郎 (順天堂大学)
平田 豊明 (静岡県立こころの医療センター)
藤井 潤 (栗田病院)
益子 茂 (東京都多摩総合精神保健福祉センター)
松原 三郎 (松原病院)
溝口 明範 (溝口病院)
吉住 昭 (肥前精神医療センター)
重松 淳哉 (肥前精神医療センター
)
A.研究の目的 厚生労働省は、平成16年9月に精神保健 福祉対策本部報告書「精神保健福祉の改革ビ ジョン」を公表し、「入院治療から地域生活中 心へ」という基本的な方策を推し進め、立ち 後れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強 化を今後10年で進めることとした。また、 平成17年10月に障害者自立支援法が成立 し、併せて精神保健福祉法や障害者雇用促進 法も改正された。 「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果 に関する研究」班では、こうした精神保健福 祉サービスの改革の推進のためのフォローア ップ研究を行い、研究成果を周知することに 研究の目的:精神保健福祉の改革ビジョンのうち、「エ 入院形態ごとの入院期間短縮と適 切な処遇の確保」「オ 患者への情報提供と精神医療の透明性の向上」を中心とする部分に ついて、改革の進捗状況を把握し、必要に応じて改革推進へ向けた提言を行うことを目的と して実施する。 研究の方法:1)措置入院の指定病院等を対象として、入院した患者を入院形態ごとに5名ず つ選び、入院時の治療、行動制限の実施状況、退院後の治療状況などを尋ねるアンケート調 査の調査票案を作成した。2)本分担研究と関連する厚生労働科学研究のこれまでの成果と今 後に残されている課題について検討した。3)精神科医療機関の改革に取り組んでいる病院の 実情を知るために、3つの医療機関に対して聞き取り調査を実施し、併せて精神保健福祉法 の改正への対応や今後の国の精神保健福祉の施策への希望について意見を聴取した。 結果と考察:これまでの厚生労働科学研究班の成果を調査し、精神医療の透明性の確保等に ついて、すでに本分担研究と重複する内容の研究が行われていることを確認し、身体拘束や 情報公開などに関して、それらの研究班が作成したガイドラインなどを利用していくことが 必要であると確認した。また、630調査に新たに組み込むべき項目についていくつ候補が挙 げられた。日本の精神科医療の現状を正しく反映するような明確な指標を選び出すよう検討 する。また、聞き取り調査の結果、現在精神保健福祉の改革ビジョンの課題に率先して取り 組み、大きな成果を上げている精神科医療機関があることが分かった。今後、このような改 革が広く行われていくために必要な条件を来年度以降に検討していくこととした。精神科医 両機関へのアンケート調査の結果については、追って明らかにする予定である。平成 18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究」
分担研究報告書
自立支援医療(精神通院医療)の適正な給付に関する研究
分担研究者 山下 俊幸 (京都市こころの健康増進センター)
研究協力者 黒田 安計 (さいたま市こころの健康センター)
桑原 寛 (神奈川県精神保健福祉センター)
白川 教人 (横浜市こころの健康相談センター)
築島 健 (札幌こころのセンター)
研究要旨 平成 18 年 4 月、障害者自立支援法の施行により自立支援医療(精神通院医療)が開始さ れたが、これまでの検討経過の中で、1)中間所得層について、再認定を認める場合や拒否す る場合の要件については、今後実証的な研究結果に基づき、制度施行後概ね 1 年以内に明 確にする、2)「重度かつ継続」の範囲については、実証的な研究結果を踏まえ、順次、対象 の明確化を図る、3)「一定所得以上」かつ「重度かつ継続」の者に対する経過措置は、施行 後 3 年を経た段階で医療実態等を踏まえて見直す、とされた。また、平成 17 年度の「自立 支援医療の給付のあり方に関する研究」において、自立支援医療における「重度かつ継続」 の範囲の明確化のために必要な実証的データが得られたが、自立支援医療の適正な給付に ついては、なおいくつかの課題が残されている。 そこで、自立支援医療の適正な給付のあり方について検討するため、自立支援医療開始 後の支給認定の状況、重度かつ継続又は高額治療継続者に関する論点整理、指定医療機関 の資格要件、診療報酬明細書審査のあり方、入院外精神科診療の状況などを明らかにする ために、調査、検討等を行った。 その結果、支給認定の状況については、今回の予備的な検討で、自治体間の差を示唆す る結果もみられ、今後も認定状況の継続的な把握により、課題をより明確化して行く必要 があると考えられた。「重度かつ継続」については「三年以上の精神医療の経験」及び「入 院によらない計画的かつ集中的な精神医療を継続的に要する」について自立支援医療制度 運営調査検討会等の議論の経過を踏まえて整理するとともに、地域事情への配慮の必要性 について述べた。自立支援医療の指定医療機関については、指定及び取り消しの適正な判 定指針を明確に示し、一定の指定自立支援医療機関の質を確保することが、適正な給付に 繋がるものと考えられた。自立支援医療の指定医療機関の診療報酬明細書審査については、 適正な給付がなされているかどうかを確認するうえでも大切であると考えられるが、その 実施に際しては、明確な審査基準の必要性や実務上の多くの課題があり、現時点では困難 性が高くそのあり方については引き続き慎重な検討が必要である。入院外精神科診療の状況については、昭和 61 年時点と比較して、平成 16 年時点での入院外診療点数は 5.4 倍に、 診療件数は 4.4 倍に増加していた。施設別の検討では、診療所における入院外診療は平成 15 年から 16 年にかけて著しく増大し、病院での診療点数、診療件数を凌駕するに至ってい た。また、疾患別の検討では、近年の気分障害にかかる診療点数と件数の伸びが顕著であ った。今後の自立支援医療費の適正な給付の実現には、入院外精神科診療の実態把握や自 立支援医療制度の運用にかかるモニタリング体制の整備が急がれる。 研究目的 平成 18 年 4 月、障害者自立支援法の施行に より自立支援医療(精神通院医療)が開始 されたが、これまでの検討経過の中で、1) 中間所得層について、再認定を認める場合 や拒否する場合の要件については、今後実 証的な研究結果に基づき、制度施行後概ね 1 年以内に明確にする、2)「重度かつ継続」 の範囲については、実証的な研究結果を踏 まえ、順次、対象の明確化を図る、3)「一 定所得以上」かつ「重度かつ継続」の者に 対する経過措置は、施行後 3 年を経た段階 で医療実態等を踏まえて見直す、とされた。 また、平成 17 年度の「自立支援医療の給 付のあり方に関する研究」結果を参考に検 討すると、①判定指針の明確化(精神病と 同等の病態をより具体的な表現とする)、② 「重度かつ継続」の判定基準の明確化(計 画的・集中的とは何か)、③診断書等の記載 マニュアルの作成(情報が不十分なため、 返戻する場合がある)、④合併症治療の範囲 (高脂血症、アレルギー、感冒等をはじめ さまざまな疾患が合併症とされる)、⑤精神 医療を担当する医師の要件(内科医等がう つ病を治療している場合等)、⑥「重度かつ 継続」の場合の医師の経歴確認方法(どこ まで求めるか)、⑦診療報酬明細書審査のあ り方、⑧指定医療機関の要件(内科医等の 精神科経験)、⑨手帳制度との関連性など、 多くの課題があげられた。 本研究では、平成 12 年度厚生科学研究 (厚生科学特別研究事業)「精神保健福祉法 第 32 条による通院医療費公費負担の増加 要因に関する研究」、平成 17 年度厚生労働 科学研究(厚生労働科学特別研究事業)「自 立支援医療の給付のあり方に関する研究」、 平成 17 年度自立支援医療制度運営調査検 討会などの結果を踏まえつつ、今後の自立 支援医療の適正な給付のあり方を明らかに することを目的とする。 平成 18 年度研究においては、「自立支援 医療における支給認定の状況調査」、「重度 かつ継続又は高額治療継続者に関する論点 整理」「自立支援医療における指定医療機関 の資格要件に関する検討」「診療報酬明細書 審査のあり方に関する聞き取り調査」「「社 会医療診療行為別調査報告」による入院外 精神科診療の状況」について、調査、検討 し、自立支援医療の現状把握と適正な給付 のあり方を示す上での課題を明らかにする ことを目的とした。 研究方法 1 自立支援医療における支給認定の状況 調査 平成 18 年 9 月 22 日付けで、「自立支援医 療の実施状況に関する緊急アンケート調査 へのご協力のお願い」として、47 都道府県 および 15 政令都市の精神保健福祉センタ ーに調査表を電子メールで送付し協力を依
平成 18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)
精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究
分担研究「自立支援医療(精神通院医療)の適正な給付に関する研究」
研究協力報告書(1)
自立支援医療における支給認定の状況調査
研究協力者 黒田 安計 (さいたま市こころの健康センター)
研究要旨 平成 18 年 4 月 1 日に自立支援医療費(精神通院医療)が施行されたが、新制度移行後 の重度かつ継続に関する判定基準や指定医療機関の資格要件など、各都道府県・政令指定都市で の実際の運用状況に関するアンケート調査を、全国の精神保健福祉センター(以下センター)を 対象に行った。さらに、平成 18 年 6 月 1 日現在の支給認定の状況について、平成 18 年 7 月に各 自治体が厚生労働省精神・障害保健課に報告した資料を再度集計し分析を行った。 都道府県 43 か所・政令市 14 か所からの回答の結果、①重度かつ継続の判定基準については、 ほとんどのセンターで国の基準のみで行われているが、一部では、国の基準をより明確にするた めにさらに具体的な基準を追加して運用をおこなっていた、 ②重度かつ継続の判定基準を改定 すべきであるという意見が約半数、現行のままでよいという回答が約 4 割あった、 ③中間所得 層に関しては、8 割以上のセンターが再認定すべきであると考えていた、 ④重度かつ継続の判 定医の資格確認は、7 割弱の自治体で自己申告のみとしていた、 ⑤重度かつ継続の判定医の資 格確認については、約半数(53%)で現行のままでよいと言う回答であった、 ⑥指定医療機関 については 9 割近い自治体で国の基準どおりに規定しているとの回答であった。回答を得た 57 自治体のうち実際に指定医療機関の申請却下を行った事例が 6 自治体から報告された。また自由 記載では、その内容は、①事務処理の量の多さと対応の煩雑さに関する意見。これには、上限管 理票の管理の問題、医療機関や薬局などの変更の問題、精神障害者保健福祉手帳と自立支援医療 の有効期限のズレに関するものなどがあった。②自立支援医療の対象者の範囲や申請する医師の 資格に関する意見とに大別された。さらには、重度かつ継続の認定や指定医療機関の指定につい て、より簡潔で明確なスタンダードを(例えばセンター長会で)作成し、全国的な統一性をはか ることが必要ではないかという意見もあった。 平成 18 年 6 月 1 日現在の各センターでの自立支援医療(精神通院医療)支給認定状況を解析した 結果、各センターでの支給認定件数の内訳には、センター間のばらつきの大きなものもみられた。 特に重度かつ継続に該当しない中間所得の各自治体全支給認定件数に対する日に関しては、最小 0%から最大 28.0%と大きな開きがみられた。 今回のアンケート調査によって、重度かつ継続の判定基準など自立支援医療(精神通院医療)の 実際の運用に関して、各自治体の抱えるさまざまな課題や意見が集約された。一方、支給認定状 況についての調査では、一部の結果に自治体間での差異が大きいと考えられるものもあった。し かしながら、今回の調査は法施行直後の短期間の資料を基にしたものであるため、今後、より長 期間の認定状況を把握し、今回の解析で得られた結果を追試することによって、支給認定の自治 体間格差に関する課題を整理し、将来的には一定の標準化を図る方向での議論や各自治体が取り組みうる具体的な方法についての検討が必要であると考えられる。 * 厚生労働省提出資料の検討は 57 自治体のまとめ、重度かつ継続かつ中間所得 1、2 は 56 自治体のまとめである A:研究目的 平成 18 年 4 月、障害者自立支援法の施行によ り自立支援医療(精神通院医療)が開始された が、これまでの検討過程の中で、1) 中間所得層 について、再認定を認める場合や拒否する場合 の要件については、今後実証的な研究結果に基 づき、制度施行以後概ね 1 年以内に明確にする、 2)「重度かつ継続」の範囲については、実証的 な研究結果を踏まえ、順次、対象の明確化を図 る、3)「一定所得以上」かつ「重度かつ継続」 の者に対する経過措置は、施行後 3 年を経た段 階で医療実態を踏まえて見直す、とされた。 今回、自立支援医療(精神通院医療)が開始 されて比較的間もない時期ではあるが、各自治 体での状況を確認するために全国の精神保健福 祉センターにアンケート調査を行った。さらに、 自立支援医療開始後約 2 か月間の数値を基に、 各自治体での自立支援医療(精神通院医療)の 支給認定の状況について、各自治体から厚生労 働省に提出された資料を再度集計し解析を試み、 現時点での問題点や課題を明らかにすることを 目的とした。 B:研究方法 平成 18 年 9 月 22 日付けで、「自立支援医療の 実施状況に関する緊急アンケート調査へのご協 力のお願い」として、47 都道府県および 15 政令 都市の精神保健福祉センター長会会員に調査表 (資料 2 参照)を電子メールで送付し協力を依 頼した。アンケート調査の設問 8 には、法施行 後平成 18 年 6 月 1 日現在の支給認定の状況につ いて、平成 18 年 7 月に各自治体が厚生労働省精 神・障害保健課に報告した資料の提供を依頼し、 再度集計し分析を行った。最終的に 58 のセンタ ーから回答を得た(回収率 93.5%)。設問 8 の 厚生労働省提出の資料については、数値に整合 性がないと考えられるものもみられたため、今 回は 57 センターのデータを基に検討を行った。 東京都のセンターについては 3 センターを代表 して、実際に自立支援医療の判定業務を行って いる精神保健福祉センターより回答を得た。 (倫理面への配慮) 回収されたデータは厳重に保管し、個別の自 治体名が特定されない形で本報告書を作成した。 自由記載による意見等については、回答者が特 定できないよう、必要に応じて文意が変わらな い程度に字句等の改変を行った。 C:研究結果 それぞれの設問に対する回答結果をまとめる と以下のようになった。 設問 1:重度かつ継続の判定基準について、国 基準どおりに規定しているか?(国の基準に 自治体独自の基準を追加して運用しているか 否か) 回答を得た 58 センターのうち、51 センター (88%)から「国基準どおり規定している」と いう回答を得た。「その他」の回答のうち 1 件は 概ね国基準に従っているものと思われる内容で あったため、実際は、約 90%が「国基準どおり に規定している」という回答であったと考えら れる。「国基準に追加して規定している」との回 答は 5 センターで、通院回数や薬物療法の有無、 病気の重症度などの項目を追加して判定を行っ ていた。