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114 Jpn. J. Clin. Immunol., 30 (2) 114~122 (2007) 2007 The Japan Society for Clinical Immunology 特集 Autoin ammatory syndrome の新たなる展開と治療法の確立総説 Muckle W

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1東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科,2東京 医科歯科大学薬害監視学

特集Autoin‰ammatory syndrome の新たなる展開と治療法の確立

総 説

MuckleWells 症候群の基礎と臨床

窪 田 哲 朗1,小 池 竜 司2

Biological and clinical aspects of MuckleWells syndrome

Tetsuo KUBOTA1and Ryuji KOIKE2

1Graduate School of Health Sciences, Tokyo Medical and Dental University 2Department of Pharmacovigilance, Tokyo Medical and Dental University

(Received February 1, 2007) summary

MuckleWells syndrome (MWS), as well as familial cold autoin‰ammatory syndrome (FCAS) and chronic infan-tile neurological cutaneous and articular syndrome (CINCA), arises from a missense mutation in the CIAS1 gene. Cur-rent progress of biology revealed that NALP3, a protein coded by theCIAS1 and expressed in monocytes, recognizes some bacterial products or harmful metabolites invaded in the cytoplasm, and forms in‰ammasome with other molec-ules. As a result, caspase1 is activated leading to cleavage of proIL1b and extracellular release of IL1b. NALP3 of patients with MWS can be spontaneously activated without obvious stimulation, which causes recurrent attacks of in-‰ammatory symptoms characterized by fever, urticarial rash, conjunctivitis and arthritis, and some patients develop amyloidosis. In addition, sensorineural hearing disturbance progresses gradually. Recently, signiˆcant e‹cacy of anakinra, a recombinant IL1 receptor antagonist, has been demonstrated in treatment of MWS. So far, only a few cases have been reported from Japan, however an accurate diagnosis has to be established for the latent cases who have not received optimum treatment before occurrence of irreversible deafness or renal failure.

Key words―MuckleWells syndrome; NALP3; autoin‰ammatory diseases; IL1; anakinra

抄 録

Muckle Wells 症 候 群( MWS) は ,家 族性 寒冷 自 己炎 症症 候群 ( FCAS )や 慢性 乳児 神 経皮 膚関 節症 候 群 (CINCA)と同様,CIAS1 遺伝子の変異によって発症する優性遺伝性疾患である.CIAS1 にコードされる NALP3 蛋白質は単球に強く発現しており,細胞内に侵入した微生物由来の抗原や有害な代謝産物を識別して活性化し,他 の分子群と会合して in‰ammasome を形成し,caspase1 を活性化する.これが proIL1b を切断して IL1b が細 胞外に放出され,一連の炎症反応が引き起こされる.MWS 患者の変異 NALP3 分子は,強い刺激がなくとも容易 に活性化してしまうために,発熱,蕁麻疹様皮疹,結膜炎,関節炎などの発作が頻繁に繰り返され,一部の症例は アミロイドーシスを来し,腎不全に至る.さらに,感音性難聴が徐々に進行することも特徴である.わが国ではこ れまでに数例しか報告されていないが,recombinant IL1 receptor antagonist (anakinra)の有効性が確認されてお り,診断未確定のまま適切な治療を受けられていない潜在的な症例も正しく診断して,難聴やアミロイドーシスな どの重篤な合併症を生じる前に適切に治療する必要がある. はじめに 自己炎症疾患(autoin‰ammatory diseases)は, 明らかな感染症や自己免疫疾患が存在しないにもか かわらず発熱および種々の炎症性病態の再燃,緩解 を繰り返す疾患を総称する概念で,遺伝性周期熱症

候群(hereditary periodic fever syndromes)と呼ば れてきた疾患の他,広義には Behçet 病や Crohn 病 などの原因不明の炎症性疾患も含まれる.通常,症 状は自然に軽快し,間欠期には軽減または消失する が,再燃を繰り返す.発作の間隔は不定で,毎週の ように再燃する例もあれば,年数回という例もあ る.家族性の明らかな場合もあるが,孤発例もあ り,多くは小児期に発症する. ここ数年,自己炎症疾患が注目を集めている.そ

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表 1 自己炎症疾患の原因変異の発見

発見年 疾患名 変異蛋白質 文献

1997 FMF pyrin 1, 2

1999 TRAPS TNFR1 3

1999 HIDS mevalonate kinase 4, 5

2001 FCAS NALP3 6

2001 MWS NALP3 6

2001 Blau 症候群 NOD2 7

2002 CINCA NALP3 8, 9

FMF: familial Mediterranean fever

TRAPS: TNF receptor1 associated periodic fever HIDS: hyperIgD syndrome

FCAS: familial cold autoin‰ammatory syndrome MWS: MuckleWells syndrome

CINCA: chronic infantile neurological cutaneous and articular syndrome

図 1 蝸牛の切断面の模式図.

の理由は 3 つあり,第一に 1997 年以降数年の間 に 家 族 性 地 中 海 熱 ( familial Mediterranean fever, FMF)を初めとして,表 1 に示すように原因とな る 遺 伝 子 異 常 が 相 次 い で 発 見 さ れ た こ と で あ る1~9).第二は,それらの遺伝子がコードする一連 の細胞内分子群が炎症のメカニズムの解明に画期的 な進展をもたらしていることである.最後に,生物 製剤を用いた分子標的療法の有効性が証明されつつ あることが挙げられる. 自己炎症疾患の概念に含まれる個々の疾患あるい は症候群については,専門家の間では数十年前から 知られていたものが多いが,筆者らの自験例のごと く(小池竜司,他:新規遺伝子変異が確認された MuckleWells 症候群の 1 例.第 51 回日本リウマチ 学会にて発表予定)成人になるまで診断未確定のま ま適切な治療を受けられずにいる例もかなり存在す るものと思われ,また稀には成人発症例も存在する ようなので10),小児科医のみならず成人の不明熱を 扱う医師も,本誌の特集を機会に知識を整理してお く 必 要 が あ る . 本 稿 で は Muckle Wells 症 候 群 (MWS)を中心に解説する. I. MWS の最初の記載 英 国 の 医 師 Muckle と Wells11) が , 蕁 麻 疹 , 難 聴,アミロイドーシスを 3 徴とする症候群を多発す る家系を報告したのは 1962 年のことであった.ま ず,彼らの記載している 4 症例について抜粋を紹介 する. 症例 1:初診時 55 歳の女性で小児期から難聴が 徐々に進行していた.思春期早期から,ひどい蕁麻 疹の発作を繰り返しており,強直,倦怠感,四肢の 痛みを伴った.貧血,赤沈亢進,蛋白尿を認め,鉄 剤と重曹を投与して経過をみていたが,やがて腎不 全にて死亡した.剖検では腎は正常の 4 分の 1 に萎 縮し,アミロイドが沈着していた.内耳(図 1)で はコルチ器や感覚上皮細胞が消失しており,蝸牛神 経は萎縮し,基底膜は石灰化していたが,アミロイ ドの沈着は認めなかった. 症例 2:37 歳男性,症例 1 の弟.20 年前から発 疹と手足の痛みを伴う発熱発作を繰り返しており, 発作時に好中球増加と赤沈亢進を確認されたことが ある.15 年前から難聴が進行,4 年前から蛋白尿と 高 g グロブリン血症を認めていた.強い心窩部痛に て入院し,入院中に急死.剖検にて冠状動脈の高度 の動脈硬化性狭窄を認めた.腎は萎縮し,腎,肝, 脾,睾丸にアミロイドの沈着を認めた.内耳ではコ ルチ器と感覚上皮は完全に消滅しており,蝸牛神経 は萎縮し,基底膜が石灰化していたが,アミロイド の沈着はみられなかった. 症例 3:53 歳女性,症例 1 の妹.9 歳時より進行 性の難聴,17 歳時より発熱発作があり,下腿の刺 すような痛みを伴った.暖かい気候の時は症状が強 かった.8 年前に左球後視神経炎にて 3 週間,視力 が低下したことがある.外来通院中であるが,抗ヒ スタミン剤や 1 日 10 mg の prednisolone は効果が ない. 症例 4:56 歳女性,症例 1 の妹.小児期から進行 性の難聴,思春期から皮疹,発熱の発作あり.緑内 障発作にて 35 歳時に右,43 歳時に左の虹彩切除術 を受けている.浮腫と膝の痛みにて来院.貧血,赤 沈亢進,蛋白尿を認め,鉄剤と重曹を投与していた が,約 1 年後に腎不全にて死亡した.剖検では腎の 著明な萎縮を認めたが,ミクロの検討はなされなか

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表 2 NALP3 関連症候群の主要症状 FCAS MWS CINCA 発熱 蕁麻疹様皮疹 結膜炎 関節痛 四肢痛 発熱 蕁麻疹様皮疹 結膜炎 関節炎 腹痛 感音性難聴 アミロイドーシス 発熱 蕁麻疹様皮疹 結膜炎,ぶどう膜炎 関節障害 無菌性髄膜炎 視神経乳頭浮腫 感音性難聴 特有の顔貌 成長障害 った. 彼らは,親族の調査も行って家系図を載せ,それ までに知られていない優性遺伝性疾患であるとして 報告した. II. NALP3 関連症候群の症状 2001 年に HoŠman ら6)は MWS と家族性寒冷自

己炎症症候群(familial cold autoin‰ammatory syn-drome, FCAS ; 家 族 性 寒 冷 蕁 麻 疹 , familial cold urticaria とも呼ばれるが必ずしも蕁麻疹を伴うとは 限らない)の原因がいずれも NALP3 (cryopyrin, PYPAF1, CIAS1 とも呼ばれる)という蛋白質を コードする遺伝子 CIAS1 (cold-induced autoin‰am-matory syndrome 1)の変異によることをつきとめ

た.さらに翌年 Feldmann ら8)は慢性乳児神経皮膚

関節症候群(chronic infantile neurological cutane-ous and articular syndrome, CINCA ; neonatal-onset multisystem in‰ammatory disease, NOMID とも呼ば れる)の原因遺伝子も CIAS1 であることを報告し た. これらの発見により FCAS, MWS, CINCA の 3 つは独立した別々の症候群ではなく,1 連のスペク トラムを構成するものであって,軽症型が FCAS, 重症型が CINCA,MWS が中間的なタイプである ととらえることもできる.実際,これらの中の 2 つ 以 上 の 特 徴 を あ わ せ も つ overlap 例 も み ら れ る12~14).表 2 に,この言わば NALP3 関連症候群 とでも呼ぶべき症候群の特徴的症状をまとめた.

ここで FCAS の症状に関して,Kile と Rusk15)

最初に記載した症例を紹介する. 症 例:25 歳女性.生来蕁麻疹に悩まされてい る.寒い時に短時間でも外に出ると 30 分から 1 時 間後には蕁麻疹が出現し,悪寒,発熱を伴って 4~ 6 時間続く.関節の硬直や周囲の紅斑を伴うことも あり,これは寒冷刺激が強かった際には 1~2 日間 続くこともあった.ときには頭痛を伴った.掻痒感 は乏しく,むしろ痛みや灼熱感があった. このような症状であったが,家族歴を詳細に調査 したところ 47 人の親族の中に同様の症状を呈する ものが,何と 23 人もいることが判明し,それまで に報告のない遺伝性疾患であるとして報告された. なお FCAS の「蕁麻疹」であるが,冷気,湿気, 温度変化で誘発される膨疹で,生検では真皮乳頭層 の血管周囲に少数の好中球を認めるに過ぎない場合 や,血管拡張と好中球,マクロファージの著明な浸 潤と少数の好酸球を認める場合があり,「蕁麻疹様 発疹」と呼ぶのが正しい16) MWS でも蕁麻疹様発疹を認めるが,誘因は寒冷 刺激のこともあるが不明のことも多い.発熱,結膜 炎,関節炎,腹痛などもよくみられ,これらの症状 は数日以内に自然に軽減するものの,頻繁に再燃 し,長年の経過のうちに 2030%の症例ではアミロ イドーシスを来す.さらに進行性の感音性難聴を伴 う.まれに,CINCA にみられるような視力低下を ともなう乳頭浮腫を来すこともある17).非典型的で あるが,皮膚硬化を来した例も報告されている18) また,NALP3 は好中球や単球の他,軟骨細胞にも 強い発現が認められ8),このためか低身長や鞍鼻を 認めることがある.発症年齢は様々である. CINCA は最も重症な病型で,出生直後から発症 し無菌性髄膜炎などの中枢神経症状を伴うが,詳細 は本特集の他稿を参照されたい. MWS と CINCA で感音性難聴をきたしやすい理 由 は 不 明 で あ る が , 最 近 の 論 文 に 造 影 MRI で CINCA における内耳の炎症を捉えた画像が提示さ れており19),何らかの理由でこの部位に炎症が生じ 易く,究極的には冒頭に紹介した MWS の剖検例 のようなことになってしまうものと考えられる. III. MWS の検査所見と診断 一般的な臨床検査では MWS に特異的な所見は ない.血算では好中球増多と軽度の貧血を認め,赤 沈は亢進し,血清学的には CRP やアミロイド A が 高値を示す.血清中の炎症性サイトカインは,検査 のタイミングによって高値のことも基準範囲内のこ ともある.できれば患者末梢血単球を培養して, IL1b の産生が異常に亢進していることを確認した い20).アミロイドーシスを呈していれば蛋白尿など

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図 2 NALP3 関連症候群(FCAS, MWS, CINCA)におい て報告されている主なアミノ酸変異と病型.ほとんど が CIAS1 の exon 3(アミノ酸の 133 番目から 715 番 目の領域)に認められる. を認める.感音性難聴については,自覚がない例で もオージオグラムでは異常を認める場合がある. 感染症や Behçet 病,Still 病,その他のリウマチ 性疾患,悪性腫瘍などを否定した後,病歴から本症 が疑われる場合には CIAS1 の変異を検索する.た だし,浸透率の低い変異の場合は既報の症例と同一 の変異を持っていながら発症しないこともあり12) 反対に臨床症状は MWS でありながら CIAS1 に変 異を認めない例もあるので10),本遺伝子の検討のみ で診断を確定できるわけではなく,臨床所見を大切 にしたい. CIAS1 に変異を認めない症例がある理由は,第 3 エクソン以外の部位にある稀な変異を見逃している 可能性や,他の遺伝子の変異によって同様の臨床像 を呈した可能性も考えられるが,実例は未だ知られ ていない21).家族歴の聴取も重要であるが,胎児期 に変異が起こったと考えられる孤発例が多い(de novo mutation). IV. NALP3 関連症候群の遺伝子変異 CIAS1 は第 1 染色体長腕第 44 領域(1q44)に存 在する.NALP3 関連症候群において報告されてい る CIAS1 の変異は多数あるが,ほとんどがエクソ ン 3,すなわち NACHT (NAIP, CⅡTA, HETE and Tp1)ドメインとその前後をコードする領域に あり,同一の変異が複数の症候群で報告されている こともある(図 2).CINCA では CIAS1 の第 3 エ クソン以外の部分に変異を認める例も見つかってい る21) 予測される NALP3 の立体構造は,Walker らの ノーベル化学賞受賞(1997 年)で注目を集めるよ うになった AAA ファミリー ATPase と類似した部 分を持っている22).上記の変異点をこの構造上に同 定してみると,ヌクレオチドの結合,加水分解,ポ リペプチド鎖の会合に関わると予測される領域に散 在しており,それぞれの変異が様々な程度にこの分 子の機能に影響をおよぼすものと推察できる. V. NALP3 分子の機能

Toll 様レセプター(Toll-like receptor, TLR)は 細胞外のロイシンが豊富な繰り返し構造(leucine-rich repeat, LRR ) で 病 原 体 由 来 の リ ポ 多 糖 (lipopolysaccharide, LPS),リポ蛋白質,ペプチド グリカン,リポテイコ酸,非メチル化 DNA,リポ アラビノマンナンなどの構造(pathogen-associated

molecular patterns, PAMPs と総称される)を認識 して自然免疫に重要な役割を果たしている.さらに 最近,ヒトゲノムの解読に伴い LRR をもつ分子が 細胞質にもたくさん存在することが発見された.そ れらは NLR (NACHTLRR)ファミリー,遺伝子 は CATERPILLER [CARD, transcription enhancer, R(purine)-binding, pyrin, lots of leucine repeats] 遺 伝 子 フ ァ ミ リ ー な ど と 呼 ば れ , NALP, NOD, IPAF, CⅡTA などのサブファミリーに分けられて

いる(表 3)23~25)

最も大きい NALP (NACHT leucine-rich domain and pyrin-containing protein)サブファミリーは 14

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表 3 NLR ファミリー のメンバーから構成されるが,それらの構造上の特 徴は N 末端に pyrin ドメイン(PYD),中央部に NACHT ドメイン,C 末端側に LRR を有すること である.PYD は,家族性地中海熱で変異の認めら れる pyrin にホモロジーを示す.また,NLR ファ

ミリーに属する NOD2 の変異は Crohn 病26)や Blau

症候群7)といった炎症性疾患の感受性に関わってい ることが知られ,これらの分子群が炎症の調節に重 要な役割を果たしていることを示唆している. これらの分子の機能に関する基礎研究も急速に進 展している.自然免疫の発動に際して単球,マクロ ファージから真っ先に産生される炎症性サイトカイ ン IL 1b の 分 泌 に は , 細 胞 内 の pro IL 1b が caspase1 により切断されることが必要である.そ の caspase1 の活性化には NLR ファミリー蛋白質 と,ASC (apoptosis-associated speck-like protein),

Cardinal な ど の ア ダ プ タ ー 蛋 白 質 , そ れ に pro-caspase1 などからなる巨大な蛋白質複合体が形成 されることが必要で,Martinon ら20,27)はこれを in-‰ammasome と命名した. 最近,NALP3 を含む in‰ammasome が様々な炎 症反応を惹起するメカニズムに関する論文が Na-ture に同時に 3 編発表されたので紹介する. (1) Mariathasan ら28)は NALP3 ノックアウトマ ウスのマクロファージを種々の抗原で刺激して, IL1b が産生されるか否かを検討した.その結果, Listeria monocytogenes や Staphylococcus aureus の 刺激に際しては NALP3 の存在が必須であるが, Salmonella typhimurium や Francisella tularensis の 刺激に対しては,NALP3 を欠損していても IL1b が分泌された(図 3).すなわち,NALP3 による in‰ammasome の活性化には抗原選択性があること

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図 3 種々の刺激による NALP3 in‰ammasome の活性化. 単球がある種の細菌,細菌の RNA,尿酸結晶などの 代謝産物によって刺激されると NALP3 in‰ammasome が形成され,caspase1 が活性化して,IL1b が分泌 される. 図 4 NALP3 分子の活性化.NALP3 は平常時は折り畳まれ た不活性型の構造をとっているが,LRR ドメインで 細菌由来の抗原構造(PAMPs)などを認識すると活 性型になり,ASC, Cardinal などを介して caspase1 と会合し,in‰ammasome を形成する.NALP3 関連症 候群では NACHT ドメイン付近の変異のために,不活 性型の構造をとることができない. が明らかにされた. (2) Kanneganti ら29)も NALP3 ノックアウトマ ウスを作製して以下のような結果を得た.すなわ ち,大腸菌の RNA で wild type マクロファージを 刺激すると IL1b が分泌されたが,NALP3 ノック アウトマクロファージでは分泌されなかった(図 3).大腸菌,L. monocytogenes, Legionella pneu-mophila の RNA はすみやかに wild type マクロフ ァージの caspase1 を活性化したが,NALP3 ノッ ク ア ウ ト マ ウ ス や ASC ノ ッ ク ア ウ ト マ ウ ス の caspase1 は活性化されなかった.マウスの RNA では,いずれのマクロファージの caspase1 も活性 化されなかった. これらの結果は,細菌の貪食や,溶菌した菌から エンドサイトーシスで運ばれてくる細菌の RNA と,哺乳類の RNA との違いが,NALP3 の LRR ドメインによって識別されていることを示唆してい る.ヌクレオシドの修飾や polyAtail の違いが認 識されているものと思われる. (3) Martinon ら30)は,痛風の原因となる尿酸ナ

トリウムの結晶(monosodium urate, MSU)や偽 痛 風 の 原 因 と な る ピ ロ リ ン 酸 カ ル シ ウ ム の 結 晶 (calcium pyrophosphate dihydrate, CPPD)が, NALP3 in‰ammasome を活性化して IL1b を放出 させることを証明した(図 3).対照として用いた アロプリノールやダイヤモンドの結晶,ザイモサ ン,アルミニウム末などの粒子では caspase1 の活 性化は誘導されず,エンドサイトーシスによって細 胞内に侵入した結晶を,NALP3 が危険なものと無 害なものとに分けて認識していることが示唆され た.また,MSU や CPPD は TNFa などの caspase 1 非依存性のサイトカインの産生も引き起こす.し かし,TNFa の産生は,IL1b よりやや遅れる傾向 がみられ,また IL1 receptor antagonist によって 抑制されたことから,IL1b の産生は炎症のカス ケードにおいて TNFa 産生より上流に位置するも のと考えられた.これらの結果は,自己炎症疾患に IL1 receptor antagonist が著効を示す理由を良く 説明している. VI. MWS の治療 MWS や CINCA 患者末梢血中の単球を 24 時間 程培養すると,無刺激でも培地中に放出される IL 1b を検出することができる20,31).また,単球系細 胞 株 に MWS 患 者 の 変 異 CIAS1 を 発 現 さ せ る と IL1b の産生が亢進する32).これらの結果は,上記 のような変異が NALP3 の機能を異常に亢進させて しまっていることを示している. このメカニズムとして図 4 に示すような仮説が提 唱されている33).すなわち,平常時には NALP3 は 折り畳まれた非活性型構造をとっているが,細菌由 来の抗原(PAMPs)などが LRR に結合すると活 性型になり,ASC, Cardinal, caspase1 と会合して in‰ammasome が形成され,caspase1 が活性化す る.しかし,変異 NALP3 では非活性型構造をとる ことができず,強い抗原刺激がなくとも容易に IL 1b が産生され,IL1b はさらに TNFa や IL6 な ど,他の炎症性サイトカインの産生をもたらす.し たがって,治療戦略としては過剰に産生されている

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IL1b の作用を阻害することが有効と考えられる. MWS の症例報告をみると,非ステロイド消炎鎮

痛剤,azathioprine, mycophenolate mofetil,

dapsone,抗ヒスタミン剤,抗 TNFa

抗体(in‰ix-imab)などは無効とされている34).家族性地中海

熱に著効する colchicine も MWS には効かない.副 腎皮質ステロイド剤は,大量では有効であるが少量 で寛解維持することはできず,組換え IL1 recep-tor antagonist の anakinra が今のところ唯一の特効 薬となっている. Anakinra は関節リウマチ(RA)の治療薬として 欧米 20 カ国で承認されている生物製剤である35) RA に対する効果は TNF 阻害剤に比べてやや弱い が,MWS には著効を示す.RA に対する投与量と 同じ 100 mg/日にて 1 日以内に炎症症状が軽減し, 血清アミロイド A 値も 2 日で正常化したとの報告 がある34).さらに特記すべきことは,難聴も改善す る例がみられることである.Mirault ら36)の報告し た症例は 8 歳時に関節痛と蕁麻疹様皮疹で発症,感 音性難聴は 12 歳時に指摘され,その後徐々に進行 し て い た . 22 歳 時 に MWS と 診 断 さ れ anakinra 100 mg/日の投与を受けたところ,3 ヶ月後には補 聴器をはずすことができるようになったという. Rynne ら10)も病歴 15 年の 59 歳の女性に anakinra を投与し聴力の回復をみている.経過の長い難聴で あっても回復する例があるという事実は,今後治療 を受ける患者を勇気づける.しかし,難聴に関して は無効であったという報告もあり13),内耳の不可逆 的な破壊を来しているか否かで予後が分かれるよう である. また,発熱,蕁麻疹様皮疹とともに急性の視力低 下,視神経乳頭浮腫を認めた稀な症例で,ステロイ ド 剤 の 大 量 投 与 と 血 漿 交 換 は 無 効 で あ っ た が , anakinra で視力の回復をみたという報告がある17)

なお ,anakinra は FCAS37) や CINCA19)に対 し

ても有効である. お わ り に CINCA は重症であるがために早期に診断される ことが多いのであろうが,MWS はともすると長年 にわたって診断未確定のまま follow されている場 合もある.MWS は本邦では未だ数例の報告がある のみであるが38~40),生物製剤の使用が可能となっ た今,難聴やアミロイドーシスなどの重篤な病態を 発症する前に診断し,治療しなければならない.現 状では anakinra が唯一の特効薬であるが,サイト カイン産生の分子機構の解明にともなって,より有 効かつ投与し易い薬剤が開発されることが望まれる. 謝 辞 図表は本学大学院保健衛生学研究科の学生,橋本 里枝子さんが作製してくれました. 文 献

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(8)

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図 1 蝸牛の切断面の模式図.
表 2 NALP3 関連症候群の主要症状 FCAS MWS CINCA 発熱 蕁麻疹様皮疹 結膜炎 関節痛 四肢痛 発熱 蕁麻疹様皮疹結膜炎関節炎腹痛 感音性難聴 アミロイドーシス 発熱 蕁麻疹様皮疹 結膜炎,ぶどう膜炎関節障害無菌性髄膜炎視神経乳頭浮腫感音性難聴 特有の顔貌 成長障害った.彼らは,親族の調査も行って家系図を載せ,それまでに知られていない優性遺伝性疾患であるとして報告した.II.NALP3 関連症候群の症状2001 年に HoŠman ら6)は MWS と家族性寒冷自己炎症症候群(famil
図 2 NALP3 関連症候群(FCAS, MWS, CINCA)におい て報告されている主なアミノ酸変異と病型.ほとんど が CIAS1 の exon 3(アミノ酸の 133 番目から 715 番 目の領域)に認められる.を認める.感音性難聴については,自覚がない例でもオージオグラムでは異常を認める場合がある.感染症や Behçet 病,Still 病,その他のリウマチ性疾患,悪性腫瘍などを否定した後,病歴から本症が疑われる場合には CIAS1 の変異を検索する.ただし,浸透率の低い変異の場合は既報の症例
表 3 NLR ファミリー のメンバーから構成されるが,それらの構造上の特 徴は N 末端に pyrin ドメイン(PYD),中央部に NACHT ドメイン,C 末端側に LRR を有すること である.PYD は,家族性地中海熱で変異の認めら れる pyrin にホモロジーを示す.また,NLR ファ ミリーに属する NOD2 の変異は Crohn 病 26) や Blau 症候群 7) といった炎症性疾患の感受性に関わってい ることが知られ,これらの分子群が炎症の調節に重 要な役割を果たしていることを示唆し
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参照

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