• 検索結果がありません。

演劇的手法を生かした「言葉指導法」の実践研究 : 心とからだを解放し、ドラマ教育を

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "演劇的手法を生かした「言葉指導法」の実践研究 : 心とからだを解放し、ドラマ教育を"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

演劇的手法を生かした「言葉指導法」の実践研究

――心とからだを解放し、ドラマ教育を―― 加藤 昇(人間生活科学部教育保育学科) はじめに 幼稚園教育要領では、領域「言葉」のねらいとして、次のように書かれている。 (1)自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう。 (2)人の言葉や話などをよく聞き,自分の経験したことや考えたことを話し,伝え合う喜びを味 わう。 (3)日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに,絵本や物語などに親しみ,先生や友達 と心を通わせる。 保育内容五領域は、相互に密接につながっていることは言うまでもないが、「言葉」の領域から それぞれのつながりを一考したい。 「健康」では、身の回りの整理整頓時や戸外での遊びなどにおいてコトバが介在する。また、 「人間関係」では、友達と積極的に関わりながら喜びや悲しみを共感し合ったり、自分の思った ことを相手に伝えたり、友達のよさに気付き一緒に活動したりする時にコトバがコミュニケーシ ョンのツールとなる。「環境」では、自然などの身近な事象や生活の中で様々な物に触れ関心を持 った時にコトバを発する。「表現」では、五感を働かせて感じとったものをイメージ豊かに表現す る時にコトバ(内言も含めて)が存在する。 このように、コトバはある現象や行為、あるいは関係性の中で生まれてくるもので認識や思考 と深く結びついている。つまり、「言葉」のねらいを達成するためには、他の領域との関わりなく してありえないということである。 1 保育者としての言葉 保育者は、子どもの発達段階を知識として理解していても、実際の学びや実生活の場面で起き る様々な出来事に対して、どのようなコトバを投げかけていくのかが問われる。これには、経験 値もあるだろうが、子どもの発達段階、家庭環境、性格、人間関係、そしてその場の状況などを 瞬時に察知し、適切に判断して対応しなければならない高度な能力が必要となる。その際、コト バは不可欠である。投げかけるコトバいかんによって、子どもの成長を左右することにもなる。 子どもからしてみれば、保育者は言葉を使う表現者でもある。本テーマは、保育者を表現者とし て位置づけて、その視点からの実践を紹介したい。 2 演劇体験から表現を豊かに (1) 演劇体験とは ただ行動的な学習形式だけでは、アクティブラーニングがめざす「主体的、対話的で深い学 び」には到達しない。 そこでは表現やコミュニケーションの活動が必要となる。とりわけ、演劇や演劇的手法は、 身体感覚を目覚めさせ、じかに触れ合う他者との関係の中で、想像力と創造力を発揮し、さま

(2)

ざまな気づきをもたらすと考えられる。 この演劇体験は、読み聞かせや紙芝居、ペープサート、人形劇などに生かすことができるだ けではない。保育者が、日常の子どもたちとの遊びや関わりの中でも表情豊かに身体を使って 関わることができる基礎にもなる。 (2) 「シアター教育」と「ドラマ教育」 2000 年頃まで、学校教育では、舞台と観客を想定したところでの演劇活動である「シアター 教育」に偏重していた。今も行われている学習発表会や学芸会もその類である。しかし、演劇 教育には、もう一つの柱である舞台や観客を直接想定しないところでの「ドラマ教育」がある。 コミュニケーションゲーム・表現遊び・劇遊び・仲間内でのグループ劇の発表・演劇的手法 を活用した授業などがそれにあたる。よりよいからだやことば感覚を育て、表現やコミュニケ ーションを味わう豊かな人間関係を育むことを目的にしている。 後者の「ドラマ教育」を言葉指導法の一部に取り入れ、心と身体を使った演劇的表現を身に つけることで、文章を表象化したり、コミュニケーション能力を高めたりすることができるの ではないか、ひいては保育の現場に役立つのではないかと考えた。 (3) 演劇体験のリアリティ 自由に任せて学生たちに何かを表現させようとする時、彼らが展開する表現は、おおよそ聞 き取った情報を身振り、手振りで補足説明しようとする叙事詩的な表現に終始してしまう。

そこで、「誰が(who)」、「いつ(when)」、「どこで where」、「なぜ(why)」、「どのようにして(how)」 といったプロセスを辿ることで、イメージを具体的なものとさせ、それに基づいて各自の直感 と実感に基づいた主体的な表現(叙情的表現)に到達させるということである。 叙情的表現への動機付けでは、叙情的表現の生成を体得させることにある。活動は2段階 に分かれ、第1段階は、ストーリーの語り聴かせに並行して表現行為に向かわせるプロセスを とり、第2段階では4W1H をふまえ、ストーリーに登場する主人公の立場や役割を掘り下げた 上で表現行為に向かわせる。その結果、曖昧模糊とした表現行為から解き放たれ、主人公の心 情・意欲・態度に裏付けられた奥深い表現行為を生成する。 これは、学生の固定化・画一化した表現から叙情的表現へ転換させるために必要なものとな る。 3 授業の実際(演劇体験は、3コマ程度) (1) なぜ演劇体験か はじめに学生たちに次のように話した。 T「みなさんは、演劇部員でもなければ役者でもありません。ではなぜ演劇的なことを教育に 取り入れるかというと、保育者や幼稚園教諭、小学校教諭は、表現者だからです。読み聞かせ や紙芝居などで、子どもたちを虚構の世界へ誘うことができなければなりません。そのために は、一つの作品をじっくり読み込んで自分なりの解釈で音声表現できるようにすることです。 また、子どもたちとコミュニケーションをとるには、創造力や想像力、そして豊かな感性を持 ち合わせていることが大切です。これから学ぶ演劇体験は、自分自身を飛躍させたり、自己啓 発につながったりすることでしょう。」 (2) 「やりたい人がする」という自由 T「この演劇体験は、自己の感情を大切にします。ですから、やりたくない人はやらなくても よいのです。友達がするのを見ていて、やりたくなったらいつでも参加して下さい。」 (3) 子ども(学生)を育てる劇指導(学生 30 人程度)

(3)

1)「身体表現のウォーミングアップ」 いきなり演劇とは、いかない。まずはウォーミングアップである。身体の力を抜いてリラッ クスさせるための「遊び」や「ゲーム」をする。生き生きとした演技を引き出すためには必須 であり、参加者とのコミュニケーションを取ることにもなる。 ① 1から 10 まで数えよう。(相手を意識するコミュニケーション力) 「だれから初めてもよいけど、二人以上が重なったらアウトです。よーい、初め。」 最初の頃はすぐにアウトになったが、回を重ねるごとにスピードも速く 10 まで数えられた。 ② ジェスチャー(表現力、観察力) 二人組になり、一方がジェスチャーで、「好きな食べ物」か「嫌いな食べ物」を表現(動作) し、もう一方が、「どんな食べ物か」と「好きか嫌いか」を当てる。終わったら、交代して行 う。 ③ みんなで歩く、止まる(まわりを感じる) 円になり、「しゃべらない」、「ぶつからない」、「走らない」で歩く。「やめ」の合図でまた 円になる。次に、すれ違う人を意識するように伝える。すると、みんな目を使って相手を見 るようになる。 ④ 主人と従者(集中力) 二人組で、一人が主人、もう一人が従者になり、向かい合う。主人が従者の前に10セン チほど離して片手をかざす。主人の手の動きに合わせ、従者は動く。しばらくして交代する。 主人か従者かどちらがよかったかの感想を尋ねる。 次は、三人組で主人一人、従者二人(主人は両手を使い、それぞれに手をかざす)で、同 じように行う。 「主人が好きか」、「従者が好きか」という感想は、およそ半々に分かれた。これは、好み や性格の問題である。 ⑤ 人間と鏡(模倣) 二人組で、向かい合って一人が人間、もう一人が鏡になる。人間の動きに合わせて鏡役は 動く。 ⑥ わたし、あなた(つながる) 円になって、ある一人が「わたし」と手で自分を指し、すぐ「あなた」と言って円の誰か に手を差し向ける。この繰り返しを行う。 「あなた」と言った時にその相手を見ることやはっきりと大きな声を出さないと伝わらない ことが理解されていく。 ⑦ ワンタッチオブジェ(自己表現) 円になった状態で、順に1,2,1,2と番号をつける。中心に誰か一人好きなポーズを とってもらい、順に誰かの身体の一点に触って好きなポーズをとってもらう。 寝転んだり、足を広げたりして自分を表現する。世界に一つしかないオブジェの完成であ る。全員がポーズをとっているので、学生は見られない。そこで、最初は1の人だけ抜けて もらって、遠くから観察する。続けて1が入り、2が抜ける。 2)劇遊び~インプロ~ 中学生向けの演劇の脚本(「中学生のドラマ」7友だち・友情、日本演劇教育連盟)の「デゴ イチ」という作品の冒頭部分を用いて練習した。 登場人物は二人で、掛け合いの場面である。 ① 全体で読み合わせをし、内容をつかむ。

(4)

時代背景、場所、二人の状況を確認したあと、二人組で読み合う。 役を交代して読み合う。 何度も読み合うことで、自然に動きも入れることも認める。 みんなの前で立候補したペアが演じる。観ている人は、「どこがよかったか」、「ここをこう するとよくなった」という視点を持たせる。演じた二人にどういうことに気をつけたかを尋 ねる。参加者の感想を聞く。 ⑥ 観ていた人が記者になって共同記者会開き、演じた二人にインタビューする。 演じた二人は、役になりきって質問に答える。教室は共同記者会見場になり、すべての学生 が演じる場に変身する。 4 演劇体験における学びの分析 (1) 授業の感想から ① 劇遊びでは、みんながそれぞれの表現をしているので、面白かった。先生のやり方で、「無 理矢理嫌なことをやらせない」というのはいいやり方だと思った。小学生の時に劇をやった けど、よい思い出はあまりないです。でもこれなら楽しくできる。(I・A) ② 今日やったものは、子どもたちの教育に生かせるだけでなく、今の私たちにも効果的なも のだと思いました。ランダムに選ばれたペアと即興で劇をやり、観ている人たちはその人た ちの劇を観てその劇に関する意見を述べるというのは、突然の事態に対応できる能力と人を 見る観察力が身につくと思いました。(G・A) ③ 今日の演技では初めは恥ずかしさなどがあったけど、役に入り込んで「おばちゃんはどん なふうに思っているのだろう」と考えてみると、声に強弱がつけられるようになれたので、 どんどん練習して上手になっていきたいと思った。(Y・T) ④ 台詞や動作が人それぞれ違って面白かったけれど、その後の共同記者会見で、よりその人 がなりきっていたキャラクターが明確になって面白かった。今回、台詞に動作を加えること によって、人柄だけでなく、駄菓子屋の商品の位置や景色も想像できた。(Y・K) ⑤ 友達の芝居を観て、自分との違いがあって面白かった。共同記者会見では、役になりきっ て、ポンと答えられてすごいなと思った。一つ一つの文や言葉にどれだけ思いを乗せられる か、感情を込められるかがポイントになってくると思う。(M・R) (2) 実生活での気づき(F・T) 言葉指導法で行った「わたし、あなた」というコミュニケーションゲームは、バイトの経 験から相手の心に届くように言葉を伝える大切さを学ぶことができた。このゲームは、簡単 そうにみえて、しっかりと相手の目を見て相手の心に届くように言葉を伝えなければゲーム が中断してしまう。「自分の言葉を相手に確実に届ける」ことができるかが試される。このこ とは、僕が今やっているアルバイトに通じるものがある。僕はスーパーでアルバイトをして いて、主にレジ打ちをしているが、お客様とのやりとりで自分の言葉を相手に確実に届ける 必要があると考える。例えば、「いらっしゃいませ。・・・お会計○○円頂戴致します。○○ 円お返しします。ありがとうございます、またお越し下さいませ。」というセリフがある。レ ジ係の人の中には、お客様の目を見ず、まるで機械作業のようにレジ打ちをしている人もい る。しかし、これは、お客様の立場に立ってみても、レジ打ちの立場になったとしても、気 持ちのよいものとは言い難い。だからこそ僕は、お客様の目を見て、お客様の心に僕の心が 届くように意識してレジ打ちをしている。また、逆にお客様がレジ袋を欲しくて、「レジ袋を 下さい」という声を聞き逃してしまい、「レジ袋をくれっていってんだよ!聞こえないのか!」

(5)

と怒鳴られたことがある。そのことから、いくら集中させていても、小さい声で言葉を相手 に伝える気がなければ、届かないこともわかった。言葉は、人間にとって必要不可欠な道具 である。「わたし、あなた」のゲームは、小さな子どもでもできるゲームだ。そしてそれは社 会生活をより充実させるのに大切なことであると感じた。将来、小学校の教師になったら、 このようなコミュニケーションゲームを積極的に取り入れていきたい。 5 学びの考察と今後の課題 (1) 授業における学びの考察 1) ①の学生は、これまでの演劇体験が「やらされる」という恐怖体験しか残ってなかったよ うだ。しかし、今回の自由な場で、自分のできることをすればよいという言葉がけが安堵感 に変わり、楽しいと感じている。 2) ②の学生はインプロによって、観察力や咄嗟の判断力が身につくということを学んでいる。 3) ③の学生は、人物像や状況をとらえ、作品世界に入り込むことで、自然に音声表現ができ ることを学んでいる。 4) ④の学生は、動きが加わることで、「人柄だけでなく、駄菓子屋の商品の位置や景色も想 像できた。」と述べている。まさに映像としての表象化である。 5) ⑤の学生は、様々な質問に対して、咄嗟に答えられるだけの想像力と創造力について役に 立つと評価をしている。 6) F・T は、「わたし、あなた」のゲームを自身のバイトでの経験と重ね合わせて、「伝えるこ との大切さ」、「伝えるための方法」を学び取っている。 (2) 総括的考察 1) 「ドラマ教育」と取り入れたことで、読み聞かせや人形劇などの演じるという活動に対し て、自己表現力(登場人物になること)の大切さが理解できたように思う。 2) 演じることは、周りを意識しないとできないことであり、その観察力も身につけたように 思う。その観察力は、日常の子どもたちを見つめることにもつながる。 3) 日々の子どもたちへの対応には、表情豊か(身体も含めて)に接することが大切である。 時には、突発的な問題にどのように対処するかを問われる場合もある。そのような時に「ド ラマ教育」で養われた表現力が生かされ、子どもたちに安心感を与え、適切に対処できれば よいと思う。 4) 多くの学生が自己の演技を対象化してとらえ、それが向上心につながっている。主体的で 対話的な学びである。 6 残された今後の課題 (1) 多くの学生は、戸惑いながらもしだいに「ウォーミングアップ」や「劇遊び」に集中し、 楽しんで取り組んだ。しかし、まだ自身の心を解放して、新しい自分へとステップできずに いる学生も見られた。もう少し普段から、授業の始まりにコミュニケーションゲームを取り 入れるなどしていくことが必要ではないかと感じた。 (2) 「ドラマ教育」が、学生の個性を尊重しながら人間的領域を広げ、成長していくかどうか、 現場での子どもとの関わりの中(五領域)にどのように結びついていくのかの検証はできて いない。学生たちには、現場の具体的な場面を示して「ドラマ教育」の重要性を示す必要が あり、さらに研究を深めたい。

(6)

参考文献 ○ 第 65 回 全国演劇教育研究集会資料集 (2016)P2~P5 ・ アクティブで自由な学び」としての演劇教育――正 嘉昭(日本演劇教育連盟代表) ・ 「教員養成における演劇体験のリアリティをどう考えるか――花輪 充(東京家政大学教授) ○ 幼稚園教育要領文科省 2017 フレーベル館 ○ 「中学生のドラマ」(編集日本演劇教育連盟)――晩成書房 2007 年

参照

関連したドキュメント

In: Schaufeli WB, Maslach C, Marek T(Eds), Professional burnout: Recent developmentsintheoryandresearch,Taylor&Francis, Washington,DC,pp1-16,1993. 9) Maslach C, Jackson SE:

  BCI は脳から得られる情報を利用して,思考によりコ

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

当社は「世界を変える、新しい流れを。」というミッションの下、インターネットを通じて、法人・個人の垣根 を 壊 し 、 誰 もが 多様 な 専門性 を 生 かすことで 今 まで

子どもたちは、全5回のプログラムで学習したこと を思い出しながら、 「昔の人は霧ヶ峰に何をしにきてい

では,訪問看護認定看護師が在宅ケアの推進・質の高い看護の実践に対して,どのような活動

海なし県なので海の仕事についてよく知らなかったけど、この体験を通して海で楽しむ人のかげで、海を

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から