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僧帽弁狭窄症における血栓塞栓症の発症要因に関する臨床的研究

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Clinical Studies on the Causative Factors for Thromboembolism in Mitral Stenosis

Kazunori IWADE

Department of Cardiology (Director: Prof. Koshichiro HIROSAWA) Tokyo Women's Medical College

The author studied the causative factors for thromboembolism (TE) in mitral stenosis (MS) based on the 229 cases available for cardiac catheterization between January 1, 1984 and December 31, 1986. The patients' ages ranged from 19 to 65 years, and the mean age was 48.0 years.

The results are as follows:

1. Sixty-four (28%) of the 229 cases were identified to have history of TE. Seven (11%) of these were diagnosed as having mitral valve disease for the primary signs and symptoms of TE. Also, 12 cases (19%) were identified with TE recurrence twice or more.

2. Complication of mitral regurgitation (MR) was grouped according to the Seller's

classification as specified below: pure MS (Group (Gp.) O, 114 cases); MR Grade I (Gp. I, 61); MR II (Gp. II, 32); MR III (Gp. III, 17); and MR IV (Gp. IV, 5). The frequency of TE complication was 32% in Gp. O, 36% in Gp. I, 9% in Gp. II, 12% in Gp. III, and O% in Gp. IV. Significant difference was noted between Gp. I and Gp. II, or higher. Atrial fibrillation (AF) was complicated in Gp. O (68%), Gp. I (80%), Gp. II (94%), Gp. III (100%) and Gp. IV (100%). The complication tended to

be more frequent in advanced MR. Left atria! dimention (LAD(mm)) was determined with M

mode echocardiography and 44.4±9.6 in Gp. O, 47.4±10.6 in Gp. I, 54.7±14.1 in Gp. II, 59.0±13.

2 in Gp. III, and 63.6±9.3 in Gp. IV. The LAD tended to be more dilated with progress in MR

grades. Summarizing the above data, the author confirmed the difference in the pathophysiology of mitral stenosis depending upon the degree of the complicating mitral regurgitation.

3. The above-mentioned 175 cases (Gp. O and Gp. I) were studied for TE causative factors in MS. AF was more significantly compiicated in the TE-positive group than in the TE-negative group (86% vs 66%, p<O.Ol). LAD (mm) was significantly dilated in the TE-positive group (48.

2±11.0 vs 44.1±9.3, p<O.02) on the echocardiogram. Also, the cardiac index at catheterization

was lower (2.56±O.61 liters/min per m2 vs 2.80 liters/min per m2, p<O.025). However, no significant difference was noted in, pulmonary arterial pressure, pulmonary capillary wedge

pressure, left ventricular end diastolic pressure, mitral valve gradient, and mitral valve area. In

patients with AF complications, no significant difference was noted between the TE-positive group and the TE-negative group in regards to various parameters in hemodynamics including the cardiac indices and the LAD degrees.

(2)

The above data indicate that AF was the most important causative factor for TE in MS, and

that TE rarely occurred in the cases complicated with MR of Grade II or higher. In MS patients

with AF and without MR or with lower grade of MR, the TE causative factors could not be

clari丘ed through the present studies, and further investigations on the coagulation study to detect

thrombogenecity and so forth should be encouraged in the future.

緒 言 僧帽弁狭窄症(MS)における血栓塞栓症(TE) は,しぼしぼみられ,その合併頻度は9∼39%で, MSの死囚ともなり得る重大な合併症のひとつで ある.また,その後遺症は社会復帰に影響する場 合も多い.したがって,MSにおけるTEの発症を 予知できるかどうかは重要な課題である.そこで 今回,手術適応検討を目的に心臓カテーテル検査 を施行したMS患者229例を対象に, TEの発症要 因を知るため,臨床所見,検査所見,発症時の臨 床的背景について検討したところ,若干の知見を 得たので報告する. 対象および方法 東京女子医科大学附属B本心臓血圧研究所に, 1984年1月から1986年12月半3年間に手術適応検 討を目的に入院し,心エコー図および心臓カテー テル検査により診断を確定したMS患者229例を 対象とした(表1).年齢は19∼65歳,平均48.0歳 で,性別は男性77例,女性152例であった.New York Heart Association(NYHA)心機能分類

では,1度11例,II度166例, III度45例, IV度7例

であった.MSに合併する弁膜疾患の内訳は,229 例中僧帽弁閉鎖不全症(MR)の認められた例が 115例,大動脈弁閉鎖不全症合併例が58例,大動脈 弁狭窄症合併例が1例,大動脈弁狭窄兼閉鎖不全 症合併例が58例,三尖弁閉鎖不全症合併例が14例 表1 対象 症 例 性 別 男 性 女 万 年 齢 229例 77例 152例 19∼65歳(平均48.0歳) NYHA心機能分類 1度 II度 III度 IV度 11例 166例 45例 7例 であった.TEの予知に有用な指標を調べるため, 本研究では,臨床上,TEの既往のある血栓塞栓症 群(TE群)と,既往のない非血栓塞栓症群(非TE 群)に分けて,臨床所見および以下にのべる検査 所見について比較検討を行なった. 臨床所見では,年齢,性別,病悩期間,NYHA 心機能分類,心調律を比較した.検査所見として は,心エコー図により左房径(胸骨左縁からM モード法により大動脈後壁から左房後壁までの距 離)を測定した.心臓カテーテル検査では,左心 および右心カテーテル検査により肺動脈圧,肺動 脈筆入圧,左室拡張終期圧を測定した.また, Swan−Ganzカテーテルによる熱稀釈法により心 拍出量,心係数を測定した.さらに,肺動脈襖入 圧および左室拡張;期圧を同時測定し,プラニメー ターにより拡張期平均圧較差を測定し,僧帽弁圧 較差とし,Gorlinの式1)から僧帽弁口面積を算出 した.また,全例に左室造影を施行し,MRの合 併の有無と,合併例ではSellers分類2)によりその 程度を評価した.

以上の諸指標の統計上の有意差の検定には

Student t−testあるいはκ2検定を用いた. 結 果 1.全僧帽弁狭窄症例におけるTEの頻度と部 位 229例中,臨床的にTEの既往のある例は64例 (28%)であった.TEの合併は80回にみられ,2 回以上の既往を持つ例は12例(19%)(2回繰り返 した例8例,3回繰り返した例4例)であった. 塞栓部位は脳が49例で56回(脳梗塞35例で37回, 一過性脳虚血発作19例で19回),腎が5例で8回, 四肢が11例で13回,心が3例で3回認められた. 2.心調律(心房細動,洞調律)とTE 全229例中,心臓カテーテル検査時に,持続性心 房細動を示した例は179例,洞調律を示した例は50

(3)

例であった.また,洞調律群中,過去に1回以上 発作性心房細動を示した例は10例であった.心房 細動179例中56例(30%)にTEの既往があった. 洞調律群50例中,8例(16%)にTEの既往があ り,発作性心房細動の既往のある10例のうち,TE の既往例は2例であった.

3.MSに伴うMRのTEおよび左房径(LAD)

におよぼす影響

最初にMSに合併するMRの程度とTEとの

関連性について検討を行った.MSに伴うMRの

程度の評価は既述のように左室造影による

Sellersの分類にしたがった.全229一中MRを認 めな:かった純忠のMSは1!4例(これを0群とす る)であった.左室造影上MRは115例に認めら れ,これをSellersの分類により1度∼IV度の4 群に分類した.その結果は,MRI度の例が61例 TE(+〉 TE(一) o群 (nニエ玉4) 37 (32%) 77 (68%) 1群 (n=61) 22 (36%) 39 (64%) H群 (n=32) 3 (9%) 29 (91%〉 III群 (n=17) /2 (12%) 15 (88%) D1群 (.n=5) 5 (100%)

]司

P〈0.025 l隅・

図1 僧帽弁狭窄症と血栓塞栓症(合併する僧帽弁閉 鎖不全症の程度と血栓塞栓症の頻度) 全229例を,左室造影により僧帽弁閉鎖不全(MR) を認めない0群(n=114),Sellers分類によりMR I 度の1群(n=61),MR II度のII群(n=32), MR III度のIII群(n=17), MR IV度のIV群(n=5)の 5群に分け,各群における血栓塞栓症(TE)の合併 頻度を調べた.TEの合併は0群:37例(32%),1 君羊 :22イ列 (36%), II君羊 : 3イ 旺 (9%), III君羊: 2イ列 (12%),IV群:0例(0%)で,0群と1群には有 意な差異はなく,0群・II群間,1群・II群間には 有意な差異を認めた(p<0,025)。また,工1群・III群 間,III群・IV群間には,いずれも差異が認められな かった. (1群),MR II度の.例が32例(II群), MR III度 の例が17例(III群), MR IV度の例が5例(IV群) であった.

1)MRのTEにおよぼす影響(図1)

TEの合併は,0群では37例(32%),1群では 22例(36%),II群では3例(9%), III群では2 例(12%),IV群では0例(0%)であった.この

結果から,MRを伴わない純粋なMS(0群)と

Sellersの分類の1度の軽度のMRを合併した群

(1群)との間には,TEの合併頻度には有意な差 異は認められなかった.II度以上のMR合併例で

は,TEの合併頻度は0群あるいは1群に比し著

明に減少することがわかった(p<0.025).

2)MRのLADにおよぼす影響(図2)

5群問でLADを比較検討した.0群では

44.4±9.6mm,1群では47.4±10.6mm, II群で は54.7±14.1mm, III群では59.0±13。2mm, IV群 では63.6±9.3mmであった. LADの平均値は,

0群よりIV群の順にMRの程度が増すにしたが

(mm) 90.0 80,0 70.0 60.0 左 房50・0 径 40.0 30.0 20,0 ユO,0 0,0 NS P〈O.01 NS NS 一「「一一一 「 「一一一一』一一一1一 44,4 ±9,6

.曝

㍗ 誓il.6 豊 響 馨

54.7 ±14.1 §

警 59.O ±工3.2 0 QO 二 島 63.6 ±9,3 § 8 Q I II III IV群 Selle壷s分類による僧帽弁狭窄症に伴う僧帽 弁閉鎖不全の程度による分類 図2 僧帽弁狭窄症に伴う僧帽弁閉鎖不全の左房径へ およぼす影響 全229例を,左室造影により僧帽弁閉鎖不全(MR) を認めない0群,Sellers分類によりMR I度∼IV 度をそれぞれ1群,II群, III群, IV群に分け, Mモー ド心エコー図により左房径(LAD)を測定した.0 群では44.4±9.6mm,1群では47.4±10.6mm, II 群では54.7±14.1mm, III群では59.0±13.2mm, IV 群では63.6±9.3mmであった。0群と1群には有 意な差異はなく,1群とII群の間には有意な差異を 認めた(p〈0.01).

(4)

い,大きくなることが認められた.統計上では, 0群と1群との間に有意な差はなかったが,II群 は1群に比し有意に大きかった.したがって,MS に伴うMRのLADにおよぼす影響は, Sellers分 類1度の軽度のMRではほとんどみられないが, その程度がII度以上では明らかになることがわ かった.

以上,MSにおいてはMRがSellers分類上の

II度以上の場合にはMRがないか, MRが

Sellers分類の1度の場合とは明らかにTEの頻

度が減少し,左房は拡大傾向を示すことがわかっ た.したがって,MSにおけるTEの発症要因を検 討するときには,合併するMRの程度を考慮する 必要があると考えられた. ’

4.MSにおけるTE発症要因の検討

一臨床および検査所見による一

既述のようにMSにおけるTEの発症要因の

検討にあたっては,MRの影響を極力除外する必 要があることがわかった.したがって純粋のMS

である0群とMRがわずかしかない1群を対象

とした. 1)臨床所見の比較(表2)

0群および1群あわせた175例のうち過去に

TEの既往のある例は59例であり,既往のない例 は116例であった.この両畦間の臨床所見の比較を 行った.年齢はTE群50.9±8.5歳で,非TE群 47.2±7.2歳に対し有意に高く(p<0.02),また, 病悩;期間も,TE群10.5±8.1年で,非TE群7.4± 7.4年に対し有意に長かった(p<0.02).男女比, 表2 血栓塞栓症群と非血栓塞栓症群の臨床所見の 比較 TE群 非TE群 症例数 59例 116例 年齢(歳) 50,9±8.5 47.2±7,2 p〈0.02 男女比 1:2,7 1:2,1 NS 病母期問(年) 10,5±8.1 7.4±7.4 p<0.02 心房細動 51例(86%) 76例(66%) p〈0.01 NYHA心機能分類 1度 4例 6例 II度 48 88 III度 7 19 NS IV度 0 3

NYHA心機能分類には差異を認めなかった.心

調律では,TE群は59例中51例(86%)で心房細動 を示し,非TE群116例中76例(66%)が心房細動 を示したのに対し有意に多かった(p<0.01). 2)検査所見(工AD,血行動態)の比較 (1)LAD(表3)

TE群59例と非TE群116例についてLADの比

較を行った.TE群は48.2±11.Ommで非TE群

44.1±9.3mmに比し有意に大きかった(p〈 0.02).しかし,心房細動を有する例に限ってLAD の大きさを検討すると,TE群の心房細動例51例

のLADは49.2±11.1mmであり,非TE群の心

房細動例76例の46.2±9.9mmとの間に有意な差 は認めなかった.洞調律例で検討すると,TE群の

洞調律例8例のLADは41.9±7.5mm,非TE群

の洞調律例40例のLADは40.0±6.5mmで有意 な差異はなかった. (2)血行動態の比較(表4,5) 血行動態の比較では,より厳密に発症時の病態 表3 血栓塞栓症群と非血栓塞栓症群の左房径 (mm)の比較 TE群 in=59) S8.2±11.0 非TE群 in=116) S4,1±9.3 p<0.02 心房細動一TE群 @ (n=51) @49.2±11.2 心房細動一非TE群 @ (n=76) @ 46.2±9.9 NS 洞調律一TE群 @ (n=8) @41,9±7.5 洞調律一非TE群 @ (n=40) @40.0±6,5 NS 表4 最近1年以内に発症した血栓塞栓症群と日嗣 栓塞栓症群の血行動態の比較 TE群 非TE群 症例数 48例 116例 心房細動 41例 76例 p〈0.01 (85%) (66%) 肺動脈圧 収縮期圧(mmHg) 39.3±11,4 42,5±15.0 NS 拡張期圧(mmHg) 17.7±5,9 19.6±8.4 NS 平均圧(mmHg) 26,8±8.4 28.5±10.7 NS 肺動脈襖入圧(mmHg) 18,7±5.5 19.6±7.6 NS 左室拡張終期圧(mmHg) 10.0±3.4 9.1±4.3 NS 僧帽弁日較差(mmHg) 11.1±5.4 12.8±6,1 NS 僧帽弁口面積(cm2) 0,99±0.29 1.G4±0.41 NS 心係数(〃min/m2) 2.56±0.61 2,80±0.60 p〈0.025

(5)

表5 心房細動例における血栓塞栓症群と下血栓塞 栓症群の血行動態の比較 TE群 非TE群 症例数 41例 76例 肺動脈圧 (mmHg) 収縮期圧 37.5±10.9 41.5±15,1 NS 拡張期圧 (mmHg) 16.6±5.1 19.8±8.6 NS 平均圧 (mmHg) 25.2±7.5 28.1±10.6 NS 肺動脈襖入圧 (mmHg) 17.5±4.9 18.7±6,6 NS 左室拡張終期圧(mmHg) 9,8±3.6 8。9±4.0 NS 僧帽弁圧較差 (mmHg) 9,9±4.6 12.1±5.6 NS 僧帽弁口面積 (cm2) 1.00±0,31 0.97±0.37 NS 心係数 (〃min/m2) 2.41±0,43 2.57±0,50 NS を検討する目的で,心臓カテーテル検査より1年 以内にTEを発症した48例を対象とした. TE群 は,心係数が2.56±0.611/min/m2で非TE群 2.80±0.601/min/m2に対し有意に低値を示して いた(p〈0.025).肺動脈圧,肺動脈襖入質,左室 拡張終期圧,僧帽弁圧較差,僧帽弁口面積には差 異は認められなかった.しかし,心房細動は,こ噛

の1年以内にTEを有したTE群の85%にみとめ

られ,非TE群66%に比し有意に多かった.した がって,心房細動による血行動態への影響が考え られたため,心房細動を示す例のみに限って,両 々間の比較検討を行ったところ,心係数に有意な 相違はなかった. 5.左房内血栓と血栓塞栓症 0群と1群の合計175例中,111例に手術が施行 された.術式は,直視下交連切開術32例,僧帽弁 置換術79例,大動脈弁置換術33例,三尖弁置換術 1例であった.手術時に左房内血栓が確認された 例は,TE群41例中12例(29%),非TE群70例中 15例(21%)で有意な差異は認められなかった. 6.TE発症時の臨床像の検討

TEの既往のある64例の80回のTE発症時の臨

床像について検討した.発症時年齢は21歳から65 歳で平均47.2歳であった.NYHA心機能分類で は1度:13例,17回,II度:51例,60回, III度: 3例,3回であった.2回繰り返した例は8例, 3回繰り返した例は4例であった.TEによりは じめて心疾患を指摘された例が7例(11%)も認 められた. 発症時に心調律の明らかな54例67回のうち48例 60回に心房細動を認めた.このうち,発作性心房

細動は4例4回であった.洞調律は6例6回で

あった. 抗凝」血薬は7例8回で投与中であった.内訳は warfarinのみ6例6回, warfarinおよびdipyr−

idamole 1日量150mg経口投与が1例2回で

あった.トロソボテスト値が10∼20%のコント ロール良好例は2例2回のみで,20%以上のコン トロール不良例が5例6回であった.コントロー ル不良例5例6回中,3例3回はそれぞれ,抜歯, 痔核手術,warfarin投与中にトロンボテスト値が 10%以下となったためwarfarin休薬後のいずれ も1週間から10日後にTEの発症をみた. 以下に示唆に富む症例を提示する. 症例1.41歳,女性. 31歳からNYHA II度で僧帽弁狭窄症として加 療中であった.昭和60年7月(40歳時)心房細動 となり電気的除細動により,一時洞調律となった が,1週間後に再び心房細動となり,以後,war− tarinを投与していた,10月痔核手術のためwar− farinを休嬉したところ,10日後に右下肢膝窩動脈 のTEを発症した. 症例2.56歳,男性. 昭和55年(50歳時)一過性脳虚血発作を発症し た.この時はじめて僧帽弁狭窄症および心房細動 を指摘されたが,自覚症状がないため放置してい た.昭和60年6月脳梗塞となり右半身不全麻痺と なった.その後,脳梗塞のため近医に通院してい たところ,同年9月,再度脳梗塞を生じ,左半身 不全麻痺となり,当院を紹介され昭和61年7月23 日僧帽弁置換術を施行した.本例では,warfarin を投与していなかった症例である. 考 察

MSにおけるTEは頻度も高く,これが原因で

死亡することも多く,また,その後遺症のために 社会復帰が困難な場合もある重大な合併症であ る.TEの合併頻度は,対象とする患者選択により 様々で,外来患者の検討では19%3),29%4),心臓

カテーテル検査施行例を対象とした検討では

9%5),19%6>,手術患者の既往歴の検討では

(6)

14∼32%7)8>,剖検例の検討では18%9),39%10),死 亡例の検討では16%11>と報告されているごとくで ある.今回の臨床上中等度以上の重症度を示し手 術の適応を検討する目的で心臓カテーテル検査を 施行した症例を対象とした本研究では,229例中64 例(28%)にTEの既往が認められ,従来の報告 とほぼ同様の成績であった. 塞栓部位については脳に多いことも予後を左右 する重要な因子となっている.Daleyら12>の僧帽 弁膜症194例393回のTE例の臨床的検討では188 回(47.8%)が脳塞栓であり.,このうち死亡した 137例を検討すると78例(40%)がTEが死因と なったと報告している.さらに,Grahamsら10)の MS患者101例の剖検例の報告では, TEにより死 亡した例は33例(33%)であり,心不全死44例 (44%)に次いで死因の第2位であった.自験例64 例80回の検討でも,49例56回(63%)が脳塞栓症 でありこのうち31例35回が半身麻痺,構語障害等 の後遺症を残しており社会復帰に難行している. TEの発症因子については,従来から心房細動 の重要性が指摘されている.Abernathyら7)の従 来の文献による集計では,心房細動を伴ったりウ マチ性僧帽弁膜症775例の30%にTEの既往があ り,血栓塞栓症既往例730例中82%が心房細動を 持っていた.今回の検討例でも心房細動を示した 179例中56例(31%)にTEの既往があり, TE群 64例中,56例(88%)が心房細動であった.この ことから心房細動がTE発症に重要な因子となっ ていることが確かめられた. 従来のリウマチ性弁膜症におけるTEの検討で

は,MRが優位な例はTEの頻度が低いことが知

られている.しかし,TEに与えるMRの影響を MRの程度に分けて検討した研究は少ないようで

ある.そこで本研究では,MSに伴うMRの程度

を左室造影によるSellersの分類に従って4段階 に分けて検討を加えた.その結果,純型のMS群

(0群)とMSに伴うMRがわずかにすぎない

Sellersの1度の群(1群)との間には, TEの発 症頻度には差異が認められなかった.しかし,合 併するMRの程度がSellersのII度以上の群では 0群および1群に比し明らかにTEの合併頻度が 少なかった.II度以上のMRでは,左房への逆流 が強いため左房内の血液停滞は阻止され左房壁在 血栓の形成がさまたげられることがTEの合併が 少ない理由であろうと考えられた.また,LADに

与えるMRの影響を検討してみると,純型のMS

と軽度(Sellersの1度)のMRの例に比しII度以

上のMR例では明らかに左房が拡大する傾向が

みられた.このことは,僧帽弁の狭窄による左房 への圧負荷に加え,II度以上のMRが加わると逆 流による左房への容量負荷が加算され左房の拡大 をもたらすと考えられる.このことから,MSに伴 うMRの程度がSellersのII度以上ではその逆流 の程度にしたがい病態的にMRが優位になると 考えられた. 左房が大きい例や,左心耳の大きい例では,血 液が停滞し壁在血栓が形成されやすいといわれて いる.さらにSomervilleら13)は,左心耳の大きい 症例はTEの頻度が高いと報告している.しかし, Sherridら14)は17例のMSを含む39例の僧帽弁膜 症の心エコー図によるLADとTEとの関係を検: 注したところ,LADとTE発症との間には相関性 が認められないとした.そこで本研究の0群と1 群よりなるMS 175例について検討したところ,

TE群では非TE群に比しLADは有意に拡大し

ていることがわかった.さらに,Henryら15)は心 房細動例では短調律例に比べLADの拡:大がある と報告している.本研究では心房細動を持つ例に

限って比較したが,TE群と非TE群の間には

LADに差異は認めなかった. Casellaら16)は, TEの既往のある例21例と既往 のない36例の血行動態上の比較を行い心係数が TE群は2.411/min/m2で非TE群3.00」/min/m2 に比し有意に低いことを示した.また,心房細動 を示す例に限って検討してもTE群は2.301/ min/m2で非TE群の2.851/min/m2に対して有意 に低値であったことを報告している.自験例の検 討でもTE群は2.56±0.611/min/m2で非TE群 の2。80±0.601/min/m2に比べ有意に低かった.し かし,TE群には心房細動を示す例が多かったた め,心房細動を示す例に限って検討してみると, 今回の検討では,有意な差異は認められなかった.

(7)

今回の研究では0群および1群においてTE群

と非TE群を比較し, TEの発症に関与する因子 を検討したが,対象を,心房細動例に限ってみる とTE発症を予知でぎる様な因子は認められな かった.TEの発症を考える時,血栓形成が必須の 条件となる.血栓形成は,昔からVirchowのtriad として知られるとおり,その要因には,1)血管壁 の性状の変化,2)血流の変化,3)血液性状の変 化,の3つの因子がからみあって血栓を形成する と考えられている.MSは心内膜のリウマチ性変 化,慢性圧負荷による障害された左房壁の性状の 変化,血流のうっ滞が知られているが,現在この ような変化とその程度を,臨床上検索する方法は 知られていない.そこでもうひとつの要因である 血液の性状の変化を知ることにより1血栓形成傾向 を予知し得れば有用と考えられた.Steeleら17)は, MS患者では血小板寿命が短縮していることを報 告し,さらに,福田18)は,リウマチ性心疾患患者に

おいて血小板活性化の指標であるβ一

thromboglobulinが高値であることを報告し,血 栓ができやすい状態であることを示唆している. 今後,このような凝固充進状態を知るための凝血 学的検査を用いたTEの発症要因の検討が必要と 考えられた. 結 論 1.229例中TEの既往は64例(28%)で認めら れた.このうちTEによりはじめて僧帽弁膜症を 指摘された例が7例(11%)に認められた.また, TEは2回以上繰り返した例が12例(19%)に認め られた.

2.229例のMSに合併するMRの程度

(Sellers分類上1∼IV度で表示)により純正の MS(0群:114例), MR I度(1群:61例), MR II度(II群:32例), MR III度(III群:17例), MR IV度(IV群:5例)に分類して検討した. TEの 合併頻度は0群がらIV群の順にそれぞれ32,36, 9,12,0%で,0群よび1群とII群以上とでは 明らかな差異が認められた。LAD(mm)は0群. からIV群の順にそれぞれ44.4±9.6,47.4±10.6, 54.7±14.1,59.0±13.2,63.6±9.3であり,MR の程度にしたがい拡大する傾向が認められた.

3.MSのTE発症要因の検討は0群および1

群の175例で行った.TE群は非TE群に比し心房 細動の合併が有意に多く(それぞれ86%:66%, p<0.01),LAD(mm)が有意に大きかった(そ れぞれ,48.2±11.0:44.1±9.3,p<0.02).また, 血行動態上の心係数(1/min/m2)が低かった. (2.56±0.61:2.80±0.60,p<0.025).しかし, 肺動脈圧,肺動脈喫入圧,左室拡張終期圧,僧帽 弁圧較差,僧帽弁口面積は差異は認められなかっ た.ただし,心房細動合併例に限った場合,TE群

と非TE群との間にLADの程度,血行動態上の

心係数を含めた諸指標にいずれも差異は認め難 かった.

4.MSにおいてはTEの発症要因として心房

細動が最も重要な因子であると考えられたが,合 併するMRがII度以上の例では, TEを生じにく い病態であると推測された.MS優位でかつ心房 細動合併例におけるTE発症要因については,明 らかにし得なかったので,凝血学的検査など今後 の追求が期待される. 稿を終わるに臨み,ご懇篤なるご指導ならびにご校 閲を賜りました広沢弘七郎教授に深謝いたします,ま た,直接ご指導いただいた青崎正彦講師に感謝の意を 表します. 文 献

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参照

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