• 検索結果がありません。

症例報告 透析会誌 : ,2010 ファブリー病透析患者における酵素補充療法の治療効果と, アガルシダーゼアルファの体内動態について 岡田寺柿根来 1 志緒子 1 政和 4 伸夫 稲荷場ひろみ 1 1 岡村幹夫 4 葭山稔 1 崔吉永 2 吉本充 河野 1 仁美 田中 あけみ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "症例報告 透析会誌 : ,2010 ファブリー病透析患者における酵素補充療法の治療効果と, アガルシダーゼアルファの体内動態について 岡田寺柿根来 1 志緒子 1 政和 4 伸夫 稲荷場ひろみ 1 1 岡村幹夫 4 葭山稔 1 崔吉永 2 吉本充 河野 1 仁美 田中 あけみ"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Effects of enzyme replacement therapy on a Fabry disease patient

re-ceiving hemodialysis:Pharmacokinetics of agalsidase alpha in a

hemo-dialysis patient

Shioko Okada

1

, Hiromi Inariba

1

, Yoshinori Sai

1

, Hitomi Kawano

1

, Masakazu Teragaki

1

,

Mikio Okamura

1

, Mitsuru Yoshimoto

2

, Akemi Tanaka

3

, Nobuo Negoro

4

and Minoru Yoshiyama

4

Department of Internal Medicine, Ohno Memorial Hospital1;Department of Urology, Ohno Memorial Hospital2

Department of Pediatrics, Osaka City University Graduate School of Medicine3;Department of Cardiology, Osaka

City University Graduate School of Medicine4

Key words:Fabry disease, agalsidase, enzyme replacement therapy, hemodialysis 〈Abstract〉

Fabry disease is an X-linked inherited lysosomal storage disease caused by deficiency of a-galactosidase A (AGA). Enzyme-replacement therapy(ERT)has been used to treat Fabry disease. Two preparations of a-galactosidase A, agalsidase a(Replagal®)and agalsidase b(Fabrazyme®), are available. Agalsidase b can be administered during hemodialysis without any decrease in efficacy, but there are no data on the efficacy of agalsidase a administration during hemodialysis. We investigated the pharmacokinetics of an agalsidase a preparation by assessing the AGA activity in the plasma.[Case]The patient was a 46-year-old man who showed cerebral infarction and was diagnosed with Fabry disease at the age of 26 years. His renal function diminished, and hemodialysis was started in August 2006. In November 2006, ERT with agalsidase b was initiated;however,

岡田 志緒子 大野記念病院内科 〒 550-0015 大阪市西区南堀江 1-26-10

Shioko Okada Tel:06-6531-1815 Fax:06-6536-6390 E-mail:[email protected] 〔受付日:2010 年 3 月 19 日,受理日:2010 年 7 月 15 日〕 ファブリー病に対して酵素補充療法(ERT)が実用化され,アガルシダーゼアルファ,アガルシダーゼベータの 2 剤が使用可能である.しかし,透析患者に対してのデータは少ない.特に,アガルシダーゼアルファに関しては血 液透析(HD)中投与のデータがないため,HD 中投与の可否につき薬物動態の検討を行った.【症例】46 歳,男性. 26 歳時に脳梗塞を発症し,ファブリー病と診断.平成 18 年 7 月に血液透析導入,11 月よりアガルシダーゼベータ による ERT を開始したが,投与関連反応高度のため,平成 19 年 4 月よりアガルシダーゼアルファに薬剤を変更. 疼痛発作,発汗障害,下痢などの自覚症状は ERT 開始後 1 年程度で改善し,心機能の悪化も認めていない.本例に 対し HD 中,非 HD 中に ERT を行い,薬物動態を検討したが,HD 中投与と非 HD 中投与で,血漿中の酵素活性に 差は認めなかった.【まとめ】アガルシダーゼアルファはベータと同様に HD 中に投与可能である.また,ERT に より,症状の改善のみならず,心機能維持効果が示唆された.透析患者に対しても,ERT の継続は重要であり,ベー タとアルファでの臨床効果の差は認められず,ベータが投与困難な症例に対しアルファへ変更し投与を継続するこ とは効果的であると思われる. 〈要旨〉 キーワード:

岡田 志緒子

1

稲荷場ひろみ

1

吉 永

1

河 野 仁 美

1

寺 柿 政 和

1

岡 村 幹 夫

1

吉 本

2

田中 あけみ

3

根 来 伸 夫

4

葭 山

4 大野記念病院内科1 大野記念病院泌尿器科2 大阪市立大学医学部大学院発達小児科学3 大阪市立大学医学部大学院循環器病態内科学4

ファブリー病透析患者における酵素補充療法の治療効果と,

アガルシダーゼアルファの体内動態について

症例報告

ファブリー病,アガルシダーゼ,酵素補充療法,血液透析

(2)

はじめに

体内で産生される高分子化合物を分解,消化する働 きを担う,リソソームには数十種類の酸性加水分解酵 素,いわゆるリソソーム酵素が存在し,それらの酵素 の遺伝的な障害症をリソソーム病と総称している.リ ソソーム病は長く治療法がなく,予後不良な疾患で あった.しかし,近年,遺伝子組み換え技術の発展に 伴い,酵素製剤の作成が可能となり,ゴーシェ病やファ ブリー病などの一部のリソソーム病に対しては,酵素 補充療法(ERT)が実用化され,治療可能な疾患へと 変貌した.本邦でも酵素製剤の認可を契機に,リソ ソーム病が特定疾患に指定され,ERT を受ける症例 が増加している1) ファブリー病はリソソーム酵素の中でもアルファ-ガラクトシダーゼ A(AGA)活性の低下もしくは欠損 によって生じる.リソソーム病の多くが幼少時より重 篤な症状を呈するのに対し,ファブリー病は 10 歳前 後から疼痛発作の訴えが始まり,成人になって,若年 性脳梗塞,タンパク尿,腎不全,心不全といった臓器 障害を発現し2,3),自然経過では 40 歳前後で末期腎不 全となる.また,AGA の残存酵素活性がある場合は, 典型的な皮膚症状などを欠き,腎不全や肥大型心筋症 のみを呈する腎ファブリー,心ファブリーと称される. ERT の実用化に伴い,世界各国で透析患者のスクリー ニング検査が行われた結果,透析患者の中から,腎ファ ブリーが発見されている.その頻度は透析患者の 0.3〜1%とも報告されており4〜9),稀な疾患ではある が,リソソーム病の中では頻度が高い.われわれは原 疾患不明の腎不全患者を診たときには,ファブリー病 も念頭に置くべきである. リソソーム病の中でも症例数が比較的多いファブ リー病は,酵素製剤が 2 種類開発され,現在,アガル シダーゼベータ(ファブラザイム®)とアガルシダーゼ アルファ(リプレガル®)の 2 剤が使用可能である.こ の 2 者はともに遺伝子組み換えによって作成されてい るが,アガルシダーゼベータはチャイニーズハムス ター卵母細胞に遺伝子を発現させているのに対し,ア ガルシダーゼアルファは培養人線維芽細胞を用いてい る.このため,この 2 剤は糖鎖が異なり,アガルシダー ゼアルファは人型の糖鎖をもち,投与量がアガルシ / ダーゼベータの 1.0 mg/kg の 5 分の 1 である 0.2 / mg/kg に設定されている. ファブリー病の ERT は 2000 年から始まり,症例の 蓄積により,ERT による予後改善効果は明らかとなっ たが,実際に ERT を施行する際は,投与関連反応に 対する注意が重要である.投与関連反応とは,欠損し ているたんぱく質を投与することによって抗体が産生 されておこる,アレルギー反応である.ERT に伴う 投与関連反応では経静脈的に薬剤が投与されるため, 抗原となる酵素が最初に接する抗原提示細胞は組織球 である.このため IgG 関連反応がおこり,発熱,疼痛 などの症状を呈する.IgE 関連のアナフィラキシーが おこることは少ないとされる10).投与関連反応の強さ は時間当たりの酵素投与量によって規定されているた め10),ERT 施行時は投与速度に留意することが非常に 重要である.添付文書上もアガルシダーゼベータは / 0.25 mg/min の速度より投与を開始し,投与関連反応 / がない場合 0.5 mg/min まで速度を上げることが可能 と記載されている.このため,ERT に要する時間は, アガルシダーゼベータでは 2〜4 時間,アガルシダー ゼアルファでは 40 分であるが,いったん投与関連反 応がおこった場合には,さらに投与時間を延長する必 要があり,減量投与を余儀なくされる場合もある.血 液透析(HD)患者は週 3 回,1 回 4 時間の HD 療法に 通院しており,これに加えて ERT のために通院する ことは患者の時間的負担も大きい.アガルシダーゼ ベータには HD 中投与によって,酵素活性の低下は認 められないとの報告があり11),HD 中に投与すること が一般的になっている.しかし,アガルシダーゼアル ファについては HD 中投与について検討した報告は ない. 今回われわれは維持 HD 施行中のファブリー病症 例に対し,アガルシダーゼアルファによる ERT を行 い,その体内動態を測定し,透析中同時投与の是非を 検討する機会を得た.ERT の臨床効果と合わせ報告 する.

because of an infusion reaction, the therapeutic agent was changed to agalsidase a in April 2007. We measured AGA activity in plasma when the patient was receiving agalsidase a intravenously;these assessments were serially performed during hemodialysis and again during the interval between dialysis sessions. There was no difference between AGA activity during hemodialysis and that during the interval between sessions.[Discussion] There was no reduction in the agalsidase a activity in the patientʼs plasma during hemodialysis. The 2 preparations showed equal efficacy as ERT for hemodialysis patients with Fabry disease. The clinical course of our case demonstrated the importance of continuing ERT in patients undergoing hemodialysis.

(3)

Ⅰ.症

症例 1:46 歳,男性. 現病歴:26 歳で脳梗塞を発症し,その際,四肢の疼 痛,発汗障害の自覚症状,腎機能障害を伴っていたこ とから,ファブリー病が疑われ,大阪市立大学医学部 附属病院に紹介となり,皮膚生検の電子顕微鏡所見で のゼブラ体と白血球中の AGA 活性の低下を認め,診 断に至った.皮膚生検検体を用いた遺伝子診断の結 果,古典型ファブリー病で認められる遺伝子変異 R301X(CGA→TGA)が検出された.その後,脳梗塞 後遺症と発作性心房細動に対して他院で加療を受けて いたが,腎障害が進行したため透析目的にて当院に紹 介転院となった.平成 18 年 7 月(46 歳)より HD を 導入.同年 11 月よりアガルシダーゼベータによる ERT を開始した. 家族歴:母方の叔母が,脳梗塞,実母が心疾患(詳 細不明).腎不全の家族歴はない. / 現症:身長 170 cm,体重 62.3 kg,血圧 130/60,顔 面下Øに浮腫著明.胸腹部には異常を認めない.左半 身麻痺を認める.皮角血管腫は認めない. ERT 開始前の検査結果を表 1 に示す. / ERT はアガルシダーゼベータを 0.23 mg/min の速 度で開始し,5 回目まで副作用なく施行可能であった. 6 回目の ERT 施行時に全身の疼痛,悪寒の訴えがあっ た.疼痛の訴えは非常に強く,投与関連反応と考え, いったん投与を中断したところ改善傾向となったた / め,0.06 mg/min の速度から再開し,徐々に投与速度 / を上げたところ,0.12 mg/min の速度の際に軽度の投 与関連反応が出現した.このため翌 7 回目からはプレ / ドニゾロンの前投薬下に総投与量を 0.5 mg/kg に減 / 量し,0.12 mg/min の速度で施行し,投与関連反応は 自制内であった.しかし患者は不安を強く訴え,前投 / 薬のステロイドの減量や,総投与量を 1.0 mg/kg へ 増量することが困難であったため,平成 19 年 4 月よ りアガルシダーゼベータからアガルシダーゼアルファ へ薬剤を変更した. 本症例においてはアガルシダーゼベータでの投与関 連反応が高度であったため,アガルシダーゼアルファ でも投与関連反応の出現が予想され,投与時間は推奨 / 投与時間 40 分のところ,120 分に延長し,0.09 mg/ min の速度とし,前投薬のステロイドも続行すること が妥当と判断した.アガルシダーゼベータは HD 中 投与が望ましいとの報告があるが,アルファに関して は HD 中投与の報告がなかった.投与時間が長時間 になるため,HD 中の投与を患者本人も希望され,患 者の同意のもと,HD 中と非 HD 中に ERT を行い,経 時的に血漿中の a ガラクトシダーゼ活性を測定する ことにより,HD 中の同時投与の可否について検討し た. / ERT はアガルシダーゼアルファ 0.2 mg/kg を生理 食塩水 100 mL にて希釈し,HD 中,非 HD 中投与と もに,透析アクセスと同側に別ルートを確保し,120 分間かけて,投与した.透析アクセスの反対側の上肢 に検体採取用のルートを確保し,ERT 開始直前から 終了 2 時間後までは 30 分ごとに血液を採取した.ま た,ERT 開始から 24 時間後に最終検体を採取した. 検体はヘパリン採血で採取し,速やかに氷中に保存し た後,血漿分離した.血漿中の AGA の酵素活性は, 人工基質として 4-methylumbeliferyl-alfa-D-galacto-sidase(SIGMA)を用い,励起波長 365 nm,発光波長 448 nm で蛍光を測定することにより行った12).HD 条件は,ダイアライザーは FB150P(ニプロ社)を用 い,抗凝固剤は低分子ヘパリンを用い,透析時間は 4 / 時間,血流は 200 mL/min で行った. Blood chemistry Blood cell count

/ WBC 4,700/mL / RBC 326×103/mL / Hb 10.9 g/dL Ht 32.9 % / Plt 20.5×104/mL Gene mutations R301X (CGA→TGA)

表 1 Laboratory data at start of ERT

/ BUN 56 mg/dL / Cre 8.37 mg/dL / UA 8.1 mg/dL / Na 141 mEq/L / K 4.1 mEq/L / Cl 106 mEq/L / Ca 4.3 mEq/L / P 4.6 mg/dL / BS 96 mg/dL / CRP 0.0 mg/dL / GL3 15.0 mg/mL (Normal Plasma / GL3<7.0 mg/mL) / TP 7.2 g/dL / Ab 4.6 g/dL / T-Bi l 0.4 mg/dL / AST 13 IU/L / ALT 7 IU/L / LDH 263 IU/L / CK 193 IU/L / ALP 165 IU/L / gGTP 17 IU/L / CHE 153 IU/L / AMY 89 IU/L / T-CHO 152 mg/dL / TG 88 mg/dL

(4)

薬物動態の結果を図 1 に示す.ERT 施行中の血漿 AGA 活性は急速に上昇し,投与終了時を最大とし, その後は急速に低下し,翌朝には前値に復した.非 HD 中投与と比較し HD 中投与での血漿中 AGA の低 下を認めず,若干 HD 中の投与が高い傾向があった. この結果からアガルシダーゼアルファも HD 中投与 が可能であると結論し,HD 中に 120 分間かけて投与 することにより,アガルシダーゼアルファ変更後,投 与関連反応は出現せず,順調に ERT を継続中である. 臨床経過を図 2 に示す.ERT の効果については, 無汗症,ファブリー痛,下痢といったファブリー病の 症状は ERT 開始後約 1 年の時点では消失し,患者の QOL は大きく改善した.心電図検査では延長してい た QRS 時間の短縮が認められた.発作性心房細動の 出現頻度は,ERT 前後で変化は認めなかった.心エ コー所見上は ERT 開始前,左室後壁厚(LVPW)13 mm と心肥大が認められた.1 年後 13 mm と改善を 認めなかったが,ERT 1 年 9 か月後には 10 mm に改 善した.左室拡大は左室拡張末期径(LVDd)で, ERT 前 56 mm から ERT 1 年 9 か月後に 47 mm に改 善が認められたが,ERT だけでなく,HD が導入され, 体液量が適正に管理されたことの影響も大きいと考え られる.収縮能は ejection fraction(EF)50%と正常 下限で,ERT 前後で変化は認めなかった.本症例は, 心機能低下の原因として,虚血性心疾患の除外のため, 平成 17 年 4 月に心臓カテーテル検査を施行している が,有意狭窄は認めていない. ファブリー病患者は AGA 活性の低下に伴い,血中, 尿中に AGA の基質であるグロボトリアオシルセラミ ド(GL3)の上昇が認められる.このため,ERT の数 値的指標として,全例調査で GL3 の血中,尿中の濃度 / が測定されている.本例でも治療開始前は 15.0 mg/ mL と上昇が認められていた(健常者では GL3<7.0 / mg/mL).血中 GL3 濃度は ERT 施行半年後の時点で / 6.7 mg/mL と低下を認め,アルファへ変更後も低値の

図 1 The activity of AGA in plasma AGA activity in the plasma when the patient was receiving Replagal®intravenously;there was no difference between the AGA activity during hemodialysis and the activities measured be-tween hemodialysis sessions.

図 2 Clinical course

Pain crisis and hypohidrosis disappeared completely after 12 months of treatment.

HD:hemodialysis, ERT:enzyme replacement therapy, UCG:ultrasonic cardiogram, LVDd:left ventricular end-diastolic dimension, LVDs:left ventricular end-systolic dimension, LVPW:left ventricular posterior wall thickness, EF:ejection fraction

(5)

まま維持されている. ERT の副作用としては,本例では投与関連反応が 認められた.投与関連反応の指標として抗アガルシ ダーゼ IgG の測定が ERT 施行時の全例調査として行 われている.ERT では欠損しているたんぱく質を投 与するため,抗体が産生され,抗アガルシダーゼ IgG は上昇を認める症例が多いが,必ずしも中和抗体とは 限らず,継続投与にて減感作となり IgG が低下するこ とも多い.また,アルファとベータでは抗体に対して 交叉性があることが報告されている13,14).本症例は ベータで高度の投与関連反応をおこし,その際,3,200 倍と IgG 値の上昇が認められた.このような症例で はアルファへ変更しても投与関連反応の出現に厳重な 注意が必要で,時間当たりの投与量を少なくすること が重要である.全例調査で行われている抗体検査はア ルファとベータでは測定系が異なり,特にアルファは 投与開始前の血清をコントロールとして使用する測定 系である.このため,薬剤を変更した本症例では単純 な比較が困難であるが,アルファ変更後 1 年の時点で は開始時に比し,抗体価の低下が認められた.ERT の継続により,減感作となったと判断し,抗体価の低 下を確認後,前投薬のプレドニンを徐々に減量してい るが,投与関連反応の出現は認めていない.

Ⅱ.考

AGA をコードする遺伝子は X 染色体長腕 Xq22.1 に位置するため,ファブリー病は X 染色体連鎖性劣 性の遺伝形式をとり,男性ヘミ接合体の患者に重篤な 症状が生じる.AGA の生体内での主な基質は,細胞 膜の構成成分として人の組織に広く分布する,GL3 で ある.ファブリー病患者は,多くの臓器に過度に GL3 が蓄積することによって細胞の機能が障害され,多彩 な症状を呈する.GL3 は特に腎臓,大血管系に多く分 布するため,血管系の障害が症状として認められる. AGA が完全に欠損している症例は古典型症例といわ れ,先端異常感覚,いわゆるファブリー痛のほか,一 過性脳虚血,若年脳梗塞,感音性難聴といった神経症 状に加え,低・無汗症,寒暖適応力低下,被角血管腫 といった皮膚症状,たんぱく尿といった腎症状を呈し, 40 歳前後で末期腎不全となる.また,心室肥大,弁障 害,冠動脈閉塞,不整脈といった心症状も呈し,自然 経過では寿命は 50 歳前後といわれている2,3) AGA を経静脈的に投与すると,細胞表面のマン ノース 6 リン酸レセプターを通じて取り込まれるた め,経静脈的に酵素補充療法が可能である.こうして, ファブリー病は,ERT が実用化され,ERT による予 後の改善が明らかになった.治療薬の開発をきっかけ に,世界各国で大規模調査が行われ,残存酵素活性が ある場合は皮膚症状や疼痛発作などの典型的な症状を 欠き,心肥大や腎障害を呈する,心型,腎型といった 亜型を呈することや,いままでは軽微な症状にとどま ると考えられていた女性例でも,臓器障害をきたす症 例は稀ではないということが報告された15).左室肥大 患者の 3%,HD 患者の 0.3 から 1%にファブリー病 が認められるとの報告4〜9)があり,ファブリー病は従 来考えられていたほど,稀な疾患ではないことが判明 してきた.本邦でも現在日本透析医学会による大規模 スクリーニングが進行中であり,新規患者が発見され ている.これによって,日本人での透析患者において のファブリー病の頻度が判明するであろう.われわ れ,透析医療に従事する者は,原因不明の腎不全患者 を診た際,その基礎疾患としてファブリー病も念頭に 置くべきであり,ファブリー病と診断された透析患者 に対しては,安全にそして,より有効な ERT を施行 することを考慮すべきである. Kosch ら11) はアガルシダーゼベータの HD 中投与に つき,報告している.10 例のファブリー病透析患者に 対し HD 中と非 HD 中に ERT を施行し,経時的に血 漿中の AGA を測定し,比較検討した結果,HD 中投 与のほうが AGA は高かった.これは限外濾過に伴 い,血液が濃縮されるためであり,HD をうけている ファブリー病患者に対しては HD と ERT を同時に施 行したほうが,有効である可能性があると結論されて いる. 今回のわれわれの検討でも同様の結果であった.ア ガルシダーゼアルファの分子量は 102,000 ダルトンで あり 120,000 ダルトンであるベータと比較しやや小さ いが,通常の透析膜を通過する 60,000 ダルトンより はるかに大きいため,透析性がないということは当然 と考えられる.それだけでなく,アガルシダーゼアル ファによる ERT においても,非 HD 中投与よりも, HD 中投与のほうが血漿中の AGA は高い傾向があっ た.アガルシダーゼアルファはベータと同様に,HD 中の同時投与が可能であり,そのほうが望ましい可能 性があると考えられた.しかし,1 例のみの検討である ため,HD 中の ERT が,非 HD 中より有効か否かを結 論づけるには,今後の症例の蓄積が必要と考えられる. さて,ファブリー病は ERT の効果が明らかになっ ているが,その多くは早期の患者に対しての報告であ る.進行したファブリー病患者である末期腎不全患者 に対しても ERT は有効なのであろうか.本邦で,酵

(6)

素製剤の治験が始まったのは 1990 年代であるが,治 験段階では末期腎不全患者は対象としていなかった. そのため,末期腎不全患者に対して ERT の効果につ いての報告は多くはない.Mignani ら16,17)Pisani ら18) の報告で,症状の改善には非常に有効であり,患者の QOL が改善することは明らかとなっている.しかし, 生命予後に重要な影響を与える,心病変への効果や, 心血管イベント抑制効果については今後の症例の蓄積 を待たねばならない段階である16〜19) 自験例でも,ERT により症状の改善効果は顕著に 認められた.無汗症は患者本人にとっては非常な苦痛 であり,本例では夏の間は外出も困難であったが,汗 が出るようになり,外出可能となった.疼痛発作もほ とんどおこらなくなり,下痢などの消化器症状が改善 した結果,体重も増加傾向で患者の QOL は著明に改 善した.心エコー所見では図 3 に示すように,透析導 入前は徐々に LVPW の増加がみられたが,ERT 開始 後は LVPW の増加や,EF の低下も認められていな い.Pisani ら18)の報告では,透析症例において ERT 開始前 24 か月間と,ERT 施行後の 24 か月間での LVmass index の増加速度を比較している.ERT 開始 前と比較し,ERT 施行後では LVmass index の増加速 度が 6%から 3%へ減少したと述べ,ERT による心機 能維持効果を示唆している. 安全な ERT の施行にあたり,最も重要なのは,副 作用である投与関連反応への対処である.文献的には 投与関連反応が出現する頻度はアガルシダーゼアル ファが 10%,ベータが 50%である20).これは,亜型, 女性例,古典型をすべて含んだ,ERT をうけている ファブリー病患者を分母として算出された値である. 残存酵素活性のある亜型や女性例では投与関連反応は 理論的に出現しにくいが,残存活性がほとんどない, 古典型症例に対して ERT を行う場合は非常に高頻度 で投与関連反応が出現する.投与関連反応は時間当た りの薬剤投与量によって規定されるため,投与関連反 応が出現した際には,投与時間の延長がまず一番に試 みるべき対応である.われわれの症例はアガルシダー ゼベータでの投与関連反応が高度であり,アガルシ ダーゼアルファの投与時間は通常 40 分のところを 2 時間に延長することが必要であった.HD 中投与によ り,AGA 活性が減弱しないことが証明されたため, 投与関連反応に対する対応としての時間延長が容易と なり,患者,医療従事者双方にとって利益が大きいと 考える. 投与関連反応への対応は ERT の継続にあたり,患 者のコンプライアンス向上の面からも非常に重要であ る.ERT の際の投与関連反応は患者の疼痛などの症 状が主体で他覚的所見に乏しいため,早期に適切な対 応をとることは必ずしも容易ではない.しかし,ERT 施行中に,発熱や,疼痛などを患者が訴えた場合は, まず,第 1 に酵素製剤の投与速度を減ずることである. ファブリー病の HD 症例はすでにファブリー病とし ては非常に進行した状態であるため,ERT の効果が 出現するのには本症例のように,1 年程度の期間を要 する.投与関連反応が出現するのは ERT 開始早期, 2,3 か月までに多く,投与関連反応への適切な対応が できなければ,ERT の効果が出現する以前に,脱落症 例になってしまうこともある.ERT の際の投与速度 は厳重に管理すべきであり,1 剤で投与関連反応が生 じた場合,薬剤の変更も有効な手段である.2 剤の酵 素製剤が同様に,HD 中に投与できることは,ファブ リー病 HD 患者に対して ERT を継続しやすいという 面からも重要な結果であると考える. しかしながら,アガルシダーゼアルファは,人型の 糖鎖をもっているとはいえ,推奨投与量がベータの 5 分の 1 に設定されている.はたして,本当に,アルファ / / 0.2 mg/kg とベータ 1.0 mg/kg とが同等の効果なの / か疑問が生ずる.実際にアルファ 0.2 mg/kg はベー / タ 1.0 mg/kg よりは効果が少ないという症例報告や, / / アルファ 0.2 mg/kg とベータ 0.2 mg/kg での ERT を比較し,差が認められなかったとの小規模な報告が 存在する21).しかしながら,認可された投与量がアル / / ファは 0.2 mg/kg,ベータは 1.0 mg/kg であるため, / 今までのほとんどの臨床データはアルファは 0.2 mg/ / kg,ベータは 1.0 mg/kg の容量で ERT が行われた結 / / 果であり,アルファ 0.2 mg/kg とベータ 1.0 mg/kg との 2 者の間に明らかな臨床的な差は認められていな い.本例においても,アルファに変更後も ERT の効 果は変化がなく,酵素の基質である血中 GL3 の値も / 低値のままであり,ベータ 1.0 mg/kg とアルファ 0.2 / mg/kg の差異は,ベータ投与時の投与関連反応の出 現のみであった.ERT は継続が重要であるため,投 与関連反応への対応や,コンプライアンスの向上のた めに,薬剤を変更するのは妥当な手段と考える. 今回のわれわれの検討では,有効性と安全性の両面 から,アガルシダーゼアルファもベータと同様 HD 中 の同時治療が望ましいと考えられた.また,透析例に おいても ERT の継続により,心機能低下の抑制が期 待できる.ファブリー病患者は,末期腎不全患者が透 析療法を継続しなければならないように,ERT を生 涯継続しなければならない.このため,ERT を施行 する際には投与関連反応や,時間的拘束など,個々の

(7)

患者にあわせた適切な対応をとることが必要である. 2 剤が HD 中に使用可能であるというわれわれの結果 は,HD 施行中のファブリー病患者に対し ERT の選 択肢を広げることとなる. 文献 1) 大和田操,北川照男:リソソーム蓄積症(リソソーム 病).日本臨牀増刊,本邦臨床統計集(2):317-327, 2001

2) Branton M, Schiffmann R, Kopp JB:Natural history and treatment of renal involvement in Fabry disease. J Am Soc Nephrol 13:S139-143, 2002

3) 衛藤義勝,井田博幸:ファブリー病について:ファブ リー病.p3-10,ブレーン出版,東京,2004

4) Ichinose M, Nakayama M, OhashiT, Utsunomiya Y, KobayashiM, Eto Y:Significance of screening for Fabry disease among male dialysis patients. Clin Exp Nephrol 9:228-232, 2005

5) Utsumi K, Kase R, Tanaka T, Sakuraba H, Matsui N, Saito H, Nakamura T, Kawabe M, Iino Y, Katayama Y:Fabry disease in patients receving maintenance dialysis. Clin Exp Nephrol 4:49-51, 2000

6) 中尾正一郎,竹中俊宏,前田雅人,児玉千早,田中昭 浩,田中弘允:ファブリー病はまれな疾患か? 厚生 省特定疾患特発性心筋症調査研究班平成 5 年研究報告 集:65-68,1994

7) Tanaka M, OhashiT, KobayashiM, Eto Y, Miyamura N, Nishida K, ArakiE, Itoh K, Matsushita K, Hara M, Kuwahara K, Nakano T, Yasumoto N, NonoguchiH, Tomita K:Identification of Fabryʼs disease by the screening of alpha-galactosidase A activity in male and female hemodialysis patients. Clin Nephrol 64: 281-287, 2005

8) Merta M, Reiterova J, Ledvinova J, Poupetova H, Dobrovolny R, Rysava R, Maixnerova D, Bultas J, Motan J, Slivkova J, Sobatova D, Smrzova J, Tesar V: A nationwide blood spot screening study for Fabry disease in the Czech Republic haemodialysis patient population. Nephrol Dial Transplant 22:179-186, 2007

9) Kotanko P, Kramar R, Devrnja D, Paschke E, Voigtländer T, Auinger M, Pagliardini S, Spada M, Demmelbauer K, Lorenz M, Hauser AC, Kofler HJ, Lhotta K, Neyer U, Pronai W, Wallner M, Wieser C, Wiesholzer M, Zodl H, Födinger M, Sunder-Plass-mann G:Results of a nationwide screening for Anderson-Fabry disease among dialysis patients. J Am Soc Nephrol 15:1323-1329, 2004

10) Frederic Barbey, Francoise Livio:Safety of enzyme replacement therapy:Fabry disease Perspectives from 5 years of FOS;Atul Mehta, Michael beck, Gere Sunder-Plassmann, 398-404, Oxford PhaemaGenesis,

Oxford, 2006

11) Kosch M, Koch HG, Oliveira JP, Scares C, Blanco F, Breuning F, Rasmussen AS, Schaefer RM:Enzyme replacement therapy administered during hemodialy-sis in patients with Fabry disease. Kidney Int 66: 1279-1282, 2004

12) Suzuki K:Enzymatic Diagnosis of Sphingolipidosis, Methods in enzymology, VOL. 138, 751-752, Academ-ic Press, Inc. St. Louise, USA, 1987

13) OhashiT, Sakuma M, Kitagawa T, Suzuki K, Ishige N, Eto Y:Influence of antibody formation on reduction of globotriaosylceramide(GL-3)in urine from Fabry patients during agalsidase beta therapy. Mol Genet Metab 92:271-273, 2007

14) Tesmoingt C, Lidove O, Reberga A, Thetis M, Ackaert C, Nicaise P, Arnaud P, Papo T:Enzyme therapy in Fabry disease:severe adverse events associated with anti-agalsidase cross-reactive IgG antibodies. Br J Clin Pharmacol 68:765-769, 2009

15) 渋谷祐子,奥 奈美,鈴木快文,五味朋子:ヘテロ型 ファブリー病の 2 症例.日腎会誌 48:421-427,2006 16) Mignani R, Feriozzi S, Schaefer RM, Breunig F,

Oliveira JP, RuggenentiP, Sunder-Plassmann G: Dialysis and Transplantation in Fabry Disease: Indications for Enzyme Replacement Therapy. Clin J Am Soc Nephrol 5:379-385, 2010

17) MignaniR, FeriozziS, PisaniA, CioniA, ComottiC, Cossu M, Foschi A, Giudicissi A, Gotti E, Lozupone VA, Marchini F:Agalsidase therapy in patients with Fabry disease on renalreplacement therapy:a na-tionwide study in Italy. Nephrol Dial Transplant 23: 1628-1635, 2007

18) Pisani A, Spinelli L, SabbatiniM, AndreucciMV, Procaccini D, Abbaterusso C, PasqualiS, Savoldo S, Comotti C, Cianciaruso B:Enzyme replacement therapy in Fabry disease patients undergoing dialy-sis:effects on quality of life and organ involvement. Am J Kidney Dis 46:120-127, 2005

19) 中村晃子,山下祐佳里,冨吉義之,力武修一,岸 知 哉,宮園素明,池田祐次,佐内 透:透析導入後に初 めて診断され,酵素補充療法が著効した Fabry 病の 1 例.透析会誌 43:99-103,2010

20) Lidove O, Joly D, Barbey F, BekriS, Alexandra JF, Peigne V, Jaussaud R, Papo T:Clinical results of enzyme replacement therapy in Fabry disease:a comprehensive review of literature. Int J Clin Prast 61:293-302, 2007

21) Vedder AC, Linthorst GE, Houge G, Groener J, Ormel EE, Bouma BJ, Aerts J, Hirth A, Hollak C:Treatment of Fabry Disease:Outcome of a Comparative Trial

/ with Agalsidase Alfa or Beta at a Dose of 0.2 mg/kg. PLoS ONE:July Issue 7:e598, 2007

表 1 Laboratory data at start of ERT
図 2 Clinical course

参照

関連したドキュメント

 第1報Dでは,環境汚染の場合に食品中にみられる

混合液について同様の凝固試験を行った.もし患者血

1外観検査は、全 〔外観検査〕 1「品質管理報告 1推進管10本を1 数について行う。 1日本下水道協会「認定標章」の表示が

および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値

4/1 ~ ICU 30.1 万円、 HCU 21.1 万円、 その他 5.2 万円. ※ 療養病床である休止病床は

―自まつげが伸びたかのようにまつげ 1 本 1 本をグンと伸ばし、上向きカ ールが 1 日中続く ※3. ※3

和田 智恵 松岡 淳子 塙 友美子 山口 良子 菊地めぐみ 斉藤 敦子.

1 アトリエK.ドリーム 戸田 清美 サンタ村の住人達 トールペイント 2 アトリエK.ドリーム 戸田 清美 ライトハウス トールペイント 3 アトリエK.ドリーム 戸田