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鳴門教育大学学術研究コレクション

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Academic year: 2021

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中学生の生活満足感を高める取り組み

高度学校教育実践専攻 実習責任教員 池 田 誠 喜 教職実践力高度化コース 実習指導教員 金 児 正 史 鎌 田 淑 博 キーワード:生活満足感,自己有用感,感謝・貢献,存在・承認,良好な状態 well-being Ⅰ 問題 課題意識 文部科学省(2010)『生徒指導提要』には「生 徒指導は,学校生活がすべての児童生徒にとっ て有意義で興味深く,充実したものになること を目指しています。」とある。学校生活において, 充実して過ごしている生徒がいる一方で,学校 生活などに適応できず,満足感を得ることがで きないまま過ごしている生徒が少なからず存在 しており,学校への適応状況の悪化による不登 校が改善されない状況もある(文部科学省, 2018)。また,田野瀬(2018)は,日本の子供た ちは諸外国に比べて,自己に対する満足感が低 い状況にあることを指摘し,学校生活を充実さ せ満足感を高める必要性を示唆している。 内閣府(2014)「平成 25 年度 我が国と諸外国 の若者の意識に関する調査」の分析を行った加 藤(2014)は,日本の青年においては,自分への 満足感と自己有用感の相関が比較的強く,自分 への満足感を自己の有用性に関する判断と関連 した上で自己評価を行っているとしており,自 己有用感を高めることは,自己に対する満足感 を高めることにつながることが考えられる。ま た,内閣府(2014)「平成 26 年版子ども・若者 白書」には,諸外国と比べ低いとされる日本の 若者の自己に対する満足感が,中学生から徐々 に低下していることが示されている。 これらの現状を踏まえると,自己に対する満 足感を高めることは喫緊の課題であり,日本の 将来を担う若者が自分の将来を展望し,自己実 現に向けて充実した生活を送るために,この時 期から自己に対する満足感を高める取り組みを 始める必要がある。 更 に 充 実 し た 生 活 に つ な が る 良 好 な 状 態 well-being に つ い て , 国 立 教 育 政 策 研 究 所 (2017)では,青年期の心理的側面への影響が伺 え,様々な社会的な関係やつながりが中学生の 良好な生活や健やかさ,満足感に影響している と報告されている。自己有用感を高め,生活満 足感を高める取り組みは,中学生の身体的・精 神的・社会的に良好な状態 well-being につなが り,学校生活がより充実する可能性を高めるも のと期待できる。 Ⅱ 学校課題フィールドワーク 1.目的と実践の概要 本実践では,先行研究を踏まえ,自己有用感 を「他者や集団との関係の中で,自分の存在を 価値あるものとして受け止める感覚」と定義す るとともに,様々な生活場面で感じられ,対象 や生活場面を特定しない統合されたものとして 自己有用感を捉える立場をとることとした。そ の上で,まず汎用的な「中学生用自己有用感尺 度」を作成して自己有用感の因子構造を明らか にし,生活満足感を測定するため「アセス」(栗 原ら,2016)の下位尺度である「生活満足感尺 度」を用いること踏まえ,改めて因子分析を行

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い,因子構造を確認した。更に中学生の充実し た学校生活に影響を与えるものとして,自己有 用感から生活満足感に至るパスモデルの検証を 行い,自己有用感と生活満足感との関連を検討 し,効果的な学校教育における指導の方向性を 探ることを目的とした。 実践では,事前調査の結果を踏まえ,置籍校 1年生(10 名),2 年生(15 名),3 年生(16 名) を対象に保健体育の授業で自己有用感に働きか けることを主眼に置いて,教科担任と協働した 授業を行った。実践の効果を検討するため,作 成した中学生用自己有用感尺度・生活満足感尺 度による測定及び授業での振り返りの記述を用 いて成果を検討した。 2.中学生用自己有用感尺度項目の選定・作成 先行研究を参考にして,中学生用自己有用感 暫定尺度 32 項目を選定した。続いて 32 項目を 場所や対象を特定しない汎用的な尺度作成のた め,対象が統合された中学生用自己有用感暫定 尺度として計 20 項目を採用した。公立中学校 1 年生から 3 年生の 368 名を対象に質問紙調査を 実施し,主因子法により因子分析を行なった結 果,2因子 13 項目を採用した(表1)。第 1 因 子を「感謝・貢献」と命名し,第 2 因子を「存 在・承認」と命名した。 表1 中学生用自己有用感尺度の因子分析結果 3.生活満足感尺度の確認(分析結果) 「アセス」(栗原ら,2016)の下位尺度5項目 について,主因子法により因子分析を行なった 結果,単因構造であることが確認された(表2)。 表2 生活満足感尺度の因子分析結果 4.結果と考察 分散分析の結果,「感謝・貢献」の学年に有意 な差が認められ,3年生と2年生より1年生の 得点が有意に高く,性別においては,男子より も女子の得点が有意に高かった。 中学生の自己有用感が,感謝と役に立つとい う円環的な状況から生じる感覚としての「感 謝・貢献」と自分自身の存在が承認されている という感覚を示す「存在・承認」という2つの 次元で捉えることが可能であると判断した。中 学生においては「存在・承認」因子が発達的な 影響を受けにくいと考えられ,生活満足感と自 己有用感の関係について,学年の違いを検討す る必要性が示された。 5.自己有用感と生活満足感との関連の検討 自己有用感が高まれば,生活満足感が高まる という仮説を立て,自己有用感−生活満足感関連 仮説パスモデルを作成し,公立中学校 1 年生か ら 3 年生の 357 名を対象にして調査を行い,多 母集団同時分析により検証した。 自己有用感は生活満足感へ正の関連を示し, 学年による差は 1 年生が 3 年生よりも有意に高 い結果が示され,男女による差はみられなかっ た(図1)。パスの推定標準値から,自己有用感 を高めることが生活満足感を高めることにつな がるという本モデルの妥当性が支持された。 4 9 2 3. 3. 4 9 2 3. 4 9 2 3. 2 1 5 30 8 51 . 4 F 4 0 8 51 8 51 . 4 0 6 8 51 8 51 . 4 F 8 51 . 7 1 5 30 8 51 . 4 5 2 3. 52 2 - 5 6 3. F1 共通性 1 気持ちが楽である。 .798 .637 2 生活がすごく楽しいと感じる。 .748 .559 3 気持ちがすっきりとしている。 .684 .468 4 自分はのびのびと生きていると感じる。 .637 .405 5 まあまあ,自分に満足している。 .542 .294 生活満足感(α=.80) 寄与率(%〉47.25 項 目

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図1 自己有用感−生活満足感関連パスモデル 6.授業実践 保健体育科の特性である運動の楽しさ・技能 (技術)の習得を目指し,自己有用感の「感謝・ 貢献」,「存在・承認」に関わる内容を単元目 標に明記し,自己有用感に直接働きかける場面 を指導計画の中に位置付け,段階を踏みながら 授業実践を行うこととした。 指導計画及び展開について担当教諭(T1)と 打ち合わせを行いながら実践を進め,協働して TT で授業を行なった。領域は陸上競技を 10 時 間,球技(バレーボール)を 5 時間,各学年で 行なった。 1)実践1 4 月:陸上競技(リレー) 第1段階 陸上競技の指導計画の前半は,課題設定や練 習場面において,チーム内で比較的関わり合い が容易な陸上競技(リレー)を各学年5時間行 い,自己有用感の「感謝・貢献」,「存在・承 認」に関する働きかけを推奨するための価値づ けを指導者が生徒へ行い,積極的に他者への働 きかけが行えるように授業を構成した。 2)実践2 5 月:陸上競技(種目選択) 第2段階 陸上競技の後半では記録測定や場面設定の準 備・片付けなど役割分担を明確に決めることが できる種目選択(短距離走・中長距離走・ハー ドル走・走り幅跳び・走高跳)を各学年5時間, 計画した。第2段階として,第1段階で得られ た働きかけを表にまとめ,それを活用しながら 互いに働きかけができるように授業を構成した。 3)実践3 6 月:球技(バレーボール) 第3段階 審判やチーム内での役割分担を決定し,課題 設定やチーム練習・ゲームにおいて他者との関 わり合いの頻度が高いと予想される球技(バレ ーボール)を各学年5時間計画した。いつでも 気が付いた時,自己有用感が得られるようにす るため,積極的な態度で相手に対して「感謝・ 貢献」・「存在・承認」など,有用感が互いに伝 えられるように授業を構成した(図2)。 図2 授業展開と生徒のコメント 4)課題 授業後の課題として,次の3点が挙げられる。 第1段階では,他者への働きかけを具体的にど う行えばよいか分からない状況,第2段階では, 積極的に他者への働きかけを行うことが苦手な 生徒にとって,働きかけが消極的になっている 状況,第3段階では,技能の習得の差異により チームメイトに役割を任せてしまい,他者への 8 261 53491 0 ) 0 ( 0 7. ( . ( 0 )( 0 )( 0 )7. ) . 0 0 0 7. . ( 0 0 0 7. ) . ( 0 ( 0 0 7. . ) 0 (( 0 ) 0 () 7. ) . 0 ( 0 ( 0 7. . )) 0 ( 0 0 (7. ( . (

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働きかけが消極的になる状況が生じた。 7.中学生用自己有用感尺度・生活満足感尺度 による生徒の自己有用感と生活満足感の変化 鎌田(2018)の中学生用自己有用感尺度・生 活満足感尺度を用いて,各学年の時期(4 月,5 月,6 月)における自己有用感「感謝・貢献」, 「存在・承認」と生活満足感の得点を合計し, 一元配置分散分析で関連を検討した結果,有意 差は見られなかった。 自己有用感尺度の第1因子「感謝・貢献」・ 第2因子の「存在・承認」の集計結果では,各 学年ともに数値が高く,良好な状態が保たれた。 自己有用感(「感謝・貢献」・「存在・承認」) と生活満足感の結果(図3)では,自己有用感・ 生活満足感ともに良好な状態で学校生活が送れ ている様子が伺えた。 図3 各学年別「自己有用感」と「生活満足感」 8.考察 特に 3 年生のバレーボールの授業の様子から は,チームメイトへの感謝や期待感,チームの 一員としての存在感・信頼感など,自己有用感 が得られ,運動の楽しさを実感している様子が 見られた。3年生(16 名)の振り返りの記述デ ータについて,共通する内容のデータを検討し てグルーピングした結果,「運動への意欲」, 「運動の楽しさ」,「技能の習得」,「仲間と の協力」,「チームワーク」,「仲間への働き かけ」というカテゴリーが生成された。特に運 動を純粋に楽しむことやチームワークなど,動 機づけに関係する効果と保健体育科の技能の習 得の効果が同時に見られ,教科としての特性で ある運動の楽しさ,技能の習得という要素に加 え,自己有用感を得る機会を同時に作り出すこ とができたと考えられる。 Ⅲ 成果と課題(実践を終えて) 実践を包括的に見てみると,積極的な他者へ の働きかけが自己有用感の獲得につながり,自 己への満足感となり,「学びに向かう力」につな がる動機付けや人との「関係性」に影響したり, 「人間性の涵養」にも良い影響を与えていたり していることが推察される。「役にたった」, 「感謝している」,「期待している」,「信頼 している」ことを相手に伝えることは自己有用 感の獲得に有効であると考えられ,満足感につ ながることが概ね確認された。 実践では,保健体育の意欲の向上や技能の習 得に関して目標を達成することができた。しか し,運動に対して苦手意識を持っており,意欲 が高くない生徒が消極的になる状況があった。 その生徒が自己有用感を得るためには,運動に 対して積極的な生徒やリーダーシップを発揮し ている生徒の他者への働きかけが欠かせない。 技能の高い生徒,積極的な生徒が運動を苦手と する生徒や消極的な生徒の自己有用感に働きか けることができれば,満足感が得られ,さらな る教育的効果が期待できる。 今回は保健体育科での授業実践であり,異学 年の交流についての検討や検証が行われていな い。今後は,実践の課題を踏まえ,学校行事等 での異学年交流や総合的な学習の時間等での実 践を行い,その効果について検証し,学校教育 における効果的な指導を行いたい。 3.39 4.28 4.38 3.94 4.32 4.45 3.87 4.50 4.16 3.88 4.53 4.24 3.84 4.44 4.41 4.04 4.23 4.56 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00 1 2 3 1 2 3 4 5 6

参照

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