18.租税入門
18.1 租税原則
<アダム・スミスの4原則>
1)公平性の原則 税負担は各人の政府から受けた便益あるいは負担能力に応じて支払うべき。
2)明確性の原則 税率・課税標準などが明確で恣意的であってはならない(租税法律主義)。
3)便宜性の原則 納税の時期と方法は納税者の便宜に沿うようにすべき。
4)最小徴税費の原則 「納税費用+税務行政費」を最小化すべき。
<課税原則>
1)公平性 明確な課税標準の下での税負担の配分が公平でなければならない。
2)中立性(効率性) 超過負担(=厚生損失、死荷重)が発生しないようにする。
3)簡素(公正性) 税制の仕組を簡素にして、納税者に理解し易く、財務行政を非恣意的にする。
<公正性(fairness)に関する法律論的な論点整理>
公正な税額=明確な認識・測定の基準に基づいて確定された税額
公正な租税制度
=誰もが恣意的に変更することができない明確なルールに基づき課税される制度
租税法律主義=租税法に基づき税額を決定するという考え方
① 実体法分野=課税要件などを規制
② 手続法分野=適正な賦課徴収手続きと租税争訟における公正な裁判
課税要件法定主義=課税要件の全てと租税の賦課徴収手続きは、
法律によって定めなければならないという考え方
課税要件明確主義
=①課税庁の自由裁量の余地を認めない、②納税者が課税要件とは何かを明確に判断でき
て適切な納税予測ができる、ようにするために課税要件は明確でなければならないとす
る考え方
納税過程の公正、簡素
1) 納税過程とタックス・コンプライアンス
(税制への信頼と納税過程を通じた法令遵守)
2) 適正な執行の確保等
18.2 公平性(Equity)
応能原則、能力説(ability to pay principle)
=租税を負担する能力の大きさに応じて租税を負担するべきである。
(例)所得税1(国税)、法人税(=配当課税の源泉徴収)
応益原則、利益説(benefit principle)
=政府活動から受ける便益の大きさに応じて租税(料金)を負担すべきである。
(例)住民税、事業税、高速道路の通行料金
(問題18-1)個人 A と個人 B がある市に住んでおり、その市役所は都市公園を整備する事
業だけをおこなっているとする。個人A は都市公園の近くに住んでいて所得水準
は低いのに対して、個人B は都市公園から遠くに住んでいて所得水準は高い。こ
のとき、その市の活動の費用(市民税)を個人A、個人 B どちらが多く負担すべ
きかを、応能原則と応益原則の立場から検討しなさい。
課税標準(tax base)=課税客体を数量化したもの(指標)
税額=課税標準×税率2
(問題18-2)健康で体力もある個人 A と病弱で体力も無い個人 B では、租税負担能力の大
きいのはどちらの個人であろうか。また、健康状態や体力を課税標準とする場合
の問題点について検討するとともに、所得を課税標準として採用することで健康
状態や体力などを間接的に捉えることができるとする考え方について検討しなさ
い。
(問題18-3)ビジネスに成功したが質素な生活をしていた人が 100 億円の遺産を子供に遺
して亡くなったとする。そのとき、次の2つのケースを考えてみよう。
ケース1:子供は全く働かずに父親の遺してくれた遺産から毎年 1 億円を使って
贅沢な生活をしている。
ケース2:子供は全く働かずに父親の残してくれた遺産から毎年200 万円を使っ
て質素な生活をしている。
これらのケースを参考にして、所得税、相続税、消費税の果たす機能について応
能原則の観点から検討しなさい。
水平的公平(horizontal equity)=課税標準が同一の主体は同額の税を負担
垂直的公平(vertical equity)
=課税標準の大きい経済主体がどれだけ多く税を負担すべきか
1 「所得」の定義に関しては 18.3 節で検討する。
2 厳密には、税額は課税標準の増加関数である。
18.3 包括的所得と消費
担税力を測る指標としての「包括的所得」をサイモンズは以下のように定義している。
0
W =期首の資産額
0
W
=期首に保有していた資産のキャピタル・ゲイン(マイナスならキャピタル・ロス)
1
W =期末の資産額(含む資産の新規購入額)
F
Y =その期の要素所得(給与所得、利子所得など)
C=その期の消費額(=消費支出額)
⇒
C
W1
YF
W0
W0 (18-1)
Y =(ある期の)包括的所得(comprehensive income)
=期末の資産額
W1を期首の資産額
W0以上に保ちながら可能な消費額の最大値
(問題 18-4)
W1が
W0以上であるときに、消費
Cが満たすべき不等式を(18-1)より求める
ことで、サイモンズの定義による包括的所得
Y が次のように表わせることを示し
なさい。
Y
YF
W0 (18-2)
現在の日本では、包括的所得に基づく総合課税と分離課税とが並存している3
。
18.4 消費税と支出税
0
1
W
W
W
;その期の資産額の増分
とおけば、(18-1)、(18-2)より、包括的所得は次のように表すことができる。
Y
C
W (18-3)
「消費税(consumption tax)」=消費(支出)
Cを課税ベースとする間接税
「支出税(expenditure tax)」=消費(支出)
Cを課税ベースとする直接税
「間接税」=納税義務者と税金を実質的に負担する(が帰着する)経済主体が異なる税4
「直接税」=納税義務者と税金を実質的に負担する(が帰着する)経済主体が同一の税
(問題18-5)所得税は間接税と直接税のどちらであると考えられるかを説明しなさい。
(問題 18-6)一年間の消費(支出)額
Cを税務当局が直接補足することの実務的な困難性に
ついて検討しなさい。また、個人の 1 年間の貯蓄がプラスであるときには、どの
ような方法で消費支出額を間接的に捉えることができるかを検討しなさい。
3
総合課税の対象所得は、給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、一時所得、雑所得、土
地・建物の譲渡所得である。また、分離課税の対象所得は利子所得、山林所得、退職所得、土
地・建物以外の譲渡所得である。
4
「帰着」については第 22 章で詳しく説明する。
18.5 所得税と累進性
所得
Y に対応する所得税額を
T
Yとおけば、平均所得税率は
T
Y /
Y
である5。
累進所得税制度=所得
Y の増加とともに平均所得税率
T
Y /
Y
が増加する所得税
逆進所得税制度=所得
Y の増加とともに平均所得税率
T
Y /
Y
が減少する所得税
比例所得税制度=所得
Y が増加しても平均所得税率
T
Y /
Y
が変化しない所得税
(所得
Y における)限界所得税率=所得が
Yから1 単位に増加するときの所得税額の増分
超過累進所得税制度=所得
Yが増加するときに限界税率が減少しない累進所得税制度6
所得控除額を
Yˆ
とすれば、線形所得税制度は
)
ˆ
(
Y
Y
t
T
Y
Y
(18-4)
と表すことができる。なお、
Y
Y
ˆ
は課税所得、
t
Yは限界所得税率である(
t
Y
0
)。
(問題 18-7)線形所得税制度が累進、逆進、比例所得税制となるのは
Yˆ
がどのような条件
を満たすときか。
超過累進所得税制度のなかの
)
(
ˆ
)
ˆ
(
ˆ
0
Y
T
Y
Y
if
Y
Y
t
Y
Y
if
T
Y
Y
Y
(18-5)
という特殊ケース(部分的線形所得税制度)について考えてみよう(
Y
ˆ
0
)。
(18-5)のもとで、野球選手(=個人 B)とサラリーマン(=個人 S)のように所得を得る時
期の集中度に差がある場合に、単年度主義の所得税が公平性の観点からどのような問題を
もたらす可能性があるかを検討しよう。なお、単純化のため個人の生涯が 2 年間であり、
利子率はゼロであるとする。
i
t
Y
=個人i のt年目の所得(
i
B,
S
;
t
=1,2)
)
(
ti
Y Y
T
=個人i のt年目の所得税額(
i
B,
S
;
t
=1,2)
(問題 18-8)個人 i の所得
i
t
Y
が次の表で与えられているとする。このとき、(18-5)の非線
形所得税制度のもとで
t
Y=0.4、
Yˆ
=500 のときの個人 i の所得税額
T
Y(
Y
ti)
を求
めなさい。また、両者の2年間の所得総額と課税総額との関係を比較することで
公平性について検討しなさい。
t
Y
tB T
Y(
Y
tB)
Y
tS T
Y(
Y
tS)
1 2000 1000
2 0 1000
合計
5
給与所得者に関する所得税の実効税率とは所得税/給与収入である。また、給与所得とは給与
収入から必要経費を控除したものである。
6
文献によっては、「超過累進的」である場合のみを「累進的」と定義している場合もある。
18.6 平均化所得税としての支出税(消費税)
i
i
Y
Y
1
2=生涯所得 (← 生涯=2 年間)
2
2
1
i
i
i Y
Y
Y
:個人i の平均所得(=恒常所得)[
i
B,
S
] (←利子率=ゼロ)
i
i
t Y
Y
=個人i の t 期の変動所得
(問題 18-9)担税力(=租税を負担する能力)を捉える指標(=課税標準)として、単年
度の所得
i
t
Y
と生涯所得
i i
Y
Y
1
2(あるいは恒常所得
i
Y
)のどちらが望ましいかを
公平性の観点から検討しなさい。
(消費)支出
C
に対応する支出税額を
T
Cとおいて非線形支出税制度(部分的線形支出税制度)
のなかの
)
(
ˆ
)
ˆ
(
ˆ
0
C
T
C
C
if
C
C
t
C
C
if
T
C
C
C
(18-6)
という特殊ケースについて考えよう。なお、
t
Cは限界支出税率である(
t
C
0
)。
c
=限界消費(支出)性向
i
t
C
=個人i の t 年目の消費支出額(支出税込み)
i
i
t c
Y
C
:個人i の消費支出関数(←「恒常所得仮説」)
(問題18-10)個人 i の所得
i
t
Y
は問題18-8 で与えられているものであるとする。そのとき、
個人i の平均所得
i
Y
を求めなさい。また、
c
=1 のときの個人 i の消費支出額
i
t
C
を
求めなさい。さらに、支出税制度が(18-6)のもとで
t
C=0.4、
Cˆ
=500 のときの個
人i の支出税額
T
C(
C
ti)
を求めなさい。
t
B
t
Y
C
tB T
C(
C
tB)
Y
tS C
tS T
C(
C
tS)
1 2000 1000
2 0 1000
合計
(問題18-11)問題 18-10 の例を参考にして、平均化所得税としての支出税という考え方に
ついて説明しなさい。また、問題18-8 と問題 18-10 を比較することで平均化所得
税としての支出税の優れている点について検討しなさい。
(問題18-12)問題 18-10 で考えた支出税と同様の効果が、税率 25%の(比例税である)
消費税でも得られることを示しなさい。