企業倫理とコーポレート・ガバナンス
著者名(日)
伊藤 博
雑誌名
東洋法学
巻
42
号
2
ページ
81-106
発行年
1999-03-15
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000453/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja企業倫理とコーポレート・ガバナンス
伊
藤
博
東洋法学
目 次 ︵1︶内部不経済 ︵2︶外部不経済 ︵1︶法令による対応 ︵2︶倫理規範による対応鉢騰離欝麓騨
三 企業倫理問題の背景 4 法令と企業倫理との関係 3 価値交換システムの歪みに対する社会的対応温雛霧鍔離的責任
二 企業倫理とは 一 はじめに 81ガバナンス 企業倫理とコーポレート
四
321 43
五
654321
企業法務部の役割 管理者・従業員の積極的対応 企業文化の重視 経営理念の明示 企業倫理綱領の内容分析 企業倫理綱領作成の利点 企業倫理綱領をめぐる諸問題 ︵2︶企業倫理遵守プログラム ︵1︶法遵守プログラム 適法性ガバナンスのシステム コーポレート・ガバナンスの働き 企業不祥事の原因に関するアンケート コーポレート・ガバナンスとのかかわり 関係性のマネジメント 製品の品質から経営の品質へ 82 六 おわりにはじめに
企業の最大の目的はいうまでもなく営利の追及であるが、このところ、次から次に起こる企業の不祥事は、そ れが日本を代表し世界的にも飛躍している企業での出来事であっただけに、各界から深刻な企業不信と厳しい社 会的な批判が浴びせられ、企業の基本的な姿勢が問われることになった。折から、世界的規模で経営の透明化とスピードアップが進み、企業経営のグローバル化がすさまじい勢いで進 行している。企業環境と諸々の価値観の変化が一挙に進んで企業に対する評価が変わり、企業経営にはいわば公 器としての認識が必要とされるようになり、企業における倫理規範の存在とその遵守プログラムの実践について の関心が急速に高まっている。 本稿は、企業倫理の概念や企業倫理問題の今日的な背景事情をさぐるとともに、昨今にぎやかな議論が展開さ れているコーポレート・ガバナンスの一環として企業倫理の問題をとらえ、企業倫理綱領をめぐる諸問題を検討 し、企業倫理の日本企業における定着にささやかながらも寄与したいと考えた。 二 企業倫理とは
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1 企業の社会における基本的責任 P・F・ドラッカーは、ビジネスヘの社会的圧力に対する現実的処方箋として、何よりもまず﹁ビジネスは ビジネスたれ﹂︵ω島ぎ霧ω日房け幕どω言①ω巴の基本姿勢を貰くべきと指摘したといわれる。ビジネスの社会 的な分担機能としては、売り手と買い手双方の自由意思による自己利益追及を基礎にした相互同意型の価値交換 関係を推進することが基本であるとの認識に立ち、企業本来の機能を全うすることであるというものであろう。 この観点からすると、企業と社会とのかかわりの基本は、企業が買い手を中心とする市場や社会の二ーズと欲求 を対応すべき価値として発見、確定し︵マーケット・イン、ソーシャル・イン︶、これに価値形成︵製品、サー 83企業倫理とコーポレート・ガバナンス ビス政策︶、価値表示︵価値水準の決定︶、価値伝達︵プロモーション政策︶、価値実現︵チャンネル政策︶を行っ て、市場や社会に返していく︵プロダクト・アウト︶ということである︵嶋口充輝﹁顧客満足型マーケティングの 構図﹂有斐閣一四九頁以下︶。 2 価値交換システムの歪み ︵1︶ 内部不経済 強い自己利益動機からくる不公正な取引や利害関係者に対する配慮の不足の類いであり、価値交換システ ムそのものの歪みである。九六年二月に制定された経団連企業行動憲章においては、安定性ある財やサービスの 提供、公正・透明・自由な競争、企業情報の積極的・公正な開示、従業員のゆとりと豊かさの実現、反社会的勢 力・団体との断固たる対決、海外における文化・慣習の尊重などが指摘されているが、これらは企業システムに おける内部不経済を意識したものであろう。 ︵2︶ 外部不経済 企業の価値交換システムが第三者に多様な障害の効果を及ぽす場合である。前記経団連企業行動憲章にお いても、環境問題への取り組みの重要性が指摘されているが、フロンガスによるオゾン層の破壊、炭酸ガスによ る地球温暖化、酸性雨、熱帯雨林の減少と砂漠化、廃棄物公害、大気汚染、天然資源の枯渇などの類いである。 84
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3 価値交換システムの歪みに対する社会的対応 ︵1︶ 法令による対応 消費者保護法や独占禁止法、環境法規、各種業法などによる社会的調整であり、企業がこれに従うことは、 最低限の社会的ルールというべきものである。この種の法令は、取締役がその法令に違反することが企業に利益 をもたらす類いのもの、すなわち、企業の営利活動を阻害する類いのものであるが、取締役は会社に対して法令 に違反して会社に不利益︵法令上の制裁又は事実上の制裁︶を与えてはならない義務を負っている。公共の利益 を擁護するための法令についても同様である。この種の法令を遵守することは、長期的にみれば企業の利益につ ながるものであるうえ、企業は自然人と同じように法が定める範囲内で行動しなければならないからである。 もっとも、独占禁止法のように複雑な仕組みのために違反かどうかの判定が難しい法令があるうえ、法令によ る違反企業への金銭的制裁が未だ十分に大きいものとはいえず、違反の発覚率もそれほど高くない現状において は、経営者が高業績追及とのリスク計算をしたうえであえて違法行為に出る可能性があるし、企業における集団 的意識の強さから従業員が一般的に外部規範である法令の遵守に鈍感である事情も加わり、企業における法令遵 守のための意識化とシステムづくりが要請されるところであろう。 ︵2︶ 倫理規範による対応 企業は、法令に違反しない限り社会的に支持されている倫理規範に従わなくてもよいかについては、対照 的な二つの考え方がある。一つは企業は株主だけのものでなく公共性のある組織であるから、企業倫理に厳しく 85企業倫理とコーポレート・ガバナンス なければならないという見解であり、もう一つは法令に違反しない限り倫理を重視せずに営利を専ら追及すべき であり、そうでなければ競争に負けてしまうという見解である。 しかしながら、法令による規制に従うだけでは、前記のような多様な問題を処理することができない。すなわ ち、倫理という語は、人の踏み行うべき道︵広辞苑︶を意味するが、Φ昏一8の語源であるギリシャ語のo浮涛8 は、慣習や風習、習慣を意味するΦ98からつくられており、倫理はもともと人間が社会生活に営むことに関係 するものであるところ︵村本詔司﹁心理臨床と倫理﹂朱鷺書房三二頁︶、企業行動も社会や社会活動の一構成要素で あり︵社会から独立して存在するわけではない︶、バブル経済の崩壊と企業倫理をめぐる事件の多発を経験した 今日、社会が企業が求める要求は、単に高品質の商品やサービスを安い価格で豊富に供給するということだけで なく、もっと複雑多様なものになっており、特に価値交換システムの歪みを無視することができない状況になっ ている。企業に対する社会の評価基準が一変したのである。 ところが、法規範と社会規範︵倫理規範︶との限界は常に流動的であり、倫理規範を法規範化する作業は社会 実態とやや遅れるのが通常であるため、倫理規範による制御が必要な場面が出てくるのである。もっとも、ここ で企業倫理とか企業における倫理規範というのは、倫理学上の倫理を追及するといったようなものではなく、企 業が社会的に要請される良い行為、あるいは非難されるべき行為についての規範の体系といったものであり、重 要なことは、企業活動における企業倫理の持つ意味づけやその取り組み方いかんといった問題であろう。 また、企業倫理は、ある変化を要する非倫理的な経営慣行に従事する人々が、自ら変化させたいと願って行動 86
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しない限り、これを変化させることはできない性質のものであり、変化を起こすことのできる立場にたつ人々だ けがその変化をもたらすことができることに留意しておきたい︵リチャード・T・ディジョージ﹁ビジネス・エ シックス﹂︵麗澤大学ビジネス・エシックス研究会訳︶明石書店四二頁︶。 また、ローラi・ナッシュ﹁アメリカの企業倫理﹂︵小林俊治・山口善昭訳︶生産性出版三頁が、﹁ビジネス思 考における倫理の位置が、最近高まってきたのは多くの理由がある。管理者たちは、企業のスキャンダルが厳し く追及されるのは高いものにつくと考えられるようになってきた。すなわち、重い罰金、正常な日常業務の混乱、 従業員のモラル低下、離職者の増大、採用への支障、内部不正、企業の評判に対する政界からの信頼喪失等であ る。﹂と述べるように、非倫理的な企業行動は結局大きなマイナスの効果を招来することになるため、倫理的な 企業行動は企業目的達成のための十分条件ではないにしても、現代では必要条件であり、企業の無形の財産とも いうべきものであろう。 ところで、企業において、常に倫理的な企業行動が行われるためには、企業内において、なすべからざる行為 となすべき行為についての基準設定とルールの明確化がなされ、これが全従業員に共有化される必要があり、欧 米企業のような企業倫理綱領の制定が望まれる。また、グレーゾーンの問題については不為の行動様式の徹底が 求められる︵内橋克人﹁尊敬おく能わざる企業﹂光文社七四頁︶。4
法令と企業倫理との関係 87企業倫理とコーポレート・ガバナンス 企業上の倫理規範には、法令を遵守することは含まれないと考えるべきものであろう。先に見たように、会 社の利益を保護する法令のみならず、公共の利益を擁護するための法令であっても、当然にその遵守を強制され るものであり、企業において、これを遵守するかしないかの自由は存在しないからである。また、取締役には、 企業上の倫理規範に従うべき会社法上の法的義務が直接課せられるということはありえない。倫理規範は法令と は異なるからである。 しかしながら、取締役は、会社に対して善良な管理者としての注意義務︵善管義務︶を負っている︵一一五四条 三項、民法六四四条︶。したがって、企業倫理に違反する行為がいずれ前記のような社会的制裁につながり、それ が企業の利益追及の目的に結果として障害をもたらすものと予測できるときには、その行為を回避すべきことが 要請されよう。取締役には、企業倫理に従わなかったことによって、会社に対する善管義務違反として一種の法 令違反の責任が生ずることがあるのである︵関 俊彦﹁会社法概論﹂商事法務研究会二六頁︶。 このように、会社の取締役は、企業イメージを低下させるような社会的な事実上の制裁などを避けるために、 公共の利益を確保するために設けられている法令や必要とされる一般的な倫理規範を遵守しなければならないと いう関係の下にあることを認識し、この制約の下に利益追及のための効率的経営をしなければならない義務があ るものといえよう。 88 三 企業倫理問題の背景
1 企業の社会的かかわり 近代企業にとって、欠乏の経済時代には製造と供給が大切であり、つくれば売れる時代だったため、外部出 資者である株主にのみ企業責任を負えばよかった。生産のための条件が人間の生存環境を規定する時代であった。 しかし、充足の経済時代になると、需要を上回る供給量をいかに売り切るかという問題に直面し、製品の買い手 ひいてはそれを使用する利用者全体の視点と多様な利害者との関係を調整する視点が必要になった。 更に、対象となる市場範囲が拡大し、実際に製品を利用しない地域や社会の人々に有形・無形の外部不経済 ︵公害、天然資源の枯渇、生態系の微妙な変化など︶を及ぼすようになれば、企業の活動は利用者のみならず社 会全般ひいては地球全般にかかわり、企業行動が多様な価値判断に関わることを余儀なくされるようになった。 欠乏の時代とは逆に人間の生存環境が生産のための条件を規定する時代となったのである。
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2 賢い自覚的消費者の登場 八O年代には、日本経済は重厚長大の素材型製造業にかわって、電子部品、電子機器といった軽薄短小型ハ イテク産業が伸びるようになり、八○年代後半には、銀行、保険、証券などの金融業が資産インフレを背景とし て繁栄を謳歌するようになった。そして、日本経済のソフト化︵サービス化、情報化、国際化、金融経済の肥大 化、投機化、省資源化など︶という言葉でこの時代を特徴づけるようになった。九五年には自由貿易体制の再編 をうたうWTOが設立され、活発な活動が行われるようになったことに示されるように、いわゆる経済のグロー 89企業倫理とコーポレート・ガバナンス バル化が始まった。 消費者にとっては、モノとサービスがあふれ、特に欲しいというものもない時代を迎えるに至った。その結果、 自己の価値観に立って、主体的かつ創造的に生活の質的な充実を図り、したがって、主体的にものごとを決め、 主体性をもって自己の世界を見直し、高い意識レベルで企業を選別して財やサービスを利用する自覚的な賢い消 費者が台頭するに至った。すなわち、過剰な浪費や無駄を避けるというかつての中流家庭の意識が定着し、生活 そのものに安定した質を求めるとともに、同種、同質の商品やサービスの選択については、納得できる根拠を模 索するなど豊かな想像力と感性に基づいて消費が行われる、いわゆる成熟の時代を迎えたのである︵佐和隆光 ﹁成熟化社会の経済倫理﹂岩波書店九頁以下︶。 現に、企業の倫理的な行動が消費者の商品選択の重要な要因になる傾向がみられるようになり、環境に影響を 与える商品の使用を避けている人は日本でもかなりの割合にのぽり、企業においても環境に優しい商品というマー ケティングを無視できない状況になっているといわれる。また、アメリカの例では、情報公開度、地域社会との 関係、環境とのかかわりなど、多数の項目から企業を評価してより広い意味での企業の社会的責任に関する情報 を伝える手引書がスーパーなどで自由に入手でき、商品購入の手掛りが与えているという。 90 3 製品の品質から経営の品質へ 八O年代の日本企業は、﹁良いものを安く﹂作ることこそが企業の社会的貢献にあたると考え、 そのための
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方策として、安い製品を供給するためにシェアの拡大を図り、良質の製品を生み出すために技術開発や設備投資 といった経営戦略に全力を投入し、応分の社会貢献、規制のない環境保全の督励、株主への応分の配分などの配 慮を必ずしも十分にしてこなかったきらいがある。特に、激しい企業間競争の下で、業績︵売上高︶至上主義が 一般的になり、この目にみえる経済指標に向かって何事も厭わない効率第一の経営姿勢がとられがちであり、結 果として非倫理的な経営行動、すなわち、社会の常識とは異なる企業だけの倫理に走る危険性が高かった。 ところが、企業の提供する商品やサービスがいずこも高質化し、差別が少なくなったことに加え、消費者の意 識が前記のように変化するに至り、企業への就職や消費財の購入にあたって、企業イメージの善し悪しが選択の 基準のひとつにされるようになった。そのため、業績︵売上高︶第マ王義だけに奔走してきた企業は、企業イメー ジが低下し、人材の確保や売上げに支障をきたす事態となり、よき企業市民として適切な社会関係づくりと高い 企業イメージを維持する必要に迫られ、いわゆるエシカル・マーケティングにも留意せざるを得ないことになっ た。企業が提供する製品やサービスを通して企業イメージが形成されるというこれまでのスタイルから、製品や サービスの作られるプロセスに眼が向けられ、企業活動の社会的、倫理的な側面が強く企業イメージに影響を与 えるようになったのである。いろいろな企業において、﹁地球にやさしく﹂、﹁人にやさしく﹂という標語が重用 され、社会貢献としてのメセナにも意を使うようになったのもこの背景からである。 T・レビットは、技術が進展し、ビジネス社会が複雑になり、サービス・センターが拡大し、それらによって 製品の性格も単なる品質のみでない、信用・イメージ・保証などの周辺サービスや価値を複合的に内在する膨張 91企業倫理とコーポレート・ガバナンス 商品になったと指摘したといわれる︵嶋口﹁前掲書﹂一八七頁︶。 消費者において、製品の品質の一部に企業が倫理規範にかなっているか否かをカウントし、非倫理的な企業の 製品を買わないという形でショッピングを経済的な一票の行使と考えて、企業に影響を及ぼす時代となったので ある。 八七年に制定されたマルコム・ボールドリッジ・ナショナル・クオリティ賞︵米国︶や九七年に制定された財 団法人社会経済生産性本部の日本経営品質賞においては、単にモノ作りの側面、すなわち、製品の品質だけを重 視する旧来の日本デミング賞とは異なり、製品の品質に加えて経営全体のクオリティを問い、さらに組織の内部 だけに目をやらずに、外部の顧客満足にも広く着眼するところに特徴があるといわれている。ちなみに、日本経 営品質賞においては、審査基準に反映される中心的なコンセプトとして、①顧客評価のクオリティ、②製品やサー ビスのプロセス改善、③継続的な改善、④学習組織による高業績、⑤スピードアップ、⑥社内、社外におけるパー トナーシップ、⑦環境や社会に対する責任の徹底、⑧リーダーシップ、以上の八つを挙げている︵高梨智弘﹁経 営品質革命﹂東洋経済新報社八七頁以下︶。 いずれも、経営の品質に着目したものであり、﹁強い会社﹂より﹁良い会社﹂を志向する二一世紀型企業のあ るべき姿を反映しているものといえよう。 92
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関係性のマネジメント東洋法学
ビジネスは複雑に入り組んだネットワークによって成り立っているため、多様な関係を調節しながら企業の 成長に結び付けていくマネジメントが重要視されるに至っている。すなわち、今日、企業をめぐる環境が複雑で 不透明であるため、信頼に基づく長期的関係づくりが大切になり、また企業の売上げに占める対象顧客の比率は 八○対二〇の法則でいうように、二割程度の顧客で八割近い売上げを構成するといわれる。したがって、二〇パー セントの確実な中心的顧客と長期継続的な関係を築き、安定的な企業の成長を図る必要がある。 メンテナンス、保証、アフターサービスなど顧客と長期的な関係をもたざるをえない側面もあり、そのための 情報技術の進展もある。商品のライフサイクルが短くなっていることやサービス商品が増加し、受注型商品が多 くなってきたことも、関係性の重要性を示すものであろう。 ところが、顧客との人間性を基本として展開される関係性は、とかく排他的で利権型になりやすい点には注意 を要する。八O年代後半の会社をめぐる贈収賄事件や九〇年代初頭の金融業界の利益補填や建設業界の談合によ る不祥事などはその例示である。関係性の強化は時として安逸に流れ、既得権を守り排他的になる傾向があるた め、厳しい倫理的監視が求められる。関係性のマネジメントには、この倫理的監視のため、企業内の倫理モニター 制度や監査の強化が求められるのである︵嶋口﹁前掲書﹂二〇二頁︶。1
四 コーポレート・ガバナンスとのかかわり 企業不祥事の原因に関するアンケート調査 93企業倫理とコーポレート・ガバナンス 日本監査役協会は、九七年三月、企業不祥事の発生原因についてのアンケート調査をしたが、﹁経営トップ のワンマン・独断専行﹂を、﹁行き過ぎた業績至上主義﹂とともにほとんど同数で第一位にあげている。ちなみ に、第三位は﹁取締役の善管注意義務に関する認識不足﹂、第四位は﹁取締役会の形骸化﹂、第五位は﹁企業不祥 事防止のための組織的体制がない、機能していない﹂、第六位は﹁監査役の監査が機能していない﹂であった ︵高橋浩夫編著﹁企業倫理綱領の制定と実践﹂産能大学出版部九頁︶。 2 コーポレート・ガバナンスの働き これまで長い間、株主の法人化を基盤とする経営者支配が無責任主義に陥らないできた理由としては、経営 者の自律機能が働いてきたことが第一であるが、間接金融が中心であったため、借り入れる企業側、貸付ける銀 行側ともに緊張感をもった厳しいチェックが行われるとともに、終身雇用制度の下で従業員が自分の問題として 経営者が無責任体制になるのを防いできた。 ところが、八O年代後半以降のバブル膨張期において、大企業においては資金調達システムが変化して、銀行 からの借り入れが極度に減少したため、九〇年頃にはじまったバブル経済の崩壊以降、銀行の借り入れ企業に対 する前記の規律機能が低下し、更に管理職の人員整理もしばしば行われるようになったため、従業員の規律機能 も低下してしまった。 日本におけるコーポレート・ガバナンスというのは、企業の利害関係者︵ステークホルダi、すなわち、株主、 94
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機関投資家、債権者、従業員、消費者、取引先企業など︶において、企業の内部規律組織である取締役会や監査 役会とともに、徹底した経営者支配の下にある経営トップによって不適切な意思決定がなされるのを防止するた め、如何にしたらチェック機能を働かして軌道修正を図ることができるか、如何にしたら経営トップに緊張感と 経営上の規律を与えて事前に適切な経営を行うためのインセンティブを与える働きをすることができるかを論ず るものである。 企業が社会に開かれた存在であることを前提にして、企業がそれ自体で存在意義を持つ社会的制度と見る立場 である。コーポレート・ガバナンスには、企業の経営効率を改善するために機能する効率性ガバナンスと経営上 の違法や不正を防止するための適法性ガバナンスの二つがあり、企業倫理の遵守は、適法性のガバナンスに関係 するものであろう。 経営者には、各利害関係者︵ステークホルダー︶がそれぞれの立場と交渉力をもってコーポレート・ガバナン スを光射し、経営者はそのベクトルの和の方向に経営を行うことが期待される実態にある︵宍戸善一﹁銀行株式 会社のコーポレート・ガバナンス﹂成践法学四七号二二頁︶。すなわち、経営者には、自己規律に基づく効率的で 適正な経営が求められるが、それはこれら利害関係者︵ステークホルダー︶の影響力との相互作用の下で機能す るものなのである。3
適法性ガバナンスのシステム 95企業倫理とコーポレート・ガバナンス ︵1︶ 法遵守プログラム 連邦裁判所の量刑を改善しそのバラツキをなくすために八四年に設置された合衆国量刑委員会は、九一年 に量刑の団体被告向けガイドライン︵以下、単にガイドラインという。︶を発表した。このガイドラインは、会 社に犯罪行為を防止、発見、報告するための内部メカニズムを維持するインセンティブを与えることを目的とし、 会社が次のような七つの条件を満たした法遵守プログラムを実施して違法行為の防止と発見に相当な注意を払っ た場合には、裁判所において刑が軽減されるというものである︵川浜 昇﹁独禁法遵守プログラムの法的位置づ け﹂川又先生還暦記念﹁商法、経済法の諸問題﹂商事法務研究会五五二頁︶。 ①違反行為発生のおそれを合理的に予防することが可能な遵守基準と遵守手続を設定すること。 ②会社内で高い地位にある特定の上位者に右基準および手続遵守を監視する責任を割り振ること。 ③違法行為を行う傾向のある人物に実質的な裁量を与えることのないように相当の配慮をすること。 ④すべての従業員に、遵守基準および遵守手続を伝達するための効果的な措置をとること、特にトレーニ ングヘの参加と説明文書の配布に努めること。 ⑤成文化された基準に対する遵守を、違法行為を見いだすために設置された監視システムや報告システム を通じて達成するために合理的措置を講じること。 ⑥違法行為を発見できなかったことに責任あるものへの懲戒を含む、適切な懲戒メカニズムによって右基 準を徹底して執行すること。 96
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⑦違反を発見した後には、未来において同じ行為が生じないように、考えられるすべての合理的な措置を 講ずること。 米国では、このガイドラインがきっかけとなって、各社が倫理綱領を制定し、社内に倫理担当の役員、社員を 置き、社内監査を徹底する動きが勢いを増しているといわれる。この①から⑦までの措置については、企業倫理 遵守のプログラムの構築にあたって参考になるものではなかろうか。 ︵2︶ 企業倫理遵守プログラム 企業倫理遵守の内部制度化の問題である。米国企業が企業倫理綱領を制定したのは、米国内で環境汚染が 社会問題化し、欠陥自動車問題が表面化した七〇年代が始めであったが、企業の社会的責任という視点から経営 行動を規律するためのものであり、今日では殆どの企業が何らかの倫理綱領を制定しているといわれる。米国企 業ではこの他に、倫理担当責任者、倫理ホットライン、内部告発、倫理教育の各種セミナー、ワークショップの 定期的開催などの制度化が通常とされている︵高橋﹁前掲書﹂一〇頁︶。日本企業では、一部の企業を除き、こう した企業不祥事を防ぐための安全装置が殆ど行われていない現状にあり、企業倫理遵守プログラムの明示的な策 定が強く要請されるところである。 企業倫理遵守プログラムとしては、まず企業の経営トップ及び取締役会が企業倫理を重視する姿勢と企業倫理 遵守のためのシステムづくりにリーダーシップを示すことが要求される。従業員は、経営トップや取締役会など の動きに敏感に反応して行動するのが通常であるところ、企業倫理を重視した決定は短期的には企業利益に反す 97企業倫理とコーポレート・ガバナンス ることが多いため、経営幹部の決定に委ねる他はないからである。また、企業倫理基準については、何をするこ とが倫理的に誤りであり、何が倫理的に正しいのかについて、その根拠を明らかにしたうえ、できる限り具体的 な問題設定をして明瞭、端的な指針を示し、これを全従業員に周知徹底するための企業倫理教育を効果的に行い、 その遵守を求めなければならない。非典型的な問題や複数の規範が錯綜する問題状況に直面した場合であっても、 自ら正しい行動の選択ができるようにするためである。 更に企業倫理基準を遵守するための手続、例えば、必要とされる企業倫理について、適当な行動は何かを個々 に提示できる部課を設置し、そのプログラム管理者にはかなり高位の役職者を任命する必要があり、その企業が 適当とする倫理基準に反する不適当な行動をとった者に対しては、懲罰などの制裁を課するシステムが必要であ ろう。また、企業倫理上疑問となる事態については、従業員が不利に扱われることを恐れないでプログラム管理 者にこれを通報し、的確な意見の聴取をして正しい行動の選択ができるようなシステムも要請される。毎日の企 業行動について、企業倫理の観点から誰でもフランクに議論しあえる雰囲気づくりも必要とされよう。 98 五 企業倫理綱領をめぐる諸問題 1 企業倫理綱領作成の利点 リチャード・T・デイジョージ ている。 ﹁前掲書﹂六〇一頁では、企業倫理綱領作成の利点として、次の五点を述べ
まず第一に、綱領を作成するという経験それ自体に価値がある。すなわち、その過程を通して、企業内のメン バーが新しい視点から企業やメンバー相互、顧客、社会などに対するグループとしてあるいは自分たちの使命や 重要な責務について考えることになるからである。第二に、ひとたび採用されれば、継続的な議論を喚起するた めに綱領を用い、それによって綱領自体を修正することができる。第三に、綱領は、企業責任についての見方、 自分の行動を倫理的観点から考えることの必要性、地位にふさわしい美徳を修得することの重要性などを、あら ゆるレベルの社員に教示するのに役立つ。第四に、従業員が綱領に反するような行為を求められたとき、参照す る資料として綱領を用いることができる。第五に、綱領は、顧客と一般大衆の双方に対して、その企業が倫理的 原理に従っていることを納得させるとともに、その企業の行動を判断する試金石を提供するために用いることが できる。 以上であり、企業倫理綱領を作成する意義が尽くされており、参考になる。
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2 企業倫理綱領の内容分析 すでに制定されている企業倫理綱領の内容を比較すると、米国企業においては、独禁法の遵守、競争会社と の関係、政治献金の禁止、利害の衝突、供給業者との関係、贈答や接待に関すること、消費者との関係、従業員 との関係、地域社会との関係、環境問題など企業行動に直接結びつくものが多いのに対し、日本企業においては、 経営者の理念・信条、社会への責任、誠実性の保持、消費者保護・品質の維持向上、独禁法等法律の遵守など社 99企業倫理とコーポレート・ガバナンス 外へのメッセージ型、協調型、理念型の色彩のものが多いと分析されている︵高橋﹁前掲書﹂五七頁︶。 3 経営理念の明示 企業倫理綱領において当該企業の経営理念を明示するのは、具体的な経営理念は、組織の基本的な考え方や 信念を示すもので企業文化の中核をなし、従業員一同に共通の価値理念で結ばれているという意識と選択を迫ら れたときの行動の基準を提供するからである。T・J・ピータース、R・H・ウオーターマン﹁エクセレント・ カンパニー﹂︵大前研一訳︶講談社においても、超優良企業の特質の一つとして、価値観にもとづく実践︵理念 型経営︶を指摘している。ちなみに、指摘されたその余の特徴は、行動の重視︵実践︶、顧客に密着する︵CS 経営︶、自主性と企業家精神︵加点主義︶、人を通じての生産性向上︵個の尊重︶、基軸から離れない︵本業重視︶、 単純な組織・小さな本社︵ホワイトカラーの生産性向上︶、厳しさと温かさの両面を持つ︵自由と規制のバラン ス︶の七つであった。 テレンス・ディール、アラン・ケネディ﹁シンボリック・マネジャi﹂︵城山三郎訳︶新潮社三七頁は、経営 理念を重要視している会社には、三つの特徴があるとしている。すなわち、第一に、どんな狙いと目標で事業を 進めるかについて、はっきりした、明文化された哲学を持っている、第二に、経営陣は、会社の経済論理と企業 環境に即するよう、経営理念を形成し、微調整すること及びこれらを組織に伝達することに大きな関心を持って いる、第三に、会社のために働く人たち全員が、最下層の製造部門の作業員から上級管理層に至るまで、これら 100
の理念を知り、分かちあっている、以上である。そのとおりであろう。 その企業独自の経営理念は、より具体的で魅力的な個性あふれるものであることが望ましい。従業員にとって 自発的な参加意識が刺激され、自己統制をする場合の特定の枠づけとして機能することが期待されるからである。 例えば、米国の超優良企業であるIBMでは、三つの哲学︵理念︶が設けられ、管理者や社員の行動に多大な 影響を及ぼしているといわれる。すなわち、その一は、﹁われわれは個人を尊重する﹂というものであり、その 二は、﹁わが社は、世界中の会社のなかで最上の顧客サービスを行いたいと願っている﹂というものであり、そ の三は、コつの組織がその仕事をするときには、その仕事を優れた方式で完遂できるのだという考えで当たら なければならない﹂というのである︵吉川英一﹁革新する管理者﹂日本生産性本部一一頁︶。 もっとも、超優良企業の超優良企業たる所以は、こうした哲学︵理念︶を管理者、従業員らが共有していると いうことだけでなく、強い哲学︵理念︶からほとばしり出る管理者、従業員全員の﹁やる気﹂が群を抜いている ということであろう。
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4 企業文化の重視 前掲﹁シンボリック・マネジャー﹂二九頁は、﹁強い文化は、人がいかに行動すべきかを明確に示す、非公 式なきまりの体系である。自分たちに期待されていることが正確にわかっていれば、社員は各状況でいかに行動 すべきかを即座に判断することができる。これに反して、弱い文化では、社員は何をすべきか、いかにすべきか 101企業倫理とコーポレート・ガバナンス と思いあぐねるだけで、かなりの時間を無駄にする。強い文化は仕事を楽しくし、社貝を熱心に働かせ、生産性 に及ぼす影響は驚くほど大きい。﹂としている。もっとも、企業文化についてこのような意義づけを行なっても、 文化というものは、とらえどころがないという嘆きも聞こえてくるが、企業において人を動かすことの重要性を 否定する人はおらず、人を動かすことにかかわる企業文化の働きとありように関心を持つことは上から下までの すべての従業員にとって必要であろう。 例えば、スリーエム︵三M︶は、日本では住友スリーエムの生産、販売する﹁ポスト・イット﹂で有名である が、独特の企業文化で知られている。すなわち、同社では研究開発による新製品開発を一つの企業文化として全 社員に共有させ、新製品比率を九三年以降、過去四年間に開発したものを売上げの三〇%以上にすることを目標 にし、研究職の人は勤務時間の一五%は会社の設備を使って全く社業と関係のない研究を行うことができるコ 五%ルール﹂があるといわれる。したがって、同社の経営方針の第一は、イノベーティブなアイデアを追及すべ く企業家精神を促進することであり、第二は、妥協なき正直さと誠実さの固守であり、第三に、個人のアイデア を維持することとされている︵高橋﹁前掲書﹂一三五、一四〇頁︶。 創業以来もうすぐ一〇〇年に達するこの企業が今もって活力を保ち続けているのは、こうした新製品開発によ る組織のイノベーションを志向する企業文化がその源泉であろう。 102
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管理者・従業員の積極的対応東洋法学
日本企業におけるマネジメントの特徴は、言葉や数字で現される知識は氷山の一角であり、目にみえにくく、 表現しがたい、暗黙的な行動様式︵暗黙知︶にあるといわれる︵野中郁次郎・竹中弘高﹁知識創造企業﹂東洋経済 新報社八頁︶。そのため、日本企業においては、企業倫理の遵守方法や担当部署などについても曖昧なことが多 く、企業倫理の内部制度化が未了の企業が多いのではないかと思われる。この点では、米国企業の取り組みに学 ぶところが大きい。 米国企業の企業倫理の遵守・運用体制を分析した高橋編著﹁前掲書﹂二七五頁においては、企業倫理綱領の遵 守・運用について、①倫理綱領の対象範囲の取り決め︵通常、役員、社員等全員を対象とする︶、②倫理担当役 員、責任部署、責任者の明確化、③企業倫理についての質問に関する照会先、相談先の取り決め︵従業員におい て、その行動が企業の倫理規範に抵触するかどうか不明の場合には、企業倫理担当責任者に照会して確認する︶、 ④企業の倫理規範違反者に対する懲戒処分、罰則規定の取り決め、以上が必要としている。参考にする価値のあ る提言であろう。 例えば、エッソ石油では、企業倫理遵守プログラムとして、取締役会での遵守確認、コントロ:ラー本部が中 心となって企業倫理遵守の重要性を毎年確認・教育し、部門管理者︵課長代理以上︶からは、毎年倫理方針遵守 を文書により確認をとり、社員においては、倫理上不明確な点について、事前に必ずコントローラi部門の助言 を得ることとされ、また倫理方針に反した事案やその恐れのある事案については、必ずコントローラー部門や経 営トップに報告するシステムがとられているという。 103企業倫理とコーポレート・ガバナンス また、住友スリーエムでは、社員研修において、﹁三M社員として、私がとろうとしている行動は正しいか﹂、 ﹁三M社員として、私がとろうとしている行動は公衆の視線に耐えられるか﹂、﹁三M社貝として、私がとろうと している行動は、倫理を重んじる会社としての三Mの名声を守れるか﹂、以上の三つについて、あなたならどう しますかという問いについて自問自答して行動するように求めているという。 更に、テキサス・インスツルメンツ︵TI︶では、従業員に対し、倫理に関する判断基準として、①その行動 は法律に違反していないだろうか、②わが社の価値基準にのっとっているだろうか、③その行為が新聞に載った らどう感じるだろうか、④その行為が正しくないとわかっているときはやってはいけない、⑤もし確信がもてな いのならしかるべき人に聞く、⑥納得がいく答えが得られるまで他者に聞く、以上のように教育しているといわ れる︵高橋編著﹁前掲書﹂一四四、一八一、一六五頁︶。 従業員は、その企業特有の知識、技術、ノウハウなどの見えざる出資をし、企業の効率的経営に寄与している ものと見られるところ、このように従業員を教育しているのは、従業員は、企業倫理問題を内包する事実関係を 最も知る機会が多いところから、その従業員が管理者に情報の提供をすれば、管理者はそうした行為の成否を検 討して容易に是正することができるからであろう。従業員を生かしたコーポレート・ガバナンスである。もっと も、これが成功するためには、従業員にとって、こうした情報の提供が気がねなく自由になし得る企業文化が形 成されることが前提であろう。 104
6 企業法務部の役割 商社で法務を担当する、中川英彦﹁企業法務の直面している課題﹂法学教室一六七号四七頁によると、企業 法務はその初期においては文書業務を中心とした企業の法的あるいは形式的条件を整える仕事に従事してきたが、 その後日本の経済活動が拡大するに応じて、各種の契約書の作成や海外の法制調査、弁護士とのコンタクトなど 動的な役割を期待されるようになり、今日では、戦略的な観点から企業の諸活動を支援するとともに、時代の変 化に伴って生ずる諸問題を法的に分析し、経営判断そのものに反映していくことが期待されているといわれる。 経営法務といわれる分野である。 ところで、企業の経営にとって今日的な要請は、﹁適法﹂な経営をすることであろうが、﹁適法﹂というのは、 決して法令に違反しないということだけではなく、企業の倫理規範に反しないという広いチェッタも含まれるこ とは、これまで検討したことから明らかであろう。社会的、国際的に非難されない企業活動をするためである。 同論文でも﹁違法ではないという法解釈的な側面からだけでなく、社会的あるいは国際的に見て妥当性や透明性 を持っているか﹂という側面も必要であるとしている。
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六 おわりに 盛田昭夫ソニー会長が﹃﹁日本型経営﹂があぶない1良いものを安く﹂が欧米に批判される理由﹄と題す る論文を文芸春秋に登載したのは九二年二月であり、日本企業の今後のあり方を考えるうえで大きな衝撃を与え 105企業倫理とコーポレート・ガバナンス た。良いものを安くという信念からなりふり構わぬ効率優先の企業経営をしてきたそれまでの姿勢及び利益を従 業員や株主、地域社会に還元していく側面が背後に隠れてしまったことに反省を加え、これまでの日本企業に対 する欧米企業の我慢が限界にきていることや限られた資源・エネルギーの利用や環境汚染の問題が人類共通の課 題であり、日本も世界経済のボーダーレス化の流れに深く組み込まれていることを踏まえて、日本企業が欧米と 整合性のあるルールの上でフェアな競争をしていくことの重要性を強調したものであった。 本稿は、この論文に刺激を受けてこれまで企業倫理の問題に関心を持ち続けてきたこと及び昨今における企業 不祥事の頻発を機縁として、企業倫理をコーポレート・ガバナンスとのかかわりにおいて検討し、企業における 企業倫理の問題について、マイナス状態をゼロに引き直し、またマイナス状態にしないように、企業倫理遵守の 体制づくりをその基本から考究したものであるが、企業倫理の具体的なあるべき内容、特に今日企業において避 けて通ることのできない環境監査の問題にまで触れることはできなかった。他日を期したい。 本稿が成るにあたっては、いろいろな分野に関する多くの文献を参考にさせていただいた。これらの著者、訳 者の皆様に心から感謝して本稿を閉じたい。 以 上 106